大気の問題

(The Atmosphere)

「大気は国境を知らず、
風はパスポートを持たない。」

-- Sir Crispin Tickel

大気の問題についての現況

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対流圏:汚染と気候変動
酸性雨
成層圏オゾン層の破壊
オゾン枯渇の地上への影響
オゾンについてのよい知らせ
スモッグ、地球温暖化、酸性雨への解決策を探る
活動しよう!
ひとりひとりの取り組み
オゾン枯渇への解決策を探る
活動しよう!
ひとりひとりの取り組み




 球の大きさと宇宙の果てしなさを考えるとき、 私たちの生存に不可欠な環境--空気--はごく薄い層をなすにすぎません。 この層は大気と呼ばれ、地球をとりまくガス、蒸気、および粒子の集まりです。 その質量の80%は、最下層の対流圏にあります。 対流圏の高さは、地表から6〜17キロメートルであり、 経度や季節によって変化します。その上に、成層圏が高さ約50キロメートルまで 続いています。

 大気が重要であり、かつそれが占めるのは比較的狭いスペースでしかないにもかかわらず、 私たち人間は、現在それを化学物質や炭素、そしてスモッグで満たそうとしています。 これらの物質のあるものは、その量が増えると地球の生命を脅かしかねないことを 私たちは知っています。この章の最初の部分では、特に対流圏についての 諸問題を示し、次の部分では、太陽の危険な光線から地球の生命を守る 成層圏オゾン層の破壊に伴う問題をとりあげます。

対流圏:汚染と気候変動

 大気は、地球の全生命体の構成要素である炭素、窒素、酵素、そして水素の 循環、再循環のシステムとして機能しています。大気の99%は窒素および酸素 から成りたっています。生命体は、これらの元素から栄養源である炭水化物と たんぱく質を作り出します。また、大気は隕石の脅威から私たちを守ります。 隕石の大部分が大気を通過中を燃え尽きるのです。同様に、大気は目に見えない有害な 放射線からも私たちを守ってくれるのです。

 私たちの呼吸する空気は生命維持の基本であり、それなしには 片時も生きていることはできません。空気はふつう78%の窒素、21%の酸素、 および1%のその他の分子ガスから構成され、そのうちの酸素が私たちの必要物です。

 大気汚染にはいろいろな種類がありますが、次の4つは特に脅威となっています。 硫黄酸化物--おもに発電所と工場から排出されます。 窒素酸化物--発電所、工場、および自動車から排出されます。 一酸化炭素--おもに自動車から排出されます。 ばいじんやダスト--浮遊粒子状物質(SPM)として知られ、物の燃焼に伴って 発生します。最初の3種類の大部分は先進国で発生していますが、SPMの大部分は、 多量の石炭、たき木、炭を使う開発途上国で発生しています。

 主として産業開発の進行の結果生じる大量のスモッグは、動植物や人間の 生命をひどく脅かします。スモッグは、種々の化学物質を含む黄色味がかった霧で、 おもに都市域、たとえばロサンゼルス、バンコク、メキシコシティなどを 覆っています。多くの都市域でみられるスモッグの9割を占める大気汚染物質は 地表オゾンであり、他の成分は窒素酸化物、揮発性有機化合物、二酸化硫黄、 酸性エアロゾルとガス、およびSPMです。

 地表オゾンは、いくつかの汚染物質(窒素酸化物や揮発性有機化合物)と太陽光との 化学反応の結果生じます。よどんだ空気がこれらの汚染物質と相互作用し、 地表オゾンに変わるのです。このオゾンは、その地域の天候が一変し、 汚染気塊が吹き流されるまでの間、大気低層にとどまります。地表オゾンによる 汚染現象は、数時間から数日間も続くことがあります。特に著しい汚染現象は、 天候が暖かな時に窒素酸化物や揮発性有機化合物の濃度が高い都市域で発生します。

 これらの現象は、人の健康をとても害することがあります。多くの大都市の 保健当局は注意報を発令し、人々に、汚染の激しい間、ジョギングや他の野外活動を 控えるよう呼びかけます。長時間の暴露は肺の弾力性を損い、肺を未発達なまま 老化させて病気に対する抵抗力を弱めることがあります。オゾン濃度のピーク時に 1、2時間運動すると、健康な大人や子供でもせきこんだり、呼吸困難になったり、 肺機能の一部がしばらく停止することがあります。

