エネルギーの問題

(Energy)

「人間自身とその運命に対する心づかいが、
すべての技術開発の、
常に中心的興味をなさなければならない。
...人間の心の創造物が、
人類への災いではなく恩恵であるために。」

--Albert Einstein




エネルギーの問題についての現況

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更新可能なエネルギー
バイオマス:緑のエネルギー源
非持続可能なエネルギー使用への解決策を探る
活動しよう!
ひとりひとりの取り組み
成功事例



 ネルギーは私たちが消費する製品をつくるために、 また、私たちと私たちの生産物を運ぶために必要です。 エネルギーは産業発展の原動力でもあり、農産物を市場に運ぶために、 子供を学校に運ぶために、そして人々を職場に運ぶためにも必要です。 病院の活動のために、栄養不足の人々や増加する人々に食べさせるために、 世界と競合できる産業を興すために、そして家庭での光、熱、 調理、および冷蔵のためにも必要です。

 伝統的に、低所得国の人々は、おおむね非商業的、非定常的なエネルギー源を 利用します。それらは、農業、運搬、建設および産業のための人力や動物の力、 および家庭における調理や暖房のための木材や作物くずなどです。国の開発が進み、 特に人々が村から町へと移るにつれて、彼らは今までとは異なった、より定常的な エネルギー源を必要とします。自動車や農業機械は、油やガスを必要とします。 製造産業は、石油、石炭、ガスあるいは水力から作られた電気を必要とします。 家庭では、牛糞や木材のような非商業的エネルギー源よりも、石油や電気のほうが 好まれます。従って、コミュニティを環境の悪用防止に向けた活動へ導こうと するにあたり、今注目すべき対象は、定常的あるいは商業的エネルギーの使用です。

 現在、世界のエネルギー使用の大部分は非持続可能です。私たちは、化石燃 料のような、有限で更新不可能なエネルギー源に大きく依存しています。そ してそれは、大量の汚染をもたらし、地球温暖化と地域の大気汚染の最大原因と なっています。

 エネルギーは原子力からも生産されます。原子力は、インド、中国からフラ ンス、カナダに至るまで次第に多くの国に広まりつつあり、おそらく今後も エネルギー需要の満足に、大きな役割を果たしていくでしょう。しかし、 前のソビエト連邦のチェルノブイルでの原子炉事故は、安全性にすでに懐疑的であった 大衆の原子力への信頼感を大きく揺るがしました。放射性廃棄物の処理も、 このエネルギー形態に伴う大きな問題です。

 多くの種類のエネルギー生産は、人の健康や環境へのある程度の危険性を 伴います。化石燃料の燃焼は、昔から地域の大気汚染および遠方の「酸性雨」 をもたらし、同時に、炭素放出により「温室ガス」の発生に大きく関与しています。

 現在、エネルギー生産量のほとんどは先進国で消費され、その一方で開発途上国は エネルギー需要の満足に苦労しています。この惑星の全人口の20%からなる先進国が、 世界の全生産エネルギーの約80%を利用していると推定されています。 国々の間のこのような不平等なエネルギー利用が、環境劣化に大きく 関与しているのです。

 エネルギーの非効率的利用は、すでに乏しく更新不可能な資源を過剰にむさぼる 行為であり、今日の大きな問題です。これは、比較的安価で豊富な エネルギー供給が人々を無駄の多い非持続可能な消費に習慣づけている 先進国において特に広まっている問題です。この習慣が「南」においても 採用されることのないよう、重要な教訓が先進国から学ばれる必要があります。

「北」と「南」のエネルギー消費

このグラフは、先進国と開発途上国のエネルギー消費量を比較しています。

出典: ワールドウォッチ研究所

更新可能なエネルギー

 ソーラー、風力、地熱、および水力は、すべて私たちが自然の力からどのように すれば更新可能なエネルギーを引き出すことができるかを例示しています。 ソーラーエネルギーは熱源として、あるいは光電技術により、太陽光を直接電気に 変えて利用されます。光電池は、現在では電力線の引かれていない 遠隔地での発電用から、宇宙空間の人工衛星の電源用に至るまで、あらゆる 場所で普通に使われています。ソーラーエネルギーのもうひとつの形は、 ソーラーサーマルと呼ばれ、熱と電気を作り出します。太陽光で高温に加熱した 流体を水中のパイプに通して蒸気を発生させ、その蒸気でタービンを回して 発電します。過去15年にわたるソーラー技術の進歩がそのコストを大きく下げ、 ソーラーエネルギーは多くの条件のもとで、 現在定常的に利用されているエネルギー源と競合できるまでになったのです。



