9. KCJ004  02/16 16:00  7751  第3部 第4章 構成要素等の特定及び監視

第4章 生物多様性の構成要素等の特定及び監視

第1節 生物多様性の構成要素の特定及び監視

1 自然環境保全基礎調査等

 「自然環境保全法」に基づき1973年より実施している自然環境保全基礎調査
により、生態系や動植物の生息状況等、我が国の自然環境について、現況及び
経年変化の把握を定期的に行っている。この調査結果に基づき、全国の5万分
の1現存植生図をはじめ、各種の自然環境や動植物分布等に関する地図や数値
データが整備されている。
 1994年からは、生物多様性調査として、我が国のほぼすべての野生動植物(
分類が十分に進んでいない一部のものを除く)に関する分布の概要を把握する
ための種の多様性調査及び重要な生態系が成立している地域を対象に生態系の
構成要素及びその構造を総合的に把握するための生態系多様性地域調査を新た
に開始した。今後は、これまでの知見が極めて乏しい地域個体群の遺伝的特性
等の遺伝子レベルの多様性についても、調査を進めることが必要である。
 また、「種の保存法」に基づき指定された国内希少野生動植物種については
、その生息又は生育の状況、その生息地又は生育地の状況その他必要な事項に
ついて定期的に調査を実施し、その結果を種の保存に係る施策に活用すること
としている。
 今後は、自然環境保全基礎調査及び生物多様性調査の充実を図る。また、生
物多様性保全のための基礎的情報の収集等のためのネットワーク化を推進する
とともに、標本の管理機能を備えた生物多様性センターの整備について検討し
、生物多様性に関する情報の収集、整備及び提供のための体制等の整備を図る
。その際、様々な主体が必要な情報を共有することが生物多様性の保全と持続
可能な利用の促進につながるとの観点から、積極的に情報提供を行うことが重
要である。
 特に絶滅のおそれのある種、希少な種等については、現地調査等の結果を踏
まえたレッドデータブックの作成を行うこととしており、動物について既に作
成済みで、植物については現在作成中である。今後は、定期的な改訂を行うと
ともに、データシステムの整備も行う。

2 森林

 森林生態系における生物多様性の構成要素の特定及び監視は、各省庁の調査
研究や大学研究者等の研究を通じた形で行われているほか、森林の管理者が管
理行為の一環として行っている。
 森林生態系が厳しく保護されている原生自然環境保全地域や自然環境保全地
域においては、定期的に自然生態系に関する総合的な調査が実施されており、
これまでに、貴重なデータが蓄積されている。また、国立公園の特別保護地区
等やMAB計画に基づく生物圏保存地域においても、様々な調査研究が積み重ね
られている。
 国有林においては、「保護林設定要領」等のガイドラインを設け、その中で
、1)我が国の主要な森林帯を代表し、またはその地域でしか見られない特徴を
持つ、原生的な天然林、2)将来の利用可能性を有する森林の生物の遺伝資源及
び主要な林業樹種や希少樹種などの林木の遺伝資源、3)我が国または地域の自
然を代表する植物群落及び歴史的・学術的価値等を有する植物の個体(具体的
には、希少化している植物群落、分布限界に位置する植物群落やその他保護を
必要とする植物群落及び個体)、及び、4)特定の動物の繁殖地・生息地(具体
的には、希少化している動物の繁殖地または生息地、他に見られない集団的な
動物の繁殖地または生息地やその他保護が必要な動物の繁殖地や生息地)など
を、生物多様性の保全及び持続可能な利用のために重要な生物多様性の構成要
素として特定し、第1章第1節に記述した各種の「保護林」の中でその保護を
図る。
 これらの「保護林」においては、森林官等の営林署職員による巡視を通じて
、保護を図るべき対象の状況を的確に把握するよう努める。特に、「種の保存
法」により指定された種など、希少な野生動植物種については、巡視を通じて
その個体や生息地・生育地の状況の把握に努めるとともにその維持・整備など
の措置を講ずる「希少野生動植物種保護管理事業」を推進していく。

