7. KCJ004  02/16 15:58  5908  第3部 第2章 生息域外保全

第2章 生息域外保全

第1節 絶滅のおそれのある種に関する措置

1 基本的な考え方及び対策の現状

 野生動植物種の保存対策の基本は、生息地における個体群の安定した存続を
保証することにある。しかしながら、絶滅のおそれのある種の中には、生息環
境の維持・改善等の生息域内の保全措置を講ずるだけでは、野生下での個体群
の維持・回復が困難な状況にあるものも存在する。また、生息域が限定されて
いることなどから、伝染性の疾病の侵入や生息環境の変化等により野生下の個
体群の急激な減少が生ずるおそれがあるものもある。このような場合には、生
息域内の保全措置と併せて、それを補完するものとして、生息域外での飼育繁
殖を図り、飼育下の個体群を創出するとともに、繁殖個体の再導入による野生
個体群の回復を図るなどの措置を生息状況に応じて適切に講じていく必要があ
る。
 この場合、飼育繁殖のための個体の確保が野生個体群に及ぼす影響、個体の
地域的な変異、個体の再導入が生物相に及ぼす影響等についても十分考慮する
必要がある。また、個体の再導入に際しては生息に適した環境の回復・整備が
重要である。
 このような考え方のもとに、国の行政機関、地方公共団体、動物園、水族館
、植物園、試験研究機関等において、これまでに例えばトキ、コウノトリ、シ
マフクロウ、タンチョウ、ツシマヤマネコ、ミヤコタナゴ、小笠原の希少植物
等の絶滅のおそれのある種を対象とした飼育繁殖研究や繁殖個体の生息適地へ
の再導入等の取組が実施あるいは計画されている。
 また、「種の保存法」に基づき指定された国内希少野生動植物種に関する保
護増殖事業計画を策定する際に、種の生息状況に応じて必要な場合には、生息
域外の保全措置を事業内容に盛り込んでいる。
 さらに、国内に生息・生育する絶滅のおそれのある野生動植物種(国内希少
野生動植物種)の中で、商業的に繁殖させることができる種(特定国内希少野
生動植物種)については生産・流通業の届出等一定の義務づけを行った上で、
その種の流通を認めている。この制度の狙いは、違法に捕獲等された個体が正
規の流通ルートに混入することを防止するとともに、増殖した希少種の入手を
容易にし、その希少価値を低減することにより野生種の保護を図るというもの
である。特定国内希少野生動植物種については、捕獲等の許可、譲渡し等の届
出の受理、立入検査等の業務を円滑に遂行するための手引書や業者、消費者向
けパンフレット等を作成し普及啓発を図っている。
 
2 今後の展開

 今後とも絶滅のおそれのある種については、その生息状況に応じて必要な場
合には、適時適切な方法により、生息域外の保全措置が講じられるよう努める
。
 「種の保存法」に基づく国内希少野生動植物種を対象とした事業を行う場合
には、順次、保護増殖事業計画を策定し、適切かつ計画的に事業を推進する。
また、「文化財保護法」に基づく天然記念物を対象とした事業を行う場合にあ
っても、十分な計画に沿って適切かつ効果的な事業の推進に努める。
 この場合、野生下での取組との連携を確保しつつ、全体として効果的な種の
保存対策が講じられるよう努めるものとし、国、地方公共団体、動物園、水族
館、植物園、試験研究機関、研究者等の関係者間の連携・協力のもとに効果的
に事業を実施するための体制整備を進める。
 また、種の存続が脅かされている野生水生動植物種については、自然水域に
おける絶滅の危機に対応するため、人工飼育下での系統保存及び増殖技術開発
を推進する。

第2節 動植物園、水族館等における生息域外保全

 動植物園、水族館等は、飼育繁殖等のための施設や専門的な知識技術を備え
た専門家を有すること、複数の園で分散して飼育することによる個体群維持の
リスクマネージメントや地域的な変異集団の維持が行い易いこと等から、野生
動植物種の生息域外保全に資することのできる機関である。
 (社)日本動物園水族館協会においては、動物園、水族館として種の絶滅の
防止に積極的に貢献していくため、同協会のもとに種の保存委員会等の組織を
設けて、関係園間で近交弱勢(近親交配による遺伝的劣化)を防ぐための血統
登録や飼育動物の移動・管理を行いつつ、飼育繁殖のための取組を進めている
。
 植物園においても、一部の園では、植物種の系統保存、増殖技術の開発、自
生地への植栽等の取組を実施している。
 第1節に述べたように、これらの動植物園、水族館等の取組と生息域内での
取組との連携を強化し、全体として効果的な種の保存を図る。

第3節 遺伝資源保存施設における生息域外保全 

 地球的視野で生物遺伝資源の賦存状況をみた場合、品種の均一化、熱帯林の
減少等により、貴重な生物遺伝資源が急速に滅失してしまうおそれがあり、生
物遺伝資源の保存が緊急の課題となっている。このような情勢に対処するため
、我が国は、それまでの収集保存体制を抜本的に再編強化し、生物遺伝資源の
総合的な収集、保全、利用システムである「農林水産ジーンバンク」を整備し
た(1985年)。農林水産ジーンバンクは、植物、動物、微生物、林木、藻類を中
心とする水産生物を保全の対象とし、生物遺伝資源の収集、特性評価及び保存
等を行うものである。
 同バンクに保全されている生物遺伝資源を活用し、新たに栽培されるべき作
物新品種を育成したり、栽培が途絶えてしまった作物を復活させるなど、農林
水産ジーンバンクは、生物多様性の確保という観点からも大きな成果を上げて
いる(例えば植物種では20万点を保全。なお、その大部分は、「生物多様性条
約」の発効以前に収集されたものである。)。 ジーンバンクの業務は、長期
的な計画に沿って実施していくことが大切であり、現在、1993年から2000年ま
での事業計画(第2期計画)にしたがって推進中である。第2期計画では、作
物の近縁野生種の保全にも力をいれることとしている。植物については、これ
ら野生種も含め、2000年に25万点の保全を目標としている。
 なお、遺伝資源の保全は国際的な協調の下に進められるべきであり、我が国は
これまでもFAO、国際植物遺伝資源研究所(IPGRI)に対する協力やJICAによる
プロジェクトの実施を通じて遺伝資源の保全に向けた国際協力を行ってきたと
ころであり、今後とも我が国が国際社会の中で期待される役割を果たしていく
。
 このほか、国税庁醸造研究所では、酵母、糸状菌等の酒類醸造関連微生物に
ついての保存機関として収集・保存を行っており、菌種目録等のデータベース
について、国際的なネットワークに参加し情報提供を行う。
 また、科学技術庁では、理化学研究所において、動・植物細胞材料および遺
伝子材料の収集・保存・分譲等を行うジーンバンク事業、微生物の収集・同定
(分類)・分譲等を行う微生物系統保存事業を実施している。
 厚生省においても、薬用植物全般の収集、保存等に関する研究を行っている
。
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