福井県みどりのデータバンク 織田山鳥類観測一級ステーション

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V.2 主要調査地における定量的モニタリング(織田山)

 Long Term Monitoring of Migratory Birds at Key Banding Station(Otayama)
 
 
INDEX
2.1 調査概略

2.2 調査方法

2.3 調査結果

 2.3.1 放鳥数の季節変動
 

2.3.2 種ごとの季節変動
       (1)留鳥タイプ
       (2)漂鳥タイプ
       (3)夏鳥タイプ
       (4)旅鳥タイプ
       (5)冬鳥タイプ

2.3.3 種による放鳥時期の相違

2.3.4 時期と年度による年齢構成の変化

 

 2.1調査概略 

 浜頓別、風蓮湖、下北、福島潟、婦中、織田山の各1級ステーションでは、これまで約20年間ほぼ毎年継続して、秋期にカスミ網による標識調査を行ってきた。そこで1995年度と1996年度の2年間には福島潟ステーションの1978年以降の放鳥データ、また、昨年度は織田山ステーションの1973年度からの放鳥データベースを解析した。今年度は昨年度に引き続いて織田山ステーションの放鳥データについて、定量的モニタリングの観点から解析を行った。 織田山ステーションでは、1973年度から秋の標識調査を始め、9月中旬から11月中旬までの期間に調査を行い、秋の鳥類の渡りの把握に努めてきた。単年度の調査では調査時の天侯の影響を受け、渡り鳥の通過時期が不鮮明となることもあるが、長年にわたって調査を続け、累積することによって、時期による種構成や年齢構成、標識鳥の数の変化などをより鮮明に把握することが出来る。また、調査の継続によって、年による標識鳥の数や、種構成の変化がみられ、これらの標識放鳥数や種構成の変動は、当然その年の鳥の繁殖状況や個体群の増減を反映しており、繁殖地の環境変化や繁殖状況の変動をうかがい知ることのできる貴重な資料である。 もちろん数や種構成は、調査の規模・おとりテープの使用・調査時期等の人為的条件や、調査時の天侯・捕獲場所の環境の変化等の調査地の自然条件によっても左右される。そこで織田山での調査は、毎年ほぼ一定の枚数(40〜50枚、初年度は36枚)の網を場所を定めて設置し、状況に応じて最大の捕獲効果が得られるようにテープレコーダーを使用して、捕獲される鳥の捕獲数・捕獲時期や種構成の年毎の変化を調査してきた。ところが織田山ステーション周辺の森林では1980年代前半に大規模な伐採が行われ、環境が大きく変化した。幸い借り上げていた網場は伐採されず、調査は同じ場所で続行できた。しかし、この伐採によると思われる捕獲鳥種の種構成や、個体数の変動が見られた。環境の変化に伴う個体群変動、種構成の変動、鳥の繁殖状況変化などを経年的にモニタリングして把握することは、鳥の保護管理を進める上で最も基本的で重要なことである。
 2.2 調査方法  
 織田山ステーションでは、1973年度から秋の標識調査を始め、10月中旬から11月上旬までの20〜30日間はほぼ毎年継続的な調査を実施した。また、1982年には9月中旬から11月中旬比較的長期間調査を行い、1995年から1997年には9月下旬から10月上旬に夏鳥を対象にして鳥相の把握を行った。今年度は1973年から1997年まで25年問に関して、主に鳥種ごとの放鳥数の季節変動を解析し、各鳥種の移動の時期について検討をした。放鳥数の季節変動を調べるにあたって、各年で調査期日が異なるため、各カレンダー日の累計放鳥数を調査日数で割って1日当たりの平均放鳥数にして比較をした。各鳥種の成幼の判定は、それぞれの種によって判定部位が異なるが、ここで取り上げた4種については、アオジでは頭骨の気室化と虹彩色、シロハラとマミチャジナイでは大雨覆と'尾羽の羽色と形態、シジュウカラでは初列雨覆の羽色などで主に判定した。調査地の環境などについては、本報告書の主要調査地における標識調査の項を参照されたい。また、各年の調査状況等については、各年度の報告書を参照されたい。

