11. KCJ004  02/16 16:01   20K 第3部 第6章 国際協力の推進

第6章 国際協力の推進

 生物多様性の保全等の地球環境保全は、一国のみでは解決できない人類共通
の課題であり、我が国の能力を活かし、その国際社会に占める地位にふさわし
い国際的取組を積極的に推進する。
 このため、地球環境保全に関する政策の国際的な連携を確保し、開発途上地
域の環境や国際的に高い価値が認められている環境の保全への協力を進めると
ともに、こうした国際協力の円滑な実施のための国内基盤を整備する。また、
調査研究、監視・観測等における国際的な連携の確保、地方公共団体又は民間
団体等の活動の推進に努める。さらに、国際協力の実施等に当たっての環境配
慮に留意するとともに、我が国の海外経済活動が生物多様性に悪影響を及ばさ
ないよう十分配慮する。
 生物多様性の保全と持続可能な利用のための国際協力の推進については、こ
の基本的方向で進めるとともに、特に、情報の交換、技術上及び科学上の協力
、開発途上国への協力及び自然環境関連の諸条約の実施の各分野においては、
以下のとおり施策の展開を進める。

第1節 情報の交換  	

 生物多様性に関する情報は十分なものではないが、各国にある様々な情報を
交換し、共有することにより、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する各
国の施策をより充実したものにすることができる。このため、我が国としても
、国内における調査研究の促進により情報の蓄積に努めるとともに、各国との
情報の交換を積極的に進めることが必要である。これは、開発途上国支援の観
点からも重要である。
 我が国には、国の試験研究機関、大学、博物館、動植物園、自然保護センタ
ー等生物多様性の保全と持続可能な利用に関する様々な情報を有する機関が存
在する。こうした機関の中には、それぞれの研究協力等を通じて既に生物多様
性に関する情報の交換に関わっているものがあるが、今後とも、各種国際機関
等や諸外国の国内機関等との情報交換に積極的に参加することが必要である。
 我が国は生物多様性に関する情報の収集、分析及び提供のための情報整備体
制等の検討を行っているところであり、これにより、国際的な情報交換への積
極的な参加が行えるように努める。
 また、UNEP、FAO、OECDをはじめとする国際機関等が開催する各種国際会議
において、今後とも積極的に情報の交換を行うとともに、多数国間条約や二国
間科学技術協力協定等に基づく調査・研究情報の交換を進める。

第2節 技術上及び科学上の協力

1 基本的考え方 

 生物多様性の保全と持続可能な利用を効果的に進めるためには、二国間、多
数国間、先進国間、対途上国、途上国間等、様々な形態の国際的な技術上及び
科学上の協力が必要である。また、保全や持続可能な利用に関する技術開発等
のための協力も、先進国と途上国、途上国間、先進国間等様々な形態で進める
ことが効果的である。
 このため、我が国は、これまでに蓄積してきた技術や科学的知見を基に、技
術上及び科学上の協力を進めるとともに、民間や地方の人材活用に配慮しつつ
、国際協力のための人材の育成を図る。
 また、我が国は、熱帯林、サンゴ礁、湿地、渡り鳥の生息地等、生物多様性
の重要な構成要素に関する現況把握のための国際的なモニタリングや調査研究
に積極的に参加協力する考えである。

2 共同研究計画等 

(1)地球圏・生物圏国際共同研究計画(IGBP)
 地球圏・生物圏国際共同研究計画(IGBP)は、全地球を支配する物理的・化
学的・生物的諸過程とその相互作用を究明することによって、過去から現在、
未来に至る地球環境とその変化、更に地球環境に対する人間活動の影響につい
て理解し解明するための研究計画である。
 近年、地球の温暖化、オゾン層の破壊など地球環境問題が国際的に大きな問
題となっているが、地球規模の環境変動が起こる機構については未だ不確実な
部分が多く、これが地球環境に関して適切な予測と対策を立てることを困難に
している。IGBPは、まさにこのような問題に対して、地球システムに関する科
学的な解明を通してこれに応えようとするものであり、本計画を推進すること
により、地球規模の環境変動が起こるメカニズムが解明され、地球環境に対し
て適切な予測と対策を立てることが可能となる。
 我が国はこれまでに大学等の研究機関が中心となって対応してきており、19
96年度にはその成果をとりまとめる。

