セクションU 開発資源の保護と管理

第9章 大気保全
第10章 陸上資源の計画及び管理への統合的アプローチ
第11章 森林減少対策
第12章 脆弱な生態系の管理:砂漠化と干ばつの防止
第13章 脆弱な生態系の管理:持続可能な山地開発
第14章 持続可能な農業と農村開発の促進
第15章 生物の多様性
第16章 バイオテクノロジーの環境上適正な管理
第17章 海洋、閉鎖性及び準閉鎖性海域を含むすべての海域及び沿岸域の保護
        、及びこれらの生物資源の保護、合理的利用及び開発
第18章 淡水資源の質と供給の保護:水資源の開発、管理及び利用への統合的
        アプローチの適用
第19章 有害及び危険な製品の違法な国際的移動の防止を含む、有害化学物質
        の環境上適正な管理
第20章 有害廃棄物の違法な国際的移動の防止を含む、有害廃棄物の環境上適
        正な管理
第21章 固形廃棄物及び下水道関連問題の環境上適正な管理
第22章 放射性廃棄物の安全かつ環境上適正な管理
------------------------------------------------------------------------

第9章 大気保全--------------------------------------------------------

A.不確実性への対処、意思決定のための科学的基礎の向上

  大気保全に係る科学的知見については、いまだ不確実な分野が残されており、
的確な対策を実施するための基礎知識や、対策実施に不可欠なコンセンサスを得
るために、今後さらに不確実性を少なくする必要がある。このため、気候変動等
のプロセスを解明するための科学的調査研究、観測・監視、及びその抑制手段や
対応手段の経済的、社会的影響を明らかにするための調査研究などを国際的な連
携を図りながら推進していく必要がある。我が国では、国内における大気保全に
係る調査研究を推進するとともに、「地球環境保全調査研究等総合推進計画」、
「地球科学技術に関する研究開発基本計画」を定め、地球規模の大気保全に係る
調査研究、観測・監視を総合的に推進している。また、科学的知見の形成に大き
な役割を果たしている国連環境計画(UNEP)、世界気象機関(WMO)等の
国際機関及び気候変動に関する政府間パネル(IPCC)等の活動に対し支援を
行うとともに、随時、二カ国間の調査研究の情報交換、共同研究等を行っている
。
  以上のような取組を引き続き実施していくとともに、今後、以下に示す取組に
ついて重点的に実施していく。

@ 人工衛星、海洋観測船等を用いたグローバルで体系的な観測体制の整備を充
  実する。
A 全球大気監視(GAW)計画、全球気候観測システム(GCOS)に積極的
  に参画する。
B データベースの拡充・強化・開発及びネットワーク化を推進する。
C 電波や光を用いた大気計測技術、高度な温暖化予測技術等の研究開発を行う
  。
D 気候変動に関する諸現象の解明のための研究の一層の充実を図る。
E 環境の変化の機構の解明、環境への負荷の低減並びに環境が経済から受ける
  影響及び経済に与える恵沢を総合的に評価するための方法に関する研究等を推
  進する。

B.持続可能な開発の推進:総論

  地球規模の大気の保護には経済活動の種々の部門を包含する幅広い多面的な努
力が必要である。
 地球温暖化の原因である温室効果ガスの排出抑制については、持続可能な開発
の考え方に沿って経済の安定的発展を図りつつ、地球温暖化による影響の重大さ
及びその抑制対策や適応対策の実施可能性等を総合的に勘案して実施すべきもの
であり、我が国としては、温室効果ガスの排出抑制のための国際的な共通の努力
の第一段階として、温室効果ガスの排出量の安定化を早急に達成する必要がある
。
 また、二酸化炭素吸収源としての森林については、地球規模での減少が生じて
おり、我が国と世界の森林資源との関わりを踏まえ、持続可能な開発の考え方に
沿って、その減少の防止と保全造成に率先して取り組む必要がある。
 さらに、地球温暖化に係る不確実性を低減させ、科学的知見を踏まえた適切な
対策を講じていくため、調査研究、観測・監視を推進するとともに、革新的技術
を含め一層の技術開発とその普及に努める必要がある。
 以上のような諸状況を踏まえ、地球温暖化対策を計画的総合的に推進していく
ための当面の政府としての方針及び今後取り組んでいくべき実行可能な対策の全
体像を明確にし、もって国民の理解と協力を得るとともに、我が国として国際的
な枠組みづくりに貢献していく上で基本的姿勢を明らかにすべく1990年10月に「
地球温暖化防止行動計画」を策定し、地球サミットにも報告されたところであり
、本計画に沿って対策を進めることが我が国の国際公約となっている。
 さらに、1993年 5月には「気候変動に関する国際連合枠組条約」の21番目の
締約国となったところであり、同条約の下、今後とも、行動計画において定めら
れた「一人当たり二酸化炭素排出量について2000年以降概ね1990年レベルで安定
化を図り、さらに革新的技術開発等が、現在予測される以上に早期に大幅に進展
することにより、二酸化炭素排出総量が2000年以降概ね1990年レベルで安定化す
るように努める。等」という目標の達成に向け、二酸化炭素排出の少ない都市・
地域構造、交通体系、生産構造、及びエネルギー供給構造の形成、並びにライフ
スタイルの実現、並びにメタンその他の温室効果ガスの排出抑制、二酸化炭素の
吸収源対策、科学的調査研究、観測・監視の推進、技術開発及びその普及、普及
・啓発、国際協力の推進といった行動計画に掲げられた広範な対策を着実に実施
していくこととしている。

(a)エネルギー開発、効率及び消費

 エネルギーの効率的な利用及び使用時における環境負荷の低減は、「持続可能
な開発」の理念の下に、環境と開発の両立を図っていく上で、その推進が強く求
められており、環境保全と経済成長を媒介する位置づけにあるエネルギーについ
て、その抜本的な需給構造の改革に取り組む必要がある。
 我が国は、このような認識をも踏まえ、従来から、「エネルギーの使用の合理
化に関する法律」、「石油代替エネルギーの開発及び導入の促進に関する法律」
等の法律を制定し、また「エネルギー研究開発基本計画」を策定するなど、省エ
ネルギーの促進、新・再生可能エネルギーの開発・導入促進等に関し、総合的に
取り組んできているほか、最近において「エネルギー等の使用の合理化及び再生
資源の利用に関する事業活動の促進に関する臨時措置法」を新たに制定するとと
もに、「エネルギーの使用の合理化に関する法律」、「石油代替エネルギーの開
発及び導入の促進に関する法律」及び「石炭並びに石油及び石油代替エネルギー
対策特別会計法」(現「石炭並びに石油及びエネルギー需給構造高度化対策特別
会計法)を改正する等その取組の強化を図っている。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 低環境負荷エネルギーの普及・導入及びエネルギーの効率的利用の促進
    新・再生可能エネルギーの普及・導入のためのモデル事業、新エネルギー発
  電フィールドテスト事業等の推進、財政金融上の支援策の活用及び電力会社に
  よる分散型電源の余剰電力購入等導入促進制度の拡充を行う。
    また、省エネルギー推進のための設備投資等導入を促進するための財政金融
  上の支援策等を行う。
   さらに、二酸化炭素を排出しないエネルギーとして、安全性の確保を前提に
  、原子力の開発利用を推進する。
A 低環境負荷エネルギー技術及びエネルギーの効率的利用技術の研究開発の促
  進
    発電熱効率向上技術、未利用エネルギー活用技術、「ニューサンシャイン計
  画」における新・再生可能エネルギー技術及び省エネルギー技術等の開発の促
  進を図るほか、核融合等次世代エネルギー技術の研究を促進する。
B 低環境負荷エネルギー技術及びエネルギーの効率的利用技術の開発途上国へ
  の移転
   開発途上国の環境と開発の両立に資するため、途上国のエネルギー環境問題
  に対する自助努力への支援等を実施するグリーン・エイド・プラン等による各
  種調査、研修生の受け入れ、専門家派遣等による人材育成及び研究協力事業等
  を行うとともに、省エネルギーモデル事業、太陽光発電等新エネルギー協力等
  の実施を通じ、開発途上国へのエネルギー環境技術の移転、普及等を行う。

(b)交通

 交通部門から排出される二酸化炭素(CO2 )排出量は、自動車交通量の増加
等を背景として増加する傾向にある。交通部門は我が国のCO2 排出量の約2割
を占めており、地球温暖化防止のためには、その排出抑制に取り組んでいく必要
がある。
 また、二酸化窒素(NO2 )や浮遊粒子状物質(SPM)は人の呼吸器に悪影
響を与えるとされており、1973年以来自動車排出ガス規制の強化が逐次行われて
きている。しかし、大都市地域におけるNO2 による汚染状況の改善ははかばか
しくなく、その排出抑制が大きな課題となっている。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

1.交通機関単体からのCO2 、NOx等の低減
 @ CO2 の排出を抑制するため、CO2 排出量の多い燃費消費を抑制する観
    点からガソリン乗用車に対する燃費基準を設定しており、1993年 1月にガソ
    リン乗用車についてこれまで以上に厳しい燃費基準を設定したほか、ガソリ
    ン貨物自動車の燃費基準の設定についても今後検討していく。
 A NOx等については、従来からの自動車単体規制を更に強化するとともに
    、新たに制定された「自動車NOx法(自動車から排出される窒素酸化物の
    特定地域における総量の削減等に関する特別措置法)」(1992年 5月)に基
    づき、東京や大阪及びその周辺に指定された特定地域においてトラック、バ
    ス等に関してNOx排出量の多い車種の使用を規制する。
 B このほか、CO2 、NOx等の排出の少ない低公害車の技術開発を進める
    とともに、経済性を含め実用化の目途の立ったものから、電気自動車、メタ
    ノール自動車、天然ガス自動車やハイブリッド自動車(制動時の回生エネル
    ギーを蓄えて発進時等に使用する)などの低公害車の導入を進める。また、
    鉄道、船舶や航空機についてもCO2 等の排出の少ない機関の開発・導入を
    進める。
2.CO2 、NOx等の排出の少ない交通体系の形成
 @ より一層のCO2 、NOx等の排出量の少ない交通体系を形成するため、
    貨物輸送については、中長距離の物流拠点間の幹線輸送において、鉄道、船
   舶、港湾等の整備、アクセス道路等の整備による鉄道・海運の積極的活用を
   通じて適切な輸送機関の選択を促進し、都市内・地域内輸送においてはトラ
   ックにおける積合せ輸送の推進、共同輸配送の推進、集約的物流拠点の整備
   等を推進するとともに、旅客輸送については鉄道、バス、新交通システム等
   の整備、公共輸送機関の結節点等の整備を推進し、それらの利用を促進する
   とともに、徒歩や自転車の利用のための施設整備を進める。
 A 道路交通においても自動車交通の渋滞を緩和し、効率的で円滑な走行を確
    保するため、バイパス、環状道路等の道路整備を推進するとともに、交差点
    の改良及び道路と鉄道との連続立体交差化を進める。また、総合的な駐車対
    策を推進するとともに、的確な交通規制の実施や交通管制システムの高度化
    とあわせ道路交通情報メディアの高度化を図り、的確な情報をドライバーに
    提供する。
 B 自動車排出窒素酸化物に関しては、自動車NOx法に基づき、特定地域を
    含む都府県において総量削減計画を策定し、効率的な物流システムの構築に
    よる輸送効率の向上、適切な輸送機関の選択の促進、公共交通機関の利用促
    進、交通流の円滑化等の対策を総合的かつ計画的に推進する。
 C 第4次全国総合開発計画において、交通体系の形成に際して、交通公害の
    未然防止、安全で円滑な交通の確保に努めるとともに、地域の環境改善に資
    するものとなるよう配慮することとしている。

 なお、CO2 、NOx等の排出の少ない交通体系の形成は、自動車等による騒
音・振動対策としても有効な施策であることが期待される。

3.開発途上国に対する協力
 開発途上国に対して、自動車排出ガス低減のための検査体制の整備、関連検査
技術の移転、よりエネルギー効率の高い公共交通機関の導入、物流の効率化につ
いてのマスタープランの作成等への協力を実施する。また、途上国の総合的交通
公害対策の実施に対して協力を行っていく。

(c)工業開発

 企業は、従来型産業公害問題にとどまらず、地球温暖化問題、廃棄物問題等広
範な環境問題に関わりを有している。また、企業の経済活動は生活者等他の主体
に影響を与えることが多い。よって、持続可能で環境への負荷の少ない経済社会
の構築を推進するには、企業による汚染の少ない環境上適正な工業技術開発等の
自主的かつ主体的な取組が必要とされる。
 一方、我が国は、企業活動に起因する硫黄酸化物、窒素酸化物その他の有害物
質による大気汚染に対して、「大気汚染防止法」に基づく排出規制等の措置を講
じ、これを防止、改善してきた。こうした公害規制は、民間の積極的な技術開発
、公害防止機器市場の発生拡大を促すことにも寄与する結果となった。また、「
エネルギー使用の合理化に関する法律」、「再生資源の利用の促進に関する法律
」及び「エネルギー等の使用の合理化及び再生資源の利用に関する事業活動の促
進に関する臨時措置法」等を成立させるなどして、省エネルギー・リサイクル促
進に関する積極的な施策を講じてきたところであるが、併せて自主的な企業の環
境保全活動の促進が重要であるとの認識の下、環境に関するボランタリー・プラ
ンの策定を要請し、環境にやさしい企業行動指針を公表するなど企業の環境問題
に対する自主的取組の加速化を図っている。
 今後とも大気保全に資する工業技術開発等の企業活動を支援していくことが必
要であり、特に、比較的短期に実用化の可能性のあるもの、企業の自主的努力の
みでは必ずしも実用化が進展しない技術等の実用化を促進していくことが重要で
ある。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 大気汚染防止法に基づく排出規制等の公害規制を適切に実施する。
A 企業における製造工程全般に係るエネルギーの使用の合理化に資する技術の
  実用化開発及び設備等の導入について、民間の取組を経済的、制度的に支援し
  ていく。
B 地球温暖化防止行動計画及びオゾン層保護法に基づく諸施策を推進していく
  。
C 地球再生計画に基づく革新的なエネルギー環境技術開発プロジェクトの具体
  化のための体制の整備等を図る。
D 再生資源の利用の促進の意義に関する知識の普及啓発活動の強化を行うとと
  もに、リサイクルが現行の経済社会に浸透するような新たな枠組み作りについ
  て検討する。
E 環境負荷の少ない自主的積極的な事業活動が適切に促進されるよう、国際標
  準化機構(ISO)等における国際的動向を踏まえつつ、我が国に適した施策
  を検討する。

(d)陸上、海洋資源の開発及び土地利用

 土地利用及び資源政策は、大気に対し、相互に影響を及ぼし合う関係にある。
例えば、地球温暖化問題においては、適切な土地利用政策、資源政策の推進が温
室効果ガスの排出の抑制、及び吸収源の増加をもたらし、大気の保全にとっても
有効な施策になっている。
  我が国では国土の67%が森林である。森林は、災害防止効果、生物の多様性
の確保など多面的な環境保全機能を有するが、森林の持つ二酸化炭素を吸収・固
定する機能は地球温暖化防止に大きな効果がある。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 我が国では「森林資源に関する基本計画」、「全国森林計画」等の計画に基
  づき適切な林業の管理経営を通じて、今後とも、その機能を持続的に保持でき
  るように各種施策を推進していく。
A 都市地域においても、居住環境の保全の観点から都市公園等の都市内緑地及
  び道路、港湾などの公共空間の緑化の計画的な整備を行っており、その充実を
  図っていく。
B 植林祭の実施、緑の羽根基金、分収造林、ナショナル・トラスト活動等の国
  民参加、資金の拠出による森林の保全整備、緑化を推進していく。
C 自然環境の保全を図るべき地域として、自然環境保全法等の規定に基づき、
  国土の14.4%に当たる 544万haを自然環境保全地域及び自然公園に指定してお
  り、土地利用制限などの適切な管理を実施することにより、今後とも地域内の
  森林、海洋及びその他の生態系の保全を図っていく。

