10. KCJ004  02/16 16:00   27K 第3部 第5章 共通的基盤的施策の推進

第5章 共通的基盤的施策の推進

第1節 奨励措置

1 経済的な奨励措置

 生物多様性の保全と持続可能な利用に関連する経済的な奨励措置には、課徴
金、補助金、助成金、税制上の措置等がある。これらの奨励措置は、我が国の
生物多様性の保全と持続可能な利用の促進に一定の役割を果たしている。
 自然公園等の保護地域においては、地方公共団体の行う保全事業に対する補
助金等の制度が導入されている。
 森林関連では、国民の国土緑化思想の高揚と国土緑化の推進を目的とした全
国植樹祭等の開催事業への助成、保健・休養、文化、教育等の高度利用を図る
モデル森林の整備改良及び緑化の新技術を導入・普及する事業等への助成等が
あげられる。
 このほか、環境事業団の地球環境基金や公益信託等による民間団体への助成
、自然環境保全を目的とする公益法人の活動支援のための税制上の措置等が講
じられている。
 今後は、こうした奨励措置の効果的な活用を進める。
 また、既存の各種奨励措置が生物多様性の保全と持続可能な利用について悪
影響を及ぼすことが明らかになった場合には、その必要性を再検討し、適正化
に努める。

2 社会的な奨励措置

 顕彰制度や各種全国運動の展開などにより、国民及び民間団体に生物多様性
の保全と持続可能な利用を促すことは有効である。
 我が国では、次のような措置を毎年実施している。
(1) 全国野生生物保護実績発表会において、野生生物保護に積極的に取り組ん
だ小・中・高校及び一般団体に対して、環境庁長官賞、文部大臣奨励賞等を授
与している。
(2) 全国野鳥保護のつどいにおいて、野生生物保護功労者表彰を行っている。
(3) 夏期の「自然に親しむ運動」月間(7月21日〜8月20日)において、自然に
親しむことを通じて、自然保護思想の高揚等を図るため、「自然公園大会」を
開催し、自然公園関係功労者表彰を行うほか、自然観察会等の行事を全国的に
実施している。
(4) 水生生物の重要な生息域である渚等の環境保全を図るため、積極的に海浜
清掃活動等を行っている団体等に対して、農林水産大臣賞、運輸大臣賞等を授
与している。

第2節 調査研究の促進

1 基本的考え方

 生物多様性の保全と持続可能な利用を確実なものとするためには、生物多様
性に関する情報の的確な把握と研究の充実が必要である。これまでに、生物多
様性調査等の野生動植物の分類、分布、生態等に関する調査研究や各種生態系
の構造、維持機構等の解明のための調査研究など野生動植物や生態系に関する
各種の調査研究が行われている。これらの調査研究を引き続き進めていくほか
、今後は、専門家等のネットワーク化を推進するとともに、標本の管理機能も
備えた生物多様性センターの整備について検討し、情報の収集整備体制の強化
を図る。その際、動植物の目録整備の重要性や情報の地域間格差の解消に留意
する。また、生物多様性の保全と持続可能な利用のための基礎的な学問分野に
おける人材の育成、調査研究の促進を図ることも必要である。
 さらに、生物多様性の存立や維持のメカニズム、生物多様性の評価、生物多
様性の構成要素間の相互関係、モニタリング手法等に関する調査研究などの充
実を図る。生物多様性の重要な構成要素である微生物の目録整備や種内の多様
性の把握のための遺伝子解析も重要である。
 このほか、国際的な研究協力や情報ネットワークへの参加を促進し、世界の
生物多様性の保全と持続可能な利用に貢献する。
 また、地球環境の変動が生物多様性に及ぼす様々な影響について予測及び監
視し、必要な対応方策を検討することは重要であるので、予測、監視手法の研
究を進めることも必要である。

