淡水資源の問題

(Freshwater Resources)

「水は高い山々から流れ出て、
大地の奥深くを流れ行く。
奇跡のように、水は私たちのもとに達し、
すべての命をはぐくむ。」

-- Thich Nhat Hanh


淡水資源の問題についての現況

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水汚染の発生源
解決策を探る
活動しよう!
ひとりひとりの取り組み
成功事例

 は地球の全生命の精髄(エッセンス)であるにもかかわらず、多くの人によって まるで消費可能な資源のように扱われています。 世界人口の7割以上が清浄な水を得られず、毎日約2.5万人が不十分な水管理 のために死亡しています。 淡水資源の不足がこのまま来世紀まで続くと、いくつかの地域では、食糧生産、 人の健康、および国の安全を脅かす悲惨な結末を生じかねません。 湖の死滅、地下水汚染、および飲用可能な水供給の減少は、世界人口の大部分に対して 警報を発しています。

 淡水資源は有限であり、閉じたシステムとして存在します。 地球を覆う水のごく一部しか人間は使えません。97%は海を満たす塩水です。しかも、 残りの99%は氷山や氷河として凍っているか、あるいは地下深く埋もれているために 入手できないのです。 私たちは最後に残された河川水、湖水、および汲み上げ可能な地下水で渇きを癒し、 汚れを洗い、作物を潤すとともに、産業活動のために次第に多くの水を用いています。

 世界の大部分の地域で、淡水資源は圧迫を受けています。 産業廃水、下水、および農業排水が、川や湖に化学物質や汚水、富栄養化物をもたらし、 結果的に上水源を毒しています。 土壌侵食による土砂は、ダム、河川、および水力発電施設を泥で詰まらせ、 米国からインドに至るまで、欠陥のある潅漑計画がかけがえのない地下水源 を干上がらせています。工場や発電所から排出された硫黄酸化物や窒素酸化物は、 しばしば排出源から何千マイルも離れた場所で、酸性の雨や雪として地上に舞い降りて きます。水を通じて、これらの毒素は動植物に入り込みます。 化学物質の排出に由来する有毒物質が、極地方に住むイヌイットの人々の常食である 北極熊、あざらし、となかい、そして、鯨の肉からさえも発見されています。

 汚染された水の大部分は郊外にありますが、都市においてもその圧迫は強く感じられ ています。2000年までに世界人口63億人の半数が都市に住み、そのうち20億人以上が 開発途上国の大都市に居住すると予想されています。 多くの開発途上国の政府が、排泄物による飲料水の汚染、淡水資源の劣化、および 有害廃棄物の対策に苦労しています。 多数の都市が、河川や放水路への未処理下水やごみの投棄を規制あるいは低減 することができず、家庭や産業からの固体廃棄物の累積を止めることができない ようにみえます。

 開発途上国では、下水はほんの一部しか処理されず、健康への重大な脅威となって います。 例えばエジプトのカイロでは、下水の約半分が未処理のまま排水溝に捨てられ、 潅漑用水および家庭用水の第1の供給源であるナイル川に流出しています。 インドネシアでは、ジャカルタ近郊の何百万人ものスラム地区住民の毎日の下水 約12,500キログラムが未処理のまま、ジャカルタ湾に注ぐ9河川のひとつに 捨てられています。 コロンビアのボゴタ川は、飲用あるいは調理用の水利用ができなくなりました。 東ヨーロッパとロシアもまた、深刻な水の欠乏と汚染の問題に苦しんでいます。 中央アジア、特にアラル海地域では、水質の急激な劣化とともに腸疾患とがんの発生が 急増し、幼児死亡率が急上昇しました。 ギニアでは、1995年8月、金鉱山のダムが決壊し、何千ガロンものシアン化合物が 主要河川に流出しました。 このため、ほとんどすべての生物が死に、住民全体が危機に陥り、政府はボトル水を 緊急配布しなければならなくなりました。

 水源が複数国で共有されているところでは、問題が複雑化します。 ある国の廃棄物処分地が、別の国の飲料水の水源になっているかもしれません。 上流の森林伐採が、下流の洪水や水不足を引き起こすかもしれません。 ある国の水力発電、潅漑、あるいは公共用水の事業が、隣国の水供給を止めるかも しれないのです。 世界人口の約4割が、隣国から流れてくる水に依存しています。 複数の国で共有されている200以上の河川水系のうち、すでにいくつかでは国際紛争が 生じています。 世界の水不足が深刻になるにつれ、これらの緊張はまちがいなく高まるでしょう。

