海洋と沿岸の問題

(Oceans and Coasts)

「海、それはすべての源である。」

--Homer, c. 700 B.C.


海洋と沿岸の問題についての現況

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海をめぐる脅威
解決策を探る
活動しよう!
統計:海洋生物の危機
成功事例

 洋は地球表面の7割以上を占めていますが、 しばしばそれは当然のこととして意識されません。35億人以上の人々が第1の食料源を 海洋に頼っています。世界人口の半数以上が海岸線から60km以内に住み、 その数は2020年までに世界人口の4分の3に増加するでしょう。また、 海洋と同様に重要で あるのが沿岸域です。それは、人々の生活、開発、および地域の存続のために 重要な、多様で生産的な生物生息域となっています。沿岸域の資源は多くの地域 コミュニティおよび先住民にとって不可欠なものであり、海岸から320kmまでの範囲の 排他的経済水域(EEZ)は、国が自国民の利益のために、自然資源の開発と保全に 責任を有する重要な水域です。

 海洋はまた航路網を提供するとともに、エネルギー、鉱物、および医薬品の 供給源でもあります。これらの貢献は、技術の進歩と陸上資源の枯渇に伴い ますます増大するでしょう。

 海洋は地球表面の大部分を占めるため、気候に大きく影響し、私たちの惑星の 生息可能性に深く寄与しています。海洋には120種以上の哺乳類のほか、無数の 生物が生活しています。海洋はまた行楽客を海岸に誘い、多くの国で、重要な 収入源を提供しています。

 世界の国々は、 海洋と海洋に依存するコミュニティが脅威を受けていることを認知し、 アジェンダ21を通じて、世界が「海洋と沿岸域の管理と開発について、 国、地域、および地球レベルでの新しいアプローチ」を必要としていることを 表明しました。

海をめぐる脅威

 海洋、特に沿岸の資源は、かつては、きわめて広大で復元性に富み、 どんな人間の無礼に対しても無傷であると思われていましたが、今では、 誤った管理と悪用のために生態学的崩壊の危機が訪れていることを示す明瞭な証拠が 増えつつあります。次第に頻繁に海洋災害が世界の注目を集めるようになりました。 米国東部では、医療廃棄物が海岸線を洗い、多数の海水浴場が閉鎖されました。 イタリアのアドリア海沿岸では、藻類異常増殖により、何百もの海水浴場が 一時閉鎖されました。アラスカでは巨大タンカーが座礁し、25万バレルもの油が 世界で最も豊かな漁場のひとつに流出しました。



 このような大災害は真に国際的注目に値しますが、それとは別の、あまり センセーショナルではないものの有害性については劣ることのない脅威が、海洋と沿岸を 荒らしています。陸上起源の廃棄物の多くが海を行き先としているのです。 世界中の海洋と沿岸--西アフリカ沿岸から原始的北極海まで--がプラスチックや 残骸をまき散らされています。プラスチック製の漁網、釣り糸、ひも、および袋は 浮遊し、かつ分解しにくく、海洋生物が飲み込んで窒息したり、からまって 動けなくなったりします。

 人間は海洋を巨大なごみ箱のように扱っています。DDTやPCBのような 有機化合物は今やありふれた海洋汚染物質であり、海洋生物の生殖異常をもたらして います。複数の漁場が、高濃度の有機化合物や重金属による健康上の懸念から 閉鎖されました。人と産業の廃棄物を含むほとんど未処理の都市下水の流出は 沿岸水域の最大の汚染源のひとつであり、それは沿岸地域の人口増加とともに おそらく増大するでしょう。

 油流出は海洋生息域を荒らし、魚類、哺乳類、鳥類を死に追いやります。大規模な 油流出は数日間、メディアの大きな注目を惹きますが、ずっと多量の油が音もなく、 街路から、船舶のタンク洗浄から、そして工場の排水路から海に流出しています。 このような流出量は年平均2100万バレルと推定され、過去10年間の事故による流出量の 年平均60万バレルの何十倍もあります。

