砂漠化の問題

(Desertification)

「誰か私の牛を見たか?
誰か私の羊を見たか?
この、葉を失った木々、
この、干からびた土地、
だからいなくなってしまったんだ。」

-- Youssou N'Dour

砂漠化の問題についての現況

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成功事例
砂漠化防止へのNGO の取り組み

 漠化は、百カ国以上の十億人近い人々の暮らしと生命を脅かしている 深刻な問題です。影響を被っている全面積は地球の陸地の3分の1に達します。 これらの地域に住む人々は、土地がもはや生活の支えとしての役割を果たせなく なったために、家を捨て、移住しなければならない危機に瀕しています。 砂漠化防止のために大きな努力がなされていますが、問題は悪化しています。 ワールドウォッチ研究所によれば、毎年、大陸上の240億トンの表面土壌が 失われ、しばしば、ひどい砂漠化に至る状況が生じています。

 砂漠化は、多くの人が考えるような、砂漠の単なる拡大ではありません。 それは乾燥地の土地劣化の過程であり、本来安定であった環境が、 気候変動とともに、土壌侵食、過剰放牧、過剰栽培、不適切な潅漑、森林伐採 などを通じて人間の手で劣化させられているのです。 砂漠化は他の多くの生態系の問題、例えば、生物多様性の損失や淡水資源の枯渇 などの要因でもあり結果でもある環境問題です。 従って砂漠化防止のための強力で速やかな対策がとられない場合には、 環境問題の大渦をさらに大きくすることにつながります。 またそれは、極端な貧困の結果と原因でもあります。

 戦争や紛争が生じている地域は砂漠化の危険があります。 増大する避難民は、しばしば一時的な仮住まいの地に安住を得ますが、 結果として難民キャンプの周囲に広範囲な土地劣化や森林伐採をもたらされるのです

 また、人口の急増は、条件の悪い地域への農地の拡大をもたらします。 その結果、土地の細分化、森林伐採、そして砂漠化が生じます。 殺虫剤やその他の化学物質の過剰使用も土壌の肥沃さの損失、劣化、そして やはり砂漠化に結びつくおそれがあります。

乾燥地での土地劣化による1年当たりの作物減収

A=アフリカ, B=アジア, C=オーストラリア, D=ヨーロッパ, E=北米, F=南米. 緑 = 牧草地, 赤 = 潅漑作付地, 黄 = 雨水作付地. 縦軸は0〜250億米ドル.

出典: H. Dregne et al., "A New Assessment of the World Status of Desertification," Desertification Control Bulletin, No. 20, 1991.

 砂漠化による生活維持システムの劣化は、深刻な社会的、経済的崩壊を招きます。 砂漠化によって、住民とコミュニティの生活維持能力が損なわれ、 干ばつなど極端な場合には土地がもはや生活を支えきれなくなり、人々は しばしば村を去って都会に移らざるを得なくなります。 次第に人々の消えた村に残るのは、しばしば、 もう何の開発も不可能な社会生態学的状況です。

 砂漠化を被っている大部分の国は開発途上国ですが、砂漠化は、 国際的観点から捉えられるべき問題です。なぜなら、それは政治的国境を横断し、 すべての大陸で生じている問題だからです。 砂漠化は多数の要因の複合的相互作用の結果であり、その要因には外部的要素、 例えば、世界経済の情勢、物価、利子率、エネルギー輸入、文化様式、および 条件付援助事業などが含まれます。 これらの外部的要素は内部的要素、例えば、不適切な政治・政策体制、低い 環境投資水準、および高い人口増加率などと複合して、適切な土地管理を妨げ、 砂漠化の悪化をもたらしています。

 現在の世界経済のシステムも、問題の一端を担っています。 それは、 自給生産に基づいていた先住民の経済システムを急速に大量商品生産の世界経済に 巻き込み、先住民にしばしば土地の過剰耕作を強いています。 貿易と構造調整計画、そして不適切な技術移転がさらに問題を悪化させています。 多くの開発途上国の経済が、自ら制御不可能な世界市場への第1次産品、例えば 換金作物の輸出にひどく依存しています。このことがしばしば傷つきやすい 乾燥地資源の過剰利用を招いているのです。

