第1章 健康で文化的な生活を営むことができる環境の実現
 
第1節 大気環境の保全
 
1 大気汚染状況の監視
(1) 常時監視
 県では、硫黄酸化物、窒素酸化物、光化学オキシダント等の大気汚染物質の効率的な監視と、緊急時における迅速かつ的確な対応を図るため、テレメータシステムによる常時監視を実施している。平成10年度の整備状況は 表3−1−1および図3−1−2のとおりである。
 また、福井市および三国町においては、市町独自のテレメータシステムを有しており、福井市の一部の局は、県のテレメータシステムと共有となっている。(資料編表2−9
 なお、現在のテレメータシステムは、昭和49年度に整備したものであり、整備後20年以上経過した現在、工場の立地状況や道路交通状況等が変化していることから、測定局の配置の見直しを行うための作業を進めている。
 
 表3−1−1 大気汚染監視観測局整備状況(平成10年度)










 
 局      種
 
 局  数
 
  テレメータシステム測定局
県システム   市町システム
県一般観測局   18  18   4
市町一般観測局   19  10  11(市町独自局7局)
県自動車排出ガス観測局    3   3   1
市自動車排出ガス観測局    1     1(市独自局)
移動観測局(みどり号)    1   1  
特殊気象観測局    1   1  
発生源観測局    3   3  
     計
 
  46局
 
 36局
 
 17局
(市町独自局8局)










 
 
 図3−1−2 大気汚染監視局回線構成図  [→図]
 
 
(2) 移動観測局による監視
 観測局が設置されていない地域や、道路沿道の大気汚染状況を把握するため、移動観測局(名称:みどり号)による測定を行っている。
 平成9年度に測定した福井市、武生市、小浜市、大野市、勝山市および南条町での結果では、二酸化硫黄、二酸化窒素および一酸化炭素については全測定地点で環境基準を超える濃度はみられなかったが、浮遊粒子状物質に ついては2地点で環境基準を超える日がみられた。
 光化学オキシダントについては、5地点で環境基準を超えた日が出現しているが、注意報等の発令基準を超える濃度は観測されなかった。また、2地点において非メタン炭化水素の指針値を超過した。(資料編表2−16−1〜6
 
(3) 簡易測定法による測定
 テレメータシステムによる大気汚染の常時監視を補完するため、観測局が設置されていない地域を中心に、硫黄酸化物(二酸化鉛法)、窒素酸化物(TGSろ紙法)および降下ばいじんについて、簡易測定法による 測定を行っている。
 なお、平成9年度は、主に嶺北地方において、硫黄酸化物 126地点、窒素酸化物 120地点および降下ばいじん26地点において測定を実施している。
 また、平成10年度は、主に嶺南地方において、硫黄酸化物 117地点、窒素酸化物 114地点および降下ばいじん26地点において測定を実施している。
                          (資料編表2−17〜19
 
2 固定発生源対策
(1) 大気汚染防止法に基づく規制
 工場・事業場や建築物の解体等から発生するばい煙、粉じんについては、大気汚染防止法により規制されている。
 ア 硫黄酸化物
 硫黄酸化物については、ばい煙の排出口の高さや地域に応じた排出量としての基準(K値規制)が定められている。
 本県の地域の区分ごとのK値は表3−1−3のとおりである。
 
 表3−1−3 地域別K値

 
地域の区分 福井市、坂井郡 敦賀市 武生市、鯖江市 その他の区域
 K値    7.0 8.0  10.0   17.5

 
 
 イ 窒素酸化物
 窒素酸化物については、昭和48年以降、排出濃度としての基準が段階的に強化されるとともに、規制対象施設としてディーゼル機関やガソリン機関等が追加されてきた。
 ウ ばいじん
 ばいじんについては、昭和43年以降、排出濃度としての基準が段階的に強化されるとともに、規制対象となる施設が追加されてきた。
 また、ダイオキシン類をはじめとする廃棄物焼却炉からの大気汚染問題に対応するため、平成10年4月には、廃棄物焼却炉に係るばいじんの規制が強化された。
 エ 有害物質
 窒素酸化物を除く有害物質(カドミウムおよびその化合物、塩素、塩化水素、ふっ素・ふっ化水素およびふっ化珪素、鉛およびその化合物)については、廃棄物焼却炉や溶解炉などのばい煙発生施設ごとに排出濃度としての 基準が定められている。
 オ 粉じん
 大気汚染防止法では、粉じんのうち、石綿(アスベスト)を特定粉じん、これ以外のものを一般粉じんと規定している。
 特定粉じん発生施設については、敷地境界における規制基準が設定されており、一般粉じん発生施設については、粉じん飛散防止のための施設の構造および使用、管理に関する基準が設定されている。
 また、建築物の解体等の作業により、特定粉じんを発生し、または飛散させる作業を特定粉じん排出等作業とし、作業実施に係る届出、作業基準が規定されている。 なお、平成9年度に、吹き付け石綿が使用されていた 建築物の解体作業の届出が1件あり、作業の確認を行っている。
 
