環境影響評価制度の見直しについて
(中間報告)

平成10年11月
福井県環境審議会
専門委員会

 本専門委員会は、平成10年8月10日の福井県環境審議会において、 知事から諮問のあった「環境影響評価制度の見直しについて」に関して、 専門的な立場からこれまで4回にわたり慎重に検討、審議を重ねてきた。
 ここに、これまでの審議の内容を中間的にとりまとめたので報告する。
            福井県環境審議会専門委員会  

                委員長   前波 実  
               副委員長  岸 彦平  
               委  員  荒井由二  
                     上北征男  
                     酒井哲夫  
                     佐々治寛之 
                     辻 きぬ  
                     永長幸雄  
                     服部 勇  
                     村上利夫  
                     茂呂 實  
                     山内フミ子 

            目次      

T.はじめに …………………………………………………… 1
 1 本県における制度の状況 ……………………………… 1
 2 制度見直しの背景 ……………………………………… 1
 3 制度見直しに係る基本的な考え方 …………………… 2
U.環境影響評価制度の見直しの内容 ……………………… 3
 1 制度の目的および形式 ………………………………… 3
   (1) 制度の目的 …………………………………………… 3
  (2) 制度の形式 …………………………………………… 3
 2 環境影響評価の開始時期 ……………………………… 3
 3 対象事業 ………………………………………………… 4
  (1) 対象とする事業の種類 ……………………………… 4
  (2) 対象事業の定め方 …………………………………… 4
  (3) スクリーニングの際の基準 ………………………… 4
 4 評価対象とする環境要素 ……………………………… 5
 5 調査・予測・評価の項目および方法の定め方 ……… 5
 6 調査・予測・評価の実施 ……………………………… 6
  (1) 評価の視点 …………………………………………… 6
  (2) 準備書・評価書の記載内容 ………………………… 6
  (3) 関連事業の取り扱い ………………………………… 6
 7 住民参加 ………………………………………………… 7
  (1) 住民参加の目的 ……………………………………… 7
  (2) 住民参加の機会 ……………………………………… 7
  (3) 住民参加の範囲 ……………………………………… 7
 8 審査の方法 ……………………………………………… 8
 9 事後の手続 ……………………………………………… 8
  (1) 事後調査等 …………………………………………… 8
  (2) 手続の再実施 ………………………………………… 9
 10 制度の実効性の担保 …………………………………… 9
 11 その他 …………………………………………………… 9
  (1) 国の制度との関係 …………………………………… 9
  (2) 環境影響評価制度の円滑な運用 …………………… 10
V.見直し後の環境影響評価制度について …………… 10〜14

T.はじめに

 1.本県における制度の状況
  ア.本県は、環境影響評価制度として、平成4年9月14日の福井県公害対策 審議会の答申を受け、「福井県環境影響評価要綱」(以下「現要綱」という。)を 同年11月に制定した。
  イ.また、これを具体的に進めるため、現要綱の制定とあわせて実施要領およ び技術指針を制定した。
  ウ.その後、電気事業法の改正および建設省所管事業に係る環境影響評価実施 要綱の改正に伴い、平成8年9月に現要綱を改正して、電気供給業および堰の新築 または改築を対象事業に加えるなど内容の充実を図ってきた。
  エ.これまで現要綱に基づき、飛行場、発電所などの事業について環境影響評 価が実施され、制度として定着している。

 2.制度見直しの背景
  ア.本県では、平成7年3月に環境保全の基本理念とこれに基づく基本的施策 の枠組みを示した「福井県環境基本条例」(以下「環境基本条例」という。)を制 定し、同条例第13条において環境影響評価を推進するため、必要な措置を講ずる 旨を規定している。
  イ.平成9年3月には、環境基本条例の規定に基づき、「福井県環境基本計画 」を策定し、この中で、「対象事業を必要に応じて見直すとともに、早期段階での 環境影響評価や代替案の検討などを含め環境影響評価の諸課題について検討してい く」としている。
  ウ.平成7年7月には、「福井県行政手続条例」(以下「行政手続条例」とい う。)が制定され、「行政運営における公正の確保と透明性の向上を図る」ことが 求められており、環境影響評価制度についても、この趣旨を踏まえることが必要と なった。
  エ.一方、国においては、昭和59年8月に閣議決定された環境影響評価実施 要綱の他、「公有水面埋立法」等の個別法に基づき環境影響評価が実施されてきた が、平成9年6月には「環境影響評価法」(以下「法」という。)が制定され、よ り早い段階からの住民関与の手続の付加や対象事業の拡大等が図られた。
  オ.また、法第60条には法律と条例との関係、法第61条には地方公共団体 の施策におけるこの法律の趣旨の尊重が規定されており、県の制度と国の制度との 整合を図ることが必要となった。

