8. KCJ004  02/16 16:00   74K 第3部 第3章 構成要素の持続可能な利用

第3章 生物多様性の構成要素の持続可能な利用

 農林水産業はもとより、医薬、食品、発酵などの分野において動植物や微生
物は広く人類にとって有用な資源として利用されている。特に、近年のバイオ
テクノロジーの進展に伴い、野生生物の遺伝資源としての潜在的価値への関心
が高まっている。
 さらに、多様な生物の生息の場である自然環境は、美しい自然景観や多様な
野生動植物の存在によって、人々に精神のうるおいややすらぎを与え、また登
山、ハイキング、キャンプ、バードウォッチングなど各種の野外レクリエーシ
ョンや観光活動のフィールドとして、大きな資源価値を有している。
 以上のような生物多様性の各構成要素の利用に当たっては、利用対象として
いる生物自体の将来にわたる安定した存続を保証しつつ資源としての持続可能
な利用が図られるとともに、併せて生態系全体における生物多様性の維持にも
十分な配慮が講じられる必要がある。

第1節 林業 

1 基本的考え方

 森林の生物多様性の構成要素は、森林生態系、その森林内に生育・生息する
植物、動物や土壌中等の微生物の群集や種、個体群、個体、遺伝子等各レベル
において多種多様である。それぞれの森林が成立する立地状況や環境の多様さ
ともあわせて、森林生態系は地球上の様々な生態系の中でも最も複雑なものの
1つである。また、森林は生物資源の宝庫、遺伝資源の源泉としてだけではな
く、木材、燃料や食料の供給、水資源のかん養、炭素の吸収・貯蔵等の多様な
役割・機能を持ち人間にとっても大切な生態系の1つである。
 人間が森林の生物多様性の構成要素を利用する形態には様々なものがあるが
、その中でも森林に生育している樹木等を人間が建築材や燃料等として利用す
るために取り出してくる産業としての林業は、森林の生物多様性の構成要素を
利用するという点で最も大きな位置を占めている。
 森林の生物多様性の構成要素を利用するに当たっては、森林が果たしている
多様な役割・機能を維持し、これら構成要素を将来にわたり持続可能な利用を
行っていくことが重要である。このためには、原生的な森林を保全するという
だけではなく、人間が利用している森林とその生物多様性の構成要素について
も、利用しながらその多様性を維持するための努力を行うことが重要である。
森林の生物多様性の保全とその構成要素の持続可能な利用のためには、森林の
状況に応じた適切な保育、伐採の実施等適正な森林管理が必要である。これま
で山村では、その豊富な森林資源を活用した林業生産活動が地域経済を維持し
てきた。また、このような林業生産活動に動機付けられた森林整備が営々と行
われたことによって、森林資源が造成されてきた。保全と持続可能な利用を将
来にわたって継続するためには、林業生産活動の振興を図るとともに、その基
盤である山村地域の振興が不可欠である。
 我が国は、南北に細長く、温帯を中心に亜寒帯から亜熱帯に及ぶ幅広い気候
帯の下にあり、なかでも植物にとって生育条件のよい温暖で降水量の多い地域
が広がっている。また、周囲を海に囲まれ大陸から隔離された島国であること
から固有種の割合も高い等森林の生物多様性は高く、また変化に富んだものと
なっている。1990年3月末現在、我が国の森林面積は2,521万haと、国土面積の
67%を占めており、我が国は世界でも有数の「森林国」と言える。また我が国
の森林の蓄積は毎年着実に増加してきており、森林管理による二酸化炭素の吸
収・貯蔵量は、我が国の二酸化炭素の排出量の1割程度に相当している。
 我が国においては、急峻な地形や季節的な降水量の多さなどから、森林の利
用については過度にならないような管理が行われてきた。さらに、我が国の林
業においては、樹木を伐採し尽くすことなく、森林の再生産力に応じて持続的
に木材等の生産物を得ていくという収穫の保続の考え方が古くからとられてき
た。このような森林の利用の中では、自然の回復が期待できないほど生物多様
性が決定的に損なわれることはあまりなく、結果的に林業等で人手が加わった
森林においても、二次的な森林生態系の生物多様性が維持されてきた。
 しかし、我が国の森林は戦中戦後の一時期、必要な資材等をまかなうため過
度な伐採により荒廃した。戦後、山の緑を回復するため、各地で盛んに造林が
行われたが、これら戦後の大規模な人工造林地は、林業の経済性という観点か
ら植栽される種類がスギ・ヒノキ等の針葉樹が主体であったこととあいまって
、一定の面積の植生が高木の針葉樹による単一化を招くというような側面も見
られたが、他方、国有林においては、従来から貴重な動植物の保護や学術研究
等の面で重要な森林を保護林としてその保全を図ってきている。我が国経済社
会が生活の質や精神的価値をより一層重視する社会へ移行する中で、森林に対
しても多様な国民的要請が高まっている。このため、「緑と水」の源泉である
多様な森林の整備に努め、複層林施業及び長伐期施業の推進並びに広葉樹林の
積極的な造成のための諸施策が講じられているところである。
 林業を含めた森林の利用に関しては、我々現在の世代だけのためではなく、
次に生まれてくる世代のために森林を保全し、かつ森林の持続可能な経営を行
うための様々な努力がなされている。例えば森林の保全と持続可能な経営のた
めの基準と指標に関する国際的な議論を通じて、これに対する考え方の整理が
一定の進展を見せるに至っており、今後は生物多様性保全を含むこれら基準等
に沿った森林の保全と持続可能な経営達成のための具体的な取組が期待されて
いるところである。
 今後、我が国においても環境財としての森林に対する多様な国民の要請に応
えるためにも生態系を重視した森林経営により多様で豊かな森林整備を推進す
ることが重要となっている。

2 持続可能な森林の利用への取組

 持続可能な森林の利用への取組として、生物多様性の保全に配慮しつつ、以
下を重点的に実施していく。

(1) 森林の多様な役割と機能の維持

ア 持続可能な森林経営及び森林の保全のための制度の適切な運用
(ア) 森林計画制度の適正な運用
 我が国の森林資源の長期的な整備の基本となる「森林資源に関する基本計画
」に即し樹立される全国レベル、地域レベル、市町村レベル等の法定の森林計
画に基づき適正な森林施業が実施されるよう、森林所有者等に対し指導、監督
等を行う。
(イ) 保安林制度、林地開発許可制度の適正な運用
 我が国の森林の約 3分の 1に当たる特に公益性の高い 844万haについては保
安林に指定し、その機能の維持増進が図られるように規制がかけられていると
ころであるが、その指定の目的を達成するため、機能を十分に果たしていない
ものについては、治山、造林、林道事業等により整備を推進する。
 また、保安林以外の森林の無秩序な開発がなされないよう、民有林について
は林地開発許可制度の適正な運用に今後も努める。

イ 流域を単位とした林業の推進とその担い手の育成
 森林の整備に当たっては、林業生産活動の活性化が不可欠である。このため
、流域を単位とした林業の推進とその担い手の育成を図ることとし、森林の流
域管理システムの推進と定着に資するため、流域を単位とした行政、林業・林
産業、森林利用者等の関係者等からなる流域林業活性化協議会の設置を計画的
に推進するとともに、流域単位に流域林業を支援する組織を設置し、林業事業
体の経営の安定・強化を図り、これを通じ林業従事者の就労条件の改善を促進
する。
 また、広域合併を通じ森林組合の組織体制を強化するとともに、我が国の地
形等に適した高性能林業機械の導入等による林業生産活動の効率化を推進する
。

ウ 森林・林業、木材産業に関する試験研究と普及・教育の推進
 生物多様性保全を含む森林の有する多面的な機能の維持向上、森林資源の適
切な管理利用による持続的な経営の確保及び地域の振興、林産物の有効利用と
新用途開発、バイオテクノロジー等による森林生物の機能の解明と利用等に関
する試験研究を推進するとともに、地域の森林所有者や林業研究グループ等に
対し、地域に密着した指導、助言を行う林業専門技術員、林業改良指導員によ
る活動を強化し、技術や知識の普及を一層推進する。
 また、森林・林業の役割や重要性について、国民の認識をさらに高めるため
、森林教室の開催、体験林業活動等を通じて、青少年等に対し森林の機能、林
業の役割、熱帯林問題など森林・林業に関する普及教育を推進する。

エ 国民参加の森林づくり
 森林をはじめとする緑づくりを一層着実に進める目的で造成された「緑と水
の森林基金」の活用を図るほか、上流域と下流域の連携などにより、全国各地
で水源地域の森林を造成する基金づくりを拡大するとともに、国民一人一人の
参加により森林づくりを進める運動として1950年以来40数年の歴史を持つ国土
緑化運動である「緑の羽根」募金の基本的性格を維持しつつ、その基盤の強化
と取組の多様化を図り、より多くの国民の善意を結集するため、「緑の募金に
よる森林整備等の推進に関する法律」に基づき、募金運動を一層推進する。募
金の使途について、地域住民にとって貴重な緑や水源の森林といった生活に身
近な緑や自然とふれあう森林環境の造成など多様なニーズに対応した幅広い範
囲のものに拡大する。また、緑のオーナー制度の普及、国民の手による植林等
、国民が直接森林づくりに参加する機会の拡大を推進するため、体験林業や森
林教室の開催など各種の普及啓発活動等の森林・林業教育の充実を図る。
 また、国民と国・地方公共団体等が共同して森林を育てる分収林制度を推進
する。

(2) 森林の保全、整備の推進 
ア 森林資源整備の推進
 1992年に新たに策定した「森林整備事業計画」に基づき、造林・林道事業を
計画的に推進するなど、国民のニーズに応える多様で質の高い森林の整備を推
進することとし、具体的には、1)再造林、保育、間伐等の実施による健全な森
林の造成、複層林施業、長伐期施業の推進、2)育成天然林施業の推進、保健・
文化・教育的活動の場としての整備、3)流域林業活性化、森林の整備、維持、
管理のための林道ネットワーク及び高密度な林内路網の形成、4)山村の活性化
に資するための林道の開設等と併せて行う生活環境施設の整備のために計画的
な投資を推進する。

イ 林木育種の推進
 森林資源整備の基本となる貴重な遺伝資源の確保等を図りつつ、国民のニー
ズに即応して、生長、材質、病虫害抵抗性等に優れた品種の育成及びこれらに
必要な技術開発を推進する。

ウ 治山事業の推進
 「治山事業五箇年計画」に基づき、重要な水源地域における森林を「緑のダ
ム」として面的、総合的に整備するとともに、集落の生活用水確保に資する身
近な森林及び良質な水の供給に資する森林の整備、都市周辺等における広域的
な生活・防災空間としてのグリーンベルトの整備、身近な生活環境を保全する
森林の整備、貴重な自然、景観の保全等近年の環境保全の要請の高まりに対応
する森林の整備等を計画的に推進する。

