第1部 環境行政の課題と展開
 
第1節 環境行政を取り巻く課題
 
 戦後の高度経済成長に伴い、水俣病や四日市ぜんそくをはじめとする産業型公害が顕在化する中、昭和42年に公害対策基本法が制定され、次いで昭和46年には環境庁が発足した。
 30年目を迎える環境庁は、2001年1月、環境省に昇格することになっているが、この30年間を振り返ると、かつての産業型公害については、その対策が一定の成果を上げてきたものの、地球温暖化やオゾン層の破壊、あるいはダイオキシンや環境ホルモンといった有害化学物資による環境汚染など、新たな環境問題が大きな課題となってきた。これらの問題は、その影響が地域レベルにとどまらず地球的規模に広がり、また、世代を超えての影響が懸念されていることから、その解決が急がれている。
 こうした今日の環境問題の多くは、物質的な豊かさや生活の利便性・快適性を求めるあまり、環境に配慮することなく、自然の中で分解・再生できる範囲をはるかに超えて、大量の廃棄物や二酸化炭素などの環境負荷を排出しつづけてきたことに起因している。
 21世紀を迎えようとしている今、これまでの大量生産、大量消費、大量廃棄型の社会経済システムを、環境への負荷の少ない物質循環型へと転換を図り、自然と人間が共生する社会の構築を目指して環境行政を展開していく必要がある。
 