(2) 県公害防止条例に基づく規制
 ア 特定工場
 通常の燃料使用量が 600kg/時間以上(重油換算)の工場・事業場を特定工場と定め、硫黄酸化物の総量規制を実施するとともに、低硫黄分の燃料を使用するよう指導している。
 なお、特定工場以外の中小規模の工場・事業場に対しては、低硫黄分の燃料を使用するよう指導し、硫黄酸化物の排出の抑制を図っている。(表3−1−4)
 
 表3−1−4 燃料中の硫黄分についての指導基準
  福井市街地 福井坂井地域、武生鯖江地域、敦賀地域 その他地域
特定工場 1.3%以下       1.3%以下 1.5%以下
特定工場以外 1.3%以下       1.5%以下   −


 
 
 イ ばい煙に係る特定施設
 金属の精製または鋳造の用に供する溶解炉、廃棄物焼却炉および酸による反応施設など、有害物質を使用または排出する施設をばい煙に係る特定施設とし、これらの施設を設置するものに対して届出義務を定めるとともに、 溶解炉にあってはばいじんの量、廃棄物焼却炉にあってはカドミウム等有害物質4物質、有害物質使用施設にあってはカドミウム等有害物質5物質の規制基準を遵守する義務を定め、大気汚染のより一層の軽減を図ることとしている。 (資料編表2−7
 ウ 炭化水素類に係る特定施設
 揮発性の高い石油類の貯蔵施設(タンク)、出荷施設(タンクロ−リ−積込施設)および給油施設(ガソリンスタンドの地下タンク)を炭化水素類に係る特定施設とし、これらの施設を設置するものに対する届出義務を定めると ともに、これらの施設の構造・使用・管理基準を遵守する義務を定め、光化学スモッグの発生抑制および地球温暖化の防止を図ることとしている。(資料編表2−8
 
(3)立入検査等による監視・指導
 規制対象となるばい煙発生施設を設置している工場・事業場のうち、比較的規模の大きいところや苦情の発生しているところを重点に立入検査し、施設の維持管理状況等の確認、使用燃料中の硫黄分の分析、煙道排ガス中のばい煙 測定などの監視・指導を行っている。
 平成9年度は、 132工場・事業場について立入検査を行い、施設の維持・管理などについて指導を行った。
 また、工場・事業場で使用されている燃料中の硫黄分の検査を 117検体、ばい煙発生施設の煙道排ガス中のばい煙の検査を22検体実施した。
 その結果、硫黄酸化物の量が排出基準を超える事業者はなかったが、県の燃料中の硫黄分についての指導基準を上回る事業者が1件、ばい煙については排出基準を超える施設が1件あり、これらの施設の設置者に対し、改善指導を 行った。
                        (資料編表2−24−1、2
 
3 移動発生源対策
(1) 自動車排出ガス規制
 窒素酸化物、一酸化炭素、炭化水素の発生源としては、ボイラー等の固定発生源のほか、自動車、船舶、航空機等がある。特に、自動車は窒素酸化物の発生源として大きな割合を占めているため、排出ガスの規制が行われており、 昭和47年以降、段階的に強化されるとともに、規制対象となる車種の追加が図られている。規制の主なものは表3−1−5のとおりである。
 なお、大都市地域(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、大阪府、兵庫県の特定の地域)については、窒素酸化物による大気汚染が深刻な状況にあることから、これを改善するため「自動車から排出される窒素酸化物の特定地域に おける総量の削減等に関する特別措置法(自動車NOx法)」が平成4年から適用されている。
 
 表3−1−5 主な自動車排出ガスの規制
 規制年    規制対象       規制内容
昭和48年度 ガソリン車、LPG車  窒素酸化物、一酸化炭素および炭化水素を規制
 49年度 ディーゼル車    〃
63、平成元、2年

 
大型ディーゼル、トラ
ックおよびライトバン
等軽量トラック

 窒素酸化物を規制
 
4、5、6、9年


 
トラック、バス
ディーゼル車

 
 窒素酸化物の規制強化
 黒煙の規制強化および粒子状物質の規制
 近年の走行実態にあわせた測定
 モード変更等
 6、7、9年 ガソリン車、LPG車  窒素酸化物の規制強化
   9年 二輪車  窒素酸化物、一酸化炭素および炭化水素を規制











 
 
(2) アイドリングストップ等の推進
 近年の自動車交通量の増加や自動車の大型化は、窒素酸化物による大気汚染に加え、騒音、二酸化炭素の排出による地球温暖化についても大きな要因となっている。 そこで、県公害防止条例において、大気汚染および騒音を 防止するため、不要不急の自動車の使用や空ふかしなどを控えるとした、日常生活および事業活動における自動車の合理的な使用についての配慮を規定している。
 また、平成10年度からは事業所、県民の理解と協力を得ながら、アイドリングストップ運動の推進に努めている。
 
(3) スパイクタイヤ粉じん対策
 スパイクタイヤにより削られた道路粉じんの発生を防止するため、平成2年から「スパイクタイヤ粉じんの発生の防止に関する法律」が施行されている。この法律では、何人も地域を問わずスパイクタイヤを使用しないよう 求めており、特に、環境庁長官が指定した地域(指定地域)においては、舗装道路の積雪や凍結の状態にない部分でのスパイクタイヤの使用が禁止されている。(緊急自動車、除雪車両、身体障害者手帳を携帯している者が運転して いる自動車を除く。)
 本県では、表3−1−6に示す17市町村が指定地域となっている。
 
 表3−1−6 スパイクタイヤ粉じんの発生の防止に関する法律に基づく指定地域
福井市、敦賀市、武生市、鯖江市、美山町、松岡町、永平寺町、上志比村、金津町、
丸岡町、春江町、坂井町、今立町、南条町、河野村、宮崎村、清水町 の区域

 
 
4 健康被害防止対策
(1) 緊急時対策
 大気汚染防止法では、硫黄酸化物、二酸化窒素、浮遊粒子状物質、一酸化炭素および光化学オキシダントによって、大気の汚染が著しくなり、人の健康または生活環境に係る被害が生ずるおそれがあるような緊急の事態が 発生した場合に、知事がとるべき措置を定めている。
 これを受けて、県では、「福井県光化学スモッグ緊急時対策実施要綱」および「福井県大気汚染(硫黄酸化物)緊急時対策実施要綱」を定め、人の健康または生活環境に被害が生ずるおそれが発生した場合には、注意報等を 発令し、住民に注意を呼びかける一方、工場・事業場に対しばい煙等の削減を要請することとしている。                             (図3−1−7)
 特に、光化学スモッグについては、県庁内13課、県教育庁、県警察本部、福井気象台および10市町村で構成する「光化学スモッグ対策連絡会議」を設置し、予警報等発令時の円滑な連絡、県民への周知に係る体制の整備を 図っている。
 注意報等については、昭和53年に1回、平成2年に3回、いずれも敦賀地区で注意報が発令されているが、これ以降の発令はなく、平成10年度においても注意報等の発令はなかった。
 
 図3−1−7 光化学スモッグ緊急時措置連絡系統図  [→図]
 
(2) 有害大気汚染物質対策(優先取組物質)
 大気汚染防止法では、継続的に摂取した場合には人の健康を損なうおそれがある物質を有害大気汚染物質と規定し、事業者に排出抑制の取組みを求めるとともに、行政においては、大気モニタリング調査を実施することや 事業者・住民への情報提供に努めることが規定されている。
 また、平成8年10月の中央環境審議会の答申においては、発がん性を有するなどとして、今後、優先的な取組みが望まれる物質を「優先取組物質」と定め、22種類をリストアップした。(表3−1−8)
 ア ベンゼン等3物質の指定
 有害大気汚染物質のうち、平成9年4月にベンゼン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンの3物質が「指定物質」に指定されるとともに、指定物質を排出・飛散させる施設(指定物質排出施設)および排出・飛散の 抑制に関する基準(指定物質抑制基準)が定められた。
 また、平成9年2月には、これら3物質についての環境基準が設定された。(資料編表2−4、5
 イ ダイオキシン類の指定
 平成9年8月にダイオキシン類が「指定物質」に、廃棄物焼却炉および製鋼用電気炉が「指定物質排出施設」に追加指定されるとともに、これら施設に係る「指定物質抑制基準」が定められた。( 資料編表2−6
 