C.成層圏オゾン層の破壊防止

 我が国は、ウィーン条約及びモントリオール議定書に1988年 9月に加入・受諾
し、改正議定書(1990年改正)についても1991年 9月に受諾した。また、モント
リオール議定書に基づく規制措置の遵守を確保するために国内法(「特定物質の
規制等によるオゾン層の保護に関する法律」(オゾン層保護法))を1988年 5月
に制定し、1991年 3月に改正したところである。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 1992年に改正されたモントリオール議定書の受諾及び国内法の改正等の措置
  を講じ、これらに基づきクロロフルオロカーボン(CFC)等規制物質の生産
  量及び消費量の確実な削減を図る等、オゾン層保護対策に積極的に取り組んで
  いく。その際、代替物質、代替技術の導入に当たっては、オゾン層保護はもと
  より、その他の環境保全にも配慮する。また、CFC等の大気中への放出の抑
  制等に資するため、これらの物質の回収・再利用等を推進する。
A 開発途上国への支援については、オゾン層保護に関する多数国間基金への出
  資、国際機関を通じた技術協力のほか、国際協力事業団の集団研修制度の活用
  等により、オゾン層保護に関する科学的知見の普及、技術の移転等を今後とも
  積極的に実施する。
B オゾン層の観測・監視については、「全球オゾン観測システム(GO3OS
  )」の拡充・強化、「成層圏変化の検出のためのネットワーク」(NDSC)
  」への参画、人工衛星による観測等により、観測・監視体制の一層の充実を図
  る。また、CFC等の大気中濃度及び有害紫外線についても、引続き観測・監
  視を実施するとともに、その体制の一層の充実を図る。
C オゾン層破壊に関連した調査研究については、地球環境研究総合推進費、圧
  縮式ヒートポンプ用新規冷媒開発費等により、現象の解明、人及び生態系等へ
  の影響並びに対策技術(代替物質の開発、分解技術等)に関して計画的に実施
  しているところであるが、今後ともその充実を図るとともに、企業が自主的に
  進めている脱CFCの製品の開発や廃CFCの回収についても積極的に支援し
  ていくものとする。

D.越境大気汚染

 大気汚染物質はしばしば、発生源となる国から季節風や上層気流により国境を
越えて周辺の諸国に移流・拡散し、人の健康や生態系への悪影響をもたらしてい
る。
 我が国を含む東アジア地域においては、急激な都市化・工業化により、大気汚
染が悪化しているが、汚染状況や汚染物質の排出量は十分には把握されていない
。このため、地方公共団体や非政府組織(NGO)による取組と適宜連携を図り
つつ、関係諸国が協力し合って、この地域の越境大気汚染の実態について解明し
、その対策に努めることが必要となっている。
  越境大気汚染対策として、それぞれの国が大気汚染対策を進めることが不可欠
であることに鑑み、我が国においては、国内での大気汚染対策の経験をもとに専
門家の派遣、研修生の受け入れ、機材供与等を通じて東アジア諸国をはじめとす
る開発途上国の大気汚染への取組を支援してきている。また、国連地域経済委員
会主催の地域環境協力会議への積極的参加ないし環日本海環境協力会議の開催等
を通して、北東アジア地域の各国に対して、越境大気汚染の防止も含めた環境分
野における地域協力を呼びかけている。
 また、海上においては船舶から排出される大気汚染物質に対して低減措置など
が講じられていないことから、国際海事機関(IMO)を中心に、大気汚染物質
の排出低減について検討しているところである。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 実態解明のため酸性雨原因物質の測定技術の研究開発、国内における酸性雨
  監視測定網の着実な整備、影響に係る調査・研究等を推進し、関係諸国の協力
  のもと東アジア地域における越境大気汚染を含めた酸性雨監視ネットワークの
  構築及び東アジア規模での予測モデルの開発を行う。
A 将来的には越境大気汚染対策のため、関係諸国の協力のもと汚染状況や、汚
  染物質の排出量の調査、効果的な対策のあり方等、総合的な取組を図っていく
  。
B  他の地域も含め、開発途上国の実情に適した大気汚染物質の排出抑制技術を
  開発し、二国間、多国間支援メカニズム等を通じ、その移転を図るなど国際協
  力の一層の強化を行う。
C 船舶から排出される大気汚染物質の排気ガス浄化技術の研究開発を行う。
--------------------------------------------------------end-------------



第10章 陸上資源の計画及び管理への統合的アプローチ----------------------

A.管理に関連する行動

 陸上資源の計画及び管理に関する総合的かつ基本的な国の計画として、土地、
水その他の天然資源の利用や産業の適正な立地等を定める全国総合開発計画と、
国土の利用に関する基本構想や利用目的に応じた区分毎の規模の目標等を定める
国土利用計画を策定してきている。今後とも、これらの計画の策定と計画に基づ
く利用、管理を推進することにより、陸上資源の最適な利用と持続可能な管理の
向上を図る。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 全国総合開発計画は、国土の自然的条件を考慮して、経済、社会、文化等に
  関する施設の総合的見地から、国土を総合的に利用し、開発し、及び保全する
  こと等を目的としているものであり、これまで4次にわたり全国総合開発計画
  を策定してきている。現行の第四次全国総合開発計画においては、安全で質の
  高い国土環境整備を基本的課題の一つとしており、主要施策として森林管理、
  水系管理等を位置づけており、その実現に向けて引き続き取り組んでいく。
A 国土利用計画は、公共の福祉を優先させ自然環境の保全を図りつつ、長期に
  わたって安定した均衡のある国土の利用を確保することを目的としており、国
  土の利用に関する行政上の指針となるものであり、これまで2次にわたり、国
  土利用計画(全国計画)を策定してきている。現行の国土利用計画(全国計画
  )においては、その目標を達成するために必要な措置として、公害の防止、自
  然環境の保全、歴史的環境の保存等を図るための開発行為等の規制、環境影響
  評価の実施、工業再配置の促進等による土地利用の適正化に加え、交通公害の
  防止や湖沼の水質保全に資する土地利用、自然の体系的保全、都市におけるゆ
  とりある快適な環境の創造等の土地利用上の諸措置を位置づけており、引き続
  きその推進を図る。
B 国土利用計画を基本として定められる土地利用基本計画は、都市地域、農業
  地域、森林地域、自然公園地域、自然保全地域の5地域の指定及び土地利用の
  調整等に関する事項を内容として都道府県知事が作成するものであり、本計画
  は、「都市計画法」、「森林法」、「自然公園法」等の個別法に基づく諸計画
  に対する上位計画として行政内部の総合調整機能を果たすとともに、土地取引
  については直接的に、開発行為については個別法を通じて間接的に規制の基準
  としての役割を果たすもので、今後ともこれにより適正かつ合理的な土地利用
  を促進していく。
C これらの計画の他に、有限な環境資源を適切に利用・管理し、現在及び将来
  の人間生活を豊かにするため、現に公害が著しく、または著しくなるおそれが
  ある地域で公害防止計画を定めているとともに、森林資源については森林資源
  に関する基本計画・全国森林計画等、水資源については全国総合水資源計画・
  水資源開発基本計画、自然資源については自然環境保全地域に関する保全計画
  ・自然公園に関する公園計画を策定するなど、各個別の資源毎に各種の計画を
  策定してきている。また、多くの地方公共団体で地域の自然的、社会的状況に
  即した環境管理計画を定めているなど、各地方公共団体においても、陸上資源
  の計画及び管理への総合的アプローチを実施してきている。引き続き、これら
  の計画に基づく施策を積極的に実施する。

B.データと情報

 土地の利用により最大限の持続的利益を得られるようにするため、土地利用と
管理に関する将来の変化を予測し、意思決定を行うために必要な情報システムを
強化すべきである。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 我が国は自然環境の現状と変化の状況を総合的に把握するための自然環境保
  全基礎調査を概ね5年毎に実施しており、この一環として全国の植生の現状と
  推移、自然景観資源の現状等の情報を収集、蓄積してきている。そこで、今後
  も植生データの更新における衛星画像の一層の活用等、調査方法、内容の充実
  を図りつつ、今後も継続的に実施し、情報の収集、蓄積、更新をすすめる。
A 絶滅のおそれのある野生動植物のモニタリング調査、渡り鳥の渡来状況を把
  握するための生息調査等を継続的に実施し、野生生物に関する基礎的な情報の
  収集、蓄積、更新をすすめる。
B 衛星を使ったリモートセンシング・データ(衛星写真画像)の整備を行い、
  国土情報として数値化する。
C 土地利用の現状を把握するため、衛星からの画像情報を処理するシステムを
  開発し、国土情報データの充実を図る。
D 国土情報整備事業として、地形・地質等の国土の基礎的な情報やカラー空中
  写真、また、環境、経済、社会的データ、土地利用等の陸上資源に関するデー
  タの維持・更新を行う。
E 国土情報の円滑な利用・分析に供するため、これらの国土情報データのうち
  数値情報を利用・管理するための地理情報システムであるISLANDを運用
  ・改良し活用を引続き図っていく。
F UNEP/GRID(地球資源情報データベース)つくばは世界の社会経済
  データを中心にオリジナルデータを作成し、温暖化の影響・対策評価など、地
  球環境問題の解決に資するための、データの蓄積・提供を進めていく。
G ユネスコの「人間と生物圏(MAB)計画」政府間事業にのっとり、人間活
  動と土地利用が生態系に及ぼす影響の研究を行っており、その研究成果を引き
  続き陸上資源の持続的管理や開発計画に生かしていく。
H 地方公共団体においては、地方の環境管理を的確に推進するため、環境の状
  況、環境負荷源、生物分布・気象・地形の状況、社会経済の状況等環境に関連
  する幅広い情報を体系的に収集・解析・評価するシステムを整備している。
--------------------------------------------------------end-------------



第11章 森林減少対策----------------------------------------------------

我が国の森林の現状と課題

 我が国は、温暖湿潤な気候と山地が多い地形から、国土面積の67%に当たる約
 2,500万haの森林を有しており、長期にわたりほぼ同様な高い森林率を維持して
いる。
 森林資源の状況については、成長量が伐採量を上回っており、資源的には確実
に充実しつつあるものの、我が国森林の41%(1990年、 1,033万ha)を占める人
工林の80%は伐採林齢に達していない35年生以下の森林であり、これらについて
は、当分の間、保育、間伐等の十分な手入れが必要となっている。
 一方、林業・木材産業の現状については、木材価格の低迷、林業労働力の確保
難、非木質系建築用資材との競合、製品輸入の増大等厳しい状況にあり、この状
況が続くならば、森林の管理に対する森林所有者の意欲の低下をさらにもたらし
、適切な森林整備にも影響を与えることが懸念されており、加工・流通面の合理
化等による生産コストの低減が喫緊の課題となっている。
 以上の状況を踏まえ、今後の林政の展開に当たっては、「緑と水」の源泉であ
る多様な森林の整備と森林資源の経済的価値を実現するための林業生産、加工・
流通における条件整備を基本的な課題として、その達成に必要な諸施策を流域を
単位に民有林・国有林を通じて林業関係者の総意の下、地域の特質に応じた森林
の整備や林業生産等を効率的に進める「森林の流域管理システム」の確立を基本
として国民の理解と支援の下に総合的に推進していくとともに、熱帯林を含む世
界の森林の保全と持続可能な経営に資する活動を推進していく。
 また、良好な生態系を存する原生的な自然や優れた自然景観地を適正に保全し
ていくとともに、自然観察や森林浴等の自然とのふれあいを求める国民ニーズを
踏まえ、適正な森林の利用の促進を図る。

A.すべてのタイプの森林、林地及び立木地の多様な役割と機能の維持

 以下に示す取組を重点的に実施していく。

@  森林の保全と持続可能な経営のための行政組織の強化及び制度の適切な運用
 (イ) 行政組織の効率性の強化
   森林の持続可能な開発と環境保全に関して新たに必要となる分野の行政組織
  を強化し国の行政対応能力を全体として高めるとともに、森林・林業の実践活
  動に最も近い行政組織である地方公共団体、特に市町村における当該分野の行
  政能力を強化する。
 (ロ) 森林計画制度、保安林制度、林地開発許可制度の適正な運用
   我が国の森林資源の長期的な整備の基本となる「森林資源に関する基本計画
  」に即し樹立される全国レベル、地域レベル、市町村レベル等の法定の計画に
  基づき適正な森林施業が実施されるよう、森林所有者等に対し指導、監督等を
  行うとともに、国有林野については、地域レベルの計画等に従い、かつ地域住
  民等の意見を踏まえ樹立される施業管理計画において、森林の有する諸機能の
  うち重点的に発揮させるべき機能によって、国有林野を「国土保全林」「自然
  維持林」「森林空間利用林」「木材生産林」の4区分に類型化し、それぞれの
  機能の維持向上を図る上でふさわしい技術によって適正な管理経営を推進する
  。
 (ハ) 我が国の森林の約3分の1に当たる特に公益性の高い 833万haについては
  保安林に指定し、その機能の維持増進が図られるように規制がかけられている
  ところであるが、今後、さらにこの制度の強化を図るとともに、その指定の目
  的を達成するため、機能を十分に果たしていないものについては、治山、造林
  、林道事業等により整備を推進する。
 (ニ) 保安林以外の森林の無秩序な開発がなされないよう、民有林については林
  地開発許可制度の、また、国有林については同制度に準じた取扱の適正な運用
  に今後も努める。「自然環境保全法」「自然公園法」の適切な運用により、良
  好な生態系を有する原生的な自然や優れた自然景観地を適正に保全していく。
A 流域を単位とした林業の推進とその担い手の育成
 (イ) 森林の流域管理システムの推進と定着に資するため、流域を単位とした行
  政、林業・林産業、森林利用者等の関係者等からなる流域林業活性化協議会の
  設置を計画的に推進するとともに、流域毎に流域林業サービスセンターを設置
  し、林業事業体の経営の安定・強化を図り、これを通じ林業従事者の就労条件
  の改善を促進する。
 (ロ) 広域合併を通じ森林組合の組織体制を強化するとともに、我が国の地形等
  に適した高性能林業機械の導入等林業生産活動の効率化を推進する。
B 森林・林業、木材産業に関する試験研究と普及・教育の推進
 (イ) 森林の有する多面的な機能の維持向上、森林資源の適切な管理利用による
  持続的な経営の確保及び地域の振興、林産物の有効利用と新用途開発、バイオ
  テクノロジー等による森林生物の機能の解明と利用等に関する試験研究を推進
  するとともに、地域の森林所有者や林業研究グループ等に対し、地域に密着し
  た指導、助言を行う林業専門技術員(通称SP)、林業改良指導員(通称AG
  )による活動を強化し、技術や知識の普及を一層推進する。
 (ロ) 森林・林業の役割や重要性について、国民の認識をさらに高めるため、森
  林教室の開催、体験林業活動等を通じて、青少年等に対し森林の機能、林業の
  役割、熱帯林問題など森林・林業に関する普及教育を推進する。
C 国民参加の森林づくり
 (イ) 森林をはじめとする緑づくりを一層着実に進める目的で現在造成されてい
  る「緑と水の森林基金」の充実を図るほか、上流域と下流域の連携などにより
  、全国各地で水源地域の森林を造成する基金づくりを拡大するとともに、国民
  一人一人の参加により森林づくりを進める運動として数十年の歴史をもつ国土
  緑化運動である「緑の羽根」募金運動を一層推進し、募金の使途について、地
  域住民にとって貴重な緑やかつては生活の一部を占めていた里山といった生活
  に身近な緑や自然とふれあう環境の造成など広い範囲のものに拡大する。また
  、緑のオーナー制の普及、国民の手による植林等、国民が直接森林作りに参加
  する機会の拡大を推進するため、体験林業や森林教室の開催など各種の普及啓
  発活動等の森林・林業教育の充実を図る。
 (ロ) 国民と国・地方公共団体等が共同して森林を育てる分収林制度を推進する
  。

