4. KCJ004  02/16 15:57   31K 第1部 生物多様性の現状

第1部 生物多様性の現状

第1節 自然環境の特性

 我が国の国土はユーラシア大陸の東縁辺に位置し、日本海をへだて大陸とほ
ぼ平行に連なる弧状列島からなる。面積は約38万km2 であり、北緯20度25分か
ら北緯45度33分まで緯度差25度8分、南北に約3,000km、気候帯としては亜熱帯
から亜寒帯まで含む。南からその規模において世界最大の海流の1つである黒
潮が、北からは親潮等が流れている。
 世界で最も新しい地殻変動帯の1つである日本列島は、種々の地学的現象が
活発である。地形は起伏に富み、火山地・丘陵を含む山地の面積は国土の約 4
分の 3を占める。山地の斜面は一般に急傾斜で谷によって細かく刻まれている
。山地と平野の間には丘陵地が各地に分布する。平野・盆地の多くは小規模で
山地の間及び海岸沿いに点在し、河川の堆積作用によって形成されたものが多
い。
 気候は湿潤であり、季節風が発達し、その影響が顕著で四季の別が一般には
っきりしている。前線の活動にともなう夏と秋の雨や冬の豪雪は、世界の平均
を上回る降水量を我が国にもたらしている。本州では脊梁山脈を境に気象の違
いが顕著であり、冬期において太平洋側は比較的乾燥しているのに対して、日
本海側は多雪地帯を形成する。また、日本列島は中緯度帯に存在するため南北
の気候の差が大きく、平均気温で見ると、北海道の網走で約6.0℃、沖縄の那
覇で約22.4℃となっている。さらに、起伏量が大きく急峻な地形は我が国の気
候を一層変化に富んだものとしている。
 日本列島を取り巻くこのような環境の現況は生物多様性の高さを保持する条
件となっているが、過去の気候変動等に伴い大陸との間で連続と分断を繰り返
してきたことも、現在の生物多様性の成立に影響を与えた大きな要因である。

第2節 生態系の多様性の現状

 本節においては、陸上における生態系を大まかに指標すると考えられる植生
の分布状況を中心に生態系の多様性の現状を概観する。

1 植生の概況

 第1節で述べた自然条件のもとに成立する植生は、本来大部分が森林である
。気候的極相に着目すれば、水平的には南から北に向かって常緑広葉樹林、落
葉広葉樹林、常緑針葉樹林がほぼ帯状に配置される。垂直的な推移もこれとほ
ぼ同様である。さらに、地形的・土壌的な要因による様々な極相群落が点在し
ている。
 一方、現実に存在する植生は自然現象による撹乱も含め、特に有史以来、人
間の様々な営みによってその大部分は代償植生に置き替わっている。この様な
代償植生の一部は結果的に我が国の生物多様性を高める方向に働いてきたと考
えられている。
 我が国においては、自然環境保全基礎調査の結果から、全国土を覆う 5万分
の 1レベルの現存植生図が整備されている。本植生図に記載された植物社会学
的な群落分類の凡例は総計766にのぼり、これらは自然草原、自然林、自然林
に準ずる二次林、二次林、植林地、背の高い二次草原、背の低い二次草原、樹
園地、水田・畑地、市街地等の10類型に区分される。それぞれの植生タイプが
国土面積に占める割合を見ると、森林(自然林、自然林に準ずる二次林、二次
林、植林地)は全国土の67.5%を占めている。自然林は18.2%であり、これに
自然草原を加えた自然植生は19.3%となる。二次林(自然林に準ずる二次林を
含む)は24.6%、植林地は24.7%、二次草原3.2%、農耕地は22.7%、市街地
等は4.0%である。なお、ここでいう自然林、自然草原とは極相又は極相とみ
なされる森林、草原を意味している。
 自然林や自然草原などの自然植生は急峻な山岳地、半島部、離島といった人
為の入りにくい地域に分布しており、平地、丘陵、小起伏の山地などでは二次
林や二次草原などの代償植生や植林地、耕作地の占める割合が高くなっている
。また、大都市の周辺では、市街地など面的にまとまった緑を欠いた地域が広
がり、国土全体では自然性の高い緑は限られた地域に残されているのが現状で
ある。また、全国の植生は、森林では自然度の低い森林が増加し、森林以外ま
とまった緑のみられない市街地などが増加するなど、自然度の低下や緑の減少
が進んでいるといえる。