 大気汚染が害するのは、人の健康だけではありません。アテネのアクロポリス、 ローマのコロセウム、インドのタージマハールなどの記念物は、数千年にわたり 当初の面影を保って来ましたが、今世紀に入り酸性雨や大気汚染により急速に むしばまれてきました。多くの都市の黒ずんだビルは、特に東ヨーロッパにおいて、 私たちが大気汚染の管理と適切な浄化をなしえなかったことを証言しています。

 良い知らせと悪い知らせがあります。良い知らせは、国連の推計によれば、 過去20年間に先進国で大気汚染が改善していることです。悪い知らせは、 逆に多くの開発途上国でそれが悪化していることです。先進国では、産業活動を よりクリーンにするために技術投資に多額をつぎ込みました。その結果、 1年当たりの硫黄酸化物排出量が65トンから40トンに減少したのです。しかし、 現在徐々に産業開発が進行しつつあるその他の地域では、排出量が増加しています。 UNEPの地球環境モニタリングシステム(GEMS)では、75ヵ国175地点の 大気汚染を監視しています。最近の報告によれば、二酸化硫黄による大気汚染は、 54都市中、27都市で受忍限度内、11都市(ロンドン、ニューヨーク、香港など)で 限度間近、16都市(リオデジャネイロ、パリ、マドリードなど)で限度を 超えています。ばいじんとダストのレベルは8都市で受忍限度内、10都市 (トロント、シドニーなど)で限度間近、23都市(バンコク、テヘラン、 リオデジャネイロなど)で限度を超えています。



気候変動

 天気は、地球上のどこでもかなり規則的なパターンで変化します。毎年の気温の 変動幅、降水量、そのほか季節風などの気象要素は、年によって違いはあるものの、 大体似かよっています。これが気候といわれるものであり、生命体のすべての側面に 影響を及ぼしています。気候は動植物の生命サイクルを調整し、 成長や活力に影響を与え、地球上の動植物分布を決定する第1要因です。

 地球の気候は、太陽からの放射エネルギーと、そのエネルギーの陸地、海洋、および 大気による反射、吸収、ならびに再放射の影響を受けます。この惑星の無数の力が 絶妙に作用しあうことで、大気に入る太陽エネルギーと大気から出てゆくエネルギーの 平衡が保たれています。気温や降水、風、その他の現象の移り変わりは、 地球の気候システムの、内部的でしばしば明らかに不規則な働き、 例えば大気と雪や氷との相互作用などによって生じます。時々、 自然現象によって地球の気候システムに突然の変化が訪れることがあります。 大きな火山の噴出はその一例です。大噴火は、太陽光を遮る物質を成層圏にまで 噴出し、一時的に地球表面を冷却します。

 温室と同様に、太陽光が地球によって吸収され熱に変わることにより、地球は 暖められます。大部分の熱は、最終的には地球大気を通じて宇宙空間へ逃げて ゆくのですが、大気中の二酸化炭素やその他のいくつかのガスにはこの熱を吸収し、 再放射する働きがあります。科学者たちは、温室効果の研究を通じて、地質時代に 地球の表面温度がなぜ変化したかの手がかりを得ました。また、金星、火星、 および地球の表面温度が異なる理由も説明されました。もし、 この自然の大気中の熱吸収装置がなかったならば、地球の平均的な表面温度は今より 約30℃低かったでしょう。その場合には、この惑星上の生命は実際大きく 異なったものであったろうと考えられます。

 気候変動はこのように複雑な問題であるため、それが現実に生じていると 科学的に証明する決定的な証拠は十分ではありません。しかし、現在、国際的な 科学コミュニティの大部分は、人間活動に由来する大気中へのガスの蓄積が、 究極的には地球の表面温度を押し上げ、地域の気候に明白な変化をもたらすであろうと 信じています。社会が築かれた背景であり、国々の経済、文化基盤が強く依存している 気候パターンに対し、歴史上初めて人間活動が変化を与えようとしているのです。