B.すべての森林の保護、持続可能な経営及び保全の強化、並びに森林の再生、
造林、再造林及びその他の再生手段を通じた荒廃地の緑化

 以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 森林資源整備の推進
   1992年に新たに策定した「森林整備事業計画」に基づき、造林・林道事業を
  計画的に推進するなど、国民のニーズに応える多様で質の高い森林の整備を推
  進することとし、具体的には、(イ) 再造林、保育、間伐等の実施、複層林施業
  、長伐期施業の推進、(ロ) 育成天然林施業の推進、保健・文化・教育的活動の
  場としての整備、(ハ) 林業活性化のための林道ネットワークの形成、(ニ) 山村
  の生活環境施設の整備のために計画的な投資を推進する。
A 林木育種の推進
   森林資源整備の基本となる貴重な遺伝資源の確保等を図りつつ、国民のニー
  ズに即応して、生長、材質、病虫害抵抗性等に優れた品種の育成及びこれらに
  必要な技術開発を推進する。
B 治山事業等の推進
   安全でうるおいのある国土づくりを進めるため、「治山事業五カ年計画」に
  基づき山地災害の危険性が高い市街地等の地域に対する総合的な防災対策、重
  要な水源地域における「緑のダム」としての森林の整備、集落の生活用水確保
  に資する身近な森林及び良質な水の供給に資する森林の整備、都市周辺等にお
  ける広域的な生活・防災空間としてのグリーンベルトの整備、身近な生活環境
  を保全する森林の整備、貴重な自然、景観の保全等近年の環境保全の要請の高
  まりに対応する森林の整備等を計画的に推進するとともに、森林開発公団によ
  る分収造林等により水源林を整備する。
C 森林生態系の保全等
   原生的な森林生態系からなる自然環境の維持、動植物の保護、遺伝資源の保
  存等、自然環境の保全を図るため、国有林においては、このような機能を重点
  的に発揮させるべき森林として区分された自然維持林について、原則として自
  然の推移に委ねた保護管理を行うとともに、自然維持林の中でも自然環境の保
  全形成上、特に重要な森林を森林生態系保護地域、林木遺伝資源保存林等の保
  護林として設定し、森林生態系の厳正的な維持等、それぞれの設定目的に応じ
  た適切な保護管理を推進する。また、森林内に生息・生育する貴重な野生動植
  物種の保護・管理に資する事業を推進する。
   また、「自然環境保全法」に基づく自然環境保全地域制度及び「自然公園法
  」に基づく国立・国定公園制度の適切な運用を通じ、自然環境の適切な保全を
  図る。
   さらに、これら生態系の保全等に資するため、我が国は森林から成る自然環
  境に関する調査・研究を継続的に行い、森林に生息する動植物種を明らかにす
  るとともに、その分布状況を把握する等、森林生態系の管理のためのデータ収
  集・蓄積を行っており、今後とも推進していく。また、貴重な生態系の適正な
  保全を図るための調査・試験・研究等を推進していく。
D 森林の保護対策の充実
 (イ) 毎年高い水準で発生している松くい虫被害に対処するため、総合的な松林
  保全対策、被害跡地の復旧を実施するとともに、スギ・ヒノキ穿孔性害虫等、
  松くい虫以外の森林病害虫の防除、動物被害に対処するための防除を推進する
  。
 (ロ) 林野火災の防止のため、全国山火事予防運動等林野火災の未然防止につい
  ての普及活動を行うとともに、森林パトロールの実施、林野火災予消防体制の
  整備、地域住民等による予防活動の推進等に加え、延焼防止に効果のある防火
  森林、防火林道を整備する。
 (ハ) 酸性雨等による森林への影響を早期に把握し、必要な対策を講じるため、
  酸性雨等森林被害に関するモニタリングを実施するとともに、酸性雨の発生機
  構及び森林への影響に関する調査・研究結果を踏まえ、酸性雨による影響の未
  然防止を目標に大気保全施策と連携を図りつつ森林を健全に保つための施業技
  術の確立に努める。
E 都市近郊林、里山林の整備
   生活環境保全、保健休養機能の向上のため、都市近郊及び集落周辺の森林に
  おいて景観の保全、森林とのふれあいや休暇拠点の広域的な整備、花粉飛散量
  の抑制などを含む森林の整備を推進する。
F 森林の国・公有化による保全の強化
   国土保全上特に必要な保安林等の国による買入れ、滅失の危険に直面してい
  る保安林等の都道府県による買入れを行うとともに、地方自治体が自主的に取
  り組む地域振興等の観点から森林公園等の公の施設として保全・活用を図るた
  めの森林の取得、公益的機能の維持・向上を図るための森林の取得を推進する
  ため、財政上の支援措置を講じる。

C.森林、林地および立木地によって提供される財とサービスの十分な価値を評
価するための効率的な利用と評価の促進

 以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 森林の公益的機能の評価
   水資源のかん養、土砂流出防止、保健休養、野生動植物保護、酸素供給、大
  気浄化の森林の公益的機能を代替財の調達コストで試算すると、1991年時点で
  年間39兆円(GDP比8%)となるが、今後、さらに適正な評価を行うため、
  評価方法の改善等のための調査検討を推進するとともに、広く啓発活動を行う
  ことにより、森林機能に関する国民の理解を深めてゆくこととする。
A 木材の供給体制の整備と木材の有効利用の推進
 (イ) 国内森林資源の利用を促進する観点から、需要者ニーズに応じて品質の安
  定した製品を低コストで安定的に供給するための施設等拠点施設の整備、加工
  ・流通部門と利用部門との連携を促進するとともに、熱帯林資源の減少、製品
  輸入の増加等需給構造の変化に対応し、原料転換、製品の高付加価値化等、加
  工の合理化を推進する。
 (ロ) 木材の効率的な利用を推進するため、木質製品の品質向上、木質廃棄物の
  再資源化のための技術開発等を促進するとともに、樹木の抽出成分の利用技術
  、木材の熱可塑化・液化等木材を高度に利用する技術及び耐久性等の多様な機
  能をもつ木質複合材料の開発等を推進し、木材利用用途の拡大を図る。
B 木材需給の安定と適正な熱帯木材利用の推進
 (イ) 木材の長期的な需要及び供給の見通しを明らかにするとともに、短期的な
  木材の需給動向等を的確に把握することにより需要に見合った安定的な木材の
  供給を図る。
 (ロ) ITTOにおいて採択された「西暦2000年までに持続的経営が行われてい
  る森林から生産された木材のみを貿易の対象とする」という戦略的目標を踏ま
  え、1)熱帯木材貿易のモニタリング、2)熱帯林産物の付加価値の向上、3)熱帯
  木材消費の合理化からなる「熱帯木材貿易3原則」に基づき、熱帯木材の適正
  利用に努める。
C 特用林産物生産の促進と森林保全に配慮した森林の総合的利用の推進
 (イ) 森林資源を活用し、山村の活性化等に資するため、きのこ等特用林産物の
  生産振興や加工・流通施設等の整備を促進するとともに、森林の特性を活かし
  たレクリエーション等保健休養の場や教育・文化活動の場の提供等の広域的な
  条件整備を図るとともに、山村と都市との交流拠点施設の整備等を推進する。
 (ロ) 国有林野においては、森林生態系の保全に配慮しつつ、レクリエーション
  の森の設定、自然とのふれあいの場、青少年の教育の場、体験林業の場の整備
  や、緑豊かな居住空間を国民に提供するための事業等を推進する。
  (ハ) 自然公園の利用に際しては、利用施設の設置及びその利用が自然環境に与
  える影響に十分配慮するとともに、自然に与える負荷ができるだけ少なくなる
  ような公園利用を推進する。

D.商業取引と加工を含む、森林及び関連するプログラム、プロジェクト、活動
の計画、評価、系統的観察に関する能力の確立と強化

 現在、森林資源の現況は、全国森林計画等を策定する時点で定期的に把握され
ているところである。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 森林に対する質的な情報の重要性、国際的な資源調査の統合の動きなどを踏
  まえ、森林資源の状況を系統的に把握するための森林資源調査システムを開発
  するとともに、山地災害の発生に対する迅速な対応、森林の多面的な機能の評
  価などに資するため、地図情報を含む森林の総合的なデータベースの整備を推
  進する。

E.国際協力の強化

 森林は大気中の二酸化炭素の吸収固定による温暖化の抑制、種の多様性の保全
等地球的規模での環境保全に重要な役割を果たすともに、人類にとって重要な経
済的資源であり、さらには国土の保全、水資源のかん養、土壌の保全等、地域社
会や生活の基盤ともなっている。このような重要な機能を有する森林は急速に減
少、劣化しつつあり、我が国としては今後、紙のリサイクル促進や木造住宅等の
耐久性の向上などの木材の有効な利用を推進していくとともに、寒帯林から熱帯
林にわたる森林に関して、その賦存する国々の資源に関する主権を尊重しつつ、
持続可能な森林経営を推進していくための国際協力を強化していくことが極めて
重要な課題となっている。
 特に、熱帯林に関しては年間 1,540万haと急激に減少しており、各国及び国
際社会が協調して取り組んでいくべき重要な課題となっている。このため、我が
国は、数百年に及ぶ森林経営技術の蓄積、数十年に及ぶ国立公園等の管理に関す
る技術や経験、国民運動としての国土緑化の推進の経験を生かしつつ、熱帯地域
を中心として森林・林業分野における国際協力を積極的に展開してきたところで
ある。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 森林問題に対処するための国際的な枠組み作りを促進する。
   原則声明とアジェンダ21の実施に各国が全力を尽くし、先進国と途上国の
  信頼醸成と協力関係の強化を図ると共に、より良い国際協力のあり方を探る対
  話が国連の持続可能な開発委員会等の場で推進されるべきとの考えから、この
  ようなプロセスに積極的に貢献していく。
A 熱帯林の保全・達成に係る二国間協力を促進する。
 (イ) 森林の回復のための造林の推進については、樹木の生長に時間がかかるこ
  とに加えて、必要な植林技術は地域により又は樹種により異なるため、試験的
  植林が成功するまでに長期間を要する。このため、技術協力での息の長い取組
  を継続・強化するとともに、技術協力の成果を踏まえつつ荒廃地の回復等を目
  的とした大規模な植林に関する技術協力、資金協力を推進する。
 (ロ) 天然林の保全・持続可能な経営については、択伐を基本とする森林管理技
  術の基準及び伐採許容量の設定等を行い、これらに基づく森林管理計画の策定
  と実行が必要である。このため、複雑、多様な天然林の生態系に関する基礎的
  な研究を積み重ね天然林施業技術の体系化を推進していくとともに、これらを
  実際の現場での施業技術の的確な運用に結び付けていくための実行体制の整備
  とその核となる森林・林業技術者の確保・養成に必要な技術協力、資金協力を
  拡充強化する。
 (ハ) 生態系・種の多様性の保全については、代表的な生態系や景観を有した森
  林や、絶滅の恐れのある種が生息する森林の保全を図ることが緊急を要する問
  題となっており、その管理及び実施に関する技術協力、資金協力を推進する。
  また、より一般的に、開発途上国における森林生態系の保全と管理に対する支
  援を推進する。
 (ニ) これら森林の保全・回復の政策立案に必要な森林情報の提供を行うととも
  に、協力の実施が技術移転・人材育成・組織の強化に資するよう、また、森林
  の保全・造成にあたっては、地域の実情に応じて、住民等の参画及び農地及び
  林地を一体とした持続可能な農林業開発を促すよう計画する。
  (ホ) また、地域的には従来から熱帯林を主な対象として協力を実施してきたが
  、今後は、温・寒帯林地域や半乾燥地、さらには市場経済移行圏に対する支援
  についても検討する。
B 国際熱帯木材機関(ITTO)等を通じた多国間協力を促進する。
 (イ) 生態学的均衡の維持の観点を含む熱帯林の保全及び持続的利用を目的とす
  るITTOの活動の強化はきわめて重要であり、2000年目標(西暦2000年まで
  に、持続的経営が行われている森林から生産された木材のみを貿易の対象とす
  る)の採択、熱帯天然林及び人工林の持続可能な経営のためのガイドラインの
  作成、アクション・プランの作成、各種プロジェクトの実施等、ITTOの多
  様な取組への支援を一層強化する。
 (ロ) 熱帯林の保全・達成に関する国際的枠組みとしての熱帯林行動計画(TF
  AP)及び世界的規模での森林資源の評価等、国連食糧農業機関(FAO)の
  活動もまた世界の森林の持続可能な経営にとって重要であり、FAOの取組に
  対する支援を引続き実施する。
 (ハ) 環境保全にも考慮した森林管理技術に関する研究を国際的レベルで推進す
  るため国際林業研究センター(CIFOR)及び樹木と農作物を同一の土地に
  おいて空間的時間的に組み合わせて土地の持続的生産的有効利用を促進するた
  め国際アグロフォレストリー研究センター(ICRAF)の活動を積極的に支
  援する。
 (ニ) 地域開発や林業プロジェクトを融資面から支援することも重要であり、世
  界銀行(IBRD)、アジア開発銀行(ADB)、米州開発銀行(IDB)等
  の活動もまた、世界の森林の持続可能な経営にとって重要であり、これら機関
  の取組についても引続き支援する。
C  木材貿易の分野における国際協力を推進する。
   持続可能な森林経営と調和するような形での貿易の発展のための国際協力が
  推進される必要があることから、ITTOが採択した2000年目標を重視し、同
  目標達成のための国際協力を一層推進していく。また、ITTOの経験も参考
  にしつつ、より一般的に、世界の森林の保全を念頭においた木材貿易のルール
  作りのための議論に積極的に貢献していく。
D 温・寒帯林に関する国際交流を促進する。
 (イ) 温・寒帯林の地球環境保全に果たす重要な役割を認識し、温・寒帯林の森
  林管理技術に関する研究交流を推進する。
 (ロ) FAOが欧州経済委員会(ECE)と協力して行っている温・寒帯林を対
  象とした森林資源評価事業に関し、本事業の継続強化を支持する。
  (ハ) ロシア、米、加など我が国に対する温・寒帯林地域の木材輸出国に対し、
  森林資源の保全、持続可能な森林経営及び木材の安定供給という点での情報交
  換を行う。
E 森林・林業分野における非政府組織(NGO)を含む民間協力の推進を支援
  する。
F 森林の持続可能な経営の推進に必要な基礎的調査研究を推進する。
--------------------------------------------------------end-------------



第12章 脆弱な生態系の管理:砂漠化と干ばつの防止------------------------

A.経済社会的側面を含み、砂漠化及び干ばつの影響を受けやすい地域のための
知識基盤の強化及び情報・モニタリングシステムの開発

 砂漠化は生態的に脆弱な乾燥・半乾燥地域及び乾燥半湿潤地域における、気候
的な変動、人間活動等、さまざまな要素に起因する土地の劣化であり、こうした
背景には、当該地域の社会経済的な状況が存在する。また、頻発する干ばつは砂
漠化の進行を一層加速している。
 砂漠化防止対策にあたっては、対策の実施に先立ち、まず、社会経済的要素も
含めた、砂漠化の実態把握と原因・機構解明を十分に行い、それに基づき、地域
住民の生活、慣習、伝統的な技術等を勘案した、効果的な防止計画を策定するこ
とが必要である。したがって、こうした砂漠化の実態を把握する手法を開発する
ためには、当該地域の住民及び行政機構の知識基盤を強化しつつ、情報・モニタ
リングシステムを開発することが必要である。
  以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 砂漠及びその周辺域の環境に関して気圏、水圏、地圏、生物圏等の分野から
 砂漠化機構解明の調査及び砂漠化危険地帯における土壌特性・水動態の解明の
 調査の充実を図っていく。
A 航空機、人工衛星を利用したリモートセンシング手法の研究開発を行い、こ
 れらを活用し得られたデータを収集するとともに、グランド・トゥルース調査
 を行い、その解析による植生分布・土地利用状況等の把握等に努めており、今
 後一層その充実に努めていく。
B こうして得られたデータをもとに、砂漠化の主な要因として考えられている
 人間活動の影響について、人間活動とその土地利用が生態系に及ぼす影響及び
 人間活動と砂漠化の相互影響評価の研究を行うとともに、生態系と調和した適
 正な土地利用を行う持続可能な農業を行うための研究を進めていく。さらに、
 砂漠化の拡大の防止を図る効果的かつ経済的な手法について調査・研究を行う
  。
C これらのデータ等の情報及び研究の成果については国際的なネットワーク
 を活用して広く世界に提供しているが、さらに地球規模の環境問題に関する地
 球全体の情報整備について必要となる国際協力のあり方の検討を行い、情報の
 流通とそのための技術開発を一層推進する。

B.特に、土壌保全、造林及び再造林の強化を通じた土地劣化の防止

 砂漠化及び土壌劣化は、急激な人口増加や貧困等に伴う食料やエネルギーの不
足等からの過剰耕作、過放牧、薪炭林の過剰伐採等が大きな要因となっており、
それらの状況は放牧地、天水農業地域、かんがい農業地域などによって大きく異
なり、その対策も地域の状況に応じた農林業・農山村面の対応が重要である。

 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に推進していく。

@ 砂漠化地域における現地の地形、気象・水文、土地利用、植生、農地の荒廃
 状況、社会経済、社会体制、農民の営農状況等の実態を調査し、その要因の分
 析研究を行うとともに、地域特性に基づいた現地適応技術の開発を進める。
A  砂漠化があまり進んでいない地域では、既存農地での生産性の高い持続的農
 業の展開のためのドリップかんがいや農地の保全等の技術を開発するとともに
  、地域住民等による農地や水の管理手法等の開発を進める。
B  砂漠化が進んでいる地域については、荒廃農地の復旧、雨水を有効に活用す
 る集水農法、保水剤、乾燥地に強い作物、アグロフォレストリーなど総合的な
 技術開発・研究協力を実施するとともに、かんがい農地の塩害を防止するため
 適切な排水技術など、農地、農業用水管理技術の開発を図る。さらに、地下水
 を有効利用するための地下ダム等の技術開発の検討を行う。
C 木材燃料の消費削減のため、代替エネルギーの開発を進めるとともに、防風
 林、飛砂防備林等の造林技術の開発、森林復旧技術の調査・研究等を進める。
 これらの開発、改良した技術の活用及び農林業従事者の組織化等のソフト面を
 含む技術の現地への適合化により、乾燥地農業や植林の視点からの協力のあり
 方を検討し、必要に応じて実証調査を行う。