 3.制度見直しに係る基本的な考え方
    現要綱は、法と比較して対象事業が広く設定されていること、事業の工事 着手後または供用後において行う調査の実施とその報告についても規定しているこ となど、制度として先進的な面があることを考慮すると、見直しに当たっては、現 要綱の内容を基本とするとともに、環境影響評価制度に関する社会的動向を踏まえ 、以下の視点に立った制度の充実を図ることが必要である。

 @ 環境基本条例に定められた基本理念および基本方針を踏まえた制度とすること。
 A 住民参加の機会を充実させること。
 B 行政手続条例の趣旨を踏まえ、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図ること。
 C 法の趣旨を尊重し、手続の整合を図ること。


U.環境影響評価制度の見直しの内容

 1.制度の目的および形式
  (1) 制度の目的
    環境影響評価制度は、事業者が開発事業等を実施するに先立ち、環境影響 評価が適切かつ円滑に行われるための手続その他所要の手続を定めるとともに、事 業の工事着手後または供用後において行う環境調査等の手続を定めることにより、 適正な環境保全上の配慮がなされることを目的とすることが適当である。

  (2) 制度の形式
    環境影響評価制度は、事業者、県民、知事および市町村長等の広範な関係 者の役割を規定する必要があること、環境影響評価の実施の実効性をより一層担保 する必要があること、行政手続条例の制定により行政運営における公正の確保と透 明性の向上が求められるようになったこと、さらに国が法律による制度としたこと を踏まえて、条例による制度とすることが適当である。 

 2.環境影響評価の開始時期
   ア.事業計画において適切な環境配慮が行われるためには、事業計画のでき る限り早い段階で、環境影響評価の手続を開始することが必要である。
   イ.手続の開始の時期については、事業計画の熟度が高まり、かつ計画に対 する環境の保全の見地からの意見が具体的に事業に反映できる時期とすべきである。
   ウ.具体的には、事業者が環境影響評価に係る調査を開始する前に、事業に 関する情報や調査等に関する情報を提供し、知事、市町村長および住民から幅広く 情報を収集する手続を導入することにより、できる限り早い段階で環境影響評価の 手続が開始される仕組みとすることが適当である。

 3.対象事業
  (1) 対象とする事業の種類
   ア.現要綱においては、道路やダムの建設等14種類の事業について一定規 模以上のものを対象にしているが、新制度においても、これまでの制度運用の実績 を踏まえ、引き続き対象とすることが適当である。
   イ.また、本県の環境の特性および法の対象事業を踏まえ、新たに「土石採 取」を追加し、道路の建設については「林道」を、鉄道の建設については「普通鉄 道」を、廃棄物処理施設については「産業廃棄物焼却施設」を含めることが適当で ある。

  (2) 対象事業の定め方
   ア.環境に対する影響は、個別の事業により、また、事業の行われる地域に よって異なることから、個別判断の余地を残すことが必要である。
 したがって、対象事業については、必ず環境影響評価を実施しなければならない 一定規模以上の事業(以下「第1種事業」という。)を定めるとともに、第1種事 業に準ずる規模を有する事業(以下「第2種事業」という。)を定め、個別の事業 や地域の違いを踏まえ、環境影響評価の実施の必要性を個別に判断する仕組み(ス クリーニング)を導入することが適当である。
   イ.なお、第1種事業および第2種事業の規模の設定に当たっては、現要綱 および法の事業規模を基に、本県における事業の実情や環境の特性を考慮して定め ることが適当である。

  (3) スクリーニングの際の基準
   ア.第2種事業におけるスクリーニングの際には、環境への影響の程度が著 しいものとなるおそれがあると認められる場合を客観的に判断できる基準を定める ことが適当である。
   イ.判断の基準については、個別の事業の内容(事業特性)に基づくものと 地域の環境状況等(地域特性)に基づくものとすることが適当である。

