GEO-1
環境の状況 [表紙へ][次章へ]

( REGIONAL PERSPECTIVES )

多数の人々が次のように考えています。
世界の環境資源が劣化しつつあるのは貧困と人口急増のせいであると。
しかし、非効率的な資源利用、高水準な消費や廃棄物の排出、
そして産業による汚染にも同様に責任があります。


サブセクション:
[アフリカ地域]
[アジア、太平洋地域]
[ヨーロッパ、CIS諸国]
[ラテンアメリカ、カリブ海地域]
[北アメリカ地域]
[西アジア地域]
[極地域]
 GEO-1は7つの地域における7つの主要な環境問題を対象に、 広範な資料を分析しています。 7つの問題とは、土地、森林、生物多様性、淡水資源、海洋と沿岸、 大気、そして都市と産業に関する問題です。 7つの地域とは、アフリカ地域、アジア・太平洋地域、ヨーロッパ地域、 ラテンアメリカ・カリブ海地域、北アメリカ地域、西アジア地域、そして 極地域です。
 各地域における環境の優先課題は次のとおりです:

各地域における環境問題の動向

アフリカ地域


アフリカの国々に共通する主要な問題の一つは、
その自然資源の利用における 大きな不均衡です。
土壌や植生は過剰に利用されていますが、
他方で、水、エネルギー、鉱物、そして生物資源は十分には利用されていないか、
あるいは未加工のまま、輸出されています。


 アフリカの環境は2つの対立する力によって形づくられています。 その一方は、いつまでも続く経済的・社会的・政治的諸問題、世界最高の 人口増加率、貿易不振、資金不足、そして長期にわたる干ばつです。 もう一方は、南アフリカにおける人種差別の終焉、複数の内戦の終結、 選挙に基づく政府の増加、そして35カ国における構造調整計画の実施です。
 アフリカの主要な問題のひとつは自然資源の利用における不均衡です。 ある資源は過剰に利用され、別の資源は利用が不足しています。 経済発展と持続可能性とをうまく両立させることがこの大陸の 環境と開発の主要な課題となっています。この課題は、この地域の文化的資産と 自然資源の恵みの多様さのために、より複雑なものとなっています。

◇いくつかの要点:アフリカ地域

  • アフリカでは、5億ヘクタールの土地が中程度または強度に劣化している。
  • アフリカの森林はすべての熱帯地域の中で最も消失が著しい。残存する原生林は 30%のみである。
  • アフリカのサバンナは世界で最も豊かな草地である。そこには多くの 原生植物や動物が生息し、大哺乳類の生息密度は世界最大である。
  • 安全な飲料水が得られない人口の割合が高い25カ国のうち19カ国が アフリカにある。
  • 多くの国、特に西アフリカの国々では、魚が主要なタンパク源となっている。
  • アフリカは、都市化の程度が最も低い大陸である。65%の人々が農村地域に 住んでいる。
  • アフリカにおける環境の劣化は、弱い経済力と貧困に密接に絡んでいる。

アフリカ諸国における安全な飲料水が得られる人口の割合

アジア、太平洋地域


アジア、太平洋地域の発展途上国では女性が自然資源の第一の管理者です。
しかし、この重要な役割は、政府や諸機関によって、しばしば無視されています。


 アジア、太平洋地域は世界の陸地の23%を擁するにすぎませんが、世界の人口の 58%が暮らしています。その高い経済成長にもかかわらず、絶対的貧困(1日の所得が 1米ドル未満)の中にいる人々の3分の2以上がこの地域にいます。 土地劣化、森林破壊、水不足、そして海洋と沿岸の資源劣化がこの地域の環境の 重要な課題です。
 ムンベイ、ジャカルタ、マニラなどの巨大都市では、大気汚染が次第に 深刻になりつつあり、フィジー、モルディブ、西サモアなどの小島嶼国では 廃棄物の処分が問題化しています。
 この地域では多数の国が、 洪水、干ばつ、サイクロン、地震、高波、土砂崩れ等の 災害の世界的頻発地帯に属しています。 世界的大災害の約半数がこの地域で生じています。