C.国際協力

 砂漠化問題は近年深刻化しており、地域住民の持続可能な開発の実現において
重大な障害となっている。このような認識から、1992年の第47回国連総会におい
て1994年6月を目途に条約作成交渉が行われることとなった。我が国は砂漠化問
題を重要な環境問題の一つと位置付け、条約交渉にも積極的に参加してきている
。また、砂漠化問題解決に向けた地域住民の自助努力を各国が支援していくこと
が重要である。
 以上の認識を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 条約交渉に当たっては、砂漠化問題は、当該国・当該地域の自然条件、社会
 経済条件等を十分勘案し、第1義的には、先ず当該国内・地域レベルの取組が
 重要であり、本件条約はこの取組を保管・強化すべきものである点、及び本件
 条約の対象を明確にし、各国が実現可能な義務を負うような形にするべきであ
 り、いたずらに対象範囲を広げるべきでないという点につき留意していく。ま
 た、条約実施のための資金制度については、具体的な砂漠化防止のためのプロ
 ジェクトを念頭に置き、まずは既存のメカニズムの活用を検討するという現実
 的な対応を目指す。
A 食糧の増産と安定生産の確保のための持続可能な農業・農村の開発の推進を
  図ることが最優先との考えに基づき1985年から砂漠化防止対策基礎調査、1990
 年から砂漠化防止対策実証調査を行い、アフリカのサヘル地域における環境と
 調和した持続可能な農業への転換と食糧増産及び持続可能な農牧業・農村コミ
 ュニティを基礎とした砂漠化防止対策を総合的に展開する。
B 「緑の推進協力プロジェクト」としてアフリカの砂漠化防止のために1986年
 から青年海外協力隊員を派遣してきている。本プロジェクトの下で、住民とと
 もに植林活動を推進し、住民の生活基盤の整備、生産基盤の確保や砂漠化防止
 を図る。
C 砂漠化や土壌侵食の進行が著しい地帯を抱える国々を始めとして、植生の導
 入による土砂移動防止技術、燃材林造成技術等の開発・導入、人材育成等を実
 施し、砂漠化の防止に貢献すると共に、砂漠化地域における気象観測等関連す
 る技術協力及び国際連合食糧農業機関(FAO)の土壌保全等事業を支援する
  。
D  上記A〜Cの実施に当たっては、関連する非政府組織(NGO)との連携を
  図りつつ、プロジェクトの効果やプロジェクトが現地住民の生活に及ぼす影響
  等をフォローするとともに、砂漠化防止に関する経験を蓄積するよう努める。
  また、現地研究機関、住民、非政府組織(NGO)等の経験交流及び対応能力
  向上の支援に努める。
--------------------------------------------------------end-------------



第13章 脆弱な生態系の管理:持続可能な山地開発--------------------------

A.環境と持続可能な山地生態系の開発についての知識の普及、強化

 我が国は、国土の多くが山地であり、そのかなりの部分が森林により覆われて
いる。また、それは複雑急峻な地形で、四季を通じて豊かな降水量に恵まれ、多
彩な気候条件のもと、森林に代表される豊かで変化に富む植生を持ち、数多くの
野生生物が生息している。
  こうした山地においては、自然のサイクルのなかで、山地生態系の保全を図り
つつ、農林業経営を中心として地域経済活動が営まれ、国土のたゆみのない管理
が行われてきたところであるが、今後、アジェンダ21の方向に沿って、以下の
行動を行っていく。

@ 持続可能な山地開発
 (イ) 森林計画・保安林制度等の適正な運用
   山地は国土の保全、水資源のかん養、自然環境の保全等に重要な役割を担っ
  ており、適切な森林の管理経営のもとに木材の生産機能と調和させながら、そ
  れらの役割を高度に発揮させるため、森林計画制度に基づき、山地の自然的特
  性等を踏まえ、総合的計画的な森林の管理経営を推進する。
   特に公益性の高い森林については保安林に指定し、水源かん養、土砂流出防
  備、公衆の保健等の機能の維持増進が図られるように森林施業等を規制してき
  たところであり、今後も、この制度の強化を図るとともに、その指定の目的を
  達成するため、治山、造林、林道事業等により、機能を十分に果たしていない
  ものについて整備を推進する。また、保安林以外の民有林については一定規模
  以上の林地の開発について都道府県知事の許可を義務付ける林地開発許可制度
  により、また、国有林についても同制度に準じた取扱により無秩序な森林の開
  発に歯止めがなされており、今後も同制度の適正な運用に努める。
 (ロ) 山村地域の生産基盤・生活環境の整備
   このような森林の管理を担う山村地域においては、産業基盤及び生活環境の
  整備等が他の地域に比べて立ち遅れていることから、農林業等の振興と林道等
  の生産基盤の整備を進めるとともに、上下水道の整備等立ち遅れた山村の生活
  基盤の整備を推進する。さらに、地域資源の多面的な活用を図る観点から、地
  域特産物の生産の育成を図るとともに、自然環境や国土の保全に留意しつつ、
  保健・文化・教育的な諸活動を適切に行えるような森林空間の整備を図る。

 (ハ) 山地生態系の保全に配慮した利用
   また、自然公園内においては、山地の優れた生態系の保全に留意しつつ、公
  園利用のための計画に基づいて適正な利用を推進するとともに、自然公園等に
  おいて地域社会への経済効果の波及を図りつつ生態系の保全を行うための手段
  としての観光(エコツーリズム)の導入を検討する。さらに、国有林野におい
  ては、森林生態系の保全等に配慮しつつ、レクリエーションの森を設定し、保
  健休養の場を提供するための整備を推進する。
    山地における道路建設等の開発に当たっては、エコロード等計画・調査から
  設計、施工に至るまで自然環境との調和を図るための整備手法の定着や生態系
  へのきめ細かな配慮を行うとともに、貴重な動植物の保全や自然環境との調和
  について閣議決定要綱等に基づき、一定の規模以上の開発を対象として環境影
  響評価の適切な実施を図る。
A 山地生態系の保全
   山地のうち、自然環境が優れた状態を維持している地域や風景の優れた地域
  は自然環境保全地域、自然公園等その他の保護地域として指定されている。こ
  れらの保護地域の区域及び保護計画の見直しを通じて優れた生態系を有する地
  域や貴重な野生生物種の生育・生息地の保全を図るとともに、既存の保護地域
  にあっても植生復元等の事業その他の適切な管理を通じて、山地の優れた生態
  系等の保全に努める。
   また、脊梁山脈を中心に分布している国有林野においては、学術研究、動植
  物の保護、遺伝資源の保存、風致の保全上重要な天然林等が多く存在している
  ことから、原生的な天然林や多様な動植物種の生息・生育地を有する地域につ
  いては森林生態系保護地域、特定動物生息地保護林等の保護林を設定し,森林
  生態系の厳正な維持や貴重な動植物種の保護・管理を図るとともに,希少な野
  生動植物種の保護・管理に資する事業を推進する。
B 山地生態系の保全と持続可能な開発に係る普及啓発
   森林・林業の役割や重要性について、国民の認識をさらに高めるため、森林
  教室の開催、体験林業活動等を通じて森林の機能、林業の役割、森林保全の重
  要性等について、青少年をはじめ広く国民に対し普及啓発を推進する。
   また、自然公園等において、自然解説活動を積極的に推進することなどによ
  り、自然環境の保全と国民の自然保護に対する理解を促進する。
C 山地生態系に関する調査、研究
   我が国は、自然環境保全基礎調査等山地の自然環境に関する調査・研究を継
  続的に行い、山地に生息する動植物種を明らかにするとともに、その分布状況
  を把握する等山地生態系の管理のためのデータ収集、蓄積を行っており、今後
  とも推進していく。また、貴重な生態系の適正な保全を図るための調査・試験
  ・研究、及び山地災害危険地区となだれ危険箇所の実態調査等を推進する。
D 国際協力の推進
   地域社会・経済の発展に十分に配慮しつつ、山地の生態系保全及び管理につ
  いての国際協力を推進する。

B.総合的な河川流域開発と代替的生計の機会の促進

  河川は水生生物の生息地として、またその流域は多様な生態系及び野生生物種
を育む地域として重要であることを踏まえ、特に流域の森林の保全整備や魚類等
の生育環境の保全に十分配慮しつつ、治水、利水等の総合的な河川対策を進める
こととし、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 河川及びその流域に分布する貴重な生態系及び野生生物種を保全するため、
  河川内の動植物の生息状況、河川の利用状況、原生的自然が残る流域を明らか
  にするなど自然環境に関する情報を提供する。
A 河川の上流部も含め、すぐれた生態系等を有する河川地域について、自然環
  境保全地域や国立・国定公園等の保護地域の区域及び保護計画の見直し等を通
  じてその保全を図るとともに、既存の保護地域にあっても適切な管理を通じて
  河川流域のすぐれた生態系等の保全に努める。
    また、高度処理を含めた下水道整備や排水規制により河川への流入汚濁負荷
  の削減を図り水質の保全に努める。
   さらに「河川環境管理基本計画」を策定し、河川内の特性に応じて、自然を
  保全すべき「自然ゾーン」を設定し、それにふさわしい河川管理を行っていく
  。
B 我が国における河川流域のかなりの部分を占める森林について、主として流
  域別に長期の計画をたてることにより適切な森林整備を推進していく。
   なお国有林野における土砂の流出の防止等国土の保全を第一とすべき国土保
  全林及び自然環境の保全を第一とすべき自然維持林については、適切な管理経
  営を通じてその機能の維持・向上を図る。
C 第8次治山・治水事業5箇年計画に基づき保安林、地すべり防止区域、砂防
  指定地等においては、治山・砂防事業の実施により土砂流出の防止等のために
  治山・砂防ダム、樹木の植栽等を行い土壌侵食を防ぐとともに、雨量計、土石
  流センサー等の設置を行い地域住民の避難体制の整備に役立てる。
--------------------------------------------------------end-------------



第14章 持続可能な農業と農村開発の促進----------------------------------

A〜K.農政の基本的方向

 我が国の農業・農村は、国民生活にとって最も基礎的な物資である食料の安定
供給という重要な役割を担っているほか、地域社会の活力の維持、国土・自然環
境の保全など我が国経済社会の発展と国民生活の安定の上で多面的かつ重要な役
割を果たしている。また、豊かな食生活が実現されたものの、農産物輸入は経済
の国際化に伴い増大し、現在我が国は世界最大の農産物純輸入国となっている。
 一方、我が国の農業・農村をめぐる状況は、経済の高度化、人口や産業の都市
への集中といった諸情勢の変化の中で、従事者の減少、高齢化の進行、山村等に
おける過疎化の進行など近年大きな変化がみられる。
 さらに、近年国際的に取組が求められている地球の温暖化、熱帯林の減少、砂
漠化の進行などの地球環境問題は、農林水産業と深い係わりを有するとともに、
後世代へも重大な影響を及ぼす一国のみでは解決し得ない極めて深刻な問題であ
る。
 このような状況を踏まえ、1992年6月には21世紀を目指した農政の長期ビジ
ョンとして「新しい食料・農業・農村政策の方向」を取りまとめたところであり
、今後この方向に沿って、施策の展開を図っていく。

@ 環境保全型農業の推進
   農業が有する物質循環型産業としての環境にやさしい特質を最大限に活用し
  、農業が持つ環境保全機能の一層の向上を図るとともに、環境への負荷をでき
  るだけ減らしていく観点から、以下の取組を総合的に推進し、環境保全型農業
  の確立を図る。
 (イ) 農業・農村の有する国土保全・環境保全機能の適正な評価及びその維持・
    増進
  (ロ) 化学肥料や農薬等に大きく依存しない、環境保全と農業の持続的再生産を
    可能とする環境保全型農業技術の開発、普及
  (ハ) 家畜ふん尿等の農業関係排出物等のリサイクル利用
A 食料自給率の低下傾向に歯止め
   我が国においては、豊かな食生活が実現する中で、カロリーベースでみた我
  が国の食料自給率は、46%に低下し、先進国のうちで異例に低い水準になっ
  ている。したがって、国内農業の生産性の一層の向上など品質・コスト面での
  改善を推進することにより、可能な限り国内農業生産を維持・拡大し、食料自
  給率の低下傾向に歯止めをかけていくことが基本である。
B 農業農村整備の推進
   魅力ある農業を実現するための大区画ほ場、農道、基幹かんがい排水施設等
  の生産基盤の整備、快適で美しい田園空間を形成するための農業集落排水施設
  の整備等の農村地域の総合的整備及び安全な国土を維持・形成するための整備
  を推進する。
C 農業・農村の活性化
   自然的、経済的に不利な条件下に置かれ、若者を中心とした人口の減少及び
  高齢化の進行、農業生産活動の停滞等により、健全な地域社会を維持していく
  うえで厳しい状況に直面している中山間地域をはじめとする農村地域において
  農業・農村の活性化に資するための取組を推進する。
   このため、地域の特性を生かした農業の振興、農業構造の改善、都市と比較
  して立ち遅れている分野の生活環境の整備を図るとともに、文化・歴史、地域
  固有の資源・技術の活用、都市と農村の交流の促進、美しいむらづくりの推進
  などに取り組む。
    また、農山漁村で重要な役割を果たしている女性がその持てる能力を十分に
  発揮できるよう条件整備を行う。
D 活力ある農業生産の展開
    21世紀に向けた先進的な農業の展開を図るため、効率的・安定的経営を行
  う経営体の育成とこれを支える青年農業者をはじめとした優れた人材の育成確
  保を推進するとともに、各地の創意工夫による高生産性・高品質農業の実現、
  畜産、畑作農業、野菜・果樹生産の振興のための対策を推進する。
    また、我が国の農業の基幹である高い生産力を有し、連作障害のない水田農
  業について、需要に応じた米の生産を進めるため、生産調整を行いつつ、生産
  性の高い水田営農を推進する。
    さらに、これらの一環として、土壌保全及び環境に配慮した植物防疫を推進
  するとともに、バイオテクノロジーを利用した新品種の開発や優良種苗の導入
  を図る。
E 食料の安定供給と食品産業の振興
   国民が生活していくうえで欠くことのできない米麦、肉、野菜などの食料に
  ついて、価格や需給の安定を図るとともに、米を主食とした健康的で豊かな日
  本型食生活の普及・定着を推進する。
    また、消費者ニーズの多様化に対応した安全、良質な食品の供給及び食品産
  業の振興を図るとともに、食品の生産、流通、消費の各段階を通じた総合的な
  環境対策を推進する。
F 技術の開発・普及
   農業の生産性向上技術の開発、新品種の育成、品種開発の基盤となる遺伝資
  源の収集・保存のためのジーンバンクの整備・利用及びバイオマスの利用を促
  進するための技術開発等を推進する。特に、環境への影響を十分考慮した生物
  的防除、抵抗性品種などを取り入れた、病害虫の総合的管理技術、地力維持・
  農用地土壌の保全のための適切な施肥・栽培管理技術等、環境保全型農業技術
  の開発を推進するとともに、農業が持つ環境保全機能を発揮させるための農用
  地の維持管理技術を開発する。
   また、農業者に対する技術の普及・浸透を図るため、全国の農業改良普及所
  及び改良普及員を通じた普及事業を推進する。
G 国際協力の推進
   熱帯林の減少や砂漠化の進行などの問題の根底には、途上国の爆発的人口増
  加、貧困、食料不足の問題が存在しており、これらの途上国の環境問題の解決
  に当たっては、持続可能な農林水産業の確立が不可欠である。このため、実態
  の把握や技術開発を進めるとともに、専門家の派遣、研修生の受入れなどを通
  じた技術協力や資金協力などの二国間協力、国際機関に対する拠出等の多国間
  協力を通じて、食料・農業・農村についての協力に関する国際的取組を積極的
  に推進する。
H 農業分野におけるエネルギー利用の効率化を進めるとともに、地域における
  自然エネルギーの活用を図り、また、農用地の土壌汚染防止のための調査及び
  汚染された土壌に対する対策を行う。

L.オゾン層の減少による動植物に対する紫外線の影響の評価

 我が国においては、現在のところオゾン層の減少により有害紫外線量が増加し
ているとは認められていないが、今後、さらにオゾン層の減少が進行し、紫外線
量が増加した場合には農作物等の生育、品質への影響が懸念される。
 このため、紫外線の増加が農作物等の生育に与える影響評価等に関する調査研
究を行ってきたところである。