2 地球環境保全調査研究等総合推進計画

 地球環境保全関係閣僚会議は、毎年度、地球環境保全調査研究等総合推進計
画を決定し、地球環境保全に関する調査研究、観測・監視及び技術開発の総合
的推進を図っている。
 1995年度計画では、調査研究の重点分野として、生物多様性の減少、熱帯林
の減少、海洋汚染などが引き続きあげられており、この計画の下に生物多様性
保全に関連する各種調査研究を促進する。また、アジア太平洋地域で推進すべ
き優先的研究課題として、陸上生態系変動とその影響などをあげており、生物
多様性の変動などについてアジア太平洋地域における国際共同研究を推進する
。

3 国立機関公害防止等試験研究費による研究の促進

 1996年度試験研究の重点強化を図る必要がある事項の一つとして、「開発行
為等の自然環境に及ぼす影響の解明並びに自然環境の管理及び保全に資するた
めの研究」をあげており、国立機関公害防止等試験研究費により、野生生物の
群集、種、個体及び生息、生育環境の適正な保護管理のための研究、開発行為
等が自然環境、特に生物多様性に及ぼす影響の解明や保全に資するための自然
環境保全に関する研究等を推進する。

4 農林漁業関連

 我が国農林水産業・農山漁村は従来から食料の安定供給のほか、自然環境の
保全、国土の均衡ある発展等多面的な役割を果たしてきた。しかし、近年、国
民の環境問題への社会的関心が高まる中、環境保全をより重視した農林水産業
の確立が求められており、農林水産省が1992年 6月に公表した「新しい食料・
農業・農村政策の方向」(新政策)でも、環境保全型農業の確立のための研究
開発の推進や地球環境問題解決のための技術開発が重点的に推進すべき領域に
挙げられている。
 農林水産省の試験研究については、環境と調和した持続的な農林水産業の一
層の発展に資するため、1993年 8月に「農林水産分野における環境研究推進方
針」を公表し、研究の重点化方向を明らかにした。この中で重点研究推進事項
として、環境保全型農林水産技術の開発、海洋汚染対策、熱帯林等の保全、野
生生物との共存、生態系構成要素の評価・特性解明及び動態・相互作用の解明
などをあげている。このうち、生態系の多様性、種の多様性及び遺伝的多様性
の保全対策に関連する研究の推進方向は次のとおりである。

(1) 農業関係
 自然生態系と調和した生産技術の確立と地球的視野に立った農業の持続的・
安定的発展に資するため、これら構成要素の特性解明等の研究を推進する必要
がある。また、長期的視点に立ち、自然生態系との調和を図りつつ、食料生産
の持続的発展を図る農業に資するため、農業生態系を構成する生物的・非生物
的要素の動態、これら要素間の相互作用とその機構、物質・エネルギー動態等
を解明し、これらの相互作用を積極的に利用する技術の確立を目指す必要があ
る。
 このため、地球環境の変動によって生じるさまざまなインパクトが農業生態
系に与える影響を総合的に解析し、農業生態系への影響予測手法の開発を行う
。
 また、農業生態系の仕組みを解明し、各構成要素の分類・同定法を確立する
とともに生物相の生理的・生態的特性を解明し、遺伝資源の評価と利用技術の
開発を推進していく。
 さらに、環境資源の総合的な利用・保全技術の開発に資するため、その賦存
量を把握し、環境生物について特性の解明と機能の評価を地球的規模で行うと
ともに、生物の変異と適応機能について地球的規模での研究を推進する。

(2) 林業関係
 森林生態系の多様性、種の多様性及び遺伝的多様性の保全対策を立てるため
には、環境変化や人間の営為が森林生態系の構成要素に及ぼす影響を明らかに
し、また、森林の減少などによる種の減少や絶滅が危惧されている生物の実態
を解明することが必要である。また、林木等の遺伝的多様性の維持機構を明ら
かにすることが必要である。
 このため、森林生態系の仕組みを解明し、森林生態系を構成する生物相の生
理的・生態的特性と、これを支える立地環境の特性並びにそれらの相互関連を
解明するとともに、自然災害及び人間活動によって生じるさまざまなインパク
トが森林生態系に与える影響を総合的に解析し、環境変動の森林生態系への影
響予測手法の開発、森林生態系の維持・更新に果たすそれぞれの役割を解明す
るための研究及び森林遺伝資源の評価と利用技術の開発を推進する。
 また、緑化に関する調査研究及び技術の蓄積を図るほか、樹木保護の専門技
術者である樹木医の養成・確保、貴重な巨樹・古木等の保全技術の確立・普及
、貴重な樹木の保全管理を推進するために特に衰退しつつある樹木の緊急治療
等を実施する。

