最終更新日 2004年4月29日

 

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          はじめに

わたしたちが生活している地球上は豊かな緑に覆われ,空には鳥やチョウが舞い,地上にはネズミが走り,川や湖には魚が泳ぎ,それらは生物多様性という言葉で表現される.現在,日本は,そして福井県は豊かな自然環境に満ちている.しかし,野生生物の種は急速に減少しつつあることに注目しなければならない.生物多様性には,3つのレベルの多様性がある.つまり(1)遺伝子の多様性,(2)種の多様性,(3)生態系の多様性である.われわれは自然資源の持続可能な利用と生物多様性の保全を計らねばならない.近年,保全生物学の重要性が叫ばれるようになったのはそのためである.

どこの小川にもたくさんいたメダカは,もはや絶滅に瀕している.1938年発行の「原色福井県昆虫図譜」にはタガメは県下一円に分布とされているが,現在は絶滅危惧T類とランクされる.中学校や高校の生物教材として自由に利用していたトノサマガエルは,もはや入手困難になってしまった.

絶滅のおそれのある野生生物を保全するために,国際自然保護連合(IUCN)は保全のためのカテゴリー(レッドデータブックカテゴリー)を定めた(1984).そのカテゴリーは1994年改訂され,それを受けて環境庁(現環境省)は,IUCN新カテゴリーに準拠した日本の新たなレッドデータブックカテゴリーとして,「絶滅」,「野生絶滅」,「絶滅危惧TA類」,「絶滅危惧TB類」,「絶滅危惧U類」,「準絶滅危惧」,「情報不足」等を策定した(環境庁1997).詳細は別表を参照していただきたい.さらに本書では,福井県カテゴリーとして,「県域絶滅」,「県域絶滅危惧T類」,「県域絶滅危惧U類」,「県域準絶滅危惧」,「要注目」を区分した.

福井県版レッドデータブックは,福井県における野生生物の生息生育状況を現時点で評価し,絶滅のおそれのある種の現状をとりまとめ,また,それを公表することにより,本県の生物多様性を保全する観点から,野生生物の適切な保全対策,県民の普及啓発施策の推進を図ることを目的とする.そして,期待される効果として,福井県に生息生育する野生生物種を絶滅させないための各種施策の基礎資料として活用できる,環境アセスメントの実施に当たって,特に配慮すべき生物種を明確化することができる,自然との共生に向けて県民や事業者の自然環境保全に係る意識の高揚に資することができる,以上のようなことが考えられる.

レッドデータブックの活用によって,豊かな生物多様性が保全されることを念願するものである.

2004年(平成16年)3月

福井県自然環境保全調査研究会 会長  佐々治 寛之

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