@ 今後ともこれらの調査研究の継続、充実を図るとともに、紫外線の照射を受
  けた植物がこれを摂取する(食植性の)生物に与える影響の評価について検討
  を行う。
--------------------------------------------------------end-------------



第15章  生物の多様性----------------------------------------------------

A.管理に関連する行動

  我が国は、国土が亜寒帯から亜熱帯に及ぶことなどから生物の多様性が高く、
従来から、自然環境保全に関する法制度に基づき、各種の保全施策を講じてきた
ところであるが、さらに、1993年11月に制定した環境基本法も踏まえ、生物の多
様性の保全の観点から、特に以下のような施策を総合的かつ計画的に推進してい
く。

@ 生物の多様性の保全及び持続可能な利用に資する国レベルの戦略、計画等を
  策定し、又はそれらの内容の充実を図る。国の各種計画において生物の多様性
  の保全及び持続可能な利用の観点が引き続き組み込まれるよう、今後とも努め
  る。
A 自然環境保全基本方針等を踏まえ、国土に存する多様な自然の体系的な保全
  を図る。
B 自然環境保全基礎調査等により、森林、河川、湿地、沿岸域等の多様な生態
  系や野生生物の現状と推移を全国的に把握するとともに、代表的・典型的な生
  態系を含むすぐれた生態系や絶滅のおそれのある種等を選定、監視するなど基
  礎的なデータの収集・整備を進める。
C 多様な生態系や野生生物の重要な生息地等を保全するため、自然環境保全地
  域、国立・国定公園、絶滅のおそれのある野生動植物種の保存を目的とした生
  息地等保護区、鳥獣保護区、天然記念物、保安林、国有林野における保護林、
  水産資源の保護を目的とした保護水面等の各種の保護地域の指定を進めるとと
  もに、既指定地にあっても指定目的及び自然の特性に応じた適切な管理を通じ
  その保全の充実を図る。
D 絶滅のおそれのある野生生物その他の生物の多様性を保全し、また、生物資
  源の持続可能な利用上重要な野生生物を保護するため、種の保存法、鳥獣保護
  法、水産資源保護法、文化財保護法等に基づき捕獲、譲渡等の規制措置を講ず
  る。併せて、森林計画制度等に基づいた適正な管理運営を通じ、森林の生物多
  様性の保全と持続可能な利用を図る。
E 多様な生態系を構成している動植物種の保護、中でも絶滅のおそれのある野
  生生物の個体の繁殖促進、生息生育環境の維持整備のための保護増殖事業や貴
  重な植生の復元に努めるとともに、多様な生物の生息できる森林、水辺環境の
  整備等生態系の修復・回復のための事業を推進する。また、生物の多様性の構
  成要素の生息域外保全のためのジーンバンク事業等を推進する。
F 各種事業の実施に当たり、閣議決定要綱及び個別法等に基づく環境影響評価
  を適切に実施するなど、生物の多様性への悪影響を回避し又は最小とするため
  の配慮が払われるよう必要な措置を講ずる。
G 自然環境保全地域、保安林等の保護地域における税の優遇措置、自然環境保
  全を目的とした公益法人に対する税の優遇措置及び各種表彰制度など生物の多
  様性を保全するための奨励、支援措置を行う。また、国立・国定公園及び国設
  鳥獣保護区においては、特定民有地買い上げ制度により、保護地域の公有化を
  進める。

B.データ及び情報

  我が国では、これまで実施している自然環境保全基礎調査をはじめとした各種
調査により、国土全般の生態系、種、個体群の現状と推移についての情報の収集
・蓄積、評価、更新を行っているところであるが、今後も基礎的なデータの収集
、整備が、各種の保全施策を講じるうえで不可欠であることを踏まえ以下に示す
取組を重点的に実施していく。

@ 国土全体の縮尺5万分の1の植生図の更新を行うとともに植物群落を評価し
  、重要な植物群落の選定とそのモニタリングを引続き実施していく。また、森
  林、河川、湖沼、干潟、サンゴ礁等の生態系の現状と変化状況についても情報
  の蓄積、更新を推進していく。
A 湿地、浅海域等これまで対象としていなかった生態系について、情報収集手
  法を開発しつつ情報の収集、蓄積を行っていく。
B 脊椎動物等主要な分類群についての目録を作成のうえ実施した種毎の分布調
  査を、手法、内容の充実に努めつつ引続き実施していく。特に、居住地周辺で
  全国的によく見られる種については、「身近ないきもの調査」10万人以上の
  国民の協力のもとに実施してきているが、今後も国民多数のボランティアの協
  力のもとに実施していく。
C 植物、動物、土壌等の情報を総合的に捉え、生態系の変動メカニズムを明ら
  かにするために着手している調査についても継続的に実施していく。
D 渡り鳥の渡来状況に関する基礎データを収集・蓄積するため継続的に実施し
  ているガン・カモ科鳥類の生息状況調査、定点調査、標識調査を引続き実施し
  ていく。
E 自然環境保全基礎調査のデータを利用しつつ国際自然保護連合(IUCN)
  の基準に準拠して作成した絶滅のおそれのある野生生物のリストについて生息
  状況の動向を踏まえつつ、その改訂、充実を行い、作成の過程で明らかにした
  動植物の分布や生息状況等のモニタリングを引続き実施していく。
F 原生的な自然を有し、生物多様性の保全のうえで極めて重要な生態系の現状
  と推移を総合的に把握するため実施してきている自然環境保全地域等のモニタ
  リング調査を引続き実施していく。
G 上記調査の対象種以外にも水生生物については水域毎の情報収集を行ってお
  り、今後も水界生態系の現状把握手法の開発を進めつつ引続き実施していく。
H 森林については、森林計画の樹立に際して行っている調査等森林に関する各
  種の調査を実施し、情報の蓄積、更新を図っていく。
I 河川については、河川環境保全モニターの協力を得て情報収集を図っていく
  。

C.国際的、地域的協力と協調

  我が国は、地球上の生物種の絶滅を防ぎ、持続可能な利用を図るため、多様性
に富んだ生物の世界を子孫に引き継ぐことの重要性を認識し、「生物の多様性に
関する条約」について、UNCEDの場で署名するとともに1993年5月に締結し
たところであり、今後、本条約が国際的な枠組みとして効果的に機能できるよう
貢献していく。
 以上を踏まえ、以下に示す取を重点的に実施していく。

@ 生物の多様性の保全に関連するワシントン条約、ラムサール条約及び世界遺
  産条約に加盟し、ワシントン条約及びラムサール条約については締約国会議を
  招請・開催するなどその実施促進に努めているところであり、今後ともこれら
  の条約の着実な実施を図る。また、UNESCOにおいて政府間事業として実
  施されている「人間と生物圏(MAB)計画」に協力しており、今後ともその
  支援を図る。
A 渡り鳥等の保護に関する二国間条約を米国、オーストラリア、中国及びロシ
  アの間で締結し、情報交換及び共同調査等を実施してきているが、今後ともそ
  の他の国とも条約を締結する等取組を強化していく。
B 生物の多様性の保全及び持続可能な利用分野における協力においては、技術
  協力、資金協力等の政府開発援助及び地球環境研究総合推進費等により推進し
  ているが、今後、自然環境保全基礎調査等を通じて蓄積した我が国の技術と経
  験を生かし、質的充実を図りつつ、開発途上国支援努力を行っていく。特に開
  発途上国における持続可能な開発の実現のため、地域の経済・社会開発とも両
  立する生物多様性保全の推進に努め、そのための制度、組織、人材育成などの
  体制整備、生物多様性についての基礎的情報の整備、生物多様性保全のモデル
  プロジェクト、開発途上国との研究協力など同分野における国際的な貢献を推
  進する。
C 国際捕鯨委員会年次会合を招請したほか、国際捕鯨取締条約の下での南氷洋
  ミンク鯨捕獲調査を実施している。今後とも、生物種の保全(持続可能な利用
  を含む)のため、積極的に貢献していく。
--------------------------------------------------------end-------------



第16章 バイオテクノロジーの環境上適正な管理----------------------------

A.食糧、飼料及び再生可能な原材料の利用可能性の向上

  食糧、飼料及び再生可能な原材料の利用可能性の向上を図るため、例えば、以
下に掲げる分野において、バイオテクノロジーを応用した利用可能性の向上を図
っている。今後、引き続き、各分野において、それぞれ以下に例示する取組を行
い、さらに、引き続き各分野での取組の成果の普及、当該成果に係る国際協力の
推進等に取り組む。

@ 農作物については、多収性品種及び病虫害抵抗性品種の開発による単収の増
  大、耐塩性品種、耐寒性品種、耐旱性品種等の開発による作付可能地の拡大等
  による生産量の増大並びに栄養組成等の改善に努める。
A 畜産物については、品種改良、繁殖技術の向上等による生産量の増大及び品
  質の向上に努める。
B 林産物については、樹木、きのこ等特用林産物等の品種改良、増殖技術の活
  用等による生長産量の増大、品質の向上及び各種抵抗性の向上に努める。
C 水産物については、品種改良等による優良種苗の生産性の向上を通じた養殖
  の生産量の増大及び品質の改善に努める。
D 微生物については、ヒト及び家畜用のワクチン、酵素等の食料生産上有用な
  物質の生産を推進する。

B.人の健康の増進

  医薬品等の開発において、疾患メカニズムの解明、生理活性物資の探索から量
産にいたるまで、バイオテクノロジーは有力な手段として利用されており、我が
国においてはバイオテクノロジーを応用した医薬品が数多く実用され、臨床の場
で多くの患者の治療に使用されている。
 また、バイオテクノロジーを利用して医薬品等の研究開発が盛んに行われてお
り、今後もバイオテクノロジーを応用した医薬品等がますます使用されることに
なると予想される。
  人の疾病のうち、霊長類でのみ発現するものについては、マウス、ラット等の
実験動物を用いて、医薬品を開発することは行えないが、遺伝子の導入により、
これらの実験動物で人の疾病を発現させることが可能となり、医薬品の開発の推
進に寄与する。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 最新の学問的成果を医薬品等の開発に結びつけるため、バイオテクノロジー
  等に関する基礎的基盤的研究を今後とも支援する。
A 耐病性、耐虫性を備えた作物の育種の推進。

 バイオテクノロジーの育種への応用により、作物に耐病性、耐虫性等を付与す
ることが可能となるが、このことは、栽培期間中の薬剤の使用量の低減の実現等
、作業者の健康管理に有益である。

C.環境保護の強化

 環境保全の分野においては、各種の発生源からの環境汚染物質の排出を低減す
る技術(汚染処理技術)、環境中の汚染物質の浄化・除去技術(環境浄化技術)
、環境汚染状況等の計測または評価技術(環境計測技術)、環境汚染を招かない
または環境負荷の小さい製品、製造等の技術(環境保全型技術)、植林技術への
バイオテクノロジーの利用が行われ、発展が期待されている。
 既に、我が国では、排水処理等の分野で広くバイオテクノロジーが利用され、
酵素、微生物等のバイオリアクター等に応用した新排水処理システム等が実施さ
れている。また、現在、バイオテクノロジーを利用した二酸化炭素の固定化、生
分解プラスチック等について研究開発を実施している。
 今後、適切な安全性の確保を図りつつ、特に次のような取組を重点的に実施し
ていく。

@ 微生物による難分解性化学物質の処理技術等の開発及びその利用
A より一層環境保全に配慮した廃棄物の処理・リサイクルを行う技術の開発及
 びその利用
B 環境負荷の小さい生産プロセス及び製品の開発並びにその利用

D.環境面での安全性の向上、協力のための国際的メカニズム

  バイオテクノロジーは人類の福祉に多大の貢献が期待される技術であり、着実
に推進すべき重要な技術である。このうち、組換えDNA技術の応用については
、これまで自然界に存在しなかった新しい遺伝子の組み合わせができることとな
るため、科学的知見の得られるまで、各時点で潜在的に推測され得る個々の危険
性を最大限に見積もり、ステップ・バイ・ステップ及びケース・バイ・ケースで
科学的に適切な処置をとりつつ研究を進めてきたところであるが、これまでの科
学的知見の蓄積により当初見積もっていた危険性が過大であったことが判明し、
徐々に処置の厳しさを緩和して今日に至っている。
 バイオテクノロジーのうち、組換えDNA技術については、関係各省庁による
安全性確保のためのガイドラインに基づき、研究及び産業利用がなされており、
これまで組換えDNA技術等バイオテクノロジーの開発・利用により環境上問題
が生じた事例は報告されていない。
  以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ ガイドラインの国際的調和を図るため、国際機関等における専門家による討
  議に参加し、また、情報の交流を図る。

E.バイオテクノロジーの開発及び環境上健全な適用のためのメカニズムの確立

 国家、地域、国際レベルで、持続的可能な開発を目的とした、バイオテクノロ
ジーの開発、適用を促進する。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ バイオテクノロジーの研究開発への支援、バイオテクノロジーに関する公衆
  の理解や認識の向上、投資・産業能力向上・流通・販売のための環境創造への
  支援等を行う。
A 国際シンポジウムの開催等国際的な活動への貢献を推進するとともに、特に
  開発途上国での開発と適用は対処能力向上の努力を必要とすることから、開発
  途上国における訓練能力、ノウハウ、研究開発施設、資金等の強化のため、政
  府開発援助等により、資金協力、技術移転を推進する。
B 人材開発の重要性に鑑み、技術者の訓練、科学者へのインセンティブ等、多
  様なレベルでの人材開発プログラムの発展を図るとともに、ワークショップ、
  シンポジウム等を通じて、情報交換を盛んにし、情報へのアクセスを容易にす
  る。
--------------------------------------------------------end-------------



第17章 海洋、閉鎖性及び準閉鎖性海域を含む全ての海域及び沿岸域の保護及び
これらの生物資源の保護、合理的利用及び開発

A.沿岸域及び排他的経済水域を含む海域の統合的管理及び持続可能な開発

 以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 1987年に政府の決定した第四次全国総合開発計画において、沿岸域の環境の
 保全と安全の確保を図るとともに、多面的利用可能性を積極的に引き出し、そ
 の総合的・広域的な利用により魅力ある地域振興を図るため、地方公共団体が
 主体となり沿岸域の総合的な利用計画を策定することとし、国は計画策定及び
 計画の実現に向けて積極的に地方公共団体を支援することとしている。
A 自然環境保全基礎調査の一環として沿岸域に関する調査を実施しているが、
 今後、沿岸域全体の現状を把握するための調査の実施を推進するとともに、自
 然公園法に基づく国立・国定公園や、自然環境保全法に基づく自然環境保全地
 域の指定及び適切な管理等を通じて海洋生物の生息域の保全を図る。
B 国土情報整備事業の一環として、1984年から関係各省庁の協力により沿岸域
 に関する情報をメッシュ等の形式で整備してきている。

B.海洋環境保護

  我が国は、「環境基本法」により、水質の汚濁について、人の健康を保護し、
生活環境を保全する上で維持することが望ましい基準を定めている。これを達成
するために「水質汚濁防止法」により、工場、事業場から河川、湖沼、沿岸海域
等の公共用水域へ排出される水の水質規制及び生活排水対策の実施を推進してい
る他、特に瀬戸内海においては「瀬戸内海環境保全特別措置法」により、水質に
対するより厳しい規制、自然海浜の保全等の措置を講じている。また、「MAR
POL73/78条約」を踏まえた「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」に
より、船舶、海洋施設等に起因する海洋汚染の防止を図っている。さらに、「下
水道法」により公共用水域の水質保全に資することを目的として、下水道整備に
よる環境への負荷削減策を講じている。
 陸上に起因する海洋汚染の防止のために有害物質等の排水規制を順次強化、実
施しているほか、下水道をはじめ、地域の実情に応じて合併処理浄化槽等の整備
、沿岸海域における汚泥浚渫等の海域浄化対策事業を推進している。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 窒素、リンについては、環境基準及び排水基準を設定したところであり、効
 果的な排水規制を行うなど適切な対策を進める。また、底泥からの栄養塩の溶
 出を抑制するため、浚渫・覆砂等の対策を推進する。

