福井県みどりのデータバンク すぐれた自然データベース
地形地質
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名   称 三方五湖と寛文大地震
学   名
分 類 1 地形地質
分 類 2
位   置
(2kmメッシュ番号)
美浜町若狭町(旧三方町):(959,960,961,962)
選定理由 その他地質学的に貴重な地点,典型的な構造地形,地形形成史から見て典型的な地形
区   分 B(県レベルで重要なもの)
解   説  『寛文2 (1662 )年5 月1 日午前10 時,突然大地をゆり動かした近江国を震源地とした大地震は,大に振動する事申のさかり酉の初迄も少しもやまず,大地を打かへす計りにて親は子をよび,子は親にいだきつきておめきさけぶ声たとえていわんかたなき…』上記は,金山・行方文書の中から抜粋した地震の記録であるが,地震は凄まじく,若狭地方に甚大な被害をもたらし,山崩れ,山林の倒木,家屋の倒壊そして火災の発生などにより多くの死者を出した.この地震は寛文大地震と命名されている.寛文大地震(マグニチュード=7.6 )の際,三方断層(161 )が活動し,各所に断層変位が出現した.三方町宇波西神社付近では大地が裂け,南北方向に延びる三方断層に沿って,東側が上昇した.宇波西(うわせ)神社のすぐ南に小さな神社(川中神社)がある.その神社の向かって右側を流れる小川は,かつては菅湖から東へ流れ出て,川中神社の横を通って,北の久々子湖へと流れ込んでいた(矢印).寛文大地震により,菅湖から川中神社への地形勾配が逆転したため,菅湖と久々子湖とは切り離された.寛文大地震による地殻変動により,海岸線はせり出し,気山川も川底がせり上がり,河口は完全に塞がり,湖水の流れは止まり,水位は急速に3m も上昇し,溢れた水は湖岸の集落に浸水し壊滅的状態をもたらした.寛文大地震以前は,水月・菅・三方湖の三湖の配水は,菅湖から古気山川を経て久々子湖に注がれていた.しかし,寛文の大地震によって気山川は隆起して,水路が閉ざされた.現在,市集落から菅湖にかけて旧河道の一部が残され,古気山川が流路を西に変える所に家屋が立ち,川中神社が建立されているが,神社の周囲に沼地が存在し,近年まで此処から久々子湖へ向かう古気山川の水路の一部が,湿地帯として残っていた.
 市集落から菅湖に向かう緩斜面地形にも,微変位の隆起運動の痕跡を見ることができる.耕地の改造時に,現在の湖水位から標高に2m 〜2.5m までのところに腐食植物が混入する灰黒色のシルト層が,古期の礫混じり砂層の上部に出現した.これらの上部シルト層は,おそらく河道が閉塞された時の堆積物と推測される.寛文大地震によって,古気山川が隆起して湖水が流路を閉ざされ,大氾濫を起こした.排水のためには,気山川の改修か,それとも浦見川の掘削かの論争が飛び交う中,気山川の改修では砂礫の捨て場に多くの田畑が潰され,さらに河川改修には途中に存在する300m にも達する大岩盤を除去しなければならない.それに比べて浦見坂の掘削は,40 数m の高さがあるが,潰される田畑10 石程で工事の距離も短い.この理由により浦見坂の掘削が始められた.石工,鉱夫それに人夫ら千余人が両端掘りという当時では新しく珍しい方法で普請がなされたのである.しかし,岩盤が堅固で当時では難工事そのもので,工事は遅々として進まなかった.普請奉行は,祈りの中で,西方に位置を変えよとのお告げを受け,河川位置を変更し,それにより現在の人工運河の浦見川が造られたのである.これらの史実を基にして,踏査を行ったところ,古気山川の岩盤はチャ−トであり,一方,浦見川の水路は断層に並行し,破砕帯が浦見川の西側に存在し,この断層を境にして,東方は花崗岩類,西方のほとんどは頁岩であることが判明した.東方の花崗岩は,塊状で節理も川に並行し著しく堅固であるのに対して,西方の頁岩は,破砕岩となっている.古文書の内容と地質状況と一致していた.
保護の現状
 と留意点
 古文書に残された地震災害の記録は,人身災害を始めとして家屋の倒壊火災の発生,そして地殻の変動の状況に至るまで当時の様子を残し,災害復興におよぶ状況の苦難さが表されている.旧河川の気山川の改修は断念されたが,旧河川地形や当時の河道が近年まで残存していた.自然災害への警告防災意識の高揚を体験する地域として保存,伝承したいものである.久々子湖をはじめ三方五湖の湖岸の多くが護岸工事がなされている.現在自然な湖岸が残されている所として,宇波西川の旧河口があげられる.河川改修と耕地整理により宇波西川を西の宇波西神社沿いに付け変えたため,旧河口への河道は塞がれてしまったが,河口付近の三角州が残っている.旧河口の岸は護岸工事がなされず芦の生えた湖岸となっている.堆積物は花崗岩の砂を主としている.





(C) 福井県自然保護課
出典「福井県のすぐれた自然(動物編、植物編、地形地質編)」(1999年 福井県自然環境保全調査研究会監修 福井県発行)