(3) 水産業関係
 我が国周辺海域において、栄養塩類、植物プランクトン量の把握等海洋の環
境、基礎生産力等を把握するための調査を行っている。また、より精度の高い
計量魚群探知機、衛星利用によるリモートセンシング手法、魚介類稚仔の迅速
な種判別技術の開発等観測機器・観測手法の開発のための研究を行っている。
こうした取組により、生息環境についての基礎的知見が収集・蓄積されつつあ
り、今後の海洋性の動植物の多様性の維持・保全に役立つものと期待される。
 また、野生生物の生態等に関する研究として、サンゴ虫及び共生藻の生態の
解明、セディメンテーション等の環境ストレスがその生育に及ぼす影響等を行
っている。
 さらに、個体数が減少した魚類の再生産メカニズムの変化の解明、紫外線の
増加が海洋のプランクトンに及ぼす影響、環境酸性化が淡水魚類へ与える影響
に関する研究を行っている。
  一方、漁業者からの漁獲情報、調査船調査、水揚げ調査等の実施により水
産資源状況の把握を行っている。また、公海資源についても、同様に資源量の
調査を行っているほか、国際漁業管理機関を通じて国際共同調査を実施してい
る。

5 バイオテクノロジー関連

(1) DNA解析の推進
 DNAは生命機能の設計図であり、生命が35億年をかけて蓄積してきた知識・
経験が刻まれている。生物多様性の保全及び持続可能な利用のためには、この
DNAを解析し、生物のもつ情報・機能を活用していくことも重要である。なお
、ヒトの遺伝情報に関しては、研究に際して社会的側面に十分配慮することが
必要である。
 膨大なDNA情報を解析するためには、十分なマンパワーを投入する一方、解
析効率の飛躍的向上を図ることも重要である。
 科学技術庁や文部省においては、ヒトの遺伝情報を構成する約30億個のDNA
塩基配列をすべて読みとるとともに、そこに記述されている遺伝情報を解明す
るヒトゲノム解析を推進している。具体的には、国際的なゲノムデータベース
(GDB)の国内供給体制の整備を図るとともに、理化学研究所における塩基配
列解析技術の高度化のための研究開発や、遺伝子の効率的探索技術の開発及び
、放射線医学総合研究所における関連研究を引き続き推進する。また、1995年
から、日本科学技術情報センターにおいて、百万塩基級の連続したDNA領域の
塩基配列決定を進めるとともに、データベース化を推進している。また、科学
研究費補助金によりヒトゲノム解析研究を推進する他、その拠点となる東京大
学医科学研究所ヒトゲノム解析センター等の整備を進めている。
 通商産業省製品評価技術センターに設置されているバイオテクノロジーセン
ターは、DNA解析を専門に実施する組織であり、国の機関のもつ解析体制とし
ては最も充実したものの一つである。現在、100℃超の高温下で生息する超好
熱菌の全DNA解析を行っている。一方、千葉県と民間企業の出捐によって設立
された財団法人かずさDNA研究所は、日本国内では最大規模のDNA解析の研究体
制を整えており、1994年から本格的な研究を開始した。
 農林水産省では、イネ、家畜を対象として遺伝子の染色体上の位置や構造を
解析し、ゲノムの全体像を明らかにするゲノム解析研究が農林水産省試験研究
機関等において、1991年度より行われている。特に、イネ・ゲノム解析研究に
おいては、詳細な遺伝子分子地図の作成が進むとともに、延べ 600万塩基を超
える塩基配列の解析が行われており、有用遺伝子の単離に向けたゲノム解析研
究が着実に進みつつあり、また、今後はイネでの研究成果を他の作物に応用し
ていくこととしている。
 また、DNA解析の研究を行っている各省庁では、高速・高精度のDNA解析技術
や高効率のDNA情報処理のための研究開発を推進している。

