森林の問題

(Forests)

Serit arbores quae alteri seculo prosint
(彼は、未来の世代のために木を植える。)

-- Caecilius Statius, c. 200 B.C.

森林の問題についての現況

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森林損失の諸要因
熱帯雨林の状況
解決策を探る
活動しよう!
ひとりひとりのとりくみ
成功事例

 林は、木の集まりをはるかに超えた存在です。それは生態系の全体を 担っています。それは、木、草、菌類、微生物、動物、土壌、そして無数の 植物種から成り立っています。それらすべてが相互に働き合い、 淡水資源から地域の気候に至るまであらゆるものに影響を及ぼしています。 森林は、旅人に木陰を、飢えた人に食べ物を、病人に薬を、そして 住まいを作る材料を供給します。また、大気中の炭素を吸収し、地球温暖化の緩和にも 寄与しています。

 木は森林の構成要素の一つに過ぎませんが、森林の寿命を決定するのは、 木の持続可能性です。木は更新可能な資源であり、持続可能な仕方で利用する限り、 元の状態に回復可能です。森林によっては、年間5%以上も成長します。 ということは、その割合で利用する限り、元の状態を保てるのです。 しかし、生活のために木を必要とする人々の多くが、復元可能な割合以上に 木を利用しています。

 世界各地での森林と林地の損失は深刻な問題です。その損失は降雨パターン、 気温、風速を変え、豊かな土地を乾燥させ、洪水や土壌吸収力の変化をもたらします。 そして人間や動物の生活を破たんさせるおそれがあります。 森林の焼き払いにより、大気中に炭素が放出されます。もしそれが森林の 成長速度を超えて行われ、余分に放出された炭素が、世界の炭素の大部分の 吸収源である海洋の吸収量を上回る場合には、地球温暖化が促進されるでしょう。

 森林は、世界の何百万人もの貧困者の生活を支えています。 現在、世界中で毎年約1,680万ヘクタールの森林が伐採され、多数の人々の 森林利用の機会を奪っています。森林伐採はそれ自体で環境難民を 生み出します。何百万人もの人が、中央アメリカ、カリブ海地方、 アフリカ、そしてアジア(ジャワ島だけで百万人以上)で、移住を 余儀なくされました。

 森林はまた、紙の原料であるパルプ、丸太、合版、ゴム、油、樹脂、薬用植物などの 需要の多い産物を供給します。多数の国がこれらを輸出品としています。 不十分なあるいは搾取的な森林管理は必然的に選択肢をせばめ、 その結果、最初に輸出の退潮が、次に増え続ける輸入債務が訪れます。 現在、33の開発途上国が森林製品の正味の輸出国ですが、2000年まで そうあり続けることのできる国は10カ国にすぎないと推定されています。

 森林は何百万もの生物種の住みかです。森林が消えれば、そこに住む生物も 同じ運命を辿ります。森林は土壌侵食を防ぎ、自然の基本的な水管理機能を 提供します。森林伐採後、水の奔流はさえぎられることなく急斜面を流れ落ち、 土石流や洪水をもたらします。ヒマラヤ山脈の麓が木に覆われていたとき、 バングラデシュの大洪水はおよそ百年に2回の頻度でした。 今では、平均4年に1回です。

森林損失の諸要因

 この惑星の森林に多くの危機が訪れています。その要因のほとんどは 人間活動です。森林損失の第1要因は、農地拡大の需要です。しかし、 材木業も、次第に奥地の森林まで入り込み、森林損失に多く寄与しています。 材木業者は資源管理に無頓着である場合が多いのです。 彼らは材木を得ようとして、通常、生産性の高い森林を探し出します。 しかし、生産量が減るやいなや、その場所を捨て、新しい候補地を 探しに行きます。植林計画を立てて森林再生を試みようとはしないのです。 最も驚くべき例は、タイのある材木業者です。彼らは、1988年の大洪水をきっかけに タイでの活動を禁じられたあと、すぐにミャンマー(前のビルマ)に移り、 今では世界でただひとつのチークの大森林を枯渇させようとしています。

 状況は、今のように深刻であってはならないのです。世界の総樹木量は 3,150億立方メートルであり、毎年、60億立方メートルが新たに育ちます。 世界の消費量はこの半分程度にしかすぎません。しかし、森林成長の大部分は、 人口のまばらなアラスカ、カナダ、およびシベリアで生じています。 他の地域、特に東南アジアやラテンアメリカでは材木不足が危機的状況です。 アフリカでもそれに近い状況です。熱帯林は、再植林されるよりもずっと速い 割合で伐採されています。商業的に伐採される樹木29本に対して、再植林されるのは、 わずか1本です。

 一方、再植林事業はそれが必要な地域でも、経済的または自然的理由により、 実施されないことがあります。実施されても時々失敗に終わっています。 再植林は常に環境への打撃を回復できるとは限りません。 材木業は、森林の枯渇、細分化、多様性の喪失をもたらしています。 ワールドウォッチ研究所によれば、最もよく見られる最悪の森林破壊が 採掘的伐採により引き起こされています。同研究所は、「地球白書」の中で、この種の 材木業が熱帯地域においてしばしば大量の植生を熱帯雨林から奪い去っていると 述べています。熱帯雨林では、栄養素の大部分が土壌ではなく植生自体にあるため、 植生除去後の環境は栄養に乏しく、その回復には 何百年もかかる可能性があります。

