第4節 有害化学物質対策1 排出抑制対策(1) 未規制有害化学物質対策の推進近年の科学技術の著しい進展に伴い、人類がこれまで作りだした化学物質の種類は、非意図的に生成されているものを含めると、 1,000万種以上にのぼるといわれており、さらに年々新しい化学物質が数多く開発されている。これらの化学物質は、多種多様な用途を持ち、人間活動のあらゆる場面において利用されている。その反面、生産、流通、使用、廃棄等の過程において、環境中に排出され、環境中での残留、食物連鎖による生物学的濃縮等を 通じて、人の健康や生態系に有害な影響を及ぼすものもある。化学物質については、物質ごとに、人への急性毒性、発ガン性等の毒性および難分解性や蓄積性等の環境中での挙動の科学的知見の充実による閾値を定め、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」による製造・使用 の規制や「大気汚染防止法」、「水質汚濁防止法」、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」および「福井県公害防止条例」により、排出を規制してきた。しかし、近年、生態系に対する影響や人を含む動物の内分泌機能に影響を与えるおそれのある内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)といった新たな視点や、膨大な化学物質の科学的知見の集積に対する時間、費用等の困難さが 問題となっており、従来の法律による規制対策の限界が指摘されている。こうしたことから、新たな化学物質対策の手法として、PRTR(Pollutant Release and Transfer Register:環境汚染物質排出・移動登録)が提案されており、諸外国においては既に制度としての定着がみられている。PRTRシステムとは、事業者が、対象となる化学物質ごとに工場・事業場から環境への排出量や廃棄物としての移動量を自ら把握して、その結果を行政に報告し、行政がそれを何らかの形で公表するシステムであり、この 得られたデータから化学物質対策の優先度の決定や自主的取組みの促進に寄与するなどの効果が期待される。
国においては、このPRTRについて、平成9年度から神奈川県および愛知県でパイロット事業として試験的な運用を 始めているほか、法制化に向けての取組みを進めているところであり、県では、こうしたPRTRについての情報収集を行うとともに、化学物質対策の検討を進めていく。(2) 農薬の抑制対策ア ゴルフ場ゴルフ場では、芝生の維持管理のため、殺虫剤・殺菌剤・除草剤等の農薬が使用されており、これらの農薬によるゴルフ場周辺河川等への影響について、社会的関心が高まっている。このため、県では、平成2年に制定した「ゴルフ場における農薬等の安全使用に関する指導要綱」において、事業者に対し、農薬等使用計画の提出や環境監視および水質測定を義務付けるとともに、魚毒性C類に該当する 農薬の使用を禁止するなど、低毒性農薬を必要最小限で使用するよう指導している。平成9年度の県内ゴルフ場等における単位面積当たりの農薬使用量は、製剤量でみると12.1kg/ha(殺菌剤 4.7、殺虫剤 2.9、除草剤 4.5)であり、平成8年度と比べ19%増加している。この要因として、夏の天候が低温・ 日照不足であったことから、例年以上に葉腐病、雑草等が多発生したことが考えられる。なお、調査を開始した平成元年度に比べると59%に減少している。(図3−1−20)また、国においては、「ゴルフ場で使用される農薬による水質汚濁の防止に係る暫定的指導指針」により、現在35種の農薬について、ゴルフ場を指導する際の目安となる指針値を設定している。図3−1−20 県内ゴルフ場等の農薬使用量の推移 [→図]イ 一般農耕地農薬使用に伴う農作物の安全性を確保する観点から、農薬取締法に基づいて登録されている農薬について、適正に使用した場合の農作物中および土壌中の農薬残留性を調査する「農薬残留安全追跡調査」、「農薬土壌残留調査」 を行っている。その結果では、いずれも登録保留基準を超えるものはなかった。また、農薬取締法に基づき、作物残留性農薬、土壌残留性農薬および水質汚濁性農薬の使用が厳しく規制されており、本県では、DDT、BHC、パラチオン、ドリン剤、EPN、砒素、水銀製剤などの使用を禁止しているほか、 魚毒性の高いモリネート系除草剤およびピレスロイド剤について、三方五湖および北潟湖周辺地域での使用を禁止している。一方、農薬取扱業者の資質向上を図るため、農薬安全使用講習会を開催するとともに、農薬管理指導士制度に基づき、管理指導士を認定している。さらに、安定的な農作物の生産と農薬使用者の危害防止および周辺環境の保全を図るため、「農作物病害虫防除基準」を作成し、農薬の効果的で安全な使用についての指導を行っている。このほか、航空防除については、「福井県農林水産航空防除実施指導要領」に基づき、学童の通学時間や自動車の通行等を配慮するなど、実施主体に対し、危被害防止対策を徹底するよう指導している。2 調査・研究の充実(1) ゴルフ場等における排水調査平成9年度に、県内ゴルフ場11か所、県に隣接するゴルフ場1か所およびゴルフ場と同等の芝生を利用した施設1か所の計13か所の排水を年2回調査した。その結果、調査した 1,050検体中21検体で農薬が検出され、そのうち1か所で殺虫剤の成分であるフェニトロチオンが「ゴルフ場における農薬等の安全使用に関する指導要綱」の排出水の指針値を超えていた。指針値を超えた ゴルフ場に対しては、農薬の適正使用などを指導した結果、排出水の水質は改善されている。(表3−1−21)表3−1−21 ゴルフ場等における排水調査結果 (単位:mg/l)