◇いくつかの要点:アジア、太平洋地域

  • アジアの材木資源は40年以内に枯渇するおそれがある。
  • 急激なエネルギー需要増大により大気汚染が著しく悪化し、 酸性化の問題が浮上している。
  • 非持続可能な利用と整合性のない政策を原因として、 この地域全域で生物多様性の継続的な消失が生じている。
  • 太平洋に投棄されている廃棄物のうち約70%は何の処理もされていない。
  • 人口集中地域において、液体・固体廃棄物の処分が次第に 問題化しつつある。
  • 土壌劣化の影響を受けている世界の土地の最大部分が アジア、太平洋地域にある。

ヨーロッパ、CIS諸国


ヨーロッパの典型的な百万人都市では、毎日おおよそ、11,500トンの化石燃料と、
320,000トンの水、および 2,000トンの食料を消費しています。
同時に、300,000トンの下水、および 25,000トンの二酸化炭素を排出しています。


 CIS(独立国家共同体)諸国を含むヨーロッパ地域は、 世界人口の15%を擁し、 陸地面積は世界全体の5分の1以上を占めます。 西端の大西洋から東端の太平洋までの距離は 11,000kmにおよび、 面積の6割はロシア連邦です。
 この地域の環境問題の多くが、人口集中地域における大量の資源消費と 廃棄物の排出から生じています。 この状況は、近年、東欧諸国において急速な経済成長に伴い、 高消費型の生活様式が広まってきたために悪化しつつあります。 しかし、エネルギーと資源の利用効率は、この20年間、よりクリーンな生産プロセスの 導入により、かなり向上しました。この変化の大きなきっかけとなったのは、 1970年代における石油価格の上昇です。
 多くの国では、私有自動車の増加により、道路に車が溢れています。 乗用車、貨物車の双方とも、1990年から2000年までの間に倍増すると 予想されています。 西欧諸国の高投入型農業は食料生産量を増やしましたが、他方、 環境汚染ももたらしました。 世界旅行の約6割はヨーロッパを行先としています。 そしてそれは環境へのいくつかの悪影響を、特に海岸地域において、 もたらしています。

◇いくつかの要点:ヨーロッパ、CIS諸国

  • 硫黄酸化物や窒素酸化物の排出が大きな要因となって、中・東欧の森林の3〜5割が傷み、あるいは枯死しつつある。
  • ヨーロッパでは 1982年以降、新たに1千万ヘクタールの自然保護地域が 設定された。 しかし、魚類の52%、爬虫類の45%、および哺乳類の42%が危機に瀕している。
  • ヨーロッパの中心的工業地帯の約6割において地下水が過剰利用されている。
  • ウラル山脈より西のヨーロッパ地域では、約86%の海岸において、開発を原因とする 生態系への強度ないし中程度のリスクが生じている。
  • ヨーロッパで排出されるフロン(CFC)は、世界全体の36%、二酸化炭素は30%、 二酸化硫黄は25%である。中・東欧諸国においては大気環境が最優先課題と なっている。
  • ヨーロッパでは一人あたり平均、年間 150〜600kgもの都市廃棄物を 排出している。 このことは、廃棄物処理の代替策やよりクリーンな生産技術の導入、 およびリサイクル推進の動きをもたらした。

いくつかのヨーロッパ諸国における1人あたりの二酸化炭素排出量(1992年)

ラテンアメリカ、カリブ海地域


南アメリカの乾燥農地の 72.7%(約3億6百万ヘクタール)が、
中程度から強度に劣化しています。


 この地域の環境の特徴として、アマゾン川やラプラタ川のような 大水系、その炭素吸収源としての重要性、およびその独特な生物多様性が 挙げられます。 このほかの特徴として、都市への人口集中、豊かな民族的多様性、 拡大しつつある農業、そして増えつつある不平等と貧困などが挙げられます。 環境破壊の主要因となっているのは、都市域や条件のよくない農業地域での 人口急増です。
 構造調整政策は経済の復興をもたらしましたが、同時に貧困も増えました。 1990年時点で、十分な食料が得られない世帯は4割に達しました。 人々は都市に移住して社会的問題を増大させ、貧しい人々の多くは、 その場しのぎのために、脆弱な生態系を過剰に利用しています。