A 「MARPOL73/78条約」の排出規制及び船舶の構造・設備規制を引き続
 き厳格に実施する他、船舶からの排出ガス抑制等の国際海事機関(IMO)に
 おける新たな規制への取組に積極的に参加する。
B 廃棄物の海洋投棄に起因する海洋汚染の防止に関しては、従来から「ロンド
 ン条約」の規制を厳格に実施しているが、今後とも引き続き同条約の充実に適
 切に対応する。
C 汚染リスクを低減するために必要な船舶の航行安全のための情報提供及び援
 助施設の整備並びにタンカーの二重船体化の早期定着を国際機関との協調のも
 とに推進するとともに、新形式タンカー構造及び船舶からの排気ガス浄化技術
 等の研究開発を推進する。さらに、港湾における廃油処理施設の整備及びごみ
 の回収を推進する。
D 油流出事故防止対策及び油防除資機材の充実・強化並びに油流出事故に対す
 る迅速・的確な防除措置の実施により、油による海洋環境の汚染防止を推進し
 ていく。また「1990年の油汚染に対する準備、対応及び協力に関する国際条約
 (仮称)(通称:OPRC条約)」の早期締結に努める。
E 海洋環境の科学的な調査、研究については、政府間海洋学委員会(IOC)
  や北太平洋海洋科学機関(通称:PICES)における海洋環境調査への取組
  に協力しつつ、今後とも継続して海洋環境のモニタリングの実施等、汚染現象
  の解明及び影響の評価に努める他、赤潮対策技術、流出油対策技術等の開発を
  図る。
F 国連環境計画(UNEP)の提唱する北西太平洋地域海計画の検討を支援す
 るための調査を推進する。
G 公共用水域の水質保全に資するため、下水道整備を推進するほか、地域の実
 情に応じ、コミュニティ・プラント、集落排水施設の整備を進めることにより
 、おおむね2000年には、排水が公共的主体により衛生処理される人口の割合を
 7割を越える程度に増加させるとともに、公共団体の助成を活用した合併浄化
 槽の整備を推進する。

C.公海の海洋生物資源の持続可能な利用及び保全

 海洋生物資源は、21世紀へ向け今後とも人口増加を続ける人類への安定的な食
料確保という観点から、適正な科学的管理の下で持続的利用を前提とした開発が
促進されるべきと考える。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 関係国との緊密な国際協力を通じ、科学的手法による資源状態の把握のため
 の調査活動の実施、漁業活動からの正確なデータの迅速な収集、そしてこれら
 に基づく資源管理のための各種規制などの実施及びこれらの規制を遵守させる
 ためのモニタリングや取締活動等を充実させていく。

A 漁獲非対象生物の混獲の問題に関しては混獲の実態把握、混獲種の生息状況
 などにつき調査を行うとともに、必要に応じ混獲回避の技術開発を行い、漁業
 が環境に与える影響をできるだけ軽減する努力をしていく。
B 資源保存及び海洋生物保護の努力は単に我が国のみならず全ての関係国が参
 加し得る、適切な漁業関係国際機関等の国際的な枠組みの下で行われることが
 適当と考えており、特にストラドリング(200海里の内外にまたがって存在
 する)魚類資源及び高度回遊性魚類資源の管理に関する関係国間の協力のあり
 方については、沿岸国と公海漁業国の権利と義務に関する国連海洋法条約の趣
 旨に則り各々の地域あるいは魚種毎に全ての関係国が参加した枠組みによるべ
 きと考えている。従って既存の国際機関等がある場合にはその機関での取り組
 みの充実、ない場合には新しい国際的枠組み創設のための合意形成の努力を行
 う。

D.我が国水域内の海洋生物資源の持続可能な利用及び保全

  我が国周辺水域は寒・暖流が交錯し、漁場としての好条件に恵まれ、また豊か
な海洋生物資源も存在し、世界有数の漁場となっている。この海洋生物資源を適
切な保存と持続的生産を図りつつ効率的に活用することは、我が国に課せられた
責務である。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 我が国水域内の海洋生物資源については、その資源状態をモニターするため
 の調査をさらに充実させるとともに、過度の漁獲が資源に悪影響を及ぼすこと
 のないよう留意して資源の管理を行い、持続的利用を図る。また種苗の放流、
 魚礁の設置等を行い生物資源の増大のための努力もあわせて行う。一方で環境
 面に配慮しながら漁村や漁港の生産及び生活関連施設の整備充実を推進するこ
 とにより、環境と調和し、また活力ある漁業の実現に努力する。
A 周辺海域は多種多様な海洋生物の生息域でもあり、これらの生物種の保存に
 関しても我が国は重要な責任を負っており、その存続の危機が予想される場合
 には、増殖技術の開発、自然公園の海中公園地区、自然環境保全地域の指定等
 の保護措置を講じるなどその保護に努力していく。
B こうした生物資源の利用及び保存にとって生息環境の保全が重要であること
  から、自然環境保全基礎調査等、藻場、砂浜、干潟、珊瑚礁等の現状把握及び
  保護のための技術開発等調査研究を実施していくとともに、必要な場合は保護
  、育成及び造成のための措置を講じることとする。

E.海洋環境の管理及び気候変動に関する不確実性への対応

 気候変動の海洋環境に与える影響に関する不確実性に対応するため、海流、水
温、塩分、海氷、風、波浪等海洋環境に関する系統的な観測を推進するとともに
、得られたデータをユネスコ(UNESCO)、世界気象機関(WMO)、国連
環境計画(UNEP)等で国際的に位置づけられている「国際海洋データ交換シ
ステム(IODE)」「全世界海洋情報サービスシステム(IGOSS)」等の
ネットワークに提供しているところである。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ UNESCOの「政府間海洋学委員会(IOC)」が行っている事業に貢献
 するため、政府機関や大学等の研究者により海洋データの収集、観測、研究、
 西太平洋等世界主要海域の共同調査、海洋学研究のための技術的援助、教育訓
 練を行っていく。
A IOCを中心として海洋のグローバルな観測網整備を目的として開始された
 長期的な国際共同プログラムである「世界海洋観測システム(GOOS)」に
 対し、海洋環境の変動の解明、予測、保全のための総合的観測システムの構築
 に向けて研究、技術開発等を進めていく。
B 気候変動における海洋の役割やオゾン層破壊による海洋への影響等に関する
 不確実性を減少させるため、「地球温暖化防止行動計画」「地球環境保全調査
 研究等総合推進計画」及び「地球科学技術に関する研究開発基本計画」を踏ま
 えつつ、海洋における炭素循環の解明、紫外線増加による海洋生態系への影響
 の評価等、科学的調査研究及び観測・監視を今後とも総合的に推進する。

F.地域協力を含む国際協力及び調整の強化

 海洋生物資源の保全と海洋汚染防止の問題は性質の異なる問題であり異なるア
プローチが必要である。海洋生物資源に関しては、これまで、国際的あるいは地
域的漁業機関の下で、漁業資源の保全と持続可能な開発を目的とした効果的な管
理が行われてきており、他の環境分野に比較してかなりの効果を挙げてきた。我
が国としても世界有数の漁業国としてこれら機関の下で積極的に海洋生物資源の
保全に貢献してきており、今後これら既存の機関の一層の機能強化が望まれる。
また、今後生じることが予想される機関間での調整を要する問題については、国
連食糧農業機関(FAO)のように漁業に関する科学的・専門的知見を備えた国
際機関が調整機能を果たすべきであり、国連総会に調整を委ねるのは適切ではな
いと考える。なお、国連高度回遊性魚種類等会議に関しては、漁業資源管理の問
題の一環として科学的知見に基づいた対応が必要であり、「国連海洋法条約」の
趣旨に合致したレジームの尊重が適当と考える。
 一方、海洋汚染防止の問題については、これまで国際海事機関(IMO)、国
連環境計画(UNEP)が中心となって取り組んできた。大規模海洋汚染問題等
新たな対応が必要とされる事項についても、これら機関が引き続き積極的な役割
を果すことが期待される。
 以上を踏まえ、以下の取組を引き続き重点的に推進していく。

@ 「OPRC条約」の早期締結に努める。
A 環境保護に関する南極条約議定書についてはできるだけ早期に締結できるよ
 う政府部内での作業を行うこととしている。
B UNEPが進めている「北西太平洋地域海行動計画」に対しては、我が国は
 第1回会合より参加しており、北西太平洋地域における海洋汚染防止について
 の適切な枠組みの形成に向けて努力していく。また、アセアン諸国周辺海域に
 おいては、大規模な油流出事故への対応を充実するためのアセアン諸国への協
 力計画である「OSPAR計画」を推進していく。
C 油濁事故による損害賠償の充実を図るため、船舶所有者の責任限度引き上げ
 等を主な内容とする「油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約
 (CLC)」及び「油による汚染損害の補償のための国際基金の設立に関する
 国際条約(FC)」のいわゆる油濁2条約の改正議定書(92議定書)の早期締
 結及び国内法の整備に向けて検討を進める。
D 我が国は、二国間協力の一例として、ブラジルにおいてグァナバラ湾の汚染
 対策に関する開発調査及び有償資金協力を実施している。

G.小規模な島嶼諸国の持続可能な開発

 島嶼諸国は、それぞれが特異な生物相・生物多様性、また、それらと結びつい
た独自の文化を持っていることが多い一方、その地政学的関係により気候変動の
影響や自然災害を被りやすい状況にあり、その持続可能な開発のための国際協力
が期待されている。国連では1994年4月に小島嶼諸国の持続可能な開発に関する
世界会議が開催される予定である。

@ 我が国は、島嶼国として、従来より島嶼諸国の持続可能な開発に対する協力
 に積極的に取り組んできており、今後ともそれらの生物学的・文化的価値を十
 分に考慮して引き続き努力していく。
A 1994年の世界会議に対しても積極的に貢献していく。
--------------------------------------------------------end-------------



第18章 淡水資源の質と供給の保護:水資源の開発、管理及び利用への統合的ア
プローチの適用

A.統合的水資源開発及び管理

 我が国の降水量は、年毎、季節毎及び地域的に大きく変動しており、多くの地
域で洪水、渇水が発生し、経済社会活動に影響を及ぼしている。生活水準の向上
や経済発展に伴い水需要は引き続き増加するものと考えられるが、一方でダム等
の水資源開発施設の建設が長期化するとともに、地下水の過剰汲み上げによる地
盤沈下等の問題が発生している。さらに近年では、よりおいしく安全な水に対す
る国民のニーズの高まりから、水源の水質の保全が重要な課題となっている。
  以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 2000年に向けては、水の安定供給体制の整備、渇水に対する水供給の安定度
  の向上及び新しい水活用社会の形成を基本目標とした「全国総合水資源計画(
  ウォータープラン2000)」を策定し、また、広域的な用水対策を緊急に実施す
  る必要のある利根川等の7水系については、それぞれ2000年を目標とする「水
  資源開発基本計画」を策定し、水資源の総合的な開発及び利用の合理化の促進
  を図ることにより目標の達成に努めている。今後とも水資源開発、供給施設の
  整備、治山治水対策、森林の保全・整備等の水源保全対策、水質保全対策、地
  下水利用の適正化、雑用水利用の促進等の諸施策を推進するとともに相互の連
  携の強化を行うことにより、統合的な水資源開発及び管理の確立を図る。
A 水に関するイベント等による国民意識の啓発を引き続き積極的に行うほか、
  水資源の開発、利用、管理に関しての開発途上国に対する技術協力、資金協力
  及び国際機関との交流等の国際協力の一層の推進に努める。

B.水資源アセスメント

 水資源の開発、利用及び保全を行うに当たっては、降水量等必要なデータの収
集は不可欠である。
 現在日本では降水量の観測並びに表流水の水量、水質の監視・測定が実施され
、データの蓄積、解析が行われている。それらはそれぞれ公表されており、これ
らのデータを基に水資源に関する計画策定、渇水に関する情報提供等がなされて
いる。特に、渇水に関する情報システムは、全国的にネットワーク、オンライン
化され、渇水対策の検討等において有効に利用されている。また、地下水におい
ては、その過剰な採取により地盤沈下等の地下水障害の著しい地域等において、
水位や採取量等のデータの収集、解析がなされており、適正な採取量の検討等に
利用されている。
 一方、生活水準の向上や都市化の進展により、「おいしい水」や「うるおい」
、「ゆとり」のための水のもつ環境機能に対する国民の要望は、ますます多様化
、高度化している。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 水質の監視・測定、情報網の充実や、地下水の適正採取量の調査・研究をは
  じめとするデータの収集及び解析の充実を図る。
A 量及び質の両面から水資源を総合的に評価したうえで、水資源の有効利用の
  促進を図っていく。

C.水資源、水質及び水界生態系の保護

 水資源、水質及び水界生態系の保護を図るため、以下に示す取組を重点的に実
施していく。

1.水資源保護
@ 水資源の開発及び利用を進めるに当たって、水源の保全涵養機能が効果的に
  発揮されるよう森林の整備管理等必要な措置を講ずるよう努める。
A 水資源開発施設の機能維持のため、的確な施設管理を行う。
B 下水・産業排水の利用等水の有効利用、合理的な利用を推進する。また、水
  の使用について節水意識の高揚等啓発活動を実施する。
C 地下水の過剰採取による地盤沈下等の地下水障害に対し、地下水の保全を図
  ることが必要であるため、地下水の水位監視を継続的に実施するとともに、適
  正な地下水採取量の設定、表流水採取への転換、地下水のかん養、代替水源の
  確保、節水、水使用の合理化等を推進する。
D 地下水障害が生じている農業用地下水利用地帯において水文地質及び地下水
  障害の発生機構を明らかにする。

2.水質保全
@ 「環境基本法」に基づき公共用水域について維持することが望ましい基準を
  定め、「水質汚濁防止法」に基づきその水質の常時監視を実施するとともに、
  排出水に関する基準を設定し排水規制を適切に実施する。例えば、1993年3月
  に行われた環境基準健康項目の追加等に対応した排水基準の改正を行う。同時
  に生活排水対策を推進する。
A 下水道整備を推進するほか地域の実情に応じてコミュニティ・プラント、合
  併処理浄化槽、農業集落排水施設等の整備を進めるとともに、水質保全上特に
  重要な水域については下水道処理における高度処理化を推進する。また、汚泥
  の浚渫、河川水の直接浄化、浄化用水の導入等を実施する。
B 湖沼の水質の保全を図るため、「湖沼水質保全基本方針」に基づき、全国の
  湖沼について水質保全対策を推進していく。また、湖沼水質保全特別措置法に
  基づく指定湖沼では湖沼水質保全計画を作成し、水質保全に資する事業、各種
  汚濁源に対する規制等によるそれぞれの湖沼の特性に応じた水質保全対策を総
  合的かつ計画的に推進する。
C ダム貯水池においては、ばっ気等の水質保全対策を推進するとともに植物プ
  ランクトンの増殖に伴う水質汚濁機構の解明、汚濁防止対策の検討調査を実施
  する。
D 人間活動の水資源への影響の究明等の研究や環境改善資材を利用した河川の
  浄化システム開発を推進する。
E 一定規模以上のダム建設等を対象として環境影響評価を引き続き実施する。
F 「水質汚濁防止法」等に基づき、今後とも地下水の水質の常時監視及び有害
  物質を含む水の地下浸透禁止措置を適切に講じていくとともに、汚染された地
  下水の汚染機構解明とその効果的・経済的な浄化技術の開発を行う。
G 土壌環境基準の達成・維持を図るため、事業者等の指導等適切な措置を講ず
  るほか、環境基準の充実強化、汚染された土壌の浄化技術の確立等の土壌汚染
  対策を推進する。

3.生態系の保護
@ 淡水魚類の分布調査等により基礎的なデータ収集を行うとともに、魚道の設
  置・改善、環境保全上必要な流量の確保、「多自然型川づくり」、動植物の保
  護等の施策を推進する。
A 化学物質、農薬等による生態系への影響を防止する観点から基礎的な知見の
  収集を行う。
B ラムサール条約締約国会議の我が国開催を踏まえ、湿地の重要性に関する普
  及啓発をさらに充実させる。また、湿地の現況に関する基礎的な情報を収集す
  るための調査を実施するとともに、水鳥をはじめとした動植物の生息地として
  重要な湿地、すぐれた河川・湖沼・湿原景観について国立・国定公園、鳥獣保
  護区、国有林野における保護林等の保護地域の設置等により適正な保全・管理
  ・賢明な利用を進める。