 2.3 調査結果  

 2.3.1 放鳥数の季節変動  

 織田山ステーションにおける1973年から1997年まで25年間の秋の標識調査では、総放鳥数は合計77種74,199羽であった(表V-2-1)。これを各カレンダー日の1日当たりの平均放鳥数・平均種数にして調査日数とともに図V-2-1に示した。
表V-2-1 織田山ステーションの累計総放鳥数(1973-1997)
    Banding Resu1ts at Otayama Station(1973-1997)
  種名 学名 放鳥数   種名 学名 放鳥数
1 カシラダカ Emberiza rustica 20,668    41 ヤブサメ Cettia squameiceps 29   
2 アオジ Emberiza spodocephala 18,675    42 アオゲラ Picts awokera 23   
3 メジロ Zosterops japonica 6,503    43 アカゲラ Dendrocopos major 20   
4 シロハラ Turdus pallidus 5,330    44 トラツグミ Turdus dauma 18   
5 メボソムシクイ Phylloscopus borealis 5,093    45 マミジロ Turdus sibiricus 16   
6 マミチャジナイ Turdus obscurus 2,357    46 ミソサザイ Troglodytes troglodytes 12   
7 ウグイス Cettia diphone 2,258    47 コサメビタキ Muscicapa latirostris 12   
8 シジュウカラ Parus major 2,134    48 キマユムシクイ Phylloscopus inornatus 10   
9 ツグミ Turdus naumanni 1,937    49 ヨタカ Caprimulgus indicus 8   
10 アトリ Fringilla montifringilla 1,649    50 サメビタキ Muscicapa sibirica 7   
11 ルリビタキ Tarsiger cyanurus 1,083    51 ベニヒワ Acanthis flammea 6   
12 クロジ Emberiza variabilis 771    52 イカル Eophona personata 6   
13 エナガ Aegithalos caudatus 683    53 キジバト Streptopelia orientalis 5   
14 ヒヨドリ Hypsipetes amaurotis 637    54 ヤマヒバリ Prunella montanella 5   
15 クロツグミ Turdus cardis 505    55 エゾビタキ Muscicapa griseisticta 5   
16 キビタキ Ficedula narcissina 482    56 コガラ Parus montanus 5   
17 ホオジロ Emberiza cioides 460    57 エゾムシクイ Phylloscopus tenellipes 4   
18 ウソ Pyrrhula pyrrhula 348    58 オオマシコ Carduelis roseus 4   
19 ミヤマホオジロ Emberiza elegans 298    59 ヤマシギ Scolopax rusticola 3   
20 ヒガラ Parus ater 280    60 カヤクグリ Prunella rubida 3   
21 オオルリ Cyanoptila cyanomelana 191    61 チョウセンメジロ Zosterops erythropleura 3   
22 ヤマガラ Parus varius 185    62 アカマシコ Carpodacus erythrinus 3   
23 ムギマキ Ficedula mugimaki 181    63 アオバト Sphenurus sieboldii 2   
24 ノゴマ Erithacus calliope 174    64 キセキレイ Motacilla cinerea 2   
25 ベニマシコ Uragus sibiricus 120    65 ヒレンジャク Bombycilla japonica 2   
26 カケス Garrulus glandarius 114    66 スズメ Passer montanus 2   
27 コマドリ Erithacus akahige 110    67 ハイタカ Accipiter nisus 1   
28 ツミ Accipiter gularis 104    68 ヤマドリ Phasianus soemmerringii 1   
29 アカハラ Turdus chrysolaus 84    69 イワツバメ Delichon urbica 1   
30 ビンズイ Anthus hodgsoni 74    70 セグロセキレイ Motacilla grandis 1   
31 ノジコ Emberiza sulphurata 62    71 キレンジャク Bombycilla garrulus 1   
32 ジョウビタキ Phoenicurus auroreus 57    72 コルリ Erithacus cyane 1   
33 コゲラ Dendrocopos kizuki 55    73 ノビタキ Saxicola torquata 1   
34 モズ Lanius bucephalus 55    74 エゾセンニュウ Locustella fasciolata 1   
35 カワラヒワ Carduelis sinica 49    75 センダイムシクイ Phylloscopus occipitalis 1   
36 マヒワ Carduelis spinus 46    76 ゴジュウカラ Sittaa europaea 1   
37 シメ Coccothraustes coccothraustes 44    77 コホオアカ Emberiza pusilla 1   
38 キクイタダキ Regulus regulus 42   
種数77   
総放鳥数741,199   
39 コノハズク Otus scops 39   
40 オオコノハズク Otus bakkamoena 38   