1 有害化学物質による環境汚染の防止
 科学技術の進展に伴い生産・利用される化学物質は多種にわたり、現在、世界全体で約10万種、国内で約5万種の化学物質が流通しているといわれるが、これらの物質のうち安全性が正確に確認されているものは少なく、また、多くの化学物質の環境中における挙動は十分に解明されていない状況にある。さらに、ダイオキシン類など非意図的に生成する化学物質もあり、有害化学物質による環境汚染への対応が、今日、大きな課題となっている。
 また、環境中へ排出された化学物質は食物連鎖等を通してより上位の生物の体内に濃縮されることがあり、例えば、25年以上も前に製造・輸入等が禁じられたPCBがクジラ類や猛禽類などから検出されるなど、低濃度の環境汚染であっても、人間はもとよりあらゆる生物に影響を及ぼすおそれがある。
 こうした環境汚染に対しては、問題が明らかになってから対策を講じるだけでなく、予防的措置を重視する観点から、平成11年7月、事業者自らが化学物質を管理し、環境リスクを減らすための「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法)」が成立した。
(ダイオキシン類)
 ダイオキシン類は、発ガン性や催奇形性をもつ物質で、最近では、環境ホルモンとしての作用も疑われている。その発生源は、廃棄物焼却炉のほか、製鋼用電気炉、自動車排出ガスなどであるが、日本では、排出総量の約9割が廃棄物の焼却に伴い生成するとされている。
 このため、平成9年8月には大気汚染防止法施行令と廃棄物処理法施行令が改正され、廃棄物焼却炉の排出ガス中のダイオキシン濃度の規制基準が定められ、市町村のごみ焼却施設や産業廃棄物処理施設では改善が進められてきた。
 さらに、関係省庁が一体となって対策を推進していくため、平成11年3月30日のダイオキシン対策関係閣僚会議において「ダイオキシン対策推進基本指針」が策定され、平成14年度までにダイオキシン類の排出総量を平成9年に比べて約9割削減することなどが取り決められた。
 こうした動きのなか、平成11年7月12日には議員立法により「ダイオキシン類対策特別措置法」が成立し、平成12年1月15日に施行された。同法の中では、耐容一日摂取量(4pg-TEQ/kg/日)および大気・水質・土壌に係る環境基準の設定、より小規模な廃棄物焼却炉等への規制対象範囲の拡大、都道府県知事による常時監視義務などが規定されている。
 一方、ダイオキシン類の排出実態や環境中の汚染状況を把握するため、環境庁は平成9年8月に「ダイオキシン類対策に関する5ヶ年計画」を作成し、平成10年度には、緊急全国一斉調査を実施した。本県においても、焼却場周辺等において、大気、水質(底質)、土壌の各環境媒体を調査したが、いずれも環境基準を下回っていた。
 ごみ処理の大半を焼却に頼っている現状においては、今後とも、市町村や廃棄物処理業者等が設置・管理する焼却施設に対する発生源対策を積極的に講じてかなければならないが、併せて、ごみを排出する側である県民や事業者等に対しても、簡易焼却炉の使用自粛をはじめ、ごみそのものの排出の抑制や、ごみ分別の徹底など、ダイオキシンの発生を未然に防止する取組みや啓発事業を早急に進めていく必要がある。
(環境ホルモン)
 近年、一部の化学物資にホルモン様あるいは抗ホルモン様の作用があることが見出され、生物の体内で営まれているホルモン作用をかく乱することを通じて、野生生物の生殖機能やホルモン代謝への悪影響、ヒトにおける精子数の減少や悪性腫瘍の誘発、さらに次世代への悪影響などが懸念されている。このような作用を持つ化学物質を外因性内分泌撹乱化学物質(環境ホルモン)と呼んでいる。
 しかし、こうした現象の原因物質や異常が発生するメカニズム等に関しては未解明な部分が多く、環境庁では、平成10年5月、「環境ホルモン戦略計画 SPEED‘98」をとりまとめ、現時点での環境ホルモン問題に係る基本的な考え方と今後の具体的な対応方針を示した。
 平成10年度には、環境庁と都道府県が連携して、内分泌攪乱作用の疑いのある67物質を中心に、大気や水質等の環境媒体中での濃度調査および水生生物や野生生物中への蓄積状況調査を、全国2,430地点で実施したところであり、今後、継続的に調査・研究を進めながら、リスク評価を進めることとしている。
 また、厚生省では「内分泌かく乱化学物質の健康影響に関する検討会」において、食品用のプラスチック容器等の安全性について検討しているが、平成10年11月の中間報告では、「人の健康に重大な影響が生じるという科学的知見は得られていない。」としている。
 県においても、国に協力しながら、環境ホルモンの環境中での実態調査や挙動等の研究を進めるとともに、県民への情報提供に努めていく必要がある。
(化学物質への新たな対応策:PRTR)
 化学物質は、その有用性から様々な用途に用いられているが、製造、使用、廃棄の仕方によっては、人の健康や生態系に重大な影響を与えるおそれがある。
 従来、化学物質による環境汚染を防止する手法として、人や動物への影響等について科学的知見が得られた物質を対象に、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(以下、「化審法」という。)などに基づく製造と使用の規制や、「大気汚染防止法」、「水質汚濁防止法」などに基づく環境中への排出規制といった対策が講じられてきた。
 しかしながら、多種多様の化学物質が様々な経路を通じ環境へ放出され、人の健康だけでなく生態系への影響をも懸念されていることから、従来の対策に加え、化学物質による環境リスクを管理し、未然防止に力点を置いた総合的な対策が求められている。
 こうしたことから、「経済協力開発機構(OECD)」では、平成8年2月、事業者自らが潜在的に有害な化学物質の排出量や移動量を管理し、公表する「環境汚染物質排出・移動登録制度」の導入を各国に勧告し、既に、米国、カナダ、オランダ、英国などで法制化されている。
 わが国では、平成9年度から、パイロット事業を実施し、課題の検討を進めてきたが、平成11年7月13日、「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法)」が制定され、平成12年3月30日に施行された。
 PRTR法の成立により、事業者は、平成13年4月から354種の第1種指定化学物質についての取扱い量を把握し、さらに14年4月からは県を経由して国に報告することとなり、県としても、法の円滑な施行に向け、情報提供や指導を図っていく必要がある。
 
2 湖沼の水質保全
 湖沼は、元来、閉鎖的地形のため流入する水質汚濁物質が蓄積しやすく、加えて、窒素や燐等の栄養塩が蓄積し、藻類等の植物プランクトンの増殖によって水質が累進的に悪化する、いわゆる富栄養化が進行しやすい性質を有している。
 湖沼の水質を有機汚濁の代表的な指標であるCOD(化学的酸素要求量)で見ると、全国で環境基準を達成する湖沼は約40%に過ぎず、本県でも、北潟湖および三方五湖の一つである三方湖で基準を超えている。
 また、湖沼における水質汚濁の大きな問題として、植物プランクトンの異常増殖により湖面を緑色で被うアオコの発生がある。全国の多くの湖沼でも、アオコによる悪臭や景観の悪化、上水道の利水障害などに悩まされており、本県の三方湖においては、5月から10月にかけてアオコが発生することが多い。
 北潟湖や三方湖の水質汚濁の要因としては、両湖とも水深が約2mと極めて浅いため、太陽の光を受けて植物プランクトンが増殖しやすいこと、湖底に溜まったヘドロの影響を受けやすいことなどが挙げられる。
 また、水質汚濁の負荷源として、工場排水や生活排水などに比べ、田畑から流出する肥料や山林等からの自然流入など面的に発生する負荷が大きなウェイトを占めており、防止対策の難しい面源負荷の割合が高いことが両湖の水質改善を非常に困難なものとしている。
 こうしたことから、流入する汚濁負荷を削減するためには、今後、下水道等の整備や工場排水規制などに加え、肥料の流出を抑制する環境保全型農業の推進や水質浄化能力を持つ生態系の回復など総合的に湖沼保全対策を進めていく必要がある。
 
3 廃棄物対策・リサイクルの推進
 大量生産と大量消費に基づく今日の社会経済システムのもとでは、“資源として有効に活用できるもの”が簡単に廃棄されてしまう日常生活や事業活動が定着し、このことが廃棄物の量の増大と質の多様化をもたらしている。その結果、わが国全体の一般廃棄物の排出量は年間約5千万トン、産業廃棄物は約4億トンにも達しており、最終処分場のひっ迫や不法投棄等の不適正処理、焼却に伴うダイオキシン類の発生などの様々な問題が顕在化している。
 このため、平成9年6月に「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」が改正され、排出事業者処理責任の原則の下、廃棄物処理に対する信頼性と安全性の向上を目的として、施設の設置に関する手続きの明確化や埋立処分基準等の強化が講じられ、また、不法投棄対策として、産業廃棄物管理票制度(マニフエスト)の拡充や罰則の強化などの措置が講じられた。
 また、廃棄物対策の基本的な考え方として、3つのR、すなわち、発生抑制(Reduce)、再利用(Reuse)、リサイクル(Recycle)を行い、「資源循環型」の社会の構築に向けた取組みが進められている。
 一般廃棄物のうち、容積にして約6割を占める缶やプラスチック容器、紙製容器包装のリサイクルを進めるため、平成7年に、消費者には分別排出の義務、市町村には分別収集の義務、事業者には再商品化の義務を規定した「容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律(容器包装リサイクル法)」が制定され、ガラスビンとペットボトルについては平成9年4月から施行され、プラスチックと紙製容器包装については、平成12年4月から同法が適用されている。
 また、家電メーカーにテレビ、冷蔵庫、洗濯機、エアコンの廃家電4品目の回収と品目ごとに重量換算で50〜60%のリサイクル率を義務付ける「特定家庭用機器再商品化法(家電リサイクル法)」が平成10年6月に制定され、平成13年4月から本格施行される。
 このように、廃棄物の処理やリサイクルの促進に向けた法整備が進みつつあるが、市町村や廃棄物処理業者だけに責任と役割を押し付けるシステムには自ずから限界があり、消費者も自分たちのライフスタイルを見直し、循環型社会を構成する主体として取り組んでいくことが求められている。
 
