福井県のアメニティ・マスタープラン
ごあいさつ
来るべき21世紀に向けて、県では、平成元年1月に「美しく、たくましい、福井を」基本理念とする新長期構想「福井21世紀へのビジョン」がスタートしました。
住みやすさ、働きやすさ、楽しさなどに満ちた「生活満足度日本一の人口100万人県・福井」を目指し、現在、各種の施策を積極的に展開しているところです。
幸いにも、私たちの県土は、「越前若水」という言葉に象徴される豊かな自然と情緒あふれる歴史に恵まれています。ビジョンの実現に当たっては、こうしたふるさとの良さを生かしながら、また、郷土への誇りと愛着を培いながら、快適で住み良い、アメニティ豊かな環境をつくりあげていくことがとりわけ重要になってきております。
この「アメニティ・マスタープラン」では、県下各地における快適環境づくりへの取組みを紹介するとともに、本県における快適環境の将来ビジョンとその実現に向けての施策や配慮事項を取りまとめております。
今後、本プランの活用を通じて、また、市町村をはじめ県民の皆様の積極的な御理解、御協力により、快適で住み良い「まち」や「むら」が県下各地につくられるよう努力してまいります。
終わりに、この計画の策定に当たり、貴重な御意見、御提言をいただきました福井県アメニティ・マスタープラン策定協議会の委員の皆様をはじめ、御協力をいただきました多くの方々に、厚くお礼を申し上げます。
平成2年3月
福井県知事 栗田 幸雄
T アメニティ・マスタープランの基本的考え方
T−1 今なぜ、アメニティが求められるのか?
身近な生活空間における環境問題の発生
私たちの福井県は、おおらかな海、雄大な山並み、輝く川といった豊かな自然に恵まれています。このような中で、県民と行政が一体となり公害や自然破壊の未然防止対策を進めてきたことにより、全般的な環境の状況は良好に維持されてきています。
しかしながら、私たちの周囲をみまわすと、近年、家庭雑排水による水路や河川の水質汚濁、カラオケ騒音等の近隣騒音、道路・河川・海岸に散在するゴミや空き缶等の身近な生活空間における環境問題がクローズアップされてきています。
このような背景の中でこれまでの規制型の公害対策だけでなく、『地域住民自らが、環境に対する共有意識、気くばりの心を持ちながら、積極的にそれらを守り、育てる』といった、県民一人ひとりの身近な環境に対する働きかけが必要となってきています。
県民の生活に関する価値観の変化
経済社会が発展し、成熟化してきたことに伴い、人々の生活に対する価値観も多様化、高度化してきています。そして、これまでの、利便性や経済性のみを追求した時代から、日々の生活にゆとり、やすらぎ、うるおいを感じさせる生活の質の向上を望み求める時代へと変化してきています。
本県においても、生活環境は着実に向上してきました。近年の「ふるさと創生」、「むらおこし、まちおこし」などの地域活性化を背景に、イメージアップ戦略=A街並み景観づくり≠ネどをテーマに住民参加の活動が展開され、地域の生活を豊かにしていくことに対して意欲的になっています。こうした中で、『地域住民自らが、地域の良さや地域の誇りを発見、アピールし、積極的にそれらを守り育てていく』といった県民一人ひとりが実践する身近な美を再発見、創造が必要となってきています。
福井県新長期構想の推進
本県では、昨年度に新長期構想「福井21世紀へのビジョン」を策定しました。
21世紀への地固め、フレッシュ福井の創造を図るこの構想では
『美しく たくましい 福井を』
を基本理念として、
「内面的美しさ・たくましさ」
暮らしにゆとり、うるおいを求めるライフスタイルの創造や思いやりがあり、文化性を重んじる新しい県民性の醸成等
「外面的美しさ・たくましさ」
技術開発力やデザイン力の向上による産業の高次化、都市景観や交通・情報基盤の整備等
をめざしています。
このように、「県民一人ひとりの身近な環境への働きかけ」、「県民一人ひとりの身近な美の再発見、創造」、県土の将来像である「美しく たくましい 福井を」の推進に向けて、県民と行政が一体となって進める快適な環境づくり、すなわちアメニティの創造≠ェ重要な課題となってきています。
T−2 アメニティとは?
