福井県みどりのデータバンク すぐれた自然データベース
淡水魚類
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名   称 大野盆地の陸封型イトヨ
学   名 Gasterosteus sp.
分 類 1 淡水魚類
分 類 2 トゲウオ目トゲウオ科
位   置
(2kmメッシュ番号)
大野市:本願清水・糸魚町(259)
選定理由 分布限界種の生息地
区   分 A(全国レベルで重要、または県レベルで特に重要なもの)
解   説   イトヨはトゲウオ科魚類の1種で,降海型イトヨと陸封型イトヨがいる.前者は北半球の湿滞から寒帯にかけて分布し,日本では北緯35°以北に分布する.後者は一生を清水域(湧水中)で過ごし,大野盆地のイトヨはこれに属する.陸封型イトヨは降海型イトヨに比べ,体重が小型で,頭部がやや大きく,全体にずんぐりした体形を示す. 
 貴重性:一般に陸封型イトヨは尾板部の鱗板を欠くが,大野盆地のイトヨは降海型と同様,尾板部まで鱗板を有する(約31枚で陸海型より2〜3枚少ない).この他,陸封型の分布の南限地にあたることでも貴重である.生態的には巣を作って卵を産むなど,特異な習性を有し,1934年(昭和9年)5月1日,国の天然記念物になり,本願清水がその生息地として指定された.このように大野盆地の陸封型イトヨは,形態・分布・生態の面で特異性を有し,環境庁のレッドデータブック(1971)でも,保護に留意すべき地域個体群に指定されている.
 分布:陸封型は,北海道の大沼,阿寒湖,本州の青森県,福島県会津田島,栃木県那須,福井県大野に分布し,大野の湧水池のイトヨは1960年代までは市街地を中心に,盆地内に点在するかなりの湧水池に生息した.しかし地下水位の低下がおこり,1971年には盆地の南部から湧水がが枯渇するよ うになり,1983年にはイトヨが本願清水や新堀川のごく限られた場所にのみ生息するようになった.現在では本願清水とその近辺の1〜2ヶ所にすむだけである.
 生態:ふつう1年で体長50o位に成長して成熟し,産卵期の雄は眼と背側が青色,のどから腹にかけて鮮紅色になり,鮮やかな婚姻色を示す.産卵期は4〜10月(最盛期は5〜6月)で,雄が砂泥地に巣を作ってなわばりをもち,雌の産卵後雄は巣とふ化した仔魚を保護する.幼魚期にはケンミジンコやツツガタケンミジンコの微小な動物プランクトンを食べるが,成長するとカゲロウ幼虫やヨコエビ,イソコツブムシなどを餌にする.
保護の現状
 と留意点
 国の天然記念物指定地の本願清水は,とくに秋と冬の湧水枯渇が甚だしい.その際は揚水ポンプによる汲み上げ水と近くの工場からの送水(揚水)を加えて,池に給水している.本願清水は面積が約13アールあるが,揚水量を制限しているため,本願清水の一部を仕切ってイトヨを生息させている.湧水量が不足すると池全体が止水域の状態となり,バイカモやミクリ,セキショウモなどの水生植物が育たず,アオミドロが池の水面を覆うようになる.餌となるヨコエビ,イツコツブムシなどの甲殻類や,カゲロウ,ユスリカなどの水生昆虫類(幼虫)などが不足する.また湧水がないと水温が夏季20℃以上となり,適温を越え死滅する. 絶滅の危機をさけるには,湧水量の確保が第一に必要で,次に餌生物がいて,イトヨが繁殖できる環境づくりが必要である.また安全弁として,本願清水の他にもう一つの生息地を確保しておくことも大切である.早急に抜本的対策を講ずる必要がある.

(C) 福井県自然保護課
出典「福井県のすぐれた自然(動物編、植物編、地形地質編)」(1999年 福井県自然環境保全調査研究会監修 福井県発行)