 調査は9月15日から11月19日までの65日間(のべ641日)行われた。25年間の調査期間の中で、最も多く調査した日は10月30日で25回、10月19日から11月5日までは20回以上調査を行った。いっぽう9月19日は1回も調査されていない。また、9月15日から9月22日(9月19日は除く)および11月16日から19日の11日間は1.回の調査であった。なお、ここでの調査した日とは、1日のうちで1羽でも放鳥のあった日を指す。 1日当たりの放鳥数を見ると、最も多いのは10月28日の217羽で、その前後の10月23日から11月8日の間は放鳥数の非常に多い期間で毎日1日当たり100羽以上を放鳥した。この時期は後述のようにこのステーションの主な放鳥種であるカシラダカとアオジの放鳥数が特に多い時期であり、総放鳥数の増加はこれら2種の影響を強く受けている。そこで、カシラダカとアオジを除いた放鳥数を見ると、9月29日から11月8日までの期間では、10月8〜10日を除いて1日当たりの放鳥数が50羽前後から75羽で、放鳥数はほぼ一定していた。10月8〜10日では悪天侯のために放鳥数が少なかったと考えられる。いっぽう、1日の平均種数は、調査開始の9月中旬の4〜6種から徐々に増加し、10月23日に最大の15種となり、11月上旬までは12〜14種で、その後急激に減少した。

 2.3.2 種ごとの季節変動
 25年問の累積放鳥数が100羽以上あった種は28種あり、二れらにっいて種ごとに各カレンダー日の1日当たりの平均放鳥数と放鳥期間の中央値(調査開始日から累積して総放鳥数の半数を捕獲した日)をグラフにして示した(図V-2-2〜V-2-6)。同一種であっても亜種や個体群によっては移動の形態が異なることも多い。しかし、ここでは、鳥種を便宜的に留鳥、漂鳥、夏鳥、旅鳥、冬鳥の4タイプに大別して検討した。移動回収例の結果等を含めてさらに詳細な分析をすることが必要である。
  (1)留鳥タイプ
  留鳥は、本地域に1年中生息し、繁殖および越冬していると考えられる鳥種で、メジロ、シジュウカラ、ウグイス、ヒヨドリ、エナガ、ホオジロ、ヤマガラ、カケス、ツミがあげられる。これらの種の放鳥状況を図V-2-2に示した。メジロ、ウグイス、シジュウカラは、放鳥数の多い種で、累計放鳥数上位10種以内に入る主要な種である。なお、これらの種でも、ある個体は1年を通して調査地周辺に生息しているが、多くの個体では移動途中に調査地を通過したと考えられる。
 メジロは調査期間を通して放鳥されたが、9月26日から11月14日までの長期にわたって多く、1日平均で毎日5羽以上の放鳥があった。放鳥期間の中央値は10月14日にあり、9月末から10月中旬に特に多く放鳥された。シジュウカラも調査期間を通して放鳥され、9月末から10月中旬までに多く放鳥され、その中でも10月16日から11月9日までの間には1日平均で毎日2羽以上の放鳥があった。放鳥期間の中央値は10月26日、また、放鳥数の最も多い日は1O月27日でありその前後の数員では放鳥数が非常に多くなっている。
 ウグイスは10月13日から11月9日までの間に1日平均で毎日2羽以上の放鳥があったが、9月中の放鳥数は少ない。放鳥期問の中央値は10月29日にあり、また、放鳥数の最も多い日は11月4日でその前後の日には放鳥数が非常に多かった。ヒヨドリは調査開始時から10月20日頃まで放鳥されており、放鳥期間の中央値は10月10日、また、放鳥数の最も多い胃は10月11日であった。
 エナガの放鳥期間の中央値は10月9日で、9月22日から11肩14日まで記録があるが、群で捕獲されることが多く、1982年9月22日25羽、1973年10月11日20羽の様に前後の日は少なく、1日だけ多く放鳥されることがよくあった。ホオジロの放鳥期間の中央値は10月30日で、9月22日から11月14日まで記録があり、10月末から11月14日の放鳥が多かった。
 ヤマガラの放鳥期間の中央値は10月6日であり、9月下旬にやや多いが、調査期間を通して同じくらいに放鳥された。カケスの放鳥期間の中央値は10月9日で、10月上旬にやや多いが、調査期間を通して同じくらいに放鳥された。ツミの放鳥期間の中央値は10月17日で、9月28日から11月9日の間で標識した。


  (2)漂鳥タイプ

 漂烏は、日本国内に1年中生息し、国内の北または標高の高い山地で繁殖し、南または低地へ移動して越冬していると考えられる鳥種で、アオジ、クロジ、ルリビタキ、ウソ、ヒガラ、ベニマシコがあげられる。これらの種の放鳥状況を図V-2-3に示した。
 アオジは累積の放鳥数がカシラダカに次いで2番日に多い種で、近年の織田山ステーションでは総放鳥数に占める割合が極端に多く、50%以上を占めている。放鳥期間は短く、10月下旬から11月中旬であった。中央値は10月29日で、10月25日頃から急に増加し、11月4日からは急激に少なくなった。放鳥数の特に多い日は10月28日と11月3日の2回あり、その間の10月31日は約5分の1の放鳥しかなかった。
 クロジは、放鳥数は少ないが、アオジと非常によく似た季節変動を示した。すなわち、放鳥期間が短く、10月下旬から11月中旬、中央値は10月30日、10月26日頃から急に増加し、11月4日からは急激に少なくなった。放鳥数の最も多い日は10月28日であった。
 ルリビタキは、アオジと同じ頃に現れるが、多くを放鳥するのは遅く、11月になってから急に多くなり、中央f直は11月5日であった。放鳥数の最も多い日は11月4日と5日で、この日は1994年および1996年に100羽以上放鳥した日であり、そのために1日当たりの放鳥数も多くなった。
 ウソは早い例では10月9日と10月23日の例があるが、1羽だけであった。連続して出現するのは10月27日以降で、多くなるのは11月になってからであった。放鳥の中央値は11月10日で、放鳥数の最も多い日は11月14日であった。
 ベニマシコは、10月26日に初めて放鳥され、その後数が増え、11月5日が放鳥数の最も多い日で、中央値は11月7日であり、ウソやルリビタキとほぼ同じ時期に見られた。上記の5種では、出現時期は10月中旬以降でまた短期間であった。
 ヒガラは、これらの5種よりは早い時期に移動した。10月10日頃から現れ、11月10日頃までの約1ヶ月間放鳥された。放鳥期間の中央値は10月25日で、放鳥数の特に多い日は10月17日と27日であった。
  (3)夏鳥タイプ
 夏鳥は、日本国内で繁殖するが、冬には見られなくなると考えられる鳥種で、メボソムシクイ、キビタキ、クロツグミ、オオルリ、ノゴマ、コマドリがあげられる。これらの種の放鳥状況を図V-2-4に示した。
 メボソムシクイは、調査期間初めの9月中旬から11月中旬までの長期間放鳥され、累積放鳥数は5番目に多い種であった。放鳥期間の中央値は10月4日、放鳥数の特に多い日は9月18日、10月2日、10月7日などで、9月末から10月中旬には20羽前後以上の放鳥数があった。9月18日には、最多の72羽を放鳥しているが、1982年度の調査しかなく、この日が特に多い日かどうか、また、調査期間より前にどの程度いるのかはもっと調査する必要がある。
 キビタキは、9月23日から11月7日まで放鳥記録があり中央値は10月12日で、放鳥数の特に多い日は9月30日、10月14日、10月23日の3回あり、その前後も多くなり、その後放鳥数はだんだんと減っていった。
 クロツグミは9月中旬から現れ、11月上旬に放鳥がなくなるが、放鳥の中心は9月下旬から10月上旬であった。放鳥期間の中央値は10月1日、最も多く放鳥した日は9月29日で、9月25日から10月6日には1日平均で2羽以上放鳥、これ以後では1日平均で2羽以上の日はなかった。 オオルリは、調査期間初めの9月中旬から10月下旬まで放鳥されたが、放鳥の中心は9月下旬から10月上旬であった。放鳥期間の中央値は9月28日、最も多く放鳥した日は9月29日であった。クロツグミとオオルリは、ほぼ同じ様な季節変動をするが、クロツグミの方が遅くまで放鳥記録があった。また、同じヒタキ亜科のキビタキよりは出現の時期が早かった。
 ノゴマは10月上旬から10月下旬が主な放鳥期間で、放鳥期間の中央値は10月1日、最も多く放鳥した日は10月8日で上述の夏鳥の4種よりは時期が遅かった。
 コマドリは、ノゴマより移動時期が遅く、移動の中心は10月下旬から11月上旬であった。放鳥期間の中央値は10月26目、最も多く放鳥した日は10月28日であった。


