福井県みどりのデータバンク すぐれた自然データベース
鳥  類
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名   称 サギ類の集団営巣地
学   名
分 類 1 鳥類
分 類 2
位   置
(2kmメッシュ番号)
特定せず
選定理由 集団営巣地または集団ねぐら
区   分 B(県レベルで重要なもの)
解   説  サギ類は,同種または異種が集まって集団営巣地(コロニー)を形成する.本県では,アオサギとササゴイは,主に同種の個体だけで営巣し,ゴイサギ,アマサギ,チュウサギ,コサギとダイサギは,それぞれが混じって営巣することが多い.そして,この混合集団営巣地には,さらにカワウが混じることもある.サギ類の集団営巣地は本県の各地で知られている.アオサギについては,芦原町の赤尾の白山神社,浜坂,金津町の東田中,福井市の灯豊町,江守中町の江守神社,永平寺町の轟,勝山市の立川町付近,鯖江市の落井町,東清水町,今立町の西庄境付近,池田町の市,武生市家久町の船岡山,塚原町の白山神社,安養寺町,南条町の鋳物師の岩瀬神社,今庄町の今庄,敦賀市の櫛川,三方町の御神島,大飯町の冠者島,高浜町の鷹島に集団営巣地がある.武生市家久町の船岡山,敦賀市の櫛川,大飯町の冠者島,高浜町の鷹島では,ゴイサギ,コサギ,ダイサギなども混じっている.ササゴイについては,以前は,敦賀市の小学校にある集団営巣地が知られていたが,現在は消失している.その他のサギ類については,福井市の九頭竜川と武生市の日野川の2 つの大きな集団営巣地が知られている.本県で最も大規模な九頭竜川の集団営巣地は,福井大橋(国道8 号線)付近にあったが,1996 年から下流の天池橋付近に移動している.以前と同じような環境だが,ヤナギの木が小さくて範囲が狭く,巣が密集しているような感じがある.日野川周辺では,古くは武生市の瓜生町の竹林にあったが,現在は住宅地になり利用できなくなっている.そのため,主に鯖江大橋上流で繁殖するようになり,また,1995 年には白鬼女橋上流に,そして,現在では,武生市の豊橋上流にその中心が移り,一部は武生市家久町の船岡山にも営巣している.集団営巣地にある巣の数は変動が大きいが,全県的に減少の傾向がみられる.ちなみに日野川で繁殖したチュウサギやコサギがフィリピンで回収または記録されている.また,勝山市の下荒井橋上流で500 羽以上のサギ類が観察されたことがある.そのほとんどはアマサギとコサギで,少数のゴイサギ,ダイサギとやや離れてアオサギも見られた.中州にあるヤナギ林に密集して集まり,一部はヨシ原に集まっていた.状況から判断してねぐらと考えられるが,営巣地へと変わる可能性はある.
 集団営巣地を形成する場所として,アオサギは,史跡,寺社や丘陵地および小島嶼などにある林の高木を利用し,河川敷のヤナギ林には営巣しないようである.また,ササゴイは,イチョウの木を利用していたことが知られており,河川敷のヤナギ林も利用しているようである.その他のサギ類は,主に河川の中州や河川敷にある,あまり高くないヤナギ林を利用している.また,水辺の近くの林や竹林なども利用した例がある.多くのサギ類は,主に河川や水田,ハス田などの湿地に生息する.餌は,サギの種によっていくらか異なる.ゴイサギは,魚類,ザリガニ類,カエル類,昆虫類,ネズミ類などを食べる.ササゴイは,魚類のほかに,カエル類,ザリガニ類,水生昆虫類なども食べる.アマサギは,バッタ類などの昆虫類やカエル類を主な餌とし,トカゲ類,魚類なども食べる.ダイサギは,魚類をはじめ,両生類,爬虫類,甲殻類,昆虫類,ネズミ類などを食べる.チュウサギは,昆虫類,クモ類,カエル類,ザリガニ類,およびドジョウやフナなどの魚類を食べる.コサギは,魚類,カエル類,ザリガニ類などを食べる.アオサギは,主に魚類を食べるが,両生類,昆虫類,甲殻類,ネズミ類,水鳥の幼鳥を食べることもある.