 二酸化炭素、メタン、CFC、ハロン、そして亜酸化窒素の排出が急速に大気中の 温室ガスの濃度を増加させ、人為的な温室効果をもたらしています。二酸化炭素は 単独で最も影響度の大きい温室ガスであり、過去一世紀にわたり温室効果の 潜在的増加の約3分の2をもたらしました。産業革命前には、自然現象による 280ppmの大気中二酸化炭素の存在が、水蒸気とともに私たちの惑星の 平衡温度の決定要因となっていました。人間が排出する二酸化炭素や他の温室ガスは、 とるに足らないものでした。しかし、今日、大気中二酸化炭素のレベルは350ppm以上 であり、産業革命前の25%増となっています。この増加分の半分は、 過去30年間に増加したものです。

 メタンの1分子あたりの地球温暖化ポテンシャルは、二酸化炭素の約25〜30倍も あります。氷柱データの分析結果は、メタン濃度が過去2世紀の間に約2倍に なったこと、および現在の濃度は過去16万年間で最高であることを示しています。 メタン増加の大きな要因は農業です。水田と家畜(おもに牛と羊)は、最大の 人為的発生源と考えられています。しかし、天然ガスの生産、供給、 石炭生産、ごみ埋立、そしてバイオマスの燃焼からも相当程度発生します。

 これらの人為ガスによって、気候を決定する大気プロセスに、地球の歴史上 前例のない速さの変化が生じています。これらのガスの排出レベルは、 世界の多くの地域における急速な産業開発のために増加し続けているのです。

 気候モデルと将来の排出レベルの予測に内在する不確実性のために、温室ガスによる 今後の温暖化の予測はたいへん不確実なものです。将来の排出レベルは、 将来の人口と経済成長、技術開発、そして行政施策と関係し、そのどれもが 著しく予測困難です。

 地球温暖化が水蒸気を増加させ、雪や氷をとかすであろうということは、 とてもよく理解されています。気温が上がると空気はより多くの水蒸気を蓄積し、 それがまた温室効果に寄与します。気候モデルでは地球温暖化の結果、この惑星の 気温は平均約0.8〜2.4℃上がるだろうと予測しています。最も確からしい 影響予測によれば、地球規模の平均気温の上昇に加えて、多数の物理的、 生態学的システムへの影響が生じます。この惑星のいくつかの地域では、破滅的な 結果が生じるでしょう。ある国際的な科学的評価によれば、来世紀末までに 1.5〜4.5℃の温暖化が、40〜120センチメートルの地球規模での海面上昇を もたらすだろうと推定されています。このような海面上昇は、多くの小さな島国の 水没や海岸地域の浸水、淡水域への塩水の進入、そして商業的に重要な漁場の破壊に つながるでしょう。

 さらに関連する気候要素の予測から、科学者たちは温暖化がハリケーン(台 風)や雷雨などの、より勢力の強い、より頻繁な嵐をもたらすと示唆しました。 ハリケーンの最大持続強度は、海水面温度と強いプラスの相関があるため、 温暖化に伴って増加するのです。最大強度まで達するハリケーンの数は 少数ですが、より温暖な気候のもとではいくつかのハリケーンは、 ずっと大きな被害をもたらす可能性があります。 さらに、より広い地域でハリケーンが日常的に生じるようになるでしょう。

 気候変動のもたらす正確な影響についてはまだよくわかっていませんが、確かな ことは、自然の気候システムの変化が社会にもたらす圧迫は、世界中の国々の 経済的、社会的、および政治的枠組に影響を及ぼすだろうということです。 もうひとつ確かなことは、次の十年間に構築される生産基盤によって、 今後60年ないし100年間に大気中に放出される排出ガスの種類と量が 決定されるだろうということです。従って、今日、 経済界の各分野でなされる選択の数々が、これからの何十年間かの 地球気候の様相を形づくるのです。

大気中の二酸化炭素濃度, 1764-1993

出典: ワールドウォッチ研究所

世界の平均地温, 1880-1993

出典:ワールドウォッチ研究所;気候変動に関する政府間パネル , Climate Change 1992: The IPCC Supplementary Report (New York: Cambridge University Press, 1992).