 今日、大部分のコミュニティは飲料水を井戸から得ています。 水は通常、人間の直接的接触がない地下帯水層からポンプで汲み出されます。 水質汚染防止連合によれば、世界の飲料水の9割以上が地下水です。 この水源はかつては、無尽蔵で汚染の心配はないとされてきました。 しかし、現在では次第に枯渇と汚染の危機に脅かされています。

 毎日、普通に行われているいろいろな人間活動が、帯水層の質と量の両面における 自然の安定性を損ねています。 ある地区での採水量の増加が別の地区での水の供給量を減少させ、コミュニティに 分裂をもたらすことがあります。 水路の変更や湿地の放水が、水吸収の場所と量を変えることがあります。 建物や道路、駐車場のための土地の舗装は、 地下への水の浸透、およびそれに伴う帯水層の水補充を妨げます。 地表の植生の種類と量の変化も、水循環に影響します。 洪水や長期にわたる干ばつもまた、帯水層に様々な影響を及ぼすことがあります。

 地下の水資源の管理は、地域全体の経済の未来を左右するとも言えます。 帯水層から非持続可能な仕方で水を汲み出せば、未来は悲惨なものとなるでしょう。 帯水層に水位低下が生じると、しばしば外部水源から水が補充されます。 流入水が海水のような塩水である場合や、あるいは多くの川や水路の 汚染された水である場合、悲惨な結末に至ります。 塩分や無機物、その他の物質の濃度が上昇し、帯水層はもはや飲用にも潅漑用にも 適さなくなりうるのです。

水汚染の発生源

 土壌のような自然源からも多くの汚染物質が発生しますが、 地表水と地下水の劣化の大部分に責任があるのは人間活動--工業、農業、都市、 商業等--による汚染です。 この惑星に月面のクレーターのようなあばたを与えている何千もの廃棄物埋立地は、 しばしば、捨てられた化学物質の行き先となっています。 小規模な事業所、例えばドライクリーニングや印刷業も、家庭廃棄物とともに問題を 付加しています。農業地域では、かつては土壌で分解すると考えられていた肥料や 殺虫剤が、地表水や地下水を汚染しています。 給餌場からの家畜の排泄物や、欠陥のある浄化槽からの人間の排泄物もまた、飲料水の 供給源である地下水源にしみ込んでいます。



 いくつかの国では、有害廃棄物を地下の深井戸に封入処分しています。 削岩業や採掘業に伴う塩水はしばしば、この方法で処分されています。 石炭や金属の抽出に伴う酸性廃水や、ウラン鉱山や病院および軍事施設からの 放射性廃水も、パイプラインの亀裂や輸送中の事故に伴う流出とともに、 すべて地下水汚染を引き起こします。 これらの人間活動の結果、今までに私的あるいは公的な水源の 深刻な汚染が何千も生じました。 しばしば、水の汚染は外見上何らの生物学的徴候も示しません。 そして人々は、汚染水を病気になるまで飲み続けてしまうのです。 場合によっては、人口全体が流行病にかかってはじめて水供給の汚染に気づくことも ありえます。

解決策を探る

 1980年代は「国際水供給と衛生の十年」でした。国連とNGOの活動のおかげで、 この期間に10億人以上が飲用に適した水を入手できるようになりました。 しかし残念なことに、 1990年までにすべての人に安全な水を供給するという目標は未達成です。 オランダのハーグにある「コミュニティの水供給と衛生のための国際資料センター」の 科学者たちは、すべての人に清浄な水資源を常時供給するという最終目標の達成には、 コミュニティによる水資源管理が絶対大切であると信じています。 彼らがその十年間に多くの開発途上国で得た経験によれば、 どんなに優れた水道局も、利用者の十分な協力と参加がなければ、 広域的水道網を適切に整備、運用および維持することができないのです。

 「コミュニティによる水資源管理」は、単純で魅力的な考えです。 コミュニティと外部機関が協力し、両者の有する資源を最も効果的に利用し、 信頼性の高い持続可能な水道を開発するのです。 地元の資源を地元が管理し、中央官庁はより広域的、総合的観点から最も有益な 活動に専念します。

 コミュニティによる水資源管理は、 利用者が自分の水道を管理することを意味します。 といっても利用者がすべてのことをするわけではありません。 コミュニティの水資源管理を最も効果的に行うには、パートナーシップが大切です。 コミュニティに中心をおく組織が、コミュニティ自身から、別のコミュニティから、 そして行政および民間の諸機関から資源を引き出すのです。 社会の複数のグループがそれぞれの能力と経験をもとに、努力の結集に貢献することが 可能です。以下に示すのは、清浄で安全な水供給確保のための努力の結集において、 パートナーとなりうるいくつかのグループです。

活動しよう!