D.飲料水の供給及び衛生

 我が国における水道の普及率は、1992年3月現在、94.7%に達し、不衛生な飲
料水に起因するコレラ等の水系伝染病の発生は皆無に近い状態にある。一方で、
国民が豊かさを実感できる社会をつくっていくことが強く求められており、水道
についても現状よりもう一段高い水準を目指して、質的な面での向上を図ること
が必要となっている。
 このため、我が国としては、いつでもどこでも安全でおいしい水を供給できる
よう、@すべての国民が利用可能な水道、A安定性の高い水道、B安全な水道、
を基本方針として1990年に策定した「21世紀に向けた水道整備の長期目標」の
実施に努め、21世紀に向けた「高水準の水道」を構築することとしている。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 現在の不安定取水を解消し、増大する水需要に対応するために必要な水道水
  源の開発を行う一方、適正かつ合理的な水利用を推進し、節水機器の普及等節
  水対策の強化に努める。また、水道の未普及地域の解消を図るため上水道施設
  の整備とともに簡易水道及び飲料水供給施設の整備をさらに推進し、水道普及
  率99%を達成する。
A 石綿セメント管等の敷設替え等老朽施設の更新及び基幹施設の耐震化を図る
  とともに、大規模な災害発生時などの緊急時における給水拠点の機能を確保す
  る。
B 安全でおいしい水の供給を図るため、高度浄水施設の整備をはかり、衛生上
  の観点から小規模受水槽の問題を解決するため、3階建てから5階建ての建築
  物までへの直結給水を推進する。
   また、公衆衛生の向上及び水道水源となっている公共用水域の水質保全のた
  めに、水質汚濁防止法等に基づく排水規制を実施すると共に、下水道等による
  生活排水及び事業場排水の適切な処理及び流水保全水路の整備を推進する。特
  に重要河川、湖沼、閉鎖性海域等において、通常の処理レベル以上の高度処理
  を積極的に推進する。また、汚濁の著しい河川等において、河川浄化事業を推
  進する。

E.水と持続可能な都市開発

 我が国においては、都市の発展に対応した安定的な水供給の確保を図るため、
概ね10年に一度の渇水に対応できるよう水資源開発施設の整備を進めてきてい
る。しかしながら、水資源開発の遅れから依然として供給が需要に追いつかず、
大都市地域を中心に渇水が頻発しており、地方都市においても安定的に確保され
ていない地域が点在している。
 河川等の公共用水域の水質は環境基準の健康項目については大幅に改善された
ものの、生活環境項目については特に都市域において、依然として水質改善が遅
れており、都市用水の水源水質の改善及び生活環境の改善のための早急な対策が
求められている。
 また、我が国においては人口及び資産等の多くの部分が氾濫区域内の都市に集
積しており、洪水の被害を受けやすい脆弱な都市構造となっている。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 今後とも、水需給バランスを達成するために、長期的な展望のもとに計画的
  先行的な水資源開発施設の建設を推進していく。さらに、計画規模を超える渇
  水時においても、都市機能の低下を最小限にするため、異常渇水時の節水努力
  とともに、非常用の水の備蓄、水供給システムのネットワークの形成等の総合
  的な対策を推進する。
A 下水道の整備、公共用水域における排水規制、河川等における浄化対策等の
  総合的な水質保全対策を計画的に推進していく。
B 普及・啓発活動を通じて、適切な水利用と水質保全に対する国民の意識を高
  める。
C 治水対策を進めるほか、雨水の地下浸透の促進、雨水、下水処理水等の有効
  利用等を図ることによって、都市域の水循環系の適正化を図っていくとともに
  、流域的視点に立って、水源地域の保全を図っていく。

F.持続可能な食料生産と農村開発のための水

1.農業用水の確保
 今後確保すべき食料供給量を踏まえ、西暦2000年までに必要となる農業用水は
、水田の汎用化、畑地かんがい施設の整備率の向上等の要因により、わずかなが
ら増加していくと予測されている。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 新規水資源開発に当たっての開発適地の減少、水源地域における対策の困難
  さ等による事業の長期化等の状況に鑑み、新規水資源開発と併せて、農業用水
  の利用形態の変化を踏まえた既存農業用水の有効利活用を図るための施策を推
  進する。
A 開発途上国への協力としては、我が国の技術と資金を活用し、生産性の高い
  持続的な農業展開の基礎条件となるかんがい開発を進めるとともに、水の有効
  利用を図るため、ため池施設の改修、農民組織の育成等を推進する。また、飲
  雑用水の確保、塩害防止等のための排水施設の整備や砂漠化防止のための地下
  ダム技術開発等を進める。

2.水質管理
 農業・農村に係る水質の管理に関しては以下に示す取組を引き続き実施してい
く。

@ 農薬については、農薬取締法に基づき規制を行っており、公共用水域の環境
  基準等を踏まえ、引き続き農薬の適正使用の指導や農薬の水質残留の実態把握
  等に取り組むとともに、水質汚濁に係る登録保留基準の設定等の施策を講じる
  。
A 肥料については、肥料に過度に依存しない土づくりの推進、肥料成分の流出
  の少ない施肥技術の普及及び肥効調節型肥料(「環境にやさしい肥料」)の実
  証確認などに取り組んでいる。さらに、今後施肥による環境への影響等にも配
  慮した新たな施肥基準設定の調査、試験などを実施する。
B 畜産経営については、水質汚濁防止法などに基づき、一定規模以上の畜舎は
  届出義務や排水規制などが課せられている。畜産経営から生ずる排水が環境を
  汚染することのないよう適切に処理するため、糞尿の堆肥化による排出量の減
  少、汚水処理施設の整備などの対策を推進しており、引き続き取り組んでいく
  。
C 農業振興地域内において、農業用排水の水質保全、生活環境の改善と併せて
  公共用水域の水質保全を図るため、し尿、生活雑排水などの汚水を処理する農
  業集落排水事業等を積極的に推進しており、引き続き取り組んでいく。
D 農業用水の水質を保全する観点から、水質障害対策事業を積極的に推進して
  おり、引き続き取り組んでいく。また、農業用水、農業用ダム湖等の水質の把
  握及び農村地域における水質保全対策を実施するための調査を行っており、引
  き続き取り組んでいく。
E 農業地域の地下水の水質浄化技術の確立のため、生態系がもつ自然の水質浄
  化機能を活用した水質浄化対策技術の開発に取り組んでいく。

3.内水面漁業
 淡水域は水産資源生産の場としても重要であり、以下に示す取組を重点的に実
施し、生産量の増大に引き続き努力していく。

@ 自然環境を整備し、資源の増大を図る観点から、産卵場・稚魚育成場造成や
  魚礁設置、漁場の耕うん、しゅんせつ、魚道設置の事業を行っており、引き続
  きこれらの事業に取り組み生息環境の改善を推進する。
A 種苗生産供給施設等の整備を行うとともに、種苗の放流に努めて、資源の増
  大策を今後も積極的にすすめる。
B 養殖漁業については、養殖施設、種苗生産供給施設等の整備を行いその充実
  に努めている。また、新たな魚種導入のための人工種苗の生産技術開発等の研
  究開発を推進しており、これについても引き続き取り組んでいく。
C 淡水魚類の生物生態学的研究を進めており、成果を資源の維持、増大対策等
  に積極的に生かしていく。
D 内水面漁業と環境に関する問題については、養殖場からの排水の処理施設の
  整備等を通じ、環境に配慮した産業の振興を図る。

G.水資源に対する気候変動の影響

 気候変動に伴い、水需給の変化、海面上昇による地下水等の塩水化、降水量の
減少・降水パターンの変化によるダム等の利水安全度の低下、水源としての水質
の変化等の水資源に対する影響が予測されている。急峻かつ大部分の都市が沿岸
の平野部に集中しているという我が国の地理的条件を勘案すると、その影響は諸
外国よりも大きいことが懸念される。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 国連教育科学文化機関(UNESCO)において、水資源の合理的な開発と
  管理及び保全に関し「国際水文学計画(IHP)」事業が行われているところ
  であるが、IHPへの貢献として、政府機関、大学等の研究者により水資源の
  管理、世界水収支の解明、水資源に関する気候変動の影響、人間活動の水資源
  への影響の究明等の研究を実施する。
A 水資源に対する気候変動の影響については未解明な部分が多いが、その不確
  実性を減少させるため、「地球温暖化防止行動計画」、「地球環境保全に関す
  る調査研究、観測・監視及び技術開発の総合的推進について」及び「地球科学
  技術に関する研究開発基本計画」を踏まえつつ、地球温暖化による水収支への
  影響の評価等の科学的調査研究及び観測・監視を今後とも総合的に推進する。
--------------------------------------------------------end-------------



第19章 有害及び危険な製品の違法な国際的移動の防止を含む、有害化学物質の
環境上適正な管理

A.化学的リスクの国際的アセスメントの拡大及び促進

 化学物質は、その用途・種類が多岐・多様であり、現在工業的に生産されてい
るだけでも数万点に及ぶといわれている。このうちの多くは、安全性に関するデ
ータの少ない既存化学物質であり、これら化学物質による環境汚染や、健康被害
を未然に防止するために、化学物質の毒性、環境中での挙動、生活環境からの曝
露量等に関する安全性評価を進めるとともに、人の健康や生活環境への影響につ
いての研究も含めた、化学物質の総合的評価活動の推進が必要である。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ OECDでは、これまで加盟各国における高生産量(HPV)既存化学物質
  (1ヵ国で1万トン以上もしくは2ヵ国以上で1千トン以上製造されている化
  学物質: 1,592物質)のうち、安全性のデータ等が不十分であるものの安全性
  について加盟各国が共同して点検する計画が1991年より実施されており、我が
  国も安全性点検を分担して実施してきている。今後、HPV既存化学物質の安
  全性点検を継続し、OECD加盟諸国が2000年までに 648の化学物質について
  点検を行っていくことが合意されており、我が国も引き続き協力を行っていく
  。
A 化学物質の安全性評価の充実については、国際化学物質安全性プログラム(
  IPCS)(国連環境計画(UNEP)、国際労働機関(ILO)、世界保健
  機関(WHO))及び国連食糧農業機関(FAO)がこれまで行ってきたリス
  ク評価の実施及び環境保健クライテリア、健康安全ガイドの作成等の活動に引
  き続き協力するとともにリスク管理活動にも参加していく。
B  国際的に進めてきた化学物質の人体暴露調査に引き続き協力していく。
C 化学物質に関する調査研究データを国際有害化学物質登録制度(IRPTC
  )に提供するなど、国際機関の情報収集活動に協力していく。
D 有害化学物質の毒性機序の解明、動物試験代替法、曝露と疾病の因果関係等
  について国際的共同研究を推進する。

B.化学物質の分類と表示の調和

 有害化学物質について、我が国では、当該化学物質の有害性の種類に基づき、
「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」、「毒物及び劇物取締法」、
「労働安全衛生法」等の法律により分類、表示が行われているが、化学物質取扱
者の化学物質の安全性に関する理解を深め、その安全な取扱いをより一層推進す
るため、危険有害性に関する分類と表示の世界的なハーモナイゼーションも含め
た情報提供制度のさらなる充実が必要である。
  以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 化学物質の分類と表示の世界的なハーモナイゼーションのため、国際化学物
  質安全性プログラム(IPCS)、OECD、国際労働機関(ILO)、国際
  海事機関(IMO)、その他の国連機関等において、ハーモナイゼーションの
  具体的内容について検討が進められており、OECDクリアリングハウス活動
  やIPCS調整グループ会議に協力する等今後とも我が国はこれらの活動に参
  加していく。
A 危険性、有害性を有する化学物質を譲渡又は提供する際に、化学物質の安全
  性データシート(MSDS)を交付することによる有害化学物質の取扱いにお
  ける安全確保の推進について、我が国は、化学物質の安全性情報の提供等に関
  する制度(ガイドライン)を定め、1993年4月1日よりこれを実施しており、
  引き続き着実な実施に努める。
B 国際化学物質安全性カード(ICSCカード)の拡充及び世界的な利用が促
  進されるよう、IPCSの活動に協力する。

C.有害化学物質及び化学的リスクに関する情報交換

 有害な化学物質の適正な管理を国際的に推進することが極めて重要となってい
る中、国連環境計画(UNEP)は1987年に「国際貿易における化学品の情報交
換に関するロンドンガイドライン」を採択し、1989年には改正している。
 このロンドンガイドラインでは、各国における規制措置、輸入、輸出の状況等
の国際的な情報交換を行うことの他、禁止または厳しく制限されている化学物質
が、輸出相手国の意思に反して輸出されることがないように事前にその意思を確
認する制度(PIC:Prior Informed Consent制度)及び輸出相手国に事前に関連情
報を提供する制度(輸出通報制度)を整備することが求められている。
 我が国では、ロンドンガイドラインに積極的に対応し、我が国における有害な
化学物質の規制措置等を国際有害化学物質登録制度(IRPTC)に情報提供し
ているのを始め、PIC制度や輸出通報制度を円滑に実施するため、化学物質の
規制動向やロンドンガイドラインの内容について情報提供を行うとともに輸出貿
易管理令を改正し、我が国や国際的に禁止又は厳しく制限されている有害な化学
物質について輸出管理制度を導入した。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ ロンドンガイドラインに対応し、PIC制度や輸出通報制度を円滑に実施す
  るため、引き続き、化学物質の規制動向等の情報提供、輸出貿易管理令に基づ
  く輸出管理等を行う。
A IRPTCに対して我が国における化学物質の輸出及び輸入の規制等法的な
  規制等についての情報提供を引き続き実施していく。

D.リスク削減対策の実施

 我が国においては、法令に基づく各種規制を行っている。「化学物質の審査及
び製造等の規制に関する法律」に基づき、我が国で新たに製造、輸入される化学
物質(新規化学物質)については、その事前に分解性、蓄積性、毒性に関する安
全性の審査を行い、その結果に基づき製造、輸入、使用等の規制を行っている。
また、法律制定以前から既に我が国で製造、輸入されている化学物質(既存化学
物質)についても、分解性、蓄積性、毒性に関する安全性試験を順次実施し、そ
の結果に基づき、必要により規制を行っている。
 一方、「環境基本法」に基づき、環境基準を設定するとともに、その達成等の
ため「大気汚染防止法」「水質汚濁防止法」等に基づき化学物質の環境媒体への
排出を規制している。
 農薬については、「農薬取締法」に基づき、登録を受けなければ販売できない
ことになっており、農薬の残留等による人畜・水産動植物への被害を未然に防止
する観点から、農薬の作物残留や水質汚濁に係る登録保留基準を設定している。
 これら諸規制の実施と合わせて、化学物質の環境中の残留状況を把握するため
、体系的な環境調査やモニタリング等を行い、必要に応じて措置を講じている。
 さらに、国際的にはOECD化学品グループにおいて進められているリスク削
減活動に参加している。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」に基づき、新規化学物質
  の安全性審査に基づく規制、既存化学物質の安全性試験等を今後とも引き続き
  実施する。
A 「環境基本法」に基づく環境基準の達成等のために、「大気汚染防止法」「
  水質汚濁防止法」に基づく排出規制等の対策を今後とも引き続き実施する。ま
  た、今後とも環境媒体の汚染実態等を勘案し、必要に応じて、環境基準項目の
  追加や「大気汚染防止法」「水質汚濁防止法」に基づく規制対象項目の追加等
  を行い、化学物質対策の一層の推進を図る。
B 化学物質の安全性等に関する試験・評価手法、化学物質の環境経由の人体へ
  の影響、環境中での挙動、生態系への影響等についての予測・評価手法に係る
  研究を推進する。
C 今後とも農薬に係る各種知見の集積に努め、農薬の毒性評価の試験実施、生
  態系への影響等を把握するための基礎的な試験を実施するとともに、「農薬取
  締法」等に基づき、農薬による水質汚濁の防止対策の一層の推進を図る。
D 体系的な環境調査やモニタリング等を今後とも引き続き実施する。
E 今後ともOECD化学品グループにおいて進められているリスク削減活動へ
  の積極的な参加を行っていく。

E.化学物質管理能力の強化

 化学物質については、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」に基
づく製造規制・使用規制、届出等、「環境基本法」に基づく環境基準の設定、「
大気汚染防止法」「水質汚濁防止法」等に基づく排出規制、監視・測定等、「毒
物及び劇物取締法」に基づく製造規制・使用規制、登録等を行っており、これら
の規制により適切な管理を行っている。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 各種法令に基づく諸規制の着実な運用により、今後とも引き続き適正な管理
  を実施していく。
A 地域社会における化学物質対策を支援する観点から、地域環境部局への化学
  物質情報等の提供、地域の対応計画の整備等の支援を進める。
B 有害化学物質の管理及び安全対策の実施に関し、開発途上国の能力の向上を
  支援するための国際協力を行う。

F.有害及び危険な製品の違法な国際的移動の防止

 有害で危険な製品の輸出については、「国際貿易における化学品の情報交換に
関するロンドンガイドライン」に対応して、輸出貿易管理令に基づいて厳格な輸
出管理を実施しているところである。
 また、有害で危険な製品の輸入については、「化学物質の審査及び製造等の規
制に関する法律」、「毒物及び劇物取締法」等の法律に基づき厳格に規制を実施
しているところである。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 今後とも引き続き、「ロンドンガイドライン」に対応し、輸出貿易管理令に
  より厳格な輸出管理を実施していく。また、輸出管理対象物質についても適宜
  見直しを実施していく。
A 有害で危険な製品の輸入については、引き続き関係法制に基づき厳格に規制
  を実施していく。