酸性雨

 酸性雨は産業活動の直接的な結果です。化石燃料の燃焼により上空へ排出された 二酸化硫黄が、水と反応して硫酸を生成します。同様に、汚染大気中の窒素酸化物は 硝酸に変化します。これらの物質が、その後、雨や雪になり地上へ降りてくるのです。 酸性雨の降下場所は、気象パターンや風により左右され、実際に 生成された場所から500キロメートルも離れた地点に降下することもあります。

 硫酸や硝酸は、すべての植物体にとって有害です。植物は、酸性の降水を受けると 火傷を負い、黄色く変色し、枯死します。もし、この現象がある地域に集中すると、 森林および森林が支える全生命体が死に至る場合もあります。酸性雨により、 世界のいくつかの工業開発地域--ドイツ、スカンジナビア、インド、ロシア、中国、 カナダ、米国など--で今、森が死につつあります。

 さらに、酸性雨は湖や川の生態系を破壊します。いくつかの国では、酸性雨 のために生命体が存在し得なくなったり、人の行楽活動が禁じられた湖があります。 人々が魚に生存を頼っている地域では、酸性雨は多くの深刻な問題をもたらす おそれがあります。

 生態系の全体を死に至らせる以外に、酸性雨はまた、国の重要な宝物や建造物の 数々をむしばみ、同様に交通体系に欠かせない橋梁などの構造物を風化します。

 北米やヨーロッパにおける広域的な調査では、しばしば通常の十倍も強い酸性度の 雨が観測されています。カナダ、スカンジナビア、スコットランド、および米国の 何千もの湖が影響を被り、その多くで魚が全滅しました。 かつては酸性雨は、先進国だけの問題でしたが、次第にブラジル、中国、インド、 そしてジャマイカといった国々でも問題が表面化しています。

 酸性雨の問題は、すべての環境問題の相互関連性を示す一例です。すなわち、 廃棄物の問題(ガス排出)に始まり、大気の問題(空気中のCO2や化学物質)に 変わり、最後に森林や土地利用の問題(森林の死滅や砂漠化)そして 水の問題(強い酸性度の湖水)に至るのです。

成層圏オゾンの枯渇

 オゾンの話は、多くの人を混乱させます。大都市に住む人々は皆、空気中の 高濃度オゾン注意報を何回も経験しています。同時に、私たちはオゾン消失の 脅威や、はるか上空の「成層圏オゾン層の穴」について耳にします。 ある時は、科学者は私たちがオゾンを過剰に有していると言い、次にはそれを 失う危機にあると警告します。

 事実は、オゾンには2つのタイプがあるのです。分子としては 全く同一ですが、存在する場所の違いが、大変異なる結果をもたらします。 地表オゾンは汚染物質であり、人の健康にとって有害です。対照的に、成層圏 におけるオゾンの存在は、最も有害な太陽放射が地球に到達するのを防いで くれます。

 オゾンは酸素の1形態であり、私たちの呼吸するものと似ています。私たちの 呼吸する酸素は、2つの酸素原子からなりたっていますが(O2)、オゾンは、 3つの酸素原子の結合体です(O3)。全オゾンの約9割は成層圏で自然に生成され、 地表から約25キロメートルの高度で最高濃度を示します。 このオゾンの豊富な領域が、「成層圏オゾン層」として知られるものです。 この層がなければ、私たちが地球上に住むことは大変困難でしょう。 オゾン特有の物理的性質によって、太陽の有害な紫外線からすべての生命体を守る 透明なフィルターが形成され、私たちの惑星の日よけとして機能しているのです。

 科学者たちは、1950年代以降に集められたデータから、成層圏オゾンの濃度が、 1970年代後半に著しい枯渇が南極上空に現われ始めるまでは、 比較的安定であったことを 明らかにしました。1980年代初頭以降、地球全体のオゾン濃度の全般的な減少傾向が 観測されています。

 オゾン層を攻撃している主要な犯人は、クロロフルオロカーボン(CFC) とハロンです。この2つは、炭素(C)と1つ以上のハロゲン原子(フッ素、 塩素、臭素、あるいはヨウ素)を含む複雑な合成化合物です。

