福井県環境教育基本方針

はじめに
策定の趣旨
T 環境の現状と課題
 T−1 環境の現状
 T−2 環境に対する県民の意識
 T−3 環境上の課題


はじめに

 私達を取り巻く環境には、自然、文化、歴史など豊かで美しいものが数多く見られます。
 環境は、さまざまな価値を生み出す貴重な資源であり、私達は、この環境を県民共有の財産と認識して、有効活用を図りながら、健全な状態で次の世代に引き継ぐ責任があります。
 また、県民の間では、アメニティ(快適環境)の創造を求める意識や行動が高まっております。
 そこで、新長期構想「福井21世紀へのビジョン」においては、21世紀に向けて県政が進むべき方向を明らかにするとともに、その基本理念として「美しく たくましい福井を」を掲げました。
 この基本理念の実現を目指すうえで、環境の保全や快適環境の創造を推進することは極めて重要です。
 このためには、環境の汚染や破壊を防止するとともに、親しめる水辺、うるおいのある街並みなどといった環境の整備を進めていかなければなりません。
 また、人間活動が環境に与えるさまざまな影響を考え、県民一人ひとりが環境に配慮した行動をとるということが大切であると思います。
 一方、都市化の推進や日常生活の多様化に伴う都市・生活型公害が増加し、日常生活が地球環境とも密接な関係にあると言われています。
 このような状況の中で、最近「環境教育」という言葉が使われ始めましたが、これは、人々が生活の大切さや人と環境との好ましいかかわり合いについて、責任ある行動がとれるように、家庭や地域、学校、職場などで学習し、実践していくとともに、行政などがこれを支援しようとするものであります。
 県におきましても、環境教育の重要性を認識し、積極的にこれに取り組むことといたしました。
 今後、本県における環境教育が着実に根づいて、環境に配慮した行動をとる人々の輪が広がっていくことを期待するものであります。
 終わりに、この報告書をとりまとめるに当たり、御提言をいただいた福井県環境教育協議会の委員の皆様をはじめ、各種調査など、この報告書作成に御協力賜った皆様に厚くお礼申し上げます。

   平成2年3月

福井県知事  栗 田 幸 雄

策定の趣旨

・環境をめぐる動き
 昨年の環境問題は、都市化の進展や身近な日常生活にともなう都市・生活型公害から、酸性雨やフロンガスによるオゾン層の破壊など地球規模の環境問題に至るまで、その内容はますます複雑・多様化の傾向を深めてきている。

・私達の役割
 環境問題は、人間の生存に大きく関与し地球の未来にまで関係する問題であることから、これらを解決し快適で良好な環境を創造していくためには、県民一人ひとりが資源消費型生活のあり方を見つめ直し、環境に配慮した行動をとっていく必要がある。
 また都市・生活型公害など日常生活にともなう環境問題は、法令による規制が困難なことから、家庭、地域社会、学校や職場などのあらゆる分野において「人間と環境との望ましいかかわり合い」について学習することが重要である。

・取り組みの現状と課題
 現在、環境の保全、快適環境の創造を目的とする学習や活動が住民、民間団体、企業などの多様な主体によってさまざまな形で展開されているが、これらの間で、環境に関する学習のあり方についての共通理解が確立されるに至っていないとか、活動相互の連携に欠けがちであるなど、いくつかの解決すべき課題が見られる。

・課題の解決に向けて
 このような課題を解決するためには、地域住民、民間団体、事業者、学校、行政など多様な主体が、共通の考え方のもとに役割分担を明らかにしながら「県民が、生涯学習として取り組む環境に関する学習の実践」―環境教育―を推進していくことが重要である。
 先に策定した「福井県新長期構想」の「総合的環境保全対策の推進」においては「県民の環境問題に対する理解と認識を深めるため、情報媒体による啓発を充実するほか、学校、地域社会、家庭等における環境教育を積極的に推進し、地域の環境美化に対する県民の自主的活動の気運を醸成する」こととしている。
 今後の環境教育を効果的に進めていくために、学識経験者からなる「福井県環境教育協議会」を設置して、本県における環境教育のあり方について提言をいただくこととした。
 この報告書は「福井県環境教育協議会」の提言を中心に、とりまとめたものである。


