セクションT 社会的・経済的側面

第2章 開発途上国における持続可能な開発を促進するための国際協力と関連国
      内施策
第3章 貧困の撲滅
第4章 消費形態の変更
第5章 人口動態と持続可能性
第6章 人の健康の保護と促進
第7章 持続可能な人間居住の開発の促進
第8章 意思決定における環境と開発の統合
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第2章 開発途上国における持続可能な開発を促進するための国際協力と関連国
内政策

A.貿易を通じた持続可能な開発の促進

1.自由貿易体制のルールの下で、開発途上国の貿易を通じた持続可能な開発を
促進するためには先進国への市場アクセスが改善されることが肝要である。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を行ってきたところであり、今後とも引き続き
努力していく。

@ 我が国は1971年8月に特恵関税制度を実施し、1980年4月には、特恵受益国
 のうち後発開発途上国を原産地とする特恵対象品目については、一般特恵税率
 有税とされる農水産品及び鉱工業産品についても特別に無税にするなどの措置
 をとるとともに、1981年4月からその適用期限を10年間延長した。
A 1991年4月からその適用期限を更に10年間延長し、シーリング枠も大幅に拡
 大した。
B 1990年4月には、 1,000品目以上の鉱工業製品の関税を撤廃した他、主要品
 目の関税引下げに努力し、現在では主要先進国中最も低い水準の関税負担率を
 維持している。

2.さらに、多くの開発途上国にとって重要な輸出品目を構成している一次産品
の貿易に関して、一次産品の加工度向上のための技術供与をはじめ、貿易の活性
・安定化を通じて開発途上国の持続可能な開発を支援するため、以下に示す取組
を行ってきたところであり、開発途上国自身による商品の加工・流通の拡大、事
業経営の多角化及びインフラストラクチュアの整備のための支援についても、今
後とも引き続き努力していく。

@ 開発途上国が持続可能な開発を実現していくためには、一次産品貿易におい
 ても開発途上国自身が環境問題への対処能力を向上させていくことが基本的に
 重要である。この点、熱帯林の持続可能な経営を目標として活動している国際
 熱帯木材機関(ITTO)の例に見られるように、国際商品協定・研究会等は
 生産国と消費国が持続可能な経営を目指して協力・活動する場として、重要な
 役割を果たし得ると考える。我が国は、ほとんどの一次産品協定・研究会に積
 極的に参加しており、最近ではココア、コーヒー、砂糖、熱帯木材等に関する
 国際商品協定の改訂交渉において、合意形成のための積極的な貢献を行ってき
 ている。
A  我が国は現行の国際商品協定の問題点の洗い出し、改善策の検討及び今後の
 協力の枠組みの検討を行うための「一次産品専門家作業グループ」を提案して
 いる。

B.貿易と環境の相互支持

 我が国は、アジェンダ21で合意された、貿易政策と環境政策は、相互に支持
的なものであるべきである、との原則を支持する。特に、環境上の便益及び費用
が価格に内部化される場合に、貿易政策と環境政策の相互支持が可能となる。適
切な環境政策の採用によって支えられる開放的な多角的貿易システムは、環境に
良い影響を与え、持続可能な開発に貢献するものである。
 開放的かつ多角的な貿易システムは、資源のより効率的な配分と利用を可能に
し、その結果、生産・所得の増加に貢献し、環境への需要を軽減することに役立
つ。
 他方、健全な環境は成長を持続的なものにし、貿易の持続的拡大を補強するた
めに必要とされる資源を供給する。また、多国間環境条約における貿易規定は、
環境保護のための環境規制、支援措置、普及・啓蒙と並んで、地球環境問題の解
決に一つの役割を果たしている。
 UNCEDに先立ち、我が国は、1991年9月の四極貿易大臣会合において米国
、EC及びカナダと貿易と環境の問題に関する意見交換を行うなど、本件の国際
的議論を加速化する役割を果たしてきた。また、アジェンダ21を踏まえ、我が
国は、現在OECD及びGATTにおける貿易と環境の相互支持化に関する多国
間の議論に積極的に参加・貢献している。
 以上を踏まえ、我が国としてはOECD、GATT等の多国間フォーラムにお
ける貿易と環境の問題に関する国際的ルール作り等の作業に今後も引き続き積極
的に貢献していく。

(注)
1.OECDにおいては、貿易政策と環境政策の統合のための手続きに関するガ
 イドラインが作成された。同ガイドラインは、各国政府が貿易政策及び環境政
 策を策定し、実施する際に、両政策をより相互支持的なものとし、それによっ
 て両政策の究極の目的である持続可能な開発を促進するために、各国政府が従
 うべき指針を取りまとめたものである。また、同ガイドライン完成後は、貿易
 が環境に及ぼす影響、生産方法及び生産工程、環境保全を目的とした貿易措置
 の使用などについて将来の国際的ルール作り等を念頭に置いて、分析作業を行
 っている。
2.GATTにおいては、貿易と環境の問題を検討するための作業部会(日本の
 宇川大使が議長)を設置し、イ)多国間環境条約の貿易規定とGATTルールと
 の関係、ロ)貿易に影響を及ぼす国内環境規則の透明性、ハ)環境保護目的のパッ
 ケージング、ラベリングの貿易への影響の3点について議論している。

C.開発途上国への資金協力

 冷戦後の国際社会において開発途上国の経済発展は、世界経済の持続的・安定
的成長に不可欠であり、これらの国々の健全なマクロ経済政策と構造改革を支援
していくことは引き続き重要である。現在多くの開発途上国において、その経済
発展に必要な資金は依然として不足しており、また比較的順調な発展を遂げてい
る開発途上国についても環境やインフラ整備等のための資金需要は大きい。
 こうした中で、我が国から開発途上国に対する公的な資金供給を一層拡充する
ことは、我が国の国際貢献の一環としても、また、開発途上国に対する民間資金
フローを促す意味からも重要であると考える。
 以上を踏まえ、我が国は1993年6月に「開発途上国への資金協力計画」を策定
した。同計画の内容は以下の通りであり、引き続きこれらの施策を重点的に実施
していく。

@ 今後の5年間で、政府開発援助(ODA)第5次中期目標 700億〜 750億ド
 ル(支出純額ベース)及び日本輸出入銀行のアンタイド・ローンや貿易保険等
 、ODA以外の 500億ドル程度(約束額ベース)の資金供与により、我が国か
 ら開発途上国に対する公的資金協力を行う。
A これらのうち、アンタイドの円借款、国際開発金融機関への出資・拠出等、
 ODAのアンタイド資金と、輸銀・貿易保険等のODA以外のアンタイド資金
 とを併せた資金の総額は今後5年間でおおむね 1,200億ドル程度(約束額ベー
 ス)となる。
B 海外経済協力基金及び日本輸出入銀行からの資金の供与に当たっては以下の
 点に配慮する。
 (イ) 環境及びインフラ整備等の分野に特に重点を置く。
 (ロ) 世銀等の国際開発金融機関や国際通貨基金(IMF)との協調融資を促進
    する。
C 日本輸出入銀行の保証等の活用を図る。
D 新設の海外事業資金貸付保険等の貿易保険の活用を図る。

D.持続可能な開発を誘導する経済政策の奨励

 持続可能な開発に向け、開発途上国における環境問題に対する優先順位と対応
能力を高める必要がある。このため、「政府開発援助大綱」(1992年)等におい
て、我が国は、開発途上国の離陸へ向けての自助努力を支援することを基本とし
、広範な人造り、国内の諸制度を含むインフラストラクチュア及び基礎生活分野
の整備等を通じて、これらの国における資源配分の効率と公正や「良い統治」の
確保を図り、その上に健全な経済発展を実現することを目的として援助の実施に
努めるとしている。
 援助の実施に際しては、密接な政策対話を通じて相互の理解を深めるとともに
、開発途上国における民主化の促進、市場指向型経済導入の努力並びに基本的人
権及び自由の保障状況等に十分注意を払うものとしている。
 また、環境問題に関する支援を進めるに際しては、我が国が環境保全と経済成
長の両立に成果を挙げてきていることを踏まえ、その技術、ノウハウ等を活用す
るとしている。
 以上を踏まえ、以下の項目を重点的に実施していく。