(1) アメニティという言葉の意味
アメニティという概念は、19世紀後半のイギリスの都市環境対策に発端をおき、当時の識者によるアメニティの定義づけを総括すると、「人々が望む生活様式に対応した生活環境が備わっていること」と言えます。
一方、我が国においては、アメニティという概念は
『環境の快適性』や『住み心地の良さ』
と解されています。具体的には、すがすがしい空気や清らかな水辺、豊かな緑や歴史的な雰囲気、美しい街並みや風景、安全で利便性の高い生活空間、心優しい人間性といった優れた要素に、人々が、生活する中で、容易に触れ合える状態としてとらえられています。
また、最近ではさらに拡大して、上記のような好ましい状態を
「人々がつくる活動」としてもとらえられています。
このように、アメニティとはその意味する内容が広く、また、地域の特性や人それぞれのアメニティ観により、多様に変化するものとして、多義的で流動的な概念といえます。「アメニティは、定義するよりも認識することが大切だ」と言われるゆえんであり、実施していくことに意義があるものです。
これらの観点から、アメニティと言う言葉をあえて定義づけるとすれば、
『その土地からではの住み心地の良さ』あるいは『その土地ならではの住み心地の良さづくり』
ということができます。
なお、『住み心地の良さ』を構成する要素として、これまでの行政施策や県民ニーズにおいては、県民が生活していく際の安全性や保健性、利便性や清潔性に焦点が置かれてきましたが、今日的課題としては、それらに加えて好感性や美感性といった、人間の感性に関わる要素の重要性があげられてきています。
したがって、本計画では、これらの要素が互いにいかしあい、バランスが保たれ、地域の風土や地域住民の意識と真に調和している状態を住み心地の良い環境、すなわちアメニティ≠フ意味とし、このような状態を守り、つくるといった人々の行動をアメニティづくり≠フ意味するところとします。
(2) アメニティづくりの基本的考え方
アメニティづくりの基本は、『その土地ならではの住み心地の良さ』の追求にありますが、これを実現していくためには、その土地の住民(地域住民と行政の総体)が、以下に示す4つの基本的考え方に留意しながら実行していくことが必要です。
地域らしさを知り、地域らしさをいかしながら アメニティづくりは、地域それぞれが持つ自然的、歴史的、社会的特性や、そこに住む人とその行動から譲し出される地域の「らしさ」−個性−を基盤として成り立ちます。
したがって、アメニティづくりは、住民が地域の姿を再度見直し、その地域の「らしさ」とは何だろうか、それらを守り、育てるためには、何をすればよいのかを考えることから出発し、常にそれを意識しながら、それぞれの行動を起すことが大切です。
地域の望ましい暮らしを考え、一致協力して アメニティづくりは、住民一人ひとりが、自分たちの「まち」や「むら」をどういう風にしたいか、どのような「まち」や「むら」なら快適に暮らせるかを考えることが出発点となります。そして、みんなで考え、決めた快適な街の姿が住民すべての共通認識となって定着し、その実現に向けて、住民一人ひとりが自分たちの役割を認識しながら、一体的に行動していくことが大切です。
地域への誇りと愛着を培いながら アメニティを守り、つくり出し、これを享受するのは住民です。このため、アメニティづくりは、住民の「環境はすべての人の共有財産である」、「自分たちがつくっていく」といった意識の高揚やコンセンサスの形成が、重要な鍵を握っていると同時に、最も確実な実現への証しともなります。
このようなアメニティづくりの経過の中で、地域に対する誇りと愛着が培われ、さらなるアメニティづくりへの活力源となります。
将来を見据え、地道に アメニティづくりは、目先の評価にのみ頼ることなく、遠い将来を見据え、人々の十分な議論の中で、未来への財産として地域の望ましい姿を模索しながら進めていくことが必要です。
また、息の長い地道な努力の積み重ねによってつくられるものであり、着実に前進していく継続的な取り組みが大切です。
T−3 アメニティ・マスタープランとは?
(1) アメニティ・マスタープランの目的
福井県アメニティ・マスタープランは、21世紀に向けた県土の将来像を明らかにした「福井県新長期構想」を、具体的に推進していく計画の一つとして位置づけられます。
また、本県の自然、歴史、生活文化の環境特性と県民のアメニティに関するニーズを踏まえた上で、
・本県のアメニティの将来ビジョンを示し、県民と行政が一体となって進めるアメニティづくりを普及・促進すること
・アメニティ実現に向けて、重視すべき環境施策・活動等を整理すること
の2点を目的とします。
(2) アメニティ・マスタープランの役割
本アメニティ・マスタープランは、現在までに進められてきたアメニティづくりのための行政側の施策や、県民の活動を基本的条件として尊重した上で、今後、県民や各行政のアメニティづくりを推進するための啓発計画として位置づけ、次のような役割をもちます。
アメニティづくりを展開する際のガイドブックである アメニティづくりは、地域らしさをいかしながら、また、地域の望ましい暮らしを考え、一致協力しながらつくっていくものです。したがって、本プランは、県民および行政が、今後の各種施策・事業を展開していく際に、地域らしさとは何か、それらを生かすためにはそれぞれが何をすればよいのか、また、どのような方法があるのかなどの基本的な指針、情報を示すものとします。
アメニティづくりのムードを盛り上げるためのPR書である アメニティづくりは、地域に住む人の地域に対する誇りと愛着を培うことが大切です。したがって、本プランは、県民および行政がアメニティづくりの必要性目覚し、積極的に参加推進していこうというムードを盛り上げるためのPR書とします。
アメニティづくりの計画策定手引き書である アメニティづくりは、将来を見据え、地道に取り組んでいくものです。また、基本的に市町村と地域住民が主体となり、協力してつくりあげていくものです。したがって、本プランはアメニティの将来ビジョンや施策展開の方向を示すとともに、市町村がアメニティづくりの計画を策定しようとする際に、その基本的な考え方や計画の構成等について、参考となるべき事項を示すものとし、さらに、その積極的な策定を促すものとします。
(3) アメニティ・マスタープランの構成