表 題 |
ナホトカ号重油流出事故による海岸植生への被害の程度と影響について |
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著者名 |
多田雅充・横山俊一 |
掲載巻 |
Ciconia Vol.7 |
発表年 |
1998 |
分 類 |
植物 |
要 約 |
ナホトカ号沈没により流出した重油は生物に有毒な化学成分の最も少ないCタイプであり,また,座礁した船首部から流出した重油を除き,海岸に漂着した油のほとんどは流出から5日以上経ち,含まれていた揮発成分はほとんど蒸発し,さらに海水と混じりゲル化していた.そのため植物へ付着した時点で,すでに生物への毒性は低下していたであろう. そして,海岸に漂着した重油は,そのほとんどは水域に留まり,陸上へはその一部だけが波浪によって打ち上げられるか,風によって飛ばされていた.さらに,漂着・飛着した重油は,その多くが初期において人間によって海岸から除去された.そのため,大量の重油が植生域に留まることはなかったであろう. 福井県における海岸植生は,波浪や潮風のために汀線からではなく,本来,数m以上の内陸に存在している.そのためマングローブ林などと違って大量の重油を被ることはなかった.砂浜でも波浪によって,せいぜい汀線から40mまでしか重油が漂着しなかったことより,多くの海岸植物に大きな被害はなかったと考えられる. 重油の付着した植物においても,その時期が休眠期または低活性期の冬期であったことが影響を小さくしたものと予想される.そのため,多くの植物が,ほぼ正常な生活環を回復させていた.ハマウドに起こった一斉枯死も,重油による影響よりも潮風害によって弱まった植物体が真菌類に感染されて生じたものと考えられる. しかし,今回の植生への重油汚染の程度または影響は,油の種類,漂着場所,汚染の時期・期間,植生の位置などの点でいくつかの好条件が重なった結果であり,これら以外の場合は,顕著な被害や影響がでることが予想される. |