82(若丹山地)頭巾山地区−−−−−−5万分の1地形図【小浜】−−−−−−

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔陸水生物〕〔景 観〕

82 頭巾山地区                                       [⇒位置図]

〔概 要〕
 頭巾山(871.0m)を中心とする一帯には若丹山地が拡がり、中・古生層が広
く発達している。この尾根沿いにはブナ林が残存し、ブナの老木を含めて
アシウスギ、ホンシャクナゲ、アセビなど、本県の植相において区系地理学的に
貴重な種類が多く分布し、一部にホンシャクナゲ群落の自生地がある。
 鳥獣相では、全般的に自然林の伐採、植林が進み、ホオジロ優占で鳥相は薄く
、クマタカの生息は認められるものの森林繁殖鳥の生息環境は失われている。な
おカモシカが生息する。また昆虫相も同様貧弱であるが、中には分布上貴重な昆
虫も生息する。
 この地区は、南川源流域にあたるが陸水生物では特記すべきものはなく、南川
水系はイワナの分布空白地となっている。


〔地形・地質〕
 これらの地域は、地形区分上は若丹山地に属しており、西方の丹波高原をへて
中国山地にいたる一大脊梁山地の一部である。頭巾山および付近をみると、海抜
600m前後にやや広い平坦面を仮想でき、頭巾山の山峯は侵蝕に抗して残った蝕
余山(残丘)と考えられる。
 福井県と京都府の境界である山稜線は、海抜800〜700mの高度を保ちながら東
西方向に続いており、その線上に八ヶ峰(800.1m)、三国岳(775.9m)などが
頭巾山と共に位置している。
 山容中にみられる急斜面、河川の遷急点などは、選択侵食によるものが多く、
岩相と複雑な地質構造が関係している。頭巾山の北斜面を流下する野鹿谷川の途
中にある野鹿滝(落差37m)はその良い例である。
 頭巾山付近の地質は、若丹山地を広く構成する中・古生層地帯に属しており、
一般に東西性の走向をもち、北方へ急傾斜する等斜構造を示す。主として緑色岩
(輝緑凝灰岩)、チャートからなり、粘板岩を伴っている。従来、二畳紀中期頃
と考えられており、一部のチャート中にマンガンがみとめられている。


〔植 物〕
 頭巾山の植生帯は、比較的単純であるが、かなり顕著な林帯としては、標高約
450m付近から、標高約730m付近上部にみられるシャクナゲ自生地までのスギ植
林帯と、それから上部のシャクナゲの自生地、林冠がミズナラによって代表され
る夏緑広葉樹林の二次林に移行し、標高800〜870mの範囲にひろがる頭巾山尾根
付近には、ブナの老木が介在するササ草原域までの垂直植生帯が構成される。
 それらの林相には、ブナ、アシウスギ、ホンシャクナゲ、アセビ、ヤマグルマ
、サラサドウダン、クロソヨゴ、ウスギョウラク、マルバマンサク、
シノブカグマ、ツルシキミ、ミヤマイタチシダ、ミヤマシグレなど、本県の植相
の中で区系地理学的に貴重な種類が多く見られるのは、注目すべきである。ただ
、近年山頂付近まで伐採が著しく進められており、各林帯の群落組成が全般的に
不安定になっている。
 野鹿谷奥のホンシャクナゲ林叢は、本県における代表的な林叢のひとつであり
、保全が望まれる。


〔鳥 獣〕
 稜線部に夏緑広葉樹林が残存するが、広範囲に伐採造林が進んで鳥相は薄い。
早朝より頂上までの調査で15種45個体を確認したが、林縁種のホオジロが多く、
カケス、ヒヨドリがこれにつぐ。クマタカの生息は認められるものの、往時に観
察したキビタキ、ヤブサメの繁殖鳥や渓流のヤマセミやアカショウビンの生息環
境は失われている。
 獣類では、ニホンカモシカが生息する。


〔昆 虫〕
 昆虫相に関する調査は充分とはいえないが、伐採が著しく進行し、豊富な昆虫
相を維持するとはいえない状態である。昆虫の種類数も個体数も概して貧弱であ
る。しかし、その反面、特色のある状況も見られ、生物地理学的に見ると暖地性
が強く、また、全体としては少数の分布種の中にはかなり珍しいものも含まれて
いる。暖地性の蝶であるムラサキシジミの個体数が比較的多いことは注目すべき
である。同じく暖地性のチビクワガタは福井県下では唯一の分布地である。甲虫
類では、トゲマグソクワガタ、ヒメセスジゴミムシダマシは県下では頭巾山以外
では未だに全く採集されていない。そのほか、ヒメオオクワガタ、コカブトムシ
、ヒゲナガヒメルリカミキリ、ミヤマナカボソタマムシ、コカメノコテントウ、
カタモンオオキノコムシ、オオゴモクムシ、ナガセスジホソカタムシ、
ワモンオビハナノミ、ツマグロカッコウムシなどが目ぼしい甲虫としてあげられ
る。蜂類では特記すべきものは少ないが、コブジガバチモドキが採集されたこと
は特筆に価する。半翅類ではオオアシナガサシガメとベニモンマキバサシガメが
山地性の珍しい昆虫としてあげられる。なお、1975年の調査の際、広葉樹を伐採
し、大規模に現地製材(チップ工場)していたため、そのオガクズにカブトムシ
幼虫が大量に発育し、夜間国道の水銀灯に多数飛来し、他のクワガタムシ類とと
もに付近の樹液などに集来していたことがあり、興味深いことであった。


〔陸水生物〕
 (藻類)
 この地区は南川本流の最源流域にあたる。当地区の調査地点野鹿谷(滝の上手
)では、藍藻9、珪藻41、緑藻2の計52種が確認できた。珪藻のコッコネイス属
を優占種として付着藻群落を形成し、ネンジュモ属など藍藻が比較的多くまざっ
ていた。
 (水生昆虫類)
 南川の上流域。開けた谷で勾配はゆるく、河床礫の安定度も良い。河川形態は
Bb型。水生昆虫の生息状況は造網型のトビケラが中心で、現存量、種類数ともに
多く良好である。
 (魚類)
 タカハヤのみ確認された。イワナは生息しない。


〔景 観〕
 この山は山頂付近までスギの植林が進んでいるが、野鹿谷川沿いの林道を登る
と、標高600〜800mの間の山地に、アセビ、タムシバ、コミネカエデ、
サラサドウダン等の低木の自生林に混って、大小百数十株のホンシャクナゲ群落
の自生地があり、本県にとって類例の少ない貴重な植相景観を呈している。
 この山は、海抜871mの中山性の山で、山頂は800m内外の定高性に近い高さを
以て、長く峰を連ね、山容も雄大である。
 また頭巾山をはじめ、800m内外の定高性の山稜線を連ねる山容は雄大である。
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(この地区の情報は BEATLES さんに入力を協力していただきました)