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概  説 (陸産貝類)

 絶滅種や希少種の選定には,福井県内で記録のあった全ての種に対して,その証拠となる標本の分類学的な再検討を行ない,その生息地及び生息環境を再調査し,さらに県内全域の生息の現状を把握し,今後の証拠となる新たなる標本を採集,あるいは確認・標本化した上で,その生息状況の増減を解析しなければ正確さを記することはできない.

 その点で,福井県には過去の記録として,陸産貝類・淡水産貝類の調査記録の纏まったものとしては,黒田(1933 ),窪田(1933,1966 ),斉藤(1941,1952 ),長谷川(1976 )があり,陸産及び淡水産の貝類については,継続して調査が実施されている県である.最近では,県内に生息する陸産貝類・淡水産貝類の生息状況の現状を把握するために,1980 年度から1983 年度までの4 年間の第一次「福井県みどりのデータバンク」調査(福井県,1985 ),1993 年度から1997 年度までの5 カ年の第二次「福井県みどりのデータバンク」調査(福井県,1998 )が長谷川を中心に実施され,陸産及び淡水産貝類の分布域の拡大や縮小等の比較検討を実施している.分布調査は,県内を2Km 四方の1179 メッシュに区分した台帳に記入し,種の変遷をも記録した.前後2 回の調査は,生息確認地点のみならず,生息数,環境変化も視野に入れての調査であり,より希少種を解析する上で精度の高いものとなっていると考えられる.

陸産貝類概説

 陸産貝類については,その定義が研究者によって異なるが,福井県の陸産貝類については,亜種を含め4 目22 科103 種が記録されている.この中から,種の特性と種の生息各認地点数,生息地の中山間地振興事業や水資源保安林整備事業,林道や一般道建設,市街化の進捗状況等の地域性を考慮して,県域絶滅は3 種,県域絶滅危惧T類は4 種,県域絶滅危惧U類は16 種,県域準絶滅危惧は6 種を選定した.

 ヘソカドガイとウスイロヘソカドガイは,福井市立自然史博物館に四ケ浦産の標本が残されているが,1966年以降確認されていない.現在の生息状況は,ヘソカドガイが房総以西の暖かい本州以南であり,ウスイロヘソカドガイは,奄美諸島以南が生息地であることから,対馬暖流の影響を受けている四ケ浦でも生息するとは考えにくい.また,クリイロカワザンショウガイは,高塩性で河口域の沿岸や海岸部の飛沫帯に生息するものであるが,1966 年以降生息が確認されていない.県内の護岸工事,新設漁協防波堤,消波ブロック敷設等による自然海岸の生息地の環境変化が要因としてあるものと考えられる.また,ロシアタンカー重油流失事故は,越前,若狭の海岸地帯が汚染され,海岸線の上部や潮間帯の生物には多大な影響を与え,生息域の減少に拍車をかけた.現在では絶滅したものと考えられる.

 県域絶滅危惧T類とした種は,微小貝の1953 年以降確認されていないナタネキバサナギガイである.過去50年ほど確認されていないが,調査精度のこともあり,情報不足なので絶滅の断定ができない.その他のヤマクルマガイ,コベソマイマイは,県域絶滅危惧U類のアツブタガイと同様,本州中部から以西の本州,四国,九州には普通に生息する種であるが,動物地理学的に東西日本の境界線上にある福井県の嶺南地域にしか生息しないものであり,しかも,若狭地方に限定されている.近年の若狭湾岸の大型プロジェクト工事や,道路建設,中山間地開発等により,生息環境は大きく改変されている.

 その他の県域絶滅危惧T類は,福井県を模式産地とするニクイロシブキツボ(フクイシブキツボを含む)である.フクイシブキツボは,解剖学的にニクイロシブキツボと連続するものであり地方型としている.ニクイロシブキツボは,他県で生息地が続々確認されてきているが,県内では,模式産地が辛うじて生息しているのみで,しかも生息地は土石採集場として減少の傾向である.絶滅は時間の問題である.フクイシブキツボの模式産地は,道路擁壁の工事のため,生息地が消滅している。キョウトギセルは,他県でも数カ所で生息が確認されているに過ぎない.10 年ほど前まで県内でも数地点確認されているが,近年の林道開発や大型開発工事にともない生息地が減少し,生息個体数も激減している.

 県域絶滅危惧U類では,オオウスイロヘソカドガイも一カ所の洞窟,嶺南地区若狭のみ生息する希少なアツブタガイ,生息地が2 地点のヤママメタニシ,水辺の湿潤な河川や堤内地のアシ原,休耕田にしか生息しないナガオカモノアラガイ(カンサイオカモノアラガイ),石灰岩地帯の固有種のクチマガリスナガイ,約50 年ぶりに確認されたヤマトキバサナギガイ,奥越地域の美麗なトノサマギセル,乾燥に耐える構造を持たず,湿潤な所でしか生息できないヤマコウラナメクジ,乾燥に弱いミドリベッコウ,冠山を模式産地とし,数地点しか確認されないカンムリレンズガイ,生息域が急激に減少しているココロマイマイ,エチゼンケマイマイ(オウミケマイマイ),ハクサンマイマイ,冠山のみ生息が確認されているカンムリケマイマイ等を選定している.いずれも,近年の林道開発,砂防ダム建設,水資源保安林整備で,生息地の落葉広葉樹林が伐採され,乾燥化が進行し,生息地が大きく改変されている種ばかりである.極めて移動性に劣る陸産貝類は,環境悪化を回避することができない.生息地の減少そのものが種の絶滅につながる.

 県域準絶滅危惧とする種は,県内海岸線上に局所的に生息するヒメオカマメタニシ,山岳地の清涼な環境に生息する希産のクリイロキセルガイモドキ,オクガタギセル,比較的温暖で湿潤な環境を好むオオコウラナメクジ,ケハダビロウドマイマイ,美麗がため収集の対象となるコガネマイマイを選定している.2回の調査の変遷で,急激に生息分布地や確認個体数の激減した種ばかりである.

 その他の陸産貝類の生息地や生息個体数も減少傾向にある.敦賀を模式産地とするツルガマイマイやウスカワマイマイは平地に,オオケマイマイ,コオトメマイマイ,クロイワマイマイ,ヤマタカマイマイ等は山地に普通に見られ,微小貝のゴマガイ,ケシガイ,ムシオイガイ,ベッコウマイマイも普通に見られる.ノハラナメクジは増加傾向があり,ウスカワマイマイ,オナジマイマイ,ナミギセルも一般的である.他県と比較して福井県は陸貝の生息状況はまだ辛うじて保全されていると言えよう.

(長谷川巌)
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