 淡水資源はコミュニティの命綱であり、清浄な資源を継続的に確保できるよう、 コミュニティが参加、協力することはとても重要です。 前述した分野の人々とのパートナーシップを求めることとは別に、あなたの組織が このとても重要な問題に向けて、直接取り組める活動もあります。 以下に示すいくつかのアイデアは、 あなたのコミュニティ組織が清浄な水を確保するための活動を 始める際に参考となるでしょう。



ひとりひとりの取り組み

 つきつめると、持続可能な水使用の問題は個人に行き着きます。 以下に示すアイデアは、水を節約し、現在の水供給を汚染から守るために、 個人で実行可能な取り組みのいくつかです。 あるものは明らかに先進国でより有用であり、 他のあるものは開発途上国により適しているでしょう。

Tegucigalpaでのコミュニティの強化
(成功事例)

 清浄な水への到達困難がもたらすもう1つの問題は、その獲得-- しばしば家から何マイルも離れたところまで行って--のために費されてしまう 生産的時間の損失です。 ホンジュラスでは、粗末な小屋の立ち並ぶ人口密集地区のコミュニティのひとつが、 村に水が得られるようになって一変しました。

 コミュニティの変化は、国連児童基金(UNICEF)がホンジュラス水衛生局(SANAA)と 協力し、その一画に複数の新手法を用いて、水の供給を開始したときに始まりました。 貧しい人々に水を供給するために、幹線水道とは別のシステムが必要でした。 SANAAの幹線水道は都市の68%に水を供給しますが、すでに水不足を、特に 7カ月間に及ぶ乾期に経験していました。 その上、急速に増加する無断居住者の多くが、標高1,150メートル以上のコミュニティ に住んでおり、そこまで幹線水道を延長することは経済的に困難でした。 そこでSANAAは、郊外地区の水問題に対処する特別班を編成し、 3つの新供給手法を立案しました。 それは、独立した複数井戸の掘削、 コミュニティの貯水槽までの送水、 そして、既存水道を通じての水の売却の3つです。

 約5年間の努力の結果、諸機関とコミュニティの協力により、約5万人への 水供給が実現しました。 SANAAとUNICEFは、ホンジュラスの村々への新しい水供給手法の普及と、 新たな協力関係の構築を継続しています。 最近になって彼らは、新水道の建設に伴う商取引に関心のある企業を誘うため、 市の商工会議所にも働きかけています。 SANAA-UNICEFの定めた条件のもとで、郊外地区における月々の水道料金は、 資本金と出費の埋め合せができるよう調整されています。

 SANAA-UNICEFの方法が成功した背景には、強力なコミュニティの参加があり、 それは部分的には、元々存在していた地元組織から派生したものです。 貧困と多様な背景にもかかわらず、郊外地区の住民は、共通の目標を持っていました。 そして彼らは、コミュニティ像の立案、サービスの確保、および自分達の権利の認知 に向けて自分たちを組織したのです。 その結果生まれた地域代表制度は、地域の水委員会設立の強力な基盤と なりました。 そして、今度は委員会が地域活動の調整、および水システムの完成後の運用に 効果的に機能したのです。

霧で水需要をまかなう
(成功事例)

 人口増加と淡水資源の需要増の圧力は、しばしば、あまり例を見ない資源の発掘を 必要とします。これは、定常的な降雨に欠け、河川のほとんどない、 世界中の多くの乾燥地域によくあてはまります。 そのような地域のひとつにおいて、コミュニティの淡水需要満足のために、 霧が利用されました。 条件が揃えば、霧の水分の回収と利用はまじめな検討に値するのです。

 水を求めて霧を利用する最初の事業として知られるこの事業は、チリ北部、 Chungungoの町で始められました。 そこでは、1日1人あたりの水供給コストが8米ドルほどにも達していました。 このコストは、途切れがちでわだちのついた道を往復して水を運ぶ困難さと併せて、 村の人々の耐えがたい重荷でした。役所の補助が無かったならば、そのコストは 平均的な家庭収入の4割にまで達したのです。

