福井県RDB(植物編)タイトル

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概  説 (淡水藻類)

 藻類は海、河川、湖沼などの水中をはじめ湿地など水気を含む地上にも生育し、根・茎・葉の分化が見られない光合成植物の総称で、コケ植物・シダ植物・種子植物を除いた残りのすべてを包含する。分類学的には藍藻類、紅藻類、珪藻類、渦鞭毛藻類、黄色鞭毛藻類、黄緑色藻類、褐藻類、ミドリムシ藻類、緑藻類、輪藻類に分けられる。我が国ではこれまでに淡水藻類だけで、数千種の生育が報告されている。
 これらの藻類は光合成色素のもち方によって次の三つのグループに分けられ、系統的には右図のような系統樹で表される。
@赤色グループ:葉緑素aとフィコシアニン、フィコエリトリンなどの青〜赤系統の色素を大量にもち、青〜赤色を中心とする体色の藻類。A黄褐色グループ:葉緑素aとcを共通してもち、フコキサンチンなど褐色系の色素を大量にもち黄褐色を中心とする体色の藻類。B緑色グループ:葉緑素aとbを共通して大量にもち、緑色を中心とする体色の藻類。この光合成色素のもち方はコケ植物、シダ植物、裸子・被子植物と同じであり、この藻類がこれら陸上植物の直接の祖先とも考えられている。
 また、淡水藻類には生育の場所や状態によって次のように呼ばれるものがある。水中に浮遊生活をしているプランクトン、仮根様のものや粘着物で他の基物に着生する付着藻、湿った土壌表面に生育する土壌藻、樹皮、石垣、ブロック壁など空気中に露出したところで霧、朝露などわずかな水分で生育する気生藻、雪や氷上に生育する氷雪藻、60〜80℃にも達する温泉に生育する温泉藻、大発生した藻類で水の色が藻類特有の色を呈する淡水赤潮、大発生した藻類が塊りをつくって水面に浮遊している水の花など。これらの淡水藻類はそれぞれ各水系における生態系の生産者として主役を担っている生き物である。
 
絶滅のおそれのある種の選定について
@淡水藻類は輪藻類を除いて、単細胞または群体性の小形のもが多く、顕微鏡観察を要するものが大部分である。
A淡水藻類の多くは低温・高温・乾燥など生育環境が悪化すると耐性の強い厚膜の胞子を作って休眠状態に入り、環境が回復すると栄養体に戻るという性質をもっている。従って、絶滅のおそれがどの程度かの判定はたいへん難しく、長年月にわたる詳しい調査が必要である。
B陸上植物に比べて淡水藻類の体構造は簡単で、捉え得る種の特徴が少ないため同定が難しい。
C県内で淡水藻類を調査している人は少なく、過去の調査データも少ない。
 以上@〜Cのような理由から、淡水藻類全体での絶滅のおそれのある種の選定は無理である。従って、今回の選定では肉眼でも概略の観察ができ、同定も比較的容易なものの中で、過去の調査データがあるもの、古くからよく知られているもの、環境の指標生物として貴重なものなどを選定の対象とした。今回の選定数は藍藻類1種、紅藻類5種、黄色鞭毛藻類1種、緑藻と原生動物の共生体1種、輪藻類26種で、計34種である。
 輪藻類については加藤毅氏、今堀宏三氏による1950年から1962年にかけての詳しい調査記録があり、29種報告(加藤毅、1966)されている。報告の29種はその後の分類学の進歩で、分類学上の位置の変更や統合を経て26種になっている。加藤・今堀氏の調査以降現在まで詳しい輪藻類の調査はされていない。今調査で8種確認できたが、いずれも加藤氏の報告に含まれるものであった。今調査で確認されたものの中で、シャジクモは休耕田を中心にやや広く見られたが、他はいずれも分布地は限定されていてたいへん少ない。輪藻類に関する今調査は昨年から1年足らずの短期間で、少人数での調査結果であるが、輪藻類全体が大きく減少傾向にあるのは確かといえるので加藤氏の報告にある26種全てを選定した。
 淡水藻類は、日頃は話題にも上らないものがほとんどであるが、希少で貴重な34種を選定し、記録することで、淡水藻類への興味・関心の喚起と生物多様性保全につながれば幸いである。

(安達 誘)
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