 4.評価対象とする環境要素
   ア.現要綱では、評価対象とする環境要素として、公害の防止に係る項目( 大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下、悪臭)および自然環境の 保全に係る項目(地形・地質、植物、動物、景観、野外レクリェーション地)を設 定している。
   イ.環境基本条例の制定により、これまでの公害の防止や自然環境の保全に 加え、生物の多様性の確保、人と自然との豊かな触れ合いの確保、環境への負荷の 低減および地球環境の保全等が求められている。
   ウ.新制度では、これらを踏まえ、生物の多様性、人と自然との豊かな触れ 合い、廃棄物、温室効果ガス等を新たに環境要素として加えることが適当である。

 5.調査・予測・評価の項目および方法の定め方
   ア.事業が環境に及ぼす影響は、事業の具体的な内容や事業が実施される地 域の環境の状況に応じて異なるため、調査・予測・評価の項目および方法について は、画一的に定めず、個別の案件ごとに選択していく仕組みとすることが必要である。
 このため、事業者が環境影響評価手続に係る調査を開始する前に、事業に関する 情報や調査等に関する情報を提供し、知事、市町村長および住民から幅広く意見を 聴いて、事業者が具体的な調査等の項目および方法を選定する手続(スコーピング 手続)を導入することが適当である。
   イ.この手続としては、事業者が、事業内容や調査等の項目および方法を記 載した環境影響評価方法書(以下「方法書」)を作成し、公告・縦覧を行い、知事 、市町村長および住民の意見を聴いて、調査等の項目および方法の選定を行うとす るのが適当である。

 6.調査・予測・評価の実施
  (1) 評価の視点
   ア.現要綱では、評価の視点として、環境基準や行政上の指針値等を環境保 全目標として設定し、環境保全目標が達成されているか否かを検討することとして いる。
   イ.しかしながら、環境基本条例の基本方針に定められた生物の多様性の確 保および環境への負荷の低減等を実現していくためには、画一的な環境保全目標に 留まらず、環境への負荷を実現可能な限り回避し、または低減する視点を取り入れ ることが必要である。

  (2) 準備書・評価書の記載内容
   ア.現要綱では、環境影響評価準備書(以下「準備書」という。)に、事業 の内容、調査・予測・評価の内容および環境保全のための措置等について記載し、 環境影響評価書(以下「評価書」という。)にあっては、それらに加えて、知事お よび関係地域の住民からの意見と、それらに対する事業者の見解を記載する旨を規 定している。
   イ.新制度では、現要綱に規定する記載事項に加え、方法書に係る知事およ び住民の意見と、それらに対する事業者の見解を記載するとともに、(1)の評価の 視点に基づき、環境影響を可能な限り回避し、低減するための代替案等の比較検討 の経過についても記載することが適当である。

  (3) 関連事業の取り扱い
   ア.現要綱では、対象事業と相互に密接に関連する事業(以下「関連事業」 という。)が、対象事業と併せて実施されることにより、環境に著しい影響を及ぼ すおそれがあると認められる場合には、調査・予測・評価の対象として環境影響評 価の手続を併せて行うことを各事業者に指示することができる旨を規定している。
   イ.新制度でも現要綱と同様に、関連事業について所要の規定を設けること が適当である。

 7.住民参加
  (1) 住民参加の目的
    住民参加の目的は、事業者が住民に対して事業に関する情報を提供し、こ れに対して住民が環境の保全の見地からの意見を述べることによって、適切な環境 配慮が行われることにある。
 なお、利害関係上の意見や対象事業に対する賛否を問うものではないことに留意 すべきである。

  (2) 住民参加の機会
   ア.現要綱では、関係地域の住民が手続に参加できる機会として、準備書お よび評価書の縦覧のほか、準備書の説明会および事業者への意見書の提出を規定し ている。
   イ.新制度では、現要綱の手続に加え、環境影響評価の早期段階から住民が 参加できるよう、方法書の段階で事業者への住民意見の提出の機会を設けることが 適当である。
 また、知事が準備書に対する住民意見を必要に応じて聴取する手続(公聴会の開 催)を導入することが適当である。
   ウ.なお、住民への周知をより一層図るため、方法書・準備書・評価書の公 告・縦覧ならびに説明会を開催するに当たっては、事業者は、県および市町村と密 接に連絡し、また、県および市町村は、可能な限り協力することが必要である。

