第3節 土壌・地盤環境の保全
 
1 安全な土壌の確保と地下水の保全
(1) 土壌環境の保全
 土壌については、大気や水質と同じように、環境基準が定められている。この基準は、一般土壌に対して、土壌の汚染状態の有無を判断する基準となるとともに、汚染土壌に係る改善対策を講ずる際の目標となる。 (資料編表4−1
 これまでの調査事例からみると、土壌汚染は、地下水の水質調査結果から判明することが多いが、汚染が発見された場合には、汚染原因者に対し、汚染土壌の撤去や浄化等を指導している。
 一方、「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」により、農作物の摂取による健康被害を防止する観点からカドミウムについて、農作物の生育阻害を防止する観点から銅および砒素について、農用地のみに適用 される基準が定められている。また、基準を超える汚染が発見された場合には、「重金属汚染地域」に指定するとともに、当該地域で生産される農産物を食用に供することを禁止しているが、本県には指定地域はない。
 
(2) 地下水質の保全
 ア 環境基準
 平成9年3月に、それまで地下水汚染を評価するための目安として定められていた評価基準に代わり、環境基準が設定され、地下水質保全に関する行政上の目標が明確にされた。
 (ア) 環境基準項目
 地下水質の環境基準は、人の健康を保護する観点から、公共用水域における「環境基準健康項目」と同様の23項目について、同じ数値の基準値が設定されている。(資料編表3−1
 (イ) 要監視項目
 25項目が指定されており、うち24項目について指針値が設定されている。
 この要監視項目についても、計画的に地下水質の測定を行い、知見の集積に努めている。(資料編表3−4
 
 イ 監視体制
 県では、地下水質の監視を計画的に行うため、毎年、「地下水の水質の測定に関する計画」を作成し、これに基づく常時監視を実施している。(資料編表4−2) 地下水質の概況調査に より、地下水汚染が発見された場合には、汚染井戸周辺地区調査を実施し、汚染の範囲を特定する。
 また、汚染地区を継続的に監視するため、定期モニタリング調査を実施している。 地下水常時監視調査の概要と調査手順は図3−1−18のとおりである。
 
 図3−1−18 地下水常時監視調査の概要と調査手順


 
地下水質

概況調査
・全体的な地下水質の概況を把握
・地下水の利用状況、工場等の立地状況などを考慮して井戸を選定
・環境基準項目と要監視項目を年2回(春、秋)調査
   │汚染が発見
   │されたとき
   ↓


 
汚染井戸

周辺地区調査
・地下水汚染の範囲を特定
・汚染井戸の周辺で、井戸を選定
・汚染が確認された項目とその分解生成物について調査
   │地区内の数
   │地点を選定
   ↓


 
定期モニタ

リング調査
・汚染地区を継続的に監視し、経年的な変化を把握
・汚染地区内で、地下水の流れなどを考慮して井戸を選定
・汚染が確認された項目とその分解生成物を年2回(春、秋)調査
 
 ウ 住民への説明
 環境基準を超える地下水汚染が発見された場合には、当該市町村や保健所と共同で、地区住民に対し地下水汚染の調査結果を説明するとともに、チラシを配布して、飲用の自粛や水道水への切り替えを呼びかけている。
 
(3) 工場・事業場に対する規制等
 有機塩素化合物等の有害化学物質による土壌や地下水汚染を未然に防止するため、水質汚濁防止法や県公害防止条例に基づき、地下浸透規制の徹底を図っている。
 また、工場・事業場における有害化学物質の使用実態の把握に努め、事業者に対しては、適正な使用、管理および処理や代替品への切り替えなどを指導している。
 
(4) 浄化対策の推進
 環境基準を超える土壌や地下水の汚染が判明した地区について、汚染の分布状況調査等の科学的な調査や聞き取り調査等により、汚染源を特定するとともに、汚染原因者に対して汚染した土壌や地下水の浄化を指導 するなど、汚染者負担の原則を基本とした浄化対策を推進している。
 また、平成8年5月、水質汚濁防止法に地下水質の浄化に係る措置命令制度が導入され、汚染原因者による浄化促進がより一層図られることとなった。
 なお、浄化方法には、汚染地下水の揚水や土壌ガスの吸引、汚染土壌の除去などがあり、汚染サイトの実態に応じ、選択して実施されることになる。
 
(5) 浄化技術に関する科学的知見の充実
 土壌や地下水の汚染対策を推進するため、国では、簡易で経済的な浄化対策技術を確立する図るための種々の調査を実施している。
 県においても、地下水の汚染機構や土壌・地下水の浄化技術等に関する科学的知見の集積・充実に努めている。
 
(6) 施肥技術の研究等
 水田や畑、樹園地等からの肥料の流出実態を明らかにするための、農業排水のモニタリング調査や畑地における施肥窒素の動態を調査し、環境負荷を軽減した新しい施肥基準の作成を手がけている。
 また、水生植物等有用作物を利用した水質浄化と堆肥化による土壌保全等に関する研究を行っている。
 さらに、発酵鶏糞や籾がら堆肥等の地域内で入手可能な有機資材を用いて、施設野菜の減化学肥料栽培方法を確立している。
 病害虫防除では、より効果的な防除法、減農薬や無農薬栽培など環境にやさしい防除技術を確立するため、ラッキョウに寄生する非病原性フザリウム菌による病原性フザリウム菌を抑えて病害の発生を防止する方法、 害虫の農薬に対する抵抗性の有無、土着の天敵を利用した害虫の防除方法や天敵の増殖技術などの調査研究に取り組んでいる。
 
