第1章 地球環境

(The Global Environment)

「私たちは地球である--植物や動物が私たちの養分となって--。
私たちは雨であり海洋である--その流れが私たちの血潮となって--。
私たちは陸上の森そして海洋の植物の息吹きである。
...コミュニティの網目の中で、私たちはすべてつながっている。」

-- David Suzuki, from "The Declaration of Interdependence"



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原因と結果
生態系
地球の資源
人と地球の関係の変化
地球規模での人々の対応
広まりゆくコミュニティ活動


 命を全体的な体系--ひとつの完全な、相互に依存し、相互に働き合う体系-- の中でとらえる見方は、多くの人々が世界を見る見方とは異なります。私たち の多くは、世界をばらばらな部分の集まりとしてとらえ、生命の目的や出来事 を、それらをつなぐプロセスを無視してとり扱います。時々、私たちは世界を組 織化してとらえようと試みますが、実際には心の中では部分部分に分離して いるのです。私たちの多くは、自分がいろいろな複数の体系の一部であり、 それらの体系はまた、より大きな体系の一部であることに気がつきません。

 これらの体系のひとつ--その最も大きくて最も複合的なもの--が生態系であ り、その中で私たちは生きています。そして私たちは、生物圏(biosphere) の一部をなしています。生物圏はこの惑星を薄く包み、その中で 生命体が生きています。生物圏の一部は水中に、一部は大気中に、そして 一部は地中にあります。生物圏は草、木、昆虫、魚、微生物などを含み、人間 もその一員です。

 生命が他の生命体と相互につながって存在しているという認識は、他を思い やる気持ちをもたらします。私たちは、つながりを感じないものに対しては、何 の義務も感じません。私たちがその一部をなしている生物コミュニティ に対しても、私たちとどのように相互作用し影響しあっているかを 知らないならば、何の責任も感じないでしょう。このつながりの感覚がない とき、私たちは地球を害する無責任な行動をしてしまう可能性があるのです。

原因と結果

 ひとつの物体があらゆる面でつながっているのと同様に、すべての出来事も つながっています。原因と結果の法則によれば、ひとつの出来事は別の出来事 を生み、この出来事はまた別の出来事を生むという具合につながっています。 私たちが始めた出来事の連鎖は、遠く私たちが制御できないところまでつながっ ていきます。この過程において、マイナスの出来事はマイナスの連鎖を生 み、プラスの出来事はプラスの連鎖を生むようにみえます。

 たとえば、汚染(マイナス)は人々の肺を傷める物質を大気に満たし、上空 に上って地球温暖化を促進し、酸性雨となって地表に戻り、森を枯らし、湖を 無生物化します。そして、この惑星の防護服であるオゾン層を壊 しさえします。これらの出来事のひとつひとつが、別の出来事の連鎖 を引き起こすのです。逆に、ひとつの単純な行動であるリサイクルは樹木を 不要な伐採から救います。樹木は大気中の炭素を吸収し、地球温暖 化の進行を抑えます。あるいはまた、出来事には多くの目に見えない結果が伴う ことがあります。例えば、あなたがリサイクルセンターへ古新聞の束を 運ぶのを目撃しただれかが、自分ももっと環境にやさしくしようという気持ち になるかもしれません。活動の連動は、単一の活動に比べて、ときどき非常に 大きい効果をもたらします。これがコミュニティの力です。可能性は無限です。 何ができるかはアイデア次第です。

生態系

 生態系は植物、動物、その他の生命体、および、それらの生存環境の 非生命要素体で構成される体系です。 私たちの環境は土、大気、水あるいは火といった私たちを とりまくすべてのものから成り立っています。私たちの経験するすべて が私たちの環境の一部であり、同時に私たちも環境の一部をなしています。 生命体とその環境とは離れ離れのものではありません。 非生命環境の物質分子が動物にとりこまれてその一部となり、 最後には栄養素となって環境に戻るということがあります。 これは、私たちの食べ物についてあてはまります。その一部は、私た ちの体を形づくり、一部はエネルギーとなり、私たちの活動を通じて環境に作 用します。また、別の一部は排泄されます。私たちが死に至ると、私たちが環 境から借りた身体は環境に戻ります。このように、生命体とその環境とは、ひと つの世界の、相互につながり、相互に依存しあう2つの側面なのです。

 生態系はまた、広い意味での生命のコミュニティです。地球規模の生態系 の中には、より小さな生態系のグループが存在し、そのひとつひとつが生命体 のグループとその周りの物理的環境からなり立っています。生態系の生命要素 と非生命要素とは、化学物質の循環に伴う活性エネルギーの流れを通じ て結ばれています。

森林

 森林は生態系が複合システムであることを示すよい例です。 森林は大気、土壌、水、栄養素、動物、鳥、昆虫、微生物、樹木、 その他の植物などから成り立っています。樹木が伐採されると他の構成要素も 影響を受けます。動物や鳥は生息地を奪われ、土壌は侵食され、 栄養素は流出します。水の流れも変わるでしょう。