2 地域別の生態系の概況

 北海道地方は自然植生の全国合計の半分以上が集中し、それらの占める割合
は全国で最も高い。森林は相観的に見れば落葉広葉樹林、針広混交林、針葉樹
林である。山岳地には亜寒帯性・高山性の自然植生が大面積で分布し、我が国
最大の湿原である釧路湿原など、原生的な自然環境が残されている。また、大
規模な農耕地も多い。動物相は沿海州との共通性が強く、クマ、シカ、キツネ
などは大陸産のものの亜種が分布する。一方、本州、四国、九州等とは独立的
で、リス、ウサギ、テンなどは本州産のものとは種レベルで異なっている。
 東北地方は北海道地方、沖縄地方に次いで自然植生の割合が高い。自然植生
の多くは「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」に基づく自然遺
産である白神山地を代表とするブナ林である。ブナクラス域代償植生が広く分
布し、全国で最も高い割合を占める。ツキノワグマやニホンカモシカなど大型
哺乳類の個体数も多く、ブナ林を中心とした動物相を本州では最も安定した状
態で保っている。昆虫では北上山地や奥羽山脈の高標高地に特産種がみられる
。
 関東地方は人口密集地帯を抱え、平野部を中心に市街地等が広がる。自然植
生は周辺部の山地帯に団塊状に分布する。かつては水田や畑地といわゆる雑木
林と言われた二次林が広く存在していたが、市街地化が進行してきている。か
つては平野部に広がる水田や水路、湿地とそれらをとりまく雑木林にトウキョ
ウダルマガエル、ミヤコタナゴ、ゲンジボタル、オオムラサキ、タヌキ、イタ
チなどが普通にみられたが、近年著しい都市化に伴い減少し、その反面アカミ
ミガメ、ウシガエル、アオマツムシなどの外来種が増えている。
 中部地方は中央部に山岳地を有し、その上部には北海道地方に次いで高山・
亜高山性の植生が多く、遺存種を多く有す。内陸部は降水量が少ない内陸性気
候となり、ブナは少なくミズナラ等が優占する。落葉広葉樹の二次林、植林地
も多い。南部にはヤブツバキクラス域植生が存在するが、その大部分は二次林
等の代償植生である。ヤマネなど日本の固有種が最も多く分布する地域であり
、植生帯の垂直分布に伴ってヒメヒミズ、コマドリ、ギフチョウ、種々のサン
ショウウオ類など、多様な種が生息している。
 近畿地方は関東地方と同様に市街地などの占める割合が高い。紀伊半島の一
部には、自然植生が残存しているが、大部分は二次林等の代償植生である。瀬
戸内海周辺ではアカマツ林が優占するが、近年松くい虫による被害が発生して
おり、土壌条件の良い場所では一部に常緑広葉樹林への遷移が見られる。我が
国最大の湖である琵琶湖は起源が古く、イサザ、ビワコオオナマズ、ゲンゴロ
ウブナなど多くの固有種を含む多様な水生生物が生息する。また、紀伊山地に
はヤマネ、ヤチネズミ、オオダイガハラサンショウウオ、ナガレヒキガエルな
ど中部山地や四国・九州山地と共通した種が隔離分布している。
 中国地方はその大部分が隆起準平原よりなり、アカマツ林等のヤブツバキク
ラス域の代償植生が全国で最も高い割合で存在し植林地も多い。一方、中国山
地の一部にはブナ自然林が残存している。瀬戸内海周辺のアカマツ林では、近
畿地方と同様に松くい虫による被害が発生しており、一部に常緑広葉樹林への
遷移が見られる。
 四国地方は森林の割合が全国で最も高い。亜高山性の植生やブナの自然林も
小規模ながら分布しているが、自然植生の割合は高くない。植林地、アカマツ
林、常緑広葉樹の萌芽林等代償植生の割合が高い。特に小動物では本州、九州
とも異なった動物相を有しており、昆虫や貝類などに多くの固有種がある。ま
た、カワネズミ、ヒバカリ、ヤマメ、ツチフキなど本州や九州の各県には広く
分布するが、四国地方にだけは分布していない種もある。
 九州地方は全国で最も植林地、水田・畑地の割合が高い。ブナクラス域自然
植生は九州中央山地上部に残存する。常緑広葉樹林は中南部に分布するが、そ
の大半はシイ・カシ萌芽林等のヤブツバキクラス域の代償植生である。有明海
を始め干潟が広く分布し、カニ類、貝類やエツ、ムツゴロウなどの特産の魚類
が生息する。自然遺産である屋久島はスギの自然林が大面積残されており、か
つ海岸より 2,000m近くの山頂付近まで典型的な垂直分布が見られる。屋久島
をはじめトカラ列島、奄美諸島、対馬などの島嶼にはそれぞれ多数の固有種が
生息するが、九州本土にもベッコウサンショウウオ、ヤマノカミのほか、昆虫
などに固有種がみられる。
 沖縄地方は北海道地方に次いで自然植生の占める割合が高く、特に沖縄本島
北部や西表島には大面積の常緑広葉樹の自然林が残存している。我が国の他の
地方とは大きく異なる動物相を有しており、他の地方には分布しない種を数多
く含んでいる。この傾向は昆虫類や貝類などで特に顕著である。また、遺存種
と考えられる動物種が数多く生息するなど島嶼生態系として、我が国の生物多
様性上、重要な位置を占める。