@ 地球的規模の問題への取組
    環境問題、人口問題等の地球的規模の問題には、先進国と開発途上国との協
 力によって対処することが重要であるため、これらの問題に対する開発途上国
 の努力を支援する。特に、環境問題に関する援助の実施に際しては、我が国が
 環境保全と経済成長の両立に成果を挙げてきていることを踏まえ、その技術・
 ノウハウ等を活用する。
A 人造り及び研究協力等技術の向上・普及をもたらす協力
  長期的視野に立った自助努力の最も重要な要素であり、国造りの基本となる
 人造り分野での支援を重視する。また、開発途上国自身の研究開発能力及び適
 応能力を高める研究協力等技術の向上・普及をもたらす協力を推進する。
B インフラストラクチュア整備
  経済社会開発の重要な基礎条件であるインフラストラクチュアの整備への支
 援を重視する。
C 基礎生活分野等
  飢餓・貧困により困難な状況にある人々や難民等を対象とする基礎生活分野
 を中心とした支援及び緊急援助を実施する。
D 構造調整等
  市場メカニズムの下で民間の創意、活力が十分に発揮できるような経済構造
 への調整及び累積債務問題の解決に向けた適切な支援に努める。
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第3章 貧困の撲滅------------------------------------------------------

 貧困問題については、世銀等多くの関連国際機関が取り組んできているが、我
が国としては、基本的に貧困を軽減するためには開発途上国自身による国内政策
が重要であり、その国の自助努力を支援するための経済協力を推進する必要があ
ると考えている。我が国としては貧困層の生活改善のためには、食糧増産と安定
供給の確保のための持続可能な農業、農村の開発を推進するとともに、インフラ
等の生産基盤の整備による産業の育成を通じて貧困層の雇用の機会を確保するこ
と及び初等教育等を通じた人的資源の開発、家族計画の普及を支援することが重
要であると考える。また、草の根レベルの住民、特に貧困層や女性を開発の担い
手としていかに開発に参加させ、かつ受益者としていくか、についての方途を検
討することが重要な課題である。この課題の検討にあたっては、開発途上国の非
政府組織(NGO)とこれに協力する我が国の非政府組織(NGO)のネットワ
ークを重視する。なお、貧困問題を考えるに当たって、国全体の貧困に加えて、
一国内における貧富の格差及び地域格差にも目を向けることも重要である。
 以上を踏まえ、我が国としては以下の通り対処してきたところであり、引き続
き積極的に二国間・多国間で貧困撲滅に対する支援をしていく。

@ 我が国としては、開発途上国における貧困の軽減はかねてから重点課題の一
 つであり、貧困層を対象とした基礎生活分野を充足するための援助は、1991年
 には、我が国無償資金協力の54.3%(8.35億ドル)、同じく技術協力の59.7%
 (9.96億ドル)を占めている。
A 我が国は国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国連災害救済調整官事
 務所(UNDRO)、ユニセフ(UNICEF)等の国際機関を通じた援助を
 実施してきている。
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第4章 消費形態の変更--------------------------------------------------

A.生産と消費の持続可能な形態への重点的取組

 我が国としても、これまでの生産と消費のパターンを見直し、環境への負荷の
少ない持続的発展が可能な社会の構築を目的として、資源、エネルギー等の面に
おいてより一層の効率化を進め、ものの再使用や再生利用をさらに組み込み、ま
た、浪費的な生活慣習を見直すなど、その内容の変化を伴う健全な経済の発展を
図り、環境への負荷の少ない経済社会を構築していくことが重要である。
 このためには、規制的手法のほか、事業者や国民の自主的取組の促進、経済的
手法等による誘導策や環境の保全に関する施設の整備、科学技術の活用、環境影
響評価の活用等の多様な手法を適切に活用するとともに、これらに関する調査研
究を積極的に推進することが必要である。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 規制的手法については、人の健康や生活環境に被害をもたらすおそれのある
  行為、保全すべき自然環境を破壊するおそれのある行為などについて、適切な
  活用を図る。
A 事業者や国民の自主的取組の促進については、これらの者に対する環境教育
  や環境学習の推進、環境保全に資する活動の奨励や環境保全活動を行う非政府
  組織(NGO)の支援、これらの活動に必要な情報の適切な提供等を行う。
B 経済的手法については、その措置を講じた場合の環境の保全上の支障の防止
  に係る効果、我が国の経済に与える影響等を適切に調査し及び研究する。これ
  を講ずる必要がある場合には、その措置に係る施策を活用して環境の保全上の
  支障を防止することについて国民の理解と協力を得るよう努める。この場合に
  おいて、その措置が地球環境保全のためのものであるときには、その効果が適
  切に確保されるようにするため、国際的な連携に配慮する。
C 環境の保全に関する施設の整備については、緩衝地帯などの環境の保全上の
  支障を防止するための公共的施設の整備及び廃棄物の公共的な処理施設、環境
  への負荷の低減に資する交通施設、省エネルギー設備など環境保全上の支障の
  防止に資する公共的施設の整備並びに民間部門におけるこれらの施設の整備及
  び利用の促進を積極的に図る。
D 公害防止技術、エネルギー関連技術、情報通信技術等の環境の保全に関する
  科学技術については、研究開発の推進等によりその振興を図るとともに、国際
  研究協力を推進する。また、これらの科学技術や環境影響評価等の手法につい
  て、引き続き適切な活用を図る。さらに、環境の変化の機構の解明、環境への
  負荷の低減並びに環境・経済統合勘定を付加した新たな国民経済計算体系など
  の環境が経済から受ける影響及び経済に与える恵沢を総合的に評価するための
  方法の開発などの調査研究に努める。
E さらに、これらの我が国の取組、成果のノウハウについては、政府開発援助
  (ODA)や非政府組織(NGO)による支援等の場を活用して、開発途上国
  等を中心とした諸外国に積極的に提供する。

B.持続不可能な消費形態の変更を奨励する国家政策及び戦略の策定
(a)エネルギー及び資源利用における効率の追求

 エネルギー及び資源の効率的な利用は、「持続可能な開発」の理念の下に、環
境と開発の両立を図っていく上で、その推進が強く求められており、環境保全と
経済成長を媒介する位置づけにあるエネルギーについて、その抜本的な需給構造
の改革に取り組む必要がある。
 我が国は、このような認識をも踏まえ、従来から、「エネルギーの使用の合理
化に関する法律」、「石油代替エネルギーの開発及び導入の促進に関する法律」
、「再生資源の利用の促進に関する法律」等の法律を制定し、また、「エネルギ
ー研究開発基本計画」を策定するなど、省エネルギーの促進、新・再生可能エネ
ルギーの開発・導入促進、資源の有効利用の促進等に関し、総合的に取り組んで
きているほか、最近において「エネルギー等の使用の合理化及び再生資源の利用
に関する事業活動の促進に関する臨時措置法」を新たに制定するとともに、「エ
ネルギーの使用の合理化に関する法律」、「石油代替エネルギーの開発及び導入
の促進に関する法律」及び「石炭並びに石油及び石油代替エネルギー対策特別会
計法」(現「石炭並びに石油及びエネルギー需給構造高度化対策特別会計法」)
を改正する等その取組の強化を図っている。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 低環境負荷エネルギーの普及・導入並びにエネルギー及び資源の効率的利用
  の促進
    新・再生可能エネルギーの普及・導入のためのモデル事業、新エネルギー発
  電フィールドテスト事業等の推進、財政金融上の支援策の活用及び電力会社に
  よる分散型電源の余剰電力購入等導入促進制度の拡充を行う。また、省エネル
  ギー推進のための設備投資等導入を促進するための財政金融上の支援策等を行
  う。さらに、二酸化炭素を排出しないエネルギーとして、安全性の確保を前提
  に原子力の開発利用を推進する。
A 低環境負荷エネルギー技術並びにエネルギー及び資源の効率的利用技術の研
  究開発の促進
    発電熱効率向上技術、未利用エネルギー活用技術、「ニューサンシャイン計
  画」における新・再生可能エネルギー技術及び省エネルギー技術等の開発の促
  進を図るほか、核融合等次世代エネルギー技術の研究を促進する。
B 低環境負荷エネルギー技術並びにエネルギー及び資源の効率的利用技術の開
  発途上国への移転
   開発途上国の環境と開発の両立に資するため、途上国のエネルギー環境問題
  に対する自助努力への支援等の実施として、各種調査、研修生の受け入れ、専
  門家派遣等による人材育成及び研究協力事業等を行うとともに、省エネルギー
  モデル事業、太陽光発電等新エネルギー協力等の実施を通じ、開発途上国への
  エネルギー環境技術の移転、普及等を行う。
C リサイクル活動の推進
    リサイクルを促進するための税制、環境負荷を低減するための設備投資の促
  進に加え、事業者に対する一体的・総合的支援を行うための社会的枠組みを整
  備する。
    消費者行動については、望ましい消費者行動に関する情報の提供、消費者啓
  発・教育の充実を図るとともに、このような消費者行動を支援する社会システ
  ム作り等を行う。