エ 森林の保全対策の充実
(ア) 森林の保全を図り、その有する多面的機能の確保に資するため、森林病
害虫等の防除を実施する。特に、松くい虫被害対策については、保安林に指定
された松林等の「保全する松林」について、被害木の除去等の各種防除を総合
的に実施するとともに、「保全する松林」の周辺松林について、広葉樹林等へ
の樹種転換を積極的に推進する。
(イ) 森林の適正な保全管理を図るため、保安林や林野火災等の森林被害が多
発するおそれのある森林について森林パトロールを実施するとともに、全国山
火事予防運動の実施等林野火災の未然防止についての啓発活動、林野火災多発
危険地域への林野火災予防資機材の配備等を実施する。
(ウ) 酸性雨等による森林への影響を早期に把握し、必要な対策を講じるため
、酸性雨等森林被害に関するモニタリングを実施するとともに、酸性雨の発生
機構及び森林への影響に関する調査・研究結果を踏まえ、酸性雨による影響の
未然防止を目標に大気保全施策と連携を図りつつ森林を健全に保つための施業
技術の確立に努める。

オ 都市近郊林、里山林の整備
 生活環境保全、保健休養機能の向上のため、都市近郊及び集落周辺の森林に
おいて景観の保全、森林とのふれあいや休暇拠点の広域的な整備を推進する。
 特に、遷移の途中にあるため多様な生物相が見られる里山林の適切な維持に
配慮した整備が必要である。

カ 森林の国・公有化による保全の強化
 国土保全上特に必要な保安林等の国による買入れ、滅失の危険に直面してい
る保安林等の都道府県による買入れを推進するとともに、地方公共団体が自主
的に取り組む地域振興等の観点から森林公園等の公の施設として保全・活用を
図るための森林の取得、公益的機能の維持・向上を図るための森林の取得を推
進するため、財政上の支援措置を講じる。

(3) 森林によって提供される財とサービスの効率的な利用と評価の促進
ア 木材の供給体制の整備と木材の有効利用の推進
(ア) 我が国の森林資源は、戦後の拡大造林により造成された人工林を中心と
して着実に充実し、人工林の面積は 1千万haに達し、その蓄積は毎年着実に増
加している。人工林の 8割は、まだ保育、間伐を必要としているが、今後、適
切な管理が行われた場合、21世紀に向けて資源内容が一層充実していくものと
期待されている。
 一方、近年、建築基準の合理化等により木材利用の増大が期待されているこ
と、木材利用に対する消費者の要請が多様化していることから、木材の利用技
術の向上や用途の開発、普及等に対する取組を強化する必要がある。
 こうした中で、地域材の利用の推進を図ることは、低迷している我が国の林
業生産活動の活性化、林業生産活動に大きく依存している山村の振興、森林の
適正な管理を推進するうえでも重要な課題となっている。
 このため、生産者と消費者が連携して行う地域材利用推進活動の展開や新技
術で改良した地域材の新たな用途への利用等によって地域から産出される木材
の利用を推進する。
(イ) さらに、国内森林資源の利用を促進する観点から、需要者ニーズに応じ
て品質の安定した製品を低コストで安定的に供給するための施設等拠点施設の
整備、加工・流通部門と利用部門との連携を促進するとともに、森林資源の減
少、製品輸入の増加等需給構造の変化に対応し、原料転換、製品の高付加価値
化等、加工の合理化を推進する。
(ウ) 木材の効率的な利用を推進するため、木質製品の品質向上、木質廃棄物
の再資源化のための技術開発等を促進するとともに、樹木の抽出成分の利用技
術、木材の熱可塑化・液化等木材を高度に利用する技術及び耐久性等の多様な
機能をもつ木質複合材料の開発等を推進し、木材利用用途の拡大を図る。
(エ) また、需要に見合った安定的な木材の供給を図るため、木材の長期的な
需要及び供給の見通しを明らかにするとともに、短期的な木材の需給動向等の
的確な把握に努める。

イ 特用林産物生産の促進と森林保全に配慮した森林の総合的利用の推進
 森林資源を活用し、山村の活性化等に資するため、きのこ等特用林産物の生
産振興や加工・流通施設等の整備を促進するとともに、森林の特性を活かした
、従来からの森林レクリエーションの場としての利用に加え、森林浴の場とし
ての利用、アウトドアライフの舞台としての利用、教育の場としての利用等の
保健・文化・教育的な面も併せた森林空間の総合的な利用に対応した森林資源
の整備、山村と都市との交流拠点の整備を推進することとしている。
 また、農山村の主要な自然資源である森林、山村の主体を占める森林文化等
を活用した、山村における滞在型余暇活動(グリーン・ツーリズム)の推進の
ための「山村で休暇を」特別対策を実施しているほか、山村における重要な要
素である森林景観、森林環境保全等に配慮した森林・山村整備を重点的に行う
美しい森林むらづくり特別対策の実施、森林総合利用地域における環境美化運
動の推進のほか、美しい森林・山村の維持培養のため景観コンテストを農村や
漁村と協調して実施している。

ウ 森林資源調査システム、データベースの整備の推進
 森林に対する質的な情報の重要性、国際的な資源調査の統合の動きなどを踏
まえ、森林資源の状況を系統的に把握するための森林資源調査システムを開発
するとともに、山地災害の発生に対する迅速な対応、森林の多面的な機能の評
価などに資するため、地図情報を含む森林の総合的なデータベースの整備を推
進する。

(4) 国有林における取組
ア 国有林の使命及び経営の基本方針
(ア) 国有林の使命
 国有林(林野庁所管)の面積は、日本の国土面積の約 2割、森林面積の約 3
割に当たる 761万haに及んでいるが、その大部分が脊梁山脈に広く位置してお
り、また、民有林に比べて原生的な天然林を多く擁していることなどから、国
土の保全、水資源のかん養、自然環境の保全・形成、保健休養の場の提供など
の公益的機能を重視すべき森林が多い。一方、国有林は、長期的な計画に基づ
き、多様な樹材種の木材を計画的・持続的に供給しており、その供給量は、我
が国の国産材供給量の約 4分の 1を占めている(1993年)。加えて、国有林に
おける木材生産をはじめとした様々な活動は、地元住民や産業の需要に応じた
林産物や土地の提供、林道等の生活基盤の提供、雇用機会の拡大などを通じ、
経済基盤の脆弱な地域にある農山村の振興に大きく寄与している。国有林は、
我が国森林・林業の中核的存在として、このような様々な機能(役割)の発揮
を通じて国民生活と国民経済の持続的発展に寄与することをその使命としてい
る。
(イ) 国有林経営の基本方針
 国有林においては、上述したような使命を果たしていくため、その経営に際
して特に重視すべき事項として、1)国土の保全、2)水資源のかん養、3)自然環
境の維持・形成、4)国有林の保健・文化的利用の増進、5)多様な樹材種の木材
の供給、6)国有林以外の森林における森林整備及び林業経営との連携・調整、
7)林業技術の向上及びその指導・普及、8)地域振興への寄与、の 8つを挙げ、
これらに必要な施策を推進するため、以下の基本方針の下に国有林野事業の運
営を行う。
i) 「森林法」に基づき民有林と同一の森林計画区(全国で 158計画区)ごと
に「国有林の地域別の森林計画」をたて、「流域管理システム」に基づく民有
林・国有林間及び上下流間の連携の下に、その地域の特質に応じた森林整備・
林業生産を推進する。
ii) 国民の多様な要請に的確にこたえ、その使命を適切に果たしていくため、
森林が重複して有している多面的な機能のうち、重点的に発揮させるべき機能
を明らかにすることとして、国有林を、1)国土の保全を第一とすべき森林(「
国土保全林」)、2)自然環境の維持を第一とすべき森林(「自然維持林」)、
3)森林レクリエーション等の保健・文化的利用を第一とすべき森林(「森林空
間利用林」)、4)木材生産等の産業活動を行うべき森林、の 4タイプに類型化
するとともに、水源のかん養機能については、これらすべての森林においてそ
の発揮に努めるべきものとして位置づけ、それぞれの機能の発揮のためにふさ
わしい技術を用いて経営する。なお、この場合、自然保護などの森林の公益的
機能を発揮させることの重要性を考慮し、国土・環境行政施策との連携を強化
しつつ、国有林を管理経営する。
 この基本方針の下に、機能類型ごとの施業管理の基準、具体的な事項につい
て営林署ごとに立てる施業管理計画に基づいて事業を行う。
 なお、国有林は国民共通の財産であり、その経営は、できる限り国民のコン
センサスを得つつ行うよう、施業管理計画を樹立し、又は著しく変更しようと
する際には、関係都道府県知事、関係市町村長、地元関係者及び学識経験者に
意見を聞くこととしている。

イ 適切な森林施業の実施
 近年、国民の森林資源に対する価値観は、木材供給源等の産業資源としてだ
けではなく、国土を保全するもの、水資源かん養の場、優れた自然が残され豊
かな野生生物が生息する場、レクリエーションや文化的な創造、あるいは教育
活動の場など、環境資源、文化資源としての価値をも重視するようになってい
る。このため、国有林においては、国有林の機能類型を踏まえた上で、地形・
気象等の立地条件に応じ、天然林施業の推進や、複層林の造成を含めた人工林
の適正な整備、広葉樹林の積極的な造成を行うとともに、自然保護をより重視
した森林施業を推進するなど、多様なニーズにこたえうる多様な森林の整備を
図る。
(ア) 天然林施業の推進
 天然林は、国有林の約 6割を占め、その配置状況や資源内容から見て、国有
林の持つ様々な機能の発揮の上で極めて重要な位置を占めている。これらの天
然林を適正に管理するため、天然力を活用した森林の維持造成を推進すること
とし、現地の実態に応じて確実な更新を図る。
(イ) 人工林施業の適切な実施と複層林施業の推進
 一方、人工林施業は、人工林の造成が確実であり、かつ、森林生産力の確保
が十分期待される林分及び人工更新によらなければ更新が不可能な林分につい
て実施していく。また、森林の持つ公益的機能の高度発揮と木材の多様な需要
にこたえるため、複層林の造成、長伐期施業等を積極的に推進していく。
(ウ) 自然保護のための森林施業の推進
 国有林のうち、自然環境の保全を第一とすべき森林については、「自然維持
林」に区分し、原則として人為を加えず、自然の推移に委ねた保護・管理を行
うとともに、第1章第1節8に記述した保護林に指定することにより保護地域
における保全を図る。
 また、これら保護地域以外の森林においても、自然環境の保全に配慮した森
林施業の実施に努める。