(2) 組換えDNA研究
 組換えDNA研究は、基礎生物学的な研究はもとより、疾病の原因の解明、医
薬品の量産、有用微生物の開発、農作物の育種等広範な分野において人類の福
祉に貢献するものである。インスリン(糖尿病の治療薬)やキモシン(チーズ
製造工程で使用する酵素)の大量生産は、組換えDNA技術の応用によりもたら
された成果の代表例である。
 組換えDNA研究については、科学技術会議の答申を受けて定められた「組換
えDNA実験指針」(1979年内閣総理大臣決定)及び学術審議会建議を受けて定
められた「大学等における組替えDNA実験指針」(1994年文部省告示)を研究
者等が自主的に遵守することにより、着実な研究開発が促進されている。
 今後ともこれらの指針の適切な運用を図るとともに、科学的知見の蓄積等に
応じた指針の見直しを行うことにより、組換えDNA研究の促進に努めていくこ
ととしている。

(3) 蛋白質の構造・機能解析
 DNA情報は、生体内において酵素等の蛋白質に変換されてその機能を発現し
ている。生体機能の解明と産業応用の促進のため、DNA解析に引き続いて、今
後さらに蛋白質の構造・機能解析を進めていくこととしている。
 「基盤技術研究円滑化法」に基づき設立された基盤技術研究促進センターは
、1986年に民間企業との共同出資により蛋白工学研究所を設立し、特定機能を
持つ蛋白質の設計技術を確立するための研究開発を推進している。さらに、そ
の成果を踏まえつつ1995年 3月には同じく共同出資により生物分子工学研究所
を設立し、解析対象を核酸、糖鎖、脂質等の生体分子にも拡大して研究開発を
推進している。

(4) 今後の展開
 多様な生物種が存する熱帯雨林、マングローブ、サンゴ礁、湿地等の生態系
は、人類の経済活動によって大きな影響を受けており、バイオテクノロジーや
バイオインダストリーの基礎となるべき豊富で未解明な生物資源が消滅の危機
にさらされている。我が国としても、生態系の理解に基づき、生物資源の保全
及び持続可能な利用のための技術を確立して、国際的責任を果たすことが急務
である。
 生物資源の保全及び持続可能な利用を実現するためには、まず、生態系を分
析してそれを構成する生物種と生物間相互作用を明らかにすることが必要であ
る。例えば、生態系を構成する生物種の中には、共生系を構成していて単独の
生物種として分離するのが困難であるため、分離・同定されていない微生物も
存在すると考えられるが、このような微生物共生系が生態系を維持する物質循
環・物質生産に大きく関与している可能性もある。このような生態系の研究か
ら、新たな生物間相互作用や物質循環・物質生産のメカニズムが発見され、生
物資源の保全及び持続可能な利用のための革新的な技術の開発につながってい
くことも期待し得る。
 このため、1)熱帯地域等の複雑・多様な生態系の評価・モニタリング技術の
開発、2)生物間相互作用及び物質循環機構の解明とその知見に基づく生物資源
の開発、3)生物資源保全技術の開発、を行う「生物資源総合研究開発プログラ
ム(仮称)」を推進することとしている。このプログラムは、研究の対象とな
る生態系、生物資源を我が国国内だけでなく、熱帯地域等の開発途上国にも求
めることとなる。この場合、「生物多様性条約」に基づいて可能な限り当該途
上国と共同で研究開発を進めていくこととなるので、当該途上国の技術力の向
上にも大きく貢献することとなろう。

