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施策と展望 [表紙へ][次章へ]

( POLICY RESPONSES AND DIRECTIONS )

施策が持続可能な発展のために効果的であるには複合的な取組が必要です。
それは、人々の生活の社会的枠組の問題に対処すると同時に、
効果的な制度を整備し、経済力を高めるとともに、環境を守らねばなりません。


サブセクション:
[アフリカ地域]
[アジア、太平洋地域]
[ヨーロッパ、CIS諸国]
[ラテンアメリカ、カリブ海地域]
[北アメリカ地域]
[西アジア地域]
[極地域]
 境報告書に政府の施策とその評価を加えることは比較的新しい展開ですが、 環境問題の効果的な解決のためにはとても重要なことです。 1972年の人間環境に関するストックホルム会議以降、環境保全を目的とする、 200あまりの法律的合意が生まれました。 多くの国ではこれらの合意を実施するため、伝統的な「命令・規制」的手法を 用いています。このような手法は短期的には効果がありますが、 しばしば費用が高くつき、また、経済発展を阻害しがちです。 そのため、最近、補完的な手法として市場原理に基づく経済的手法が用いられようとしています。 その目的は、生産過程をよりクリーンで省資源的なものにすること、 自主的かつ柔軟で革新的な活動を導く環境をつくること、 社会のすべての主体の参加と取組を促すことなどです。
 コミュニティを強化し、環境NGOを支援することの重要性はすべての地域で 認識されています。しかし、残念なことに、市民社会の環境活動への参加は 政府の明確な行動の後に実現する場合が多く、政策の乏しいところでは、 市民の参加も強化も大概低調です。
 下の図は、地域毎にどのような環境施策が行われているかを示したものです。 地域の環境協力が世界的に重視されていることは明るいきざしと言えます。

各地域で行われている環境施策

 【環境保全と資源管理のための経済的手法の例】
 財産権
所有権、使用権、開発権
 市場創出
取引可能な排出権、採取量、水面共有権、土地利用許可
 税制
原材料投入、輸出、輸入、汚染、資源、土地利用などへの課税
 金融制度
貸付、融資、補助金、回転資金、グリーンファンド、低金利
 賦課金制度
汚染、環境影響、アクセス、道路使用などに対する賦課金徴収
 債券、デポジット償還制度
森林管理、土地開墾、廃棄物運送などに対する債券発行

 【経済的手法の実例】

  • アフリカの一部地域では、持続可能な管理を促すために、 使用権入札、森林利用料、材木税、環境債券などが用いられている。
  • 中国は排出量が許容量を超過したとき2倍、場合によっては3倍となる 賦課金制度を導入した。
  • トルコでは都市部の工場に対する移転誘導策が効果を現している。
  • チリは取引可能な排出権、水面利用権を導入した。
  • プエルトリコは海岸保全推進のために、譲渡可能な開発権を利用している。
  • コスタリカは生物多様性踏査権、および取引可能な再植林優遇税制を導入した。

アフリカ地域


多くの国において今なお制度上の不備があり、十分な機能が果たせていません。
それには多くの原因がありますが、そのなかには、経験豊かな職員の深刻な不足、
研修施設の欠乏、そして非生産的な政策、法制度が含まれます。


 ほとんどすべてのアフリカ諸国が現在、戦略的環境計画を策定しています。 それは例えば、「国家環境行動計画」、「熱帯林行動計画」、「オゾン層枯渇物質 消滅のための国家計画」などです。
 多くの国が次のような取組を行っています: 環境教育や研修プログラムの強化、土地保有制度の改善、 農産品の取引条件の悪化に備えた作物の多様化、農村地域の水供給と衛生の改善、 森林破壊を減らすための管理の強化、そして、沿岸と海洋の環境保全。
 また、持続可能な開発に関係する、少なくとも4つの新しい地域行動計画の採択により、 地域間協力が強化されました。 それらは、紛争の防止と解決のための取組、砂漠化を防止し、「持続可能な 農業と農村開発(SARD=Sustainable Agriculture and Rural Development)」を実現 するための取組、そして土地劣化防止のための地域戦略などです。