2 地盤環境の確保
(1) 地下水位・地盤沈下の監視
 本県においては、昭和40年代後半に地盤沈下や塩水化が発生したことから、国、市町村と連携し、昭和54年までに29か所(地盤沈下1か所を含む)の地下水観測所を設け、地下水位と地盤沈下の監視を実施してきた。
 その後、地下水利用の抑制指導、工業用水の合理化、地下水から河川水への水源転換などが行われ、昭和60年以降地盤沈下等は沈静化してきたため、5年間の観測により水位の低下が認められない観測所の廃止や市町村 への移管などを行ってきた。平成9年度末現在、国12井、県17井、市5井の合計34井25か所で地下水の観測を継続している。
 多くの観測所では、季節、あるいは経年での水位変動が確認されており、中には最低水位が一時的に昭和60年頃の水位まで低下する観測所もみられることから、今後とも観測を継続し、地盤環境を把握するための基礎的 情報としていく。
 また、地盤の変動を把握するため、昭和50年から福井平野の水準測量を実施しており、特に、地盤沈下対策要綱で対象地域となっている福井市南部地域においては、地盤沈下観測所を2か所(福井市木田・下荒井)設置 し、地下水位の変動状況および地盤沈下量を観測している。(資料編表4−8−2
 
(2) 地下水利用の抑制
 ア 条例による規制
 県公害防止条例では、揚水機の吐出口の断面積(当該吐出口が2以上ある場合にあっては、その断面積の合計)が19.6cm2以上の揚水施設を特定揚水施設と規定し、設置の届出を義務付けている。( 資料編表4−6
 なお、地下水の採取により、地下水の水位が著しく低下している、または、低下するおそれがあると認められる場合、条例に基づき、届出をした者に対して、必要な措置をとるよう勧告することとしている。
 イ 要綱による指導
 「福井県地盤沈下対策要綱」(昭和50年度制定)により、福井市南部地域(約14km2)を対象地域に指定している。
 対象地域内では、新規井戸の掘削を抑制するとともに、地下水採取者に対して、節水および水利用の合理化を指導している。
 また、各事業所に水量測定器の設置を義務付けるとともに、 1,000m3/日以上の地下水を採取する事業所に対しては、水管理者を選任させ、年当初に地下水利用計画書の提出を義務付けている。
 なお、対象地域内における揚水量は図3−1−19のとおり、減少傾向にある。(資料編表4−7
 
 図3−1−19 地盤沈下対象地域(福井市南部地域)の地下水採取状況  [→図]
 
(3) 消雪、融雪方策に関する技術開発
 雪対策や凍結対策の有力な方法として、消雪・融雪(以下「消融雪」という。)があり、道路においては、地下水を利用する方法が最も普及している。しかし、1時間当たり2cmの降雪量に対し、1m2当たり毎分0.2〜0.25 l の地下水を使用し、広範囲にわたる消融雪の実施は、地下水位の低下と地盤沈下を引き起こす原因となっている。
 また、消融雪のための電力や石油の消費は、二酸化炭素の排出削減の視点からも再検討が必要である。
 こうしたことから、本県の地域性を踏まえて、地下水の節減もしくは使用しない方策および環境に配慮したよりクリーンなエネルギー利用について、県では、下記の研究開発を行っているが、さらにこれらの技術的な確立と 普及を図っていく。
 
 消雪、融雪方策に関する研究開発
○ 地下水の有効利用
 地下水の温度を利用して歩道を無散水で融雪した後、その水を車道に散水して消
雪する技術。
○ 地下水使用の節減
 路面の白黒により稼働させる積雪センサーを開発し、従来の降雪の有無に比して稼
働時間を1/2以上短縮。
○ 河川水等の利用
 河川水や渓流水の利用。(平成10年度現在、県管理道路の消融雪延長 198kmのうち
 1/3で利用。)
○ 地熱・ソーラー熱の利用
 クリーンエネルギーである地熱またはソーラー熱を利用した消融雪技術の研究開発。
 a 基礎杭利用地熱融雪システム(パイプインパイル融雪)
  コンクリート基礎杭の中空内部に水を満たし、杭の壁面を通して地熱により温
 め、これを舗装体内部に埋設した放熱管の中に循環させて舗装上の融雪を行う。
 b 蓄熱材封入による路面凍結抑制技術
  パラフィンまたは芒硝のように3〜7℃の間で液体と固体に相変化する物質を、
 舗装体の中に埋設したパイプに封じ込み、液体と固体の潜熱の差による凍結時の
 放熱を利用する。
  この方法では、完全な融雪や凍結防止は困難であるが、特に、凍結頻度の高い
 鋼床版橋の凍結程度を一般道路並みのレベルにすることができる。
○ 路面凍結等による障害の低減および回避
 雪や凍結に関する路面状況を的確に把握し、より効果的な道路除雪を行うとともに、
ドライバーに対して適切な情報を伝達し、安全の確保を図るための情報システムの研
究開発。
 

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