 CFCは、Dow化学により開発され、数十年間、完璧な化学物質とみなされてきました。 しかし、まさにその安定性がオゾン層にとって危険なのです。これらの産業用 ハロカーボンは、次の2つの理由から、強力なオゾン枯渇物質となっています。 1つには反応性が乏しいことです。このため、成層圏まで上昇するのに十分な期間、 大気中にとどまります。2つには、これらの物質がオゾンを破壊する自然反応を 促進することです。

 ハロカーボンが成層圏に達すると、C紫外線(UV-C)が、塩素原子 (CFC、メチルクロロホルム、四塩化炭素から)、あるいは臭素原子 (ハロン、臭化メチルから)を分離します。各塩素原子は次にオゾン分子と結合し、 それを酸素分子と塩素化合物に分解します。太陽光はさらにこの塩素化合物を分解し、 別のオゾン分子を攻撃する自由塩素原子を再生成します。 ひとつの塩素原子が最終的に安定な化合物になって成層圏外に出るまでに、破壊される オゾン分子の数は十万個にも達します。臭素原子も同様な働きをします。

 CFCは、冷蔵庫や空調機の冷却剤、脱脂液や洗浄液の溶媒、および発泡剤として 広く用いられ、また、電子回路基板の洗浄にも用いられます。 現在、CFCの放出は成層圏オゾン枯渇の約8割の責任があると考えられています。

 臭化メチルは、1960年代以降殺虫剤として用いられてきた物質であり、オゾン枯渇の 約5〜10%の責任があると言われています。ハロンは、おもに消化剤として 用いられていますが、オゾン枯渇の約5%のみを説明します。しかし、 この長期間安定な潜在的オゾン破壊物質の大気中濃度は、毎年推定11〜15% 増加しています。もうひとつのオゾン破壊物質は四塩化炭素です。 この物質は産業用溶剤、農業用薫蒸剤として、また石油化学精製を含む多くの 産業工程で使われています。メチルクロロホルムもまたオゾン層を脅かす もうひとつの物質です。

 ハローカーボンは、地表から大気中に放出される他の大部分の化学物質と違い、 雨によって地上へ洗い流されたり、他の化学物質と反応して破壊されたりすることがありません。 なお悪いことには20年から30年あるいは、それ以上も大気中にとどまり、 その間毎日オゾン層を破壊し続けます。

 オゾン層についての論議は、1974年にカリフォルニア大学Irvine校の研究者が、 オゾン層を薄くしている原因はCFC放出であると特定したときから始まりました。 1985年に南極上空でオゾン層の穴が発見され、懸念が広範囲に広まりました。 NASAなどの測定結果により、南極上空のオゾン濃度が春季に60%以上も 低下することが明瞭に示されたのです。

 この穴は時には米国ほどの大きさに達し、1979年以降ほぼずっと成長を 続けています。今では同様の濃度低下が北半球でも観測されています。 最近のUNEPのデータによれば、被害はさらに広がり、ニューヨークや マドリッドの位置する中緯度上空でも、オゾン濃度が5%減少しています。 将来的には、赤道上空でも強度の枯渇が観測されるかもしれません。

世界のCFC生産量, 1950-1993

全CFCを含む(CFC-11, CFC-12, CFC-113, CFC-114 and CFC-115)。 データ入手が困難な地域における使用割合が増えているため、 合計値は次第に不確実になりつつあります。 出典:ワールドウォッチ研究所

オゾン枯渇の地上への影響

 成層圏オゾンの減少は、地表に達するB紫外線(UV-B)の量を増加させます。 地球上の生命は、この放射線の通常レベルに耐えられるように進化してきました。 しかし、許容レベル以上のB紫外線への暴露は、無数の問題をもたらす可能性があり、 多くの生物種の存続そのものも危うくしかねません。

 皮膚ガンの危険性が最も高いのは、白色肌で金髪の人ですが、B紫外線への暴露は、 すべての肌のタイプで危険性を高めます。研究によれば、 1%のオゾン減少により、最も普通の2種類の皮膚ガンの発生件数が 4〜6%増加します。現段階では、アルゼンチン南部やチリ南部のような 南極周辺に住む人々の危険性が高まっていますが、オゾンホールが 成長し続けるならば、将来は世界中の人々の皮膚ガンの危険性が高まるでしょう。