(2)南極地域観測事業
 1956年から実施している我が国の南極地域観測事業では、南極の生物相を対
象とした調査研究も行われており、また、南極観測活動を行っている他の国と
の国際協力も実施している。
 南極地域観測は、極域の自然現象及び地球全体の環境変動を理解する上で重
要であり、今後は、南極から地球環境変動を監視・研究する環境モニタリング
研究観測を開始することとしている。

3 野生生物及び生態系保全関連の協力 

 二国間渡り鳥等保護条約に基づき、渡り鳥の渡りルートや生息状況等に関す
る共同調査研究をこれまでに実施してきており、今後もその推進を図るほか、
特にアジア・太平洋地域における渡りルート保全のために、ルート沿いの各国
と共同で各種の調査研究を進め保護区のネットワーク化を図る。
 また、主にアジア、アフリカ及びラテンアメリカ地域において、特に重要性
の高い国立公園、サンゴ礁生態系、自然遺産地域等の保全や、絶滅のおそれの
ある野生動植物の保存のために、共同調査研究を今後とも進める。

4 農林漁業関連の協力 

(1) 農業
 国際農業研究協議グル−プ(CGIAR)は設立以来、世界中の植物遺伝資源の
収集保全、及びこれを利用した新品種の開発等に取り組んでおり、遺伝資源の
保全と利用に関して先進的な技術を有している。 また、近年の生物多様性条
約を通じた生物種の保全と利用に関する国際的な枠組みに活動内容を適合させ
るために、遺伝資源に係る戦略を新たに策定している。
 我が国はCGIAR傘下の各機関に対し積極的な協力を展開しており、世界銀行
に次ぐ拠出を行っているほか、研究者の派遣、我が国の研究機関との共同研究
を実施しており、今後も引き続き積極的な協力を行う。

(2) 林業
 森林経営の持続可能性を把握・検証するための基準・指標づくりに積極的に
参加した。特に、欧州以外の温帯林等の主要保有国10カ国による基準・指標づ
くりの取組(モントリオール・プロセス)については、その第 5回会合を東京
で開催するなど積極的な貢献を行った。
 今後とも、このような基準・指標づくりへの取組はもとより各種の国際協力
、国内における森林整備等を通じて得られた技術的・科学的な知見を活用し、
森林経営の持続可能性を把握・検証するための基準・指標やその有効性の適用
・実証等に積極的に貢献する。

(3) 漁業
 海洋性の多様性の保全のベースとなる次のような海洋環境調査等を行ってい
る。
ア 世界海洋循環実験(WOCE:World Ocean Circulation Experiment)の一環
として、関係国と共同で実施した北太平洋における海洋の高精度観測
イ 人類が放出した様々な物質、特に栄養塩の海洋環境への影響を明らかにす
るため、地球規模海洋フラックス研究計画(JGOFS:Joint Global Ocean Flux 
Study)及び沿岸域における陸海洋相互作用研究計画(LOICZ:Land and Ocean 
Interaction inthe Costal Zone )の共同研究プログラムとして、縁辺海にお
ける物質循環機構の解明に関する国際共同研究
 また、海洋生物の探査方式の開発について、二国間科学技術協力協定等の枠
組みで研究協力を行っている。

5 情報システム、データベース整備関連の協力 

 インドネシア政府に対する生物多様性保全のための協力として、生息域内保
全技術の移転を行うこととしているほか、保全に必要な基本情報の維持、管理
、更新等の体制整備を行うなど情報システム及びデータベースの整備を実施し
ている。 
 今後も我が国で実施している自然環境保全基礎調査の技術を途上国に移転し
、生物多様性保全の前提となるデータベース整備が促進されるよう努めていく
こととする。