T.環境の現状と課題


T−1 環境の現状

 本県は、山や川、海などの自然環境が豊かで、変化に富んだ海岸線や東尋防、蘇洞門に代表される優れた自然景観に恵まれており、大気や水などの身近な生活環境は概ね良好な状態に保たれている。
 また我々は、長い歴史の中で育まれてきた風俗、伝統、景観などの文化的遺産を現代に受け継いでいる。
 しかしながら、近年における社会経済情勢の著しい変化は、環境に対してさまざまな影響を与えつつある。
 我々を取り巻く環境を良好に保全していくためには、その現状を把握したうえで、解決すべき課題を整理していくとが重要である。


1 生活環境

 本県の生活環境は概ね良好な状態に保全されている。
しかしながら、生活、生産活動の著しい進展に伴う都市・生活型公害の顕在化や 化学物質の使用による環境汚染など、環境問題にはさまざまな変化が見られる。
 また生活の全般的な向上や余暇時間の増大等に伴い、快適な環境へのニーズの 高まりなど、環境に対する県民の関心にも変化が見られる。

(1) 大気、水質などの状況
 @ 大気
 昭和63年度において、二酸化いおう、ニ酸化窒素および一酸化炭素につい ての環境基準はいずれも達成率が100%であった。
 また光化学オキシダントについては、環境基準を超える濃度が見られたも のの、いずれも注意報等の発令レベルに達することはなかった。
 こうした傾向はここ数年ほぼ安定的に継続している。
浮遊粉じん、降下ばいじんについてもほぼ横ばいで概ね良好な状況にある。

 A 水質
 昭和63年度の公共用水域におけるBODまたはCODについての環境基準 の達成率は、河川95%、湖沼47%、海域97%であった。
 こうした傾向はここ数年ほぼ横ばい状態であるが、一部の都市河川や湖沼 においては、依然として水質改善のきざしが見られていない。
 また地下水の水質については、昨年末の調査の結果、2つの市において、 トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンが検出されている。

 B 多様な環境問題
 都市化の進展や生活、生産活動の変化等を背景として、、環境問題も新たな様相を見せてきている。
 近隣騒音、生活雑排水など我々の日常生活に起因する環境問題のウエィトが高まってきており、観光地や道路における空き缶、空きびんの散乱も、環境美化などの観点から社会問題となっている。
 さらに近年では、さまざまな化学物質の使用に伴う環境汚染への影響が懸念されている。
 また放射性物質への関心とともに、最近はフロンガスによるオゾン層の破壊、酸性雨など、地球規模の環境問題に対する県民の関心が高まっている。
 一方、人々の生活に対する価値観の多様化を背景として、身近な緑や水辺とのふれあいといった、やすらぎやうるおいの感じられる快適な環境へのニーズも高まっている。

 C 公害苦情
 昭和63年度に県や市町村が受け付けた公害に関する苦情は486件で、前年度に比べて126件、35%の増加となっている。
 その内容を見ると、典型7公害(大気、水質、騒音、振動、悪臭、地盤沈下および土壌汚染)が316件で、前年度より58件、23%、それ以外の苦情が170件で、前年度より68件、67%、いずれも増加している。
 ここ数年ほぼ減少傾向にあったなかで昨年度は大幅な増加に転じたが、これら苦情件数の増加の背景については、今後の推移を見守る必要がある。

(2) 廃棄物の状況
 家庭、事業場等から排出される廃棄物は、生活水準の向上に、産業活動の活発化に伴い、過剰包装などによる量的な増加と新材料の開発などによる質的な多様化が進んでいる。
 廃棄物はその形態により、一般廃棄物と産業廃棄物とに分類される。
 一般廃棄物はごみとし尿とに区分されるが、ごみの量が増加傾向にあるなかで、空き缶、空きびんの分別収集などによる再資源化も着実に進んでいる。
 ごみは市町村の責任において収集し、焼却、、埋立て等により処理され、し尿は公共下水道、浄化槽および11箇所のし尿処理施設等で処理されている。
 浄化槽の普及により、し尿処理施設では浄化槽汚でいの処理が増加している。
 産業廃棄物は製造業、建設業、農業、鉱業の順で多く、これら4業種で全体の約94%を占めている。
 発生した産業廃棄物は、約40%が中間処理による減量化および有効利用により再資源化され、残りは排水業者、処理業者、公共団体によつて埋立処分されている。


