廃棄物の問題

(Waste)

「増え続ける固体廃棄物の山、
それは腐敗タンクと下水汚泥を含め、
地表水、地下水、土壌、および大気への深刻な脅威となっています。」

--Agenda 21

廃棄物の問題についての現況

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増え続ける都市ごみ
放射性廃棄物
中毒事件
解決策を探る
活動しよう!
ひとりひとりの取り組み
家庭で
職場で
成功事例



 棄物は、どんな社会にもつきものです。しかし、現在私たちは前例のないほど 多くの廃棄物を生み出しています。「利便性の時代」は同時に「廃棄物の時代」 なのです。世界各地で現代文明は不要物を廃坑や峡谷に詰め込み、あるいは海洋に 捨てさえしています。その一部は焼却され、有毒ガスを大気中へ放出しています。 この問題は、「南」よりも「北」の先進国でより著しいものの、技術の普及、産業化、 および付随する生活水準の向上に伴い、廃棄物の問題は、「発展」の迷惑な、 見落とされがちな副産物となっています。

増え続ける都市ごみ

 2000年までに、世界人口63億人の約半数が都市に住むようになると推定されて います。そのうち、20億人以上が開発途上国の大都市住民です。1991年の 国連開発計画(UNDP)の報告書「環境の課題」は、毎年7,200億トンの都市廃棄物が 発生し、そのうち4,400億トン--半分以上--が先進国で発生していると推定して います。「先進国、開発途上国を問わず、問題は二重である。人々はしばしば、 非常にむだの多い生産と消費を行いながら、その後の廃棄物の適正処理に対しては 非常にわずかしか配慮しない」と同報告書は嘆いています。

 また、急速な都市世帯数の増加により、地元当局の対応能力をはるかに超えた 固体廃棄物が発生しています。国連人間居住センター(UNCHS)によれば、大都市で 発生する全廃棄物のうち、市当局により収集されているのは25ないし55%に過ぎず、 廃棄物の95%までもが開放性のごみ捨て場に捨てられています。その結果、 土地が使用不能になり、人々の健康が損なわれるおそれがあります。

 廃棄物処理は、世界中の政府が直面する難問です。どうすれば廃棄物を経済的に、 かつ環境劣化なしに処理できるかが、先進国と開発途上国の共通課題です。 しかし、資金不足が開発途上国の都市における選択の幅を著しくせばめています。 そこでは、家庭と産業から発生する固体廃棄物の処理に、 しばしば市の予算の半分までもが費やされます。多くの都市において、 下水道や排水処理施設が未整備です。

 廃棄物は、人の健康と環境に広範囲な、かつ時々長期的で回復不可能な悪影響を もたらします。したがって、その処理と管理は、開発途上国における今後の都市計画の 大事な要素である必要があります。また、問題解決のためには、 廃棄物発生量の削減も必要です。




放射性廃棄物

 放射性廃棄物の問題は、コミュニティや家庭に直接関係してはいませんが、 原子力の利用が世界中に広まりつつある現在、あなたのコミュニティが その問題にすぐに直面する可能性もあります。この本では、原子力に 関する情報は短く、いくつかの一般的事項だけを示します。

 1942年の原子力の発明以来、現代科学はこの惑星のあちこちに蓄積された 放射性廃棄物の適正処理について模索してきました。商業用原子力発電所からの 使用済みウラン燃料は、最も危険な放射性廃棄物のひとつです。 国際原子力機構(IAEA)によれば、世界の413の商業用原子炉は1991年に世界の 電力の13%を供給しました。これらの原子炉は同時に、1990年に約9,500トンの 使用済み燃料を発生し、世界の使用済み燃料の蓄積量は1985年の2倍の84,000トンに 達したのです。

