第2部 環境の現況と対策
第1章 大気汚染の現況と対策
第2節 大気汚染防止対策------------------------------------------------

1 法律による規制
 大気汚染防止法は、昭和43年6月に制定され、ボイラーなど32種類の 「ばい煙
発生施設」、ベルトコンベアなど5種類の「一般粉じん発生施設」および石綿の
解綿用機械など9種類の「特定粉じん発生施設」を届出・規制の対象としている
。この法律に基づき、本県においても、工場等の事業活動に伴って発生する「ば
い煙(注1)」や「粉じん(注2)」について規制措置を講じている。

(注1)物の燃焼に伴い発生する「いおう酸化物」、物の燃焼または熱源として
        の電気の使用に伴い発生する「ばいじん」および物の燃焼、合成、分解
        、加圧などに伴い発生する「有害物質(@カドミウムおよびその化合物
        、A塩素および塩化水素、Bふっ素、ふっ化水素およびふっ化珪素、C
        鉛およびその化合物、D窒素酸化物)」のこと。
(注2)物の破砕、選別その他の機械的処理またはたい積に伴い発生し、または
        飛散する物質のこと。

 (1) ばい煙
 本県における「ばい煙発生施設」の届出状況は、大気汚染防止法の対象が851
工場1,449施設、電気事業法およびガス事業法の対象が158工場239施設あり、全
施設のうちボイラーが約67%を占めている。
(資料編第3−25表、第3−26表参照)
 ア 硫黄酸化物
 硫黄酸化物とは、二酸化いおうおよび三酸化いおうの総称であり、物の燃焼に
伴い燃料や原料中に含まれる硫黄分が酸化されることにより生成する。
 ばい煙の硫黄酸化物の大部分は二酸化いおうであり、環境基準は硫黄酸化物で
はなく、二酸化いおうについて定められている。また、排出基準は施設ごとに、
次式に示すとおり排出口の高さに応じて定められている。
(一般に「K値規制」と呼ばれている。)
                -3     2
  q=K×10  ×He

  |q :硫黄酸化物の許容排出量(Nm3/h)    |
  |K :地域ごとに定められている定数      |
  |He :有効煙突高さ(m)=煙突高さ+煙上昇高さ|

 したがって、Kの値が小さいほど許容排出量は小さくなり、厳しい排出基準が
適用されることになる。
 本県において現行の排出基準に係るK値は次のとおりである。
   福井市および坂井郡……………………………… 7.0
   敦賀市       ……………………………… 8.0
   武生市および鯖江市………………………………10.0
   その他の区域    ………………………………17.5

 なお、県では工場等に対して低硫黄燃料の使用、排煙脱硫装置の設置、有効煙
突高さの改善(高煙突化等)などの指導をしてきており、その結果、硫黄酸化物
による大気汚染は次第に改善され、現在では良好な状況を保持している。
 イ 窒素酸化物
 窒素酸化物は、一酸化窒素、二酸化窒素、一酸化二窒素などの総称であり、燃
料その他の物の燃焼に伴って発生する。ばい煙中の窒素酸化物の主成分は一酸化
窒素であるが、一酸化窒素は大気中に排出されると次第に酸化され二酸化窒素に
なることや、窒素酸化物の人体への影響は大部分が二酸化窒素によるものである
ことなどから、環境基準は二酸化窒素について定められている。
 窒素酸化物の発生源としては、ボイラーなどの固定発生源と自動車などの移動
発生源があり、固定発生源については施設ごとに、移動発生源については車種ご
とに細かく規制基準が定められている。
 固定発生源に対する窒素酸化物の排出基準は昭和48年8月(第1次規制)以降
、58年9月(第5次規制)まで段階的に改正強化が行われ、平成2年11月にガス
機関およびガソリン機関が規制対象施設に追加・拡大された。
 移動発生源に対する窒素酸化物などの排出規制は昭和47年12月(48年度規制:
ガソリン車とLPG車の窒素酸化物、一酸化炭素および炭化水素を規制)以降、
62年1月(63、平成元、2年規制:大型ディーゼル、トラック およびライトバ
ン等軽量トラックの窒素酸化物を規制) 、平成3年3月(4、5、6年規制:
トラック、バスの窒素酸化物の規制強化、ディーゼル車の黒煙の規制強化および
粒子状物質の規制、近年の走行実態にあわせて測定モード変更等)と段階的に強
化されるとともに、規制対象となる車種の追加・拡大が図られている。
 また、大都市地域における窒素酸化物による大気汚染が深刻な状況にあること
から、これを改善するため「自動車から排出される窒素酸化物の特定地域におけ
る総量の削減等に関する特別措置法(自動車NOx法)」が平成4年6月に公布
され、同年12月から施行された。
 ウ ばいじん
 ばいじんとは、すす、ダストなどの総称であり、燃焼等に伴い遊離される未燃
炭素であるすす、燃焼後の残留灰分(燃えがら)のほか、セメントキルンから発
生するダスト等が含まれる。ばいじんの概念には「粉じん」が含まれないが、健
康影響を考えた場合、ばいじんのみでなく粉じんも含めるべきであること、また
粒径10μ以下の粒子状物質が呼吸器系を中心として人体に影響を及ぼすことなど
から、環境基準は「浮遊粒子状物質(粒径10μ以下の粒子状物質のことで、その
生成過程を問わない。)」について定められている。
 固定発生源に対するばいじんの排出基準は昭和43年12月(第1次規制)以降、
57年5月(第3次規制)まで段階的に改正強化が行われるとともに規制対象とな
る施設が追加・拡大されてきた。