2 自然環境

 本県は比較的山地面積が広く、県土の約75%が森林である。
 本県を構成する山地の骨格は、中央破砕帯(フォッサマグマ)の西側に発達する飛騨山脈に連続する山地であり、複雑な地形が分布している。嶺北地区では急峻な海岸断層が海岸に接近し、嶺南地区では顕著なリアス式海岸による多様な小湾地形が形成され、きわめて対照的特徴を呈している。県境は、標高1,000〜1,500mの山が連なり、特に嶺北地区では急峻な斜面を形成して九頭竜川、日野川流域に平野部や盆地地形が広がり、また、海岸沿いには丹生山地を中心に低丘陵山地が南西から北東方向に走って一層複雑になっている。
 自然植生は、標高800m以上の山地、特に奥越山岳地帯の日本海型ブナ林であるオオバクロモジーブナ群集によって代表される夏緑広葉樹の自然林と、若狭湾沿岸地域を中心とする標高200mまでのイノデータブノキ群集とヤブコウジースタジイ群集を主とする照葉樹林の自然林によって特徴づけられる。
 野生動物の状況として、鳥類ではツグミ(県鳥)、カシラダカ、ミヤマホオジロ、ガン・カモ類などの冬鳥やツバメ、サシバ、カッコウなどの夏鳥が見られる。哺乳類では、山岳部においてはニホンカモシカをはじめ、ツキノワグマ、ヤマネなどが見られる。昆虫相は、日本列島の平均的なものといえるが、大都市周辺の山野に比べ、現在なお豊富さを保っている。
 しかし近年、各種の開発や都市化に伴い、身近な自然環境が失われつつあり、野生鳥獣などの生息環境も次第に悪化してきている。
 また、近年の生活水準の向上、余暇時間の増大等により、県民の自然志向も高まってきている。


T−2 環境に対する県民の意識

 環境教育を推進するうえでの基本的な考え方をとりまとめるにあたり、県民の環境や環境教育に対する意識を把握するため、昨年、県政広聴員と20歳以上の県民合わせて1,000名を対象にアンケート調査を実施した。


「どのような環境問題に関心があるか」(複数回答)

 近隣騒音、生活雑排水などの「都市・生活型公害」が60%で最も多く、次いで「地球規模の環境問題」40%、公園や景観などの「身近な生活環境」38%、「自然環境」32%と続き、「産業型公害」は23%で、最も少なかった。


「地域の環境は快適と感じているか」

 公害、自然環境、公園、景観などの身近な生活環境を総合的に見て地域の環境は「うるおいややすらぎをもたらす快適な環境だと思うか。」に対しては、「思う」「どちらかと言えばそう思う」が合わせて62%で、「思わない」「どちらかと言えばそう思わない」を合わせた36%を上回っていた。


「今後、環境情報は何から得られたらよいか」(複数回答)

 「テレビ、ラジオ」が66%で最も多く、次いで、「県や市町村の広報」61%、「庁内会、自治会の集会や広報」54%と続いており、環境に関する情報提供に関し行政に対する期待の多いことがうかがえた。


「今後、環境に関する活動に参加したいと思っているか。」

 「積極的に参加したい」36%、「どちらかと言えば参加・協力したい」58%で、合わせて94%と環境問題への参加意識の高さがうかがえた。
 また、「積極的に参加したい」と答えた人は、高年齢層になるほど多くなってきた。


「環境に関する活動に参加する場合、何が問題か」(複数回答)

 多い順に「適当な指導者がいない」38%、「身近に関心のある人や仲間がいない」36%、「どのような団体があるのかわからない」30%と続いていた。


「環境保全に関して行政に何を期待するか」(複数回答)

 「施設整備」が53%で最も多く、次いで「情報の提供」47%、「環境教育の充実」44%、「自然環境の保全」34%、「リーダー育成」29%、「法令等による規制の強化」28%と続いている。