 IAEAは、現在稼動中または建設中の原子炉が来世紀半ばに運転を停止するまでに 発生する廃棄物の総量は、450,000トンを超えるだろうと予測しています。 今のところ、すべての廃棄物が原子炉近くの水槽に貯蔵されています。中国、 フランスから英国、米国に至るまでの世界中の政府が、その「安全」な処理法の 開発に取り組んできました。地球の奥深くに、将来の世代に危険を知らせる標識を つけて埋蔵するという提案もありますが、地球は長い目でみると活動しており、 だれもいつどこで火山や地震が発生するか正確に予知できないという問題があります。 自然崩壊のプロセスだけが、何十万年あるいは何百万年もの時の経過を経て、 放射性廃棄物の放射能を消失させるのです。

中毒事件

 人間が出す全廃棄物のうち、ごく少量は「有害」です--(健康や環境の被害防止の ための特別な取り扱いや処理を必要とします)。 有害廃棄物の不適切な処理は、しばしば悲劇をもたらします。1950および1960年代 に日本の水俣と新潟で、海に流出した水銀廃棄物による汚染魚を食べたために、 約2,000人が神経性の病気にかかって手足がまひし、そのうち400人以上が 死亡しました。

 世界各地の淡水井戸が、廃棄物から漏れ出た化学物質でしばしば汚染されて います。また、米国のLove CanalやオランダのLekkerkerkのように 化学廃棄物が捨てられた土地での住宅建設が、大規模な住民避難や何億ドルもの 浄化費用を招きました。これらの問題の大部分は先進国で生じましたが、 その教訓は、今後の産業開発に伴い、より有害な廃棄物を発生しかねない 開発途上国においても学ぶに値します。

 近年、多くの国で廃棄物処理の規制が強化された結果、有害廃棄物を処理施設の より整った、あるいは規制がより緩い国へ持ち出そうとする会社が出てきました。 各国間の法令の相違--そして有害廃棄物の定義の違いさえも--が、この取引の監視を 困難にし、非良心的な取引の抜け道を作り出しています。 1984年に、フランスのと畜場跡でドラム缶入りの41本のダイオキシン廃棄物が 見つかりました。その中には、イタリアのSevesoの町の化学プラントからの 著しく汚染された廃棄物が入っていたのです。この事件は、欧州共同体が 加盟国間での有害廃棄物の取引を規制するきっかけとなりました。

 また同様に、先進国の有害廃棄物が、多くの開発途上国に運ばれています。 先進国はしばしば、自国で法令上適正な処理ができないほどの有害廃棄物を生み出し、 それを引き受けてくれる開発途上国に喜んでお金を払おうとします。 開発途上国は、輸入品の購入や借金の返済にあてるための外貨が欲しいために、 しばしばそのような廃棄物を引き受け、でたらめで危険な方法で捨てる --時にはコミュニティの近くで囲いのないまま放置する--だけにおわるのです。

解決策を探る

 多くの政府が廃棄物問題に向けて緊急の対策をとろうとしています。例えば中国では 現在、廃棄物をリサイクルしたり、リサイクル製品を使う会社に免税措置を 講じています。そのような会社のうち、最も大きく最も幅広い業務を行っているのが、 上海資源回収活用会社(SRRUC)です。この会社は、上海の人口1350万人から生じる 廃棄物をリサイクルします。SRRUCは、UNDP-世界銀行の地球資源回収プロジェクトの 技術支援を受け、廃棄物をもとにマンホールの蓋、リフトや橋の平衡荷重など多様な製品を 作っています。

 多くの政府が、国レベルでは廃棄物管理ができないことを知り、その仕事を 地元当局または NGOに委ねています。例えば、フィリピンでは NGOのひとつ Women Balikatan運動マニラ市協議会が San Juan地区の家々をうまく組織し、 リサイクルのための廃棄物分別を行っています。マリでは、UNDPのプロジェクト 「水と環境衛生サービスにおける女性の役割の推進(PROWWESS)」が、他の国連機関と ともに大卒の未就職女性を、ごみ回収、衛生指導、および家族計画助言のために 組織しました。女性たちはごみ回収協同組合を設立し、市当局との間で Bamakoの1地区のごみ回収請負契約の締結を得ました。

