下記の計画については、ナホトカ号事故を踏まえ、平成9年12月19日に改正されています。
(EICネットの環境庁報道発表資料)
(FROM oil@seiryo.ac.jp ML)

油汚染事件への準備及び対応のための国家的な緊急時計画

(平成7年12月15日 閣議決定)
第1章 序説 第1節 計画の目的  四面を海に囲まれた我が国は、海洋をとりまく多様な自然環境にめぐまれるとともに 、そこに存在する豊かな漁場等から多くの恩恵を受けるなど、海洋環境との緊密な関係 の中で国民生活が営まれている。このようなことから、我が国周辺海域において、万一 、油汚染事件が発生した際には、その所期の段階から迅速かつ効果的な措置を取ること が、海洋環境保全並びに国民の生命、身体及び財産の保護の観点から必要不可欠である 。また、我が国が世界有数のタンカー保有国であり、かつ、石油輸入国であることを考 慮すると、我が国がこのような準備及び対応の体制を整備しておくことは極めて重要で ある。この場合、国、地方公共団体をはじめ、石油業界、海運業界、鉱山業界、漁業関 係者その他官民の関係者が一体となって取り組むことが重要である。  このような考えを踏まえ、この計画は、平成8年1月17日に我が国において効力を 生じる「1990年の油による汚染に係る準備、対応及び協力に関する国際条約」第6 条(1)(b)に規定する「準備及び対応のための国家的な緊急時計画」として、油に よる汚染に係る準備及び対応に関する我が国体制を体系的に取りまとめたものであって 、国際約束の的確な実施を確保するとともに、海洋環境の保全並びに国民の生命、身体 及び財産の保護のために油汚染事件我が国が迅速かつ効果的に対応することを目的とし て策定するものである。 第2節 他の計画との関係  この計画は、災害対策基本法(昭和36年法律第223号。以下「災対法」という。 )に基づく防災基本計画、防災業務計画及び地域防災計画、環境基本法(平成5年法律 91号)に基づく環境基本計画、海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律(昭和45 年法律第136号。以下「海防法」という。)に基づく排出油防除計画並びに石油コン ビナート等災害防止法(昭和50年法律第84号。以下「石災法」という。)に基づく 石油コンビナート等防災計画と調和を保ったものであり、これらと相まって油汚染事件 に迅速かつ的確に対応できるように策定するものである。 第2章 油汚染事件に対する準備に関する基本的な事項 第1節 油汚染事件に係る情報の総合的な整備  油汚染事件への対応を総合的かつ効果的に実施するために関係行政機関は関係情報を 収集・整理し、関係行政機関で構成する「油汚染事件に対する準備及び対応に関する関 係省庁連絡会議(以下「連絡会議という。)」等の場を通じて相互に交換する。  また、関係行政機関は、油汚染事件に関する措置を的確に講じ、被害の発生を最小限 とするために参考とすべき、各海域ごとの自然的・社会的・経済的諸情報(漁業、養殖 業、工業用水等の取水口、海水浴場、さんご礁、藻場、干潟、鳥類の飛来・繁殖地等に 関する情報)を収集・整理し、適宜最新のものとしてい維持するとともに、それぞのの 行政に反映できるよう、例えば情報図として整備する等その内容の充実に努める。  さらに、地方公共団体が地域の実情に応じて行う油汚染事件への準備及び対応に関す る活動の促進を図るため、関係行政機関は、地方公共団体の必要に応じて関係情報を提 供するよう努める。 第2節 対応体制の整備  海上保安庁は、油汚染事件への対応を迅速・的確に実施するため、海上における特殊 な災害に対応する特殊救難隊の育成強化を図るとともに、船艇・航空隊による24時間 の出動態勢を確保する、  また、海防法に基づき、管区海上保安部長、タンカーの船舶所有者等は、官民合同の 組織押して排出油の防除に関する訓練の実施、重要事項の協議等を行う排出油の防除に 関する協議会を必要に応じて組織する。  環境庁及び水産庁は、油汚染事件発生時における野生生物の保護、漁場等の保全等の 対応措置が迅速かつ的確に行われるよう、各行政分野における体制の整備に努めるとと もに、関係地方公共団体、関係団体等との連携協力体制の一層の確保に努める。 第3節 通報・連絡体制の整備  船舶の船長、施設(陸地にあるものを含む。)