  (4)旅鳥タイプ

 旅鳥は、北の繁殖地から南の越冬地への途中で日本を通過すると考えられる鳥種で、マミチャジナイ、ムギマキがあげられる。これらの種の放鳥状況を図V-2-5に示した。
 マミチャジナイは9月下旬から11月中旬まで、標識され、6番目に累計放鳥数が多い種で、10月中旬から11月初旬に主に標識放鳥された。放鳥期間の中央値は10月22日、放鳥数のピークは10月16日と10月28日であった。
 ムギマキは、10月中旬から11月上旬に放鳥され、中央値は1O月20日、最も多く放鳥した日は10月16日であった。


  (5)冬鳥タイプ

 冬鳥は、高緯度地域で繁植し、日本に越冬のために渡ってくると考えられる鳥種で、カシラダカ、シロハラ、ツグミ、アトリ、ミヤマホオジロがあげられる。これらの鳥種のうち、カシラダカ、シロハラ、ツグミ、アトリは累積放鳥数が10位以内で非常に多く放鳥している種であるが、このうちカシラダカ、ツグミ、アトリは近年本ステーションで放鳥数が極端に減少している種である。これらの種の放鳥数の季節変動を図V-2-6に示した。
 カシラダカは、累積放鳥数が最も多い種であるが、70年代には1,500羽から4,000羽であった年間放鳥数が、近年は50羽以内と非常に減少が激しい。10月中旬以後調査終了まで放鳥されており、放鳥数が多いのは!0月16日から11月14日であったが、アオジのような顕著なピークは見られなかった。中央値は11月1日で、特に放鳥数が多いのは11月4日から7日であった。
 ミヤマホオジロは10月13日から11月13日までの放鳥で、中央値は11月1日で、10月23日から11月13日には比較的多く、平均で0.5羽前後から1羽の放鳥があった。
 シロハラは、累積放鳥数がカシラダカ、アオジ、メジロに次いで4番日に多い種で、10月初めから放鳥が始まり、調査終了時の11月]9日にも放鳥された。放鳥期間の中央値は10月29日で、放鳥数が多かったのは10月14日から11月13日で1日平均でほぼ毎日5羽以上放鳥し、11月2から6日は特に多く、14羽以上を放鳥した。
 ツグミは、シロハラと同じ頃に放鳥が始まるが、多くなるのは10月26日からで、シロハラより10日以上遅かった。中央値は11月6日、特に多くなるのは11月4日から14日であった。
 アトリは、9月末から11月中旬まで放鳥されるが、多くなるのは10月中旬から11月上旬で、放鳥期間の中央値は10月30日であった。

