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ナホトカ号重油流出事故による水鳥救護の記録

−治療・洗浄−

生体で保護された個体は、1月9日〜27日には福井市の柴田獣医科病院と敦賀市の田辺獣医科病院で、1月28日〜3月10日には福井市の県家畜保健衛生所で、洗浄、治療および初期のリハビリテーションがなされました。これには、計56人のボランティアの協力を得て行われました


保護された水鳥は段ボール箱に入れ保温し安静に保つ

安静・保温

油に汚染された水鳥は保護された時点でかなり衰弱し低体温症に陥っていたため、まず第一に行なうべきことは、洗浄や給餌ではなく安静状態を保ちつつ保温に努めることでした。

適当な大きさのダンボール箱に新聞紙を敷き、クリップライトを利用して25℃前後に温度を保ち安静にさせました。



汚染の程度や衰弱状態を診断する.

診断

救護場所に搬入された鳥は、おおまかな種類判別、体重測定を行 なうと同時に、油汚染の程度、栄養状態、脱水、反射、採食反応、外傷の有無を把握し(写真)、状態の良好な個体は直ちに洗浄しました。

また汚染の程度にかかわらず状態の悪い個体は活性炭による消化管洗浄、補液、強制給餌、保温などの治療を優先しました。



細部の油は歯ブラシで落とす

洗浄

洗浄はあらかじめ保定係と洗浄係を決めておき、保定者は、常に鳥の状態を観察し必要があれば洗浄を中止しました。そして、鳥の大きさに応じ、たらいやベビーバスに41℃の温湯を用意し、台所用中性洗剤を2〜5%溶液となるように入れました。(油を落とすために灯油、ベンジン、アルコールなどを使用すると鳥が中毒を起こす可能性があるばかりか、油が羽の芯まで浸透して逆に落ちにくくなるため、このような化学物質の使用は避ける必要があります。)

大型の鳥は術者の安全のために嘴に綿棒をかませ輪ゴムで止めた上からビニールテープで二重に固定し、次に目の保護のためにテラマイ油性点眼薬を点眼した後、ゆっくりと温湯に寝け洗浄を開始しました。洗浄においては擦り洗いは禁忌であり、指を震わせながらその対流で油を洗い出すようにゆっくりと丁寧に作業することが必要となります。頭部は嘴をつかみながら指の腹または綿花、歯ブラシを使い洗浄しました(写真)。


過剰な洗浄で傷つく場合がある

汚れが落ちにくい部位は洗剤の原液を使うとよい。一方、過剰な洗浄は皮膚の損傷を招く恐れがあるため注意を要します(写真)。

鼻孔や目に泡がついたらすぐに吹き飛ばし、また、眼周囲と嘴周囲は汚れが残りやすいため、注意深い洗浄が必要でした。


羽軸に沿って押し洗いする

羽は羽軸に沿って指で押し洗いしました(写真)。3回以上温湯を交換して洗浄し、1回毎に洗剤を入れる前に濯いで汚れの落ち具合を確かめ、完全に汚れが落ちるまで繰り返しました。特にえき窩は汚れが残りやすいので注意する必要があります。

また、水かきは非常に脆く裂けやすいので丁寧な取扱が要求されます。


シャワーで洗剤を流す

洗浄が終了したらシャワーを使って、頭部から首、翼、背、尾、腹の順に水圧をかけて十分にすすぎました。仕上げは肩羽、雨おおい、脇の羽を整えるようにシヤワーを流し、羽を整列させています(写真)。



ペーパータオルで水気をとる

乾燥

乾燥は非常に長時間を要す作業であった。まずタオルの上に鳥を保定し、ペーパータオルを軽く押しあて水気を取りました(写真)。


ドライヤーで乾かす

脇の下にもペーパータオルをはさみ水分を吸収させた後、わずかに温風があたる程度に遠ざけたドライヤーで腹部を乾燥させました(写真)。

この時も羽を擦ることは避け、羽毛に空気がたまるように心がけるとともに、指は左右には移動させずに片側だけに動かすことにより、羽毛のよじれを防止しました。

この一連の作業はあくまでも油に汚染された鳥を自然に復帰させる事を目的としているため、注意深く、丁寧な扱いが要求されます。


足を保護するためにタオルなどを敷く

さらに底にネットを張るとよい



衰弱の激しい個体には、フィーディングチューブで給餌する

給餌

汚染を受けた鳥類が野外復帰するための目標として自力採餌能力の回復があります。しかしながら、保護される鳥のほとんどはその能力がなく強制給餌を必要としました。状態のよくない個体に対しては流動食とし、ワカサギをすり潰したものに、5%グルコースおよび乳酸リンゲル液を混合し、さらに整腸剤、総合ビタミン剤を添加したものを用い、フイーデイングチューブにより給餌しました(写真)。

フイーデイングチューブは、10ないし20フレンチのものを水鳥の大きさにあわせて使用しました。また比較的状態の良い個体においては、すり身にはせずにそのまま強制給餌することもありました。強制給餌後は約30秒間頭部を伸張させた状態で保定し、燕下を確認しました。

流動食用には主にワカサギを使用し、初期の給餅量は体重の10%を目安としました。2、3日経って主な餌となるワカサギ、イワシ類、アジなどの魚類を直接与えると徐々に体重が増加しました。食欲が回復してからは、食べられるだけ与えています。



保護回収 [image] 洗浄治療 [image] リハビリ [image] 放鳥
援助物資

(出典 「ナホトカ号重油流出事故による 水鳥救護の記録」 1998年3月 油汚染水鳥救護福井の会)
福井県自然保護課