3 島嶼生態系

 一般に我が国の生物相は島嶼的性格が強い。我が国の国土は、北海道、本州
、四国、九州という 4つの主要な島と3,000以上の属島から成り立っており、
中には非常に特異な生物相を有する島嶼も含まれる。独特の生物相を有するこ
れら島嶼の生態系は、我が国のみならず、世界の生物多様性の保全のためにも
重要な意義を有している。
 奄美諸島から沖縄本島に至る島々は、大洋島である小笠原諸島を除けば日本
列島の中で最も古く大陸から離れたと考えられており、アマミノクロウサギ、
ヤンバルクイナ、リュウキュウヤマガメなど世界的にも一部の地域にしか近縁
種が見られない極めて特異な種を有する。また、八重山諸島までを含めた琉球
列島全体を通じて、イリオモテヤマネコ、ワタセジネズミ、カグラコウモリ、
ケナガネズミなどの哺乳類やセマルハコガメ、イシカワガエル、ヤンバルテナ
ガコガネなど本州以北には近縁種のいない南方系の独特の種が数多く生息して
いる。また、マングローブ林やサンゴ礁等日本の他地域ではほとんど見られな
い独特の生態系を有する。
 小笠原諸島は自生の高等植物の 4割近く、陸鳥のほとんどすべて、陸産貝類
の約 4分の 3が固有種・亜種である。亜熱帯における高温で降水量が少ないと
いう特殊な条件下に成立する植生であり、まとまって見られる場所は世界的に
もほとんどない乾性低木林等、特異な生態系が存在する。
 その他、大陸的要素の強い対馬や隠岐をはじめ、伊豆諸島、佐渡など地域特
有の生物相を有し、注目される地域が多い。
 これら特異な生物相を有する島嶼の生態系は、限られた地理的空間において
、長い間の外部との隔離の中で形成されたものであり、構成要素の相互の微妙
なバランスの上に保たれている。琉球列島などでは、開発などによる野生動植
物の生息・生育環境の悪化やマングース、イタチ、ティラピア、ミヤコヒキガ
エルといった移入種による生態系の撹乱による生物多様性の保全への影響が憂
慮されている。

4 主要な生態系の特性

(1)陸域
ア 森林
 生物の生息・生育上重要な生態系として、まず森林が挙げられる。自然環境
保全基礎調査によると、森林は、我が国の国土面積の67.5%を占め、そのうち
自然林が27%、里山などの二次林が37%で残りの37%が植林地である。自然林
は北海道地方に約半分の面積が集中し、それ以外の地域には小面積しか残存し
ていない。特に、常緑広葉樹林にはまとまった面積が残るものは少ない。汽水
域に発達するマングローブ林は、干潟と相まって生物多様性の高い生態系であ
る。西表島のマングローブ林が我が国最大である。薪炭林などある程度人為を
加えることにより維持されてきた二次林も我が国の生物多様性に特色を与えて
いたが、近年人為的作用の減少に伴い遷移が進行し、一部の種においては急激
な減少が懸念されている。
 森林は、採餌、繁殖の場として、また日照や風雨降雪あるいは天敵から身を
守るシェルターとして野生動物にすみかを提供している。
イ 草原
 高山・亜高山帯の自然草原、火入れなど人為的干渉のもとで維持されてきた
野草地(二次草原)が挙げられる。阿蘇や大山などの草原は我が国を代表する
二次草原であり、大陸系遺存種などの貴重種が多く生息・生育している。採草
地・放牧地等として利用され、管理されてきた二次草原の多くは、利用されな
くなり、十分な管理が行われなくなったため、遷移が進行し、かつては普通に
見られた草原性の種の一部は急激な減少が懸念されている。
ウ 湿原
 湿原は植生学上、低層湿原、中間湿原、高層湿原に区分される。低層湿原は
北海道から沖縄まで広い範囲に分布する。生活域周辺に分布するものが多く、
直接的な改変、水質汚濁等の圧迫を強く受けている。中間湿原は、屋久島を南
限とし我が国の冷温帯に広く分布する。高層湿原は中間湿原と同様に屋久島を
南限とし、北海道と本州中部以北、特に北海道に大半が存在する。これらの高
層湿原は氷河期の遺存種等の動植物の生育生息環境として重要である。
 また、土壌及び水理条件から見た場合、湿原は泥炭を生成する湿地として把
握され、降水のみによって涵養されるタイプと集水域から栄養塩類を供給され
ているタイプの2つに区分するのが一般的である。尾瀬ヶ原などは、これらの
2区分の複合した構造となっている。後者のタイプの湿原においては、周辺地
域の開発等の影響を受け易いので、湿原の保全に当たって十分な配慮が必要で
ある。
エ 河川、湖沼等
 河川、湖沼等は魚類をはじめ水生生物の生息地として重要なだけではなく、
鳥類等の生息地としても重要である。淡水魚類のなかには海水域と陸水域を行
き来している種も多いが、それらの行き来が阻害されている河川が少なくない
。1985年に行われた自然環境保全基礎調査によると、調査した113河川のうち
、河川横断工作物がない、あるいは河川横断工作物の魚道がよく機能して、遡
河性魚類(サケ、サクラマス、アユ等)が調査区間の上流端まで遡上可能な河
川は、13河川となっている。小川や水路などでも同様で、微小な流れと河川の
本流を行き来して生活しているヨシノボリやタナゴ類などの淡水魚、流下、遡
上が繁殖に欠かせないマツカサガイ、イシガイなどの二枚貝やモクズガニ、テ
ナガエビなどの甲殻類は、往来が阻害されている水域では著しく少なくなって
いる。
 閉鎖性の高い湖や池沼において、憂慮されている問題は水質の悪化とともに
オオクチバス、タイリクバラタナゴ、ウシガエル、アカミミガメ等の移入種に
よる生態系の撹乱と交雑による遺伝的汚染である。海水と淡水の混じる汽水域
は両者の生物が共存し、さらに特有の生物も多く、多様な生物相が見られる場
所である。

