9(奥越火山地)荒島岳地区−−−5万分の1地形図【荒島岳】−−−−−−−

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔爬虫類等〕〔景 観〕

9 荒島岳地区                                       [⇒位置図]

〔概 要〕
 奥越火山地に属する荒島岳( 1,523.5m)の周囲は急斜面が続いている。飛
騨変成岩を被って中生代の手取層群があり、一部前者を貫く古期花崗岩が、ま
た後者を貫く花崗閃緑岩がみられる。さらに高所には古期安山岩が分布する。
 この荒島岳の標高1,000m付近から1,200m付近までに、日本海地域固有要素
とほとんどの種類が分布する典型的なオオバクロモジ−ブナ群集の原生林が残
存している。更にその上部には、シャクナゲ林叢及び 
オクノフウリンウメモドキ、アサノハカエデ、クロウスゴやジンバイソウが分
布している ダケカンバ林が続いている。山頂付近には、ハクサンフウロ、
カライトソウ、ハクサントリカブトや タテヤマウツボなどが見られるお花畠
がひろがっている。
 鳥類では、登山道周辺の渓流沿いで カワガラス、ヤマセミの生息が認めら
れているが、森林性鳥類及び夏鳥には特に見るべきものはない。
 昆虫類は、荒島岳中腹以高を中心に個体数、種類数ともに多く、豊かで分布
上注目すべき昆虫も少なくない。特に1,000m前後にあるブナ林には山地性甲虫
類が多い。蝶類、蜂類も多く、高い自然度を示している。
 爬虫類等の生息環境は、広大な地域であり、多様である。また、荒島岳の中
腹以上は、植相も豊かで適している。
 荒島岳は、大野盆地の東南に位置してその山容は秀麗で、大野地方の名山と
されている。また、山麓には新緑紅葉の美しい九頭竜渓谷がある。


〔地形・地質〕
 荒島岳を中心に平均 1,200m級の山地で、奥越火山地に属する。山地を深く
刻下した谷地形が四周に発達しており、九頭竜川の河谷はV字谷を呈する。一
般に急斜面が広がり、一部にみられる緩斜面は勝原 スキー場として利用され
ている。勝原付近には河岸段丘がみられ、蛇行した河谷は九頭竜峡として親し
まれている。
 和泉村谷戸口付近にみられる晶質石灰岩、片麻岩からなる飛騨変成岩体の上
位には、ジュラ−白亜紀の手取層群がみられる。下部は海成の頁岩層、上部は
礫岩、砂岩、頁岩から構成される。
 さらに、これを被って、山稜部に広く鮮新−洪積世の荒島岳の安山岩類が分
布する。主に溶岩、凝灰角礫岩からなるものである。
 この他、飛騨変成岩体を貫く、主に長石・石英からなる古期花崗岩が西側に
また、手取層群を貫く新期の花崗閃緑岩体(勝原石)が北側にみられる。
 古期花崗岩中には足谷付近で、球状閃緑岩(ナポレオン岩)を産する。北東
部の山脈には「まぼろしの大滝」が、西部の佐開付近では新しい断層地形が見
事である。


〔植 物〕
 大野盆地の南東に位置して、弧立山塊を呈する荒島岳は、全体的に豊富な植
相を呈し、特に標高1,000〜1,200m付近までに、保安林として保護された ブナ
原生林が分布している。そして、その上部の ダケカンバ林、シャクナゲ林叢及
び山頂付近のお花畠まで、かなり明確な垂直分布帯が形成されている。
 森林帯では、林冠に、ブナ、コハウチワカエデ、林間には、オオカメノキ、
マルバマンサク、コミネカエデ、ハイイヌツゲ、ヒトツバカエデ、
ハウチワカエデ、ウスギヨウラク、サイゴクミツバツツジ、ミヤマシグレ、
ハイイヌガヤ、シロサワフタギ、ムラサキマユミ、ヤマボウシ、ナツツバキ、
タムシバ、ハクウンボクなど、林床にはチシマザサ、ツルシキミ、イワウチワ、
ツルアリドオシ、クルマバハグマ、チゴユリ、フタリシズカ、オクノカンスゲ
など、日本海地域固有要素が分布して、全体的にはオオバクロモジ−ブナ群集
の典型的な群落型を呈する。
 また、その上部のダケカンバ林には、オクノフウリンウメモドキ、
アサノハカエデ、ヤハズハンノキ、ミツバオウレン、ムラサキヤシホ、
クロウスゴ、ジンバイソウなどが優占し、山頂付近のお花畠には、
ハクサンフウロ、コバイケイソウ、タテヤマウツボ、カライトソウ、
クガイソウ、ハクサントリカブト、ニッコウキスゲや エゾリンドウなどが分布
している。


