8(奥越火山地)経ヶ岳地区−−-5万分の1地形図【越前勝山】【荒島岳】−-

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔爬虫類等〕〔陸水生物〕〔景 観〕

8 経ヶ岳地区                                      [⇒位置図]

〔概 要〕
 古い河口壁を残した経ヶ岳( 1,625.2m)北側を東西に女神川が流れ、深い
侵食谷をつくっている。西側の山麓部にはなだらかな緩斜面が広がっており、
主として火砕流〜泥流堆積物から構成される。基盤の面谷流紋岩類の上位に、
厚い経ヶ岳火山岩類がかさなっており、白山火山より古期に属するものと考え
られる。
 植物相は、経ヶ岳の標高 1,000m付近から上部に、ブナ−チシマザサ−
オクノカンスゲ群落が優占するブナ原生林が広く分布し、更に上部の山頂付近
は、典型的な チシマザサ 風衝草原に占められている。この地区の一部六呂師
高原には、狭い範囲ながら、オオミズゴケ群落や ミツガシワ群落が優占する
湿原が分布している。
 鳥類では、スギ混交林周辺に生息する ヒヨドリや林縁性のホオジロが優占
する。一般的な森林鳥もある程度見られる。海岸、湖沼性のミサゴが周年生息
しているのは採餌場の点から考えて珍しい。
 昆虫相は、開発が相当進行しているが、全体的に極めて豊富で、森林、草原
、湿地、渓流など各種環境の昆虫生息地を包含しているので、自然環境、研究
の場として大変優れている。分布上貴重な昆虫も数多く記録されており、学術
的にも貴重な地区である。
 経ヶ岳の南西に広がる六呂師高原は、草地開発により牧場となっているが、
池沼、湿原が点在しているほか、女神川流域など爬虫類、両生類の生息環境に
恵まれている。
 経ヶ岳、法恩寺山を背景とする六呂師高原の草原景観は雄大で、風光的にす
ぐれているばかりでなく、火山性地形の景観としても貴重であり、また眺望に
もすぐれている。


〔地形・地質〕
 経ヶ岳を中心に、約 1,300m級の尾根が南北に近く続いており、山地の東側
斜面は急傾斜し、大野盆地側に比較的ゆるい。女神川は東西に深い侵食谷を作
っている。その山頂部には爆裂火口壁(?)が明瞭に残っており、その火口底
が湿原化したものが池の大沢であろう。火口壁に続く唐沢上流には泥流堆積物
が残っており、この谷筋を通って流下したものが、南六呂師から伏石にかけて
、山麓部の緩斜面を作っている。
 主として火砕流〜泥流堆積物で構成された緩斜面が六呂師高原で、牧場、ス
キー場などに利用されている。
 洪積世前期の経ヶ岳火山岩類が広く山体を構成し、所々下位に基盤である面
谷流紋岩類がみられ、火山岩類の厚さは数百米に達する。