(2)沿岸海域
 我が国の近海には暖流である黒潮、これから分離した対馬海流と寒流である
親潮、リマン海流の四つの大きな海流が存在しており、海域生物相は、大きく
みれば寒暖両海流系の要素から成り立っている。また、我が国は総延長約33,0
00kmの屈曲に富んだ海岸線を有し、また内湾を中心に浅海域が発達している。
このような沿岸海域の中でも特に自然海岸、藻場、サンゴ礁、干潟の生態系は
重要な位置を占めるが、いずれも、海岸線の人工化、埋立て等の直接改変や汚
濁等の影響を受けている。
ア 自然海岸
 自然状態を保持した海岸は生物の生産及び生息の場として重要であるが、都
市化や産業の発達に伴い高度成長期には海岸線の人工的改変が急速に進められ
た。
 1993年度に行われた自然環境保全基礎調査によると、日本の海岸線は総延長
で32,817kmあり、本土部分が19,134km(58.3%)、島嶼部分が13,684km(41.7
%)となっている。総延長のうち、海岸(汀線)に工作物が存在しない自然海
岸は18,109km(55.2%)と約半分を占めているが、1984年度の調査結果と比べ
293km減少している。本土部分だけを見ると自然海岸は8,543km(44.7%)で、
潮間帯に工作物が設置されている人工海岸が7,279km(38.0%)を占めている
。
イ 藻場
 海草類や海藻の群落である藻場は、多くの小動物等のすみかとなるだけでな
く、魚介類の産卵、生育の場となっている。各地で磯焼け等による減少衰退が
問題となっている。
 1989年度から1991年度にかけて行われた自然環境保全基礎調査によると、現
存する藻場は201,154haあり、ひと続きで最大の藻場は、静岡県駿河湾から遠
州灘の海域に含まれる相良から御前崎に位置する藻場で、7,891haであった。
また、これを1978年度の調査と比べると6,403haの藻場が消滅しており、天草
灘や秋田海域で大面積の藻場の消滅が確認されている。
ウ サンゴ礁
 我が国のサンゴ礁地形はトカラ列島以南に存在し、その多くは裾礁に分類さ
れる。八重山諸島には我が国最大の面積のサンゴ礁があり、同海域の造礁サン
ゴ類の種の多様性は世界でも屈指である。しかし、琉球列島ではオニヒトデの
食害や赤土流入による汚濁等により、造礁サンゴ類の大幅な衰退が進み、一部
を除くと回復は進んでいない。サンゴ礁を形成するに至らないが愛媛県、和歌
山県等にも造礁サンゴ類の高被度の群集が分布している。 1989年度から1992
年度にかけて行われた自然環境保全基礎調査によると、南西諸島海域における
リーフ(礁池)内の造礁サンゴ類の生息可能地域の面積(サンゴ群集面積)は
約34,000haであるが良好な生息(被度50%以上)が見られたのはそのうち8.2
%にとどまっている。小笠原群島海域におけるサンゴ群集面積は約456haであ
る。また本土海域のサンゴ分布地域(被度5%以上)の合計面積は約1,400haで
ある。
エ 干潟
 干潟は太平洋岸、瀬戸内海沿岸及び九州に多い。特に内湾に発達する干潟は
、小動物の量、種数ともに著しく多く、多様な沿岸性の魚類、シギ・チドリ類
等の鳥類の重要な餌場となっている。一方で干潟の多くは人口が集中し、経済
活動の盛んな内海や内湾に分布し、埋立てなどの開発行為による消滅が進行し
ている。
 1989年度から1991年度にかけて行われた自然環境保全基礎調査によると、現
存する干潟は51,462haあり、その40%が熊本県有明海に分布している。また、
この調査では埋立てや陥没等により1978年以降4,076haの干潟が消滅したこと
が明らかになっている。