 地熱エネルギーは、地球の自然の蒸気を発電に利用します。世界中で250以上の 地熱発電所が、合計最大容量13,000メガワットの電気を作り出しています。 米国カリフォルニア州の電力需要--カリフォルニア州だけで、 他の多くの国を上回るエネルギーを消費しています-- の約7%がこの自然の蒸気資源によって、 まかなわれています。また、カリフォルニア州は、1人あたりの 代替エネルギー使用量が世界中で最も大きく、風力発電によって 年間約20億キロワット時を発電し、サンフランシスコ市規模の都市の需要を 十分満たしています。毎年、風力発電のおかげでカリフォルニア州で は、1,100万ポンドの大気汚染物質と18億ポンドの温室効果ガスを大気中に放出 せずに済んでいます。

 化石燃料に比べて汚染を発生しにくく、また原子力に比べて安全ではあるものの、 更新可能なエネルギーをとり出す方法には、しばしば固有の問題があります。 多くの場合、とり出すエネルギー量に比例して広大なスペースが必要です。 また、その技術はしばしば高価であり、この分野の研究に利用可能な資金は 限られています。将来的には、更新可能なエネルギーの大規模な生産が みこまれますが、他のエネルギー技術に置き代わることは長期間ないでしょう。




バイオマス:グリーンなエネルギー源

 バイオマス--木材、動物の糞、その他の有機物質など--は、おそらく世界で最も 古くから使われてきたエネルギー源でしょう。原始時代以来、人々は植物に蓄えられた エネルギーを食物、熱、そして光に利用してきました。植物は、このエネルギーを 太陽から得て、光合成として知られる過程を通じて化合物の中に蓄えるのです。

 大部分の環境専門家が主要な懸念を抱いている商業的エネルギー源と異なり、 バイオマスの小規模な利用は地球にとってほとんど無害です。しかし、大規模な、 非持続可能な方法での利用は、全生態系をこわすおそれがあります。 現在、人々はバイオマスに、世界全体の水力と原子力を合わせたよりも 多くエネルギーを依存しています。世界資源研究所によれば、世界人口の80%を 占める開発途上国では、商業的エネルギーの消費は世界全体の約26%であるのに対し、 伝統的なバイオマス燃料については、世界全体の85%を消費しています。

 UNEPによれば、調理および暖房のために、毎年人々は 22,000平方キロメートルに及ぶ木々を伐採し、 燃やします。 木材のほとんどは木炭にされます。というのは、 木炭は軽く、燃えるときは高温で長もちし、しかも容易に、扱いやすく燃えやすい 小片にできるからです。しかし、この方法は木材のエネルギーの70%を 無駄にしています。もし、この無駄使いが続けば、2000年までに約30億人が 燃料に不足するようになるだろうとUNEPでは推定しています。

 しかし、別の方法があります。バイオマスは、家庭においても コミュニティレベルにおいても、賢く持続可能な方法で使われるならば、 環境劣化の解決策を提供します。 かまどを改良し、より細かな乾燥木材を使うことで、 木材がより効率的に利用され、環境への悪影響が減少します。アジアやアフリカの 国々で次第に普及しつつある効率の高いかまどは、木炭消費量を最大50% 低減可能です。この効率改善は、空気量の調節、かまど側面の断熱度向上による 放熱抑制、および細かな乾燥木材・木炭の使用の結果です。 また、より効率的な木炭生産法、例えば、伝統的な土締め法に代わる乾燥炉の使用 などの努力も行われています。

 このような方法は、エネルギー源としてのバイオマスの利用を、環境劣化ではなく 持続可能性達成の道へと導くものです。そのほかのバイオマスの利用、 例えば廃棄物や残余物に潜在するエネルギーの利用も、持続可能な選択肢 のひとつです。例えば、農業活動により、市場価値のある穀物以外に大量の茎、穂軸、 わら、葉柄などが生まれます。それらは肥料として最も潜在的効用がありますが、 エネルギー源としても利用可能です。材木業の副産物である小枝、鋸くず、 その他の残余物も同様に利用可能です。