 国際金融制度の圧迫も、時々もうひとつの森林損失要因となっています。  開発途上国はローンの利子支払いや債務返済のために木材の輸出増を図ろうとするのです。

 公共的政策は、通常、社会が資源を利用あるいは過剰利用する度合いを決定します。 従って、森林損失に最も責任があるのは、その国の政治です。不幸なことに、 森林資源保全の国際的合意にもかかわらず、多くの国において、森林破壊防止のための 法律制定の政治的熱意が不足しています。 持続可能な開発と社会経済的関心との間の優先バランスを見い出すことの困難さが、 しばしば政治的無策につながり、その結果、環境破壊がずっと続くのです。



熱帯雨林の状態

 熱帯雨林は、幅3千マイルで地球を取り巻く緑の帯です。かつては陸上の少なくとも 14%を覆っていましたが、今ではわずか6%が残っているのみです。 ブラジルがその3分の1、インドネシアとザイールが各々10分の1を有し、 残りは、アフリカ、南米、東南アジア、およびオセアニアの諸国に散らばり、 急減しています。

 落葉樹林、乾燥樹林、および砂漠林を含む全種類の森林が生態系安定のために 重要ですが、世界の生物種の半分は熱帯雨林に存在します。 この遺伝子の宝庫は、今までに、現代の作物や医薬品の元となった多くの遺伝子株を 産出してきました。インドでは、2,500種以上の植物の医薬利用が公認されています。 また、米国国立ガン研究所は、熱帯雨林固有の3,000種の植物のうち、73%に 抗ガン機能を確認しました。これらの植物種の保全は人類に直接的恩恵を もたらします。

 熱帯雨林はまた、世界における二酸化炭素の自然の吸収源のひとつです。 二酸化炭素は光合成で吸収され、木、草、土壌に蓄積されます。 しかし、大量の熱帯雨林が焼き払われて、 蓄積された全二酸化炭素が放出されているため、 現在、熱帯雨林は吸収源である以上に発生源となっています。 「熱帯雨林行動ネットワーク」によれば、現在、温室ガスの25%が熱帯雨林の 燃焼から生じています。

 米国の報告書「グローバル2000」は、 今世紀末までに、熱帯林の百万種もの生物が絶滅するおそれがあると推定しています。 重要な点は、熱帯林がほとんど未知の動物・植物物質の宝庫であるということです。 生物多様性はともかく、人類のために、これらの生物体を軽率に 絶滅させてしまうことのないよう対策がとられる必要があります。

 「熱帯雨林行動ネットワーク」によれば、 熱帯林破壊の主要因は誤った開発計画です。 その事業の多くは、米国、ヨーロッパ、 および日本の税金や、先進国の民間銀行を資金源としています。 とりわけ破壊的な開発計画となっているのは、農業、牧畜業、水力発電ダム、 材木業、鉱業、そして道路建設です。

 熱帯諸国における、良質農地の不公平な分配とともに、人口圧力が熱帯雨林の 農地化の主要因となっています。ある国々は、土地改革運動をなだめるのに、 輸出作物栽培用の上級農地を再分配せずに熱帯雨林を開拓します。 しかし、この政策は失敗の運命にあります。なぜなら、新しい開拓地はすぐに 役に立たなくなるのです。多湿の熱帯地域では、熱と大雨が古い土壌から栄養素を 取り去り、生産力は表面のわずか数インチにしか残りません。 木の葉やその他の有機物は、地上に落ちても、微生物、昆虫、鳥、植物などの 他の生物体の複雑な相互作用によってすぐにリサイクルされますが、 農地のために熱帯雨林が取り払われるときには、植物の生活に必要な 土壌栄養素の多くが森とともに失われるのです。

解決策を探る

 この惑星の森林破壊の暗澹たる現実の中にも、 いくつかの勇気づけられるきざしがあります。世界の森林のうち、公式に保護されて いるのは5%以下にしかすぎませんが、いくつかの国では、森林保全に大きな進歩が ありました。現在、世界のほとんどの国が森林管理により注目し、 より資金を注ごうとしています。アジア太平洋地域では、毎年3百万ヘクタールの 植林が行われています。インドネシアでは、政府が今後65年間、毎年3億ドルを つぎこんで2千万ヘクタールを植林すると約束しました。南米では、「アマゾン 環境開発委員会」が8カ国と協力し、アマゾンの保全と開発の調和をめざしています。

 ブラジルは、1,500万ヘクタールに及ぶ、森林公園と保全地域を設ける意欲的な 事業を始めました。コスタリカは現在残っている原生地域の8割を保護することに しました。コートジボアールは、木材輸出を禁止しました。ボリビアは、5年間の 伐採権執行停止を宣言しました。そして複数の国が 非破壊的森林利用技術を開発中です。 また、改良型かまどが、とりわけネパール、ケニア、および中央アメリカで たきぎの使用削減に寄与しています。いくつかの国際組織は、ある国の国際負債の 一部を、森林保全地域の設定と引換に買い取るという、新しい保全方法を 発展させようとしています。

