福井県レッドデータブック データベース

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概  説 (両生類)

 日本における両生類の種類は,現在のところ亜種を含めてサンショウウオ目3科22種,カエル目5科42種が知られている.本州にはサンショウウオ目3科14種,カエル目4科17種が分布している.本県では,サンショウウオ目3科6種,カエル目4科13種が記録されているが,隣県と比較すると,ホクリクサンショウウオ,ブチサンショウウオ,カスミサンショウウオ,ナガレタゴガエル,ヌマガエル等が本県には生息していない点で異なり,動物地理学上,福井県は東日本と西日本の微妙な境界域にあたる特異な生息域である.

 県内の両生類については,1980年より1983年の4ヵ年の第一次「福井県みどりのデータバンク」調査,1993年から1997年の5ヵ年の第二次「福井県みどりのデータバンク」補完調査を実施し,県内を2km四方の1179メッシュに区分した台帳に生息地・生息数の確認,生息地の環境変化を含めて調査された結果を記入した目録があることから,福井県の両生類の全体像はほぼ把握できている.その結果,県域絶滅危惧T類は2種,県域絶滅危惧U類は1種,県域準絶滅危惧は1種,要注目1種を選定した.

 天然記念物のオオサンショウウオは,過去に,嶺北の九頭竜川本流(1960年),真名川(1935年),未更毛川(1900年)一乗川(1973年,1980年),天王川(確認年不詳),嶺南の五位川(1900年),道木谷川(1970年),槇谷川(1935年),北川(1970年),関根川(1982年),坂本川(1954年)で成体が捕獲されているが,これらは他県から移入されたものと考えられる.最近では,嶺南の佐分利川上流域の川上(1983年)や,耳川(1985年),でも確認されている.川上や染谷川(1970年)では,地元の漁師が60年程前までオオサンショウウオの卵塊を確認していることから,過去には繁殖していたものと考えられる.しかし,各河川とも,「福井県レッドデータブック」作成補完調査では生息が確認できなかった(長谷川,2000年).近年の各水系上流では,護岸工事や砂防工事,国有林の伐採等でオオサンショウウオの生息環境が著しく荒廃しつつあることは,憂うべき事実である.単年度の調査であることから,現在も生息していることを期待して,県域絶滅危惧T類と選定した.

 小型サンショウウオ類では,環境省レッドデータブックの絶滅危惧TA類のアベサンショウウオが生息している.これは,1993年5月にバランサーを持つ止水性サンショウウオと疑われる幼生が長谷川により発見され,1997年に卵嚢や成体が確認され,1998年に京都大学松井正文教授によりアベサンショウウオと同定されたものである.この種は,県外では京都府,兵庫県の日本海側でわずかに分布するものである.福井県での分布域は,環境省の希少野生動植物種保護増殖事業(1998〜99年度),県のレッドデータブック作成補完調査(2001年度)等で確認されたものであるが,坂井郡北部及び,丹南地域で生息が確認され,日本での最大生息地であることが判明した.しかし,小型サンショウウオの中でも生息域が極端に狭い部類に属する本種は,特に産卵場が民家に隣接する丘陵地や山麓部の休耕田の湿地や溝であり,人間の生活圏と重複しているため,常に都市化や開発によって消滅する危険がある.

 クロサンショウウオは,福井県以北では標高数mの低地から標高2,000m以上の山岳地帯まで広く生息しているのに対して,本県では嶺北地域の標高400mから標高1,000mの山岳地帯に局所的に生息するもので,福井県は生息南限にあたる.中山間地の林道開設や水源地域の森林の造成等が進行し産卵環境が減少しているので,要注目種と選定した.

 その他,ヒダサンショウウオは嶺北・嶺南の低地の山麓帯から山地に広く分布し,生息数も多い.ハコネサンショウウオは,確認生息地,個体数は少ないが,ややヒダサンショウウオより高所に分布している.イモリは低地の水田や池・沼等に普通に見られる.

 ヒキガエル類では,アズマヒキガエルが広く生息している.ナガレヒキガエルは嶺北地域の河川の上流域の渓流にのみ生息しているが,砂防ダム等で産卵地が激減していることから,県域絶滅U類とした.

 ダルマガエルは,トノサマガエルと混生し,嶺南地域7地点で生息が確認されている.日本海側として,唯一,福井県若狭地方にのみ分布していることは注目される.背中線を持たず,背面の黒色班は孤立し,腹面の暗色班が顕著であることから,典型的な岡山ダルマ種族に近い個体が多い.また,近年,滋賀県に分布する背中線を持つ名古屋ダルマ種属も確認された.しかし,ダルマガエルは,確認された7地域のうち5地域が圃場整備や大型道路建設により生息環境が改変され,近い将来絶滅すると予想されるので,県域絶滅危惧U類に選定している.

 その他のカエル類では,アマガエルは,低地では県下全域に普通に見られる.ニホンアカガエル,トノサマガエル,ツチガエルは平地や丘陵地,山麓帯等に多いが,生息数は減少している.ヤマアカガエルは,平地から山地帯まで分布域は広く生息個体数も多い.タゴガエルは,普通,山麓帯や低山地に生息し,かろうじて標高1,000mの部子山で見られる程度であり,高所では少ない.モリアオガエルも県下一円に広く生息しており,海岸近くの山際水田から標高1,200m以上の高地でも見みられ,生息数は多い.シュレーゲルアオガエル,カジカガエルも県内全域に分布し,シュレーゲルアオガエルは平地や丘陵地に,カジカガエルは河川の上・中流域に多い.北アメリカからの移入種であるウシガエルは北潟湖周辺から三国の大堤,芦原や金津の丘陵地帯の沼,三方湖,日野川下流域にも生息するようになり,分布域を拡大している.

 福井県は,他県と比して両生類の多様性が保全され,個体数も非常に多いといえる.しかし,近年さまざまな開発の影響を受けて,これまで普通に見られた種まで減少傾向にある.これは水域環境と成体の生息する周辺の陸域環境の両面から影響を受けているためと考えられる.

(長谷川巌)
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