 バイオマスをエネルギーに変えるには、いくつかの技術があります。基本的な ものとしては、火を通じてエネルギーに変える方法、例えば産業ボイラー; 熱を通じて変える方法、例えば木材からのメタン生成;バイオマスを分解する バクテリアや酵母菌を通じて変える方法、例えばとうもろこしからのエタノール生成; バイオマス原料の化学組成を変え、エネルギー効率を高める方法、 例えば野菜油をバイオディーゼル(ディーゼルエンジンに使用可能な クリーンなバイオ燃料)に変えるなどがあります。

 エネルギー源としてのバイオマスの利用は、更新不可能な化石燃料から引き出す エネルギーに比べて環境上多くの利点があります。バイオマスによるエネルギーは、 大気中への炭素放出量が一般的にずっと少ないため地球温暖化への寄与が小さく、 また、放出された少量の炭素は、新しい植物物質がエネルギー生産に使われた 元の植物物質に置き代わる際に吸収され、循環を形成します。

非持続可能なエネルギー利用への解決策を求めて

 近年の急激なエネルギー価格の上昇をうけて、工業国の人々はエネルギーの 効率的利用により関心を示すようになりました。過去数年間、多くの 省エネルギー技術が開発されるとともに、世界は、より省エネ型の製品、サービス、 およびよりクリーンな燃料の利用促進へと動いています。これらの発展は、 エネルギー消費が異常に高い先進諸国における良い方向への動きです。

 エネルギー効率の改善は、エネルギー源の利用を減らし、その枯渇を 遅らせるだけでなく、大気中へのCO2放出のような、環境と健康への マイナス影響を低減します。効率改善には、人々の生活習慣の変更、 行政の持続的な取り組み、および産業界、商業界の環境上クリーンな新技術導入への 協力が必要です。また、先進国はこれらの新技術を開発途上国が容易に利用できる ようにすることも必要です。

 コミュニティには多くの課題があります。それは、化石燃料への依存低減、 エネルギー効率改善、および教育・啓発キャンペーンを通じての省エネ促進です。 これらは時間を要する課題です。そして、あらゆる地域の人々が生活様式を変え、 消費と生産の様式を変え、態度を変えなくてはなりません。さらに、 先進国においても開発途上国においても、個人、コミュニティ組織、行政、 および事業者が、エネルギー問題について自らを教育し、より効率的で 環境にやさしいエネルギー利用に向けて力を合わせて取り組む必要があります。

活動しよう!

 エネルギー消費の低減に向けて、コミュニティ組織は大きな貢献が可能です。 以下に示すのは、あなたの組織があなたのコミュニティにふさわし い解決策を見出すためのいくつかのヒントです。

ひとりひとりの取り組み

 個人レベルでの活動は重要であり、コミュニティ組織によって推奨されるべきです。 まず、組織の個々のメンバーが、家庭でも職場でもエネルギー効率に 関心をもつようにすることから始めましょう。以下に示すのは、エネルギー効率に 関してひとりひとりができる重要な取り組みのいくつかです。あるものは、 先進国でより役に立ち、あるものは開発途上国により適しているかもしれません。 しかし、「北」においても「南」においても、ほとんどの商業的エネルギーは 同様な資源に由来し、また、エネルギーの利用は世界のすべての地域に等しく影響する 問題であるため、世界の片方で効果のある方法は、 もう片方においても応用可能でしょう。

バイオガスの成功
(成功事例)

 多くの開発途上国が、長年、電気に代わる実用的な新エネルギー源を 探してきましたが、その結果、有機物質の醗酵作用を通じて得られる エネルギーが発見されました。このエネルギー源は、バイオガスと呼ばれ、 特に家畜などの動物の多い農業社会において役立つものです。 ただし、バイオガスには欠点もあります。というのは、それは貴重な肥料として しばしば必要な資源を消費するのです。

 バイオガスを生成するには、村の家畜等の下ごえをバイオガス同化器へ投入します。 すると、60:40のメタンと二酸化炭素の混合物が発生します。これを調理や 電灯源、および飲料水ポンプの駆動に利用するのです。残余物は、肥料として 利用可能です。ただし、元の下ごえほどの効果はありません。

 中国やインドなどでは、家庭サイズのバイオガス同化器が比較的普通に 使われるようになりました。中国で現在使われている同化器の数は、推定4.6百万に達します。 家庭サイズの同化器よりも、コミュニティサイズの同化器のほうが より経済的ですが、コストと利益を村人間で公平に分配することの困難さから、 家庭サイズの方がより普及しています。