ウ 森林生態系の健全性の維持と公益的機能の発揮
 国有林には、水源のかん養、山崩れや土砂流出の防止、野生動植物の保護な
どの公益的機能を高度に発揮することが要請されている森林が多い。このよう
に公益的機能の高度発揮が求められている森林については、国有林の機能類型
に応じた適切な施業を行うことによってその健全性を維持・増進するとともに
、病虫害の防除、森林の巡視、山火事の防備等の森林の保全管理を適正に実施
していく。
 なお、国有林面積の 6割近くが、法令により、「保安林」「自然公園」「鳥
獣保護区」などに指定され、伐採方法等に制限を受けており、これらの地域に
ついては、それぞれの法令に従いつつ、その指定の目的に沿った適切な施業が
行われている。主な法指定地域の総指定面積に占める国有林の割合は、「保安
林」47%、「自然公園」41%、「鳥獣保護区」32%などとなっている(1994年
 4月 1日現在)。
(ア) 保安林の整備及び治山事業の推進
 上述した各種の法指定地域の中でも、「保安林」は、国有林面積の過半(52
%;1994年 4月 1日現在)を占め、水源のかん養、山崩れや土砂流出の防止な
どの公益的機能の発揮の上で重要な位置を占めている。これら保安林について
は、法令に基づき定められた施業の基準(「指定施業要件」)に従い、国土の
保全、水資源のかん養などの公益的機能が高度に発揮されるよう適切に管理さ
れている。また、国有林では、国土保全上特に必要な保安林等を買い入れ、整
備・管理を行っており、国有林が買い入れた保安林等の面積は、1954年度から
1994年度までに25万 6千haとなっている。
 さらに、これら「保安林」を中心として、水資源のかん養や国土の保全、生
活環境の保全の上で特に重要な森林については、「第八次治山事業五箇年計画
」に基づき、林地の荒廃、山地の崩壊、山火事の発生などの防止やこれらの被
害からの林地の復旧を目的として、治山事業を推進していく。
(イ) 保全管理の適正な実施
 国有林では、森林の病虫害、山火事等の森林被害の防止を図るとともに、森
林の利用者の指導等を行うため、日常の森林巡視のほか、鳥獣保護区内の狩猟
等の違法行為あるいは高山植物の採取の防止など、貴重な動植物の保護を目的
としたパトロールを実施し、国有林の適切な保護・管理に努める。

エ 多様な社会ニーズに基づく多面的な森林の利用
 国有林は、上述したような適切な森林施業及び保全管理の推進を通じ、健全
で活力のある多様な森林を維持・整備する一方、そのような森林が生産する財
・サービスを持続的に供給することにより、国民経済と国民生活の持続的な発
展に大きく寄与している。
(ア) 計画的・持続的な林産物の生産
 1993年における国有林からの木材の供給量は、我が国の国産材総供給量の約
 4分の 1を占める617万m3となっている。また、国有林は、人工林のスギ、ヒ
ノキ等のほか、民有林からはほとんど生産されない「木曽ヒノキ」「秋田スギ
」などの天然針葉樹材、ケヤキ、ミズナラなどの優良広葉樹材まで多様な樹材
種の木材を生産している。国有林においては、このような多様な樹材種の木材
を持続的・安定的に供給するため、長期的な計画に基づいた計画的な木材生産
を行っていく。
 国有林における木材生産は、基本的に、国有林の 4つの類型のうち、「木材
生産林」においてのみ行うこととしており、その他の類型区分の森林における
伐採は、その森林が第一に発揮すべき機能の維持向上に必要なものに限って行
うこととする。(なお、「自然維持林」は、原則として人為を加えず、自然の
推移に委ねることとする。)
 木材生産林においては、多様な樹材種の木材を生産するため、それに対応し
た様々な生産目標を設定し、同一の生産目標を有する森林(「生産群」)ごと
に施業基準を設けて、水源かん養などの公益的機能の発揮にも配慮しつつ、き
め細かな管理を行っていく。また、「施業管理計画」において計画される木材
生産林の伐採量(「標準伐採量」)は、その計画の計画期間における林木の成
長量を上限として定め、収穫の保続を確保する。
(イ) 森林とのふれあいの場等の提供
 国有林野内においては、国民のレクリエーション需要をはじめ森林への多様
な要請に応えて、人と森林とのふれあいの場を提供することとしている。この
ため、四季折々の自然の美しさを楽しむことができる自然休養林、ハイキング
、キャンプ、スキー等のアウトドアスポーツ活動のできる野外スポーツ地域、
自然や野鳥等の観察に適した自然観察教育林等の「レクリエーションの森」を
全国に 1,277箇所(41万ha)整備しており、レクリエーション施設と教育文化
施設等を適切に配置して国民の利用を推進していく。
 また、森林の造成に自ら参加したいという要請にこたえるため、国と共同で
育成途上の森林を育てる「緑のオーナー」制度(分収育林)を積極的に推進す
るとともに、一般企業や各種団体のフィランソロピー(社会貢献)活動の一環
としての森林づくりへの参画を助長するため、「法人の森林」制度を推進して
いく。
 1994年度末現在で「緑のオーナー」は、約 7万 7千人となっており、国民参
加による森林資源整備の一層の充実と併せ、多くの国民がこの制度への参加を
通し、人間と環境とのかかわりの意義や環境保全の必要性について深い理解を
示すに至っている。
 さらに、国有林野事業においては、自然とのふれあいの場、青少年の教育の
場、体験林業の場等を総合的に整備する「ヒューマン・グリーン・プラン」、
森林づくりの場と併せて滞在施設用地の提供等を行う「ふれあいの郷整備事業
」、森林の良さを生かしながらみどり豊かな居住空間等を整備する「森林都市
整備事業」、青少年の健全な育成と森林・林業の普及啓発等に資する「森林の
学校総合整備事業」及び森林や林業に関する情報の提供、体験セミナー等を通
じて、国民の森林・林業、木材等に関する理解を深める「森林ふれあい推進事
業(森林倶楽部)」等を推進していく。このほか、「レクリエーションの森」
の良好な保全と快適な利用を促進するため、森林の整備等の経費の一部につい
て、利用者の自主的な拠出による資金を充てる「森林環境整備協力金」制度の
拡充を図る。
(ウ) 地域社会への貢献
 国有林は、一般に、産業基盤が比較的脆弱な農山村地域に多く存在している
。これらの農山村地域社会は、その産業活動を通じて国有林から生産される財
・サービスの価値を具現化するとともに、国民の多様な要請に応えた国有林の
整備を進めていく上で必要な労働力を提供するなど、国有林の持続的な経営を
図っていく上で極めて重要な役割を担っている。
 このため、国有林においては、これらの農山村地域社会の振興を、重要な経
営方針のうちの一つに位置づけて推進していく。具体的には、地元住民の経済
的基盤を安定させるための森林(「分収造林」等)やレクリエーション施設や
農業のための土地を提供するとともに、生活基盤としての林道の提供や、持続
的・安定的な木材の供給や事業の発注を通じた林業事業体・木材産業の育成な
どを図る。また、長年にわたり蓄積された国有林の森林施業技術を、地域の民
有林にも普及するよう努める。

第2節 農業

1 基本的考え方

 農業は自然の物質循環を活用した産業であり、適切な農業活動を通じて環境
保全機能が維持されるという特徴をもっている。即ち、農業は国民生活に欠か
せない食料の安定供給に加え、国土環境保全等の多面的機能を有している。我
が国の農業が欧米と異なる大きな特徴は、降水量の多い温帯モンスーン気候、
急峻な国土条件等の下で二千数百年にわたる水田農業を基幹として伝統文化と
ともに営々と継承されてきたことである。こうした水田を維持するためには多
量な用水を必要とすることから、その水源となっている山地の森林の維持管理
が不可欠であり、長年にわたる歴史過程で培われた伝統の下で森林と水田の共
生が図られてきている。また、一部の平野を除けば大部分の水田は、山地を間
近に背負って存在している。
 水田農業は連作障害や塩類集積、土壌浸食がなく、地下水汚染の少ない極め
て持続的な生産システムであり、恒常的に安定的かつ多様な水及び土壌環境を
提供し、生態系の維持に貢献している。
 水田等を構成要素とする我が国の農村は、水田等農地のほか、二次林である
雑木林、鎮守の杜・屋敷林、生け垣、用水路、ため池、畦や土手・堤といった
多様な環境を有し、しかもそれらが相互に連携的につながりを持つことにより
、多くの生物相が育まれ、多様な生態系が形成されている。例えば、水田は、
開発等により干潟や湿地が減少する中で、ツル、シギ、チドリ等渡り鳥の休憩
地にもなっており、また、網の目のようにめぐらされた水路・ため池等とつな
がり、タガメ、ゲンゴロウ、トンボ、ホタルなどの水生昆虫や水辺の植物、エ
ビ類、ドジョウ、カエル等水生生物の重要な生息地となっている。その中には
、「種の保存法」の保護対象となっているミヤコタナゴ等の希少な固有種も生
息している。また、二次的自然環境の保全に関する第1章第6節にもあるよう
に、雑木林、二次草原は貴重な動植物の生息・生育地ともなっている。このよ
うに、農業・農村は、人為的な維持管理の下多様な生物の生息・生育環境を提
供している。
 しかしながら、近年、生産性、経済性を重視するあまり、畑地における過度
の連作、不適切な農薬・肥料の投与、家畜ふん尿の不適切な処理等生態系への
配慮が十分とはいえない例もみられる。また、農地、雑木林等の二次的自然環
境は継続的な管理が必要であるが、農村では過疎化、高齢化により農地等の有
する環境保全能力の維持が困難な地域が発生している。
 今後は、これらのことを踏まえ、適切な農業の活動を通じて環境保全能力の
適切な維持を図るほか、自然の復元力を有効に活用しつつ、自然環境を維持・
形成し、多様な生物の生息・生育地等としてできる限り全体的に自然環境の量
的な確保を図る。同時に、持続可能な形での生物資源の収穫の場、緑・水・さ
わやかな大気等とのふれあいの場等として利用する。さらに、消費者等との連
携の下に、地域の特性に応じて、農地等における生物の生息・生育地の確保に
配慮し、農薬や化学肥料等の節減等により環境保全型農業を促進することとし
、次項以下に記述する施策を積極的に推進する。 
 一方、農業生産と密接な関わりのある植物遺伝資源という点についてみると
、現在も、各地で地域の条件に適応した伝統的な在来種の保全が一部の農家等
により行われている。在来種は一般的に遺伝的な多様性を有しており、新たな
植物品種の育成等において貴重なものであり、その収集と特性調査が求められ
ている。なお、その一部については種苗供給が行われている。
 また、国では農林水産ジーンバンク事業により植物等の遺伝資源を国内外か
ら収集し、分類・同定、特性評価、増殖及び保存するとともに、遺伝資源及び
遺伝資源に関する情報を研究用として提供している。ジーンバンクに保存され
ている遺伝資源は病害虫抵抗性品種等の新たな品種の育成の素材として利用さ
れる等持続的利用が図られている。
 なお、国、都道府県、民間によって育成された新品種について「種苗法」に
基づく保護が行われている等遺伝資源の適正な利用が図られている。
 このような植物遺伝資源の保存と持続的利用を図ることは、人類の貴重な財
産である植物の種・遺伝子レベルの多様性を保全する上でも、食料生産の上で
も重要であることを踏まえ、今後ともこれらの取組の充実を図ることとする。

2 環境保全型農業の推進

 近年、欧米の農業生産活動においては、土壌浸食(エロージョン)、肥料等
による地下水汚染が農業問題にとどまらず、大きな社会問題となっている。
 これに対し、我が国の農業の大宗を占める水田農業は、基本的に、連作可能
な持続性の高い生産システムであり、土壌浸食がなく、洪水調節機能、地下水
かん養機能等の多様な公益的機能を有している。また、水田土壌は窒素をアン
モニア態として吸着するため、硝酸性窒素による地下水汚染は生じにくい特徴
を持っている。しかしながら、農業全般として、化学肥料、農薬が不適切に使
用されたり、家畜ふん尿が不適切に処理された場合等には、環境(生態系)に
悪影響を及ぼすという面もある。
 このため、「新しい食料・農業・農村政策の方向」(1992年 6月)において
、環境保全型農業の推進を重要な柱として位置け、現在、その全国的な展開を
図っている。
 国では、1994年度に「環境保全型農業推進の基本的考え方」を示した。 
 この中で環境保全型農業の推進は、営農現場における多様な条件に応じて行
う必要があるとともに、生産・流通・消費の幅広い関係者の合意を得ながら、
技術開発の進展に合わせて、段階的かつ着実に推進しなければならないとして
いる。都道府県段階を中心とした環境保全型農業の準備的取組(第一段階:〜
1993年度)、環境保全型農業の取組を各地に増加・面的に拡大(第二段階:19
94〜1998年度)、環境保全型農業の取組を全体に一般化・定着(第三段階:19
98年度〜)の三つの段階的な流れを示した。その上で、短・中期的な目標とし
て、社会的コンセンサスづくり、推進の拡大と定着化、対策の強化と進捗状況
のフォロー、推進目標と達成手法の明確化を掲げ、その達成に向けた具体策と
して、1)全国・ブロック推進会議による優良事例を表彰するコンクールの実施
、環境保全型農業の基本理念、行動指針等を定める「憲章」策定等民間レベル
の運動の展開及び国、都道府県等における推進体制の整備、2)農薬の使用基準
の見直し・化学肥料の適正使用等による環境負荷の軽減、3)土づくり等を基礎
とした、新たな技術を取り入れた技術指針の策定等新たな農法の推進、4)家畜
ふん尿の適切な処理と有効利用等を基本としたリサイクルの促進、5)消費者等
への意識啓発など社会的受容条件の整備を実施することとしている。
なお、1994年 9月の調査によれば、全国の44%の市町村において環境保全型農
業が取り組まれている。
 また、環境保全型農業の推進に関して、生態系に配慮するとともにその機能
を利用した次のような省農薬管理技術の開発に取り組んでいる。すなわち、植
物の生体防御機能、免疫作用、微生物の拮抗作用、昆虫の生理活性物質、天敵
等を利用した病害虫防除技術、耐病性品種の育成、植物から分泌される生育阻
害物質(アレロパシー物質)やその分泌植物を利用した雑草防除技術の開発等
である。
 さらに、1993年度に「農林水産分野における環境研究推進方針」を公表し、
その中で環境と調和した持続可能な農林水産業の一層の発展に資するため、各
研究機関が連携、協力をより一層強化しつつ研究を実施することとしている。

3 環境に配慮した農業農村の整備

 農村は、国民に対する食料供給の場であり、農家など地域住民の生活の場で
もある。また、豊かな水と緑に恵まれた潤いとやすらぎに満ちた空間を有し、
自然の生態系と調和した生産活動を通じて自然環境や国土の維持保全にも大き
な役割を果たしてきている。
 このため、農業農村の整備に当たっては、従来の農業生産基盤の整備に加え
、農村の生活環境の整備や農地の保全を図ることにより、国民各層に開かれた
快適で潤いのある農村空間を創出していくことが重要な使命となってきている
。従って、造成される施設についても、施設の機能、安全性、経済性の確保だ
けでなく、農村環境にも配慮した施設とすることが必要とされてきており、事
業の展開の中で農地、水路等の親水や景観、自然生態系に積極的に配慮してい
くことが必要である。
 今後、農業農村の整備の実施に当たっては、景観、親水、自然生態系といっ
た環境への配慮を実施上の基本的な要素として位置づけて取り組むことが重要
な課題となる。
 具体的な施策としては、1)農村空間の持つ特質を生かしつつ農村景観や親水
等にも配慮した整備を進め、都市住民にも開かれた快適な居住・余暇空間の形
成、2)自然生態系の保全、景観に配慮した整備による、多様な生物相と豊かな
環境に恵まれた農村空間(エコビレッジ)の形成の推進、3)地域住民、地元企
業、自治体等が一体となって身近な環境を見直し、自ら改善していく地域の環
境改善活動(グラウンドワーク)の推進・支援、4)農業用ため池等の周辺で動
植物の育成に必要な施設等の整備によりビオトープ(生物生息・生育空間)ネ
ットワークづくりの推進等を行う。
 また、生態系の多様性を確保するための水路、ため池等農業用施設の効果的
な配置や維持管理のあり方、及びその周辺等に生息する希少野生動植物種等の
生息環境の保全に配慮した農業農村の整備の実施方法等の検討を行う。
 さらに、農業農村の整備に関し、広域的に水質問題等が生じている地域にお
いて、環境への負荷軽減を図るための調査検討を行っているほか、農村地域の
環境保全を効率的、総合的に図って行くために必要となる農村地域の環境診断
手法及び環境保全対策手法の確立・普及のための調査検討を行うとともに、都
道府県において農業農村の整備に際し、保全すべき環境の目標や環境保全対策
の基本的考え方を定めた指針を策定する。

4 農村の環境の保全と利用

 農村の景観の整備と農村の生態系の保全には密接な関わりがある。農村環境
の生物相は、人間の働きかけの長い歴史のなかで、農村の景観構造に適合した
現在の姿に形づくられてきた。それは、自然物のみならず人家等を中心とする
人工構造物さえも生物相の多様化に貢献していた。人家等のしつらえが木材や
自然石などで組まれることから無数の小間隙を生じることとなり、繁殖の場と
して機能していたからにほかならない。一部の野鳥は天敵から逃れるため積極
的に農村人家に住みついたりする。このように景観保全と生態系保全は一体的
な面を持っている。
 国では、環境保全、景観形成等に配慮した農山漁村整備を重点的に行う「美
しいむらづくり特別対策」をここ数年全国のモデル地区で行ってきている。モ
デル地区においては、基本構想を策定し必要な社会資本の整備を行うとともに
、美しい景観を維持形成するための農林水産関連施設の維持管理や美しいむら
づくりに関する住民協定の締結等地域住民の自主的な取組を促進している。ま
た、「美しい日本のむら景観コンテスト」や「全国むらづくり大会」等、美し
いむらづくりの運動化を全国的に推進している。
 また、農山漁村地域の豊かな自然環境、これらの美しい景観、伝統的な文化
等を活用したグリーン・ツーリズム(農山漁村地域において、その自然・文化
・人々との交流を楽しむ滞在型の余暇活動)の推進を図るため、関係団体及び
関係地方公共団体が実施する調査研究、普及推進活動、モデル整備構想の策定
等について助成、助言等の支援を行っている。先般、「農山漁村滞在型余暇活
動のための基盤整備の促進に関する法律」を施行したところであり、今後は法
に基づき、都道府県による農山漁村滞在型余暇活動に資するための機能の整備
に関する基本方針の作成、市町村による市町村計画の作成、国及び地方公共団
体による指導・助言等を通じ、グリーン・ツーリズムの一層の推進を行う。
 さらに、自然とのふれあいのための施策も講じている。牧場での自然体験、
体験農園、市民農園のために必要な施設整備、受け入れ体制のマニュアルの作
成等により都市住民が農村生態系にふれあうための施策を推進している。
 一方、新たな動きとして都市との連携の下に農村の生態系の維持、再生を行
う活動が、現在は一部の自治体、市民団体等で取り組まれており、徐々に広ま
りつつある。例えば、河川の浄化と一体となったホタルの定着運動や減農薬に
よるアカトンボ復活の試み、ミヤコタナゴ、イタセンパラ等希少な固有種の保
護運動、都市住民が下草刈り、枝打ち等の管理を行い雑木林の再生を行う里山
を守る運動、都市住民が契約で棚田のオーナーとしてオーナー代金を支払い、
その代価として野菜、山菜等の提供を受けるオーナー制度、棚田から収穫した
米を対象に産直を行うことを条件として棚田を保全している活動等である。
 農村生態系はこれまでの農業生産活動、雑木林や用水路等の維持管理によっ
て保全されてきた特性を有している。したがって、今後とも、これらの保全の
ために、これらを維持・管理する担い手の確保や支援体制づくりが肝要である
という点を踏まえ、環境に配慮した農畜産業の振興とともに農村地域の豊かな
自然環境や景観等を活用した農村の雇用の場を確保するための諸施策を都市住
民の支援も得つつ、推進する。

5 商業的に繁殖可能な希少野生動植物種の保護

 我が国では、本邦に生息・生育する希少な野生動植物については、「種の保
存法」に基づき、個体の捕獲、流通、販売等は原則禁止、生息・生育地につい
ては開発規制措置を設けること等によってその種の保護を行っている。しかし
ながら、国内の希少な野生動植物種の中には、一部のラン科の植物等のように
、自生地では乱獲等により野生個体数が著しく減少している一方で、人工的に
増殖された個体が市場で一般的に流通している種がある。このような種につい
て、個体の流通を禁止することは、その種の希少価値を高め、逆に野生個体の
不法な採取へつながりかねない危険性があることから、捕獲の許可制、事業の
届出及び取引結果の記帳等を義務づける等野生個体が正規の流通ルートに混入
することを防ぐシステムを設けることを前提として個体の流通を認めることを
通じ、野生個体の保護を図っている。なお、人工的に増殖された個体の商業的
な取引が適正に実施されるよう、国等公共機関の職員による立入検査を行い、
違反の場合には罰則も課すこととしている。
 商業的に繁殖可能な種については、生息地の保護とともに、その繁殖栽培技
術の確立を図ることは、種の保護のために有効な手段であるが、希少な野生種
の植物は、園芸種と異なり、安定的な栽培技術が確立されていないものが多い
。このため、国ではこれらの種について栽培方法等の情報を収集するとともに
、専門家等の情報・意見交換の場を設け繁殖生産技術の確立に努めることとす
る。
 法律に基づく繁殖可能な希少野生動植物の保護については、実施からまだ日
も浅いこと、対象種の追加が予想されることから、今後、事業者等関係者に対
し、一層周知徹底を図る必要がある。このため、届出等が適切に実行されるよ
う手引書、パンフレットの作成・配布等による普及啓発等を図り、希少野生動
植物の保存と持続的利用のための取組を推進する。

