第9章 日本海重油流出事故の影響
平成9年1月2日、島根県隠岐島沖において、C重油約19,000klを積載したロシア船籍タンカー「ナホトカ号」が、大シケの状況下、船体を分断し沈没した。
折れた船首部は、対馬海流や折からの季節風の影響を受け、1月7日、本県三国町安島の約 200m沖に着底するとともに、流出した高粘度のC重油が、1月21日までに沿岸12市町村すべてに漂着し、イワノリの壊滅や
漁業操業の支障など甚大な漁業被害を与えた。
県では、水質、自然、水産等への影響が懸念されたため、庁内に「環境保全技術対策プロジェクトチーム」を発足させ、関係省庁と調整を図りながら、総合的に環境影響調査を実施した。
1 水質の現況
沿岸30地点において、平成9年2月から平成10年2月までに11回調査した。
その結果、油分は、事故後の平成9年2月に11地点で検出されたが、3月以降の調査では、ほトンど検出されなくなった。
また、油処理剤については、全調査地点とも検出されなかった。
2 海生生物の現況
(1) 潮間帯
下記に示す海域と月に、平均水面から+0.5mの50×50cm枠内生物の目視観察を行った。
(調査定点数)
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海域(調査機関)\月 (平成9年) |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
三国 (水産試験場) |
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10 |
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5 |
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5 |
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5 |
三国以外(水産試験場) |
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11★ |
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5 |
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5 |
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5 |
〃 (委託) |
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11 |
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11 |
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11 |
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三国以外の海域における水試と委託の調査点は同じ。★:1〜3月にかけて調査
ア 動物
長期間にわたって油魂に覆われた場所では、カサガイ類、小型巻貝類、ヒザラガイ類の付着力の低下、生息数の減少および死殻が観察された。したがって、重油は潮間帯に生息する動物の一部を死亡させたと考えられる。
しかし、5月以降には、これらの種の生息個体数が増加し、回復が明らかに認められた。
イ 海藻
イワノリや石灰藻に代表される海藻は、2〜3月に枯死が目立った。これは、春の枯死の時期と重なった可能性も考えられる。
しかし、5月以降には正常な状況になっている。イワノリは、12月からつみ取りが行われているが、暖冬の影響からか、量は例年よりも少な目であった。
(2) 潮下帯
下記に示す海域と月に、水深0.5、2、6、10mにおいて、動物は2×2m、海藻は50×50 枠内生物の採取(三国)または目視観察(三国以外)を行った。
(調査定線数)
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海域(調査機関)\月 (平成9年) |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
三国 (水産試験場) |
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5★ |
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5 |
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5 |
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三国以外(委託) |
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11 |
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11 |
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11 |
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★:2〜3月にかけて調査
ア 動物
三国の沿岸では、2〜3月にバフンウニや小型貝類の死殻が散見されたものの、有用動物の生息密度に従来と大きく異なる結果は得られていない。2〜3月に比較して、5月のクボガイ類とヒザラガイの採集数が
多かったものの、油からの回復を意味するのか、季節的な変動かは明らかではない。
イ 海藻
一般的な海藻の繁茂は5月頃であるが、三国の5月の調査結果を過去のそれと比較すると、湿重量では増加、種類数では減少の傾向がみられた。これは、ホンダワラ類の種組成に起因すると考えられ、生育に異常は
認められなかった。三国以外でも、8月以降ホンダワラ類が正常に生長しており、重油による影響はほトンどないと思われた。
ウ 漁獲状況
ワカメは5月2日から、サザエは6月1日から、バフンウニは7月21日から漁獲が開始されたが、質、量ともに油の影響とみられる報告はない。
エ バフンウニの沈着量
8〜9月にかけて、三国の水深0.5ー6mにおいて、平成9年生まれの稚ウニの採集を行い、過去(昭和55〜62年、福井県、40事例)の値と比較した。過去の平均採集量は 1,067個体/u(0〜5,267個体/u)であるのに
対し 129個体/u、採集最大密度は過去が 5,267個体/uであるのに対し 800個体/uであった。したがって、平成9年の沈着量は例年の12〜15%と考えられる。
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