〔植 物〕
 大野市と勝山市の境界にある経ヶ岳には、標高 1,000m付近から上部にかけ
て、組成的に安定した日本海型のブナ原生林が分布し、その上部、特にやや湿
った部分には、ダケカンバ林そして山頂付近には、チシマザサの風衝草原がひ
ろがっている。
 経ヶ岳のブナ原生林では、胸高径1mに及ぶ老令巨木が密生して林冠を形成
し、林間には オオカメノキ、ヒサウチワカエデ、オオバクロモジ、ヒメモチ、
ナナカマド、タンナサワフタギ、ツノハシバミ、ハイイヌガヤ、ミズキ、
チシマザサそして林床にはオクノカンスゲ、シラネワラビ、ヤマイヌワラビ、
ユキザサ、ヒメモチ、ヒロハテンナンショウ、養生植物として
ナガオノキシノブ、ホテイシダ及びヤシヤビシャクなどが優占して、全体的に
は、ブナ−チシマザサ−オクノカンスゲ群落を呈し、組成的には、代表的な
オオバクロモジ−ブナ群集として識別される。
 経ヶ岳の火山活動によってできた火山性砕屑物からなる六呂師高原は、かつ
ては、広大な面積にわたって自然草原が形成され、地理的に非常に貴重な種類
が分布していたが、近年牧畜、畑地及び造林など多様な開発が進められること
によって、著しく変化した。
 全体的に、クリ−ミズナラ林帯に入り、ごく一部にはかなり安定した
ミズナラ林叢が残存するが、大部分は草地、牧草地になっており 
レンゲツツジ、ヤマジノホトトギス、スズサイコ、カリヤス、フデリンドウ、
セリモドキ、タカトウダイや ハナヒリノキなどの特色のある草原景観を呈す
る。
 六呂師高原の中には、ごく狭い範囲であるが、湧水あるいは伏流水によって
涵養され、水生及び湿生植物の群落が形成されている。中でも、妻平湿原では
かなり泥炭化が進み、オオミズゴケを基底とするオオミズゴケ−ヨシ群落によ
って特徴づ
けられる湿原植生が形成されている。それらに、多様な小群落が介在し、
オオミズゴケ、ヨシ、チゴザサ、コアゼガヤツリ、ヒメオトギリ、
ヌマトラノオ、ミミカキグサ、エゾアブラガヤ、ミズギボウシ、サクヒヨドリ
、ミズトンボ、ミツガシワなどが分布して、特有な景観を呈する。


〔鳥 獣〕
 経ヶ岳上部にブナ林が残り、2次林と中腹以下には緩斜面のスギ林、保月山
は低い2次林、湯の谷川から寺月峠方面は2次林、女神川斜面は伐採されてお
りスギ林および2次林、池ヶ原集落から西の区域は2次林、伐採、スギ林から
なっている生息環境である。
 低位置ではヒヨドリ、ホオジロ、キジバト が優先しており、カケス、
シジュウカラ の繁殖の他ウグイス、イカル、ヒガラ、ヤマガラ、モズ、ウソ、
当地区には珍しく海岸性のミサゴが周年生息している模様である。夏鳥に
ホトトギス科の全4種、コルリ、マミジロ、繁殖確認のオオルリ、ヤブサメを
見る。繁殖期調査の生息であるため谷筋を含めある程度の生息環境を有してい
ると思われる。
 雌雄のホンドテンの生息もある。


〔昆 虫〕
 最近林道がつけられ、すでに伐採が相当進んでいるが、全体としては、まだ
まだ自然度は高く、山麓地帯は青少年の森を中心に保全することに努力をして
いるので、昆虫の種類も個体数もかなり多く、ムカシヤンマ、イトトンボ類も
多く見られ、オオムラサキやムラサキトビケラなどの大形美麗昆虫も生育する
。南六呂師高原では草原性や湿地性の昆虫が豊富で、ハンノキの林には
ミドリシジミが普通にみられる。しかし、湿原は年々退化の傾向にあり、かつ
て多数生息していたという ハッチョウトンボは近年全くその姿を見ず絶滅し
たと考えられる。一方、放牧地を中心に、近年めっきり少なくなった食糞性甲
虫が多く見られるが、個体数は多いものの特に注目すべき種は記録されず、今
後の回復が期待される。唐沢登山道にそって、開発が急速に進み、かつては豊
富な昆虫相を示したこの地帯はすっかり伐採されてしまったのは惜しむべきで
あるが、中腹から山頂にかけては豊かな自然が保たれ、特に甲虫類が豊富であ
る。その中の特に珍しいものを例示すると、クロニセリンゴカミキリ、
シナカミキリ、カエデノヘリグロハナカミキリ、マツシタヒメハナカミキリ、
ヌバタマハナカミキリ、ゴマフチャイロカミキリ、
クリイロチビケブカカミキリ、Microlomia glabricula、
チチブニセリンゴカミキリ、コクロナガタマムシ(分布北限)、
シロジュウロクホシテントウ、ジュウロクホシテントウ、コルリクワガタ、
アカアシナガクチキムシなどである。そのほか、ミヤマカラスシジミ、
エゾハルゼミ、コエゾゼミ、ルリボシヤンマなどの生息もみられる。山麓付近
にはサムライアリの生息も確認された。 ミヤマキマダラハナバチが生息し、
これは県内では数少ない分布地の一つである。
 森林性昆虫、草原性昆虫、湿原性昆虫、渓流昆虫など、各種環境の生息地が
当地区に含まれるので、青少年の森の施設と相伴なって、自然観察・研究の場
として優れており、今後一層の保全が期待される。


