農業と土地利用の問題

(Agriculture and Land Use)

「地球はここではとても親切なんです。
だからちょっと鍬でくすぐってごらんなさい、
彼女は笑って実りをもたらしてくれるんです。」

-- Douglas Jerrold

農業と土地利用の問題についての現況

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都市化:不適切な土地管理の代償
持続可能な農業を求めて
相対的不利益を生む換金作物
活動しよう!
成功事例1
成功事例2

 類は板挟みの試練に直面しています。 一方で食べなければならない人口が急増し、他方で食料を育てる土地が急減して いるのです。 毎年、世界の人口が9千万人以上増加しているのに対し、表面土壌が2百億トン以上 減少しています。 世界の耕作可能地の2割近くがひどく劣化し、もはや作物栽培に適さなくなって います。

 伝統的な農法はもはや需要に応えられなくなり、農家は収穫増を維持するため、 改良種子、肥料、新技術、機械に頼っています。多くの国、特にアジアでは過去 20年間に収穫が劇的に増加しました。しかし、多くの地域で高集約型農法は環境に 大きな圧迫を与えています。

 高集約型農法は当初、西欧諸国で広まり、今では、世界中で実施されています。 それは、大量の化学肥料、殺虫剤、混成種子、および機械的潅漑を利用します。 しかしそれは、土壌劣化と植生の多様性の損失をもたらしています。 同時に、化学肥料の購入にはしばしば高コストが伴い、多くの開発途上国にとっては 負担が重すぎて、多額の外国援助なしには継続困難です。

 先進国では、化学肥料やその他の「現代的」技術を用いる工業的農法が収穫増を もたらしましたが、同時に環境を著しく損ない、土地の貧困化を招きました。 重機による土壌整備が土壌の圧縮やその他の有害な構造変化をもたらし、化学肥料は 作物の養分吸収能力を低下させるとともに、地下水を汚染し、それを飲めなく したのです。

 高集約型農法はどこでも恩恵をもたらすという誤解からそれは開発途上国にも 技術移転されましたが、多くの場合、益以上に害をもたらしました。 それらの技術は、しばしば全く不適切であったのみならず、維持費や保守体制の 不足によって数カ月もたたない内に生産性を失ったのです。このような状況では、 農業生産は経済的にも生態学的にも非持続可能です。

 多数の農家や事業者が現代的農法が約束する劇的な収穫増に魅せられますが、 実際には、土壌の有機質が減り、土壌自身の生命力が失われて侵食されやすくなり、 収穫減に結びつきます。収穫を維持するためには大量の肥料投入が必要となり、 生産コストが上昇します。さらに、化学物質で育てられる作物は自然の健康と 抵抗力に欠けるため、殺虫剤を大量使用しなければならず、その結果、土壌や大気が 汚染され、農民の健康も損なわれます。このような農法は一時的な収穫増をもたらすに 過ぎず、長期的には非持続可能です。

 土壌は豊かな、しかし傷つき易い生態系であり、しかもそれ自身生きています。 ひとにぎりの土壌は何百万もの微生物の住みかとなって肥沃さをもたらし維持します。 世界のある地域では、わずか1センチメートルの土壌の成長に何世紀も要します。 しかしその土壌は、風に飛ばされ、伐採された斜面で雨に流され、 塩分で無生物化され、化学物質で汚染され、栄養素を失い、あるいは、湿地や建造物の 下に埋もれて、永遠に失われかねないのです。

 土地資源の不適切な管理により、世界中の農民が貴重な表面土壌を風雨で失って います。熱帯地域では、焼畑農業により熱帯雨林が農地に変えられています。 収穫後の農地はしばしば不毛のままに放置され、ひでりと洪水にさらされます。 こうして貴重な表面土壌が失われ、世界の多くの地域で砂漠化が進行しているのです。

都市化:不適切な土地管理の代償

 村に住む多くの人々にとって、生活は楽ではありません。 水や燃料を得るために遠くまで足を運ばなければならず、 作物は、しばしばひでりや洪水に襲われて荒廃します。 そして農地は不適切な土地管理によって侵食されつつあります。 農場以外にはほとんど仕事はありません。その結果、世界の多数の村人が、より楽な 生活、より良い仕事を求めてすでに都市に移り、また移ろうとしているのです。

 移住の決断は必ずしも自発的なものではありません。土壌が荒廃し、作物がもはや 実らなくなったとき、農民とその家族は移住を強いられるのです。 こうして多数の人々が都市に移りましたが、都市はすでに人口過剰の圧迫を 受けています。

 これらの都市では人口増加が当局の対処能力を超えています。多くの地域で 高い出生率がすでに人口過剰をもたらしており、そこにさらに農村からきた人々が 付け加わわれば、住宅、通信、交通、社会サービス、そして水供給はもはや 必要を満たすことができません。 その結果、よくても都市の無秩序な拡大、最悪の場合、都市スラムの蔓延が 生じるのです。

 ほとんどの場合、都市の窮状に対する当局の対応は不十分です。問題が わかっていても解決にはほど遠いのです。貧困家庭のための住宅融資についての 有効な対策はほとんど見あたらず、草の根運動も既存の政策・制度の 非融通性によってしばしば挫折させられます。