調査項目
検出
農薬検体数
検出数
指針値
超過数濃度範囲
最小〜最大指針値
殺
虫
剤
アセフェート 30 0 0 <0.001 0.8 イソキサチオン 30 0 0 <0.001 0.08 イソフェンホス 30 0 0 <0.001 0.01 クロルピリホス 30 0 0 <0.001 0.04 ダイアジノン 30 0 0 <0.001 0.05 トリクロルホン(DEP) 30 0 0 <0.005 0.3 ピリダフェンチオン 30 0 0 <0.001 0.02 フェニトロチオン(MEP) ○ 30 2 1 <0.001〜0.10 0.03 計 8 種類 1 240 2 1 − −
殺
菌
剤
イソプロチオラン ○ 30 1 0 <0.001〜0.002 0.4 イプロジオン 30 0 0 <0.001 3 エクロメゾール
(エトリジアゾール)
30
0
0
<0.001
0.04
オキシン銅(有機銅) 30 0 0 <0.005 0.4 キャプタン 30 0 0 <0.001 3 クロロタロニル(TPN) 30 0 0 <0.001 0.4 クロロネブ 30 0 0 <0.001 0.5 チウラム(チラム) 30 0 0 <0.001 0.06 トルクロホスメチル 30 0 0 <0.001 0.8 フルトラニル ○ 30 10 0 <0.001〜0.003 2 ペンシクロン ○ 30 1 0 <0.001〜0.001 0.4 メタラキシル 30 0 0 <0.001 0.5 メプロニル 30 0 0 <0.001 1 計 13 種類 3 390 12 0 − −
除
草
剤
アシュラム ○ 30 3 0 <0.001〜0.018 2 ジチオピル 30 0 0 <0.001 0.08 シマジン(CAT) 30 0 0 <0.001 0.03 テルブカルブ(MBPMC) 30 0 0 <0.001 0.2 トリクロピル 30 0 0 <0.001 0.06 ナプロパミド ○ 30 3 0 <0.001〜0.006 0.3 ピリブチカルブ 30 0 0 <0.001 0.2 ブタミホス 30 0 0 <0.001 0.04 プロピザミド 30 0 0 <0.001 0.08 ベンスリド(SAP) ○ 30 1 0 <0.005〜0.007 1 ベンフルラリン
(ベスロジン)
30
0
0
<0.001
0.8
ペンディメタリン 30 0 0 <0.001 0.5 メコプロップ(MCPP) 30 0 0 <0.005 0.05 メチルダイムロン 30 0 0 <0.001 0.3 計 14 種類 3 420 7 0 − − 合計 35 種類 7 1050 21 1 − −
(2) 航空防除農薬の気中濃度調査環境庁は、平成9年12月に、航空防除農薬について、人の健康を保護する観点から、気中濃度の評価を行う際の目安となる「気中濃度評価値」を設定している。平成10年度は、水田での航空防除が嶺南地域(敦賀市を除く。)および武生市、坂井町の9市町村で延べ 8,887ha実施されており、県では、そのうち武生市および小浜市で散布区域周辺の気中濃度を測定している。その結果、いずれも散布後の平均気中濃度は気中濃度評価値を下回っていた。表3−1−22 航空防除に伴う気中濃度測定結果(武生市)対象農薬:フェニトロチオン 気中濃度評価値:10μg/ l
区 分
調査時刻
分析値(μg/ l) 散布区域内 散布区域外 散布前日 13:00〜14:00 ND ND 散布当日
散布中
散布後(13:00〜14:00)0.86
2.660.16
0.63散布1日後
日出前( 4:00〜 5:00)
13:00〜14:001.83
0.660.74
0.08散布3日後 13:00〜14:00 0.20 0.06
ND:検出限界(0.05μg/ l)未満を示す。表3−1−23 航空防除に伴う気中濃度測定結果(小浜市)対象農薬:フサライド 気中濃度評価値:200μg/ l
区 分
調査時刻
分析値(μg/ l) 散布区域内 散布区域外 散布前日 13:00〜14:00 ND ND 散布当日
散布中
散布後(13:00〜14:00)ND
0.11ND
ND散布1日後
日出前( 4:00〜 5:00)
13:00〜14:00ND
NDND
ND散布3日後 13:00〜14:00 0.07 0.10