(b)廃棄物の削減

  様々な環境問題の要因となる廃棄物の急増は、環境負荷の少ない経済社会構築
のために解決すべき課題であり、物の生産、消費等における廃棄物の発生をでき
る限り減らすとともに、再生資源の利用を促進することにより、廃棄物の削減を
図ることが必要である。
 以上を踏まえ、廃棄物を削減し、省資源と資源の再利用を促進するよるような
社会経済システムの構築を図るべく、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 1991年に改正された「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」及び同年に
  制定された「再生資源の利用の促進に関する法律」を通じた廃棄物の削減に向
  けて、国、地方公共団体、事業者、国民のそれぞれの取組の幅広い協力体制を
  構築する。
A 具体的には、事業者は事業活動に伴って生じる廃棄物の減量化に努めるとと
  もに、再生資源の利用の促進に努め、さらに製品等の設計段階から必要な対策
  を講じることとし、国民も、廃棄物の排出抑制や再生資源を利用した製品の積
  極的な使用等による廃棄物の減量に努める。
B 国及び地方公共団体においては、廃棄物の減量のための普及啓発、環境教育
  、民間の自主的活動の支援、体制整備、施設整備等を進めていく。

(c)(d)個人・家庭レベルでの環境に健全な商品購入への支援及び政府自身
の調達におけるリーダーシップの発展

 持続可能で環境への負荷の少ない経済社会を構築するためには、政府をはじめ
全ての主体が、社会経済活動その他の活動による環境への負荷をできる限り低減
することが必要であり、個人・家庭レベルでも環境への負荷の低減の取組が不可
欠である。特に、商品(サービスを含む)購入は、個人・家庭レベルでの消費行
動の要でもあり、また、企業の行動に大きな影響を与えることから、これを環境
への負荷の少ないものに変えていくことは極めて重要である。
 このためには、環境に負荷の少ない商品選択について十分な調査研究を行った
上で、政府自身の調達等の消費行動を率先して環境への負荷の少ないものにして
いくとともに、環境に負荷の少ない商品選択のあり方に関する国民や企業の意識
を望ましいものに変えていくための環境教育・環境保全活動促進施策の充実や、
国民の商品選択に大きな影響を与えるリサイクル及びエコラベリング等による情
報提供制度の充実・強化を図ることが求められている。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 政府の調達においては、紙については可能なものから速やかに再生紙に切り
  替えていく、官公用車として電気自動車等の低公害車の導入を促進する等具体
  的な取組の充実、強化を図る。
A 調査研究については、原材料の採取から商品の廃棄までの各過程についての
  環境への負荷を推計し、商品の環境へのやさしさ度を評価する手法(ライフサ
  イクルアナリシス)について、国際的動向を踏まえながら、その開発に努める
  とともに、消費者の動向を把握するための世論調査やモニター制度の充実を図
  り、また、企業の動向を把握するための調査内容の充実を図る。
B 環境教育・環境保全活動促進施策については、国民に対し、環境への負荷の
  少ない商品選択の重要性が十分理解されるよう、様々な機会を通じ、多様な手
  法を活用して環境教育を積極的に進め、国民の意識の一層の高揚を図る。また
  、企業に対し、どのような企業行動が環境保全上望ましいかについて普及啓発
  を積極的に進めるとともに、企業における環境調和型事業活動への自主的な取
  組を積極的に支援する。
C リサイクルについては、広範な国民がリサイクル活動に参加できるよう、普
  及啓発活動を進めるとともに、経済的手法の活用について幅広い検討を行う。
D エコラベリング等の情報提供制度については、従来より、エコマーク事業等
  において環境保全型商品に関する情報提供が進められてきたところであるが、
  今後とも、ライフサイクルアナリシス等に関する調査研究結果や、エコラベリ
  ングに関する諸外国の動向、さらには消費者、非政府組織(NGO)等を含む
  関係方面の意見を踏まえながら、これらの情報提供制度について充実・強化を
  図る。

(e)環境上適正な価格決定へ導くこと

 製品・サービスの取引価格に環境コストを適切に反映させるためのさまざまな
経済的手法が、都市・生活型公害、地球温暖化問題等について環境の保全上の支
障を防止するための有効性を期待され、国際的にも推奨されている。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 経済的手法の措置を講じた場合の環境の保全上の支障の防止に係る効果、我
  が国の経済に与える影響等を適切に調査し及び研究するとともに、その措置を
  講ずる必要がある場合には、その措置に係る施策を活用して環境の保全上の支
  障を防止することについて国民の理解と協力を得るよう努める。この場合にお
  いて、その措置が地球環境保全のためのものであるときには、その効果が適切
  に確保されるようにするため、国際的な連携に配慮する。
A 一般廃棄物の収集・処理等の費用に関しては、家庭系の廃棄物についても適
  切な負担を求めることにより、廃棄物の排出抑制を図るとともに、デポジット
  ・システムについて、導入の条件を整備し促進するための方策を検討する。ま
  た、排出者の責任を明確にし、廃棄物の収集・処理の費用等が製品の価格に適
  切に反映される仕組みづくりなど、経済的手法の活用について幅広い検討を行
  う。
   なお、自主的な取組によるものも含め、事業者が負担する環境対策費用が、
  価格に適正に転嫁され、その費用が最終的に消費者によって負担されることが
  望ましい。

(f)教育・広報を通じて、持続可能な消費を支援する価値観を積極的に強化す
る。

 環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会を構築するためには、国民や事
業者が、環境の保全について理解を深めるとともに、それぞれの日常生活や事業
活動の中で自主的な取組を進めることが不可欠である。
 このためには、環境の保全に関する教育及び学習の推進並びに広報活動の充実
を図るとともに、適切な情報提供を行うことにより、それぞれの主体の価値観が
変わっていき、自主的な取組が各主体間で積極的に評価される社会が形成される
ことが重要であり、環境への負荷の少ないライフスタイルも、環境教育や実践活
動を通じて確立されていくことが期待される。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 環境教育及び環境学習並びに広報活動については、学校、家庭、地域、企業
  の場や野外における環境教育等を、相互の有機的な連携を保ちつつ推進する。
A また、これらの場における実践活動を通じた主体的な学習が進められるよう
  にするため、多様な普及・啓発媒体の活用、地域に根ざした教育を進めるため
  の地方公共団体との連携、国民や事業者の自主的取組を促進するための人材、
  拠点の整備など様々な措置について、消費における個人や家庭の果たす役割を
  十分配慮しつつ、積極的に展開する。
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第5章 人口動態と持続可能性--------------------------------------------

 世界の人口は、開発途上国を中心に増加を続けており、アフリカでは食料不足
人口が増加している。また、過度の焼畑移動耕作や薪炭材の過剰伐採、過放牧等
による森林の減少、土壌流出、砂漠化等も進行している。他方、先進国の多く、
また、比較的開発の進んだ開発途上国を中心に、農村部からの都市への人口流出
により地域社会の維持とともに地域の農牧地、森林保全等が脅かされている。
 人口問題は地球全体に影響を及ぼす問題であり、先進国と開発途上国との協力
によって対処することが重要である。特に開発途上国においては、人口と環境と
の関係がより深刻な問題となっており、我が国は、特に多国間協力を通じ、人口
援助各分野において積極的な取組を行ってきた。また、二国間協力としては、国
際協力事業団を通じて家族計画・母子保健等の分野でプロジェクト方式技術協力
を中心とした協力を行ってきており、1992年3月には人口と開発問題援助研
究会の報告書をとりまとめ、それを受けてこの分野で協力を強化しつつある。今
後とも環境問題と人口問題との関係を深く認識し、さらに貧困の緩和、女性の地
位向上等の視点からの開発政策との結合にも配慮しながら援助の推進に努めてい
くことが必要である。一方、国内的には、戸籍・住民登録制度、国勢調査、人口
動態統計等を完備することにより人口の動向を正確に把握し、各種政策に反映さ
せてきている。
  また、家族計画については、女性のみならず男性の役割も重要であることを踏
まえ、必要な知識の普及が図られる必要がある。
  さらに、地球の温暖化、熱帯林の減少、砂漠化等の地球環境問題の背景には、
開発の進行と人口の増加があり、持続可能な開発を達成するためには、この環境
、開発、人口の3つの要素の相互の因果関係を解明するための研究の進展が必要
とされている。このため、地球環境の保全に資することを目的に各分野の研究者
を結集して、学際的、国際的な見地から調査研究を推進している。これらを通し
て、海外の研究機関及び国際機関との連携を深め、研究の成果を広く普及させる
ことにより、持続可能な開発の達成に資することとする。
 以上を踏まえ以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 各種の人口予測推計に基づいたアジア太平洋地域における社会経済発展等の
  基本シナリオに関する研究等を引続き推進する。
A 平成5年度からは、開発途上国における人口の変動、社会経済的発展が種々
  の環境問題に及ぼす影響についての研究を開始している。
B 人口政策がその国の主権と密接に関わっていることに鑑み、人口政策に関わ
  る二国間援助については、相手国の要請に基づくという点について特に慎重を
  期していく。
C 国連人口基金を初めとする諸国際機関による援助の活用を図っていく。
D 人口に関わる援助は主権への干渉と受け取られないように、慎重に進める必
  要があり、また、草の根レベルで直接住民に働きかけることにより大きな効果
  が期待できることから、非政府組織(NGO)等を通じた協力も、引続き重視
  していく。
E 農村部からの過度の人口流出及び都市部への一極集中に悩む開発途上国に対
  して、土壌等の保全を重視した持続可能な農牧畜の振興、環境を保全しつつ人
  口を支えることのできる農林水産業の振興、及び森林保全・造成並びに適正な
  産業立地に配慮した鉱工業の振興等のための援助を重視していく。
F 国内においても、人口の減少、高齢化の進展により、国土保全や地域社会の
  維持に困難が生じている過疎地域等において、農林水産業及び鉱工業等の振興
  のための産業基盤や下水道等の生活環境の整備等各種事業を計画的に実施し、
  人口の地方定住と地域の振興開発を引き続き推進する。
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第6章 人の健康の保護と促進--------------------------------------------

A.特に、農村部におけるベーシック・ヘルス・ケア・ニーズの充足

  農山村地域においては、その地域性から必ずしも十分な数の医療機関が確保さ
れているとはいえない。また、農山村労働の特殊性から、その従事者の健康の保
持増進には特別の注意を要する。
 そのため、農山村住民の健康生活の維持向上を図ることを目的として、特別健
康審査等の内容を盛り込んだ総合的な農山村保健対策を実施しているところであ
る。
 具体的には、1984年以降、以下のような事業を行っており、これらを引き続き
推進していく。

@ 農村検診センターの設置
    農村住民の健康管理のため、農村特有の疾病の予防及び農村住民の健康増進
  活動の場として、農村地域に「農村検診センター」を設置し、農村住民に対し
  て健康審査、健康相談等を行う。
   実施する事業としては、
 (イ) 健康審査(農村特有の疾病に係る特別健康審査及び一般の健康審査)
 (ロ) 健康管理に関する指導の普及啓蒙(啓蒙パンフレットの配布等)
 (ハ) 健康相談及び指導
  を行う。
    上記事業実施のため、農村検診センターには管理部門、検診部門、相談・指
  導部門その他の設備とともに、受診者を施設に移送するための移送車を有する
  こととされている。また、同様の事業を行っている市町村保健センターの設置
  地域とは重複しないように配慮された形で設置されており、1993年1月現在で
  全国に14カ所整備されている。
A 健康管理指導事業の推薦
    農山村地域には、広域性、過疎性等の特殊性から、施設の設置のみでは十分
  な健康管理を行い得ない場合もある。そこでマイクロバスを改造した健康管理
  指導車を用い、車両としての機動性を活用した総合的な健康管理指導事業を推
  進する。
   実施する事業としては、
  (イ) 衛生教育(衛生思想の普及)
  (ロ) 健康審査(農村特有の疾病に係る特別健康審査)
  (ハ) 健康相談及び予備指導
  があり、健康管理指導車については全国で79台が配備されている。
   途上国における地域保健医療の向上を目指したプライマリ・ヘルス・ケア推
  進に関して専門家派遣、研修生受け入れ等の技術協力を実施する。
    水道等環境衛生対策については、施設整備等のプロジェクト形成についても
  途上国に助言等を行うとともに、地域の環境条件に適合した技術の開発、検討
  を行う。
B 国民の健康増進を図る観点から講ずる施策の中で、農山村住民の健康の確保
  についても十分配慮して行く。

B.伝染病の抑制

  我が国においては、伝染病予防法、予防接種法等に基づき、感染症対策を推進
している。
 世界保健機関(WHO)が進める世界ポリオ根絶計画、予防接種拡大計画、エ
イズ対策特別計画、熱帯病研究訓練計画、下痢性疾患対策計画等に対し、技術面
、資金面での協力を行ってきている。また、感染症対策に関して、結核対策、ポ
リオ対策等のプロジェクトの実施、専門家の派遣、研修生の受け入れ等を実施し
てきている。
  最近の大きな課題としては、エイズ問題がある。我が国のエイズの現状は、患
者・感染者が急増し全国的な広がりを見せるとともに、感染経路についても異性
間の性行為によるものが主流となってきている。
  以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 熱帯地域の途上国で使用し易い耐熱性ワクチンの研究開発を進める。
A WHOが中心となって国際的に進められている子どもワクチン構想(CVI
  )を資金面、技術面で支援する。
B 1993年度から我が国においても世界的な子どもワクチン構想に対応したワク
  チンの技術開発を行っていく。
C 1993年度から、予算額を大幅に増額し、正しい知識の啓発普及、検査・医療
  体制の充実、相談指導体制の充実、研究・国際協力の推進など総合的なエイズ
  対策を集中的に展開する。

C.弱者集団の保護

  我が国は世界に例を見ない速さで高齢化が進展し、21世紀初頭には4人に1
人が高齢者という社会の到来が予想されている。このため、増大する高齢者の介
護需要等に適切に対応できる総合的な要介護老人対策を確立するとともに、高齢
者の健康と生きがいづくりを積極的に推進することが、重要な課題となっている
。このため、1989年に政府は、「高齢者保健福祉推進十カ年戦略」を策定してお
り、引き続き以下に示す各種施策を強力に推進していく。

@ 障害者対策については、政府は、1993年3月に「障害者対策に関する新長期
  計画」を策定し、障害者の自立と社会参加を促進するため、啓発広報、教育・
  育成、雇用・就業、保健・医療、福祉、生活環境等の各分野にわたる施策を総
  合的に推進する。
A 我が国では、憲法の精神に基づき、国民の健康で文化的な最低限度の生活を
  保障するため、公的扶助施策を推進する。
B 社会生活を営む上で何らかの支援を必要とする人のための社会福祉施設など
  さまざまな施設の充実を図る。
C 妊産婦、乳幼児に対する健康診査、保健指導により心身障害の発生予防、早
  期発見を図る。
D 予防に重点をおいた医療福祉政策を実施する。国は保険制度や財源等でこの
 転換への実質的な措置を講じる。
E 途上国における予防医療、母子保健等の推進等を目指したプロジェクトの実
  施、専門家の派遣、研修生の受け入れ等を実施する。

