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概  説 (昆虫類)

 ある地域の生物相の多様度は,その地域の自然環境の豊かさと相関する.多様性の尺度は単純にみるならば,そこに生息する昆虫の種数ということができる.そして,その種数はその地域の面積と相関し,環境の多様度が関連し,島であれば陸地からの距離と一定の関数が成立する.ただし,この種数というのは,そこに生息するすべての昆虫がリストアップされて,はじめて可能なのであり,したがって調査精度が常に問題となる.環境評価の基礎となる福井県の昆虫相の調査は,1973 年〜75 年度に行われ,1976 年,「福井県自然環境保全基礎調査報告書」として刊行された.次いで,昆虫相は,「福井県昆虫目録」(1985 年)において6544 種であった.さらに1993 〜95 年度現地調査,96 年集約,1997 年刊行の「福井県昆虫目録(第2 版)」において,7862 種である.その後も調査は継続され,公刊されたものと印刷中の文献データを加えると約8100 種となる.これらの増加は福井県に生息する昆虫の種数が増加したわけではなく,それまで未発見または同定できなかったものが判明したにすぎない.
 生物地理学的観点から福井県の昆虫相を概観すると,本格的な高山性昆虫は,富山県・石川県・岐阜県に比べて大幅に少なくなるが,奥越や南越の山地を中心に北方系昆虫の分布が見られる.その中には日本海側における分布南限となっているものも少なくない.一方,若狭湾島嶼およびその周辺の半島部は照葉樹林に覆われ,暖地性昆虫が多く,特に島嶼は閉鎖的生態で,構成される種が限られている代わりに,特有の種の個体数がやたらと多いという傾向が見られる.福井県の昆虫相を包括的に見た場合,本州のほぼ中央にあり,日本海に面する位置関係から,日本の平均的昆虫相を示すことは容易に理解されるが,敦賀湾から伊勢湾にかける柳ケ瀬断層を境界とする植物分布の区系地理学的区分が昆虫においても認めれる.このような福井県の昆虫相は,旧北区系昆虫を基本にしながら,東洋区系昆虫の分布が混入しているという日本列島の昆虫相の縮図ともいえる.
 福井県では,環境省(当時環境庁)が1997 年に発表したカテゴリーを福井県域に置き換えて,評価,分類を次のように行うこととした.

●県域絶滅(2種) 福井県内では野生では絶滅したと考えられる種.
ゴマシジミ(中部地方亜種) ヒメヒカゲ
 
●県域絶滅危惧T類(34種) 絶滅の危機に瀕している種.
ヒラサナエ フタスジサナエ カトリヤンマ トラフトンボ キイロヤマトンボ カオジロトンボ タガメ カワムラナベブタムシ ヤシャゲンゴロウ コガタノゲンゴロウ シャ−プゲンゴロシナノキチビタマムシ ミヤマツヤセイボウ コツノアリ ツノアカヤマアリ アケボノベッコウ アジアキタドロバチ ハグロフタオビドロバチ ヤドリホオナガスズメバチ カラトイスカバチ シモヤマギングチ ムロタギングチ タイセツギングチ アギトギングチ カワラアワフキバチ キアシハナダカバチモドキ マエダテツチスガリ ミドリコハナバチ コガタホオナガヒメハナバチ タイリクハキリバチ ナガマルハナバチ ホシチャバネセセリ クロシジミ オオウラギンヒョウモン
 
●県域絶滅危惧U類(33種) 絶滅の危険が増大している種.
ホソミイトトンボ グンバイトンボ ホンサナエ オグマサナエ ネアカヨシヤンマ イトアメンボ コオイムシ ゴミアシナガサシガメ ミヤマツヤハダクワガタ カワラハンミョウ ハラビロハンミョウ ナカイケミヒメテントウ ザウターカギバラバチ オキナワシリアゲコバチ ヤマトセイボウモドキ ウチダハラナガツチバチ ケブカツヤオオアリ アメイロオオアリ エゾアカヤマアリ アカヤマアリ フカイオオドロバチ チャイロスズメバチ シモヤマジガバチモドキ タケウチギングチ ニトベギングチ キユビギングチ ニッコウツヤアナバチ コムカシハナバチ エサンキマダラハナバチ ゴマシジミ(白山亜種) ツマジロウラジャノメ ツマグロキチョウ ウラナミジャノメ
 