 1987年11月、チリ大学と国営林業公社は、近くの山を覆う霧から 「霧回収機」を使って水分を回収する事業を開始しました。 それぞれの面積が48平方メートルの50台の回収機が、町の高台に設置されました。 回収機の材料には、チリ産の安価な2層の ポリプロピレンメッシュネットを使用しています。 このメッシュ型回収機は、エネルギーの要らない受動型の装置です。 また、回収機は居住地より高台にあるため、回収水は重力で町まで流れ落ちます。 このシステムは、1日あたり平均7,200リットルの水を回収し、それは干ばつが 3年間継続した際にも回収可能でした。

 今日、Chungungoの回収機で得られる水のコストは、事業の償還年数を20年以上 とすると、道路で運ぶ水の約4分の1、1立方メートルあたり1.87米ドルに すぎません。 システムの保守と管理は、村の人々が行います。そして、彼らの歴史上はじめて、 漁師が家庭菜園を持つことができたのです。

 この事業は今では、チリ沿岸の砂漠沿いのすべての多人口地域で、 代替的水供給システムとして普及しつつあります。 チリの事業がとても成功したため、他の国にも同様な事業が広がりました。 その中には、隣国ペルーのほか、地球の反対側の国、オマーンを含まれます。

海から淡水を得る
(成功事例)

 沿岸地域の近くに住む人の数は世界人口の8割にも達するため、 多くのコミュニティが海から淡水資源を得ようとしています。 塩水(黒水)を淡水に変える方法には、 大規模な都市用システムから簡単な家庭用装置まで いろいろあり、手法は蒸留とフィルター技術の両方が用いられます。

 1980年代始めから、インドのマドラスのFelix A. Ryan教授は、貧しい村々のための 簡単な淡水化装置の開発を研究してきました。 彼の組織、Ryan協会は、コミュニティ用の清浄水獲得のための多数の新技術導入を 推進してきましたが、そのいくつかは、例えば布、プラスチック桶、粘土など 身近なものを利用して容易に作ることが可能です。 開発途上国における環境上の功績により国連グローバル500賞を受賞した彼は、 村々や家庭はその飲み水を、何百マイルも遠方の中央政府による、 長距離で信頼性の低い水道管での送水に頼るよりも、 自らの水源を確保するほうが望ましいと信じています。

 Ryanの技術のひとつである「家庭用蒸留器」と呼ばれる装置では、 大きな桶の中に小さな桶が入っています。 大きな桶には2つの750mlの塩水(黒水)のボトルを置きます。 次に、プラスチックシートで大きな桶を覆い、その中央を押し込んで小さな桶の上部で 逆円錐形になるようにします(小さな桶とは触れないようにします)。 この装置を日中、日なたに放置すると、熱で塩水(黒水)から水分が蒸発します。 蒸気はプラスチックシートに達して凝縮し、逆円錐を伝わって、 小さな桶の中に淡水として入り込みます。 大きな桶を下から加熱すると、より多くの淡水を得ることができます。 よい結果を得るには、一晩放置して水の凝縮を促すのが望ましいと Ryanは述べています。

 Ryanは、開発途上国における持続可能性についてのあらゆる分野のために、 疲れを知ることなく働いています。同教授はインドのマドラスに拠点を置き、 持続可能かつ実用的な方法で生活水準向上に役立つ新技術を 「南」の貧しい人々に普及するために、多数の本を作成しています。

照会先:

The Ryan Foundation
8 West Mada St. Srinagar Colony
Madras 600015 India

参考文献

- Household Waste-Issues and Opportunities, CONCERN, Inc., Washington, D.C.; December 1992
- NGO Fresh Water Treaty, Global Forum / UNCED, Rio de Janeiro, 1992
- Water Profile, United Nations Environment Programme, 1990
- The Chemical Free Lawn, Schultz, Warren, Rodale Press, 1989
- 50 Simple Things you can do to save the Earth, the Earth Works Press, Berkeley, California, 1989
- Graywater Use in the Landscape, Edible Publications, Santa Rosa, California, 1989
- Safeguarding Oceans and Water Resources, Background Paper for the Interparliamentary Conference on the Global Environment May 1990
- World Resources, 1994-95: A Guide to the Global Environment, a report by the World Resources Institute with UNEP and UNDP, Oxford University Press, 1994
- Youth Action Guide on Sustainable Development, Hrabar, Dean and Ciparis, Ramona, AIESEC International, London, 1990.



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