4 地球環境問題への積極的な取組み
 オゾン層の破壊や地球温暖化などの地球環境問題は、ごみや生活排水などの身近な公害問題と異なり、その被害や影響が見えにくく、切実な問題としてはとらえにくいが、人類の生存そのものを脅かしかねない重大な問題であることを一人ひとりが認識し、具体的な取組みへと結びつけていく必要がある。
(地球温暖化)
 国連組織の一つである「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」によると、大気中の二酸化炭素濃度は、18世紀の産業革命を境にして、それまでの280ppmから360ppmへと急増しており、さらに、このままのペースで排出量が増えていった場合、中位の予測として、21世紀末には、大気中の二酸化炭素濃度が700ppmになり、地球の平均気温は現在より2℃上昇、海面水位は50cm上昇すると予測している。
 2℃の気温上昇といっても実感しにくいが、これは姉妹都市関係にある福井市と熊本市の年平均気温の差に相当するもので、その変化の大きさが理解できる。
 地球温暖化への国際的な対応として、1992年、「気候変動枠組み条約」が採択され、平成9年12月に京都で開催された第3回締約国会議(COP3)において、各国の温室効果ガスの排出削減目標が取り決められた。日本が公約した二酸化炭素などの削減目標は、2008〜2012年までに1990年比で6%削減である。しかし、二酸化炭素の排出は経済活動やライフスタイルと密接に関わっているだけに、現状ではこの削減目標の達成は容易でなく、国・自治体・事業者・国民が一体となった具体的な行動が求められている。
 その第一歩として、平成10年10月には、地球温暖化防止を目的とする世界最初の法律となる「地球温暖化対策推進法」が成立し、温暖化防止対策に関する基本方針と各主体の責務等が明示された。
 また、平成10年6月には、「エネルギー使用の合理化に関する法律(省エネ法)」が改正され、原油換算で年間1500kC以上の燃料を使用する事業所に対する合理化義務や、エアコンの消費電力の63%削減など家電製品ごとの省エネ目標値が定められ、県としても、国と連携しながら、県民・事業者・行政が一体となった取組みを進めていく必要がある。
(オゾン層の破壊)
 地球をとりまくオゾン層は、太陽光に含まれる有害な紫外線(UV−B)を吸収し、地上の生物の生命を守っている。しかし、冷蔵庫やエアコンの冷媒、工業用の洗浄剤や発泡剤などに広く使用されてきたフロンによってオゾン層は破壊されつつあり、その結果、地上に到達する有害紫外線の量が増加し、皮膚がんや白内障など人への健康被害、植物の成長阻害といった生態系への悪影響が懸念されている。
 フロンには、オゾン層破壊のみならず、地球温暖化の点でも二酸化炭素の数千倍の影響があり、生産規制や排出抑制対策を強力に進めていく必要がある。
 このための国際的取組みとして、1985年、「オゾン層の保護に関するウィーン条約」が締結され、1995年には最もオゾン層の破壊力が大きい特定フロンの生産が全面廃止となり、その他のフロンについても段階的に削減されている。
 しかし、生産が中止されても、冷蔵庫等の冷媒として既に使用されているフロンはそのまま残されていることから、機器の廃棄処分等に伴い大気中に放出されることを防ぐためには、不要となったフロンを回収・破壊することが重要である。
 現在、フロンの回収・破壊については、法的な義務付けがなく、市町村や事業者の自主的な取組みによって進められているが、処理費用の負担の問題等からその回収率は必ずしも十分ではなく、より一層の取組みが求められている。
 一方、平成13年4月から「特定家庭用機器再商品化法(家電リサイクル法)」が施行され、フロン回収を含め冷蔵庫・エアコンの処理責任を製造業者(家電メーカー)が担うこととなるが、処理費用は各ユーザーが負担することになっており、この仕組みの周知をはじめ、現在のフロン回収率が後退しないよう、市町村や製造業者との調整を進める必要がある。
 