 (2) 粉じん
 平成元年6月に大気汚染防止法が改正され、粉じんのうち、特に石綿を含んで
いるものを特定粉じん、これ以外の粉じんを一般粉じんと規定された。本県にお
ける「一般粉じん発生施設」の届出状況は、73工場 519施設であり、「特定粉じ
ん発生施設」は1工場1施設である。
(資料編第3−27表、第3−28表参照)
 一般粉じん発生施設については、粉じん飛散防止のための施設の構造ならびに
使用および管理に関する基準が設定されており、特定粉じん発生施設については
、敷地境界における規制基準が設定されている。

2 条例による規制
 (1) 指定工場に対する規制
 県公害防止条例では、金属(貴金属を除く)の精錬作業をする工場、合金鉄製
造工場等の7業種および通常の排水量が 3,000m3/日以上または通常の重油の使
用量が 600kg/時間以上の工場・事業場を指定工場と定め、特に厳しい基準を課
している。
 また、硫黄酸化物について、本県では「いおう酸化物に係る環境上の基準(1
時間値の年平均値が0.015ppmをこえないこと。)」を定めており、この基準を維
持達成するため、燃原料の通常の使用量が重油換算 600kg/時間以上の指定工場
に対して総量規制を実施している。これは、人口密集地を重点にして環境濃度、
発生源の状況および気象条件等を考慮し、大気汚染解析手法を用いて地域の排出
許容量を算定し、各工場・事業場からの排出総量がこの排出許容量を超えないよ
う、各指定工場に対して排出基準を定め規制するものである。この総量規制方式
は、福井・坂井地域、武生・鯖江地域、敦賀地域およびその他の地域に区分し、
適用している。
 また、有害物質(カドミウムおよびその化合物、塩素、塩化水素、ふっ素・ふ
っ化水素およびふっ化珪素、鉛およびその化合物の5項目)についても、それぞ
れ規制基準を定めている。
 (2) 特定施設を有する工場に対する規制
 県公害防止条例では、中小の鋳物工場から排出される「ばい煙(規制基準はば
いじんについてのみ定められている。)」についても、地域的な大気汚染の観点
からは無視できないとして、大気汚染防止法における対象規模未満の金属溶解炉
を特定施設と定め、規制基準を設定している。
 (3) 中小規模の工場に対する指導
 指定工場に該当しない中小規模の工場・事業場については、福井市街地に立地
する場合には硫黄分 1.3%以下、福井・坂井地域、武生・鯖江地域および敦賀地
域に立地する場合には、硫黄分 1.5%以下の燃料を使用するよう指導している。

3 大気汚染常時監視と緊急時対策
 (1) 常時監視
 県では、硫黄酸化物、窒素酸化物、オキシダント、浮遊粉じん、一酸化炭素等
主要な大気汚染物質について常時監視を効果的に行うとともに、緊急時における
迅速的確な措置と大気汚染の未然防止を図るため、監視測定網の整備とテレメー
ター化を実施している。平成6年3月末における県内の整備状況は第2−1−10
図および第2−1−11表のとおりである。
(資料編第3−29表参照)
 常時監視結果は、大気汚染の状況把握、光化学スモッグ等の注意報の発令・解
除、大気汚染の未然防止のための予測計算等大気保全行政の基礎資料として活用
している。
    第2−1−10図 大気汚染監視局回線構成図(略)
    第2−1−11表 大気汚染監視テレメーター観測局等整備状況
                 (平成6年3月31日現在)
  ----------------------------------------------------------
    局   種          |  局  数
  ----------------------------------------------------------
     中央監視局          |    1
  ----------------------------------------------------------
     中継局            |    1
  ----------------------------------------------------------
        観測局
         県一般観測局     |   19
         市町一般観測局    |   11
         自動車排出ガス観測局 |    3
         移動観測局(みどり号)|    1
         特殊気象観測局    |    1
         発生源観測局     |    3
           計            |   38 局
  ----------------------------------------------------------
    合計                  |   40 局
  ----------------------------------------------------------

 (2) 緊急時対策
 大気汚染防止法第23条では、硫黄酸化物、二酸化窒素、浮遊粒子状物質、一酸
化炭素および光化学オキシダント等の大気汚染物質によって、大気の汚染が著し
くなり、人の健康または生活環境に係る被害が生ずるおそれがあるような緊急の
事態が発生した場合に、知事がとるべき措置を定めている。
 これを受けて県では、光化学オキシダントと硫黄酸化物について、「福井県光
化学スモッグ緊急時対策実施要綱」、「福井県大気汚染(硫黄酸化物)緊急時対
策実施要綱」を定め、人の健康または生活環境に被害が生ずるおそれが発生した
場合には、注意報等を発令し、住民に注意を呼びかける一方、工場・事業場に対
し、ばい煙等の削減を要請している。
 平成5年度においては、注意報等の発令はなかった。