第3節 教育及び普及啓発

1 基本的考え方

 生物多様性の保全と持続可能な利用を図るには、国民の理解と協力が不可欠
である。このため、教育及び普及啓発の促進は極めて重要である。
 特に生物多様性の保全は、1)豊かな自然とふれあうことを通じ、自然に学び
、自然の仕組みや大切さへの理解と認識を深める「自然学習」や2)身の回りの
自然に接し、自然と人間との関わりについての理解と認識を深め、身近な自然
の重要性・必要性を学ぶ野外学習によって、国民への普及啓発を進めることが
重要である。
 自然環境の保全に関しては、学校教育において取り組むとともに、社会教育
その他の多様な場においてその重要性等に関する教育・学習が行われていると
ころである。特に、自然公園のビジターセンターや自然保護センターなどにお
いては自然解説や各種の広報活動を通じて普及啓発が進められている。また、
民間団体による様々な自然観察会やバードウォッチングなどの活動も行われて
いる。
 今後とも、学校教育等や普及啓発活動の中で、生物多様性の保全と持続可能
な利用の重要性、生物多様性に及ぼす人為の影響や課題などについて取り上げ
るよう努めることとし、特に、「生物多様性条約」の発効から当分の間は、重
点的に普及啓発活動を行うように努める。その際、日常生活における様々な取
組の必要性と地球的な視野に立つことの重要性に十分留意する。

2 各種の取組

 第1節2に記載した社会的な奨励措置は生物多様性の保全と持続可能な利用
に関する普及啓発のための施策としても位置づけられるものである。これらの
他、次のような取組を進める。

(1) 生物多様性条約に関する普及啓発
 「生物多様性条約」の発効日にちなんで国際連合が提唱している「国際生物
多様性の日」(12月29日)を記念したシンポジウムの開催や各種広報資料の作
成配布等により、「生物多様性条約」の趣旨及び生物多様性の保全と持続可能
な利用の重要性や国民一人ひとりの取組の必要性等についての普及啓発を進め
る。

(2) 学校教育における取組
 学校教育においては、従来から、小・中・高等学校を通じて、主に理科を中
心に児童生徒の発達段階に応じて、植物や動物の生活と種類、生物のつながり
など生物多様性やその保全の重要性等について指導してきている。現行の学習
指導要領においても、さらに内容の充実を図っており、学校においては、身近
な植物や動物の観察や実験、豊かな自然での体験学習などを通じて生物の仕組
みや多様性等についての理解を深めるような取組が行われており、今後ともそ
の充実が図られるよう努める。高等教育においても、生物多様性の保全と持続
可能な利用に関する取組が行われており、今後ともその充実について配慮がな
されるよう努める。

(3) 社会教育における取組
 社会教育においても、自然観察会などの体験的学習や自然環境の保全に関す
る講座の開設、自然とのふれあいの場としての社会教育施設の整備など生物多
様性の保全等の理解と認識を深めるような取組が行われており、今後ともその
充実が図られるよう努める。その際、動物園、博物館等の施設の活用に留意す
る。

(4) 環境の日 
 「環境基本法」に基づき定められた「環境の日」( 6月 5日)を中心として
地方公共団体、民間団体等と協力して様々な行事を展開するとともに、様々な
情報媒体を活用し、生物多様性の保全を含む環境保全に関する広報を行ってい
る。

(5) 身近な生きもの調査
 自然環境保全基礎調査の一環として、国民の協力を得て実施している「身近
な生きもの調査」は、全国的な生物の分布状況の把握に役立つばかりでなく、
生物多様性に関する普及啓発活動としても位置づけることができるものであり
、今後とも継続して実施する。

(6)こどもエコクラブ
 環境への負荷の少ない持続可能な社会を構築するため、次世代を担う子供た
ちが、地域の中で仲間と一緒に主体的に地域環境、地球環境に関する学習や具
体的な取組・活動を展開できるよう支援するために「こどもエコクラブ事業」
を実施しており、その活動の一環として、自然と人間との関係についての理解
を取り上げている。

(7) 自然公園における取組
 自然公園内のビジターセンター等において、自然観察会等の行事を実施し、
自然に親しみ、自然の仕組みを知ることを通じて、自然環境の保全や生物多様
性の保全の重要性等について広く普及啓発を図っている。