6 技術上及び科学上の協力のためのOECDを通じての活動 

(1) 現状
 第3部第1章第8節(遺伝子操作生物の安全性確保)で記述したとおり、OE
CD科学技術政策委員会では、バイオテクノロジーの安全確保問題から検討を開
始し、現在では、知的財産権、遺伝子治療を初めとするヘルスケア及びバイオ
テクノロジーの環境活用について検討を開始している。
 知的財産権に関しては、技術移転、資源アクセスの問題に関連してその適切
な保護のあり方について調査を開始したところである。遺伝子治療等ヘルスケ
アに関しては、加盟国の研究開発の現状把握を目的とし、1995年 6月にワーク
ショップを開催したところである。バイオテクノロジーの環境活用に関しては
、1994年11月末に東京にて、「バイオレメディエーションに関するOECDワーク
ショップ東京'94」を開催し、各国のバイオテクノロジーの環境活用に関する
ケーススタディを収集し、バイオレメディエーションの有効性・安全性並びに
バイオレメディエーション及びバイオプリベンションの研究開発上の国際協力
のあり方について検討を行った。この内容は、今後も関係する各委員会におい
て継続的に検討されていく予定である。
 
(2) 今後の展開
 我が国は、1991年からOECD科学技術政策委員会のバイオテクノロジーの安全
確保対策に関する活動に対し、活動資金の拠出を行ってきたが、安全性の問題
のみならず、バイオテクノロジーの研究開発・産業化の促進のため基盤整備を
行っていくことも重要である。
 特に、環境活用分野において、地球温暖化、資源枯渇、砂漠化等地球的規模
での環境問題は、各国共通の課題である。バイオテクノロジーを活用してのCO
2の固定化、水素製造等の汚染防止のための革新的技術に対する研究開発は、
その解決の一つの手法として国際的連携の下に行われるべきである。
 我が国は、1990年から国内でこれらの研究開発に取り組んでいるが、OECD科
学技術政策委員会においても、バイオテクノロジーの環境活用の促進の観点か
ら、その重要性を提言してきた。今後も、引き続きOECDにおける本分野の活動
をリードしていくとともに、OECD加盟国以外の国とも連携をとりつつ、地球環
境の保全を通じて生物多様性の保全に努めていくこととする。

第3節 開発途上国との協力

1 基本的考え方

 開発途上国の多くは、生物多様性に富んだ自然環境を有しており、それらの
自然環境は世界の生物多様性の保全上重要な役割を果たしているものが少なく
ない。また、開発途上国では、多くの住民が生活の基盤を生物多様性(生物資
源)に依存している。しかし、資金的、技術的、社会経済的状況から、単独で
は生物多様性の保全と持続可能な利用を十分に行えない国が多い。
 こうした開発途上国において、生物多様性の保全と持続可能な利用を推進し
ていくことは、世界レベルの生物多様性の保全に不可欠である。我が国を含む
先進諸国は、開発途上国に対して、生物多様性の保全と持続可能な利用に関す
る計画策定・立案・実施、人材育成、施設の整備等の様々な側面で積極的に支
援するとともに、開発途上国における知見を活かし、ともに協力しつつ、生物
多様性の保全と持続可能な利用の促進を図り、世界レベルの生物多様性の保全
に寄与する責務を有している。
 また、一方で、これらの開発途上国が有する伝統的な技術や知見などには、
我が国における生物多様性の保全と持続可能な利用の促進のために学ぶべき技
術や知見がある点にも十分留意する必要がある。
 我が国としては、こうした基本的認識に基づき、以下の諸点に留意し、開発
途上国における生物多様性の保全と持続可能な利用に積極的に貢献していくこ
ととする。

2 政府開発援助の効果的活用

 我が国は、政府開発援助大綱の基本理念、原則および国連環境開発会議にお
ける表明を受けて、環境分野の政府開発援助の拡充・強化に努めている。今ま
でも、政府開発援助により、生物多様性関連分野に関する各種協力を実施して
きたところであるが、今後、以下の諸点も踏まえ、効果的な協力を推進する。

(1) 政策対話の推進
 生物多様性の保全に関する基本認識を途上国との間で共有し、途上国におい
て生物多様性の保全に適切な優先順位が与えられ、積極的な取組が促進される
よう、密接な政策対話を進める。

(2) 技術・ノウハウ等の移転等
 生物多様性保全のための制度・組織の整備、人材育成、生物多様性について
の基礎的情報の整備、生物多様性の持続可能な利用に向けた研究等に関し、途
上国において不足している情報・施設等の充実を支援するとともに、途上国の
対処能力の向上を支援するため、我が国の有する技術・ノウハウ等の移転を図
る。また、途上国の経済・社会制度及び開発計画と両立する手法の導入による
生物多様性保全のためのモデルプロジェクト等の実施を途上国と共同で進める
。

(3) 民間団体等の活動の支援
 民間団体等によるきめの細かい活動が、生物多様性の保全に従来から有効な
役割を果たしてきたことを踏まえ、開発途上国における民間団体等による取組
を支援する。

(4) 国際機関、他の先進国の援助機関等との連携・協調
 生物多様性の保全に関する開発途上国の支援については、国際機関等や他の
先進国の有する知識や技術を活用していくことも効果的であり、国連諸機関、
国際金融機関、他の先進国の援助機関等との間で適切な連携・協調を行う。
 特に現在「生物多様性条約」の暫定資金メカニズムとして指定されている地
球環境ファシリティ(GEF)については、我が国は、その試行期間(パイロッ
ト・フェーズ)の時より、積極的に参加、貢献しており、GEF1(1994年 7月〜
97年 6月)の資金規模の拡大交渉に当たっても地球規模の環境問題の重要性に
鑑み、積極的なイニシアティブを発揮してきたところである。我が国のGEF1に
対する拠出額は約 457億円(総額の約20%)であり、米国についで第 2位の拠
出国である。我が国は、GEFが同条約の恒久資金メカニズムとなるべきと考え
ている。

(5) 国内基盤の整備
 生物多様性分野の援助を円滑に実施していくためには、人材の確保が重要な
課題であり、地方公共団体及び民間の専門家を含め幅広い人材の活用を図る。
また、人材を育成するための研修をはじめ各種制度の充実を図る。
 生物多様性の保全と持続可能な利用に関する情報、国内に蓄積されている技
術や経験を収集・整理し、途上国の状況・ニーズに応じた適正技術の円滑な移
転の基盤を整備する。

(6) 援助等の実施に際する生物多様性への配慮
 政府開発援助の実施に際して生物多様性への適切な配慮が実施されるよう、
各機関において「環境配慮に関するガイドライン」を的確に運用するとともに
、人材の養成をはじめ環境配慮の実施のための基盤を強化し、国際機関等とも
連携しながら、適切かつ効果的な環境配慮を実施する。さらに、援助実施中の
状況調査に加え、援助案件の完成後も評価を行う。また、その他の公的な資金
による協力及び民間企業の海外活動についても適切な環境配慮が行われるよう
努める。

3 個別分野における協力

 生物多様性の保全と持続可能な利用に関連する個別分野の国際協力について
は、各分野の連携を図りつつ、総合的に世界の生物多様性の保全と持続可能な
利用に大きく貢献できるよう以下のとおり施策の展開を図る。

(1) 野生生物保護及び保護地域管理の分野
 野生生物保護の分野では、これまで生息分布状況等の基礎的情報の収集や整
備、普及啓発、保護管理計画の策定等に対して協力を進めており、今後とも、
こうした協力の充実を図る。特にアジア地域については、共通の渡り鳥が生息
するなど生物の分布や生息・生育環境の観点から相互依存関係が特に深く、重
点的に協力を展開する対象地域である。また、その他の地域については、特に
、生物多様性保全上重要な地域における生態系、種、個体群の保全を中心に協
力を進める。
 生物多様性保全の総合的なプロジェクトとしては、日・米・インドネシア三
国協力の下に、インドネシアで実施している保護地域の管理と情報の整備を支
援する生物多様性保全プロジェクトがあげられる。