保護の現状
 と留意点
 ゴイサギ以外の種は,現在,「鳥獣保護法」により捕獲,飼養,譲渡などが規制されている.また,多くのサギ類は大型で,魚類や両生類などを採る肉食性であるため,その増減は生態系そのものへの影響が大きい.さらに,集団営巣地は,一度,破壊されると,そこを利用していた多くの種・個体に影響が出るので,慎重な対応が求められる.一方,大型の鳥が多数集まって繁殖するのであるから,植生や周辺住民への影響は大きい.巣作り用に枝が折られ,糞をかけられ続けるとその木々は枯れてくるし,騒音や悪臭のために,住民から苦情が出ることがある.特にアオサギにおいては,これら以外に,植えたばかりのイネを踏む,飼っている魚類を食べられるなどの苦情もある.大型のサギで,人家近くの高木に営巣することもあるため,ほかのサギよりもその与える被害は大きい.河川敷に集団営巣地がある場合は,年によってはヤナギが流されるほどの大きな増水があり,巣が流されたり,営巣地が失われることもある.しかし,採餌場所が近い,水辺なので外敵が入りにくい,騒音や悪臭が住宅地などに届きにくい,川沿いに飛ぶことが多いので住宅地などに糞を落すことが少ない,河川敷のヤナギならば枯れても問題になりにくいなど,有利な点が多いと思われる.嶺南地方では,以前は河川敷にも集団営巣地があったが,ヤナギ林が少なくなったためか,小島嶼に集団営巣地が見られることが多い.小島嶼は限られた地域にしかないので,河川敷のヤナギ林を残すことが,重要な保護の手段だと考えられる.河川敷で繁殖する可能性が少ないアオサギは,苦情が出ない安全な集団営巣地が,限られると思われる.被害が大きく,やむを得ない場合には,繁殖中に駆除するのではなく,早い段階で追い出したり,営巣しそうな枝を切るなどの方法が考えられる.コロニーの移動先で再び苦情が出ることも考えられるので,良い集団営巣地が得られるまで,根気強い対応が必要になりそうである.本県において,集団営巣地の大きなものは九頭竜川と日野川のものだけになっており,全県的に減少している傾向がある.河川の工事や整備,繁殖地への人の出入り,大水や大風の影響など,色々な原因が重なっていると考えられる.そのうち,治水のための工事や川辺林の整備には,繁殖期をはずす,年ごとに分けて切る,専門家にアドバイスをもらうなどの配慮がされるようになってきている.
 なお,新潟県阿賀野川の中州にあるサギ類の集団営巣地が工事現場になるため,別の場所にサギの模型を設置して誘導するなどの試みが行なわれている.このようなことが成功すれば,工事への対応だけでなく,苦情が出にくい場所への集団営巣地の移動も可能かも知れない.現在ある営巣地を保全するには,そこの改変を行なわず,また,オフロード車や釣り人の侵入を防ぐ必要がある.河川敷の改変が治水上必要な場合でも,実施時期を変更するなどの配慮が望まれる.車や人の侵入に対しては,河川法の改正で地域住民の同意があれば規制できるようになっており,本制度の的確な運用が望まれる.サギ類を含め多くの鳥類の生息環境となっている河川は,市街地にあっても貴重なグリーンベルトのような存在になっている.河川敷の自然環境を残すことは,市街化が進んだ地域において効率の良い自然保護になると考えられる.治水,利水の必要性もあって河川の自然環境の保全は難しいが,改変にあたっては多自然型工法などを取り入れることが求められる.また,整備された人工的な河川よりも,生物の多様性保全の立場から自然が残された河川の方が好ましいという,価値観の普及も大切であろう.


 


(C) 福井県自然保護課
出典「福井県のすぐれた自然(動物編、植物編、地形地質編)」(1999年 福井県自然環境保全調査研究会監修 福井県発行)