●県域準絶滅危惧(34種) 存続基盤が脆弱な種.現時点での絶滅危険度は小さいが,生息条件の変化によっては「絶滅危惧」として上位ランクに移行する要素を有するもの.
ムスジイトトンボ ルリイトトンボ アオハダトンボ キイロサナエ タベサナエ アオヤンマ カラカネトンボ エゾエンマコオロギ ヤマトバッタ ハネナガクモマヒナバッタ カワラバッタ ヒメハルゼミ エサキアメンボ オオコオイムシ シロヘリツチカメムシ コカスリウスバカゲロウ ゲンゴロウ オオクワガタ オオチャイロハナムグリ サビナカボソタマムシ オシマヒメテントウ セアカオサムシ ツネキアリバチモドキ フクイアナバチ フジジガバチ ニッポンハナダカバチ イカズチキマダラハナバチ クロアシエダトビケラ スジグロチャバネセセリ ヒサマツミドリシジミ ヒメシジミ オオムラサキ ベニヒカゲ アオモンギンセダカモクメ
 
●要注目(78種) 評価するだけの情報が不足している種.どの生息地においても生息密度が低く希少である.生息地が局限されている.生物地理学上,孤立した分布特性を有する.
ムカシトンボ マダラヤンマ エゾトンボ ハッチョウトンボ キトンボ マイコアカネ ナカジマシロアリ セッケイカワゲラ ミネトワダカワゲラ Calineuria jezoensis ミヤマノギカワゲラ クチキコオロギ カワラスズ マツムシモドキ アカハネバッタ オマガリフキバッタ アカエゾゼミ モンシロミズギワカメムシ トゲミズギワカメムシ ヨコヅナツチカメムシ マガタマハンミョウ ハクサンクロナガオサムシ ハクサンホソヒメクロオサムシ マスゾウメクラチビゴミムシ アスワメクラチビゴミムシ マルガタゲンゴロウ コオナガミズスマシ マダラクワガタ ルリクワガタ マグソクワガタ オオムツボシタマムシ アオナガタマムシ サシゲチビタマムシ ガマキスイ イノウ エホソカタムシ クロジュウニホシテントウ アミダテントウ ヒゲブトナガクチキ ミスジナガクチキ ワモンオビハナノミ フタイロカミキリモドキ クチナガチビキカワムシ モンシロハネカクシダマシ ベーツヒラタカミキリ ヒラヤマコブハナカミキリ ホクリクヒメハナカミキリ ムナコブハナカミキリ オガサワラチャイロカミキリ ニッポンモモブトコバネカミキリ スネケブカヒロコバネカミキリ キュウシュウチビトラカミキリ ヤノトラカミキリ ヤツボシシロカミキリ クロオビトゲムネカミキリ イチモンジハムシ ナガフトヒゲナガゾウムシ チャバネホソミツギリゾウムシ ホソミツギリゾウムシ タカハシトゲゾウムシ キンケツツヒメゾウムシ ワモントゲトゲゾウムシ ハクサンシリアゲ ハマダラハルカ アルプスニセヒメガガンボ アヤヘリガガンボ ウスキシマヘリガガンボ ヒメハスオビガガンボ キバラガガンボ クモガタガガンボの一種 トワダオオカ オオバヒメアミカ ヒゲブトルリミズアブ オオヒゲナガハナアブ モトドマリクロハナアブ スズキナガハナアブ ミカドハマダラミバエ ハイイロボクトウ ムモンアカシジミ
 以上に掲げたそれぞれの種のカテゴリーは,分類群によっては評価の基準が均一でないものがある.それは調査の精度や環境の変化の影響の受け方に差があるため,たぶんに客観化できないからである.
 
参考文献
福井県自然環境保全調査研究会昆虫部会(編).1985 .福井県昆虫目録.405 頁,福井県.
福井県自然環境保全調査研究会昆虫部会(編).1998 .福井県昆虫目録(第2 版).555 頁,福井県.
福井県自然環境保全調査研究会(編).1999 .福井県のすぐれた自然,動物編.452 頁,福井県.
(佐々治寛之)
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