3 海洋等の水域

 我が国周辺水域は、寒暖両流が交錯し多種類の水生生物が生息しているが、
水産対象資源においては一部の種を除いては総じて中位又は低位水準にある。
こうした水産資源の回復及び増加を図り、持続可能な生産を達成するために、
「漁業法」、「水産資源保護法」の公的な制度に基づいて、その資源に対する
漁獲制限等の規制を実施しているが、これらの規制は、対象資源の資源調査を
実施し、その資源量を把握した上で行っている。
 同時に、水産資源保護法に基づき指定される保護水面については、漁業生産
における重要性、資源状況等を勘案して、当該区域において保護培養を図るべ
き水産動植物の種類を管理計画に記載する。その上で、当該記載された種につ
いて、区域内及びその周辺での環境・資源量調査等を行い、水産資源の持続可
能な利用による漁業の発展を図る。
 我が国の沿岸等の水生生物については、産業上の有用性の高い魚種を除き、
種の生息域、分布等について、とりまとめた例が殆どなく、体系的な整理もな
されていない。このため、多様性のある水生生物環境の維持の観点から、減少
が著しい種や存続が脅かされている種を特定し、水生生物の既存情報の体系的
な整理及び分布等について必要な現地での調査研究を実施している。当該事業
は、1993年〜97年まで実施し、最終年に水産庁版レッドデータブックとしてと
りまとめる。同時に、水生生物のうちその保存が特に社会的に要請されている
海亀について、人工衛星を利用した生息地の特定、食性調査、産卵場整備、標
識放流調査を行っていく。
 港湾などの沿岸域において、水・底質状況の把握、それらの改善効果の把握
、生物・生態系環境の保全という観点から、指標となる生物種についての調査
を進めてゆく。
 また、河川並びにダム湖及びその周辺区域を対象に、生物多様性の保全及び
持続可能な利用に資する施策の適切な推進に活用するため、そこに生息・生育
する多様な動植物の定期的、継続的、統一的な基礎情報の収集整備のための調
査を行う。

第2節 生物多様性に影響を及ぼす活動等の特定及び監視

1 生物多様性に影響を及ぼす活動等

 我が国の生物多様性に影響を及ぼす又は及ぼすおそれのある主要な活動とし
ては、以下の 4種の活動があげられ、それぞれの活動についての把握状況は次
のとおりである。
(1) 生態系、自然生息地の減少をもたらす面的開発行為(住宅地開発、土地の
造成による形質の変更、観光施設等の開発、自然林の開発行為など)
 自然環境保全基礎調査として実施されている植生調査等や各種の政府統計、
許可申請等により定期的に把握がなされている。
(2) 生態系、自然生息地の質的劣化をもたらす活動(汚水排出、化学肥料・農
薬の不適切な使用、酸性雨の原因行為など)
 各種統計資料からある程度の把握は可能であるが、生物多様性に及ぼす影響
については、今後、調査研究の充実が必要である。
(3) 生態系の撹乱を引き起こす移入種の導入
 特に著しい影響を及ぼしているケースを除き、全国的な実態は明らかではな
い。このため、移入種の分布、生息及び影響に関する実態把握が必要であり、
早期把握に努める。
(4) 特定の種の過剰な捕獲、採取(特定の昆虫やラン類などの乱獲等)
 個々の活動を特定することは困難であるが、違反行為の発見や情報収集等に
よりその推定は可能である。
 今後は、それぞれの活動が生物多様性に及ぼす影響及びその緩和方策につい
ての研究を進めるとともに、生物多様性に影響を及ぼすおそれのある活動の特
定についても調査検討を行うことが必要である。

2 森林における特定及び監視

 国有林においては、「国有林野管理規程」「森林保全管理業務実施要領」等
に従い、盗伐・誤伐、火災、病虫害、林地崩壊等の森林被害、鳥獣保護区にお
ける狩猟、高山植物等の採取・損傷、森林環境の汚染など、生物多様性の保全
及び持続可能な利用に対し悪影響を及ぼしまたは及ぼす可能性のある現象、行
為を特定するとともに、森林官等の営林署職員による巡視や立木販売地におけ
る跡地検査などの業務の遂行を通じてその発見、防止及び影響の監視に努める
。
 また、民有林においては、保安林や入林者が多い森林を対象として林野火災
を始め貴重な植物の盗採、林地の汚染等森林が受ける各種被害を未然に防止す
るとともに、一旦発生した被害を最小限にくいとめるため、森林保全巡視員(
緑のレンジャー)等を配置して森林パトロールによる監視活動を実施している
。

3 海洋等の水域における特定及び監視

 漁業対象資源に対して、過度の漁獲努力量が加えられないように、「漁業法
」、「水産資源保護法」の公的制度に基づく漁船規模、隻数等の規制により、
漁獲強度を資源に見合った水準に抑制している。今後は、こうした公的制度に
基づく資源の維持管理を補完していくことが重要であるため、漁業者自身の自
主的な取り決めに基づき、よりきめ細かく資源の状況に対応した管理を実施し
ていくよう指導することとする。
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