(2) 農業分野
 我が国は、FAOの植物遺伝資源委員会等への参加、アジア・太平洋地域動物
遺伝資源保存対策強化事業に対しての信託基金への拠出等を通じて、途上国の
農業及び食糧増産に寄与できる遺伝資源の保全問題の解決及び持続可能な利用
の促進に取り組んでおり、今後ともこのような協力を積極的に推進していく。
 将来の飛躍的な農業等の発展に寄与しうる有用な生物資源の滅失・逸散が懸
念されている多くの開発途上国においては、生物資源の評価、保全及びその適
切な利用への協力が重要となっている。現在、農林水産省国際農林水産業研究
センター等が開発途上地域やロシアにおいて、地域に適した品種育成等に関す
る共同研究を推進しているところであるが、今後とも、生物資源の保存・評価
・利用等に関する国際共同研究を積極的に推進する。

(3) 林業分野
 熱帯林の持続可能な経営の推進に資するため、国際熱帯木材機関(ITTO)に
対して資金提供等積極的な協力を行っているほか、同機関との共催で天然林施
業、生物多様性の保全等をテーマとしたセミナーを開催し、技術的、制度的検
討を実施している。
 また、熱帯林の持続可能な経営の確立に資するため、植生遷移に着目した森
林施業方法、野生生物の生息地の保全のための森林管理手法及び地域住民の定
住環境等に配慮した森林管理計画の策定方法に関する調査を実施している。
 生物多様性に関連する二国間協力としては、インドネシアにおける「熱帯降
雨林研究計画フェーズ 3」、ブラジルにおける「アマゾン森林研究計画」等の
プロジェクト方式技術協力を実施しているほか、マラウィにおいて「コタコタ
地域持続的資源管理計画調査」を開発調査として実施している。
 今後は、1)天然林の生態系に関する基礎的な研究を積み重ね天然林施業技術
の体系化を推進していくとともに、これらを実際の現場での施業技術の的確な
運用に結びつけていくための実行体制の整備とその核となる森林・林業技術者
の確保・養成に必要な技術協力・資金協力を拡充強化する、2)代表的な生態系
や景観を有した森林や、絶滅のおそれのある種が生息する森林の管理に関する
技術協力、資金協力を推進する。

(4) 漁業分野
 近年、開発途上国においては、沿岸域の有用資源の最適利用に強い関心を示
しているものの技術的、経済的な面において適切な対応ができずに苦慮してい
るほか、未だ当面の食糧確保、就業の場の確保のため漁獲努力量の投入を優先
せざるを得ない状況にあるところも少なくない。
 このような状況の中、水産資源の保護、管理、増養殖に多くの経験と技術を
有する漁業先進国である我が国に対する開発途上国等の期待は大きくまた世界
有数の水産物輸入国としての立場からも、我が国は世界の水産資源の保護、管
理、増養殖等に大きく貢献することが人類全体に対する責務として期待されて
いる。
 このため、我が国では開発途上国への水産分野における協力として、政府べ
ース、民間ベースにより、相手国の要請を踏まえた産業開発支援を行ってきた
が、今後、海洋生物資源の持続的利用という観点から、また、生物多様性の保
全に関する配慮をも視野に入れつつ、バランスのとれた協力のあり方を考究し
ていく考えである。

(5) 熱帯生物資源分野
 熱帯生態系における生物多様性の保全及び遺伝資源の持続可能な利用に必要
な技術を共同で研究開発することを目的とした「生物多様性保全と持続的利用
等に関する研究協力事業」をタイ、インドネシア及びマレイシアで実施してい
る。
 今後とも、開発途上国における生物多様性の保全及び持続可能な利用のため
の能力構築に、相手国の状況やニーズを十分に勘案しつつ、積極的の協力して
いくこととする。また、二国間協力だけでなく、アジア地域の情報交換機構(
クリアリング・ハウス・メカニズム)や研究協力ネットワークの構築にも努め
ていくこととする。