ラテンアメリカ、カリブ海地域における都市人口の割合の推移

◇いくつかの要点:ラテンアメリカ、カリブ海地域

  • 世界の最も生物種の豊かな国10カ国のうち、5カ国はラテンアメリカにある。 しかし、この地域の生物多様性は大きな危機にさらされている。 次の40年間に森林地域の少なくとも10万種が消失する可能性があると 推定されている。
  • 熱帯林の急激な消失は、徐々に緩和されつつある。 これは、森林破壊を促す補助制度、税制、特別融資などの撤廃のための 国際的取組や国内計画の効果によるものである。
  • この地域の放牧地の約47%は、浸食、過剰放牧、塩分増加、 アルカリ化などにより、土壌の肥沃さを失っている。
  • 大量の農薬や他の汚染物質が水路を通じてカリブ海に流入し、 リン、窒素、殺虫剤などによる汚染をもたらしている。
  • カリブ海の海水浴場の多くにおいて、タール分の平均的レベルは、現在、 行楽客の利用に支障があるとされるレベルの10倍に達する。
  • アルゼンチン、ブラジル、チリ、パラグアイ、およびウルグアイは、 オゾン層枯渇によるUV-B紫外線増加の悪影響を 他のどの人間居住地域よりも強く受けている。

北アメリカ地域


米国では、何十万カ所にもおよぶ汚染された工場跡地の環境回復・改善に、
今後30年間、1千億〜1兆ドルの費用がかかるであろう。
(NSTC)


 カナダおよび米国は、製品とサービスの生産および消費において世界を リードしています。両国はその資源利用の影響を懸念し、 環境問題についての住民意識を高めようと多くのことを行っています。
 環境問題の根本的要因は急速な経済成長です。 過去25年間に、米国のGNPは5倍に増え、 その結果、現在、毎年 45億トン以上の原料が消費されています。 米国の人口は世界の 5%に過ぎないにもかかわらず、 エネルギー消費量は世界全体の 25%にもおよびます。 この地域における単身世帯の増加と私有自動車の増加(2人に1台)により、 エネルギー消費が急増しました。 ただし、最近その増加率は、省エネ計画やエネルギー利用効率の改善、 消費者の意識向上などにより緩和されつつあります。
 生産・消費の形態は徐々に「脱資源化」あるいは「よりクリーンで簡素な 生産」へと移行しつつあり、資源投入と廃棄物排出の最小化が図られています。
 北アメリカの人々の物質主義に対する態度も変化しつつあります。 米国における最近の調査によれば、83%の人が消費が過剰であると認識し、 88%の人が環境保全のためには「自分達の生活様式の大きな変更」が必要と 考えています。

◇いくつかの要点:北アメリカ地域

  • 米国では、1992年までに耕作地からの土壌浸食を、1982年時点と比べ、 約 10億トン減らした。
  • カナダと米国は、林産品の輸出における、世界上位2カ国である。
  • 1996年時点で、米国では、728生物種が絶滅の脅威を受けている。 カナダでは、254生物種が絶滅の脅威を受け、また、別の21種はすでに 国内的あるいは世界的に絶滅している。
  • 北アメリカの家庭の水消費量はヨーロッパの約2倍であるが、 代金は約2分の1しか払っていない。
  • アメリカの農村地帯には、240万人が安全な飲料水源の確保に困り、 そのうち百万人は水道水なしで生活している。また、水質安全基準に満たない 給水を受けている人がさらに 560万人いる。、
  • 漁場の枯渇により、東海岸の漁業が壊滅し、地域住民、特に カナダの漁業地域の住民は大きな打撃を受けている。
  • 北アメリカ全域の大都市で、新たな廃棄物埋立地の確保が困難になりつつある。 このため、いくつかのコミュニティでは以前よりきびしいルールを作り、 省資源やリサイクル、廃棄物分別に努めている。