の管理者等は、当該船舶から海洋への 大量の油の排出があった場合及び排出のおそれがある場合には、海防法に基づき、電話 、電信その他なるべく早く到達するような手段に手段により、直ちに最寄りの海上保安 庁の事務所を通報する。また、海面に大量の油が広がっていることを発見した者におい ても同様である。  また、石油コンビナート事業を統括管理する者は、該当石油コンビナート等における 石油等の漏洩その他異常な現象が発生した場合には、石災法基づき直ちに消防署等に通 報する。  さらに、鉱業権者は、自らが管理する鉱山施設等において大量の油の海洋への流出が あった場合及びそのおそれがある場合には、鉱山保安法に基づき直ちに鉱山保安監督部 等に通報する。  海上保安庁、消防署、警察署等においては24時間の連絡体制を確保するとともに、 連絡及び情報の交換を円滑に行うため、専用の通信手段の確保を図るよう努める。  関係行政機関は、地方公共団体、関係団体等との連携協力のもと必要な対策が適切に 実施されるよう、これらの者を含めた相互の連絡体制の整備を図る。  さらに、地方公共団体は、必要に応じ、通報又は連絡を受けた場合における当該地方 公共団体の内部の連絡体制及び他の地方公共団体との連絡体制を確保するよう努めるも のとする。 第4節 関係資機材の整備  船舶所有者等は、海防法に基づき、排出油の防除措置を実施するために必要な資機材 を船舶内等に備え付け、また、海上防災防止センターは、同法に基づき、海上保安庁長 官の指示又は船舶所有者の委託により防除措置を実施するために、又は船舶所有者の利 用に供するために必要な資機材を保有する。  また、鉱業権者等は、鉱山保安法に基づき、排出油防除措置を実施するために必要な 資機材を備え置く。  さらに、港湾管理者は、港湾法に基づき、港湾区域内に流出した油の防除に必要な資 機材を備える。  海上保安庁は、油汚染事件への対応を迅速・的確に実施するため、船艇、航空機、通 信施設、排出油防除資機材等の整備を推進する。  通商産業省は、関係者の利用に供するため石油事業者団体が行う排出油防除資機材の 整備事業を推進する。  水産庁は、油汚染事件による漁場等の汚染及び防止又は軽減を図るための資機材の整 備を推進する。  環境庁は、野生生物の保護を行うにあたって必要な資機材が適切に整備されるよう措 置する。  関係行政機関は、各行政分野において、油汚染事件への対応のため必要な資機材の整 備に努める。 第5節 訓練等  海上保安庁は、海出油の防除に関する協議会等との連携の下に、油汚染事件への対応 を迅速・的確に実施するための訓練等を行う。  環境庁は、野生生物の保護を実施する上で必要な技術・知識の修得に関する地方公共 団体、関係団体等に対する研修等を行う。  さらに関係行政機関は、民間事業者が油汚染事件発生の際に迅速かつ的確に対応する 観点から行う自主的な訓練等の人材の育成に対して、支援するよう努める。  また、海上防災防止センターは、海防法に基づき、より的確な防災技術を普及するた め、海上防災のための措置に関する訓練事業を行うとともに、自らの防災措置に関する 技術の向上に努める。  これらの訓練等の実施にあたっては、海洋環境の保全並びに国民の生命、身体及び財 産の保護の観点から適切に実施されるよう配慮するものとする。  関係行政機関は、関係者に対し講習会、訪船指導等を通じ、油汚染事件の防止及び当 該事件発生の際の対応に関する指導を行い、これを通じて海洋環境の保全に係る思想及 び技術の普及・啓蒙を図る。 第3章 油汚染事件に対する対応に関する基本的な事項 第1節 保護対象についての基本的な考え  油汚染事件に対しては、海洋環境の保全の観点並びに国民の生命、身体及び財産の保 護の観点の両面に配慮して適切な対応方策を講ずるものとする。その場合、第2章第1 節の各海域ごとの情報等も踏まえて、被害の発生が最小限となるように措置を講ずるも のとする。 第2節 対応体制の確立  油汚染事件が発生した場合、関係機関等はそれぞれの対応体制の確立に努めるととも に、当該事件に対応するための相互の協力体制の確立に努める。この場合、関係行政機 関は、連絡会議の開催等を通じ、情報の交換を図るとともに、事件に対する対応につい て必要な調整を行う。  国及び地方公共団体は、必要に応じ災対法に基づく災害対策本部等を、もしくは、石 災法に基づく石油コンビナート等防災本部の現地防災本部を設置する、関係機関等は、 これら本部が設置された場合には、これら本部との間における情報の交換を促進し、油 汚染事件への的確な対応体制を確保する。  