第3節 種及び種内の多様性の現状

1 種の多様性

 世界の植物相は6つの区系界に区分されるが、我が国はそのうちの旧熱帯区
系界と全北区系界の2つにまたがっている。旧熱帯区系界に属するのは南西諸
島、小笠原諸島及び南鳥島であり、このうち南西諸島と小笠原諸島は下位区分
の東南アジア区系区に、南鳥島はメラネシア・ミクロネシア区系区に属する。
我が国の残りの地域は全北区系界に含まれるが、下位区分でみると、高山帯は
極地・高山区系区、北海道北東部は東シベリア区系区、それ以外の大部分の地
域は日華区系区に属する。
 動物相の面からは、我が国は6つに区分される世界の動物区のうち旧北区に
属し、九州本島以北の地域の動物相はユーラシア大陸との類縁性が高い。また
、屋久島・種子島と奄美大島との間に引かれる渡瀬線より南の地域は移行帯域
であり、隣接する東洋区の要素が認められ、台湾や東南アジアとの近縁種が多
い。渡瀬線以北の地域は津軽海峡に引かれるブラキストン線によって2つの亜
区に区分され、北側はシベリア亜区、南側は満州亜区に含まれる。
 我が国の動植物相は、約38万km2という狭い国土面積の割には豊富である。
高等植物の種数について、我が国とほぼ等しい国土面積を有するドイツ(357,
000km2)と比較した場合、ドイツの種数が2,682種であるのに対し、我が国は
5,565種を有している。哺乳類について見ると、ドイツが76種に対し我が国は9
0種、また爬虫類では、ドイツが12種に対し我が国では63種が生息している(
種数の比較はWCMC,1992-1993による)。また、日本の動植物相は固有種あるい
は固有亜種の比率が高く、特にこの傾向が顕著である琉球列島と小笠原諸島は
東洋のガラパゴスと呼ばれることも多い。
 このような多様性に富んだ生物相が形成された背景として、まず我が国の国
土がユーラシア大陸に隣接し、緯度、経度ともに20゜以上、距離にして2000km
以上に広がっているという地理的な条件があげられる。新生代第四紀に繰り返
された氷期と間氷期を通じて、間宮、宗谷、津軽、朝鮮、対馬、大隅、トカラ
、台湾等の海峡は陸地化と水没を繰り返し、これに伴い様々な経路での大陸か
らの動植物種の侵入及びその後の分布の分断や孤立化が生じた。さらにこのよ
うな気候変動は植生の変化をも伴い、水平方向だけでなく垂直方向にも生物種
の分布の拡大、後退、孤立化をもたらした。これらの結果、日本列島には大陸
の南北から多様な動植物種がもたらされただけではなく、固有種への分化や大
陸では絶滅した種が遺存種として残るなどの現象が生じた。また、山岳地の多
い複雑な地形や、モンスーンの影響を受ける変化に富んだ気象条件も、豊かな
生物相を支えている。
 しかしながら、近年の各種人間活動の圧力は自然環境の急激な変化をもたら
し、湿原などの特定の生態系の減少や種の減少・絶滅など、種の多様性を脅か
す事態が進んでいる。
環境庁等の調査による我が国の動植物種の現状を別表に示したが、かなりの数
が絶滅のおそれのある種としてランクされていることがわかる。
 主要な分類群についての特徴は次のとおりである。
(1) 哺乳類
 大型哺乳類は種類数も少なくカモシカを除けば種としての固有性は高くない
が、本州で普通に見られる小型哺乳類の多くは我が国固有である。これまでに
ニホンオオカミ、エゾオオカミ、オキナワオオコウモリ、オガサワラアブラコ
ウモリ、ニホンアシカの 5種・亜種が絶滅したほか、ニホンカワウソ、イリオ
モテヤマネコ、ツシマヤマネコの3種は絶滅が危惧されている。そのほかアマ
ミノクロウサギ、ツシマテン、オガサワラオオコウモリ等の小型哺乳類やゼニ
ガタアザラシが危険な状態に置かれている。
(2) 鳥類
 渡り鳥等多くの種は季節に応じて国内外を移動している。世界的にみて我が