 同様に勇気づけられることは、人々の森林についての関心が 高まりつつあることです。世界各地で、森林の保護と再生に向けた多数の地域活動が 展開されています。これらの多くはNGOによるものですが、中には、 森林再生のもたらす経済的可能性を認めた民間企業によるものもあります。

 地球サミットでは、世界中の政府が、「すべての種類の森林の管理、 保全、および持続可能な開発に関する世界的同意のための原則の 非拘束的公式声明」に合意しました。それは、問題の修辞的認知にすぎませんが、 それでもその声明は、問題を地球的行動課題と位置づけたのです。 今必要なのは、コミュニティが行動を起こし、地球の残り少ない森林の保全に 参加するとともに、政府に森林資源の持続可能な利用確保に向けた政策を 採用するよう勧めることです。

活動しよう!

 世界の森林の消失防止に向けてコミュニティができることはたくさんあります。 他の問題と同様に、森林資源保全のための個々の活動は、あなたの地域の固有の 状況と能力、およびあなたの国が先進国であるか、開発途上国であるかに依存します。 以下に示すいくつかのアイデアは、 あなたのグループが活動を始める際に参考となるでしょう。

ひとりひとりの取り組み

 個人レベルの活動は重要であり、あなたのコミュニティ組織によって 推奨されるべきです。私たちは皆、森林産物の消費者です。従って、 森林の過剰利用とみなされる産物、例えば、森林伐採が生態系を脅かしている地域の 樹木から作られた家具などを買わないといった選択的な消費の仕方が可能です。 以下に示すのは、あなたの組織がそのメンバーやコミュニティの人々に 勧めることが可能な、さらにいくつかの活動のアイデアです。

グリーンベルト運動
(成功事例)

 Harambee--「みんな、さあ、引いて」--はケニアの有名な運動となりました。 女性の権利と環境についての活動家、Wangari Mathai の植林運動開始に向けての たゆまない努力がついに反響を得たのです。

 グリーンベルト運動は、1977年の世界環境デーに、地元に根ざした 草の根キャンペーンとして出発しました。目標は多種多様でしたが、木を焦点に、 多くの環境問題が議論され、一般の人々や意志決定者の注目を集めました。 その最初の植林セレモニーで次のような宣言が述べられました。

 「我々は、ケニアが砂漠化に近い状況の拡大に脅かされていること、 砂漠化が誤った土地利用と無差別な伐採や開墾、および結果としての土壌侵食によって 生じること、さらに、これらが干ばつ、栄養不良、飢饉、そして死をもたらすことを 認識し、できるかぎり多くの場所での植林によって砂漠化を防止し、我々の土地を 救おうと決意する。」

 「この表明にあたり、我々ひとりひとりは、現在と将来の世代から、 その生来の権利でありかつ全体の財産である自然の恩恵の享受を奪おうとする 行為や要因に対し、この国を守ることを約束する。」

 運動開始以来、3千の学校の百万人以上の生徒が学校の構内に木を植え、 5万以上の家庭と小規模農場がその農地に植樹し、そして、植林問題に関する多数の 小冊子やフィルムが作成されました。 最近十年間では、7百万本以上の木が植えられ、順調に育っていると 報告されています。このキャンペーンに参加した女性の数は5万人以上に上り、 リーダーの Mathai 教授は、国連環境計画の「グローバル500 環境功績者」名簿に 登録されました。この運動は現在、他の諸国にも広まりつつあり、直に、 東および南アフリカ全体に普及するでしょう。

紹介先:

The Green Belt Movement
P.O. Box 67545
Nairobi, Kenya
Tel: (+254 2) 504264




参考文献

- Agriculture in the Tropics Tropical Forest Ecosystems amid Their Tree Species-Possibilities and Methods for their Long­Term Utilization, Lamprecht, H., Technical Cooperation, Federal Republic of Germany, 1989
- Energy Options for Africa: Environmentally Sustainable Alternatives, Karekezi, Stephen and Mackenzie, Gordon, Zed Books, Denmark, 1993
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- The Forest for the Trees? R Repetto, World Resources Institute, Washington D.C. 1988
- Tropical Forests Action Programme, UN Food and Agriculture Organization, Rome, 1986
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- Green Inheritance, Huxley, Anthony, Anchor/Doubleday, New York, 1985
- Tropical Forests: A Call for Action, World Resources Institute, Washington DC, 1985
- Rainforest Action Guide; Rainforest Action Network, USA 1989  Tropical Forest Conservation, Position Paper, WWF International, August 1989
- World Resources, 1994-95: A Guide to the Global Environment, a report by the World Resources Institute with UNEP and UNDP, Oxford University Press, 1994
- Youth Action Guide on Sustainable Development, Hrabar, Dean and Ciparis, Ramona, AIESEC International, London, 1990.



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