西アジア地域


西アジアにおける食料不足は、1993年時点で107億米ドルと推定される。
砂漠化の進行と高い人口増加率によって、
この不足は今後大きく拡大すると予想される。
(FAO/ESCWA)


 この地域のすべての国は乾燥または半乾燥地帯に位置し、地域の4分の3は 砂漠です。すべての国が緊急対応が必要な深刻な環境劣化の問題に直面しています。 対応が遅れれば、必要な費用がかさみ、問題がより複雑化するでしょう。 問題は主に乾燥性に由来します。取り組むべき課題は、土地浸食の抑止、 水供給の改善、地下水の保全、 4つの地域海(地中海、ペルシャ湾、アラビア海、紅海・アデン湾) の沿岸環境管理の改善などです。 高い人口増加率(1990〜95年の時点で年3%以上)が問題をより複雑化しています。
 この地域の約半数の国は石油経済をベースとし、いくつかの国ではその豊かな資金で 展開された高投入型農業が生物の食物連鎖や河川・海域の汚染を引き起こしています。

◇いくつかの要点:西アジア地域

  • 西アジアでは、残されていた原生林の11%が1980年代に消失した。
  • ペルシャ湾西岸における地下水源の枯渇により、 独特な自然淡水泉の生態系が失われつつある。
  • 多くの西アジア諸国は水不足であり、バーレーンでは、 必要量の18%にも満たない。しかし、1人あたりの 水消費量は、現在、毎日 300〜1500リットルととても高レベルである。
  • 毎年約 120万バレルの油がペルシャ湾に流出している。
  • この地域の沿岸地帯は開発や行楽のための貴重な経済資源であるが、 世界で最も脆弱で脅威にさらされた生態系でもある。

西アジア諸国における耕地面積の推移

極地域


南極と同様、北極の環境も地球温暖化や海水面レベルと密接に関係しています。
地球温暖化は雪や氷を溶かすことによって太陽光の反射率(アルベード)を減らし、
太陽エネルギーの吸収量を高めてさらに地域の温暖化を促す可能性があります。


 地球温暖化やオゾン層枯渇の問題に関連して重要性が増している極地域に 言及しないならば、どんな環境報告書も完全とは言えないでしょう。 北極地域は、カナダ、フィンランド、ノルウェイ、ロシア、スウェーデン、 アラスカ、グリーンランド、アイスランドにまたがる 1480万km2の 陸地、および約 2000万km2の北極海とからなりますが、近年、 漁業、林業、鉱業、石油探査、観光、軍事活動などの圧迫が増し、 多くの自然生物種や生息域が、人間活動によって脅威にさらされています。
 南極は面積 1400万km2におよぶ、最も乾燥し、最も風が強く、 最も冷たく、最も清浄な大陸です。この地域を科学と平和のために献げるために 南極条約が結ばれ、その協議機関によって協力的な管理が行われています。 冬季にはほとんど無人で、夏季にも科学的研究および若干の観光が行われるのみです。

◇いくつかの要点:極地域

  • 過去百年間に観測された海水面の 10〜20cmの上昇にグリーンランド 大氷原の溶解が関与していると認められる。
  • 北極海の海洋資源は非常に豊かである(夏季における24時間の日照が その一因となっている)。しかし、過剰な漁獲や海洋哺乳類の捕獲によって 脅威を受けている。
  • 北極地域における森林開墾により地形や気候が変化し、生物多様性が 減少した。
  • 1995年時点で北極地域には285カ所の保全地域があり、210万km2を カバーしている。
  • 南極周辺の海洋漁業はオキアミやナガスクジラ類を 中心としているが、全般的に許容レベルを十分下まわっている。
  • もし南極の大氷原が溶解したならば、少なくとも 60mの海水面上昇が生じるだろう。
  • 南極上空のオゾンホールはこの先何十年も続くだろうと推定される。

北極の保全地域(IUCNの分類による;1993年現在)


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