国が重要な繁殖地、あるいは越冬地になっている種も少なくない。周囲を海に
囲まれているため海洋性の鳥類が多いことが一つの特徴である。また、伊豆諸
島、小笠原諸島、南西諸島等は各々の島特有の鳥相を有しており、亜種レベル
での固有性も高い。これまでにリュウキュウカラスバト、ミヤコショウビン、
ダイトウミソサザイなど13種・亜種が絶滅したほか、アホウドリ、トキ、イヌ
ワシなど27種・亜種の絶滅が危惧されている。
(3) 爬虫類
 北海道を含む日本本土に生息する爬虫類の多くは固有種であるが、先島諸島
の爬虫類は台湾・南中国のものと共通性が高い。海性爬虫類ではアオウミガメ
、タイマイ等の繁殖地の分布北限は日本にあり、アカウミガメについては、西
部太平洋域での主要な繁殖地でもある。トカゲ類では伊豆諸島のオカダトカゲ
に代表されるように、特に島嶼での減少が著しい。これは、イタチやマングー
スなど本来分布していなかった肉食獣の移入によって捕食されている結果であ
る。キクザトサワヘビの絶滅が危惧されている。
(4) 両生類
 サンショウウオ類が多い事が特徴として挙げられ、各地で固有な種・亜種の
分化が著しい。これは移動能力の乏しさと山系が発達し水系が数多く分断され
る我が国の地形が大きく関わっているものと考えられている。近年、湧水の消
失あるいは水田の乾田化による用水路の消失などに伴い、平地性のサンショウ
ウオ類やカエル類が著しく減少しており、アベサンショウウオなどの絶滅が危
惧されている。その他イモリやダルマガエルなども全国的に激減している。
(5) 魚類
 多様な生態系を有する我が国の沿岸域は、暖流及び寒流の影響を受け、北方
系魚類、太平洋岸固有種、南方系魚類、広域遊泳性魚類及び深海性魚類等から
構成される豊富な魚類相を有している。およそ200海里以内に分布する種とし
て3,000種以上が報告されている。
 純淡水性魚類はアジア大陸東部との類縁性が高く、属の段階ではほとんどが
共通しているが、種や亜種の段階では我が国固有のものが少なくない。西日本
、特に琵琶湖を中心とした本州中西部で種類が多く、北にいくほど種数は減少
する。分布の限られている淡水魚の多くが、水質や生息環境の悪化、外来種・
移入種の侵入によって危険な状態におかれており、これまでにクニマス、ミナ
ミトミヨの2種が絶滅したほか、イタセンパラ、ミヤコタナゴなど16種・亜種
等の絶滅が危惧されている。
(6) 昆虫類
 我が国でこれまで確認された昆虫類は約30,000種であるが、250年の研究史
をもつイギリスで確認された種は23,000種であり、研究が進めば我が国の昆虫
の種数はおそらく7万から10万種程度に達すると予想されている。多様な自然
条件に恵まれた日本列島は、昆虫類の適応、分化、進化、行動などを考える上
で世界的に見ても貴重な種を多数産することが広く知られているが、近年の生
息環境の変化や消滅に伴い多くの種が絶滅したり脅威にさらされており、比較
的データの多いトンボ類、セミ類、チョウ類及びガと甲虫類の一部に限ってみ
ても、これまでにカドメクラチビゴミムシ、コゾノメクラチビゴミムシの2種
が絶滅したほか、ベッコウトンボなど23種・亜種の絶滅が危惧されている。
(7) 維管束植物
 複数の由来の異なる植物相により構成される我が国の植物相は多様である。
裸子植物、被子植物の約35%が我が国固有の植物であり、固有な科として 2科
、固有な属として約20属が知られている。これまでにサクラジマエビネ、タカ
ノホシクサなど35種・変種が絶滅したほか、レブンアツモリソウ、キタダケソ
ウ、ハナシノブなど147種・変種の絶滅が危惧されており、我が国の維管束植
物の種の約16%が絶滅の危険にさらされていると推定されている。