   第2−1−12図 光化学スモッグ緊急時措置連絡系統図(略)

4 大気関係立入検査等
 平成5年度においては、規制の対象となるばい煙発生施設を設置している工場
・事業場のうち、比較的規模の大きい工場や苦情の発生しているところに対して
重点的に立入検査を実施し、施設の維持管理状況等の確認、使用燃料中の硫黄分
の分析、煙道ガス中のばい煙測定等、法令に基づく監視・指導を行った。
 施設の維持管理状況等の確認については、 104工場・事業場について実施し、
ばい煙(粉じん)発生施設の設置状況や使用状況、原料・燃料の使用状況、ばい
煙等の処理状況および工場・事業場が実施しているばい煙の自主測定結果等の確
認を行った。この中で、法に基づく届出や施設の管理状況の不備なもの、自主測
定を実施していないところなどについて、指導を行った。
 使用燃料中の硫黄分の分析については、 103検体について実施した結果、硫黄
酸化物の排出量が排出基準を超えるおそれのある燃料を使用している工場・事業
場はなかった。また、低硫黄分燃料の使用について指導している地域(福井市、
敦賀市、武生市、鯖江市、坂井郡)についても、指導基準を上回る硫黄分の燃料
を使用している工場・事業場はなかった。
 煙道ガス中のばい煙測定については、22施設について実施した結果、排出基準
を超える施設はなかった。
 また、県公害防止条例に基づく指定工場については、燃料使用量や硫黄酸化物
排出量等を調査し、硫黄酸化物に係る総量規制や有害物質に係る規制基準の遵守
状況を監視した。(資料編第3−30表、第3−31表参照)

5 スパイクタイヤ粉じん対策
 近年、積雪寒冷地域では、スパイクタイヤにより削られた道路粉じんが大気を
汚染し、深刻な環境問題となっている。
 このため、昭和63年6月に国の公害等調整委員会においてスパイクタイヤの製
造・販売中止の調停が成立し、国内タイヤメーカー7社は、平成2年12月でスパ
イクタイヤの製造を中止し、3年3月でその販売を中止した。
 さらに、環境庁の動物実験によりスパイクタイヤ粉じんは生活環境の悪化ばか
りではなく、健康への悪影響も明らかになったため、平成2年6月27日に「スパ
イクタイヤ粉じんの発生の防止に関する法律」が公布、施行された。
 この法律は、国民の責務として「何人もスパイクタイヤ粉じんを発生させない
よう努めなければならない。」と規定しており、地域を問わずスパイクタイヤを
使用しないよう求めている。特に、環境庁長官が指定した地域(指定地域)にお
いては、平成3年4月1日から舗装道路の積雪や凍結の状態にない部分でスパイ
クタイヤの使用が禁止され、4年4月1日から罰則が適用されている。(トンネ
ル等の部分や緊急自動車等を除く。)
 なお、本県においては、平成3年1月17日に第2−1−13表に示す17市町村が
指定地域となった。

 第2−1−13表 スパイクタイヤ粉じんの発生の防止に関する法律
         に基づく指定地域
  --------------------------------------------------------------
 福井市、敦賀市、武生市、鯖江市、美山町、松岡町、永平寺町、
 上志比村、金津町、丸岡町、春江町、坂井町、今立町、南条町、
 河野村、宮崎村、清水町の区域
  --------------------------------------------------------------

 本県では、従来から以下のようなスパイクタイヤ装着率調査や脱スパイクタイ
ヤの啓発活動を実施している。
 (1) スパイクタイヤ装着率調査
 平成5年度は、関係市の協力を得て、2月上旬の積雪時に指定地域内5地点、
指定地域外1地点の計6地点でスパイクタイヤ装着率調査を実施した。その結果
、装着率は全体で 0.1%、指定地域内で 0.03%であり、装着車両はほとんどみら
れなくなった。(第2−1−14図)
  第2−1−14図 スパイクタイヤ装着率の経年変化(略)

 (2) 沿道降下ばいじん量調査
 平成2年から福井市の協力を得て、4地点で沿道における降下ばいじん量を調
査している。冬期間(12月〜3月)の沿道における降下ばいじん量は5年度は
 12.3t/ku/月 であり、スパイクタイヤの使用が禁止された3年度以降大きく改
善されている。(第2−1−15図)

 第2−1−15図 冬期間(12月〜3月)の沿道降下ばいじん量(略)

 (3) 脱スパイクタイヤの啓発
 特に、脱スパイクタイヤについての住民に対する啓発および知識の普及は、ス
パイクタイヤ粉じん問題の解決のための最も直接的かつ効果的な施策であること
から、県民ホール(県庁)において脱スパイクタイヤ啓発パネルの展示を行った
。
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ERC.PREF.FUKUI.JP