5 自然とのふれあいの確保
 本県は、豊かな緑、清らかな水など、人々が生活する上で恵まれた環境と変化に富んだ自然を有しており、特に良好な生態系を有する原生的な自然や優れた自然景観地については、「自然環境保全法」に基づく自然環境保全地域制度や「自然公園法」に基づく国立・国定公園制度の適正な運用によって保護されている。
 しかし、生活様式の変化や開発行為の進展によって、里地・里山の身近な自然環境が失われ、自然環境の豊かさの指標ともいえる生物の多様性が減少している。かつてはどこにでも見られたメダカが、環境庁のレッドデータブックの絶滅危惧種に指定されたことは、今日の自然環境の置かれた状況の象徴ともいえる。
 また、自然の恩恵を意識しない現在のライフスタイルは、自然と人間との関係を希薄なものとし、ますます、身近な自然環境の消失に拍車をかけることとなる。
 こうしたことから、自然に対する豊かな感受性や環境への関心を培い、人間と環境との関わりや私たちの生活様式等について学んだり、考えたりすることが、環境保全に向けた自主的で具体的な行動を促す上で重要になってきている。
 学校や地域において、ビオトープづくりなどの取組みが県内でも徐々に始まっており、こうした活動を通して、多様な生物が生息できる自然とのふれあいの確保に努めるとともに、自然観察や自然体験を通した環境学習を推進していく必要がある。
 
6 循環型社会の形成
 20世紀における社会経済システムが多くの環境問題を招いたことへの反省から、資源を繰り返し利用することにより、廃棄物など環境負荷を抑制する循環型社会の形成が求められており、「循環」をキーワードに、社会の枠組みや事業活動が変わり始めている。
 こうした動きの一つとして、前述の家電リサイクル法や容器包装リサイクル法が制定され、平成12年5月26日には、循環型社会の構築のための基本的枠組みとなる「循環型社会形成推進基本法」が成立した。さらに、同年5月31日には、製品の製造段階から廃棄物の発生抑制と部品等の再利用を義務付ける「資源有効利用促進法(新リサイクル法)」をはじめ、建築廃棄物や食品ごみの再資源化法が成立した。
 また、環境税についての議論も高まっており、政府税制調査会において、自動車の燃費や排気量に応じ税を軽減する自動車税のグリーン化の早期導入こそは見送られたものの、環境税の検討が明記された。
 事業所においても、環境マネジメントシステムの国際規格ISO14001の認証取得や、環境対策の費用対効果を公開する環境会計の導入が急速に進んでいる。また、製品等の原料採取から、生産、流通、消費、廃棄等までのライフサイクル全体における環境負荷低減を視野に入れた製品開発も進められつつある。
 こうした循環型社会への動きを促進するため、県の環境基本条例や環境基本計画を踏まえて、県民や事業者が環境に配慮した行動に取組む契機となるよう誘導的施策を講じていくとともに、県や市町村も、環境負荷の排出源者として、率先して環境保全対策を進めていく必要がある。
 

第2節 総合的な環境政策の展開
 
 第1節で見てきたように、環境を取り巻く課題は複雑・多様化してきており、こうした状況の中、平成10年10月、県の各部局間の連携と調整を図り、総合的な環境行政を推進するため、「環境政策推進会議」を設置した。
 また、平成11年5月には、環境保全、廃棄物対策、自然保護の三つの環境関連業務を福祉環境部に一元化するとともに、廃棄物対策部門を「廃棄物対策室」から「廃棄物対策課」へと独立させて、ごみ減量とリサイクルの推進体制を強化した。
 平成12年4月からは、より細やかな行政サービスの提供と環境行政の充実を図るため、保健所を健康福祉センターに改めるとともに、同センターは新たに、事業者に対する規制・指導や水質監視等の環境関連業務を担当することになった。
 さらに、県自らが、事業の推進や事務活動に伴う環境への負荷を低減していくため、ISO推進室を設け、平成12年度中のISO14001の認証取得を目指している。
 
1 環境政策推進会議
 平成10年10月1日、全庁的な体制の下、環境の保全に関する施策を総合的に推進していくため、環境基本条例に基づき、副知事を議長に、福祉環境部長、環境審議監および各部次長等で構成する「福井県環境政策推進会議」を設置した。
 平成12年2月までに6回の推進会議を開催し、ダイオキシン類対策、湖沼水質保全対策、廃棄物対策、ISO14001の認証取得、地球温暖化対策など、県の関係部局が一体となって取り組まなければならない課題についての取組方針等を検討し、その結果に基づき具体的な施策を進めている。
 環境政策推進会議には、施策の円滑な推進を図るため、企画調整部会をはじめ、湖沼の水質保全や廃棄物、化学物質等の個別課題に関して調査研究を行う専門部会を設置しており、今後も、新たな課題については、必要に応じて、専門部会を新設するなど、関係部局間の連携を図りながら、的確に対応していく。