 以上に述べた動植物の分布情報は断片的にしか把握されておらず、我が国に
産する動植物の分布の全体像の把握が緊急に必要である。また、現状がほとん
ど不明である分類群も少なくなく、微生物に関するものを含め生物多様性を理
解する上で基礎的な情報が著しく不足している。


(表)我が国で確認されている動植物及び菌類の種数並びに絶滅のおそれのあ
る種の現状
・―――――――――――――――――――――――――――――――――・
|分類群    | 種  数 |絶滅種|絶滅危惧種| 危急種 | 希少種 |
|―――――――+―――――+―――+―――――+――――+――――|
|哺乳類    |    188|   5|     3|   11|   36|
|―――――――+―――――+―――+―――――+――――+−―――|
|鳥類     |    665|  13|    27|   27|   65|
|―――――――+―――――+―――+―――――+――――+――――|
|爬虫類    |    87|   0|     1|    2|   13|
|―――――――+―――――+―――+―――――+――――+――――|
|両生類    |    59|   0|     2|    4|    8|
|―――――――+―――――+―――+―――――+――――+――――|
|汽水・淡水魚類|    200|   2|    16|    6|   17|
|―――――――+―――――+―――+―――――+――――+――――|
|昆虫類    |  30,146|   2|    23|   15|   166|
|―――――――+―――――+―――+―――――+――――+――――|
|汽水・淡水産 |     |   |     |    |    |
|十脚甲殻類  |    197|   0|     0|    7|   45|
|―――――――+―――――+―――+―――――+−―――+――――|
|陸・淡水産貝類|    824|   0|    34|   39|   54|
|―――――――+―――――+―――+―――――+――――+――――|
|その他の動物 |   4,040|   0|     4|    3|   11|
|―――――――+―――――+―――+―――――+――――+――――|
|       |     |   |     |(危険種)|    |
|維管束植物  |  約5,300|  35|    147|   677|   − |
|―――――――+―――――+―――――――――――――――――――|
|蘚苔類    |  約1,800|        (調査中)       |
|―――――――+―――――+―――――――――――――――――――|
|藻類     |  約5,500|       (調査中)       |
|―――――――+―――――+―――――――――――――――――――|
|地衣類    |  約1,000|        (調査中)       |
|―――――――+―――――+―――――――――――――――――――|
|菌類     | 約12,000|       (調査中)       |
・―――――――――――――――――――――――――――――――――・
 (1)動物の種数(亜種等を含む)は「日本産野生生物目録(1993,95年、環境庁
 編)」による。
 (2)蘚苔類、藻類、地衣類、菌類の種数(亜種等を含む)は環境庁調査による
 。なお、ここでいう菌類は、子のう菌類、担子菌類、接合菌類、鞭毛菌類及
 び不完全菌類を指す。
 (3)絶滅のおそれのある動物種(亜種等を含む)の現状は「日本の絶滅のおそ
 れのある野生生物(1991年、環境庁編)」による。
 (4)「その他の動物」は、海綿動物門、刺胞動物門、扁形動物門、紐形動物門
 、曲形動物門、軟体動物門、環形動物門、触手動物門及び節足動物門(昆虫
 類、十脚甲殻類、カブトガニ綱、ウミグモ綱を除く)に属する種のうち、陸
 産または淡水産のものを指す。
 (5)維管束植物の種数及び絶滅のおそれのある植物種(亜種等を含む)の現状は
 「我が国における保護上重要な植物種の現状」(1989年、我が国における保
 護上重要な植物種及び群落に関する研究委員会種分科会編、(財)日本自然保
 護協会、(財)世界自然保護基金日本委員会発行)による。


2 種内の多様性

 すべての種は種内に遺伝的多様性を保持しており、この遺伝子レベルでの多
様性を保全することは生物多様性を保全する上での重要な課題である。
 同一の種と分類される中にあっても、島嶼や山地など、地理的に隔離された
地域個体群の間では、一般に地域毎に適応した異なる遺伝子を持っており、種
内における遺伝的多様性を保持している。種内の遺伝的多様性を保全するため
にはこうした地域個体群を保全することが重要であるが、現在、さまざまな人
為的な影響により、地域個体群の消滅が進行している。「日本の絶滅のおそれ
のある野生生物(1991)」によれば、32(哺乳類13、両生類5、淡水魚類7、昆
虫類1、貝類5、十脚類1)の地域個体群が、地域的に孤立しており絶滅のおそ
れが高いとされている。
 近年、人間活動によってさまざまな面から遺伝的多様性が低下していること
が指摘されている。個体の人為的な移動・移入による地域個体群の遺伝子の撹
乱、栽培または飼育下にある個体と野生個体との種内交雑などによって遺伝的
多様性が低下している例も多い。また、生息環境の悪化や、移入種との競合な
どによって個体数が著しく減少している種については、遺伝的多様性の低下が
懸念されている。
 しかし、遺伝的多様性の保全は、生物多様性保全の中でも比較的新しい概念
であり、その構造や撹乱等の現状は、我が国においても十分に把握されていな
い。現状では遺伝的多様性が把握されないまま、多くの地域個体群等が消滅し
ている。今後遺伝的多様性を適正に保全していくためには、現状を正確に把握
し問題点を抽出することが急務である。