 表3−1−8 優先取組物質
番号 物質名          主な用途 備考
 1 アクリロニトリル 化学工業原料(合成樹脂、接着剤など)、塗料  
 2 アセトアルデヒド 化学工業原料(有機工業薬品、染料、プラスチックなど)  
 3 塩化ビニルモノマー 塩化ビニル・酢酸ビニル原料  
 4 クロロホルム 樹脂原料、溶剤、麻酔剤   
 5 クロロメチルメチルエーテル 化学工業原料    
 6 酸化エチレン 化学工業原料(有機工業薬品、洗剤、合成樹脂など)    
 7 1,2-ジクロロエタン 化学工業原料(合成樹脂など)、溶剤、洗浄剤     
 8 ジクロロメタン 洗浄剤(金属加工)、剥離剤(塗料、プリント基盤)、溶剤     
 9 水銀化合物 温度計、電機機械(ランプ、整流機、スイッチ、ポンプ)、電池  
10 タルク 減摩剤、鋳鉄の型、電線被覆用ゴム配合剤   
11 ダイオキシン類 ごみ焼却場など燃焼過程などで非意図的に生成 指定物質
12 テトラクロロエチレン 洗浄剤(機械、電子、自動車、皮革)、ドライクリーニング剤、溶剤 指定物質
13 トリクロロエチレン 洗浄剤(機械、電子、自動車、皮革)、溶剤(ゴム、塗料)、冷媒 指定物質
14 ニッケル化合物 メッキ、触媒、顔料、電池  
15 砒素化合物 合金原料、半導体原料   
16 1,3-ブタジエン 合成ゴム原料    
17 ベリリウム 合金原料    
18 ベンゼン 化学工業原料(医薬品、農薬、樹脂など)、洗浄剤、ガソリン中含有物 指定物質
19 ベンゾ[a]ピレン 自動車排ガスなど燃焼過程で非意図的に生成     
20 ホルムアルデヒド 化学工業原料(合成樹脂、農薬など)、消毒剤(器具、家具)     
21 マンガン化合物 合金原料、電池     
22 六価クロム化合物 メッキ、合金原料(ステンレスなど)      






















 
(注)1 9、11、および19の物質は、平成10年度からモニタリング調査を実施
   2 5、6および10の物質は、測定方法が未確立であるためモニタリング調査未実施
   3 22の物質は、現時点では測定が困難なため、当面、クロム及びクロム化合物を測定
 
 ダイオキシン類は、その排出のほとんどが大気経由であるにもかかわらず、人への摂取経路は食品が大部分であり、食材となる動植物への移行過程や環境中の挙動が明らかでないことから、従来の大気汚染物質に係る 環境基準とは異なる考え方が必要である。
 しかし、発生源の排出抑制対策の効果を評価するためには、大気環境濃度に関する目安があることが望ましいことから、大気環境濃度の指針値として、年平均値
0.8pg-TEQ/m3以下が定められている。
 
 ウ 有害大気汚染物質モニタリング調査の実施
 有害大気汚染物質による大気の汚染状況を把握するため、優先取組物質のうち「有害大気汚染物質測定方法マニュアル」に示された19物質について、一般環境のモニタリング調査を行っている。
 平成9年度には、5地点において16物質の調査を実施しており、環境基準が示されているベンゼン等の3物質については、すべて基準以下であった。
 また、平成10年度には、同じく5地点において、水銀およびベンゾ[a]ピレンを追加した18物質を調査するとともに、ダイオキシン類についても3地点で調査を実施している。
 なお、ダイオキシン類については、国においても平成10年度緊急全国一斉調査として、大都市、中小都市および発生源周辺の3地点についての調査が実施されている。
 

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