第3節 漁業

1 基本的考え方

 南北に細長く伸びる列島として四方を海に囲まれた我が国は、その周辺海域
を寒流、暖流が交錯する生物多様性に富む生産力豊かな漁場を有している。我
が国はこのような好条件に支えられて、古来より漁業を営み、豊富な経験と高
度な技術を培い、漁場環境の保全に意を払いながら、産業としての漁業を発展
させてきた。こうしたことから、我が国の漁業は漁獲対象種が極めて多く、経
営規模・漁獲方法が多種多様であるといった特徴がある。
 第二次大戦後、我が国の漁業は、公海自由の原則と漁労技術、流通、加工技
術の進歩に支えられ、その操業の場を沿岸から沖合へ、沖合から遠洋へと展開
させ、順調な発展を続けたが、現在は、近海漁業資源の低迷、 200海里体制の
定着に伴う外国水域からの締め出し及び公海漁業に対する規制の強化等厳しい
状況にある。
 動物性たんぱく質の約 4割を水産物から得ている我が国としては、今後も水
産資源を有効に利用していくことが重要であり、そのためにも国際的な対応と
して、地球上に存在する未利用資源、公海資源を持続的に利用していくこと及
び責任ある漁業を実現していくことが課題であり、国際的な協議の場を通じて
他の関係国と協力しながら科学的根拠に基づいて海洋生物資源の保存・管理体
制を確立し、国際的な理解を得るように努める。一方、国内的な対応としては
、漁場環境の保全を図りながら、従来からの漁業制度に基づいて、保護水面、
漁船隻数・トン数の規制等の漁業管理を実行するとともに、漁業者が自ら行う
資源管理型漁業等を推進する。また、同時に、資源量の増大を図るため、生物
多様性に配慮したつくり育てる漁業も推進していく。
 水産資源は、膨大な自然の再生産力を有しており、これを適切かつ有効に利
用すれば持続的にその恩恵に浴することができるものである。また、漁場環境
を保全することは、同時に海洋環境を保全し、海洋の生物多様性を保全すると
考えられることから、今後とも漁場環境の保全に留意した健全な漁業の発展を
図ることとする。

2 国際的な海洋生物資源の持続可能な利用及び保全

(1) 海洋生物資源の持続可能な利用の推進

ア 漁業関係国際機関及び国際条約等の国際的な枠組みを通じた持続可能な利
用海洋生物資源は再生可能な資源であり、科学的根拠に基づき、適切な保存と
その合理的利用を図ることが重要である。漁業対象となっている資源について
は、すでに大部分の海域で漁業関係国際機関等により、科学的根拠に基づいた
資源管理措置が実施されている。我が国としては、今後ともかかる国際機関等
の場を通じ、諸外国に対しこのような基本的な考え方の理解を求め、適切な漁
業秩序の形成が図られるよう努めていく考えである。
 また、「国連海洋法条約」によれば、同条約第 5部の規定により、沿岸国は
、排他的経済水域を設定した場合には、自国の排他的経済水域内における漁獲
可能量を決定し、排他的経済水域における生物資源の維持が過度の漁獲によっ
て危険にさらされないことを適当な保存措置及び管理措置を通じて確保する義
務が生じることとなっている。さらに、公海においても、同条約第7部の規定
により、各国は公海における生物資源の保存に必要とされる措置を自国民につ
いてとり又は当該措置をとるに当たって他の国と協力する等の義務を有するこ
ととされている。
 我が国としても、同条約の批准に向けて、同条約が規定する生物資源の保存
管理措置のあり方等と現在の我が国の制度との整合性等について、様々な角度
から幅広く検討しているところである。我が国が同条約を批准した場合には、
世界の漁業先進国として、条約の趣旨に沿った水産資源の持続的かつ最適な利
用に努める。

イ 国際的な海洋生物資源に関する資源調査等の科学的研究の推進
 一般的に複数の関係国が利用する国際的な資源に関しては、全ての関係国が
参加した国際漁業管理機関において科学的かつ合理的データに基づき適切な管
理措置を講じ、その管理措置の下で関係国漁船の操業が行われることが望まし
い。このような観点から、我が国は、我が国漁船が対象とする漁獲対象生物の
資源状況に関する情報を収集・分析するとともに、大西洋まぐろ類国際保存委
員会、みなみまぐろ保存委員会、北西大西洋漁業機関等の国際漁業管理機関に
積極的に参加し、国際的な漁業資源の維持・保存管理に努めてきている。これ
ら国際漁業管理機関においては、漁獲対象生物資源の維持・保存管理を主目的
としているが、併せて漁業や漁獲対象生物と生態学的に関連する生物等も研究
・調査対象とされている。我が国は、引き続きこれら国際漁業管理機関に参加
し、漁獲対象生物のみならずこれらの生態学的関連生物についても調査研究を
推進する。

ウ 規制遵守のための監視及び取締活動
 公海及び外国 200海里水域で操業する漁業については、我が国の漁業法体系
の下で許可等により管理を行い、秩序ある操業の確立を図っている。また、我
が国が参加する国際的な海洋生物資源の保存管理機構が定めた諸規制の遵守を
図り、国際的責任を果たすため、我が国漁船が操業する当該水域へ水産庁の監
視船を派遣し、監視、取締、指導を行い、漁船の操業秩序の確立に努める。
 更に、Global Positioning System 衛星及びインマルサット衛星を利用した
漁船の操業位置、漁獲情報をリアルタイムに管理する体制の整備に努め、資源
管理への積極的な貢献を図る。

エ 資源管理のための各種規制、再編整備の推進
 国際的な海洋生物資源の保全のための多数国間条約等の取り決め遵守のため
、違反者に対する厳しい処分も含めた漁業関係法令による許可制度に基づく参
入制限や、各種の漁業規制の担保のための国内規制措置を実施するとともに、
国際的な枠組みに基づく規制に対応した漁業の再編整備を円滑に推進している
。

オ 海洋生物資源の潜在能力の開発
 世界の水産業は、1989年に 1億トンを超えて以後、横ばいで推移している。
FAOは、その原因を漁労技術の高度化と補助金政策により過大となった漁獲努
力が、高級魚から順次資源枯渇に追い込んだためだとしている。
 一方、1993年の我が国の水産物輸入は、312万トン(前年比 5%増)、147億
ドル(同11%増)であった。水産物の国民への安定供給を確保するためには、
引き続き相当程度の輸入が必要であるが、今後予想される世界的な人口増加及
び途上国の生活水準向上により、世界の動物蛋白質需要も急増し、これに伴い
、水産物の需給がひっ迫することが懸念される。
 しかしながら、地球上には、未利用の水産資源がまだ残されているので、生
態系に十分配慮をした上で、持続可能な方法によりこの残された貴重な水産資
源を将来の蛋白資源として賢く利用していくことが重要である。
 このため、日本では、1971年に民間と国の共同出資により設立された海洋水
産資源開発センターが、農林水産大臣の定める基本方針に基づき、新漁場、新
魚種の開発を行っている。
 未利用資源の開発においては、科学的、技術的な不確実性がある場合、資源
と環境に対するダメージのリスクを少なくするための予防的措置が必要であり
、海洋水産資源開発センターの調査においては、特定の系群にのみ漁獲圧力が
かかり悪影響を与えることがないようDNA分析等により対象資源の系群の解明
に努めつつ、対象資源の資源量と生物学的許容漁獲量の把握に努めている。ま
た、混獲魚種についての情報を収集するため、漁獲物の組成が調べられている
。
 今後とも、海洋生態系の保全に配慮しつつ、水産資源の持続的利用が可能と
なるよう調査を進めていく方針である。

(2) 海洋生物資源の保全
ア 海洋生態系の構成要素の保全
 海洋生物は人類の食料等の供給源としても重要であり、適切な保護・管理を
行えば、永続的な利用が可能な資源である一方、生態系の重要な構成要素であ
り、また、自然環境の重要な一部として、人類の豊かな生活に欠かすことので
きないものである。この観点から我が国としても海洋生物資源の保護は重要な
課題であると認識しており、ワシントン条約等の適切な運用を通じ、これら資
源の保護に努める。

イ 漁獲非対象生物の混獲対策
 海洋生態系の維持・保存と有効利用を図る観点から、主対象生物の資源デー
タのほか、漁業の操業に伴う主対象生物以外の漁獲についても、漁船や調査船
から洋上における多様な情報・データを収集するよう努めているとともに、偶
発的に捕獲される利用し得ない生物に関し、その捕獲を最小化するための技術
の開発促進、実用化を図っている。

(3) 鯨類資源への対応                        
 我が国は鯨類資源についても海洋生物資源の保存と合理的利用の一環として
捉える必要があるとの立場から、国連環境開発会議(UNCED)で合意された持
続可能な利用の原則に則り、科学的な調査研究に基づく鯨類資源の保存と合理
的利用の原則が国際的に確立されるよう努める。
 国際捕鯨委員会(IWC)の管理下にある大型鯨類については、科学的資源評
価に基づく鯨類資源の包括的評価により、1982年にIWCにおいて採択された商
業捕鯨一時停止(モラトリアム)決定が見直されるよう科学的情報の収集に積
極的に取り組んでいる。このため北太平洋及び南氷洋において鯨類目視調査並
びに条約の規定に基づくミンククジラの捕獲調査を実施しており、引き続き必
要な調査の実施を検討していく。特に南氷洋における目視調査はIWCによる国
際的な共同調査としてIDCR(国際鯨類調査10カ年計画)の下で南氷洋における
鯨類資源の把握のために実施しているものであり、我が国は引き続き本調査に
調査員、船舶等を供出するなど協力を行っていく。また鯨類捕獲調査について
は、目視調査のみでは得ることのできない包括的評価に必要不可欠なミンクク
ジラ資源の生物学的知見を得ることを目的とし、引き続き「国際捕鯨取締条約
」の規定に基づき、南氷洋、北西太平洋において実施を図る。
 これらの目視調査により、IWC科学委員会においてミンククジラが南氷洋に
は現在76万頭以上、オホーツク海・西太平洋には 2万 5千頭以上生息すること
が認められ、南氷洋においては 100年間で約20万頭の利用が可能であると算出
された他、南氷洋捕鯨調査によりミンククジラの系統群や年齢の構成などに関
する重要な科学的知見が集積され、これらの調査に対し、国際的にも高い評価
が得られている。
 また過去の捕獲により資源が減少し現在に至っても未だ回復が見られていな
い シロナガスクジラ等の大型ヒゲ鯨類について資源量、回遊等の実態を把握
し、積極的な当該種の資源回復手法を解明するための調査を引き続き実施して
いく。更に、鯨類が生息する海洋生態系との有機的関係についても調査、研究
していく。
 IWCの管轄対象外のツチクジラやゴンドウクジラ、マイルカ類等の小型鯨類
についても、我が国周辺に分布・回遊する資源の遺伝学的手法による系群構造
の解明と目視調査による資源量推定に基づく資源管理の下で合理的利用を図る
。

3 国内の海洋生物資源等の持続可能な利用及び保全

(1) 水産資源の保護・管理
 水産資源は、鉱物資源と異なり再生産可能な資源であるため、漁獲強度を適
正に保つことで、その持続的な利用を図ることができる。このため我が国では
「漁業法」、「水産資源保護法」といった公的制度によって、漁獲能力の規制
、漁船規模、隻数の規制等を行っている。
 漁具・漁法が改良され潜在的な漁獲能力の向上した今日では、今後も、適正
な公的制度の運用によって、適正な野生水生生物の保護管理を推進していく必
要がある。同時に、水産動植物の繁殖・育成に適した藻場、干潟等の水面を「
水産資源保護法」に基づく保護水面に指定し、管理、調査等を行い、水産資源
の保護培養を図る。
   