◇いくつかの要点:アフリカ地域

  • 複数の国が環境上の目標を憲法に盛り込んでいる。
  • 多くの国が環境教育を学校課程に取り入れている。
  • 1985年のカイロ会議で試験的取組として提案された、 村人への土地管理権の全面移管を、 多数の2国間・多国間援助団体およびアフリカの国々が導入した。
  • ブルキナファソ、マリ、トーゴでは、 水供給と衛生の改善が、手動ポンプつき堀抜き井戸により実現した。
  • ボツワナでは、水供給の限界と大規模な潅漑の非現実性を認めた 国家水計画が 食料自給政策の代わりに食料安定確保政策を導いた。

アジア、太平洋地域

 この地域では、最近多くの国で、新しい環境保全制度の創設や 既存制度の強化が行われました。最も一般的な施策は 命令・規制手法と戦略的環境計画です。
 重視されている分野は土地劣化と総合的な水系管理です。 中国では、1983年の国家委員会による土壌浸食防止計画の策定以降、 顕著な成果が認められます。 そこではどこよりも速く再植林が行われていますが、 なお一層の森林政策の強化とより適切な実施が求められています。
 現在多くの国が、産業に起因する水質汚染の低減のために経済的手法を 取り入れています。 大気汚染も主要な問題であり、酸性化問題が注目されています。 また、多くの国において、洪水やサイクロン等の自然災害に対処するための 仕組みが設けられています。

◇いくつかの要点:アジア、太平洋地域

  • シンガポールのグリーンプランには、2000年までに 高水準な健康、クリーンな空気・水・土地を備えた都市を実現するための 計画が盛り込まれている。
  • 中国は、2百万ヘクタールにおよぶ土壌浸食を防止し、 作物生産高を倍増した。また、砂漠化した土地の10%を回復し、 12%の劣化を防ぐとともに、北部地域において1800万ヘクタールの植林を行った。
  • オーストラリアでは、土壌保全事業が税控除の対象となる。 また、全農業世帯の3分の1が 2200の土地保全活動組織に参加している。
  • タイとフィリピンでは道路上の自動車台数を制限しようと計画している。
  • インドでは、更新可能なエネルギーのための計画において、 バイオガスと風力が重要かつ信頼性の高いエネルギー源として確認された。

 【アジア、太平洋地域の地域協力】
この地域では次のような協力が実施されています。
  • ASEAN 環境行動戦略(1994-98)
  • 南アジア環境協力計画(1992-96)
  • 南太平洋地域環境計画アクションプラン(1991-95)
  • メコン川委員会環境ユニット
  • 総合的山岳開発のための国際センター(ヒンズークシヒマラヤの環境問題に対処)

ヨーロッパ、CIS諸国


ヨーロッパは恵まれた状況にあります。
そこでは、比較的新しい環境データが得られ、制度や行政機構が充実し、
地域全体の協力意識がうらやましいほどに高く、
テスト済みの環境政策オプションが豊富にあります。


 CIS諸国にとっては、環境問題の重視は比較的新しい課題です。 EU(欧州共同体)への参加に熱心な諸国(ブルガリア、チェコ、ハンガリー、 ポーランド、ルーマニア、スロバキア)では、EUの厳格な環境基準に 適合するための大きな環境努力を迫られています。 これらの国の多くは、汚染賦課金や税収をもとに、1〜3億米ドルに達する 環境基金を設けました。この基金の使途は環境上の目的に限られています。
 EU内では、現在、環境法制が社会と政府のあらゆる分野に浸透し、 すべての人々の生活に影響をおよぼしています。 さらに、複数の産業部門が環境行動計画を策定し、自らの責任を明確にしています。 中・東欧諸国では、環境法制をさらに強化し、より効果的なものにする必要があります。