(6) バイオテクノロジーと知的所有権
 知的所有権によって保護されている技術の取得の機会の提供及び移転につい
ては、「生物多様性条約」第16条第 2項で、当該知的所有権の十分かつ有効な
保護と両立する条件で行うこととしている。一方、同条第 5項では、知的所有
権がこの条約の目的を助長し、かつこれに反しないことを確保するため、国内
法令及び国際法に従って協力することを求めている。
 国際取引が増加し、世界経済がますます一体化しつつある現在、バイオテク
ノロジーの成果の保護はもはや一国だけの議論ではなくなっている。バイオテ
クノロジー先進国たる我が国が、その適切な保護の在り方を提示することによ
り、今後の保護の国際調和に向けて、積極的な役割を果たすことができるもの
と考えられる。
 今後、生物としての特徴を有する成果を含むバイオテクノロジーの成果を既
存の法の組合せによって知的所有権として適切に保護することを通じ、開発途
上国への協力をはじめとする国際協力の推進等、「生物多様性条約」の目的の
達成に寄与することが必要となろう。

第4節 自然環境関連の諸条約の実施

1 諸条約との連携強化

 「生物多様性条約」と関連する他の多数国間の国際約束としては、特に水鳥
の生息地として国際的に重要な湿地の保全を目的とし、各締約国が促進すべき
保全のための諸措置を定める「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に
関する条約」(ラムサール条約)、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存
を図るため、希少種の国際取引(輸出入及び海からの持込み等)の規制につい
て定める「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」(ワ
シントン条約)、文化遺産及び自然遺産を人類全体のための世界の遺産として
損傷、破壊等の脅威から保護し、保存するための国際協力の確立を目的とする
「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」(世界遺産条約)、南極
地域の環境を包括的に保護するための「環境保護に関する南極条約議定書」等
がある。また、我が国が締結している渡り鳥等の保護に関する二国間条約や協
定も本条約と密接に関連している。
 これらの条約等と本条約は、それぞれ対象、保護の態様等に差異があるもの
の、ともに広い意味での自然環境保全、野生動植物及びその生息地等の保護を
目的とするものである。
 「生物多様性条約」は、第1回の締約国会議を了したばかりであり、今後の
数次の締約国会議を経て、条約に基づく活動を早急に軌道にのせる必要がある
が、既に先行して地球環境保全の課題達成に向け機能しているこれらの関連条
約等と本条約がよく連携をとり、地球環境保全の課題達成に向け取り組んでい
くことが肝要である。

2 諸条約の実施

 「ラムサール条約」の実施のため、国内においては、湿地生態系保全のため
の保護地域の設定の推進を図るとともに、特に、国際的に重要な湿地について
は条約上の登録湿地とするよう努めている。また、国際的には、特に我が国に
渡来する水鳥類の渡りのルート上に位置するアジア地域において、湿地の現況
調査や普及啓発を進めるなどにより、アジア諸国における条約批准の促進や湿
地保全への協力に努めている。今後とも、国内外の湿地保全のための取組を進
め、「ラムサール条約」の実施促進を図る。
 「ワシントン条約」については、附属書□〜□に掲げられている種の輸出入
の規制を「外国為替及び外国貿易管理法」の「輸出貿易管理令」及び「輸入貿
易管理令」並びに「関税法」に基づいて行っている。さらに、「ワシントン条
約」の附属書□に掲げる種及び二国間の渡り鳥保護条約等で絶滅のおそれのあ
る鳥類とされた種については、「種の保存法」に基づき、国内での取引規制を
行っており、こうした国内法の適切な運用によりこれらの条約等の実施を推進
していく。
 「世界遺産条約」については、自然遺産として登録された白神山地と屋久島
の保護管理を進めるため、関係省庁が協力して統一的な管理計画の策定を進め
るともに、開発途上国にある自然遺産地域の保護管理を支援するための国際協
力を実施している。今後とも、国内外の自然遺産地域の保護管理のための取組
を進め、「世界遺産条約」の実施促進を図る。
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