(8) 天然記念物活用施設
 各地で大切に保存されてきた一級の自然である天然記念物に触れ、親しみ、
その成り立ちや地域社会での存在意義などについて理解を深めることは、学校
教育や社会教育における環境教育に絶好の教材供与となるはずであり、自然環
境とその保護についての普及啓発の機会ともなることに配慮した天然記念物活
用施設の整備(愛称:エコ・ミュゼ事業)を推進することとしている。

(9) 「みどりの日」(4月29日)、「みどりの週間」(4月23日〜4月29日)を
中心に、国民各層が参加する緑化活動や緑の募金運動、自然観察会等を全国的
に展開している。

(10) 緑の少年団等
 次代を担う青少年に森林や野鳥に親しむ機会を与え、郊外における団体教育
によって、規律ある生活の中で緑化思想と森林・林業に関する基礎知識を年齢
に応じて身に付け、緑を愛する豊かな人間性と、健康で明るい社会人に育てる
ことを目的に結成された「緑の少年団」の活動を助成するほか、児童・生徒の
自然観察、森林・林業の学習等の緑化活動の場としての学校林の整備・活用計
画の策定等を実施する。

(11) 国有林における取組
 国有林においては、長年にわたって森林を管理してきた経験と技術、全国に
またがる充実した組織と施設があり、これらを有効に活用した普及啓発活動を
推進することによって、森林における生物多様性の保全及び持続可能な利用の
重要性に関する理解の促進に一層貢献していくこととする。
 例えば、国有林では、次のような活動・事業を展開していく。
ア 森林レクリエーションや企業等のセミナー、研修会等の機会を活用し、さ
らには社会教育・学校教育とも連携した各種イベントの開催等を通じて、森林
・林業に関する情報を積極的に提供していく。また、これらの機会に、森林・
林業に関する知識や技術を有する職員を森林のインストラクターとして派遣し
ていく。
イ 森林に接する機会の少ない都市住民等を対象に、林産物の販売、森林・林
業に関する情報の提供などを行う「森林の市」等を開催していく。
ウ 都市住民等が森林浴、体験林業、森林・林業教室などのイベントを通じて
森林・林業や自然に対する理解を深めることができるよう、「森林ふれあい推
進事業(森林倶楽部)」を実施していく。
エ 自然景観が優れ、野外スポーツ等に適した国有林野において、自然とのふ
れあいの場、青少年の教育の場等を総合的に整備し、これらの施設を拠点に森
林・林業に関する啓蒙普及活動を展開する「森林空間総合利用整備事業(ヒュ
ーマン・グリーン・プラン)」を実施していく。
オ 野外学習活動等に適した国有林野において、広く青少年教育や生涯学習等
の場としての利用に供されるよう教育・研修施設、森林・林業体験のできる森
林等を総合的に整備する「森林の学校総合整備事業」を推進していく。
カ 「森林生態系保護地域」の保全利用地区(バッファーゾーン)においては
、原生的な森林の中で森林の働きと森林との接し方を学ぶ機会を提供すること
を目的として、自然観察路、休憩施設、案内板などの教育用施設を整備すると
ともに、パンフレットなどの学習用資料を配布して積極的な啓蒙普及に努める
「森林生態系保護地域バッファーゾーン整備事業」を実施していく。

(12) 海と干潟の環境保全及び生態系保全型漁業等
 「海と渚クリーンアップ」の全国一斉運動を通じ、海と渚環境美化推進運動
の普及啓発を図るとともに、環境と調和する(生態系保全型)漁業の在り方と
、そのための各種の広範な取組の必要性を、国民、漁業関係者等に幅広く普及
啓発を行っている。同時に、自然界の生物資源を保護しながら、人類の生存の
ために再生産可能な範囲内で合理的に利用していくといった「持続可能な利用
」の在り方についても、漁業者を含めた一般国民に普及啓発を図ることとして
いる。

(13) バイオテクノロジーに関する国民の理解の促進
 バイオテクノロジーの有用性と安全性について国民の理解を促進することは
、研究活動や事業活動を健全に発展させ、遺伝資源の持続可能な利用を促進す
るために重要である。
 このため、我が国では、「バイオ・ジャパン」、「バイオテクノロジーシン
ポジウム」等において、セミナー、遺伝子組換え実験の体験コース、関連機材
・研究成果の展示等を実施している。