D.都市部の健康問題への取組

  都市部における産業や商業活動等が活発化し、人口が集積するのに伴って、大
気、水質等の生活環境の悪化が懸念されているが、我が国としては汚染防止や浄
化のために様々な施策を講じているところである。
 具体的には、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 大気汚染については、自動車単体に対する排出ガス規制の強化等大気汚染防
  止法に基づく施策の一層の推進に加え、特に窒素酸化物については、新たに制
  定した自動車NOx 法に基づく施策を講じるとともに、低公害車の普及促進、物
  流の合理化、交通流対策等の環境政策を推進する。
A 水質については、公共用水域等の水質の監視測定を引き続き行うほか、人の
  健康の保護に関する環境基準、排水基準等を拡充強化し、下水道や地域の実状
  に応じた合併処理浄化槽による生活排水等の適正な処理を推進する。また、高
  度浄水施設の整備、石綿セメント管等の老朽化施設の更新等により、より安全
  な水の供給を確保する。
B 市街地の土壌汚染については、土壌環境基準の達成維持を図るため、事業者
  等の指導等、適切な措置を講ずるほか、環境基準の拡充強化を行う等、土壌汚
  染対策を推進する。
C 上下水道・廃棄物分野での技術協力、途上国からの研修生に対する公衆衛生
  教育の実施等を行っているほか、上下水道等環境衛生施設の整備プロジェクト
  の形成についても途上国において助言等を行っていく。また、WHOが行って
  いる環境保健対策に対し、技術面、資金面での協力を引き続き行う。

E.環境汚染と環境上の危険要素による健康リスクの減少

  我が国では昭和30〜40年代を中心に工場等が排出するばい煙・汚水等によ
り環境の汚染が進み、とりわけ、公害による健康被害の発生は、重大な社会問題
となった。
 現在の環境汚染の状況は、健康被害が発生した以前の状況からは著しい改善が
みられているものの、大都市を中心とする窒素酸化物による大気汚染は依然とし
て厳しい状況にあり、また有害物質による水質汚濁などの問題も、人の健康の保
護のため、なお取組を要する状況にある。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 窒素酸化物等について、必要に応じその健康影響に関し、疫学調査等を実施
  していく。
A 汚染者負担の原則を踏まえた公害健康被害の補償等に関する法律における被
  害者補償は、引き続き円滑な実施に努める。さらに、公害健康被害補償予防協
  会に設ける500億円の基金の運用益により、慢性閉塞性肺疾患の予防、回復
  のための健康相談、健康診査、機能訓練、施設・機器の整備を行うとともに、
  大気環境改善のための計画作成、施設・機器の整備を行うほか、大気汚染の影
  響による健康被害の予防に関する調査研究、知識の普及及び研修を進める。
B 大気汚染の健康影響を早期に発見し、健康被害の予防を図るための「大気汚
  染に係る環境保健サーベイランス・システム」を構築し、大気汚染及びその健
  康影響の長期・継続的監視を実施する。
C 大気の汚染状況の監視測定を実施しており測定結果を毎年速やかに公表して
  いく。また、環境基準を達成、維持するために、大気汚染防止法等に基づく諸
  施策を引き続き実施していく。特に窒素酸化物問題については、単体規制に加
  えて、自動車NOx法に基づく使用車種規制等の施策を推進する。
D 光化学大気汚染の発生しやすい地域における気象観測及び大気汚染気象予報
  を行い、地方公共団体の大気汚染対策(特に光化学大気汚染対策等)に資する
  。
E オゾン層の破壊に伴う紫外線量の増加による健康影響が懸念されているため
  、オゾン層破壊物質の生産規制等の措置を講じ、あわせて紫外線の観測を実施
  し、その成果を定期的に公表するとともにオゾン層の変化と有害紫外線の地上
  到達量の関係を把握するための調査を実施し、及び紫外線の健康影響に関する
  調査研究を推進する。
F 水質環境基準の健康項目の見直しを行い、強化・拡充を図ったところである
  が、今後とも、環境基準項目の強化・拡充を行う。また、公共用水域及び地下
  水の監視測定を実施しており、測定結果を毎年速やかに公表していく。さらに
  、水質汚濁防止法に基づく排水規制の強化を行う。また、土壌環境基準の達成
  維持を図るため、事業者等の指導等、適切な措置を講ずるほか、土壌環境基準
  の拡充強化を行う等、土壌汚染対策を推進する。
G 農薬取締法に基づく農薬の登録に関し、農薬の残留等による健康被害等の未
  然防止の観点から、作物残留や水質汚濁等に係る登録保留基準を設定している
  が、今後とも、各基準の整備拡充等を図るため、各種調査研究等を引き続き実
  施し、基礎的な知見の集積に努めるとともに、農薬の安全かつ適正な使用の確
  保を図る。また、既に登録された農薬についても健康被害等に影響を及ぼすお
  それのある場合は、その使用を規制していく。
H 現在の法令で規制対象となっていない物質について、発生源・濃度・健康影
  響等に係る調査、監視、測定を体系的に行い、必要に応じて、適正な管理、対
  策を講じる。
I 騒音については、騒音規制法に基づく施策を一層推進する。
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第7章 持続可能な人間居住の開発の促進----------------------------------

A.全ての人々に対する適切な住居の提供

 我が国では、国及び地方公共団体が協力して、健康で文化的な生活を営むに足
りる住宅を建設し、これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸
することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与するよう努めている。
また、公営住宅も含む住宅対策として、「良質な住宅ストック及び良好な住環境
の形成を図る」、また「高齢化社会への対応を図る」、「地域活性化等に資する
良好な居住環境の形成を図る」の3本を基本目標として、1991年以降、5か年間
の住宅建設の目標として「第六期住宅建設五箇年計画」を策定した。この他、19
92年に閣議決定した「生活大国5か年計画」では、国民生活の最も重要な基盤を
なす住生活の充実を図ることは、生活者を重視した経済社会を築く上で最も重要
な課題の一つであるとしている。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 居住関連の投資の持続的拡大を図り、良質な住宅ストックの蓄積と安全で良
  好な居住環境を整備することにより、居住水準の向上を図る。
A 非公認の居住や都市部でのスラムの整備や質の向上のための施策としては、
  住環境事業として良質な住宅の供給、公共施設整備等を通じて、市街地の土地
  の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新を図る。
B 環境と両立可能な住居戦略の一環としては、住宅・建築物等の分野において
  省エネルギーを初めとして省資源化、自然との共生等の環境対策を総合的に推
  進するよう努める。地球温暖化問題をはじめとした地球環境問題に対する施策
  としては、気候、風土、環境等の特性を踏まえて、省エネルギーの推進、太陽
  熱等自然エネルギーの活用、水循環や廃棄物のリサイクルを考慮する等地球環
  境に対する負荷を低減する住宅の普及を計画的、一体的に推進する。さらに、
  環境問題に総合的に配慮した住宅を普及するため、環境への負担を低減する等
  一定の要件を満たすモデル性の高い住宅団地の建設及び国民への啓発普及の推
  進を図る。
C 居住分野における国際協力については、これまで「居住分野における長期行
  動指針(1988年国際居住年推進本部決定)」に基づき様々な活動を行ってきた
  。今後引き続き同指針に基づき21世紀に至る長期的展望のもとに開発途上国
  の直面する深刻な居住問題の改善に対し一層の貢献を行っていくため、国連人
  間居住委員会との協力の充実を図るとともに、居住政策国際セミナー、居住ミ
  ッション等の事業を推進する。

B.人間居住管理の改善

 近年、国民のニーズは、住宅自体の質の向上を求めるばかりでなく、住宅周辺
についても快適な環境を求めて、高度化、多様化しつつあり、住環境の整備の重
要性が高まっている。また、第六期住宅建設五箇年計画においても、様々な住環
境の地区の実態に応じた適切かつ広範な住環境整備の必要性が掲げられている。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 住環境整備事業は、不良住宅の密集、道路・公園等の公共施設の未整備等に
  より住環境が劣っている地区について、良質な住宅の供給、公共施設の整備等
  を行うとともに、既成市街地における中間的な水準にある地区について、地域
  住民等の自発的努力を誘導、助長して、快適な住環境の創造に向けての取組を
  促進する事業を推進する。
A 事業のメニューとしては、住宅地区改良事業のほか、コミュニティ住環境整
  備事業、地区住環境総合整備事業、街なみ整備促進事業、小集落地区改良事業
  等があり、いずれも国の助成が行われている。
B 家庭生活等に伴う近隣騒音や悪臭については、住民の自発的な取組を支援し
  、好ましい音を積極的に保全する生活騒音対策モデル事業都市推進事業や、各
  種の啓発普及活動を行う。
C 都市のスプロール化を防止するため、適切な土地利用、市街地整備等を行う
  とともに、持続可能な成長を維持しつつ、環境と共生した都市の実現が図られ
  るよう所要の都市政策を推進する。

C.持続可能な土地の利用計画と管理の促進

 土地は現在及び将来における国民のための限られた貴重な資源であることを考
慮して、土地の利用価値に相応した適正な地価水準の実現、地域の諸条件及び環
境等に配慮した適正かつ合理的な土地利用の確保等を図るため総合的な土地対策
を推進しているところである。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 首都機能移転、都市・産業機能等の分散、交通、情報・通信体系の整備等に
  より、東京圏の一極集中を是正し需要の分散を図る。
A 土地取引の適正化、不動産取引市場の整備等により、適正な地価水準の形成
  に資する。
B 土地利用計画の整備・充実により、自然環境の保全、公害の防止その他環境
  の保全に配慮した適正かつ合理的な土地利用を図る。
C 大都市地域における宅地開発の推進、良質な賃貸住宅の確保、都市基盤施設
  整備の促進等の住宅・宅地の供給の促進を図る。
D 市街化区域内農地の計画的宅地化、低・未利用地の利用促進、国公有地等の
  利活用の促進等の土地の有効利用の促進等を図る。
E 土地税制の活用等による土地に関する負担の合理化を図る。
F 土地に関する情報の整備充実を図る。

D.環境関連社会基盤施設の統合的提供の促進:水道、衛生、排水及び固形廃棄
物管理

 我が国としては、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 水道については、21世紀に向けて、全国どこでもすべての国民が利用可能
  で渇水や地震の災害に強い等の安定性が高く、及び国民がいつでも不安を抱く
  ことなく、安心して利用できる安全な「高水準の水道」を構築すべく施策を展
  開する。
A 下水道については、公共投資基本計画において整備の遅れている中小市町村
  での積極的展開を図り、おおむね2000年に処理人口普及率7割程度とする事を
  目標に明記しており、今後はこの目標の達成をめざし、高度処理を含めた下水
  道整備を第7次下水道整備5カ年計画に基づいて推進する。
B 市町村による生活排水処理計画の策定を推進し第7次五カ年計画に基づくコ
  ミニティ・プラント、合併処理浄化槽等の整備を推進する。
C 水環境フォーラム等の開催を通じ、水質保全に関する知識の普及、啓発を推
  進するとともに、生活排水対策の啓発に携わる指導員の育成等に努めていると
  ころであり、今後とも、これらの施策の的確な実施に努めていく。
D 固形廃棄物関係については、第7次5カ年計画により、ごみ焼却施設や最終
  処分場等の廃棄物処理施設の整備を促進するとともに、大都市圏域など最終処
  分場の確保が困難な地域で広域的に廃棄物を処理する海面埋立処分場(フェニ
  ックス計画)の整備や大規模で優良な産業廃棄物処理施設の整備を促進するた
  め、当該施設の周囲の環境整備施設等の基盤整備を推進する。
E 国においては、現に公害が著しく、または著しくなるおそれのある地域につ
  いて定める公害防止計画により、下水道整備事業、しゅんせつ、導水、緩衝緑
  地等整備、廃棄物処理施設整備等環境関連社会基盤整備事業を総合的、計画的
  に推進し、環境に著しい影響を及ぼすおそれのある大規模な事業の実施に先立
  ち、環境影響評価を実施する。

E.人間居住における持続可能なエネルギー及び交通システムの促進

 エネルギーの効率的な利用及び使用時における環境負荷の低減は、「持続可能
な開発」の理念の下に、環境と開発の両立を図っていく上で、その推進が強く求
められており、環境保全と経済成長を媒介する位置づけにあるエネルギーについ
て、その抜本的な需給構造の改革に取り組む必要がある。
 我が国は、このような認識をも踏まえ、従来から、「エネルギーの使用の合理
化に関する法律」、「石油代替エネルギーの開発及び導入の促進に関する法律」
等の法律を制定し、また、「エネルギー研究開発基本計画」を策定するなど、省
エネルギーの促進、新・再生可能エネルギーの開発・導入促進等に関し、総合的
に取り組んできている。最近において「エネルギー等の使用の合理化及び再生資
源の利用に関する事業活動の促進に関する臨時措置法」を新たに制定するととも
に、「エネルギーの使用の合理化に関する法律」、「石油代替エネルギーの開発
及び導入の促進に関する法律」及び「石炭並びに石油及び石油代替エネルギー対
策特別会計法」(現「石炭並びに石油及びエネルギー需給構造高度化対策特別会
計法)を改正する等その取組の強化を図っている。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 低環境負荷エネルギーの普及・導入及びエネルギーの効率的利用の促進
    新・再生可能エネルギーの普及・導入のためのモデル事業、新エネルギー発
  電フィールドテスト事業等の推進、財政金融上の支援策の活用及び電力会社に
  よる分散型電源の余剰電力購入等導入促進制度の拡充を行う。
    また、省エネルギー推進のための設備投資等導入を促進するための財政金融
  上の支援策等を行う。さらに、二酸化炭素を排出しないエネルギーとして、安
  全性の確保を前提に原子力の開発利用を推進する。
A 低環境負荷エネルギー技術及びエネルギーの効率的利用技術の研究開発の促
  進
    発電熱効率向上技術、未利用エネルギー活用技術、「ニューサンシャイン計
  画」における新・再生可能エネルギー技術及び省エネルギー技術等の開発の促
  進を図るほか、核融合等次世代エネルギー技術の研究を促進する。
B 低環境負荷エネルギー技術及びエネルギーの効率的利用技術の開発途上国へ
  の移転
   開発途上国の環境と開発の両立に資するため、途上国のエネルギー環境問題
  に対する自助努力への支援等の実施として、各種調査、研修生の受け入れ、専
  門家派遣等による人材育成及び研究協力事業等を行う。また、省エネルギーモ
  デル事業、太陽光発電等新エネルギー協力等の実施を通じ、開発途上国へのエ
  ネルギー環境技術の移転、普及等を行う。
C 交通におけるエネルギー使用の効率化及び環境負荷低減
    交通におけるエネルギー使用の効率化及び環境負荷を低減するため、幹線物
  流における適切な輸送機関の選択の促進、都市内・地域内トラック輸送の効率
  化、物流拠点の整備、輸送・積載効率を最大限高めるための情報ネットワーク
  の確立等を推進する。また、旅客輸送分野における公共交通機関の利用を促進
  するため、鉄道、バス、新交通システム等の交通機関の整備、自動車交通との
  連携の円滑化等を促進する。さらに、バイパス・環状道路の整備や交差点の改
  良等、体系的な道路網の整備等を促進する。
   そのほか、電気自動車、メタノール自動車、天然ガス自動車、ハイブリッド
  自動車等の開発を行うほか、これらの導入にあたってのインフラ整備等を行う
  。
D 交通における騒音対策等の推進
   道路交通については、自動車単体に対する騒音規制の強化等による自動車単
  体の構造の改善を一層進めるとともに、体系的な道路網の整備等による交通流
  対策、環境施設帯や遮音壁の設置等による道路構造対策、沿道土地利用の適正
  化等による沿道対策等を含めた総合的な道路交通騒音・振動対策の推進を図る
  。
    航空機の騒音対策として、低騒音型機の導入・運航の拡大、地上への騒音軽
  減に資する運航方式の実施等の発生源対策を推進するとともに、住宅等の防音
  工事、緩衝緑地帯の整備、土地利用対策の推進等の空港周辺対策を進める。
   また、新幹線鉄道をはじめとする鉄道の騒音・振動を軽減するため、技術開
  発を含む発生源対策を推進するとともに住宅等に対する防音・防振工事等を進
  める。新幹線騒音については環境基準の達成を目標としつつ、当面は75ホン
  対策を促進する。
E 住宅のエネルギー有効利用のためのシステム的な対応
   住宅の断熱強化に加え、廃熱利用システム、太陽光発電システム等のエネル
  ギー有効利用に資する新技術を導入する住宅等の建設を支援していく。

