福井県レッドデータブック データベース

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概  説 (鳥類)

 日本鳥類目録改訂第6 版(日本鳥学会 2000 )に収録されている鳥類は,18 目74 科542 種に外来種の26 種を加えた568 種である.福井県でこれまでに記載または記録された鳥類は,「福井の鳥とけものたち」(福井県自然環境保全調査研究会1998 )においてまとめられ,18 目63 科317 種となっている.しかし,このリストの中には,観察状況が曖昧であったり,古い記録しか存在しないなどの理由で,()でくくられた種を11 種含んでいる.この内,セグロミズナギドリ,コシジロウミツバメ,ライチョウ,マキノセンニュウ,コベニヒワの5種については,東谷(1966 )のみに記載され,その記録の根拠が明確でなく,それ以後の観察記録もないために今回は除外した.一方,記録が確実な4 種(オナガミズナギドリ,トキ,ヒメクイナ,ノガン)および,1999 年以降に確実な観察記録のあった2 種(サカツラガン,ヒメアマツバメ)は,今回のリストに残した.したがって,上記の5 種を除外すると312 種となる.
 さらに,「福井の鳥とけものたち」(福井県自然環境保全調査研究会1998 )に記載漏れのあった種としてフルマカモメ(小嶋・松村 1997 )とアカハラダカ(電源開発株式会社・北陸電力株式会社1995 )および,1998 年以降に新たに確認された種としてシジュウカラガン(水野吉彦私信),チュウジシギ(福井県自然保護センター収蔵標本),カラフトワシ(小沢俊樹 2002 )があり,これら5 種を加えると2002 年3 月までに福井県の鳥類種数は18 目63 科317 種となる.なお,日本鳥類目録改訂第6 版(日本鳥学会 2000 )に外来種として収録されている26 種の内,福井県で記録されている種は,コジュケイ,カワラバト(以下ドバト),オオホンセイインコ,ブンチョウの4 種である(日本野鳥の会福井県支部1995).しかし,今回,福井県の鳥類リストに加えたのは,県内で定着していると考えられるコジュケイとドバトの2 種とした.インドガンは福井県で記録されているが(日本野鳥の会福井県支部1995),今回は検討中としている日本鳥類目録改訂第6 版(日本鳥学会2000 )に従い,福井県産リストには加えていない.
 これらの種数を出現時期により分類するには,不明な点が多く判断に困難を伴うが,あえて,データ蓄積量の多い隣県の石川県の記録等も参考とし分類した結果,絶滅種であるトキを除いて,本県で周年観察されるものが74 種(23.4 %),夏期に繁殖のために渡来するものが44 種(13.9 %),冬期に越冬のために渡ってくるものが99種(31.3 %),春,秋の渡りのシーズンに通過していくと考えられるものが76 種(24.1 %),本来の渡りのコースを外れて稀に迷行してきたと考えられるものが23 種(7.3 %)となる.
 水辺と山野という環境で大別すると,水鳥(渉禽類・水禽類)は,アビ目3 種,カイツブリ目5 種,ミズナギドリ目7 種,ペリカン目5 種,コウノトリ目18 種,カモ目36 種,ツル目9 種,チドリ目65 種の計148 種(47.7 %)となり,陸鳥(樹鳥類・地鳥類の一部)は,タカ目23 種,キジ目4 種,ハト目4 種,カッコウ目4 種,フクロウ目6 種,ヨタカ目1 種,アマツバメ目3 種,ブッポウソウ目6 種,キツツキ目5 種,スズメ目113 種の計169 種(53.3 %)となる.同じ基準で日本産の鳥を区分すると水鳥が51 %であり,本県は水鳥の比率が低くなった.その理由として,水鳥が多く集まる干潟などの湿地環境が少ないこと,海洋性の鳥類の調査が進んでいないことが挙げられる.
 また,本県は日本列島のほぼ中央に位置し,日本海に面した北陸地域にあって,隣県である石川県の能登半島や舳倉島のような日本海に飛び出した地形を持たないために,石川県に比して,迷行飛来する種が少ない一方で,より南に位置することで,越冬のために飛来する種の割合が高くなっている.福井県の鳥類相の中で絶滅した種としてトキが挙げられる.江戸諸国産物帳には1730 年代の越前国においてトキの記載があり(安田健 1987 江戸諸国産物帳.晶文社.119pp .),福井県には20 世紀半ばまでトキが生息していた.しかしながら,1957 年に福井市久喜津町の日野川で1 羽が銃殺死体で発見されたのを最後に記録がない.また,コウノトリは,日本産の繁殖個体群が,1960 年代まで本県と兵庫県に残存していた.しかし,1966 年に小浜市粟田での繁殖記録が最後となり,それ以後,時折,迷鳥として飛来するだけとなった.種としては絶滅には至っていないが,本県産,次いで兵庫県産の繁殖個体群の絶滅により日本の繁殖個体群は絶滅の道をたどった.
 