 政府間レベルでは、1989年3月スイスのバーゼルで116カ国が出席した会議で、 「有害廃棄物の越境移動とその処理に関するバーゼル条約」が採択されました。 この条約は、国々が廃棄物の量と毒性を減らし、廃棄物を環境上健全な方法で 管理するとともに安全にかつできるだけ発生源の近くで処理するよう促しています。 また、承認された有害廃棄物の取引を注意深く監視することも 目的としています。

 同条約は、あらゆる国が有害廃棄物の持ち込み全面禁止の権利を有すること、 また締約国が、条約に規定する廃棄物を非締約国と取引してはならないことを 強調しています。また、同時に先進国が開発途上国の廃棄物管理の改善を 支援するよう求めています。

 このような成功例を継続、発展させるには、事業者、コミュニティ組織、および 人々が廃棄物の削減、適切な廃棄物の管理と処理に、より大きな責任を果たすことが 不可欠です。廃棄物問題の解決には、世界中の市民が個人として、世帯として、 そしてコミュニティとして行動を起こさなければならないのです。

 この惑星の廃棄物問題の改善に取り組むに当たっては、「ゆりかごから墓場まで」 の観点を持つことが大事です。このことは、すべての生産過程、すなわち 原材料の取得とその環境への影響、次に製造工程とその効率性ならびに エネルギー使用、そして、製品の使用、最後は廃棄、に至るまでの全過程の考慮を 意味します。製品のライフサイクルのすべての局面、ゆりかごから墓場まで、 において環境へのプラスとマイナスの影響があり、製品購入決定時には、 これらのすべての影響を配慮するべきであるという理解が大切です。消費者として 視野を広げ、使用された製品がどのように処理される必要があるかについての 理解の向上が、私たちの消費様式の変革につながるのです。

活動しよう!

 コミュニティおよびコミュニティ組織は、社会で生じる廃棄物量に大きな影響を 及ぼすことのできる完全な主体です。あなたのグループのみんなが、声を大に することで、行政府が問題に注目し、企業が自らの責任への配慮を高めるよう 促すことができます。以下に示すいくつかのアイデアは、 活動計画を立てる際に参考となるでしょう。

ひとりひとりの取り組み

 個人レベルでの取り組みは重要であり、あなたのコミュニティ組織によって 推奨されるべきです。まず、組織のメンバーが、それぞれの家庭で 廃棄物を最小限にするために、できるかぎりのことをすることから始めましょう。 以下に示すのは、廃棄物の流れへのひとりひとりの寄与分を最小限にするために、 個人でとりくめるいくつかの活動の要点です。あるものは、 明らかに先進国でより有用であり、あるものは開発途上国でより適切でしょう。

 個人として最初にすべきことは、生活のどの部分が過剰な廃棄物を生み出して いるかの考察です。この章にはいくつかのアイデアを示しましたが、 それぞれの人の活動計画は各々の固有の状況に依存します。

家庭で

 個人が取り組みを始めるのに最適の場所は家庭です。家庭は、私たちが自分の時間の 大部分を過ごす場所であり、最も自由に事を処することができる場所でもあります。 まず最初に、毎週何をそしてどれだけのものを捨てているかを調べる 家庭廃棄物監査を行いましょう。 以下は取り組みを始めるにあたってのいくつかのアイデアです。

職場で

 あなたが就職しているならば、職場が環境保全活動の一端を 担っていることを確かなものとするために、あなたにできる多くのことがあります。 グループで仕事をしている場合には、あなたは、 環境問題について同僚や上役の人たちの意識向上を図る 絶好の機会を有しているのです。

 どんな部所にいようと、あなたの会社を環境により優しいものとするために できることがあるはずです。改革の提案、施設の改善、および生態系に優しい 業務方針を求めて発言しましょう。また、あなたの会社がコミュニティにおける 環境プロジェクトを支援するよう促しましょう。