さらに、海上保安庁長官、管区海上保安部長又は都道府県知事は、必要な場合には、 自衛隊法の災害派遣の規定に基づき自衛隊の部隊等の派遣を要請するものとする。  海上保安庁は、油汚染に係る通報を受けたときは、即応体態勢をとるとともに、必要 に応じて関係機関等に連絡を行い、排出油防除体制の早期確立に努める。排出油の防除 措置を効果的に実施するために、油汚染事件の発生場所、態様および規模、通信の便宜 等を勘案して、必要に応じ対策本部を設置する。 第3節 油汚染事件に関する情報の連絡  油汚染事件の発生又は発生するおそれについての連絡を受けた行政機関又は地方公共 団体は、必要に応じ、予め定められた連絡網に従い、他の関係行政機関、関係地方公共 団体その他関係者に、入手した情報、対応に必要な情報を提供するものとする。関係行 政機関、関係地方公共団体等は、当該油汚染事件に対し迅速化かつ適切に対応する観点 から、事件の終息に至るまでの当該油汚染事件に関し、適宜適切な情報の交換を行うも のとする。 第4節 油汚染事件の評価  海上保安庁は、油汚染事件の情報を入手したときは、さらに詳細な情報を得るよう努 め、巡視船艇、航空機を油汚染事件発生場所に急行させ、当該事件の調整を行う。事件 の調査結果に基づき、その規模及び態様を分析し、第2章第1節の情報を踏まえ、気象 ・海象の状況、船舶交通等を考慮して当該事件の影響を評価し、対策の実施に資するよ う、これを関係行政機関、その他の関係者に提供する。  また、環境及び水産庁は、海上保安庁その他の関係行政機関、地方公共団体等からの 情報に基づき、当該油汚染事件が野生生物及び漁業資源に及ぼす影響の評価を行い、こ れを、野生生物の保護、漁場等の保全等の対策の決定に反映させるとともに、その他 の対策の実施に資するよう、速やかに海上保安庁その他関係行政機関等に提供する。 第5節 油防除対策の実施 1 油汚染事件が発生した場合、海防法に基づき緊急措置を講ずべき船長等及び防除措 置を講ずべき船舶所有者等の関係者による措置が実施されることになるが、海上保安庁 はこれらの措置義務者の措置の実施状況等を総合的に把握し、措置義務者に対する指導 、援助・協力者に対する指導を行う。防除措置義務者が措置を講じていないと認められ る場合は、海上保安庁はこられの者に対し、防除措置を命ずる。  緊急に防除措置を講ずる必要がある場合は、海上保安庁は、海上災害防止センターに 対して防除措置を講ずべきことを指示し、又は海上保安庁自らが防除措置を実施する。 2 油汚染事件が発生した場合の排出油の防除は、排出油種類及び性状、排出油の拡散 状況、気象・海象の状況その他の種種の条件によってその手法が異なるので、防除作業 を行うにあっては、まず、排出油の拡散及び状況の性状の変化の状況について確実な把 握に努め、第4節の評価の結果を踏えて、状況に応じた適切な防除方針を速やかに決定 するとともに、初動段階において有効な防除勢力の先制集中を図り、もって迅速かつ効 果的な排出油の拡散の防止、回収及び処理を実施する。  防除措置は、泊(?)による被害及び講ずる措置による影響が最小になるように、状 況に応じ様々な手法を組み合わせて行うものとするが、防除作業の一般的な手法は次の 通りである。 (1)排出防止措置  引き続く油の排出を防止するためにガス抜きパイプの閉鎖、船体の傾斜調整等による 措置を行うほか、破損タンク内の油を他船または他の施設へ移送するいわゆる瀬取りを 行う。 (2)拡散防止措置  排出した油は、風や潮流の影響を受けて、通常急速に拡散し、海洋汚染の範囲が拡大 するため、油汚染事件が発生した場合には、直ちに排出源付近の海域にオイルフェンス を展開して排出油を包囲し、拡散を局限する。 (3)回収措置  排出した油の回収方法としては、油回収船、油回収装置等を設置して回収する機械的 回収、油吸着材若しくは油ゲル化剤等の資機材を使用して回収する物理的回収、その他 ヒシャク、バケツ等を使用して回収する応急的・補助的な回収があり、状況に応じてこ れらの回収方法のうち最も効果的な方法を用いるものとする。また、回収した油は、す みやかに集油船等により廃油処理施設、消却施設等に輸送して処理するものとする。 (4)化学的処理  油の分解を促す油処理剤を使用した化学的処理がある。これは、回収措置の実施、気 象・海象、周辺の自然環境、漁場又は養殖場の分布等の状況を勘案して、(3)に掲げ る回収方法のみによることが困難な場合において実施するものとする。 