選定基準
 本県で記録された317 種について,日本野鳥の会福井県支部と福井県自然保護センターのデータベースを用いて,福井県のカテゴリー基準に従いながらレッドリストを選定した.さらに,データ量が少ない場合や判断に迷った場合には,長年の観察経験を持つメンバーの意見や,隣県の生息状況や選定状況を参考にして判断した.選定の基準は以下の通りである.

(1) 環境省のレッドリストの選定種
基本的に本県のリストにおいても選定する.カテゴリー区分は,要注目を除き,本県の区分が環境省の区分より低く評価されないように配慮する.
 
(2) 生息地や確認記録の減少した種
過去から現在を比較し,その減少程度を重要な基準として評価する.
 
(3) 確認記録
選定にあたっては,過去20 年間に5 回以上の確認記録がある種を中心に選定を加える.ただし,夜行性と外洋性の種は観察が困難であること,隣県の生息状況により本県の生息状況を推定することが可能であった場合には,5 回未満でも選定の対象とする.
 
(4) 本県が生息環境として重要な種
繁殖種と越冬種は,本県の環境がその種の生存に重要な意味を持っているとの判断から,旅鳥に比べて評価の比重を重くし,迷鳥については基本的に除外する.
 
(5) 環境変化を反映する種
食物連鎖の最上位に位置する猛禽類や,湿地や河川敷などの限られた環境に生息する種は,環境変化に弱いことや,その環境の指標種としての評価を加味し選定する.
 
(6) 繁殖個体群
主に冬鳥として普通に渡来するが,一部は本県で繁殖しており,その個体数が少ない場合には,繁殖個体群として評価し選定する.
 
(7) 亜種の取り扱い
亜種の識別が可能で,本県においてもその記録が存在し,亜種ごとに評価が異なる場合には,亜種を種と同様に扱い選定する.
 
選定にあたって
 この福井県版レッドデータブックを活用するにあたり,特に次の諸点に配慮していただきたい.
  1.  レッドリストは絶滅の危険性についてランク付したもので,重要性のランク付ではない.自然を守るためには,選定外を含めた全ての種がその構成要素として重要である.よって,選定外の種(亜種)であっても,注意は必要といえる.
     
  2.  今回の評価は,限られた情報にもとづいたものであり,状況はたえず変化する.よって,全ての種(亜種)について状況の変化を把握できるように,データを収集し続ける努力が必要である.
     
  3.  レッドリストは,特定の種(亜種)だけを守ることに本来の目的があるのではなく,絶滅に頻している種(亜種)を守ることで,結果的に生物多様性の保全を目指している.しかしながら,一度絶滅した種(亜種)は,人間の手による再生は不可能である.第二,第三のトキやコウノトリを出さないことも重要である.
     
     最後に,今回の選定作業にあたっては,希少な種であるがゆえに観察頻度が低く,データ不足のために生息実態がつかめていない種が多数存在する.このことは,本来,レッドリスト種として選定されなければならない種であるにもかかわらず,データ不足により判断ができずに,抜け落ちてしまっている種があることを意味する.また,ランク付けにおいても,同様な理由で,必ずしも的確な評価ができていない可能性がある.したがって,あくまで,現時点でのデータに基づいた評価である.今後も,定期的に実施される緑のデータバンクや,日本野鳥の会福井県支部等による調査データを加えながら,現状を反映した精度の高いリストに改訂していくことが必要である.
(上木 泰男)
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