福井県みどりのデータバンク すぐれた自然データベース
昆 虫 類
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名   称 北潟湖のトンボとコウチュウ類
学   名
分 類 1 昆虫類
分 類 2
位   置
(2kmメッシュ番号)
あわら市(旧芦原町),あわら市(旧金津町):北潟湖、福良ヶ池、赤尾、浜坂、蓮ヶ浦(500,539,540,541,578,499,501)
選定理由 生物学的な多様性(種数)を保持している自然
区   分 A(全国レベルで重要、または県レベルで特に重要なもの)
解   説  北潟湖は,福井県の北端部,芦原町から金津町にまたがる,面積2.73 ,周囲14 qの汽水湖である.加越台地の浸食によりできた北東〜南西方向の主谷が浸水して形成された.東から観音川が流れ込む.周囲には民家が多く存在するが,加越台地にはアカマツや,照葉樹・落葉広葉樹の自然林が広がっている.湖岸には,ヨシやガマ,湖面にはヒシの群落が存在する.北潟湖およびその周囲(福良池など)からは,トンボ類はみどりのデータバンク調査では12 種,今回の調査では39 種,コウチュウ類は,前回6 種,今回171 種が記録されている.コウチュウ類では,ヤマトヒメテントウ,ジュンサイハムシなど湿地に特有な種や,ホタル類,ガムシ類,ゲンゴロウ類,ミズスマシ類など水生の種も多く記録されている.このように,人間の生活圏でありながら,湿地・湖としての多様な生態系が残されており,全国的にそのような生態系が減少している現在,北潟湖は非常に貴重な環境といえよう.北潟湖に生息する貴重な種としては,トンボ類では,オグマサナエ,トラフトンボ,アオモンイトトンボ,アオヤンマ,マイコアカネ,マルタンヤンマ,ムスジイトトンボ,エゾイトトンボなど,コウチュウ類では,ババヒメテントウ,ヤマトヒメテントウ,ジュウクホシテントウなど湿地に特有な種や,ゲンジボタル,ゲンゴロウ類などの水生の種が挙げられる.これら貴重な種は,いずれも,人間活動の拡大により急激に減少してきており,北潟湖のような,多様性に富む身近な生態系を保全する必要性は極めて高い.
保護の現状
 と留意点
 北潟湖の周囲には,およそ4,600 人が生活している.家庭から流される生活排水や田畑に使用される化学肥料,農薬などが流れ込むことにより,水質の悪化・富栄養化が深刻である.COD ,窒素量,リン量などは,特に大きく環境基準をオーバーしている状況である.湖底には,大聖寺川との合流点付近や観音川河口付近を除き,硫化水素の臭いがするヘドロが厚く堆積している.加越台地における土砂の採集により土砂の流入・堆積が続いており,水深がどんどん浅くなっているところもある.湖岸は,広い範囲で,コンクリートによる護岸がなされている.多様な生態系が残されているとはいえ,水生昆虫にとっては,その生育が危ぶまれる状況に進んでいるといえよう.北潟湖周辺の人々は,大昔からこの湖と生活を共にしてきた.より豊かな生活のため,湖周辺の新田開発やそれに伴う湖の土木工事が始まったのは17 世紀にさかのぼる.明治時代から埋め立てもすすみ,実現はしなかったが,大正時代には全面埋め立て,昭和26 年には干拓の計画も立てられた.それらの活動がもたらしたものは何だったのだろうか.湖の淡水化によってカキの養殖は衰退した.湖が汚れ,水深が浅くなってヒシが繁殖し,漁業にも悪影響を及ぼしている.子供達の遊び相手であったトンボやゲンゴロウも激減したであろう.身近に存在する豊かな自然環境を守ることは,私たち自身の生活や命を大切にすることにつながるといえよう.すでに,湖底の汚泥を除去し,水質の浄化を目指す長期の事業が,福井県によって進められている.北潟湖や福良池に残された,多様性に富む貴重な自然環境を保全するためには,対処療法的な事業にとどまらず,自然環境と人間生活との調和を目指した地道な事業や啓発活動が必要であろう.





(C) 福井県自然保護課
出典「福井県のすぐれた自然(動物編、植物編、地形地質編)」(1999年 福井県自然環境保全調査研究会監修 福井県発行)