ND:検出限界(0.05μg/ l)未満を示す。(3) 化学物質環境調査環境庁では、昭和53年度に、既存の化学物質を体系的に整理し優先調査対象物質を選定したプライオリティリストを作成し、翌54年度から、一般環境中の残留状況等を把握するための調査(化学物質環境安全性総点検調査) を各自治体に委託している。特に、平成元年度からは、非意図的生成化学物質を追加した第二次化学物質環境安全性総点検調査を実施しており、本県も調査を担当している。本県における平成9年度の調査概要は次のとおりである。調査地点:敦賀市内河川(笙の川)調査媒体:水質、底質、魚類(ウグイ)調査物質:塩化ビニル、p-tert-ブチルフェノール、ノニルフェノール、6-tert-ブチル-2,4-キシレノール、4,4'-ジブロモビフェニル、テトラフェニルスズ、ダイオキシン類調査結果:(単位:水質ng/m 、底質μg/g-dry、生物μg/g-wet)
物 質 名 媒 体 濃 度 検出下限値
塩化ビニル
水 質 ND 0.011 底 質
魚 類ND
−0.0035
−
p-tert-ブチルフェノール
水 質 ND 0.08 底 質 ND 0.04 魚 類 − −
ノニルフェノール
水 質
底 質ND
ND1.1
0.15魚 類 − − 6-tert-ブチル-
2,4-キシレノール
水 質 ND 0.5 底 質 − − 魚 類 − −
4,4'-ジブロモビフェニル
水 質 ND 0.031 底 質 ND 0.003 魚 類 ND 0.01
テトラフェニルスズ
水 質 ND 0.05 底 質 ND 0.0058 魚 類 − 0.00088
(注) NDとは検出下限値未満をいう。(単位:pg−TEQ/g)
媒 体 全 国 値 福 井 県 ダイオキシン類
底 質 0.002 〜 50.68 1.053 魚 類 0 〜 2.7956 0.13
(注) 2,3,7,8-TCDD毒性等価換算濃度(NDは0として計算)また、底質におけるダイオキシン類の経年変化は図3−1−24のとおりである。図3−1−24 ダイオキシン類の濃度変化(底質) [→図](注1) 全国中央値は、河川における調査点におけるものである。(注2) 平成8年度からは、平成7年度までに比べ、検出感度が高い方法で分析している。なお、平成10年度は、次の物質について調査中である。調査地点:敦賀市内河川(笙の川)調査媒体:水質、底質、魚類(ウグイ)調査物質:ジブチルスズ化合物、フェニルスズ化合物、ジフェニルスズ化合物、アニリン、4-エトキシアニリン、クロロアニリン、ジクロロアニリン、トルイジン(4) ダイオキシン環境庁では、ダイオキシン対策の推進のため、発生源対策や調査・研究等の計画について「ダイオキシン対策に関する5か年計画」を取りまとめ、その一環として、初年度に当たる平成10年度に、大気、降下ばいじん、土壌、 地下水、公共用水域水質、底質、水生生物等のダイオキシン類濃度について、全国規模で総合的な調査を行っており、本県でも、大都市地域、中小都市地域、発生源周辺地域の3地域に分けて調査が実施されている。また、県においては、平成10年度に、一般環境の状況を把握するため、三国町、大野市、今庄町の3地点で夏期と冬期の年2回、大気中のダイオキシン類濃度の測定を実施している。その結果、いずれの地点も、年平均値は 国が定めた大気環境濃度指針値(年平均値 0.8pg-TEQ/m3)を下回っていた。(表3−1−25)表3−1−25 ダイオキシン類大気環境調査結果(県調査分)(単位:pg-TEQ/m3)
区分
調査地点
指針値
(年平均値)測定結果 年平均値 夏期 冬期 工業地帯 三国町山岸
0.8
0.43 0.36 0.50 都市地域 大野市天神町 0.29 0.36 0.22 農村地域 今庄町大門 0.64 0.17 1.1
(注)調査時期:夏期(平成10年8月27日〜28日の24時間)冬期(平成10年12月2日〜3日の24時間)調査機関:試料採取 県環境科学センター分 析 民間分析機関に委託(5) 環境ホルモン近年、内分泌学をはじめとする医学、生物学、環境科学等の研究者・専門家によって、環境中に存在するいくつかの化学物質について、動物の体内のホルモン作用を攪乱することを通じて、生殖機能を阻害したり、悪性腫瘍を 引き起こすなどの悪影響を及ぼしている可能性が指摘されている。しかし、「外因性内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)」に関して、異常と原因物質の因果関係、異常が発生するメカニズム等について、いまだ十分には解明されていない。こうしたことから、環境庁は、平成10年5月に「環境ホルモン戦略計画SPEED'98」を定め、環境汚染の状況等の実態調査、試験研究の推進、情報提供の推進等を図ることとしている。その一環として、環境ホルモン緊急全国一斉調査が実施されることとなり、県も、本調査に参加している。(6) 情報の収集等有害化学物質については、発ガン性、変異原性、吸入・経口時の慢性毒性、生殖毒性、生態毒性等の観点から、各種の機関においてランク付けされており、今後ともこうした情報を集積していく。
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