  (3) 住民参加の範囲
    意見を述べることができる住民の範囲について、現要綱では、関係する市 町村の地域に限定しているが、地域の環境情報は、その地域の住民に限らず、環境 の保全に関する調査研究を行っている専門家等によって広範に保有されている可能 性があることから、有益な環境情報を収集するため、新制度では意見を述べる者の 地域限定を行わないことが適当である。

 8.審査の方法
  ア.現要綱では、準備書に対する知事の意見を形成する際、必要と認める場合 、福井県環境審議会(以下「審議会」という。)に意見を聴く旨を規定している。
  イ.新制度においては、準備書段階に加え、方法書段階における知事の意見の 形成においても、その客観性を確保することが必要であることから、審議会の意見 を聴くことが適当である。

 9.事後の手続
  (1) 事後調査等
   ア.事業の工事着手後または供用後において行う調査(以下「事後調査」と いう。)の実施は、環境影響評価の予測の不確実性を補い、環境保全対策の実効性 を担保するための措置として重要であり、その効果が期待されるものである。
   イ.現要綱では、事後の手続として、対象事業着手届および対象事業完了届 の提出を規定するとともに、知事は、対象事業の実施中または完了後において、評 価書に記載された予測・評価および環境の保全のための措置の内容について、必要 があると認めるときは、事業者に対し、報告を求めることができ、また必要な措置 を求めることができる旨を規定している。
   ウ.新制度でも、事後の手続を引き続き実施するのが適当である。
 さらに、事後調査の具体的手続を明確化するため、事後調査計画書、事後調査報 告書および事後調査完了届の提出について規定することが適当である。
   エ.また、知事は、事業者に環境保全上の措置を講ずるよう求める場合には 、審議会の意見を聴くこととし、措置要求の際の手続の透明性、判断の客観性を確 保することが必要である。

  (2) 手続の再実施
   ア.現要綱では、事業者が評価書に記載された事業の内容を変更して実施し ようとする場合(軽微な変更等を除く)には、再度、環境影響評価手続を行わなけ ればならない旨を規定している。
   イ.さらに、新制度では、現要綱の規定に加え、評価書の公告・縦覧後、周 囲の環境の状況の変化その他特別な事情により、事業者が、環境保全対策を変更す る必要があると認める場合には、再度、環境影響評価手続を行えるようにすること が適当である。

 10.制度の実効性の担保
   ア.現要綱では、開発事業等について知事が免許等を行う場合には、評価書 の記載事項に配慮すること、および免許権者が知事以外である場合には、その免許 を行う者に免許等に際して配慮をするよう要請する旨を規定している。
 また、事業者が要綱に定める手続等を行わなかった場合には、事業者への勧告お よび公表ができる旨も規定している。 
   イ.新制度でも免許等への配慮、事業者への勧告等の所要の規定を盛り込む ことが適当である。

 11.その他
  (1) 国の制度との関係
    県の対象事業のうち、法の対象事業に該当するものについては法の手続が 適用されるが、法では、事後の手続について定められていないことから、法の対象 事業であっても、県の制度の事後の手続を適用することが適当である。

  (2) 環境影響評価制度の円滑な運用
    市町村との連携
     県は、市町村との密接な連絡を図り、情報の提供等適切な技術的支援を 行う必要がある。
    環境影響評価制度の支援システムの整備
     精度の高い環境影響評価の実施を支えるためには、県は、行政や住民が 保有する地域の環境情報およびすでに行われた環境影響評価の事例等を収集、提供 および活用できる仕組みを整備する必要がある。
    技術指針の制定
     事業者が行う環境影響評価が科学的かつ適正に実施されるためには、調 査・予測・評価および事後調査に関する技術的事項や方法書・準備書・評価書の具 体的記載方法を定めた技術指針の制定が必要である。
 なお、技術指針を定める場合、または改正する場合は、審議会の意見を聴くこと が適当である。


V.見直し後の環境影響評価制度について

 Uの見直しの内容を踏まえ、新制度の手続は別紙1、対象事業は別紙2、また、 判定基準は別紙3のとおりとすることが適当である。


別紙: