福井県みどりのデータバンク すぐれた自然データベース
地形地質
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名   称 越前町厨の離水海食洞
学   名
分 類 1 地形地質
分 類 2
位   置
(2kmメッシュ番号)
越前町(旧越前町):厨(884)
選定理由 地形形成史から見て典型的な地形
区   分 B(県レベルで重要なもの)
解   説  越前海岸は越前岬付近を中心に最大で1m/1,000 年を越える速さで隆起している.これらの隆起運動は沿岸部を通る甲楽城断層,およびその北方の断層の運動によると考えられている.越前海岸部ではこれらの断層の活動に伴い,離水したノッチ−ベンチや海食洞がいたるところに見られる.厨(くりや)周辺にも多数の海食洞が認められるが,このうち旧城崎北小学校南約150m の離水した海食洞内には鍾乳石が形成されており,海浜堆積物とともにサザエ等の貝殻が側壁に付着している.この海食洞の奥行きは約18m あり,幅は最大で約4m である.海食洞の底面の標高は入り口付近で4.9 〜5.1m ,奥部では5.5 〜5.8m となる.海浜堆積物や貝殻等が付着しているのは主に高さ6m以下の部分であり,特に奥部でよく見られる.またこの洞窟中には鍾乳石も見られるが,その高さは6m よりも上の部分である.固着している海浜堆積物は最奥部では良く円磨された中礫であり,中央部付近では主に粗粒砂である.この粗粒砂の中にサザエをはじめとする貝殻等が混じっている.この離水した海食洞の形成過程としては以下のように考えられる.1 .海水面付近の波の侵食作用により,海食洞が形成された.海食洞の底には良く円磨された礫や分級の良い粗粒砂があり,貝殻等も混じっていた.2 .断層運動により隆起し,離水した.3 .離水後,石灰分を多く溶かした雨水が洞内に染み出してきて,鍾乳石を形成するとともに,洞窟底の堆積物を固めた.4 .固着されなかった洞窟内の堆積物が後に洞窟の外に出されたが,固着した堆積物はそのまま壁面に付着した状態で残った.すなわち,固着している堆積物は,離水直前の状態を保っており,隆起時期を知る貴重な手がかりとなる.このように海食洞の内部で離水当時の堆積物が固められて残されている例は他になく,貴重である.また断層運動を知る上でも重要な試料である.
保護の現状
 と留意点
 この離水した海食洞の洞内は荒らされた様子はほとんど無いが,洞窟の前面は資材置き場となっており,廃タイヤが洞窟の前に積まれている.またすぐ南側にも同様の離水した海食洞があるが,以前には火葬場として使われており,内部は煤け,海食洞形成当時の様子は全く残されていない.このように多くの離水した海食洞は内部が破損したり,また物置やごみ捨て場に使われたりしており,中には観光用にするためか洞窟底がコンクリートで固められ電源の配線がなされているものもあり,離水時の状況はまったく残されていない.しかしこの厨の洞窟は当時の様子を非常に良く残しており,地質学的にたいへん貴重である.早急なる保護が求められる.





(C) 福井県自然保護課
出典「福井県のすぐれた自然(動物編、植物編、地形地質編)」(1999年 福井県自然環境保全調査研究会監修 福井県発行)