G.国際協力の強化

 我が国としては、以下に示す取組を重点的に実施してきており、今後とも引き
続き推進していく。

@ 化学物質による環境汚染の問題に対処するため、製造・輸入又は市場化前に
  、新規化合物の安全性を評価するための届出を義務づける法律(「化学物質の
  審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)」)が整備されており、今後と
  もこの着実な実施に努める。
A 国際貿易における化学品の情報交換に関するロンドンガイドラインを着実に
  実施するため、1992年7月より、我が国において製造、輸入等が禁止又は厳し
  く制限されている有害化学物質及び同ガイドラインにおいてPIC物質(事前
  通報。承認制度の対象となる物質)に指定されている化学物質を我が国の企業
  が輸出する際には、事前に輸出先国に通報するか、又は、当該物質の輸入の意
  思について紹介の上、同国が輸入の意思を表明した場合に限り、当該企業に対
  し輸出を承認する制度を導入しており、今後ともこの実施に努める。
B OECDにおけるリスク削減活動、高生産量化学物質の安全性点検等に積極
  的に対応するとともに、試験データの信頼性を確保し、各国間のデータ相互受
  け入れを進めていくため、OECD理事会で採択されたGLP(優良試験所基
  準)の化審法への導入を行っており、今後ともこの着実な実施に努める。
C OECD、世界保健機関(WHO)、国連環境計画(UNEP)等の国際機
  関で行っている化学物質の安全対策に関する種々の活発な活動を主宰しており
  、積極的に国際協力を推進していく。
D 特に、有害化学物質対策に関する国際協力を推進するため、国際化学物質安
  全性計画(IPCS)の役割を強化し、1994年4月に予定されている政府間フ
  ォーラムの開催に協力する。
--------------------------------------------------------end-------------



第20章 有害廃棄物の違法な国際的移動の防止を含む、有害廃棄物の環境上適正
な管理

A.有害廃棄物の防止及び削減の促進

 1991年10月に我国の廃棄物処理の一般法である「廃棄物の処理及び清掃に関す
る法律」について、適正処理の確保、減量化の推進、処理施設の確保等を柱とし
て大幅な改正を行い、1992年7月に施行した。
  この改正により、有害廃棄物を含めた廃棄物の排出事業者の責務規定を改正し
、廃棄物の減量化や、適正処理の確保のための国や地方公共団体の施策に協力す
べき義務を果たすとともに、多量に廃棄物を排出する事業者に対して、都道府県
知事・市町村長が減量化計画等の作成を指示できることとした。
 一方、発生した有害廃棄物を環境上適正に処理するためには廃棄物処理施設の
確保が重要であることから、1992年5月に「産業廃棄物の処理に係る特定施設の
整備の促進に関する法律」を制定し、有害廃棄物を減量化、無害化するための施
設等の設置を促進することとした。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@  排出事業者の責任による有害廃棄物処理を徹底する。
A 今後、上記の法に基づく施策を積極的に推進することにより、有害廃棄物の
  減量化、無害化を推進する。
B 有害廃棄物の発生の防止及び削減を一層促進するため、環境上適正な廃棄物
  低減技術、再生利用技術等の研究開発及びその導入普及を図る。

B.有害廃棄物管理のための組織・制度的能力の促進と強化

 廃棄物処理法では、毒性、感染性その他の人の健康又は生活環境に係る被害を
生ずるおそれがある性状を有する廃棄物を特別管理廃棄物として指定し、その排
出から最終処分に至るまで厳しく管理している。
 我が国としては、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 有害廃棄物の管理を今後一層推進していくため、順次特別管理廃棄物の指定
  品目の拡大を図るとともに、こうした動きと合わせて処理基準及び廃棄物処理
  施設の構造・維持管理基準等について所要の見直しを行う。
A 廃棄物処理法の実施主体である都道府県等にたいしては、引き続き技術的及
  び財政的な支援を行うことにより、有害廃棄物の管理のための組織・制度的能
  力の促進と強化を図る。
B 特別管理産業廃棄物を生ずる事業場に対する管理責任者の設置、事業者が他
  人に特別管理産業廃棄物の処理を委託する場合のマニュフェストの交付、特別
  管理産業廃棄物を取り扱うことができる業者の許可等の廃棄物処理法の諸規定
  の施行により、有害廃棄物管理のため組織・制度的な能力の向上を図る。併せ
  て、国と地方公共団体はマニフェストをコンピュータ等で管理し、適正な指導
  を強化できるよう検討を行っていく。
C 1991年10月の廃棄物処理法の改正により特別の管理を要する廃棄物等の処理
  を実施するために都道府県ごとに廃棄物処理センターを指定できることになっ
  ている。当該制度を活用し有害産業廃棄物についても、地方公共団体の参画を
  得つつ、その処理能力向上を推進する。
D 廃棄物の処理のための設備等の普及促進を図るため、引き続き税制及び財政
  上の措置を講じる。

C.有害廃棄物の国境を越える移動の管理に関する国際協力の促進及び強化

 我が国は、「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバー
ゼル条約(バーゼル条約)」に1993年に加入した。我が国は、同条約を実施する
ための国内法である「特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律」及び関
係法令等の的確な実施により、バーゼル条約の規定に基づき、適正処理能力に欠
ける国及び有害廃棄物の輸入禁止国に対する有害廃棄物の輸出を禁止するなどの
措置を講ずるとともに、リサイクル目的の有害廃棄物の輸出入に当たっては、バ
ーゼル条約で規定する手続きを厳格に適用している。
 現在、我が国は、米国、東南アジア諸国等との間で、リサイクル可能な廃棄物
等を資源として輸出入している。リサイクル目的の有害廃棄物の貿易は、環境上
適正な方法で行われるのであれば、資源の有効利用にも貢献し、途上国の持続可
能な開発にも資するものであり、これはバーゼル条約の趣旨にも合致したもので
あると考える。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ リサイクル目的の有害廃棄物の貿易が環境上適正な方法で行われることが重
 要であり、その観点からも、環境上適正な処理のための技術ガイドラインの策
 定作業を、十分慎重に行っていく。
A 将来起こり得る廃棄物汚染に適切に対処できるよう、バーゼル条約の下で行
 われている責任及び補償に関する議定書の作成作業の重要性を認識し、積極的
 に取り組んでいく。
B 廃棄物の分類、その有害特性の判定のための試験方法及びクライテリア等に
 関して諸外国と情報交換を積極的に行っていく。
C 開発途上国がバーゼル条約により求められている廃棄物管理能力を得られる
 よう、多国間・二国間の協力に努力していく。

D.有害廃棄物の不法な国際移動の防止

 以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 有害廃棄物の違法な越境移動の防止を図るため、バーゼル条約の的確な実施
 とともに、同条約の国内担保法である「特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に
 関する法律」及び廃棄物についての輸出入の規制が改正によって新たに加えら
 れた「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」の的確かつ円滑な実施等により、
 有害廃棄物の移動が同条約の規定に従って行われることを確保し、不法取引に
 対してはこれを適切に処罰するための罰則を定めており、また、人の健康又は
 生活環境に係る被害を防止するため特に必要がある場合には有害廃棄物の回収
  、または適正な処分のための措置命令等を発動する。
A バーゼル条約を実効あるものとするため、有害廃棄物の越境移動に関するデ
 ータベースの整備、人材の育成等有害廃棄物の越境移動に関する情報管理体制
 の整備を行い、関係各国、バーゼル条約事務局、国連環境計画(UNEP)、
 地域経済委員会等との緊密な連携を図る。
--------------------------------------------------------end-------------



第21章 固形廃棄物及び下水道関連問題の環境上適正な管理------------------

A.廃棄物の最小化

 廃棄物の最小化のためには、廃棄物の発生を抑制すること、再生資源の利用を
促進すること、廃棄物の適正な処理を行いその減量化を図ることにより、最終的
に処分される量を極力減らす必要がある。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 1992年、廃棄物処理法を大幅に改正し、廃棄物の減量化を法目的として明確
  に位置づけたところであり、本法に基づき、廃棄物の計画的な処理の推進を図
  ることとし、包装材の適正化、再使用容器の普及、有機物のコンポスト化、資
  源ごみの分別収集の促進等廃棄物の減量化のための施策を実施する。
A 国民に対しては、使い捨て製品等の使用自粛やリサイクルへの協力を呼びか
  けるとともに、事業者においては使い捨て製品の製造販売や過剰包装の自粛及
  び処理しやすい製品づくり、リサイクルしやすい製品づくりのための取組が進
  むよう、国、地方公共団体を通じて、普及啓発、環境教育、民間の自主的な活
  動への支援に努める。
B また、廃棄物の減量化を推進するための経済的手法等の活用について検討を
  行う。
C 廃棄物の減量化を推進するために、1992年9月にごみ減量化推進国民会議を
  設置し、国民、事業者、行政が一体となった取組を行っているところであり、
  今後ともごみの減量化に関する国民運動を強力に推進する。
D  適正な処理の推進については、例えば、下水汚泥の発生量は下水道整備の進
  捗に伴い年々増大しているため、焼却、溶融等の処理による減量化あるいはコ
  ンポスト化や建設資材としての有効利用を積極的に促進する等により、最終処
  分量の減量化を図るなど、適正な処理体系を確立する。

B.環境上適正な廃棄物再利用及びリサイクルの最大化

 廃棄物問題は、環境負荷の少ない経済社会の構築のために解決しなければなら
ない大きな課題であり、今後廃棄物の発生を抑制するとともに、再生資源の利用
を促進することにより、廃棄物の減量化を図ることが必要である。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ リサイクルに係る法制度としては、1991年10月に「再生資源の利用の促進に
  関する法律」が施行され、再生資源の利用の促進に係る所要の措置を講じてい
  る。また、「エネルギー等の使用の合理化及び再生資源の利用に関する事業活
  動の促進に関する臨時措置法」においては、事業者による自主的な再生資源の
  利用や、再生利用しやすい製品の製造に対し金融措置等の支援策を講じること
  としている。
A 廃棄物の再資源化に係る助成措置としては、廃棄物の再資源化設備について
  の特別償却等の税制上の措置や、政府系金融機関による低利融資といった金融
  上の措置が講じられている。
B リサイクルに係るガイドラインとしては、1990年12月に産業構造審議会廃棄
  物処理・再資源化部会において、今後の廃棄物処理・再生資源化対策のあり方
  について答申が取りまとめられ、一般廃棄物、産業廃棄物のそれぞれのガイド
  ラインが提示され、ガイドラインに沿った取組の進捗状況については毎年点検
  し、また、必要に応じガイドラインの見直しを行うこととしている。
C リサイクルに係るインセンティブを与える施策としては、上記ガイドライン
  の対象品目のほか、残土、アスファルト等の建設副産物、下水汚泥、食品廃棄
  物、包装容器等の食品関連廃棄物の減量化・再資源化のモデル事業等の対策が
  講じられている。
D リサイクルに係る啓発普及活動としては、1991年より、リサイクル関連省庁
  が毎年10月をリサイクル推進月間とし、同年9月、民間におけるリサイクル推
  進母体として業界団体及び消費者団体等からなるリサイクル推進協議会が設立
  され、広範なリサイクル国民運動が展開されている。さらに、地域、家庭、学
  校等様々な場において、リサイクルに係る教育を積極的に推進する。
E リサイクルを推進するための経済的手法の活用について幅広い検討を行う。
F 1991年に行われた廃棄物処理法の改正では、廃棄物の減量化とともにその再
  生を法目的として明確化しており、廃棄物の再生促進のための施策を実施して
  いる。
G 市町村が行う一般廃棄物の再生を進めるためリサイクルセンター等の施設整
  備費助成等の支援措置のほか、廃棄物再生事業者に対する税制優遇措置が講じ
  られている。
H 廃棄物の再資源化のための調査研究、技術開発、情報の収集及び提供を行う
  とともに、再生資源を利用した製品の利用拡大に努めている。

C.廃棄物の環境上適正な処分及び処理の促進

 廃棄物問題の解決のためには、今日の大量消費、大量廃棄の社会のあり方を見
直し、政府、自治体、国民、事業者が一体となってリサイクルを促進するなど、
環境への負荷の少ない持続的な発展が可能な社会を構築していくことが重要であ
るが、最終的に廃棄物を処分する場合においても、環境への負荷の低減を図るた
め、環境上適正な廃棄物の処理の促進を図ることが必要である。
  我が国における廃棄物の処理は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律等に基づ
いて実施されているところである。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 今後廃棄物の適正処理を一層推進するため、廃棄物の処理基準の適正化及び
  当該基準の遵守の徹底を図る。
A  廃棄物の排出抑制と再生利用を図った上でなお排出される可燃性の廃棄物に
  ついては、焼却処理をしてエネルギーの回収を行う。
B 廃棄物が国内において適正に処理されるよう廃棄物処理センター制度や特定
  施設の認定制度等により国内の廃棄物処理施設の整備の一層の推進を図る。特
  に、最終処分場の確保が問題となっている大都市圏においては、広域的な廃棄
  物の埋立て処理場(いわゆるフェニックス計画)、廃棄物埋立護岸等の整備の
  促進を図る。
C これらの施策に加え、廃棄物に起因する環境の汚染により人の健康及び生活
  環境に被害が生じることのないよう、引き続き、不法投棄、環境の状況等につ
  いての監視及び調査研究を実施する。
D 廃棄物の適正な処理処分のための情報の管理、技術の開発及び情報提供、人
  材の育成に努めるとともに、国際的な協力の推進を図る。
E 一方、排水の処理については、衛生処理の普及が遅れている地方都市や農山
  漁村に重点を置きつつ推進する。このため、下水道整備を促進するほか、地域
  の実情に応じ、コミニティ・プラント、集落排水施設等の整備を進めることに
  より、おおむね2000年には、排水が公共的主体により衛生処理される人口の割
  合を7割を超える程度に増加させるとともに、公共団体の助成を活用した合併
  処理浄化槽等各種生活排水処理施設の整備を進める。

D.廃棄物サービス範囲の拡大

 一般廃棄物の計画収集人口は、1991年では、総人口の99.3%に達しているもの
の、処理の状況をみると、発生総量のうち直接埋立量は19.4%を占め、自家処理
量も 2.3%を占めている。
 また、下水道については、現在その普及率が45%となっており、特に中小市町
村において下水道整備の遅れが著しい。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 地方公共団体が、廃棄物の減量化・再生利用を念頭に置き、かつ地域の実状
  に応じたごみ処理計画及び生活排水処理計画を策定するよう指導するとともに
  、1992年度からの第7次廃棄物処理施設整備5ケ年計画において、焼却、選別
  、コンポスト化等により、ごみの84%が減量処理されるよう目標を掲げており
  、その達成に向け施設の整備を図る。
A トイレの水洗化と併せて生活排水の適正処理を推進するため、合併処理浄化
  槽等の整備を図るとともに、これらの施設から生じる汚泥については、コンポ
  スト化等により積極的な有効利用を図る。
B 1991年度を初年度とする第7次下水道整備5ケ年計画においては、中小市町
  村の下水道の促進を最重点課題としており、本計画の達成に向けて積極的に事
  業を推進する。
C 下水道整備の進捗に伴い、年々増大している下水汚泥についても、コンポス
  ト、建設資材等の有効利用を推進する。
--------------------------------------------------------end-------------



第22章 放射性廃棄物の安全かつ環境上適正な管理--------------------------

 放射性廃棄物は、原子炉施設、核燃料サイクル施設、放射性同位体元素の使用
施設から、様々な形態で発生するものであり、含まれる放射性核種の種類や量も
多様である。放射性廃棄物については、発生量の低減や減容化を図るとともに、
その性状、含まれる放射性核種の種類や濃度に応じて、適切な処理処分対策をと
る必要がある。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 放射性廃棄物の処理処分については、原子力委員会が決定する「原子力開発
  利用長期計画」に基づき、資金確保、研究開発の推進、国際協力等を含め種々
  の適切な対策を、計画的かつ積極的に推進する。
A 特に、放射性廃棄物の安全性を確保するために、「核原料物質、核燃料物質
  及び原子炉の規制に関する法律」「放射性同位元素等による放射線障害の防止
  に関する法律」等の関係法令により、その貯蔵、輸送、処理、処分等について
  安全規制を行う。
B さらに、放射性廃棄物の処理処分対策に関しては、廃棄物その他の物の投棄
  による海洋汚染の防止に関する条約等の国際的な取決めを遵守するとともに、
  かかる対策を国際的に調和のとれたものとするために、国際原子力機関(IA
  EA)等の国際機関におけるその安全性の確保に関する検討に対し、我が国に
  おける経験及び知見を活かし、積極的に対応する。
--------------------------------------------------------end-------------