《環境政策推進会議の概要》

庁 議 ←──
(報告)



 
    環境政策推進会議
  議 長:副知事
  副議長:福祉環境部長、福祉環境部環境審議監
  委 員:各部次長等
・環境関連施策等の総合的な調整
・環境に影響を及ぼすおそれのある事業の環境配慮
・環境保全に関する方針や推進方策の検討 等






 
                (指示)↓    ↑(報告)





 
            部             会
   企画調整部会    専門部会
・環境会議の所掌事務に係る事項の具
 体的な調査・研究
・環境保全率先実行計画等の進行管理
・環境保全に関する施策の企画調整等
・特定の事項に関する専門的な調査・
 研究
 湖沼・河川専門部会、廃棄物専門部会
  化学物質専門部会、みどり専門部会





 
 

2 環境影響評価条例
 環境影響評価は、大規模な開発に先立って、事業者自らが事業の環境への影響を調査、予測、評価し、その結果に基づき適正な環境配慮を行うための一連の手続きであり、環境保全を図る上で重要かつ有効な手段となっている。
 本県においては、平成4年11月に福井県環境影響評価要綱を制定し、大規模開発に伴う環境保全に一定の成果をあげてきたが、環境基本条例において環境影響評価の推進を規定するとともに、平成9年6月に国の環境影響評価法が制定されたことから、平成11年3月、従来の要綱を廃止するとともに、新たに福井県環境影響評価条例を制定し、同年6月から施行した。
 同条例では、住民参加の範囲や機会を拡大するなど制度の充実が図られており、今後、その適
 切な運用により、開発等に伴う環境影響の未然防止を推進していく。





 
 【条例化による主な制度の充実点】
@対象事業の拡大
A早い段階から手続きが開始されるよう、事業者が調査に着手する前に、方法書(調査・
 予測・評価の方法を記載したもの)について住民、知事、市町村に意見を求める仕組み
 (スコーピング)の導入
B事後調査の実施および調査結果の報告
 
 
3 有害化学物質への取組み
(ダイオキシン類対策)
 平成9年8月に大気汚染防止法施行令および廃棄物処理法施行令が改正され、廃棄物焼却炉に対する規制措置が盛り込まれたことから、県では直ちに、廃棄物焼却炉に対する監視・指導の強化、市町村に対する分別収集徹底の要請、県出先機関や小中学校に設置されている焼却炉の廃止などの発生源対策を講じるとともに、大気環境の実態調査を実施してきた。
 また、平成12年1月15日に「ダイオキシン類対策特別措置法」が施行され、発生源対策の強化や県の常時監視義務などが定められたことを受けて、県では、ダイオキシン類問題への施策を強化することとし、大気・水質・底質・土壌の常時監視や発生源に対する指導など、より効果的なダイオキシン類対策を進めていくこととしている。
 一方、ダイオキシン類については、いまだに環境中での実態や挙動が十分解明されていないため、平成12年度から環境ホルモンも含めた調査研究施設を環境科学センター敷地内に整備し、環境中の挙動や食品・母乳等からの摂取量調査を進めていく。
(環境ホルモン等対策)
 ダイオキシン類の問題と並行して、環境ホルモンによる生物や人への影響が指摘され、社会的に不安が高まっていることから、環境庁では、平成10年度に環境ホルモンの疑いのある67項目について全国一斉調査を実施し、現在、それらのリスク評価を進めている。
 県においても、一斉調査で検出された物質を対象として、11年度から河川等での水質調査を実施しているが、今後、新たな調査研究施設を整備し、環境中の挙動等の研究を進めることとしており、国のリスク評価結果等も踏まえて、県民への適切な情報提供をはじめ必要な対策を講じていく。
 また、化学物質による環境汚染を未然に防止する新たな手法として、事業者自らが化学物質の排出量を管理し、その結果を公表するPRTR法が平成11年7月13日に公布されており、平成13年4月からの施行が適切に進むよう、今後、事業所への周知や指導を推進していく。
 