   2.3.3 種による放鳥時期の相違
 25年間の累積放鳥数が100羽以上であった28種について、種ごとの放鳥期間の中央値と放鳥数が90%以上の期間を図V-2-7に示した。90%の放鳥期間が最も短かったのはアオジの12日間で、最も長かったのはヤマガラの52日間であった。いっぽう放鳥期間の中央値が最も早かったのはオオルリの9月28日で、最も遅かったのがウソの11月10日であった。また9月15日から10日ずつに区切ると、中央値が最も集中していた期間は10月25日から11月3日までの期間で11種で、次いで1O月5日から14日の期間であった。

種別に見ると留鳥タイプの鳥の、ヤマガラ、エナガ、カケス、ヒヨドリ、メジロ、ツミ、シジュウカラ、ウグイス、ホオジロは、90%の放鳥期間が非常に長く、長期間にわたって放鳥されることを示している。いっぽう、漂鳥タイプの鳥のヒガラ、アオジ、クロジ、ノレリビタキ、ベニマシコ、ウソは、国内の北から南または標高の高い山地から低地への移動で、移動距離は短いと考えられる。これらの種では90%の放鳥期間が短く、また中央値が10月下旬から11月であることから遅い時期になってから短期間に渡ってくることを示している。
 夏鳥は、主に9月下旬から10月中旬の渡りの比較的はやい時期に多く放鳥された。オオルリは、9月下旬から10月初めの短い時期に主に放鳥され、クロツグミ、メボソムシクイは10月初めを中心に、9月下旬から10月下旬までの比較的長い期間に放鳥され、キビタキ、ノゴマは、上記2種よりもやや遅く放鳥のピークがあった。コマドリだけは、他の夏鳥より遅く、10月下旬を中心に標識された。いっぽう、通過鳥のムギマキ、マミチャジナイは、10月中旬から下旬に主に放鳥された。
 冬鳥のシロハラ、アトリ、カシラダカ、ミヤマホオジロ、ツグミは、渡りの中心が10月下旬から11月上旬であるが、漂鳥タイプの鳥と比べると、渡りの時期は同じ頃であるが、放鳥される期間が長いことがわかる。
 このように本ステーションでの主な放鳥種を4タイプに分けた中では、調査期間中ずっと長期に渡って放鳥されるのは留鳥タイプの鳥で、夏鳥は9月下旬から10月中旬、漂鳥および冬鳥タイプは10月下旬から11月上旬に主に放鳥された。このようにして、それぞれの鳥種の移動時期や移動期間を知ることは、保護管理を進める上で最も基本的で重要なことである。またそれらの種の個体数の変化を経年的に見ていくことは、非常に大切なことで、織田山ステーションの調査をこのような観点で継続していく必要がある。
 北海道の松前白神ステーションでは、夏鳥の中でセンダイムシクイやエゾムシクイ、コルリ、サメビタキ、エゾビタキなどはかなり早い時期に移動することがわかっている。織田山ステーションではこれらの種はほとんど放鳥していないが、これまで調査を実施していない8月下旬から9月中旬にも調査をおこなって、当ステーションでのこれらの種の渡りの実態把握もしていく必要がある。


   2.3.4 時期と年度による年齢構成の変化
 年齢の識別が比較的容易で年間の放鳥数が多い数種について、時期およぴ年度によって成幼比がどのように変化するかを検討した。