 沿岸の生息域は、世界各地で都市開発、農地造成、海洋栽培施設造成により 破壊されています。エクアドルではマングローブ林の3分の1以上が急成長しつつある エビ養殖産業のための生けすに変えられ、フィリピンではほとんどすべての マングローブ林が海洋栽培施設造成のために取り払われました。

 過剰漁獲もまた、長い間人類に食料、油、その他の有用物を供給してきた 重要資源である海洋生物を脅かしています。国連食料農業機構(FAO)によれば、 世界の商業的漁場の7割が枯渇または利用し尽くされ、あるいは以前の過剰漁獲からの 回復期にあります。

 海洋哺乳類は世界各地で、沿海小規模漁業や公海の流し網漁業による偶発的捕獲 によって大きな圧迫を受けています。そのほか、汚染、生息域の消失と劣化が、 特に沿岸域で懸念されます。

 サンゴ礁は約百万種の生物の住まいとなっていますが、森林伐採や農地侵食に伴い 河川を通じて海に流出した土砂により窒息しつつあります。 サンゴ礁はまた、宝石や建築材料として採掘されています。 乱暴な漁師は大量漁獲のための安易な方法として、時々ダイナマイトを海に 投げ入れます。その結果、全魚群のみならず生息域も破壊してしまうのです。

 世界の海洋生物資源はまた、次第に高度化する漁法と大規模な工業的漁業の拡大 により極度の圧迫を受けています。

 このほかにも、地球の海洋の未来は、南極保護や海面上昇のような課題に直面 しています。南極は、その独自性ゆえに、膨大な資源の保護のための 国際的努力が必要です。現在、南極の感受性の高い海洋生態系は、過剰漁獲、 廃棄物投棄、および鉱物資源開発によって脅かされているのです。

解決策を探る

 世界の海洋は、すべての国が保全に努力しなければならない巨大な共有物です。 「環境と開発に関する世界委員会」は、報告書「私たち共通の未来」の中で、 「持続可能な開発は海洋管理の大きな進歩に依存している」と結論しています。

 UNEPは、報告書「海洋環境の状況1990」の中で、「もし、沿岸の開発が今の 割合で続くならば、海洋環境の質および生産性は地球規模で劣化するだろう」と 述べています。

 さらに、国連の報告によれば、強力で連携した、各国の、および国際的な行動が 今実行されなければ、次の十年間に海洋環境はひどく劣化すると予想されています。 必要な努力は膨大で、コストは高くつきますが、 海洋の持続的健康と資源の保全を確保するにはそれしか方法がありません。

 現在、国連はUNEPを通じて、160カ国以上で12の 「地域海洋計画」によって海洋の 問題に取り組んでいます。この計画は次の地域で、状況の監視と政府活動の勧告を 行っています。地中海、クウェート地域、紅海・アデン湾、大カリブ海、 西・中央アフリカ大西洋岸、東アフリカ沿岸、南アメリカ太平洋岸、 南太平洋諸島、北西太平洋、黒海、東アジア海域、南アジア海域。

活動しよう!

 海洋と沿岸の生態系劣化防止に向けて政府レベルでなすべきことはたくさん ありますが、持続可能な変化はコミュニティレベルにおいて生じる必要があります。 コミュニティの効果的動員とあなたの組織の直接的行動を通じて、海洋と沿岸の 保全が可能でしょう。以下に示すアイデアは、あなたのコミュニティが海洋と沿岸の資源 の持続可能な保全に向けて活動計画を立てる際に参考となるでしょう。ただし、 努力の長期的成功の鍵は、あなたのコミュニティ独自の創造的、積極的活動です。