(2) 資源管理型漁業の推進                       
 水産業をめぐる内外の厳しい情勢の下で、我が国周辺水域の水産資源の持続
的利用を図るため、資源の適切な管理と有効利用が重要な課題となっている。
 このため、我が国においては、法律制度の適切な運用と相まって、資源の利
用者である漁業者の合意に基づく自主的な取組により、水産資源の維持・増大
と合理的利用を図る「資源管理型漁業」を推進している。これら自主的な取組
は現在沿岸漁業を中心に広がりを見せつつあり、今後は対象資源を一層広げ、
効果的かつ広域的に実施していく必要がある。
 
(3) 規制遵守のための監視及び取締活動
 沿岸・沖合水域においては、海上保安庁の巡視船艇・航空機、水産庁の取締
船・航空機及び都道府県の取締船等が、漁業関係法令違反の防止及び取締りの
ための活動を行い、特に悪質かつ組織的な密漁事犯を重点とした取締を行う。
 また、沿岸域における密漁防止のため、広範な取締協力体制の整備、密漁監
視員活動の強化育成等により密漁防止体制の整備を推進する。

(4) 資源管理のための各種規制、再編整備の推進
 国内の海洋生物資源管理のため、違反者に対する厳しい処分も含めた漁業関
係法令に基づく農林水産大臣及び都道府県知事による許可制度を通した参入制
限等の漁獲努力量規制措置の実施や漁具・漁法・漁場等の制限措置を実施して
いる。
 資源水準が低調な状態で推移している漁獲対象資源については、漁業者によ
る網の目合い、操業期間、操業海域等の漁具・漁法、操業条件に関する自主的
な資源管理措置を実施するとともに、資源量と均衡のとれた漁獲量を実現する
漁業生産体制の再編整備を図っている。

(5) 生物多様性に配慮したつくり育てる漁業の推進
ア 栽培漁業の推進
 我が国周辺水域は、世界でも有数の生産力の高い好漁場であるが、近年、同
水域の水産資源は総じて低水準にある。このため、資源を適正に管理しながら
利用する資源管理型漁業への積極的な取組や栽培漁業等を中心とした資源増殖
施策の展開によりこれら資源を回復、増加させることが重要な課題となってい
る。
 このうち、栽培漁業については、国民の需要、資源の状況等から資源水準の
維持・増大の必要性の高い水産動物について、種苗を大量に生産・放流し、こ
れを経済的に適正な大きさまで育成し、合理的に漁獲することで、我が国漁業
生産の維持・増大と漁業経営の安定を図るものとして、関連の技術開発、施設
整備等が進められているところである。しかしながら栽培漁業が所期の目的を
達成するためには、放流後の種苗が、天然の環境下で高い率で生き残ることが
必要であることから、この点に係わる生態系、種、遺伝子の多様性に配慮して
、当該漁業を推進していく。

イ さけ・ます漁業の推進
 さけ・ます類は日本の水産業及び食生活において最も重要な魚類の一つとし
て位置づけらている。
  国民のさけ・ますに対する強い需要に応えるため、国としては北海道におい
ては北海道さけ・ますふ化場を中心とし、本州においては民間等が育成した稚
魚に対し助成を行う方式により、国・道・県・民間が一体になった体制により
さけ・ますの資源造成をおこなっているところである。
 現在、高位安定的な資源造成を図るとともに、より効率的なさけ・ますふ化
放流事業を実施するために、生物学的データの収集・技術開発及び指導を強化
しており、さらに、最近の需要の高級化・多様化に対応するため、サクラマス
・ベニザケ等の資源造成を実施しているところである。
 今後とも、さけ・ます増殖事業は、北太平洋の生態系との調和を図るととも
に、生物として持つ種の特性と多様性を維持していくことに配慮することを念
頭に置きながら実施するとともに、本邦系さけ・ます資源動態の把握のための
調査研究体制の強化を図っていく。また、北海道のような一部の遡上河川の上
流域に、さけ・ます類を餌として依存している陸上野生動物が生息する場合は
、これら動物の餌環境をも考慮に入れ、さけ・ます増殖事業を推進する。

ウ 養殖漁業の推進
 養殖は消費者のニーズに応えた多様な水産物の安定的な供給に貢献しており
、日本の養殖の生産額は、漁業生産額の29%(1993年)を占めるまでに発展し
ている。
 また、海面養殖業による生産額は、養殖業を含む沿岸漁業全体の約45%(19
93年)を占めており、沿岸漁業の振興、漁村の活性化のために極めて大きな役
割を担っている。
 養殖に利用する種苗については人工種苗の利用を推進しており、現在まで人
工種苗生産が可能となっていない魚種については、種苗生産技術の開発を進め
るとともに、種苗用に天然の稚魚を採捕する場合には当該資源の状態を十分考
慮し、必要に応じて採捕を規制している。さらに、海洋生態系の保全に配慮し
た、環境負荷の小さい飼料の利用促進、残餌やふん等の堆積物の処理技術の開
発など海洋環境に配慮した養殖漁業を推進する。

エ 内水面漁業・養殖業の推進
 内水面は、漁業・養殖業の生産の場として重要であり、国民の余暇需要が増
大かつ多様化する中で、遊漁等のレクリエーションの場としての関心も高まっ
ている。一方、近年、河川、湖沼等における水質の悪化や水産動植物の繁殖、
生育の場の減少等、内水面漁業・養殖業を取りまく情勢は年々厳しさを増して
いる。
 このため、1)養殖施設等に魚病汚染防止施設、給排水等処理施設、廃棄物処
理施設及び用水再利用施設等の整備、2)養殖行為に伴う残餌やふん等の堆積物
の処理技術の開発、3)養殖漁場環境の保全を重視した養殖指導指針の検討・作
成、4)河川・湖沼を利用する遊漁者等に対しマナー指導や知識の普及啓発行う
ことにより漁場環境保全を図り、河川や湖沼の生態系に負荷を与えない内水面
漁業・養殖業の推進を図っている。また、生物多様性に配慮した適正な魚類等
の放流方法について検討を行うことにより、放流マニュアルを作成して、漁業
協同組合が行う放流事業に適用させる。

オ 漁場の造成と改良による生産力の向上
 水産資源の増大と合理的利用を図る「つくり育てる漁業」を推進するため、
栽培漁業等とともに「海の畑づくり」として、漁場の造成と改良による漁場生
産力の向上を図る。特に、海域の環境浄化能力等の多面的機能を有する沿岸域
の藻場・干潟の造成,ヘドロの浚渫等を一層積極的に実施することにより、多
様な生物にとっての良好な生息・生育地である「青く豊かな海」を確保する。

(6) 希少水生生物の保護・管理の推進
 漁業は、本来、自然の優れた再生産機能を利用することによって成立してい
る環境依存型産業であり、野生水生動植物の存在する生態系の維持を含めた海
洋等の環境を良好に保全していくことは、漁業の健全な発展を図る上からも極
めて重要であることから、資源が著しく悪化している野生水生生物については
、以下の措置を講じている。
 (ア) 資源状況の科学的かつ詳細な調査・分析
 (イ) 資源悪化の状態に応じた採捕、所持、販売の制限・禁止
 (ウ) 生息地等の保護のための保護水面制度の積極的な活用
 (エ) 保護増殖事業の積極的な展開
 多様性のある水生生物環境を維持していくことは、漁業生産性の維持にもつ
ながることから、今後も、産業有用種だけでなく、希少種を含めた多様性のあ
る水生生物環境の保全という観点から、野生水生生物の種の減少に対して適切
な対応を永続的に行っていく。また、効率的に水生生物資源を保全し、持続的
な利用を行うため、漁業実態を十分に考慮した上で、上記の施策に基づく希少
種の採捕、所持、販売の制限・禁止、保護水面制度の活用、保護増殖事業等の
施策の展開を図る。

4 海洋環境等の保全

(1) 漁場環境の保全
 近年、我が国においても沿岸域における各種開発事業が盛んに計画・推進さ
れており、同時に、社会経済活動の活発化に伴って、生活排水、産業排水によ
る閉鎖性水域における富栄養化や各種廃棄物による海や浜辺の環境汚染が進行
している。このような事態は、海洋への新たな汚濁負荷の増大等、周辺の漁場
環境に広範な影響を及ぼすことが懸念される。
 海洋環境を保全し良好な漁場を確保することは、生物多様性の維持にも寄与
することから、今後とも沿岸域の各種開発について、事前に十分な環境影響調
査を実施して水産資源に与える影響を最小限にし、又は事業の実施に当っては
、環境を保全・修復するための諸方策を講じていくほか、栄養塩(窒素、燐、
珪酸等)と微細生物の多様性の関係について調査し、水域ごとの生物多様性を
維持し良好な漁場として望ましい栄養塩類等の指針を作成する。更に、プラス
チック類等の廃棄物による海洋環境の悪化に対処し、海と渚の環境保全を全国
民的な課題としていくため、全国各地の海や渚で自主的に行われている環境美
化活動を全国民的かつ組織的な運動として推進していくのと同時に、漁業活動
から生じる漁船、漁網、貝殻等の廃棄物について、これら廃棄物の再生産利用
を含む実用的な処理技術の開発を行うほか、漁業者を中心とした組織的な処理
体制づくりを推進していくことが重要である。

(2) 漁場環境修復の推進
 海洋の沿岸域や内水面においては、各種の開発等により、豊かな生物多様性
と生産性を有する藻場、干潟等の漁場が失われ、また、都市活動や産業活動に
よる汚濁負荷の増大より、周辺の海洋内水面環境に広範な影響を及ぼしている
。
 このため、環境が悪化している沿岸漁場において、ヘドロの浚渫、海水交流
の促進等を実施し、漁場機能の回復を図るとともに、漁場・水域生態系ミティ
ゲーションとして、代替藻場、代替干潟等、漁場、水域生態系修復のための諸
方策を実施することとし、特に環境修復を要する地域を指定し、総合的かつ計
画的な漁場及び海域・内水面環境の維持・修復を図る。

(3) 環境に配慮した漁港漁村の整備
 漁港は、漁業の生産基盤であるのみならず、静穏な水域を創出することによ
り、海洋生物の産卵場や仔稚の育成場としての環境の形成にも大きく寄与して
いる。このため、漁港の整備においては、その周辺の自然環境の改変を極力最
小限とするように努めるとともに、事業の実施に当たっては、水産動植物の生
息・繁殖が可能な護岸、自然環境への影響を緩和するための海浜等の整備を行
うなど、周辺の自然環境に調和した漁港づくりを推進する。また、漁港周辺水
域への汚水流入負荷軽減対策として漁業集落排水施設の設備や漁港内における
汚泥やヘドロの除去等を行うことにより漁港周辺水域の水質保全対策を強化す
る。
 また、漁村の多くは豊かな自然や景観に恵まれていることから、漁村の整備
に当たっては、これら漁村の有する特色を活かしつつ、漁村景観や親水等に配
慮した施設の整備を行う美しいむらづくり対策の推進等、自然にとけ込み都市
住民にも開かれた自然・居住・余暇空間の形成等の取組を進める。