F.災害脆弱地域における人間居住計画・管理の促進

 我が国は、地形的・地質的にも気象・地震等の自然災害に対して脆弱な国土条
件の下におかれており、現在に至るまでに自然災害により、多くの人命や財産が
失われてきた。1959年の伊勢湾台風以降は、災害対策基本法等に基づき災害対策
を総合的かつ計画的に進めてきたことなどにより人的な被害は少なくなってきて
いるものの、なおも、毎年100〜200人程度の人命が失われ、ここ1〜2年
については地震、台風等により近年まれに見る被害が出ている。また、河川氾濫
区域内に人口の約50%、資産の75%、臨海部に人口の約50%、商業販売額
の約80%が集中するという社会条件を有しており、地球温暖化による影響に対
応した施策を進めるとともに、治水施設、海岸保全施設等の整備をはじめとする
様々な防災対策を推進する必要がある。また、その際には環境に配慮したものと
する必要がある。さらに、国際的にも、国連において1990年代を「国際防災の1
0年」として、国際協調行動を通じ、全世界における自然災害の軽減を図ろうと
する決議案が我が国等を中心に共同提案され、採択されたところである。
 このような状況を踏まえ、我が国としては、防災に関する科学技術の研究、防
災訓練や防災施設設備の整備等の災害予防対策、治水事業等の国土保全対策、災
害発生時における災害応急・復旧対策等を総合的かつ計画的に推進してきた。ま
た、上記国連決議を受け、1989年5月内閣総理大臣を本部長とする「国際防災の
10年推進本部」を設置し、同年11月に「国際防災の10年事業推進の基本方
針」を決定した。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 国際防災の10年事業として、政府は、地方公共団体、民間団体等と連携を
  図りながら
 (イ) 国際協力及び国際交流の推進
 (ロ) 我が国の災害対策の推進
 (ハ) 普及啓発活動の推進
  という3つの柱に沿って、各種事業を実施してきたところであり、今後とも引
  き続きその推進を図っていく。
A 災害の予防のための、気象、高潮、津波等の警報・注意報を含む予報のほか
  、地震予知情報等の地震・火山に関する情報提供の充実、道路の防災・震災対
  策、雪寒事業、さらに治水施設、砂防施設、海岸保全施設の整備等による国土
  保全、下水道の整備等による浸水の防除、下水の余熱を利用した消融雪対策、
  地震対策等を行っており、引き続きその推進を図っていく。
B 近年の社会構造の変化等を踏まえて、現在、科学技術会議において「防災に
  関する研究開発基本計画」の改訂内容の検討を進めてきているところであり、
  改訂後においても引き続き同計画に基づく施策の推進を図っていく。
C 防災はOECD開発援助委員会(DAC)の「環境開発作業部会」において
  も検討課題の一つとされており、我が国も、このような観点から開発途上国に
  対し、防災技術の移転、専門家の養成、防災システムに対する普及啓発等の援
  助を行ってきており、引き続きその推進を図っていく。

G.持続可能な建設産業活動の促進

 我が国の建築や土木などの建設産業活動は近年活発かつ経済活動全般に対する
影響も大きいものとなっている反面、オゾン層を破壊するといわれているフロン
等の使用や建設発生土、建設廃棄物の発生量の増大、建設材料による健康への影
響、建設及び解体現場における騒音・振動等の問題を抱えている。特に、産業廃
棄物排出量のうち、建設業の占める割合は近年急速に伸びており早急な対応が望
まれているところである。これらの課題に対し、公共工事及び民間工事関係者に
対する指導及び助成等を通じて対策の推進を図っているところであるが、今後、
有害物質の使用量の削減、建築又は解体現場における建設廃棄物の削減及びリサ
イクルの促進等を図るとともに、生産性、施工性の高い構工法の開発を進めてい
く必要がある。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を中心に調査研究、公的助成措置並びに国民及
び関係団体等への啓発普及活動を実施していく。

@ 現場における建設廃棄物の削減のため、過剰梱包の廃止、部材のプレハブ化
  又はプレカットの推進を図る。また、型枠については熱帯材の消費の合理化を
  推進するため、代替材の使用、型枠を必要としない工法等の開発・普及を促進
  する。
A 資源の有効利用を推進するため、建設発生土、コンクリート塊、アスファル
  ト塊等の再生資材の活用、パーティクルボード等リサイクル材の使用を促進す
  る。また、建設廃棄物の適正な処理を推進するため、建築及び解体現場におけ
  る対策を推進する。
B 省エネルギー、自然エネルギーの活用、省資源及び自然との調和に配慮した
  住宅・建築物の普及を図るとともに、それらに関する施工技術を有した人材の
  育成を行う。
C 建築物の耐久性を高め解体頻度を抑制するため、構造躯体の耐久性の向上に
  加え、給排水設備等の交換の容易性、社会的寿命を延長させるための間取りの
  可変性の確保等を図ったシステムの普及を推進する。
D クロロフルオロカーボン(CFC)の排出を抑制するため、CFCを使用し
  ない設備の開発、普及等により空調設備等CFCを利用する建築設備の更新を
  推進する。
E 建設現場における作業の効率化のため、工業化による現場施工の簡略化、工
  法の合理化等を推進する。
F 建築物の改修・解体工事等における周辺環境のアスベスト濃度の把握等を引
  き続き行うとともに、有害大気汚染物質の室内を含む暴露アセスメントを実施
  していく。
G 建設及び解体現場における騒音・振動を抑制するため、低騒音・低振動化に
  資する施工技術並びに低騒音型及び低振動型の建設機械の研究開発・普及を促
  進する。
--------------------------------------------------------end-------------



第8章 意思決定における環境と開発の統合--------------------------------

A.政策、計画、管理の各レベルにおける環境と開発の統合

 環境の保全に関する施策の策定及び実施は、各種の施策相互の有機的な連携を
図りつつ総合的かつ計画的に行わなければならない。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 政府は、環境の保全に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、環
  境の保全に関する総合的かつ長期的な施策の大綱等を記載した環境基本計画を
  策定する。
A 環境上適正な土地利用を進めるため、国土利用計画法に基づき、公共の福祉
  を優先させ自然環境の保全を図りつつ、長期にわたって安定した均衡のある国
  土の利用を確保することを目的として、国が国土利用計画(全国計画)を策定
  し、国土の利用に関する各種計画の基本としている。現行の国土利用計画(全
  国計画)の目標年次が1995年であるため、環境保全上適切な土地利用がより一
  層図られるように配慮し、また都道府県知事の意向等も十分反映させて、改定
  に向けた作業を進める。
B 政府は、経済運営の指針として長期経済計画を策定しているが、1992年に閣
  議決定した「生活大国5か年計画」では、「地球環境問題への貢献」、「環境
  と調和した経済社会の構築」のための諸施策を示しており、これを推進してい
  く。
C 政府は、国土の自然的条件を考慮して、経済、社会、文化等に関する総合的
  見地から、国土を総合的に利用し、開発し、及び保全すること等を目的として
  全国総合開発計画を策定している。現在長期的視点に立って国土政策の対応方
  策を明らかにするために現行計画の総合的点検作業を行っているが、その中で
  環境の保全、国土資源の保全・利用のあり方等について検討を進める。
D 意思決定に環境保全のための配慮を組み込むことについては、公害対策基本
  法第17条や自然環境保全法第8条等の規定を踏まえ、地域開発施策等において
  環境配慮が行われてきたが、環境基本法第19条において、施策の策定・実施に
  当たっての国の環境配慮規定を定めたところであり、今後とも適正に環境配慮
  を行っていく。
   また、事業に係る環境影響評価については、1972年に「各種公共事業に係る
  環境保全対策について」を閣議了解して以後、個別法律、行政指導、地方公共
  団体の条例・要綱等により行われてきた。さらに1984年に「環境影響評価の実
  施について」の閣議決定を行い、国の関与する大規模な事業に係る統一ルール
  として「環境影響評価実施要綱」を定めた。また、環境基本法において環境影
  響評価の重要性を明確に位置づけた。引き続き、現行制度の適正な運用に一層
  努めるとともに、内外の制度の実施状況等に関する調査研究を行い、その結果
  を踏まえ、社会経済情勢の変化等を勘案しつつ、法制化を含め所要の見直しに
  ついて検討する。
E 意思決定過程の改善に資するため、毎年、環境の状況及び政府が環境の保全
  に関して講じた施策に関して、環境白書を国会に報告し、公表している。また
  、国民の意向を把握するための世論調査やモニター制度の一層の充実を図る。