 都市の拡大はもうひとつの望ましくない影響をもたらしています。 都市の拡大に伴い、周囲の肥沃な農地が消えていくのです。開発途上国では、 今世紀末までに都市面積が1980年の2倍以上、8から17ヘクタールに増加すると 予想されています。



持続可能な農業を求めて

 世界人口は2015年までに、50億人以上から80億人近くまで増加すると予想されており、 食料の安定供給を確保するためには、全農業生産高を1年当たり2%以上増やす 必要があります。この増加を持続的に実現するためには、世界は、将来における 土地の食料生産力を損なうことなく、現在の食料を生産していかねばなりません。 農民が直面する課題は、将来のために必要な自然資源を枯渇させないような持続可能な 農法を用いつつ、増加する人口を養うための収穫増をもたらすバランスの発見です。

1人を養うのにどれだけの土地が必要か?

このグラフは世界平均での農業の生産性向上を示しています。 縦軸の単位はヘクタール、横軸は年です。

出典: Worldwatch Institute; U.S. Department of Agriculture, "World Grain Database" (unpublished printouts)(Washington, D.C., 1992).

 過去の失敗の経験に学び、また、深刻化する減収と食料不足に促されて、 世界の農民は今までとは異なる農業開発のあり方を模索してきました。 多数の農村コミュニティの人々が伝統的農法の役割を再評価し、 新しい「地球に優しい」技術を工夫し、創造しはじめたのです。

 国連機関を含む多くの主要国際機関は、農業開発に関するトップダウン型の指導法を、 今まであまりに多く主唱・支援しすぎてきました。 国外研修を受けた援助員や地元のスタッフは研修で得た知識を地元の状況に 効果的に適用することの難しさを知ったのです。 また女性は、しばしば農業生産の8割を担うにもかかわらず、 開発プロセスにおいてほとんどなおざりにされてきました。

 持続可能な農業は、何百万人という農民とその家族の日常活動に依存しています。 彼らは、男性も女性も、しばしば、土地は自分達がめんどうをみていると思って います。 彼らは、生存のために、土壌の生産性を守らなければならないことをわかっています。 鍵となるのは、農民が十分な農業教育と生態学的研修を受け、 より効率的な生産と環境保全を両立できるようにすることです。

 世界各地で探求されている持続可能な農業形態のひとつは、いくつかの有機農業の 原則を含みます。この方法では、収穫は若干減る場合もありますが、ふつう 無限に持続可能です。また、農民の負担は、化学肥料を次々と必要とする場合と 異なり、増加しません。なぜならそのような外的入力はほとんどあるいは全く 必要としないからです。自然の肥料が農場内の物質から得られ、 多様な農法と組み合わさって 病害虫への自然の抵抗力を有する健康な作物が育つのです。

 有機農業は植物が必要とするものを自然から供給することで機能します。 植物は養分を有機物分解の最終形態である腐食土から得ます。 良質の堆肥(コンポスト)は、作物の残余、雑草、灰、生け垣の刈り取り、 台所の生ゴミ、および動物の糞などを材料に作られます。 適切な条件の下でこの堆肥は土壌中の何百万もの微生物の食料となります。 この微生物は、健康であれば、植物が必要とする無機物(ミネラル)を土壌粒子から 放出します。 こうして植物は、溶解性の化学肥料のように直接的にではなく、間接的に 養分を得るのです。

相対的不利益を生む換金作物

 各国がそれぞれ自国に最適な作物を生産し、他国と取引する経済関係を、 マクロ経済学では、「相対的利益」という用語で定義します。一見、この原則は うまく機能して、取引国の間に公平に利益が分配されるように見えます。しかし、 多くの国が、製品輸入や国際負債にあてる外貨を獲得するために、 市民に必要な主食作物の代わりに、「換金作物」の栽培に土地を利用しています。 不幸なことに、このことが、しばしば栄養不良、健康問題、そして飢餓に 結びついているのです。

 このような場合、基本主食作物は入手できないか、あるいは換金作物で得た 外貨で輸入するかのどちらかしかありません。コーヒー、紅茶、落花生、 砂糖などの換金作物の価格は、先進国の産業カルテルによって決められ、 輸入品の価格もまた、先進国の市場力によって決められます。その結果、 南の農民は、しばしば土地劣化につながる農業への従事を強いられ、しかも 収穫増がほとんどあるいは全く利益を生まないという状況が生じているのです。



活動しよう!