第4節 野外レクリエーション及び観光

1 基本的考え方

 基盤開発をあまり必要とせず、環境に与える影響が少なく、自然教育的要素
のあるエコツーリズムのような適正で持続可能な野外レクリエーション及び観
光は、生物多様性に対する国民の理解を深めるとともに、生物多様性のもたら
す恵みを享受することができる利用の重要な一形態である。
 我が国においては、様々な観点から、地域の生物多様性を活かした持続可能
な野外レクリエーション及び観光の推進に寄与する様々な取組が進められてお
り、今後ともこのような取組の充実を図っていく。
 しかし一方で、このような野外レクリエーション及び観光であっても、様々
な形で生物多様性に対する負荷を誘発する可能性もあるため、その推進に当た
っては計画から実施までの各段階で環境に対する慎重な配慮が必要である。

2 自然とのふれあいのための基盤整備

 持続可能な野外レクリエーション及び観光を進めるには、自然の解説等に当
たる人材の養成・確保、活動プログラムの整備、活動のための場の確保といっ
た自然とのふれあいを図るための基盤整備が必要である。このため以下のよう
な取組を進める。

(1) 人材の養成・確保
 公的、私的を問わず各種の自然観察会等において生物多様性の重要性等を解
説するなどの事業を実施するとともに、民間活動機関との連携を図りつつ、こ
れらの事業に従事する指導者の養成と確保を図る。
 また、自然公園における動植物の保護思想の普及等のため、自然公園指導員
を委嘱・研修し、利用者指導の充実を図るとともに、国立公園の管理を補助す
るパークボランティアの養成及びその活動に対する支援を実施する。
 さらに、適切な野外レクリエーション及び観光を推進する民間ボランティア
団体の活動に対する支援を強化する。

(2) 活動プログラムの整備
 生物多様性の持続可能な利用方法や、生物多様性の重要性の理解を促すよう
なプログラムを研究開発し、その普及を図る。
 また、人々が自然とのふれあいの場に気軽に参加できるよう、「自然に親し
む運動」や「自然に親しむみどりの週間」、「全国・自然歩道歩こう月間」、
「環境月間」等における自然観察会の実施など生き物とふれあう機会を提供す
る。

(3) 情報の提供
 生物多様性に対する理解を深め、その恵みを享受するために必要な情報を収
集し、提供を図る。

(4) 活動のための場の整備
 自然公園等における整備事業は、国立・国定公園をはじめとする自然公園か
ら豊かな自然が残っている里山等身近な自然の中まで、国民が自然に学び、自
然を体験する場を整備するもので、生物多様性の構成要素の持続的利用を図る
うえでも、大きな役割を果たすことが期待される。
 このような考え方のもと、以下のような取組を計画的に進めるほか、国民の
協力を得つつ、美化清掃及び利用施設の適切な維持管理を図る。

ア 国立・国定公園の利用施設
 すぐれた自然環境を有する国立・国定公園において、生息・生育する生物を
活かした自然とのふれあいが確保されるよう、歩道、野営場、園地等利用の基
盤となる施設の整備を進めるほか、植生復元等により、すぐれた自然景観の修
復のための事業を実施する。
 また、国立・国定公園の核心となる特にすぐれた自然景観を有する広範な地
域においては、自然の保全や復元のための整備の一層の強化と同時に、きめ細
かい自然解説や利用指導を確保することにより、質的に優れた自然学習や自然
探勝ができるフィールドを面的に整備する「自然公園核心地域総合整備事業(
緑のダイヤモンド計画)」を進めるほか、国立・国定公園の主要利用拠点にお
いては、子どもたちがいきものや自然の植生などとふれあい、自然を学ぶこと
ができる中核施設を整備する「エコ・ミュージアム整備事業」を積極的に進め
る。
 さらに、家族が長期滞在し、自然とのふれあいができる環境にやさしいキャ
ンプ場の整備を実施する「エコロジーキャンプ整備事業」、健全な野外活動等
を楽しむ拠点となる「国民休暇村」等の整備を進める。

イ ふるさと自然公園国民休養地
 都道府県立自然公園において、都市住民が身近な自然とふれあい、自然を理
解するために必要な施設を総合的に整備する「ふるさと自然公園国民休養地」
等の事業の実施の支援を図る。

ウ ふるさと自然ネットワーク
 人間との関わりの中で保全、形成されてきた小動物の生息地や里山、水辺地
等の身近な自然を活用し、いきものとふれあい、自然の中で憩い、国民が自然
との共生を実感できる拠点として「環境と文化のむら」、「ふるさといきもの
ふれあいの里」、「ふるさと自然のみち」、「いきものふれあい浜辺」、「ふ
れあいやすらぎ温泉地」等の整備をふるさと自然ネットワークとして推進する
。

エ 長距離自然歩道
 長距離自然歩道は、多くの人々が四季を通じて手軽に楽しくかつ安全に国土
のすぐれた風景地等を歩くことにより、沿線の豊かな自然環境等に触れ、自然
保護に対する意識を高めることを目的に、これまでに総延長距離約 1万 4千km
を整備しており、今後とも未整備地域路線の整備、既存の施設の充実といった
取組を進める。

3 地域の特性に応じた野外レクリエーション機会の確保

(1) 農山漁村における野外レクリエーション活動基盤の整備
 近年、都市住民のゆとり志向が高まるなかで農山漁村型リゾートへのニーズ
が高まっている。このため、農山漁村地域において、その自然、文化、人々と
の交流を楽しむ、滞在型の余暇活動であるグリーン・ツーリズムの推進に必要
なモデル整備構想の策定等を行う「農山漁村でゆとりある休暇を」推進事業を
実施するとともに、都市住民等の森林内及び山村における滞在型余暇活動を促
進し、山村地域の活性化を図るため、森林の中を散策できる空間や交流のため
の基盤となる施設等を整備する「山村で休暇を」特別対策を実施しており、今
後ともその推進を図る。

(2) 森林における野外レクリエーション活動基盤の整備
 森林へのニーズは、都市周辺の緑の減少、高齢化社会への移行等を背景に、
快適な環境の一部としての森林、精神的な豊かさを養う場としての森林、さら
には健康的な活動の場としての森林に対する期待が高まっていることから、レ
クリエーションの場としての利用に加え、森林浴の場としての利用、ライフス
タイルの変化に伴うアウトドアライフの舞台としての利用、教育の場としての
利用等保健・文化・教育的な面も併せた森林空間の総合的な利用に対応した施
策の展開が必要となっている。
 このため、1990年度に「森林インストラクター制度」を発足させ、1991年度
から、一般の人々に森林・林業に関する知識を提供し、森林の案内や野外活動
の指導を行う森林インストラクターの養成と資格認定を実施しており、1995年
 1月現在311名が全国各地で活躍しているところである。
 また、従来からの森林・自然を漠然と体感する場としての山村への期待に加
えて、森林・自然を積極的に学習したいという要請、林業の体験を通じて森林
整備に貢献したいという要請や山村の生活様式を実際に体験したいという要請
も高まってきていることから、都市住民の森林・林業・山村に対する理解の醸
成と森林整備への継続的な参加等に資するため、森林・林業体験等を通じた都
市山村交流活動推進の担い手の育成を図るとともに、交流活動の推進に必要な
体験・学習の場、交流拠点等の整備を促進する「緑とのふれあいの里整備特別
対策事業」を1995年度から実施することとしている。
 今後とも、地域の実情、利用者の意向等を踏まえて、適切な森林整備を行う
ことによって多様な形態の森林の整備と森林空間の総合的利用を推進するもの
とする。
 このほか、第1節2(4)エ(イ)に記載した施策の展開を図ることとしている
。

(3) 都市地域における野外レクリエーション活動基盤の整備
 都市公園等は、都市における身近な野外レクリエーション活動の拠点等とし
ての役割を持つ基幹的な公的施設であり、都市公園等整備五箇年計画や緑のマ
スタープラン、緑の基本計画等に基づき、緑豊かな環境の形成を図りつつ、森
林浴のできる樹林地の整備を推進するとともに、都市内の自然環境の保全や都
市住民の身近な自然とのふれあいに資する自然生態観察公園等の整備、生産緑
地地区を有効に活用した都市住民が家族で土とふれあうことができる市民農園
等の整備等をそれぞれ推進する。
 また、都市公園等の整備に当たっては、緑豊かで自然に親しみやすい環境の
確保のため、公園の種別ごとに一定の緑化面積率の確保を図ることとしている
。

(4) 河川における野外レクリエーション活動の場の確保
 全国の河川において、河川環境の管理に関する施策を総合的かつ計画的に実
施するための基本的事項を定める河川環境管理基本計画を策定することとして
おり、その中で地域の利用要請が高い区域などについてゾーニングを行い、自
然環境の保全、利用のあり方、河川の工事と管理に当たっての配慮事項、整備
の方針などを明確にしている。さらには、優れた環境や多様な生態系等の自然
環境を有する地域で実施する事業が比較的多い砂防事業については自然環境・
景観の保全と創造及び渓流の利用に配慮した事業を推進するための渓流環境整
備計画を策定することとしている。以下に具体的な事業を示す。

ア ふるさとの川整備事業
 周辺の自然的・社会的・歴史的環境等の中で良好な水辺空間整備が求められ
ている河川において、市町村などが実施する区画整理事業や公園整備事業など
のまちづくりの中で一体的に河川整備を実施することにより、多様な生物が生
息する水辺空間の良好な形成を図り、地域住民が自然とふれあう豊かな環境の
持続的利用を推進する。

イ ダム湖活用整備事業
 ダム湖周辺の豊かな自然環境を保全し、法面植栽や湿地の整備等の新たな自
然環境の創出を行うとともに、ダム湖周辺の適正な利用を誘導し、地域の憩い
の場として提供することにより、ダム湖をレクリエーション資源としての価値
を高め、その持続可能な利用を推進する。

ウ ふるさと砂防事業
 砂防事業において、生態系等自然環境等の回復を図るとともに、地域の発展
計画との整合を図りながら、地域住民が自然とふれあう豊かな環境の持続的利
用を推進する。

(5) 海岸における野外レクリエーション活動の場の確保

ア 海岸の白砂青松の復元
 海岸は豊かな自然を有し、利用に対する国民のニーズも高いことから、海岸
保全施設の整備とあわせ、砂浜を保全・復元することにより、海浜利用や生態
系、景観等に配慮したやすらぎとうるおいのある海岸環境の整備を推進する。
 特に、将来残すべき貴重な財産である白砂青松を復元し、海水浴、森林浴を
同時に行うことのできる地域住民の交流の場、自然にふれあう快適な空間を創
出する。