 B紫外線への暴露増加に伴う、関連した、しかし、 あまりよく知られていない問題は、人間の免疫機能低下の可能性です。 免疫機能低下は、人体が感染症やがんと闘うことを困難にします。

 ほとんどの農作物もB紫外線に対してとても敏感です。この放射線の増加は 作物の葉を傷め、光合成や水利用効率を損います。オゾン減少の シミュレーションによれば、25%のオゾン減少は25%の収穫減をもたらします。 長期的には、オゾン枯渇は世界の最重要作物の多くについて収穫減をもたらし、 食料需要の満足を困難にするおそれがあります。

 植物プランクトンは、放射線暴露に対して特に弱い生命体のひとつです。 海洋における全食物連鎖の基礎をなす、この水中有機体は、光に依存し、 水面近くで生きる必要があります。地球上の最大生物であるシロナガスクジラは、 地球上の最小生物である植物プランクトンを食べながら生きているのです。

オゾンについてのよい知らせ

 大気中のCFC、四塩化炭素、メチルクロロホルム、ハロンなどのオゾン層破壊物質の 増加率は減少しつつあります。それは主として、世界各地の企業が代替物を発見し、 その使用を始めたためです。

 例えば1994年、エジプトの MISR 発泡会社は、スラブストックとモールドフォーム用の発泡剤としての 150トンのCFC-11の使用をやめました。モールドフォーム用の代替技術として、 従来の化学物質利用法に代わる水吹き付け法を採用したのです。 この新技術が導入されるまで、同社は発泡分野でのエジプトのCFC消費の14%を 占めていました。

 スウェーデンではポリウレタン合成スキンフォームの生産会社Integralteknikが、 有害なオゾン層破壊物質であるHCFCの使用をやめました。同社の製品は しばしば医療器械の分野で、また時々絶縁材として利用されています。 同社は代替技術として、デンマークの会社Baxenden Scandinaviaの開発した ペンタン利用法を導入しました。この新物質は環境により優しく、同時に より強度が強く裂けにくい製品を作り出せることがわかったのです。



自分を守ろう

 私たちは問題の悪化を防ぐあらゆる努力を行うのと同時に、自分と家族を 紫外線から守る必要があります。以下は、基本的注意事項です。

スモッグ、地球温暖化、酸性雨への解決策を探る

 この惑星の大気が脅威にさらされていることを認識し、私たちの開発についての 考え方を大きく変える明白な必要性があります。 この脅威の主要な結果として、ほとんど確実に、前例のない気候変動と海面上昇が 生じます。この破局を避けるために、先進国と開発途上国の双方において、 開発の進め方の根本的な変更が必要であり、エネルギー利用の効率化と 更新可能なエネルギー源の利用拡大が、すべての経済開発の 基礎とならなければなりません。

 温室効果の問題への解決策は、2つの分野を中心とします。 1つは排出ガスの削減であり、もう1つは国際的な協力と教育です。 地表レベルオゾン(およびスモッグ一般)は、汚染物質と熱および太陽光が複合して 生じます。従ってその最も効果的対策は、汚染物質(窒素酸化物と揮発性有機化合物) の排出抑制です。窒素酸化物と揮発性有機化合物の主な発生源は、 有害物質からの揮発および自動車と産業による化石燃料の燃焼です。従って、 スモッグを減らす最善の道は、私たちがこれらの資源をより控え目に、効率的に 利用することです。

 世界は大気汚染の問題解決に向けて、いくつかの対策を講じてきました。 多くの国が規制を厳しくし、よりクリーンな燃料に転換し、公害防止設備を導入 しました。この結果、例えばブルガリアでは1976年から1980年の間に、 浮遊粒子状物質排出量を1年間あたり160万トン減らすことができました。 同様な削減が、多くの先進国やシンガポールのようないくつかの開発途上国で 実現しました。公害防止設備の売上高が、1991年現在で、その10年前の2倍以上の 127億米ドルに達したことはこのような努力の証拠です。

 1980年代に、硫黄酸化物と窒素酸化物の排出を制限する2つの新しい国際的議定書が 調印されました。1992年の地球サミットでは、ほとんどの国が、二酸化炭素その他の 温室ガスの排出を削減するための気候変動条約に合意しました。14カ月間におよぶ 複雑な交渉を経て、150カ国以上が同条約に調印したのです。この広範囲な合意は、 真の偉業であり、人為的気候変動の脅威に効果的に対処しようという、私たちの 最善で長期的な期待を表しています。

活動しよう!