◇いくつかの要点:ヨーロッパ、CIS諸国

  • 1990年以降、少なくとも 15カ国が環境の状況についての新しい報告書を発行した。
  • 現在、中・東欧の 17カ国が、UNEPの環境自然資源情報ネットワーク(ENRIN)に参加している。
  • EUの環境行動計画は、あらゆる形の汚染と廃棄物に対する規制とともに 産業界の積極的誘導策を盛り込んでいる。
  • ヨーロッパの環境改善のために、200以上の制度や規制、勧告が用いられている。
  • 1995年のソフィアでの環境大臣会議で合意されたヨーロッパ環境計画は、 全ヨーロッパを対象とする最初の長期的環境計画である。

 【中・東欧諸国での、よりクリーンな生産技術の導入レベルに応じた排出削減予測】
削減率, 1990-2010
基準ケース促進ケース最良ケース最悪ケース
二酸化炭素25%55%65%5%
二酸化硫黄60%95%98%30%
窒素酸化物55%85%90%35%
揮発性有機化合物35%60%75%25%
粒子状物質55%97%99%35%
カドミウム15%65%90%2%
埋立廃棄物5%50%60%-10%
基準ケース:現行の西欧の技術を新設備に導入
促進ケース:現行の西欧の技術を新・旧設備に導入し、石炭の代わりにガスを使用
最良ケース:利用可能な最良の技術を全設備に導入し、ガスと非化石燃料のみを使用
最悪ケース:旧設備、石炭をそのまま継続使用

ラテンアメリカ、カリブ海地域


ラテンアメリカ、カリブ海地域では、
環境政策や活動の調整を目的に新設された環境制度、官庁、協議会が、
政策の実施に大いに貢献しました。


 UNCED以降、この地域の多くの国が、政府の行動計画に環境を明確に位置づけようと 大きな努力を払ってきました。 次のような、環境上の新しい改善された取組が、 法的枠組の中の主要な新制度として取り入れられました。 環境管理の調整と法施行のための官庁機構; 憲法への環境事項の盛り込み; 環境基準や規制基準の法制化; 経済的手法の導入; 住民参加と環境教育の充実
 この地域の35カ国のうち、現在5カ国が環境行動計画を、 6カ国が自然保護戦略を定めています。 環境報告は、現在までに6カ国が発行し、3カ国が準備中です。 いくつかの国では、現在、国内経済勘定に自然資源の劣化や損失の推定を 盛り込んでいます。このことは、自然資源の劣化をコストとして 評価しようという関心がこの地域で高まっていることを示しています(別記:グリーン勘定)。

◇いくつかの要点:ラテンアメリカ、カリブ海地域

  • 構造調整計画のために、複数の国が環境計画を中断した。
  • UNCED以降、複数の国が、健全な環境の権利を憲法に盛り込んだ。
  • 経済自由化によって、複数の大規模経営者は土地保有を増やし、 市場での競争力の弱い小規模地主は土地を手放した。
  • ブラジルでは、バイオマスエネルギー利用の取組によって、 ガソリンによる排出がかなり減った。
  • サンチアゴは、いくつかの主要道路へのバス・タクシーのアクセス権を入札制にした。

 【グリーン勘定】
 この地域の少なくとも4カ国が、自然資源勘定(グリーン勘定)を国内経済勘定に なんらかの形で取り入れています。 これは、主要な環境問題の要因に注目を集め、優先課題とするのに役立ちます。 この目的のために、国連統計部は 環境経済統合勘定システムと呼ばれるグリーン勘定システムを提案しています。 このシステムは、従来の国内総生産(GDP)の代わりに、 国内の自然資源の状態を含む真の国富の状態を示す、 エコ国内生産(EDP)のようなグリーン指標の開発を助けるものです。 このような指標は、環境政策立案者にとても有用なものと考えられます。