 生態系の概念は非常に重要です。それは、すべてのものが他のすべてのも のと関わりあい、相互につながっているという大事な洞察を与えます。地 球の生態系のどの部分も、他の部分と独立しては存在しえず、他に影響を与え ることなしに自らが影響を受けることはないのです。時とともに生態系は変化 します。しかし、この変化は自然で、それとわかる形で繰り返されます。 例えば、森林の樹木種の構成は、時とともに予測可能な形で変化するのです。

地球の資源

 今私たちが経験している生態学的問題の多くは、地球の資源や生態系の 非合理的な利用から生じています。私たちが自然を自分たちとは 独立したものとみなすとき、自然は単に利益を生み出す資源の源に しかすぎません。私たちは、大気から、大地から、水から、そして生物圏の生 命体からさえ資源を引き出そうとするのです。

 資源は、更新可能か更新不可能かのどちらかです。石油や鉱物など更新不可能 な資源の多くは、地下の奥深くから産出します。このため、地球の生態系は これらの資源とはほとんど接触せずに進化してきました。その結果、これらの 資源の多くは生命体にとっては異質なものであり、場合によっては生態系を乱す有害 なものなのです。環境問題の多くが更新不可能な資源の採取、処理、輸送、使用 そして廃棄から生じています。例えば、採掘のための土地利用は、しばしば人 間や多くの野生生物の生息地を乱し奪います。鉱物の精錬や石油精製は、し ばしばまわりの大気、土壌、水に、汚染物質を排出します。

 このような活動は、人間や野生生物の生息地を劣化させ、健全性をひどく損 なうおそれのあるものですが、同様に、燃料の漏えいや流出も環境を損なう おそれがあります。 また、更新不可能な化石燃料の燃焼は地球温暖化やスモッグ、酸性雨の 原因となり、同様に、更新不可能な資源からつくられた製品は、再利用 ・リサイクルされなければ、廃棄され、処理場を埋めつくすのです。

 これらの弊害は、最終的にはすべての人になんらかの形でコストとなって はねかえってきます。例えば、木材産出量や漁獲量の減少、呼吸器障害の治療 コスト、石油流出による汚染地域の復旧コストなどの形であらわれ てくるのです。

 そもそも、地下からとり出される更新不可能な資源は持続可能ではありませ ん。埋蔵量は有限で、時とともに増加することはありません。少なくと も私たちのタイムスケールの枠内では新たに作られることもなく、結局、 尽きてなくなるのです。

 更新可能な資源についても、もしそれを枯渇するほどにまで利用する場合に は、別の多くの環境問題が発生します。例えば、仮に森林が年間5%の割合で 自然拡大するとき、木材産出量が5%ならば木材産業は持続可能です。現実上 、森林は資産であり、5%は利益となります。しかし、もし木材産出量が 年間10%、20%、30%...と増加するならば、やがて、その資産は使い果たされ、産業 は持続性を失います。--森林は完全に枯渇するのです。

 エネルギーに関する章で述べますが、更新不可能な資源の利用目的の大部 分は、産業と快適な生活水準の維持のためのエネルギー生産です。しかし、少しづつ、 更新可能なエネルギー形態、たとえばソーラーパワー、風力、地熱などが、 効果的・効率的な、そして最も大事なことですが、持続可能なエネルギー源とし て利用されるようになってきました。

 社会が、更新不可能な資源から更新可能な資源へと急激に移行することは 困難でしょう。最善の道は、多分、社会条件に応じて両者をうまく組み合せて いくことでしょう。持続可能性追求のために、資源の賢い利用が強調され るべきです。更新不可能な資源を利用する場合には、汚染や廃棄物、 あるいは過剰利用によって環境が損なわれることのないよう最大の注意が必要です。 可能性があれば、 有効・適切でかつコスト面にも優れた更新可能な代替資源を見つけるための創 造的実験が行われるべきです。どんな場合でも、資源が更新可能であってもなくても、 エネルギーの無駄使いをしないよう、賢い利用と保全が必要です。

人と地球の関係の変化

 人間は、生態系を構成する多くの種のひとつにすぎません。この惑星の他の仲間 たちと同様、私たちは環境と相互作用し、その過程で環境をある程度形 づくっています。しかし、他の生物種と異なり、私たちがその過程で果たす役割 は、時とともに急激に変化してきました。私たち人間は多くの面、特に生 態系への、よいあるいは悪い影響の及ぼし方の程度において独特です。 大昔から、火の使用は動植物相を変え、農民は森を伐採して家畜を飼い、 初期の文明は潅漑によって砂漠を変貌させました。

 私たちの環境への影響はより大規模で、より急速になり、性格も変化しました。 かつては、影響の範囲は小地域に限られていましたが、 今では空前の規模で地球自体を変えようとしています。かつては、何十年 も何百年も要した変化が今は数年で生じています。かつては、私たちの地球へ の影響はとるにたらないものでしたが、今ではこの惑星の生命維持システムの基 盤に変化を与えています。