 問題は続いていますが、過去20年の間に農業改革に多くの着実な進歩が ありました。収穫は増え、無駄は減りました。より経済的な施肥手法が見い出され、 より危険な化学物質に代わる防虫技術の利用が成功を見ています。 バイオテクノロジーは、良い遺伝子をある植物から別の植物へと移植することを 可能にし、明日の農業に多くのことを約束しています。

 あなたの組織とコミュニティの活動は、土地資源の効率的利用の向上に大きく 貢献することが可能です。ここでは、あなたのコミュニティが 農業生産の持続可能性の確保に寄与する活動計画を立てるにあたり、 参考となるいくつかのアイデアを示します。

作物にではなく、土壌に養分を
(成功事例)

 多量の化学肥料、殺虫剤、混成種子、および機械的潅漑設備を用いる 集約型農業が開発途上国にとって高コストでありすぎるだけでなく、 土壌劣化や植物の多様性損失をもたらすことを認知し、 1986年、おもに小規模農家における持続可能な農法の普及をめざして、 ケニア有機農業研究所(KIOF)が設立されました。

 KIOFの職員は、現地の農民グループを継続的に訪問指導します。 グループ間の相互交流も行われます。成功した農民は有給の普及員として採用され、 初めは自分の地域での指導と新会員募集に努め、進歩が定着すると他の地域へと 派遣されます。 こうして今までに約100グループ、約3000人の農民が会員になりました。

 KIOFは今までケニアの中部と東部で活動してきましたが、 持続可能な農業をめざす別の機関や教会組織と連携し、より広域的な 知識の伝達や学生の交流が実現しました。 複数の研修会が、地元の人々や他のアフリカ諸国のグループを集めて開かれ、 ボツワナ、マラウィ、モーリシャス、タンザニア、ウガンダ、ザンビア、 ジンバブエなどとの交流が実現しました。

 KIOFのスローガンは「作物にではなく、土壌に養分を」です。 KIOFの所長は次のように話しています。 「化学農法は有害な循環を作り出します。より多くの肥料、より多くの害虫、 より多くの生物死、より高いコスト、より貧しい土壌、より低い収穫。 これに対して、有機的に育てられた植物は、自然の健康に恵まれて 害虫や病気への抵抗力が強く、より厚い細胞壁、よりバランスのとれた 細胞液を有します。その結果、より健康でより丈夫な作物と人々を もたらすのです。」

照会先:

Kenya Institute of Organic Farming (KIOF)
P.O. Box 34972
Nairobi, Kenya
Tel: (+254 2) 732-487
Fax: (+254 2) 581-178
E-mail: kiof@elci.gn.apc.org

見えざる園芸師
(成功事例)

 カリブ海の島国、プエルトリコとキューバに育ったアンディ・ロペスは 常に持続可能性のバランス感覚を有していました。 島国はそれ自体小さな生態系であり、尊ばれなければなりません。 大きな目でみれば、地球も広大な宇宙の海に浮かぶ小島以外の何ものでもなく、 それゆえ同様にその生態系も尊ばれなければならない、とロペスは言います。

 米国移住後、ロペスは「アメリカの見えざる園芸師」という組織を設立しました。 その名前は、良い農民は自然の見えざる手に仕事を委ねさえすればよいという 彼の信念に由来します。 人間が化学物質やその他の「不自然な」方法によって 自然の過程に介入すればするほど、作物--そして私たちの健康も--悪化すると 彼は信じています。そして今、そのメッセージを テレビ、ラジオ、および一連の「生物的に良い」著作を通じて世界中に 普及しています。彼の著書「害虫の自然防除」は世界中の多数の人々に、 家庭や庭園における、化学薬品の代替策を教えました。

 ロペスにとって、見えざる園芸師の最も大事な要素のひとつは堆肥(コンポスト)の 使用です。良い堆肥は5つの主要成分を含みます。それは、有機物質(木の葉、 野菜や果物屑、コーヒーかす、卵の殻など)、窒素に富む物質(刈り取った草や 植物の切れ端)、バクテリア、湿気、そして酸素です。材料が多様なほど、より 栄養に富む堆肥ができます。しかし、肉、骨、油脂、脂肪、そして油は 含んではいけません。家庭サイズの小さな堆肥を作る最も簡単な方法は、 緑色成分と茶色成分、すなわち生きた成分と死んだ成分がほどよく混ざった、 緑の堆積物を作ることです。台所の生ゴミを定期的に加えることが重要です。 材料を砕いたり刻んだりして細かくすると分解が速まります。 定期的にうら返して酸素が十分に行き渡るようにすることも重要です。

 十分分解した堆肥ができあがったら、それを農地や庭園の土に混ぜましょう。 植物が育ち始めたとき、根元に少し撒いてやると効果が高まります。

照会先:

The Invisible Gardeners of America
PO Box 4311; Malibu, California USA 90265
Tel: (+1 310) 457-4438; Fax (+1 310) 457-2589
E-mail: wl-the_invisible_gardener-iga@societysociety.com



参考文献

- GAIA, An Atlas of Planet Management, Myers, Dr. Norman, London, Gaia Books Limited, 1984
- Our Common Future, The World Commission on Environment and Development, Oxford: Oxford University Press, 1987
- A Manual for the Household Hazardous Waste Audit; Center for the Environment, August 1987
- Making the Switch, Alternatives to Using Toxic Chemicals in the Home, Golden Empire Health Planning Center, February 1987
- Promoting Sustainable Agriculture, The Challenge of the Environment, UNDP Annual Review, 1991
- World Resources, 1994-95: A Guide to the Global Environment, a report by the World Resources Institute with UNEP and UNDP, Oxford University Press, 1994.



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