北アメリカ地域


環境法制の立案・施行と科学的根拠に基づく環境基準・汚染質基準の設定によって、
米国とカナダは、高く評価されています。


 北アメリカには環境問題での協力の長い歴史があります。 米国とカナダは世界で最も長大で平和な国境を共有し、 環境問題への対処に密接に協力しています。 五大湖の生態系保全や酸性雨に対する共同活動などの共通の課題について討議するため、 大臣級の会議や頻繁な検討会を定期的に開催しています。
 カナダと米国の政府は、国内、地域内、 および世界の環境劣化防止に向けて取り組むことを公式に表明しています。 このような取組には、住民、NGO、および多数の先見的企業の広範な支持が 不可欠です。

◇いくつかの要点:北アメリカ地域

  • 米国とカナダは、1909年に、5大湖の水質モニタリングのための 国際共同委員会を設立した。
  • NAFTAおよび付随する北アメリカ環境協力協定は、貿易政策と環境政策の 連携強化のために役立っている。
  • 新たなカナダ環境保護法は、市民が環境浄化のために司法手続を始めることを 認めようとしている。
  • 米国の二酸化硫黄取引システムは年間排出量を9百万トン削減しようとする 取組の中心をなすものである。

西アジア地域


ほとんどどの国の環境部局も、 要求される仕事に比べて、人員と予算が限られています。
つまり、合意された政策や法律の実施に必要な資源が不足しています。


 この地域では、過去20年間に環境に関する制度や法律が大きく進展しました。 今では、すべての国に、環境機関または環境官庁があります。しかし、前例のない 都市と産業の発展、紛争、不十分な廃棄物処理・処分システムにより、 環境と人の健康に重大な脅威が生じています。
 環境保全のための国際的取組への参加率は、高くありません(下表)。 しかし、これらの条約の履行を確保するための地域的なしくみができつつあります。

◇いくつかの要点:西アジア地域

  • この地域の環境保全エリアは現在、2400万ヘクタール(陸地の約6%)以上をカバーしている。
  • 環境に関する最高レベルの地域組織は、アラブ環境担当大臣協議会とペルシャ湾協力協議会である。
  • インターネットによる情報提供サイトを作ろうという計画があるものの 国レベルでも地域レベルでも環境のデータや情報が全般的に不足している。

 【西アジア諸国の国際環境条約への加入状況】
絶滅危惧生物種の取引
1973
モントリオール議定書
(オゾン層)
1987
バーゼル条約
(廃棄物)
1992
砂漠化防止条約
1994
バーレーン  
イラク    
ヨルダン 
クウェート  
レバノン 
オマーン   
カタール   
サウジアラビア 
シリア 
アラブ首長国連邦 
イエメン    

極地域


北極と南極の環境は、主として、国際的な協力による政策と行動によって守られています。


 北極地域における最も包括的な国際計画は、北極環境保護戦略です。 これは、ロシア、米国(アラスカ)、カナダ、グリーンランド/デンマーク、 アイスランド、ノルウェイ、スウェーデン、フィンランドの8カ国によって採択され、 モニタリング、評価、海洋環境、事故、保全、持続的開発の各作業グループを 設けています。北極協議会は、1996年に設立されました。
 南極での人間活動を規制する主なしくみは南極条約です。 あと3カ国が批准すれば発効する、1991年マドリッド議定書により、環境保全が確保されようとしています。

◇いくつかの要点:極地域

  • 先住民の重要な食物である北極地域の魚や野生生物から高レベルの有毒物質が 検出されている。
  • 北極監視評価計画(AMAP=Arctic Monitoring and Assessment Programme)は 北極地域の環境の状況について総合的な評価を行っている。
  • 南極条約協議会では環境の状況の総合的な報告書作成の準備をしている。
  • 極地域に関する環境施策は、国際協定に基づく環境保全を中心としている。


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