 私たちが生態系にこのように大きな影響を与えるに至った要因はいくつかあ りますが、急速な人口増大と化石燃料を基盤とする産業社会の発達が、環境へ の影響を劇的に加速したのです。

 しかし、私たちと環境の関係のこのような変化は、すべて悪ではありません。 食糧生産の増加や医療分野の進歩は、人類を全体として過去の世代とはずっ と健康で栄養豊かにしてくれました。その一方で、私たちの活動の意図しない 結果として、とりわけこの200年間に重大な環境破壊が生じるに至ったのです。



地球規模での人々の対応

 地球の複雑な生態系を管理することはできないし、試みるべきでもないでし ょう。しかし、私たち自身の行動を管理することは可能であり必要なことです。 生物種として、私たちがその一部をなす生態系との関係をいかにうまく保って いくかを学ぶならば、環境を損なわずに私たちは栄えることができるでしょう。 ここでも鍵となるのは持続可能性です。将来世代の繁栄のために地球を健康に 保つためには、環境から再生産される以上のものを奪わない範囲で、 すべての人にとって快適な生活水準を達成し、維持する道を見出す必要があります。

 このような考えは、1972年にスウェーデン・ストックホルムにおいて113ヵ国 が参加して開かれた国連人間環境会議において、討議の中心におかれました。この 会議は、深刻化する環境問題に対処するために、世界中の国々の代表が集まっ た最初の会議です。会議の終わりには、国際協力の新時代の基礎をなす文書に ついて合意ができました。「宣言」と「行動計画」は、世界で最初の地 球規模の環境行動計画であり、109の国内・国際行動の勧告と150以上の個別 提言を含んでいます。これらは、1970年代および1980年代における国際的環 境法の発達の基礎となり、同時に会議の合意事項を展開するための しくみとして、国連環境計画 UNEPが設立されました。

 ストックホルム会議後 100以上の国々で環境省や環境庁が誕生しました。 そして、環境を守るための多数の法律が施行されました。また、ストックホルムの 会議をきっかけとして、環境と開発に関する世界委員会--議長であるノル ウェーの首相 Gro Harlem Brundtlandにちなんで、ブルントランド委員会という名 でも知られています--が生まれました。同委員会は、報告書「私たち共通の未来」 の中で、環境と開発に関する地球規模の会議の開催を呼びかけました。国連総会 はこれに答え、地球サミットとして知られる1992年の国連環境開発会議の開催を 決議しました。

 この2度目の会議は、ストックホルム会議後20周年目に開催され、184ヵ国の政府最 高レベルの人々が出席し、持続可能性および環境と開発の問題について討議し ました。3年間にわたる準備会合および2週間の本会議を経て、各国政府はこの惑 星の持続のための処方箋を記した「アジェンダ21」という表題の800ページ に及ぶ文書に合意しました。この表題は、その中に記されたすべての勧 告が、21世紀初頭までに実行されることをめざして命名されました。このほか、こ のサミットでは、生物多様性と気候変動についての2つの法的拘束力をもつ条 約と、森林原則--これは林業についての条約の基礎となりうるものです--およ びリオ宣言が生まれました。

広まりゆくコミュニティ活動

 ストックホルム会議後に誕生した10万以上の環境団体は、リオで大きな高揚 をみました。NGOのコミュニティが政府間の問題に前例をみないレベルで関 与したのです。リオ会議をうけて、アジェンダ21は、この惑星の環境と開発の危 機への持続可能な解決をめざす活動に、すべての政府がコミュニティ組 織とともに完全に参加することを求めました。それ以後、市民組織と政府と の間に、アジェンダ21を実行するための新しいパートナーシップの時代が築 かれたのです。

 今日、地域コミュニティは、持続可能な生活に向けての地球的規模での移行の ために必要な多くの活動に参加しています。豊かな国でも貧しい国でも、多く のコミュニティ組織が活動しています。それらの組織は、あるいは他の組織と 協力し、あるいは政府とともに持続可能で健全な惑星の創造に向けて 努力しています。世界中の市民グループが、現在の自分たちの生活が、この惑星と将 来の世代の幸福を損なうことのないようにと活動しているのです。

参考文献

- 50 Simple Things You Can Do to Save the Earth The Earth Works Group, The Earth Works Press, Berkeley, California, 1989
- A Primer on Environmental Citizenship, Environment Canada, 1993
- Beyond the Earth Summit, Lerner, Steve, Common Knowledge Press, 1992
- EARTH Audit, the United Nations Environment Programme, Nairobi, 1992
- Filofax Guide to Green Living, Elkington, John & Hailes, Julia, Filofax Ltd., 1990
- Our Common Future, The World Commission on Environment and Development, Oxford University Press, 1987
- Saving Our Planet: Challenges and Hopes, the United Nations Environment Programme, Nairobi, 1992
- World Resources, 1994-95: A Guide to the Global Environment, a report by the World Resources Institute in collaboration with UNEP and the United Nations Development Programme, Oxford University Press, 1994.



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