 政府や国際機関は、スモッグや地球温暖化、および酸性雨に対処するため 多くのことを行っています。しかし、行政のみでは問題を解決できません。 政策レベルで多くのことがなされるべきであると同時に、コミュニティレベルにおいて 実際の行動を起こす必要があります。

 コミュニティにおいて大気の問題に取り組むにあたり、あなたの組織が 越えなければならない基本的な障害のひとつは、問題認識と代替策の知識の不足です。 あなたの組織は、問題に関する認識の普及を図り、関係者のために質の高い教育を 用意することが可能でしょう。ひとつのアイデアは、社会の異なった領域の人々の 合同セミナーを企画することです(先進国、開発途上国、若者、事業者、科学者、 政治家など)。さらに、次のようないくつかのアイデアがあります。

ひとりひとりの取り組み

 個人レベルの活動は重要であり、コミュニティ組織によって推奨されるべきです。 ひとりひとりが、窒素酸化物や揮発性有機化合物の排出につながる活動を 控えることにより、スモッグ発生低減に寄与できます。 家庭や職場におけるエネルギーの節約は、温室ガス排出削減の 最も明瞭な取り組みです。

オゾン枯渇への解決策を探る

 カリフォルニア大学による成層圏オゾン枯渇問題の発見から十年後の1985年に、 世界は「オゾン層保護のためのウィーン条約」でオゾン層保護に同意しました。 2年後の1987年に調印された「オゾン層枯渇物質についてのモントリオール議定書」 によれば、先進国は1996年までにCFC生産中止が必要です。 議定書に調印した開発途上国は、技術転換とそれらの物質の使用停止のために 十年間の猶予期間を有します。また、議定書はこれらの国々を技術的、資金的に 支援するための特別基金を設けました。

 CFCとハロンを世界中の事業界、産業界からなくすには、相当の資金が必要です。 しかし、そうすることは、行動を全く起こさない場合の結末に比べれば、 ずっと軽い負担ですみます。世界中の政府が、政策レベルで変革を起こそうと 懸命に努力しています。しかし、変革が軌道に乗るのを待つ時間的余裕は十分とは 限りません。従ってここでも、コミュニティが活動を起こし、 違いをもたらす必要があります。

活動しよう!

 政府と国際機関は、成層圏オゾン層枯渇の問題に対処するため、多くのことを 行っています。しかし、政府だけでは問題を解決できません。 政策レベルにおいて、多くのことがなされるべきであり、なされつつありますが、 問題解決にはコミュニティレベルでの活動を起こす必要があります。

 コミュニティレベルにおいて問題に取り組むにあたり、あなたの組織が 越えなければならない基本的な障害のひとつは、オゾン層についての認識不足です。 ひとつのアイデアは、社会の異なる領域の人々の合同セミナーを企画することです。 さらに、次のようないくつかのアイデアがあります。

ひとりひとりの取り組み

 個人レベルでの活動は重要であり、コミュニティ組織によって推奨されるべきです。 以下に、できるだけ自分が成層圏オゾン枯渇の原因とならないよう、 ひとりひとりが取り組むことができるいくつかの重要な事項を示します。 そのうちのあるものは、明らかに先進国でより役立ち、あるものは開発途上国で より適切でしょう。

 オゾン破壊克服のための最善策は、オゾン枯渇物質含有製品を 購入しないことです。消火器、発泡製品、冷蔵庫およびエアコンを購入する際には、 事前に調査し、もし、代替品が入手できるなら、オゾン枯渇物質含有製品は 買わないでおきましょう。これらの化学物質を使い続ける企業には手紙で 懸念を伝えましょう。

 しかし、時には家庭や職場でオゾン枯渇物質含有製品をすでに利用しており、 それらをすぐには置きかえられないという場合もあるでしょう。この場合には、 含有CFCが成層圏に放出されることのないよう、それらの製品の適切な取り扱いが 必要です。そのほか、次のようないくつかのアイデアがあります。

参考文献

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