T−3 環境上の課題

 生活雑排水、ごみの処理など、日常生活に起因する環境問題が顕在化するとともに、生産活動の変化に伴う新たな環境問題も懸念されている。また酸性雨などの地球規模の環境問題に対する県民の関心が高まってきている。
 一方、生活水準の全般的な向上などに伴い、うるおいややすらぎのある快適な環境の創造や自然とのふれあいなどへの期待が高まっている。
 ますます複雑・多様化の傾向を深めていくことが予測される環境問題に対しては、環境汚染の未然防止に努めるなど、開発と環境との調和を図りながら良好な環境を保全していくとともに、快適な環境の創造をめざしていくことが重要である。


1 生活環境

(1) 大気、水質など
 環境を保全していくためには、環境汚染の状況を監視するとともに、発生源に対する監視指導を継続的に実施していくことが必要である。
 今後、産業活動の高度化、多様化が進むなかで、さまざまな化学物質の使用が予想されるため、県内の実情を把握し、環境汚染の未然防止に努めていくことが必要である。
 最近では日常生活に起因する環境汚染が目立つようになり、この対策が大きな課題となっている。
 一部の中小河川や湖沼では依然として環境基準を達成するに至っていない。これらの水質改善を図るためには発生源における排水規制とあわせて、生活雑排水や農業排水の浄化等についての対策を進めることが課題となっている。
 さらに観光地、道路などに散乱する空き缶に代表される散在性ごみも社会問題となっている。この問題は多分に個人のモラルや社会的な気運にかかるものであり、今後とも県民意識の啓発を中心とした施策を進めていかなければならない。
 このほかフロンガスによるオゾン層の破壊、酸性雨などの地球環境問題に対する県民の関心が高まってきているが、これらは日常の生産活動や日常生活そのものに密接なかかわりを持つことから、国際社会の一員として幅広い視野のもとで、エネルギーの効率的使用や環境資源の適正な利用などについて普及啓発を進めていく必要がある。

(2) 廃棄物
 廃棄物については、今後とも量的増加と質的多様化が進むものと予想されることから、長期的な展望のもとに、埋立処分地の低命化や用地の確保に努めるとともに、減量化や再資源化を一層進める必要がある。
 一般廃棄物の中のごみについては、多様な種類のごみの適正な処理の観点から、分別収集、選別処理による減量化と、再資源化等による有効利用を推進する必要がある。
 市町村においては、ごみの減量化を図るため、農村部において生ごみを肥料化するコンポストの普及に努めていくとともに、粗大ゴミの処理施設の整備を進めている。
 し尿については、衛生的処理を進めるために公共下水道等の施設整備を普及促進していく必要がある。
 また産業廃棄物は、事業者自らの責任において適正処理することが原則とされ、その処理にあたっては、自社あるいは事業者間の交換によって有効利用を図るとともに、減量化および安定化に努める必要がある。


2 自然環境

 本県は豊かな自然に恵まれており、このような優れた自然を保護し、広く県民の利用に資するため自然公園や自然環境保全地域等を指定して各種開発行為の規制を図るとともに、自然公園を適正に保護管理していかなければならない。
 自然は県民がうるおいとやすらぎのあるくらしを営むうえで基盤となるものであり、これを適正に保全し、後世に伝えることは極めて重要なことである。
 このため、県民がふるさと福井の自然を正しく認識し、これを守り育てるため、自然保護思想の普及・啓発を図る緑化の推進が重要である。
 また、身近な自然を保護し活用する小公園や水鳥の楽園を整備促進するなど長期的展望に立った野生鳥獣の保護対策の推進を図る必要がある。


3 快適環境

 住民の良好な環境に対するニーズは、公害の防止、自然環境の保全のみにとどまらず、静けさ、身近な緑や水辺、美しい街並などうるおいとやすらぎのある「快適な環境」へと向けられている。
 また、住まいの周辺を、現在と比べより良くするために、今後優先的に取り組む必要のある課題を調査したところ、「川、池、海のきれいさ」、「空気のきれいさ」、「水や水辺とのふれあい」、「緑とのふれあい」などをあげている。
 こうしたことから、住民のニーズに対し、適正環境の創造をどう展開していくかが今日の課題となっており、新たな視点にたったより効果的な施策が求められている。
 また、快適環境の創造のためには、住民自らが、自分のまわりの環境に関心を持ち、その魅力を再認識して、環境保全活動など身近な環境づくりに、行政と一体となって取り組んでいくことが重要である。