 南インドの Pura は、大規模なバイオガス同化器の導入に成功したコミュニティの ひとつです。1991年に Pure は、87世帯と248頭の家畜を有していました。 約半数の世帯は、信頼性の低い送電線網から電気を得ていました。

 Pura のバイオガス事業も当初は信頼性が高くありませんでした。 多くの支援と尽力、および複燃料エンジンの追加後、やっとバイオガス同化器が コミュニティのエネルギー源として効果的に機能しはじめたのです。 現在、同化器からのバイオガスは濃縮器を通り、ディーゼル燃料と 混合されて発電機を駆動します。こうして得られた電気は蛍光灯を灯し、ポンプを 駆動して水を高度50mのタンクに導きます。水はそこから重力によって 9つの道路水栓、29の家庭水栓へと流れていきます。

 バイオガスシステムには多くの利点があります。それは、クリーンで、他に 依存せず、更新可能で、なおかつ経済的です。そして、良質な飲料水の容易な入手を可能にしました。 さらに開発途上国のほとんどの送電線網による電気よりも良質で信頼性の高い 電灯を供給します。 現在、インド政府はコミュニティバイオガスプラントを財政支援し、 毎年新規プラントの整備目標を設定しています。

アフリカの太陽を利用する
(成功事例)

 マラウィの J.Sonke に新しいアイデアがひらめいたとき、それは太陽のように 輝いていました。ひとつのアイデアは、自然資源をその可能性の限度まで 利用することによって、自分の国の木材燃料や輸入燃料、および輸入品一般への依存を 減らすことでした。Sonke が利用しようとした自然資源は、地球、水、太陽、そして 人々でした。

 アイデアを求めて空を仰ぎ、Mr. Sonke は太陽の潜在力に着目しました。 そして、それをソーラー温水器に応用しました。彼はソーラーエネルギーが 低コストで環境に良いことを知り、この貴重な技術について、彼に可能な すべてのことを学びました。1984年、彼はソーラー温水器の製造会社を興し、 事業開始1年後、マラウィ政府がその最大の顧客となりました。その後、 10年間に1,000以上の温水器が生産され、マラウィ全土および他の近隣アフリカ諸国の 病院、学校、保健センター、援護施設、そして個人の住宅にまで普及するに 至りました。

 Sonke の会社は、1984年にわずか5名の従業員で生産を開始し、最初はおもに村々の 援護施設に温水器を供給しました。10年後、ソーラー温水器の製造工程は十分に 確立され、現在彼の会社は世界で最も多くの種類の温水器を供給しています。 温水器の容量は、75リットルから5,000リットル以上までに及び、 多様なモデルが様々な屋根の形、水供給の条件、および建築上の要求を満たすべく 開発されました。

 会社は成長しています。従業員は100名を超え、子会社もできました。Sonke は今、 彼の国に必要なエネルギーと資源の開発のために、持続可能な方法で地球を活用する 新たな道を模索しています。彼は、彼の最大の自然資源が 自身の英知と意欲であることを証明しました。

参考文献

- 50 Simple Things You Can Do to Save the Earth, the Earth Works Group, the Earth Works Press, Berkeley, California, 1989
- 101 Ways to Really Save the World, BBC Wildlife Magazine's Ultimate Guide to Getting Involved, Baines, Chris, BBC Wildlife Magazine, March 1993
- A Primer on Environmental Citizenship, Environment Canada, Ottawa 1993.
- Bioenergy and the Environment, Pasztor, Janos and Kristoferson, Lars A., Stockholm Environment Institute, Westview Press, USA 1990
- "Green Energy," Nucleus, the Union of Concerned Scientists, Boston, Mass., Fall 1993.
- The Financing of Electric Power Projects in the Developing Countries for the 1990s, Andrew Barnett, the World Bank, Washington, DC, 1994.
- Energy for a Sustainable World, Jose Goldemberg and Thomas B. Johansson, Wiley Eastern, New Delhi, 1988
- Energy Options for Africa, Environmentally Sustainable Alternatives, Karekezi, Stephen and Mackenzie, Gordon A., Zed Books, London 1993
- A New Environmentally Sound Energy Strategy for the Development of Sub-Saharan Africa, African Energy Policy Research Network, Nairobi, Kenya, 1992
- World Resources, 1994-95: A Guide to the Global Environment, a report by the World Resources Institute in collaboration with UNEP and the United Nations Development Programme, Oxford University Press, 1994.



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