〔爬虫類等〕
 両生類、爬虫類では、クロサンショウウオ(県下での初確認は、当区経ヶ岳
の火口原であった。)ハコネサンショウウオの分布を確認し、
ナガレヒキガエル、カジカガエル、モリアオガエル、ヤマアカガエル等多数で
あった。ヘビ類では アオダイショウ、シマヘビ、マムシ、ヤマカガシ等で、
特に巨大な ヤマカガシを土地の人がツチコと騒いでいた個体を確認した。
 貝類では、クロイワマイマイ、ハクサンマイマイ、エチゴキセルモドキ等の
高山性の マイマイ類が多く個体数も豊富である。オオタキコギセル、
ハゲギセルも多い。


〔陸水生物〕
 (藻類)
 この地区には経ヶ岳、中岳、南岳の山々に囲まれた池の大沢湿原がある。周
囲の山から水の供給をうけている低層湿原で、標高約1,340m、面積は約4,000
m2の規模である。ミズゴケはかなりみられるが草原への遷移が進みつつあり、
また ブナ林がせまってきていて、湿原としての形態をそなえているところは少
なくなってきている。この湿原よりミズゴケ、小さな流れ、沼地の付着藻を採
集し、藻類の査定を行った。確認できたのは藍藻 5、珪藻50、緑藻15の計70種
である。ハネケイソウ属とイチモンジケイソウ属の仲間がやや多かったが他は
いずれも少ない。
 (水生植物)
 妻平湿原は六呂師高原の東南端付近に位置する小型の湿原であるが、
ハンノキ−ヨシ−オオミズゴケへの湿性系列にそった湿性植物群落が形成され
、群落組成としてはやや不安であるが、非常に多くの水生あるいは湿性植物の
分布が見られる。ハンノキ、ヨシ、オオミズゴケ、ミツガシワ、ミズギボウシ
、エゾアブラガヤ、サワラン、カキラン、カキツバタ、ミミカキグサ、
ムラサキミミカキグサ、ヒメオトギリ、ヌマトラノオ、チゴザサ、ヒメシダ、
オオニガナ、ミカヅキグサ、モウセンゴケ、サワヒヨドリ及びイヌノハナヒゲ
などが見られる。


〔景 観〕
 海抜 1,625mの経ヶ岳は、山頂の南西側に火口壁が残存しており、その火口
から流火した泥流は、山の南西麓に六呂師ヶ原の高原をつくり、一部は九頭竜
川の対岸にまでも達して、そこに塚原野をつくっている。
 南麓の六呂師付近や湯ノ谷川の谷、西麓の女神川の谷には スギの植林がみら
れるが、登るにしたがいブナ、ミズナラ林帯、ブナの原生林、山頂付近は ササ
の風衝草原と、林相は垂直に分布していて、山中は原生自然がよくとどめられ
、山内の景観はどこをみても自然度が高い。
 火山性地形のこの経ヶ岳は、急峻で谷の崩壊が各所にみられ、恰かも壮年期
の如き山容をもつ山である。高くそびえる亜高性のこの様な山容を背景にした
六呂師高原の景観は、広壮、雄大で風光的にすぐれているばかりでなく、火山
性地形の景観としても貴重である。
 高原は、牛の放牧場として利用されていて、その景観には人文的要素が多分
にみられるが、牧場の風景は自然とよく融和していて、高原の自然景観には牧
歌的な詩的情緒がみられる。
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