 アオジの各調査日およぴ各年度の放鳥記録について成鳥と幼鳥の比を図V-2-8に示した。ここではほとんどの個体について年齢判定がなされている1982年以後1997年までのデータで検討した。1982年は、周辺の森林の大規模伐採があり、これ以後アオジの放島数が増加した年である。累計放鳥数が100羽以上あった10月22日から11月6日までの16日間を4日ごとに区切って、成鳥の比率の変動を見た。その結果、成鳥の比率は時期の経過とともにだんだんと下がり(順に、42%、40%、36%、33%)、幼鳥が多くなっていくことがわかる。年度別の成鳥と幼鳥の比では、調査期間が短かかった1987年と1989年、および年齢・性別の調査が不十分であった1983年を除くと、1991年と1992年を除いてどの年も40%前後であった。なお、1991年および1992年は、他の年に比べて放鳥数が特に少なかった年で、成鳥の占める割合がそれぞれ18%および27%で特に少なかった。また、逆に放鳥数が特に多かった1994年および次いで多かった1996年では、成鳥の占める割合はそれぞれ47%、46%で僅かであるが他の年より成鳥が多かった。これにより、アオジでは放鳥数の少ない年には成鳥の占める割合が低く、放鳥数が多い年には成鳥の占める割合が高い傾向がうかがえる。
 シロハラの各調査日および各年度の放鳥記録について、成鳥と幼鳥の比を図V-2-9に示した。ここでは、ほとんどの個体にっいて年齢判定がなされている1978年以後のデータにっいて検討した。また、累積放鳥数が10羽以上ある10月10日から11月8日までを図示した。放鳥数が100羽以上の10月17日から11月6日では、どの日でも成鳥が30%前後で、明らかな傾向は見られなかった。また、年度別、あるいは放鳥数の多少による成幼の比率にも、明らかな傾向は見られなかった。
 マミチャジナイの各調査日および各年度の放鳥記録について、成鳥と幼鳥の比を図V-2-10に示した。ここでは、ほとんどの個体について年齢判定がなされている1978年以後のデータおよび、累積放鳥数が10羽以上放鳥がある10月11日から11月7日までの間で検討した。その結果、シロハラと同様に成幼の比率に明らかな傾向は見られなかった。
 シジュウカラの各調査日および各年度の放鳥記録について、成鳥と幼鳥の比を図V-2-11に示した。ここでは、ほとんどの個体について年齢判定がなされている1974年以後のデータについて検討した。また、成幼の比率の調査日間での検討は、累積放烏数が10羽以上放鳥がある10月17日から11月8日までの間で行った。10月中旬には成鳥は約40%であったが11月上旬には2-30%前後に減少し、時期が遅くなると成鳥の比率が下がることがわかった。また、年度別の成幼比では、放鳥数に減少の傾向が認められ、1974年から1989年までは、成鳥の比率は40%前後から20%以下に減少した。その後は放鳥数が少なく、成幼の比率の変動が激しい。
 以上のように検討を加えた4種のうち、アオジとシジュウカラでは、成鳥の占める割合は調査期間の早い時期には遅い時期に比べて多い傾向がある。年度別の成幼比では、放鳥数が少ない年には幼鳥の割合が高く、放鳥数の多い年には成鳥の割合が高くなる傾向が見られた。しかしながら、シロハラとマミチャジナイでは、こうした傾向は明らかではなかった。
 年齢構成の変動を知ることは、調査地域や、繁殖地・中継地の環境変化、その年の繁殖状況等を知る上で非常に有用な方法であり、そのためにも、毎年モニタリングを続けて基礎データを蓄積していく必要がある。織田山ステーションではこれまで多くの調査員に協カしていただいて細心の注意を払って調査が行われているが、放鳥数が非常に多いときや調査員が少ないときなどに、年齢・性別の判定が不十分になる場合もある。また、判定方法は年を追って正確さが増してきているこ過去のデータを解析するときには、これらの判定基準の変化も加味する事が必要である。

(担当:米田重玄)
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本ページは、「環境庁委託調査 鳥類標識調査報告書(鳥類観測ステーション運営) 1997 (財)山階鳥類研究所」を
抜粋、HTMLファイル化したものである。