 砂漠化による植生の消失は動植物の絶滅をもたらし、生物多様性の損失に つながるおそれがあります。乾燥地は多様な食料と医薬品の供給源です。 砂漠化による植生の消失は、貴重でかけがえのない遺伝物質の損失になるのです。

解決策を探る

 砂漠化を効果的に防止するためには、行政府によるトップダウン型の対策と コミュニティからのボトムアップ型の取り組みが必要です。 世界の乾燥地を、人々の持続可能な生計を維持しながら、全体として食料増産に つながるような仕方で管理していくことが重要です。 過去数十年間、様々な方策が試みられました。 それらは、例えば、植林、遮蔽物や緑地帯の造成、砂丘の安定化、既存保護林の保全、 複合林業(アグロフォレストリ)の導入、公共林地の設定、土壌と水の保全対策 などです。 しかし、国や地域の多数の活動計画が政治的決意の不足、資金不足、および 巨額の国外債務によって妨げられています。

 1977年の国連砂漠化会議(UNCOD)は砂漠化が地球的規模の問題であり、実用的な 解決策を見い出すためにはすべての国々の協力が必要であることを認知しました。 17年後、世界中の乾燥地の劣化を防ぐための国際法が百カ国以上によって 合意されました。1992年のリオデジャネイロでの地球サミットの要請に基づく この「砂漠化防止条約」は、乾燥地の劣化に対抗するための、国、地域、および 地元における活動の枠組みを定めています。また、国際的な行動、例えば、十分な 資金運用、砂漠化防止技術の移転、情報交流、研究・研修活動などを求めています。

 この合意は、国々に、地元住民、政府、および国際コミュニティを結集する ボトムアップ型の取り組みを要請しています。 この合意の交渉過程では、かつてないほど多くのコミュニティや国際組織が 関与しました。砂漠化との闘いには、土地で働く人々と直接的に接している 草の根グループや NGO が重要な役割を果たすということが次第に認知され、 それがこの条約のアプローチに反映されています。 この条約は、NGO に国内活動の立案と実施、および砂漠化防止基金の運用を委ねています。

活動しよう!

 砂漠化に関する問題を解決するには、多数の環境問題、例えば、 人口移動、動植物種の損失、気候変動などの問題に取り組む必要があります。 これらの問題に対しては、社会開発の特定分野での取り組み、例えば、 社会の底辺にいる人々--特に土地に接する機会の多い女性--の意識啓発、教育、強化 などが、しばしば最善の対策となります。

 砂漠化は基本的な症状、例えば、貧困、未開発、食糧不足などを反映しています。 その根底には、生存のために多数の人々が、環境的に非持続可能な活動への従事を 強いられているという事実が潜んでいます。砂漠化の問題を解決するには、同時に、 貧困の諸要因の根絶、および村で暮らす人々の基本ニーズへの対処が必要です。

 砂漠化を防止するには、土地劣化の過程を逆転させ、土壌、水、および生物資源を 保全しなければなりません。政府の政策レベルでは、貧困の撲滅と食料・ エネルギーの安定確保に向けた社会経済的開発の推進、 および生活環境と居住地の改善が必要です。

 砂漠化防止のために、国際的、地域的、国内的、および地元レベルでの行政府の 取り組みが必要ですが、同時に、コミュニティおよび個人レベルでも 多くのことがなされるべきです。 多数の解決策が砂漠化に関連する、人口、森林破壊、および持続可能な土地利用などの 問題を扱った章に示されていますが、ここでは、特に砂漠化に関して個人および コミュニティレベルでの取り組みが可能な活動の例を示します。

セネガルの成功

 西アフリカの国セネガルのダカールから北へ200kmの地に住む500人以上の村人は、 最近、砂漠化防止に関して、 コミュニティと支援組織のパートナーシップ事業による恩恵を 経験しました。

