3. KCJ004  02/16 15:56  3193  前文

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 地球上には、地域の気候や土壌等の条件に応じて、熱帯から寒帯まで、海洋
・沿岸地域から高山帯まで、様々な生態系や生物の生息・生育環境が広がって
おり、そこには、300万から3,000万またはそれ以上の生物種が存在するといわ
れている。また、同一の種であっても、分布地域や生息・生育環境の違い等に
よりその遺伝的特性の相違は小さくない。
 こうした生物多様性は、地球上に生命が誕生して以来、40億年の歴史を通じ
て形成されたものであり、人類の生存基盤をなすとともに、様々な価値を有す
る重要なものであるが、人間活動によって著しく減少していることが懸念され
ている。このため、現在及び将来の世代のために生物多様性を保全し、その利
用を持続可能なものとする必要性が国際的に強く認識されるに至った。国連環
境計画(UNEP)を中心に国際条約の作成が検討され、1990年から条約交渉が開
始された。作成された「生物の多様性に関する条約」(以下「生物多様性条約
」という。)は、1992年 6月の国連環境開発会議(地球サミット)において15
7カ国により署名され、1993年12月29日に発効した。我が国は、1993年5月28日
に生物多様性条約を受諾し、18番目の締約国となった。1995年10月現在の締約
国は128カ国である。
 「生物多様性条約」第 6条には、生物多様性の保全及び持続可能な利用を目
的とする国家戦略の策定に関する規定がある。同条約が発効し、その実施に向
けた取組が各国で進められていることから、我が国としても、新たに国家戦略
を策定し、「生物多様性条約」の実施に関する我が国の基本方針及び今後の施
策の展開方向を国の内外に明確に示すことが合意された。また、我が国におけ
る環境保全施策の基本的事項を定めた「環境基本法」においても、生物多様性
の確保は環境保全施策の策定及び実施に係る指針の一つに位置づけられており
、同法に基づき策定された環境基本計画(1994年12月16日、閣議決定)におい
ても本国家戦略を策定することとされた。
 このため、条約の実施促進を目的として1994年 1月に設置された関係省庁連
絡会議(11省庁の局長クラスで構成。議長は環境庁自然保護局長。)が中心と
なって国家戦略(原案)を作成し、1995年 8月に国民の意見聴取を行った。そ
の結果を受けて、所要の修正を行い、1995年10月31日に「地球環境保全に関す
る関係閣僚会議」において国家戦略が決定された。
 この国家戦略は4部構成である。第1部では、基本認識として、我が国及び
世界の生物多様性の現状にふれ、第2部では、生物多様性の保全と持続可能な
利用に関する我が国の基本的考え方及び長期的な目標を示した。また、第3部
では、自然環境の保全や生物資源の利用に関連する現行施策を生物多様性の保
全と持続可能な利用の観点から整理し、条約の実施のための今後の施策の展開
について示した。最後に第4部では、国家戦略の実施体制と各主体の連携、各
種計画との連携、及び国家戦略の点検と見直しについてふれ、国家戦略の効果
的な実施を確保するために必要な方策を記した。この国家戦略の実施主体は政
府であるが、生物多様性の保全と持続可能な利用は国民の社会経済活動の全般
に関わるものであることから、地方公共団体、事業者及び国民においても、積
極的自発的に取り組むことが期待される。
 我が国は、生物多様性の保全と持続可能な利用が日本の現在及び将来の世代
ばかりでなく、人類の将来にとっても極めて重要であることを認識し、この国
家戦略の実施を通じて、我が国の、そして世界の生物多様性の保全と持続可能
な利用が図られるように努めるものである。

 (注)生物の種数が300万から3,000万との推定値はRobert M.May,1992による。
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