 
4 湖沼水質保全対策の推進
 河川や海域の水質が概ね良好な状況で推移しているのに対し、北潟湖や三方五湖は、富栄養化による水質汚濁が著しく、特に、三方湖では、例年アオコの発生によって悪臭や観光面での影響が懸念されている。
 県では、平成元年に庁内組織として「湖沼水質保全総合対策推進会議」を設置し、生活排水や事業場排水対策として、下水道の整備や事業場の監視・指導を実施してきたほか、肥料流出の少ない側条施肥田植え機の普及や施肥の適正化などの農業排水対策を進めてきた。
 また、湖沼の直接浄化対策として、湖底ヘドロのしゅんせつや、水質浄化の働きのあるヨシの植栽などを実施してきた。
 しかし、流入する汚濁負荷に占める農地や山林等の面源による負荷割合が高いこともあって、湖沼の水質は依然として改善が進まない状況にあり、より一層の保全対策を進めるため、平成10年度からは「湖沼水質保全総合対策推進会議」を「環境政策推進会議」へ統合し、環境保全型農業の推進や生態系の回復などさまざまな対策を検討している。
 特に、アオコの発生については、早急に対策を講じていく必要があり、平成11年度からは、水の流れのある場所では発生しにくいなどのアオコの特性を利用して、水流発生装置やオゾン・超音波発生装置によるアオコ抑制の研究を始めている。
 
5 地球温暖化防止に向けた取組み
 地球の温暖化は、現在に生きる私たちには実感しにくくとも、人類や生物の生存を脅かし、将来の世代に大きな負担を強いるおそれが強いことから、二酸化炭素など温室効果ガスの排出原因者でもある私たち一人ひとりが、真剣に取り組まなければならない重要課題である。
 このため、県では、平成9年12月の地球温暖化防止京都会議で定められた温室効果ガスの削減目標を踏まえて、平成12年3月に県内の削減目標と削減計画を定めた「地球温暖化対策地域推進計画」を策定した。計画では、エコライフや地球環境に配慮した事業活動の推進等により、2010年度における二酸化炭素排出量を1990年度に比べ3%削減することとしている。
 平成12年度から、県民・業界団体・行政で組織する「福井県地球温暖化対策推進会議(仮称)」や地球温暖化防止活動推進員を通じて、各主体の具体的取組みを進めていくこととしている。
 また、平成12年3月には、太陽光発電やコージェネレーションなどの新エネルギー導入や省エネルギーの推進により、2010年度までに1990年度エネルギー消費量の15%を転換・削減する「新エネルギー・省エネルギービジョン」を策定した。
 さらに、平成12年度には、県庁自らの地球温暖化対策の実行計画を策定する予定であり、県民や事業者と一体となって温暖化問題への取組みを積極的に進めていくこととしている。
 
6 多様な自然環境の保全
 私たち人類もまた生態系を構成する一員であり、多様な生物が生息・生育できる環境を回復・確保することは、人類の生存そのものにも欠くことができない。
 このため、生態系や親水性に配慮した多自然型の川づくりや、自然環境や海辺の多様な生態に配慮した海岸整備を積極的に進めるとともに、「水辺の楽校プロジェクト」や「いきいきさわやかな渓流事業」などを通じて、自然とのふれあいの場の確保に努めている。
 また、身近な自然環境の保全、生物多様性の確保、種の保存といった課題に対応するため、本県の貴重な動植物や特異な地形・地質、保全上配慮すべき事項などを取りまとめた「自然環境管理計画」を平成11年までに策定した。
 さらに、県独自の「レッドデータブック」を策定するため、現在、絶滅の恐れのある動植物の実態調査を進めている。
 
