福井県みどりのデータバンク すぐれた自然データベース
鳥獣の重要な生息地
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名   称 三方五湖とその周辺
学   名
分 類 1 鳥獣の重要な生息地
分 類 2
位   置
(2kmメッシュ番号)
美浜町若狭町(旧三方町):(971,972,973,974,958,959,987,988,989)
選定理由 渡り鳥の渡来地または中継地、猛禽類の多様な地域
区   分 B(県レベルで重要なもの)
解   説  本五湖は,その名前の通り,三方湖,菅湖,水月湖,久々子湖および日向湖の大小の5 つの湖で構成されており,独立している日向湖を除き,ほかの4 湖はつながっている.また,日向湖と久々子湖は海へつながっており,海水から淡水までの多様な水域が存在している.ここは,県内でも鳥類の宝庫としてよく知られており,年間を通して多くの種が観察される.現在までに約160 種(小嶋明男私信)が記録されている.タカ目では,オオワシ,オジロワシ,クマタカ,オオタカ,ハイイロチュウヒ,ノスリ,サシバ,ハイタカ,ケアシノスリ,ツミ,チュウヒ,ミサゴ,ハヤブサ,コチョウゲンボウ,チゴハヤブサが記録されている.特にオオワシ,オジロワシについては,継続して飛来しており,多い時には,それぞれ3 羽と5 羽が記録されている.近年,若鳥の飛来数が減少しているが,繁殖率の低下によるものか,もしくは温暖化により南下する個体が減少しているものかは不明である.日向湖を除く4 湖では,毎年,多くのカモ類が越冬している.1987 年から1998 年の「ガンカモ科鳥類生息調査」によると,平均で15 種4,719 羽のカモ類が記録されており,種数,渡来数とも本県では最高である.これは,4 湖の自然が一様でないことと,古くから銃猟が禁止されており,渡来地として安定していることなどの理由が考えられる.また,海ガモ類の個体数が多く,特に久々子湖に多く集まっているが,1997 年以降減少する傾向にある.また,久々子湖南岸に流れ込む宇波西川河口付近に広がる湿田は,以前ほどではないが希少な鳥類がよく観察されるところであり,同湖北岸の旧久々子川が湖に流れ込む現在の運動公園北側の湿田も環境は悪化したが珍しい種の渡来地になっており,近年では,マガン,ホオロクシギ,メダイチドリ,ユキホオジロ,アカエリヒレアシシギが記録されている.1977 年に始まった大規模な湖岸の護岸工事によって五湖の様相は一変し,種数,個体数が激減した.しかし,本県では,現在でも最も多く確実にシギ・チドリ類が見られる所でもあり,例年渡来するシギ・チドリ類の種としては,アオアシシギ,オバシギ,トウネン,キアシシギ,ハマシギ,チュシャクシギ,タシギ,オオジシギ,ムナグロの9 種が記録されている.1969 年〜1989 年の20 年間の調査でも工事の進行が開始された年からはっきりと急激な減少傾向が読みとれる.
 その後も渡りの最盛期(特に秋の渡りの時期に計5 回)に毎年調査を続行しているが,道路工事が実施されたことにより環境は一層悪化している.加えて,近年乾田化を進めるため土質の改良工事が実施され,刈り取り後の水田から溜池状の部分がほとんど姿を消した.久々子湖におけるシギ・チドリ類の記録個体数の経年変化この付近での比較的珍しいシギ・チドリ類の観察例としては,セイタカシギ,ミヤコドリ,キリアイ,オオハシシギ,ホウロクシギ,ヒバリシギが上げられる.1998 年現在,記録がある種は本県の場合46 種のシギ・チドリ類の仲間でこの三方五湖周辺で38 種が確認され,実に82%近くに相当する.しかし,環境の悪化でさらに減少することは必至と思われる.水田の乾田化が進んでいるため,この場所はさらにシギ・チドリ類など水辺の鳥類にとっては悲観的なものになると思われる.この傾向は,シギ・チドリ類のみならず三方五湖の自然特性をさらに格下げすることにもなる.
シギチドリ経年変化図
保護の現状
 と留意点
 現在,本地域では,「鳥獣保護法」により狩猟またはその一部が,「自然公園法」により開発行為などが規制されている.鳥類にとって重要な生息環境であるヨシ群落が減少し,また,湿田が消失している.湖の水質浄化対策としてのヨシの植栽や富栄養化物質を土中に吸収するための湿地帯の造成などの対応が求められる.また,全国においても,本五湖はオオワシ,オジロワシの重要な飛来地であることから,冬期の生存率を高めるため,餌となる在来種の魚類の放流や汚濁防止などの積極的な対策も必要であろう.さらに,本五湖ではレジャーボートがカモ類の群れに突っ込むような状況も見られるため,特に保護区となっている菅湖では乗り入れの規制が望まれる.

(C) 福井県自然保護課
出典「福井県のすぐれた自然(動物編、植物編、地形地質編)」(1999年 福井県自然環境保全調査研究会監修 福井県発行)