 村の複数のグループが、 国連開発計画(UNDP)と World Vision International からの少額の資金援助をもとに、 先祖伝来の地の居住可能性への潜在的脅威と映った問題の克服に立ち上がったのです。 Louga 地域は長い間、生態系の安定を欠いていました。それは、干ばつやペストなどの 自然の猛威に繰り返し襲われ、また、不適切な農地政策の犠牲となって 自然資源の過剰利用を強いられたためでした。 その結果、土壌の慢性的劣化、植生の減少、住民の大量出村、および放牧地の不毛化が 生じていました。

 コミュニティグループは、この問題への対策として、手動ポンプ付きの52本の 小さな井戸を掘りました。その結果、豊かな地下水が水の需要を満たし、さらに ポテト栽培用の小さな潅漑農地が設けられたのです。 村人達は、環境と諸問題との関係についての 教育を受けることによって自分達の重要な役割を 理解するようになり、解決策は長続きするものとなりました。 さらに、村人達は独自の方法を発展させました。その一例として、 燈台草に囲まれた一画にアカシアの樹を育て、そこで 多年生の作物、例えばキャッサバや野菜を栽培し、 土壌を有機的に肥沃化したのです。

 現在、コミュニティは、豊富でより持続的な地下水資源によって 水需要を満たし、同時に潅漑によって、ポテトのような換金作物による収入を確保しています。

砂漠化防止へNGO の取り組み

 各国政府が砂漠化防止条約の細部について交渉を行っていたとき、 50以上の地元と地域のNGO がその問題に関する直接的行動を起こしました。 パリにおける条約交渉の最終段階において、60人以上の主としてアフリカのNGO 代表が積極的な請願活動を行い、地元コミュニティの関与が確保されるよう要請 しました。 条約確定後の7カ月間、NGO は砂漠化防止活動のための独自の会議を Ouagadougou からナイロビに至る各地で開催しました。

 「砂漠化防止条約は、NGO が今後の活動を展開するための土台を築いた。 しかし、同時にそれは、NGO にコミュニティへの情報伝達と動員について大きな 期待を掲げた。」と国際環境連絡センター(ELCI)の Heinz Greijin は国連総会で 述べました。

 NGO は情報伝達と動員のために次のことをしました。 砂漠化についての電子メール(e-mail)会議の設置。 ヨーロッパにおいてNGO への支援を求める会議の開催。 「持続可能な開発に関する委員会(CSD)」への貴重な情報提供。 パキスタン、ケニア、マリ、ペルー、ブルキナファソ およびカナダにける 意識啓発活動。さらに砂漠化防止に取り組む コミュニティベースの組織やNGO が情報を共有し、連携を深められるよう、 砂漠化に関する世界的なネットワークを形成しました。 このネットワークは、国際レベルで交渉されてきた条約と、 コミュニティレベルの人々との間の橋渡し役となることをその目的とする点で 非常にユニークです。

 ELCIは、砂漠化や他の環境問題への取り組みに コミュニティグループを動員するための努力を続けています。 その数多くの活動の一環として、世界各地の開発途上国で、 コミュニティグループが政府代表者や国際的専門家と話し合う会議を開催しています。

照会先:

Environmental Liaison Centre International (ELCI)
P.O. Box 72461
Nairobi, Kenya
Tel: (+215 2) 562 015
Fax: (+254 2) 562 175
E-mail: elci@elci.sasa.unep.no (or) elci@elci.gn.apc.org

参考文献

- Down to Earth, A simplified guide to the Convention to Combat Desertification, why it is necessary and what is important and different about it, Geoffrey Lean, The Centre for Our Common Future, Geneva, 1995
- The United Nations Convention to Combat Desertification in those Countries Experiencing Serious Drought and/or Desertification, Particularly in Africa, United Nations, 1994.
- World Atlas of Desertification, the United Nations Environment Programme, Edward Arnold, 1992.
- World Resources, 1994-95: A Guide to the Global Environment, a report by the World Resources Institute with UNEP and UNDP, Oxford University Press, 1994.



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