ナホトカ号重油流出事故に係る環境影響調査について
(中間報告の概要と今後の対応)

平成9年10月
福井県環境保全技術対策プロジェクトチーム

 今回の重油流出事故の環境影響について、7月末時点での調査結果をもとに、 中間報告としてとりまとめた。

環境影響調査(中間報告)の概要

1. 大気、水質等環境影響調査
(1)大気調査
・ 炭化水素濃度は、1月中旬、一時的にやや高い傾向が認められたが、それ以降は一般環境と同レベルとなった。
・ ベンゼンなど炭化水素を構成する各成分の濃度は、一般環境と同レベルであった。
・ 油ミスト濃度は、重油の影響が考えられない地点の値と同レベルであった。
  なお、大気環境については、3月中旬において流出事故の状態に戻ったと判断されたので、以後の調査は実施しないこととした。
(2)水質調査
・ 油分は、2月に11地点で検出されたが、その濃度レベルは0.04〜0.17mg/lと 低かった。その後、3月から5月にかけては、いずれの地点においても油分は 検出されなかったが、6月に1地点、7月に2地点で低濃度ではあるが検出された。
・ 油処理剤は、全ての月においていずれの地点からも検出されなかった。
・ 重油含有成分であるベンゼンおよびニッケルは、全ての月においていずれの 地点からも検出されなかった。また、バナジウムは、2月に3地点で0.002mg/l 検出されたが、自然界の海水で通常検出される濃度レベルであった。
  なお、水質調査については、油分濃度を中心に継続していくこととする。
(3)底質調査
・ 油分は、敦賀湾内の2地点で、3月を除き毎月検出されているが、これは流入河川の底質の影響によるものと思われる。
  その他の地点では、4月に安島地区の1地点で一時的に高濃度が検出されたが、5月には検出限界近くの低濃度となり、6、7月は検出されていない。
・ 油処理剤は、全ての月においていずれの地点からも検出されなかった。
・ ニッケル、バナジウムは多くの地点で検出されたが、元来地質中に存在する金属元素であり、重油による影響とは認めがたい。
  なお、底質調査については、油分濃度を中心に継続していくこととする。

2. 海岸植生および森林等への影響調査
(1)海岸植生
・ 雄島および三里浜の調査地点では、重油流出事故以前と同様の植生であることが 推定され、重油汚染の海岸植生への影響は、現時点では全体的に比較的軽微であったといえる。
・ しかし、現在(7月調査時)も人手の入りにくかったところなど、海岸部の 一部には重油が残留しており、長期的な影響を確認する必要があることから、今後も観察を継続していく。
(2)森林等
・ 1月24日に採取した安島のクロマツ葉から油分が検出された。北西の季節風に より重油が飛散し付着した可能性もあるが、大気中油ミストの測定結果を考慮すると、 断定的評価はできない。また、雄島のヤブニッケイの葉から重油含有成分である ニッケルが検出されたが、回収作業に伴い人為的に付着した可能性が高いと考えられる。
  なお、油分およびニッケルの検出濃度はいずれも低い値であり、樹木への影響はないものと考えられる。
・ クロマツに重油を噴霧または塗布してその影響を調べた結果、異常は認められず、付着重油が葉の生理活動などに及ぼした影響は、特になかったと判断される。

3. 水産生物影響調査(沿岸岩礁域への影響調査)
(1)潮間帯調査
・ 潮間帯は大量の油塊に直接覆われた海域である。このため、長時間にわたって 油塊に覆われた潮間帯では、カサガイ類や、小型巻貝類、ヒザラガイ類の付着力の 低下、生息数の減少ならびに死殻が観察され、また、渚帯では脱棘したバフンウニや 死殻が散見された。したがって、重油は潮間帯に生息する動物の一部を死亡させたと 考えられる。
・ イワノリや石灰藻に代表される潮間帯に繁茂する海藻は、油塊に覆われた潮間帯で 枯死が目立った。これは、春期の枯死の時期と重なった可能性も考えられるが、重油による可能性が高いとみられる。
(2)潮下帯調査
・ 2〜3月に三国町の沿岸ではバフンウニや貝類の死殻が散見されたものの、 有用動物の生息密度は従来と大きく異なることはなかった。2〜3月に比較して 5月のクボガイ類とヒザラガイの採集数が多かったものの、油からの回復を 意味するのか、季節的な変動か、あるいは調査点の違いによるものかは不明である。
(3)今後の調査の必要性
・ 冬に産卵する潮間帯動物の産卵行動と生み出された卵稚仔への影響、および、 冬に放出されたノリの胞子などへの影響を知る必要があること、また、 5月になっても、沿岸域に油は残っており、海面には油膜が浮いていることから、さらに今後も生物への影響を追跡調査することが重要である。

今後の対応

(1)調査の継続

 環境影響については中・長期的に評価する必要があるため、継続して調査を行う。
(2)微生物による油分解・除去試験
 栄養剤を散布し、自然界に存在する微生物を活性化させて油を分解・除去する技術に ついて、その有効性や環境影響を明らかにするため、福井県立大学およびプロジェクトチーム(福井県環境科学センターなど)において共同研究を行う。

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