 あなたの会社を環境により優しいものとする取り組みに、全同僚の参加を 得ましょう。みんなが改革とその趣旨を認識できるようにしましょう。 もし人々が、改革への参加を自覚するならば、多分もっと多く参加したいという 気持ちになり、環境についての熱意を家庭へも持ち帰るでしょう。 以下は、取り組みを始めるにあたってのいくつかのアイデアです。

ごみを金に変える(エジプト)
(成功事例)

 カイロの貧しいコミュニティのひとつ、Mokattamの2万人の人々は、その世界最大の 都市のひとつから出る廃棄物で生計を得ています。彼らは1日に800トンの廃棄物を 回収し、その80%をリサイクル用品に変えています。衣類は裁断してマットレスの 詰め物にされ、紙はリサイクルされ、アルミニウムは溶かされます。 回収を容易にするために、廃棄物を可燃物と不燃物に分別することについて、 カイロの人々の協力を得ています。

 ある人々は、そのような仕事は注目に値しないと考えるかもしれませんが、 Mokattamの人々は誇りをもっています。自分たちの従事する取引は、世界が次第に ごみ処分地に不足しつつある状況の中でますます貴重なものであると認識し、 尊厳をもって、すべてのことを行っています。

 カイロを本部とするエジプトのNGO 「環境保全協会」は、過去10年間、 Mokattamコミュニティと活動を共にしてきました。200名以上の女性と少女が この組織で働き、廃棄物をもとにグリーンティングカードやハンドバッグから、 上掛け、枕に至るまであらゆるものを作っています。製品は世界中に輸出されて います。従業者には定期給が支払われ、すべての利益は分配されます。勤労以外に、 すべての女性に家族計画、読み書き、保健を含むいろいろな技能研修の機会が 与えられ、1984年以降、研修を受けた女性の数は400人に達します。

 Mokattamコミュニティの活動は、カイロのごみ埋立地に運ばれる廃棄物の量を 減らすだけでなく、そのほかの数々の環境上の利益を生んでいます。事業の 企画者であるLaila Iskandarは、1994年の国連人口開発会議に出席し、このような コミュニティ開発と人口抑制との直接的な関連について、 「教育、保健、雇用、および経済的自立を通じて、家庭の子供数は自然に 減少します。」と述べました。Iskandarは、その努力が讃えられ、名誉ある ゴールドマン環境賞を受賞しました。

照会先:

The Association for the Protection of the Environment
31 Montazah Street
Heliopolis
Cairo, Egypt
Tel: (+20 2) 417-29-96

参考文献

- 50 Simple Things You Can Do to Save the Earth, The Earthworks Group, UK Edition. Great Britain: New English Library Paperbacks, 1990
- Guidelines for Action, Household Waste-Issues and Opportunities, CONCERN, Inc. 1992
- Confronting Nuclear Waste; Nicholas Lenssen; State of the World 1991; WW Norton and Company, Washington, DC, 1992
- Defusing the Toxics Threat: Controlling Pesticides and Industrial Waste, Postel, Sandra, Worldwatch Institute, Washington, DC, September 1987
- The NGO Treaty on Waste, NGO Global Forum, Rio de Janeiro, 1992
- "Nuclear Waste Disposal: Can the Geologist Guarantee Isolation?, G. de Marsily et al., Science, 5 August 1977
- Radioactive Waste: Politics, Technology and Risk, Ronnie D. Lipschutz, Ballinger, Cambridge, Mass., 1980
- World List of Nuclear Power Plants, Nuclear News, August 1991
- Ways With Waste, Kane, Sid, World Development Magazine; United Nations Development Programme "Wastes," UNEP Profile, United Nations Environment Programme, Nairobi, 1990
- What Individuals Can Do, Household Waste-Issues and Opportunities, Concern, Inc. Washington, DC, 1992.



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