第4節 世界の生物多様性の現状

1 生態系の多様性

 地球上には、特殊な環境の地域を除き、動植物が分布している。これら動植
物相は地域の環境特性に応じ、さまざまに進化、分化しつつ成立している。生
物地理的な生物群系の概観は次のとおりである。
 今日の世界の植物相は、地史的背景や温度、降水量、光量等の気候要因等を
踏まえて、全北、旧熱帯、新熱帯、南アフリカ、オーストラリア、南極の 6つ
の区系界に区分される。植生の水平分布をみると、南半球は海洋の面積が大き
いため、気候は海洋性であり、北半球のような広大な砂漠帯はない。また、気
候的には暖帯がなく常緑広葉樹林帯に相当するものがほとんどみられない。垂
直分布をみると、北半球では南から北への平面的な植生配列を、低地から高地
への垂直的な植生配列に対応させることができる。しかし、南半球では北半球
のように緯度による植生配列をそのまま対応させることはできない。
 一方、世界の動物相については旧北、新北、エチオピア、東洋、新熱帯、オ
ーストラリアの 6区に区分される。
 相観及び機能的観点からは、世界の陸上生態系を次の10区分に大きく分ける
ことができる。即ち、高山、ツンドラ、亜寒帯林、温帯林、温帯草原、温帯多
雨林、熱帯多雨林、サバンナ、低木林、砂漠である。これらの生態系では気候
、土壌等の環境条件に応じて、様々な生物がその構成要素となっており、こう
した各種の生態系が総体として世界の生物多様性を構成している。森林は、世
界の陸地の約3分の1を占めており、1992年現在で、38億7,980haの森林が存
在していると見積もられている。森林は、二酸化炭素の吸収や地表の環境の安
定に重要な役割を果たし、生物多様性の保全に重要な機能を有しているが、近
年、熱帯林の急激な減少・劣化など、世界的規模での森林の減少・劣化に関心
が高まっている。また、土壌の劣化や喪失といったいわゆる砂漠化の問題には
、地球規模での大気の循環の変動に伴う乾燥地の移動という気候的要因と、乾
燥地及び半乾燥地の脆弱な生態系における許容限度を越えた人間の活動による
人為的要因の2つがある。
 地中海性気候地域、サンゴ礁、島嶼、湖沼も特に生物多様性に富んだ生態系
を形成している。特に、島嶼生態系は、過去 400年間に絶滅したとされる、58
種の哺乳類と115種の鳥類のほとんどが島嶼に生息していたものであることか
らも、脆弱な生態系であることがわかる。
 世界の海域生態系については、1)全33動物門のうち、32は海域に生息してお
り、内15は海域特有であること、つまり、種より高次の分類単位(例えば門)
の多様性がきわめて高いこと、2)陸域より一般に複雑な食物網を示すこと、3)
深海にも多様な生態系が存在すること等が知られているが、未知の部分が多い
。沿岸海域には自然海岸、サンゴ礁、藻場、干潟など生物多様性の観点から重
要な生態系が多く存在するが様々な人為的影響を受けている。

2 種の多様性

 地球上の生物は原核生物界、原生生物界、菌界、動物界、植物界の 5界より
なり、全世界の既知の総種数は約140万種である。このうち、哺乳類は約6,000
種、鳥類は約9,000種、昆虫は約75万種、高等植物は約25万種である。未知の
種を合わせると300万種から3,000万種に及ぶのではないかと推測されている。
特に、世界の陸地面積の7%を占めるに過ぎない熱帯多雨林には世界の種数の4
0〜90%が生息・生育しており熱帯地域は世界の種レベルでの生物多様性の核
心である。このような地域の生物種や固有種の多い国を「メガ・ダイバーシテ
ィ国家」と呼び、例えばブラジル、コロンビア、エクアドル、ペルー、メキシ
コ、ザイール、マダガスカル、オーストラリア、中国、インド、インドネシア
、マレーシアなどがこれに該当すると考えられ、世界の生物種の60%から70%
はこれらの国々でみることができる。
 種の絶滅は、自然界の進化の過程で絶えず起こってきたことではあるが、通
常その速度はきわめて緩やかであったのに対し、今日の種の絶滅は、自然のプ
ロセスによるものではなく、人間の活動が原因であり、しかも地球の歴史始ま
って以来の速さで進行している。1994年には、自然及び天然資源の保全に関す
る国際同盟(国際自然保護連合:IUCN)により、世界の哺乳類の16%、鳥類の
10%の種が絶滅のおそれのある種に分類された。
 IUCNの分析によれば、絶滅の原因の39%が種の移入、36%が生息地の破壊、
23%が狩猟と意図的な根絶であった。特に島嶼に生息・生育する種は家畜、ペ
ットその他の移入種の影響を受け易い。生息・生育地の消失は生物多様性にと
って現在最大の脅威と考えられている。過剰な採取も重大な脅威と認識されて
いる。また、現在の速度で森林破壊が続いた場合、熱帯の閉鎖林に生息する種
の4〜8%が今後25年間に絶滅するとの推測もある。
 湖沼、河川、湿地等淡水域の生態系は最も脅かされている生態系の一つであ
り、淡水魚の 5分の 1は絶滅したか、その危機にあるとされる。汚染、移入種
が特に大きな脅威となっている。

3 種内の多様性

 一般に、生息数が減少し近親交配の頻度が高まると、種内の遺伝的多様性が
低下し、奇形率の増加、生存率の低下等、様々な障害が生じることが知られて
いる。例えば、米国フロリダ半島のピューマでは、個体数が減少し遺伝的多様
性が低下することで、尾の奇形等の障害が出ている。遺伝的多様性を維持し、
個体群を安定的に維持するためには、交配可能な性的成熟個体が適切な性比で
一定個体数以上生息することが重要である。
 また、作物の病虫害防止や生産性改良のためには、病虫害抵抗性を持った遺
伝子や高生産性遺伝子の導入が常に必要である。1991年にブラジルで発生した
柑橘類の潰瘍病の流行は、オレンジの木が遺伝的に均質であったことが被害を
大きくした主要因であった。こうしたことからも、栽培する作物が遺伝的に偏
らないようにするとともに、作物の原種を野生の状態で保全することを通じ、
その遺伝的多様性を維持しておくことがきわめて重要である。
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