〔鳥 獣〕
 荒島岳、小荒島岳ともに中腹まで伐採が進みわずかな広葉樹林を残して造林
地が広がる。山頂付近にはブナ林も見られる。九頭竜川湯上発電所から谷戸橋
までの斜面は二次林、坂谷北斜面上部には自然林、五条方発電所方面足谷周辺
も広く伐採されている。
 鳥類の生息環境として、往時の面影をなくした荒島の山容であるが、広葉樹
を好むシジュウカラ、ヤマガラ、エナガ、メジロ、ヒガラ、ウソ、カケス、
アカゲラ、コゲラ、高原生のウグイスの留鳥、夏鳥では、上流水域の崖および
斜面の広葉樹林が適地となって生息多く、キビタキ、クロツグミ、
サンショウクイ、ヤブサメ、センダイムシクイ、カッコウ、ホトトギスの生息
を見る。水辺のキセキレイは少なく、カワガラス、ヤマセミの生息もある。


〔昆 虫〕
 当地区は山麓の広範囲の地帯を包含するもので、各地で伐採植林が行われ、
全体の面積からみると相当開発が進んでいる。荒島岳そのものも最近林道がつ
けられ伐採が進行しているが、まだ広域にわたって自然度の高い部分が残され
ているので、昆虫相は一般的に豊富である。山麓から中腹にかけて、チョウや
ハチ類が多く、標高1,000m前後に見事なブナ林があり、甲虫類をはじめとし
て昆虫相は豊かである。フジミドリシジミ、エゾミドリシジミ、エゾハルゼミ
が生息し、甲虫類ではミドリツヤナガタマムシ、モモキホソナガクチキムシ(
県下唯一)、ムツモンナガクチキ、ヒメホソナガクチキ、ボウズナガクチキ、
アカモンナガクチキ、ミゾバネナガクチキ、イツモンナガクチキ、
オオナガクチキ、アアシナガクチキ、ヨツモンナガクチキ、
ヘリアカナガクチキ(多産)、セスジタワラシバンムシ、ヒメボタル、
ヒメオオクワガタ、ヤマトヨスジハナカミキリ、コルリクワガタ、
ホソヒラタシデムシなどがあげられる。蜂類では珍稀種である
ウスキギングチバチが多産し、コシジロギングチバチ、スギハラギングチ、
フタモンアワフキバチ等の非常に稀なアナバチ類や、フタツバセイボウ、
タカネプセンバチ、最初記録のケーベルキマダラハナバチなどを産する。アリ
では、深山性のトゲアリ、クロクサアリ、ヨツボシオオアリの生息が認められ
た。北斜面で深山性のケブカツヤオオアリが生息し、西山麓の河原砂地には
アワラアワフキバチが生息する。
 荒島山系の南に位置する大原には、カゲロウギングチバチ、
エゾカギバラバチが分布しクロシジミやムモンアカシジミが生息し、甲虫にも
貴重なものが少なくない。


〔爬虫類等〕
 両生類、爬虫類では、中竜鉱山住宅地区の小流で、毎年、
ハコネサンショウウオの一年幼生と二年幼生を同時に多数確認している。この
様な例は県内では稀であろう。モリアオガエル、カジカガエル、
ヤマアカガエル、ヒキガエル等多数で、山麓ではトノサマガエル、ツチガエル、
それにイモリも多い。その他イシガメ、トカゲ、カナヘビを見ることも多い。
山の高所にはマムシ、ヤマカガシ、シマヘビの多いことは他地区と共通の現象
でこの方面には例年ヘビ捕りが巡回している。
 貝類では、ツノイロベッコウガイ、ナミヒメベッコウガイ、キビガイ類、
コマガイ類の微小種にハクサンマイマイ、クロイワマイマイも多数である。
カンムリレンズガイが県下で3個目の確認地であることは特記すべきことであ
る。全般に個体数も多い地区である。


〔景 観〕
 荒島岳は、急峻で崩壊の著しい谷地形をもつ亜高山性の山で、海抜1,524m、
大野盆地の東南にそびえる山容は秀麗で、山の多い大野地方でもこの山は名山
とされている山である。
 その裏側の和泉村下山よりみるこの山は、手前にある山の上に恰も頭上に迫
るように、峻険で深山の趣の深い荒島の山上が、高くそびえてみえ、その迫力
にみちた景観は特にすばらしい。
 山麓よりコナラを主とする林、ミズナラ林、ブナ林、更に山頂には高山植物
のお花畠もあって、林相が垂直的に分布し、しかもそれらの大部分は原生林で
、原生自然がよくとどめられている。本県にとっても数少ない原生自然をとど
める景観である。
 ミズナラ、ブナは大木が多く、これらの原生林は、九頭竜川対岸の湯上発電
所東方の山にも続き、また小荒島、上大野北側の尾根近くまでもみられるもの
で、かなり広い地域にわたっている。
 荒島岳北麓の勝原付近では、深い峡谷の花崗岩や閃緑岩の奇石奇岩によって
出来た河床を、九頭竜川の激流が洗う、美しい九頭竜峡谷の景勝地がみられる
。四季を通じて美しいが、両岸の新緑の候と紅葉の候が特に美しく、すばらし
い自然景観である。
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