第4節 影響評価及び悪影響の最小化

1 基本的考え方

 環境に影響を及ぼすと認められる国の施策の策定・実施に当たっては、生物
多様性の観点から検討を行い、その保全に配慮する。
 各種事業の実施に際しては、人間の活動により生物多様性に不可逆的な影響
を与えないようにするため、事業の特性や具体性の程度に応じ、事前に十分に
調査・検討を行い、悪影響を回避しまたは最小化する等、影響を受ける可能性
のある生物多様性に対し適切な配慮を行う。また、事業の着手後や終了後にお
いても、必要に応じ、生物多様性に与える影響をモニタリングする。
 特に、規模が大きく環境に著しい影響を与えるおそれがある事業の実施に当
たっては、従来から環境影響評価実施要綱(閣議決定)及び個別法等に基づき
的確な環境影響評価の推進に努めており、今後とも、生物多様性に対する著し
い悪影響を回避しまたは最小化することを含め、その適正な運用に一層努める
。なお、環境影響評価制度の今後のあり方については、内外の制度の実施状況
等に関し、関係省庁一体となって調査研究を進め、その結果等を踏まえ、法制
化も含め所要の見直しを行う。
 生物多様性の保全のための影響評価を適切に行うため、生物多様性の現況把
握及び情報の整備を進めるとともに、生物多様性の評価や維持機構に関する研
究の促進を図る。さらに、悪影響の最小化及び生物多様性の回復のための技術
について研究開発を進める。

2 社会資本整備に当たっての配慮

 各種社会資本整備に当たっては、上記の基本的考え方に基づき、生物多様性
に対する悪影響が最小となるよう適切な配慮を行うものである。以下に社会資
本整備に当たっての配慮の事例を示す。

(1) エコロード建設 
ア 概要
 道路事業の実施に当たっては、道路の計画・設計という初期の段階で自然環
境に関する詳細な調査を行い、できるかぎり豊かな自然と共生しうるようなル
ートを選定するとともに、地形・植生等の大きな変化を避けるための構造形式
の採用、動物が道路を横断することによる車との接触事故を防ぐための侵入防
止柵や動物用の横断構造物の設置、道路整備によって改変される生息環境を復
元するための代替の環境整備など、生態系に配慮した取組を進めている。これ
がエコロードである。
 エコロードの始まりは1981年に開通した日光宇都宮道路であり、自然環境の
改変量を最小限にするための橋梁構造の採用、「けもの道」の確保、モリアオ
ガエルの代替産卵池の設置、表土の保全、貴重な植物の移植など様々な取組が
行われた。
 これ以降、着実にエコロードの整備が進められ、これまでの整備事例として
は、動物が車と接触事故を起こすことを防止し、ドライバーの交通安全にも資
するボックスカルバートを設置した日光宇都宮道路(栃木県)や、ミズバショ
ウの群生する湿原を保護するために橋脚を立てない橋梁形式を採用した道央自
動車道(北海道)などをあげることができる。
イ 今後の展開
 このようなエコロードの整備をこれまでにも増して一層強力に推進していく
ため、1994年 1月に建設省一体となってとりまとめた「環境政策大綱」ではエ
コロードを環境リーディング事業の1つとして位置付けている。また、都道府
県毎の道路管理者等からなる協議会が1994年 9月にとりまとめた「地域道路環
境計画」においても、1997年度末迄に一般国道108号鬼首道路や一般国道158号
安房峠道路など約200箇所においてエコロードの整備を推進していくこととし
ている。
 またこのような整備にあわせて、設置された施設が実際に動物に利用されて
いるか、移植された植物が在来の植物相にどのような影響を与えているか、地
域の生態系と調和しているか等の追跡調査を実施しその効果を確認する必要が
ある。
 いずれにしても自然環境の保全は、地域の実状に応じた地道な活動の継続に
よって達成されるものであり、しかも、目にとまる動植物のみならず、生態系
全般にいたるまで心を配らなければならない課題である。「道を動物や植物な
ど自然界の目で見つめる。」このようなエコロードの取組に今後とも積極的に
取り組んでいくこととしている。