統計:海洋生物の危機

 状況の悪化に伴い、海洋生物が大量に姿を消しつつあります。以下は統計の一部です。

生物種過去の生息数 最近の生息数
減少種----------
Blue Whale(シロナガスクジラ)200,0002,000
Right Whale(セミクジラ)200,0003,000
Bowhead Whale(北氷洋産セミクジラ)120,000 6,000
Humpback Whale(ザトウクジラ)125,000 10,000
Sei Whale 200,000 25,000
Fin Whale470,000110,000
Northern Sea Lion154,000 66,000
Juan Fernandez Fur Seal4,000,000 600
回復種----------
Pacific Gray Whale(太平洋コククジラ)10,000 21,000
Dugong(ジュゴン)30,00055,000
Walrus(セイウチ)50,000280,000
Galapagos Fur Seal(ガラパゴスオットセイ)絶滅間近 30,000
Antarctic Fur Seal(南極オットセイ)絶滅間近 1,530,000
絶滅種----------
Atlantic Gray Whale(大西洋コククジラ)絶滅, 1730頃
Steller's Sea Cow絶滅, 1768頃
Sea Mink絶滅, 1880頃

過去の生息数:19世紀半ば〜20世紀半ばの値  最近の生息数:1980年代末〜現在の値 出典: Trends from Ed Ayres, "Many Marine Mammal Populations Declining," in Lester R. Brown, Hal Kane, and Ed Ayres, Vital Signs 1993 (New York: W.W. Norton & Co., 1993); extinctions from David Day, The Doomsday Book of Animals: A Natural History of Vanished Species (New York: Viking Press, 1981).


エコボランティア運動
(成功事例)

 1992年、国連地球サミットの出席者たちは、あらゆる国において環境と コミュニティの福祉の向上をめざしてすでに活動している、何百人もの ボランティアを認知し、強化するため、エコボランティアという概念を 初めて表明しました。

 「国連ボランティア」と国連開発計画を通じ、この考えに基づくプログラムが 先駆的事業として予算化されました。そしてその運用は、ナイロビに拠点を置く、 国連環境連絡センター(ELCI)が行っています。ELCIは、約百カ国の800以上の 環境グループのネットワーク組織です。それぞれの国を代表するNGOはELCIから 権限の委任を受けてエコボランティアを選任し、また、地元の知識を活かして 国内活動の調整を行います。

 エコボランティアの多くが海洋と沿岸の資源に関連する活動を行っています。 カナダの Nova Scotia の Isabel Butler はそのひとりです。彼女は、長年にわたる、 コミュニティと環境の活動家であり、海岸をきれいに保つための数多くの活動を 行ってきました。その活動の多くが彼女自身の大西洋岸のコミュニティから遥か 遠くまで広がり、世界中の人々のモデルとなっています。

 「船のごみを陸へ持ち帰ろうキャンペーン」は、海洋漁師協会によって始められ、 漁師や他の人々がごみを安易に船べりから海へ捨てることをやめ、袋に入れて 陸へ持ち帰って処分することを呼びかけています。このキャンペーンはカナダの 大西洋岸から4つの地域に広がり、何百人もの沿岸漁師の習慣を変えました。 このキャンペーンの企画に活躍した Butler によれば、特に強調されたのは、 環境活動家と漁師が対立を避け、協力することの必要性でした。 海洋漁師組合とカナダ環境ネットワーク海洋会議との間の持続的連携は、 彼女の努力が遠くまで届いた成果です。

照会先:

ELCI
P.O. Box 72461
Nairobi, Kenya
Tel: (+215 2) 562 015
Fax: (+254 2) 562 175
Email: ELCI@gn.apc.org


参考文献

- Global Marine Biological Diversity: A Strategy for Building Conservation into Decision Making, Elliot A. Norse, ed., Island Press, Washington, DC 1993
- Marine Environment, UNEP Profile, United Nations Environment Programme
- Our Common Future; The World Commission on Environment and Development, 1987
- Our Living Oceans: The First Annual Report on the Status of U.S. Living Marine Resources, National Oceanic and Atmospheric Administration (NOAA), Washington, DC, 1991
- Safeguarding Oceans and Water Resources, Background Paper for the Interparliamentary Conference on the Global Environment, May 1990
- World Resources, 1994-95: A Guide to the Global Environment, a report by the World Resources Institute in collaboration with UNEP and the United Nations Development Programme, Oxford University Press, 1994.



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