B.効果的な法令による枠組みの提供

 我が国においては、1960年代半ば以降、「公害対策基本法」(1967年)、「自
然環境保全法」(1972年)を2つの柱とする法体系の下に環境政策を進め、激甚
な公害の克服や優れた自然環境の保全について相当の成果をあげてきた。しかし
、未解決の問題も残されており、また、近年の都市・生活型公害、廃棄物の排出
量の増大等に見られる環境問題の構造の変化、地球環境問題への取組の必要性の
高まりといった環境問題をめぐる状況の変化に的確に対応し、環境への負荷の少
ない持続的発展が可能な社会を構築するとともに、国際的取組を積極的に推進す
ることが必要である。このため、環境の保全に関する幅広い施策を総合的かつ計
画的に推進すべく、1993年11月に環境基本法を制定した。本法は、環境の保全に
ついて基本理念を定め、国、地方公共団体、事業者、国民の責務を明らかにする
とともに、環境の保全に関する基本的施策として、環境基本計画の策定、環境基
準の設定、環境影響評価の推進、規制的措置、経済的措置、環境教育、国際協力
等を定め、今日の課題に対応した環境政策の新たな枠組みを与えるものである。
  地方公共団体においても、国の施策に準じた施策及び地方公共団体の自然的社
会的条件に応じた環境保全施策を実施する。
  以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 法令等の遵守状況の評価と円滑な施行のための措置
 (イ) 法令等の遵守状況の評価とその実施体制の整備
   政府は、大気汚染、水質汚濁、土壌汚染及び騒音について環境基準を定める
  とともに、大気汚染防止法、水質汚濁防止法、自然環境保全法等の個別法に基
  づき、環境汚染の原因となる物質の排出に関する規制、自然環境保全を図るた
  めの土地利用の規制等の措置を講じているが、大気、水質、自然環境等の状況
  の監視等並びに個別法による規制措置の施行状況の監視等を行い、これらの措
  置をより実効あるものとしていく。
   また、こうした施策を実施するための体制の整備を促進する。
 (ロ) 法令情報の提供と普及啓発
   法令、規則の制定及び実施については、事業者、国民の十分な理解と協力が
  必要であり、適切な情報の提供、普及啓発を図る。また、環境白書を毎年度公
  表するほか、環境関係法令等について種々の刊行物をとりまとめている。
 (ハ) 行政担当官の研修
   国及び地方公共団体の環境行政担当職員等を対象に、環境行政に関する識見
  の向上及び専門的知識の修得等を目標として、研修を推進する。

A 紛争処理及び被害救済のために必要な措置
   公害に係る紛争について、公害紛争処理法に基づく手続に従い、公害等調整
  委員会等において、あっせん、調停、仲裁及び裁定を行う。また、公害に係る
  健康被害の救済のため、公害健康被害の補償等に関する法律に基づく手続に従
  い、水俣病や喘息等の健康被害に係る損害を補償する等必要な措置を講ずる。
B 国際的取組に関する法的フォローアップ
 環境関連国際条約を実施するため、「特定物質の規制等によるオゾン層の保護
  に関する法律」、「特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律」、「海
  洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」、「絶滅のおそれのある野生動植物
  の種の保存に関する法律」等の国内法令の適切な運用を図る。

C.経済的手段、市場その他のインセンティブの有効利用

 今日の環境問題に対処するためには、あらゆる経済社会活動に環境への配慮を
組み込んで行く必要があり、そのためには、規制的手法、経済的手法、環境影響
評価、環境の保全に関する施設の整備、事業者や国民の積極的取組への支援等の
多様な手法を活用していく必要がある。
 今後一層積極的な取組が必要である都市・生活型公害、不用物の排出量の増大
、地球温暖化等については、経済的手法の活用を図り、各主体が環境の保全に適
合した行動を取ることを促すことが必要である。
 製品・サービスの取引価格に環境コストを適切に反映させるための様々な経済
的手法が、環境の保全上の支障を防止するための有効性を期待され、国際的にも
推奨されている。
 以上を踏まえ、以下に示す取組を重点的に実施していく。

@ 経済的手法の措置を講じた場合の環境の保全上の支障の防止に係る効果、我
  が国の経済に与える影響等を適切に調査し及び研究するとともに、その措置を
  講ずる必要がある場合には、その措置に係る施策を活用して環境の保全上の支
  障を防止することについて国民の理解と協力を得るよう努める。この場合にお
  いて、その措置が地球環境保全のためのものであるときには、その効果が適切
  に確保されるようにするため、国際的な連携に配慮する。
A 一般廃棄物の収集・処理等の費用に関しては、家庭系の廃棄物についても
  適切な負担を求めることにより、廃棄物の排出抑制を図るとともに、デポジッ
  ト・システムについて、導入の条件を整備し促進するための方策を検討する。
  また、排出者の責任を明確にし、廃棄物の収集・処理の費用等が製品の価格に
  適切に反映される仕組みづくりなど、経済的手法の活用について幅広い検討を
  行う。

D.統合された環境・経済勘定システムの確立

 環境・経済統合勘定を付加した新たな国民経済計算体系の整備を含め、環境要
素が適切に評価された指標体系の開発、整備を推進する。このため、以下に示す
取組を重点的に実施していく。
  なお、当該指標体系の開発については、現行の経済計画においてもこれを促進
することがうたわれている。

@ 1991年から、環境資源勘定体系の確立のための研究を開始しているところで
  あり、今後ともこれを積極的に推進する。本研究は、環境資源勘定のための情
  報整備と手法開発を進め、我が国の環境資源勘定体系の確立を図るとともに、
  国民経済計算体系に環境・経済統合勘定を付加する手法等を検討することを目
  的としており、具体的には、以下の研究を行うこととしている。
 (イ) 国民経済計算体系に付加される環境・経済統合勘定については、1992年度
    から3年計画で、勘定の構造や環境の貨幣的評価方法等に関する検討を進め
    、我が国の環境・経済統合勘定の設計と試算を行う。開発に当たっては、国
    連の「環境・経済統合勘定ハンドブック」に示される基準に準拠しつつ、我
    が国のニーズや事情を考慮したものとする予定である。その後は、上記試算
    値の完成度に応じ、次の段階の推計に移行する。
 (ロ) 環境資源勘定については、国際的な影響も考慮しつつ、我が国の経済活動
    に伴う環境負荷と環境や自然資源の量的・質的変化との関係をまとめた物量
    勘定表を作成する手法、及び、これを経済的価値に換算する手法を開発する
    。また、これら手法の適用により、国民経済計算体系に反映させるための基
    礎勘定の作成を図る。
 (ハ) 特に我が国の森林資源及び農業資源の量的・質的変化については重点的に
    取り上げ、 (ロ)と同旨の研究を進める。
A 勘定作成の基礎データとして、環境の状況や環境への負荷の状況、環境保全
  対策の実施状況等を把握するための観測、監視、調査、解析を幅広く実施する
  とともに、これに係る情報システムの整備を進める。
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