(2) 多自然型川づくり
ア 概要
 河川事業の実施に当たっては、従来より生物の生息・生育環境に配慮しつつ
事業を進めてきたところであるが、1990年11月に「多自然型川づくり」実施要
領を作成し、河川改修などを実施する際に、河川が本来有している生物の良好
な生育環境に配慮し、あわせて美しい自然景観を保全・創出する「多自然型川
づくり」を推進している。
 「多自然型川づくり」の具体的な実施内容としては、魚類の生息のために重
要な瀬と淵の保全・創出、魚道を設置するなど魚が上り下りしやすい環境の整
備、魚類や水生植物が生息しやすくするための空隙の多い水際環境の保全・創
出、水域から陸域への連続性の確保、護岸表面の覆土による緑化及び景観への
配慮等がある。
イ 今後の展開
 多自然型川づくりをより一層強力に推進するため、「環境政策大綱」では多
自然型川づくりを環境リーディング事業として位置づけており、また、1995年
 3月に出された河川審議会答申「今後の河川環境のあり方について」において
も、本事業を生物の多様な生息・生育環境の確保のため推進すべき施策として
位置づけている。これらに従い、今後の河川事業において多自然型川づくりを
全国の河川を対象に幅広く取り入れていくこととしている。

(3)環境共生港湾<エコポート>の形成
ア 概要
 港湾においては、従来より、港湾計画の策定に当たっての環境アセスメント
や、緑地、海浜などの環境施設の整備を着実に実施してきたところであるが、
自然環境の保全や生物・生態系との調和など新たな要請に的確に応えていくた
めに、運輸省では、将来世代への豊かな港湾環境の継承、自然環境との共生等
を基本理念とした「新たな港湾環境政策」を1994年 3月に策定し、その目標と
して、「環境共生港湾<エコポート>」の形成を掲げた。
 環境共生港湾<エコポート>のコンセプトは、「自然にとけ込み、生物にや
さしい港」、「積極的に良好な自然環境を創造する港」等であり、その具体的
内容は以下のとおりである。
(ア) 自然にとけ込み、生物にやさしい港
 1)浅場、干潟など良好な自然環境の保全、2)潮流や水質への影響を少なくす
る港湾施設の形状や構造、3)生物、生態系への配慮や影響の緩和措置など 
(イ) 積極的に良好な自然環境を創造する港
 1)汚泥除去、覆砂、礫間接触酸化などによる水質・低湿の浄化、2)自然植生
の活用、公共施設の緑化、緑地整備による緑の創出、3)海浜、干潟、浅場など
の造成や生物生息地の創出など
イ 環境共生港湾<エコポート>の実現に向けた取組
 環境共生港湾<エコポート>の実現に向けて、以下のような港湾環境インフ
ラの整備を図っていく。
(ア) 海域環境インフラ
 1)汚泥の除去、覆砂、などの「海域への負荷の軽減のためのインフラ」、2)
海浜、干潟などの「海域の浄化機能向上のためのインフラ」、3)導水、作澪な
どの「海水交換促進のためのインフラ」等
(イ)陸域環境インフラ
 野鳥公園などの「良好な自然環境を保全、創造するためのインフラ」等

(4) 自然調和型漁港づくりの推進
 漁港は、静穏な水域を創出し、海洋生物の産卵場や仔稚の育成場としての環
境の形成に大きく寄与している。この点に留意し、漁港の整備に当たっては、
水産動植物の生息、繁殖が可能な護岸等の整備を図るとともに、自然環境への
影響を緩和するための海浜等の整備を行う。また、漁港内の水質保全を図るた
め、漁港周辺水域への汚水流入負荷軽減対策として漁業集落排水施設整備や漁
港内における汚泥やヘドロの除去等を行う水域環境保全対策事業を推進する。
さらに、渡り鳥等に少なからず影響を与える漁港内の浮遊ゴミ等を処理するた
めのゴミ処理施設等を整備する漁港環境整備事業を推進する。
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