3 これらの措置を講ずるにあたっては、第2章第1節の情報図などを参考にし、それ ぞれの手法の特質と海洋環境への影響を総合的に考慮して実施すること、できる限り海 上での回収に努めること、また、海岸に漂着せざるを得ない場合においてもその後の回 収作業が行い易く、影響を受けた環境の修復が比較的容易と想定される場所に誘導する こと等に注意を払う必要がある。 第6節  環境庁は、油汚染事件により野生生物に被害が発生した場合には、油が付着した野生 生物の洗浄、油付着に伴う疾病の予防、回復までの飼育等野生生物の救護が、獣医師、 関係団体等の協力を得て円滑かつ適切に実施されるよう措置する。 第7節 漁場保全対策等の実施  水産庁は、油汚染事件により漁場等に汚染が生じるおそれがある場合、又は生じた場 合には、必要に応じて廃油ボール等の回収等の保全、修復対策が円滑にかつ適切に実施 されるよう措置する。 第8節 海上交通安全の確保及び危険防止措置  油汚染事件発生により航路筋が閉塞される等により現場周辺の海域において船舶交通 が混雑し、新たな海難が発生する危険が生じ、あるいは、防除作業の円滑な実施の妨げ となる場合には、海上保安庁は、必要に応じ、海防法等に基づき、船舶の退去、航行制 限等の措置を講じる。  また、危険物である油が排出された場合、その防除作業を実施するにあたっては、火 災、爆発及びガス中毒等の二次災害を防止するため、ガス感知器具による危険範囲の確 認、火気の使用制限等の危険防止措置を講ずる。 第9節 広報等  船舶交通の安全確保、付近住民の安全確保、防除活動の円滑な実施等を図るため、関 係行政機関及び関係地方公共団体は、それぞれ必要に応じ、他の関係行政機関並びに関 係地方公共団体等と連絡調整を図りつつ、かつ、迅速かつ的確な広報を行うものとする 。  油汚染事件が発生した場合には、同様の事件の発生の防止及び一般的な油汚染事件発 生時の対応に関する知識の充実に資するため、関係行政機関は、当該事件の原因、汚染 の状況、講じた対策等について状況を記録する。 第10節 事後の監視等の実施  関係行政機関及び地方公共団体は、前節までに定める措置が終了した後においても、 必要に応じ、相互の連携の下、環境への影響の調査、財産の被害の調査等を実施する。 特に、油汚染事件による沿岸域の生態系等環境への影響は、回復に長時間を要すること があるから、水質、底質、野生生物への影響の調査を綿密に実施し、講じた措置の効果 を検証する。また、関係行政機関及び地方公共団体は、この結果を踏まえ、必要に応じ て補完的な対策を実施する。 第4章 関係行政機関等の相互の連携等 第1節 国家的な連携  国の関係行政機関は、所掌事務及び関係法令に基づき、油汚染事件への準備及び対応 のため必要な施策の総合的な企画及び推進、関係法令の整備、調査研究の推進等を積極 的に実施する。  この場合において国の関係行政機関は、連絡会議等を活用し、相互に綿密な連携を確 保するよう努める。  また、石油業界、海運業界、鉱山業界その他の関係団体は、その能力を活用し、油汚 染事件への準備及び対応に関し積極的に取り組みことが期待され、国は、これら関係者 を積極的に支援するとともに、これら関係者との連携の確保に努める。 第2節 地域的な連携  国の関係地方行政機関は、所掌事務及び関係法令に基づき、第1節の国家的な連携の 下に推進される施策と綿密な連携の下に、地域の実情に応じた具体的な準備及び対応の 施策を推進する。  また、関係地方公共団体、民間事業者その他の関係者は、関係法令に基づく責務に応 じ、又は自発的に、その能力を活用し、地域の実情に応じた具体的な準備及び対応の施 策を積極的に推進することが期待される。  この場合において、関係者は、排出油の防除に関する協議会等を活用し、相互に密接 な連携を確保するよう努める。また、必要に応じ、専門的な知見に基づく助言等を活用 するため、野生生物の保護、漁場等の保全その他の海洋環境の保全に係る専門家との連 携を図る。 第5章 その他の事項 第1節 調査研究、技術開発の推進  関係行政機関は、油汚染事件の防止及び当該事件による海洋環境への影響に関する調 査研究、技術開発を、必要に応じ、民間との連携を図りながら推進する。 第2節 計画の見直し  国は、この計画内容について随時検討し、必要があると認めるときは、見直しを行う ものとする。 -------------------------------------------------------end----------------