イ 自然とのふれあいに配慮した漁港漁村の整備
 国民の海洋性レクリエーション需要が高まる中で、豊かな自然に恵まれた漁
港漁村において、漁港周辺における生物相の維持・保全に配慮しつつ景観の保
持や美化を図るため、植栽や水産動植物の繁殖が可能な親水機能を有する護岸
等の整備を行う漁港環境整備事業及び魚釣り場や炊事可能な休憩所等の整備を
行う漁港交流広場整備事業を推進することにより、良好な自然とのふれあいや
学習の場を提供する。
 また、漁港内において漁船とプレジャーボート等とのトラブルを防止すると
ともに漁業生産活動の円滑化を図り、海の自然とのふれあい空間の創出に資す
る漁港利用調整事業(フィッシャリーナ整備事業)を推進する。

ウ 自然とのふれあいに配慮した港湾の整備
 市民のいこいの場となる親水緑地や、健全な海洋性レクリエーションをはぐ
くむ拠点としてのマリーナの整備要請が近年高まってきており、港湾整備事業
等により市民に開かれた緑地やマリーナの整備を推進することにより、自然環
境とのふれあいの場を提供する。

(6) 観光基盤施設の整備
 国民の自然志向の高まり等に対応して、恵まれた自然の中に自然環境の保全
に十分配慮しつつ家族キャンプ村等の観光基盤施設の整備を行うことにより、
人々と豊かな自然のふれあいの場の確保を図る。

4 野外レクリエーション及び観光活動の際の配慮

 野外レクリエーション及び観光活動は、その様態によっては大規模な開発を
伴ったり、不適切な利用や過剰利用に伴う悪影響が生じる等、自然環境の改変
等により生物多様性を減少させる原因となるおそれも有している。このため、
施設の整備・運営、利用に当たって適切な配慮がなされるような取組を進める
。

(1) 施設の計画段階、工事実施段階における配慮
 野外レクリエーション施設、観光施設等の立地選定、工事実施等に際して、
事前に十分に調査・検討を行い、影響を受ける可能性のある野生生物の生息・
生育に対して適切に配慮するための措置を実施する。

(2) 自然公園における取組
 地域の実情に即した現地管理業務の指針となる「国立公園管理計画」の策定
と運用等を通じ、地方公共団体、民間団体等が整備する国立公園の公園施設の
適正な整備を誘導する。
 また、自然公園内の野生動植物を保護するため、自動車等のオフロードへの
乗り入れを規制する地域の指定と管理を進めるとともに、過剰利用による動植
物への悪影響が見られる地区等において、マイカー利用の制限等自動車利用の
適正化措置を実施する。
 さらに、過剰利用により生じた植生改変地等において、植生復元事業を進め
る。

(3) 観光関係事業者等への指導
 自然を活かし、自然とふれあえるような野外レクリエーション・観光活動が
促進されるよう、エコツーリズムの推進など観光関係事業者等に対する普及、
指導を図る。

(4) 親水性野外レクリエーションに伴う影響緩和のための普及啓発
 四方を海に囲まれている我が国では、水辺への関心が高く、海水浴、釣り、
潮干狩り等親水性レクリエーションの人気も高い。しかしながら、釣り場に放
置された釣り糸、釣り針が野鳥に被害を与えるなどの問題が生じている。この
ため、海底の釣り糸の除去及び遊漁者の水産資源の維持管理・持続的利用と釣
り場環境の保全についての意識の醸成・定着のための普及・啓発等を実施して
いる。
 また、プレジャーボートからのゴミや油の投棄問題が発生しているため、海
辺、川辺の美化意識の向上を図ることを目的とした、プレジャーボート利用者
へのマナーの啓発活動を推進している。
 今後も、引き続き、水生生物資源に配慮し、生物多様性の保全及び持続可能
な利用と両立した野外レクリエーション・観光活動を推進することとしている
。

第5節 バイオテクノロジーによる遺伝資源の利用

1 基本的考え方

 バイオテクノロジーを用いた遺伝資源の利用は、一般にわずかな量の野生の
遺伝資源から大きな可能性を引き出すことができることから、生物多様性の構
成要素の持続可能な利用形態であると言える。しかしながら、遺伝資源の利用
に際しては、野生の遺伝資源に悪影響を及ぼさないように配慮することが必要
である。また、遺伝資源の提供国に対しては、今後の議論を踏まえつつ、遺伝
資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分等に十分な配慮を払うことが
必要である。
 我が国においては、以下のような様々な取組が行われており、これらの取組
を一層促進することにより、生物多様性の構成要素たる遺伝資源の持続可能な
利用を進めるものである。

2 環境保全への応用

 アジェンダ21第16章にうたわれているように、バイオテクノロジーは農業、
人間の健康及び環境の各分野で大きな役割を果たすものと期待されている。そ
の環境保全への応用分野としては、汚染防止技術、環境浄化技術、計測・評価
技術、環境保全型技術等が考えられる。
 汚染防止技術としては、有機性汚濁に対する廃水処理(リンを含むもの等)
等については既に実用化されているほか、脱硫や脱硝等の排ガス処理への応用
も研究開発が進められている。
 環境浄化技術としては、土壌、地下水、海洋、大気等における汚染物質の分
解・浄化に微生物、植物を用いる研究開発が積極的に行われており、特に、近
年問題となっているトリクロロエチレン等の有害物質による土壌・地下水系の
汚染等に、微生物等の分解・浄化能力を活用するバイオレメディエーションが
注目されており、環境庁において、バイオレメディエーションの健全な利用の
促進に資するため、環境影響評価手法等についての検討を、通商産業省におい
て、バイオレメディエーションの安全性評価手法の検討及び技術開発を行って
いる。国税庁醸造研究所では、科学技術庁指針に則した組換え体微生物(酵母
)を環境修復等へ利用するための技術開発を、農林水産省では農耕地等の農林
水産環境を修復するための技術開発を進めている。
 計測・評価技術としては、微生物や酵素を利用したバイオセンサー等の研究
開発が進められている。
 環境保全型技術としては、通商産業省において、環境中で微生物によって水
と二酸化炭素に分解される(生分解性の)プラスチックの微生物による生産技
術、クリーンなエネルギー源である水素の光合成細菌による高効率生産技術、
地球温暖化防止のための微細藻類による高効率二酸化炭素固定化技術等の研究
開発が進められている。
 また、国立環境研究所においては、環境保全のためのバイオテクノロジーの
活用とその環境影響評価に関する研究を実施するとともに、環境保全研究に有
用な環境汚染の防止及び浄化に係る微生物の遺伝子保存を図っている。
 我が国は、バイオテクノロジーを環境保全に活用するという新たな分野を国
際的に推進すべく、1994年11月末、OECD科学技術政策委員会による「バイオレ
メディエーションに関するOECDワークショップ東京'94」を開催した。本ワーク
ショップでは、バイオレメディエーションに関する有効性・安全性並びにバイ
オレメディエーション及びバイオプリベンションの長期的環境保全の観点から
の国際協力のあり方が検討された。

3 医薬品分野への応用

 ホルモン等の生体内の微量物質の生産は化学合成では非常に難しく、また生
物等から採取するのも難しいものであった。現在ではこれらの生産に組換えDN
A技術が応用されており、1995年 6月現在までに承認された組換えDNA技術応用
医薬品は22種37品目にも及んでいる。また、遺伝子治療用医薬品等遺伝子組換
え技術を利用した技術は今後も発展することが予想されている。

4 農林水産業における利用

 農林業においては、従来から育種の基盤として遺伝資源が重要な役割を担っ
てきたが、バイオテクノロジーの進歩に伴い、病害虫等の抵抗性の遺伝解析、
画期的な新品種の育成、人工種子の開発等一層幅広い利活用が進められている
。
 このため、我が国においては、開発途上国自らが遺伝資源の保全・管理する
ための支援や熱帯生物資源の活用に関する研究者の派遣・受入れ等の協力を進
めてきており、今後とも、バイオテクノロジー及び育種技術等について、開発
途上国との連帯協力を一層進め、国際責務を果たすこととする。

5 醸造における利用

 国内においては、果実等から有用な微生物の分離・利用が行われている。
 国税庁醸造研究所では、ブラジル・中国・タイなどと研究の交流を行い、有
用な微生物の分離・利用について、共同研究契約を締結し、同定した全微生物
のリストとカルチャーを原産国へ残す等の配慮を行った上で、資源の探索を行
ってきた。
 これらの微生物資源に関しては、そのソース(分離源)を明確にした上で使
用しているが、これに関しては特に規定がないのが実状である。
 遺伝子操作微生物を用いた試験研究においては、「組換えDNA実験指針」に
準拠し、遺伝子操作実験を行っている。操作対象としている微生物は、酒類醸
造に関連する酵母及び糸状菌であり、DNA供与体も酵母及び糸状菌等の醸造関
連微生物である
 遺伝子操作微生物を用いた酒類の製造については、厚生省「バイオテクノロ
ジー応用食品・食品添加物の安全性確保のための基本方針」に従い、他の区域
と区分された作業区域内で行うこととしているが、現在のところ製品として製
造されているものはない。

6 発酵工業における利用

(1) 現状
 我が国では、カビ、酵母及び細菌又はこれら微生物の産生する酵素の作用に
よって、アミノ酸、乳酸、酢酸をはじめとする有機酸、アルコール、ビタミン
、ホルモン、抗生物質等を生産し、食品、アルコール飲料、化学工業品、医薬
品等の分野で利用してきた。微生物による新物質の生産や生産効率向上のため
、遺伝子組換え技術、細胞融合、細胞大量培養、バイオリアクター等の技術開
発を行ってきた。

(2) 今後の展開
 新たな物質生産能力をもつ微生物を発見するためには、多様な野生種からの
探索が今後とも有効であると考えられる。このため、生物資源へのアクセスに
ついては、国際的コンセンサス形成の一層の進展に向けて我が国としても積極
的に貢献していくこととする。

第6節 その他の利用

 第1節から第5節の記述のいずれにも該当しない形態の生物多様性の構成要
素の利用としては、薬草、山菜、かや、あし等の採取、狩猟、レクリエーショ
ンとしての釣り、アマチュアによる昆虫採集等があげられるが、これらの利用
も持続可能な形で行われる必要がある。その際、持続可能な形で行われてきた
伝統的な利用形態に学ぶことは重要である。
 狩猟については、「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」による管理が行われてい
る。釣りについては、禁漁区域や禁漁期間を設けたり、漁業組合が入漁料を徴
収すること等により、管理がなされている。こうした管理や普及啓発の促進に
より、持続可能な利用がなされるように今後とも努める。
 山菜の採取については、古くから山村地域等で持続可能な形で行われてきて
いるが、地域によっては過剰な採取又は不適切な方法による採取が行われてい
る。従来の持続可能な利用方法が今後とも継続されるように、普及啓発の促進
等に努める。
 かやの採取は、日本の伝統的民家のかやぶき屋根のふきかえに必要であるが
、必要量の確保が困難となりつつある状況である。日本の文化伝統の多様性を
確保する観点からも、かやの持続可能な利用を図る必要がある。
 また、海岸での遊漁やアマチュアによる昆虫採集についても、持続可能な利
用となるような配慮が必要である。
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