7 廃棄物の減量化とリサイクルの推進
 地球上の資源は有限であることを認識したうえで、私たちの暮らす経済社会を持続させていくためには、廃棄物の収集、処理、再生、再資源化が円滑に機能する循環型社会システムを形成していく必要がある。
 このため、国では、容器包装リサイクル法をはじめとする法制度の整備が進められてきているが、県においては、平成11年6月に「ごみ減量化・リサイクル日本一推進計画」を策定した。
 計画では、平成15年度までに平成9年度に比べて約20%のごみ減量化とリサイクル率を2倍に向上させることを目標としており、計画実現のための具体策の一つとして、家庭ごみの約4割を占める生ごみの排出を抑制するため、各家庭への生ごみ処理機の購入に対する補助制度を平成11年度からスタートさせた。
 また、平成12年2月からは、県内で発生する再生資源を利用して製造加工されるリサイクル製品を県が認定する「福井県リサイクル製品認定制度」、および、再生品の需要拡大や廃棄物の減量化・リサイクルに積極的に取り組む店舗を登録する「リサイクル推進店登録制度」を開始し、これまでに22品目の製品認定と118店舗の登録を行った。
 今後、より多くの県民・事業者が、目標に向けて具体的な行動に移れるよう、市町村による資源ごみ収集体制の整備や分別排出方法の周知徹底、減量化や再生品の需要拡大などの施策を推進し、「ごみ減量化・リサイクル日本一」の実現を目指していく。
 
8 広域的な連携
 地球環境問題や廃棄物の越境移動など今日の環境問題に対処するためには、地域における取組みはもとより、県域を越えての広域的な取組みが必要であり、県では、滋賀県および三重県との3県連携や関西広域連携協議会の枠組みの中で、環境分野での連携事業を進めている。
 平成9年4月にスタートした福井県、滋賀県、三重県の三県連携軸では、湖沼水質保全対策や廃棄物対策に関して情報交換を深め、平成11年度には、共同ステッカーの配布によるアイドリングストップ運動の推進、3県の小学生が環境について話し合う「子ども環境会議」(平成11年8月18〜19日、滋賀県大津市)などを実施してきた。
 平成12年度には、8月10〜11日に大野市および勝山市において「子ども環境会議」を開催するほか、岐阜県も含めた4県連携へと発展させ、従来からの取組みに加え、県境の廃棄物不法投棄に対する共同パトロールなどを実施していく予定である。
 また、平成11年6月に発足した関西広域連携協議会(福井県、三重県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県、徳島県、京都市、大阪市、神戸市および経済団体で構成)では、適正冷房28℃の徹底と夏季に軽装での勤務を呼びかける「夏のエコスタイルキャンペーン」やグリーン購入運動を展開している。今後、自然環境の保全や廃棄物対策の分野も含め、広域的に共同実施することでより大きな効果が得られる対策について検討を進め、積極的に事業を展開していく。
 
9 県における環境負荷低減に向けた取組み
 県は、事務・事業を通して、消費者・事業者としての経済活動に占める割合が大きいことから、県自らが率先して環境負荷の低減を図っていく必要がある。また、こうした取組みが、県民、事業者、市町村の自主的・積極的な環境保全対策の促進に繋がるものと期待している。
 このため、平成9年3月に、県の各機関が通常の行政活動の中で環境保全に取り組む計画「環境保全率先実行計画−エコロジカルな行政をめざして−」を策定した。
 平成10年度の取組み状況を見ると、水使用量の削減や紙資源のリサイクル率に関しては概ね目標を達成したものの、紙使用量や電気使用量の削減については計画どおり進んでいないことから、平成11年度には、重点的に紙と電気の使用量削減に取り組むエコアップ運動を実施している。
 また、こうした県自身の環境対策を計画的・継続的に進めていく上で、環境マネジメントシステムの国際規格ISO14001は非常に効果的な手法であることから、平成11年5月には、福祉環境部にISO推進室を設置し、12年度中の認証取得に向け、現在、作業を進めている。
 なお、平成12年3月末までに、福井市、鯖江市、武生市の3市および36事業所が、ISO14001の認証を取得しており、特に企業の認証取得に対しては、技術アドバイザー制度による指導員の派遣や「地域産業活性化資金」による認証取得経費等への低利融資などにより支援していく。
 

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