福井県みどりのデータバンク すぐれた自然データベース
昆 虫 類
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名   称 六呂師高原の止水環境
学   名
分 類 1 昆虫類
分 類 2
位   置
(2kmメッシュ番号)
大野市:南六呂師(159,160),硲(160),勝山市:池ヶ原(183,184)
選定理由 生物学的な多様性(種数)を保持している自然
区   分 A(全国レベルで重要、または県レベルで特に重要なもの)
解   説  六呂師高原は、経ヶ岳の火山活動によって形成された大野市と勝山市にまたがる標高約400 〜600m の台地で,凹地には湧き水や雨水がたまってできた池や湿地が形成されていた.これらの池や湿地の多くは,高原の開発により埋め立てられ消失または縮小されたために,これまでにハッチョウトンボのように絶滅した種も存在する(松村,1992a ).しかし現在でも,大池(標高440m ),妻平湿原(標高510m ),馬取池(標高560m ),池ヶ原湿原(標高600m )などが残存し,標高460m 付近には,水生植物が繁茂した農業用のため池もある.六呂師高原の止水群は,県内の同じ標高に止水群がほとんど存在しないこと,湿原や池が混在するために多様な止水環境が存在することなどから,特異な水生昆虫相を維持してきた.なかでも大池は,六呂師高原以外からは県内で他に1 ヶ所しか記録がなかったコオイムシとマルガタゲンゴロウが,両種とも多産する貴重な池である(松村,1993 ;福井県自然環境保全調査研究会昆虫部会,1998 ).また馬取池には,六呂師高原内で最も多様なトンボ類が生息し,マルガタゲンゴロウの記録もある(松村,1992a ;松村,1993 ).その他にも,六呂師高原では,今回自然特性に選定されたオオコオイムシ,ゲンゴロウ,マルタンヤンマなどが生息している(松村,1992a ;松村,1992b ;松村,1993 ).
保護の現状
 と留意点
 六呂師高原の止水群の中で特に貴重である大池と馬取池は,渇水期に水涸れが起こっている.また大池は,かつて地元の子どもたちが水浴びをして遊んだというほど美しい池であったにもかかわらず,現在は腐臭が発生し,水質が悪化している.この2 つの池では,1990 年以降の観察に限っても,水生植物の繁茂の進行や乾燥化に適応した植物の侵入が確認された.水生植物の繁茂は,開水面積を減少させ,トンボ類の生息種に影響を与えている.さらに,産卵,孵化,幼虫の成長などの繁殖活動を水中で行う水生昆虫にとって,長期間の水涸れは繁殖活動そのものを不可能にさせる.よって,この2 つの池は,池の貴重性と環境悪化の程度を考慮すると,当面は渇水期の水を確保し,将来的には周辺に樹林帯が発達するような保全対策を早急に実施すべきである.一方,六呂師高原の止水群に生息する水生昆虫類の多くは,人間の生活空間の身近に生息しているが故に,その活動の拡大や変化により急激に減少した種である.現在もこれらの昆虫類が,一定の区域にまとまって育まれている六呂師高原の止水環境の多様性は,今となっては大変貴重な存在であり,止水群全体の保全も考えねばならない.さらに,当地には自然保護センターが建設され,六呂師高原の止水群を,県民が身近な水生昆虫類との共存を考える学習の場として利用することも可能であり,このような普及啓発活動は,長い目で見た保全策として必要である.最後に,水生植物が繁茂する農業用のため池では,ゲンゴロウ,オオコオイムシ,オオルリボシヤンマ,ギンヤンマ,ネキトンボなどが生息している.止水環境の新たな創造は,既存の止水環境の保全と共に,水生昆虫の多様性を守る上で有効である.





(C) 福井県自然保護課
出典「福井県のすぐれた自然(動物編、植物編、地形地質編)」(1999年 福井県自然環境保全調査研究会監修 福井県発行)